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共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3

 今晩(2017年2月28日)配信した「メルマガ金原No.2737」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3

 私が講師を頼まれている3月3日の学習会までいよいよあと3日となりました。我ながら「大丈夫なの
か?」と心配ですが、何度も書いていますが、参加者には、『一(いち)からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価200円)という、分かりやすくてためになる64頁の冊子が漏れなく進呈されますので、要領を得ない講師の話に首をひねりながら帰宅したとしても、この冊子を熟読すれば、共謀罪の問題点のあらましが分かること請け合いですので、是非ご来場ください。
 
日時 2017年3月3日(金)18:30~20:30
場所 和歌山市勤労者総合センター(ふくふくセンター)6階文化ホール
     和歌山市西汀丁34 TEL:073-433-1800
演題 “共謀罪”とは何か?・その狙いとは
講師 金原徹雄(弁護士・憲法9条を守る和歌山弁護士の会 前事務局長)
主催 和歌山県平和フォーラム、戦争をさせない和歌山委員会、部落解放同盟和歌山県連合会
 
 今日は、学習会の講師を引き受けたのを機に始めた共謀罪シリーズの第8回として、「共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介のvol.3をお届けします。ちなみに、vol.1は2月21日に、vol.2は2月24日に配信しています。
 
(その1 ニュースの部)
東京新聞 2017年2月28日 07時00分
テロ準備罪に「テロ」表記なし 「共謀罪」創設の改正案を全文入手

(抜粋引用開始)
 政府が創設を検討している「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案の全容が二十七日、関係者への取材で明らかになった。政府はテロ対策を強調し呼称を「テロ等準備罪」に変更したが、法案には「テロ」の文言が全くないことが判明。捜査機関の裁量によって解釈が拡大され、内心の処罰につながる恐れや一般市民も対象になる余地も残しており、共謀罪の本質的な懸念は変わっていない。(山田祐
一郎)
 本紙が入手した法案全文によると、処罰されるのは「実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画」で、「計画罪」と呼ぶべきものとなっている。政府が与党に説明するために作成した資料では、対象とする二百七十七の犯罪を「テロの実行」「薬物」など五つに分類していたが、本紙が入手した法案全文には「テロ」の文言はなく、分類もされていなかった。特定秘密保護法で規定されているよう
テロリズムの定義もなかった。
 法案は、共同の目的が犯罪の実行にある「組織的犯罪集団」の活動として、その実行組織によって行われる犯罪を二人以上で計画した者を処罰対象としている。計画に参加した者の誰かが資金や物品の手配、関係場所の下見、「その他」の実行準備行為をしたときに処罰すると規定。また「(犯罪)実行に着手す
る前に自首した者は、その刑を減軽し、または免除する」との規定もある。
 政府はこれまでの国会答弁で「合意に加えて、準備行為がなければ逮捕令状は出ないように立法する」などと説明してきた。しかし、条文は「実行準備行為をしたときに」処罰するという規定になっており、
合意したメンバーの誰かが準備行為をしなければ逮捕できないとは読み取れない。
 準備行為がなければ起訴はできないが、計画や合意の疑いがある段階で逮捕や家宅捜索ができる可能性が残ることになる。合意の段階で捜査できるのは、本質的には内心の処罰につながる共謀罪と変わらない

 「組織的犯罪集団」は政府統一見解では、普通の団体が性質を変えた場合にも認定される可能性がある。団体の性質が変わったかどうかを判断するのは主に捜査機関。その裁量次第で市民団体や労働組合など
が処罰対象となる余地がある。
(引用終わり)
 
東京新聞 2017年2月28日 朝刊
「共謀罪」創設の改正案入手 罪の絞り込み根拠示さず

(抜粋引用開始)
 本紙が全文を入手した、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案は、過去に国会提出された「共謀罪」法案と比べ、処罰対象となる罪を六百十五から二百七十七に絞った。従来とは違う法案として理解を得る狙いだが、政府は過去、六百超の罪を対象としなければ国際組織犯罪防止条約を批准できないと説
明していた。過去との整合性や、絞り込みの基準は不明確なままだ。(大杉はるか)
 「共謀罪」法案は、政府が二〇〇三年、〇四年、〇五年と三回、国会提出。与党も〇六年に政府案を二
回修正した「再修正案」を提出している(いずれも廃案)。
 政府が今国会で提出・成立を目指す法案を〇三年の政府提出法案と比べると、処罰対象者や処罰対象となる行為は、一定程度絞り込まれた。しかし、〇六年の与党再修正案と比べた場合、処罰対象者は同じ「組織的犯罪集団」。対象行為を巡っても、政府は今回「準備行為があって初めて処罰対象とする」と説明しているが、〇六年の時点で与党再修正案は「犯罪の実行に必要な準備その他の行為」を対象としており
、大きく変わってない。
 対象とすべき罪について政府は当時「六百以上」と言って譲らなかったが、今回は一転して半分以下に。政府は「条約定義で、組織的犯罪集団とした場合、関与が想定されるもの」などと与党側に説明したが
、条文上に明確な規定はない。
 また、自民党は〇七年、法務部会小委員会で「共謀罪」法案をまとめており、そこでは対象犯罪を百四
十五程度まで絞り込んだ。今回の二百七十七よりさらに少ない。
 政府の「転換」については、野党だけでなく与党内からも疑問の声が上がっている。自民党法務部会のメンバーは「今まで絞り込めないといって、今回絞り込めることになった明確な根拠がまだ分かりにくい
」と指摘している
(引用終わり)
 
NHK NEWS WEB 2月28日 18時18分
テロ等準備罪新設の法案 政府が原案を提示

(抜粋引用開始)
 政府は、自民・公明両党に対し、重大な犯罪の実行で合意した場合の処罰を可能にする共謀罪の構成要
件を厳しくして、テロ等準備罪を新設する法案の原案を示しました。
 自民・公明両党の会合で示された、組織犯罪処罰法の改正案の原案は、一定の犯罪の実行を目的とする組織的犯罪集団が、重大な犯罪を計画し、メンバーのうちの誰かが、資金または物品の手配、関係場所の下見、その他の、犯罪を実行するための準備行為を行った場合などに、テロ等準備罪として処罰すると定
めています。
 このうち、組織的犯罪集団には、テロ組織や暴力団、薬物密売組織などが含まれるとしています。
 また、処罰対象となる重大な犯罪は、組織的な殺人やハイジャックなど、テロの実行に関連する110の犯罪に加え、覚醒剤大麻の輸出入といった、薬物に関する30程度の犯罪など、組織的犯罪集団が関
与することが現実的に想定される、合わせて277としています。
 さらに、罰則については、死刑や、10年を超える懲役や禁錮が科せられる犯罪を計画した場合、5年
以下の懲役か禁錮とするなどとしています。
 自民党の法務部会では、「過去に自民党政権が提出した共謀罪を設ける法案から、対象犯罪が大幅に減った理由を示すべきだ」、「組織的犯罪集団の定義がはっきりしない」などと、政府に対し、国民の理解
を得るため、さらに説明を尽くすよう求める意見が相次ぎました。
 また、公明党の政調全体会議では、「現行の法律のままでも国際組織犯罪防止条約は批准できるのではないか」という質問が出されたのに対し、政府側は「現行法では無理がある」として新たな法整備が必要
だと説明しました。
 政府・自民党は、3月10日に法案を閣議決定したい考えですが、公明党は、閣議決定の時期にこだわ
らず、党内で十分議論したいとしていて、今後、調整が行われる見通しです。
(引用終わり)
 
 各メディアとも、改正案の全文を入手したというのであれば、その条文自体を掲載してくてれれば良いのにと思いますけどね。
 「まだ閣議決定までに修正される可能性があるので、条文の形では報道しないように」という官邸の指示があり、各社がそれに従っているという可能性もありますが、もしもそうだとすると、それ自体おかし
いですけどね。
 もっとも、連立与党に説明したということなので、自民党公明党の個々の議員から条文を入手したメディア(特に大手でないところ)がネットで公開するかもしれません。3月3日までに是非それを読んでみたいものです。
 
(その2 動画の部)
100219山下幸夫さん講演「共謀罪が通るとどうなるの」(2時間10分)

※2月19日に「ユニコムプラザさがみはら」で講演する山下幸夫弁護士(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)は、平成元年(1989年)に弁護士登録した司法修習41期、つまり私の同期ですね。講演は3分~1時間14分ですが、その後は、映画批評家前田有一氏と山下弁護士によるトークタイムとなります。
 
(その3 声明の部)
法律家6団体による「憲法違反の共謀罪創設に強く反対する共同声明」

(引用開始)
憲法違反の共謀罪創設に強く反対する共同声明
 
2017年2月27日
 
共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
 社会文化法律センター  代表理事 宮 里 邦 雄
 自由法曹団  団長 荒 井 新 二
 青年法律家協会弁護士学者合同部会  議長 原   和 良
 日本国際法律家協会  会長 大 熊 政 一
 日本民主法律家協会  理事長 森   英 樹
 日本労働弁護団  会長 徳 住 賢 治
 
 安倍政権は,過去3度世論の強い批判により廃案となった共謀罪法案を,「テロ等準備罪」と呼ぶなどの粉飾を施し,4たび国会に提出しようとしているが,私たち法律家は,以下の理由により,同法案の国会提出に強く反対する。
 
 共謀罪は,「犯罪についての話し合い」があったとみなされただけで,独立の犯罪の成立を認め,処罰しようとするものであり,国家刑罰権の著しい強化を狙うものである。
 国家刑罰権は,国家権力が強制的に国民の生命・自由を奪うものであるから,努めて謙抑的に行使されねばならず,また,何が犯罪であり何が犯罪でないかが法律により明確に定められなければならない(罪刑法定主義)。このような近代刑法の大原則に基づき,我が国の刑事法体系では,犯罪は既遂処罰を原則とし,例外的に一部の犯罪について未遂や予備を処罰対象とし,意思や内心は処罰の対象としていない(行為原則・侵害原則)。ところが共謀罪は,予備にも達しない,極めてあいまいな「話し合い」があったと国家権力が認めた時点で犯罪が成立し,そのあと何もしなくても、仮に犯罪を断念したとしても処罰の対象とする点で,恣意的な権力行使を著しく容易にし,市民の内心の自由,正当な言論・表現を侵害し,適正手続原則に違反する危険が極めて高い。したがって、共謀罪法案は憲法19条,21条,31条に違
反する法案である。
 政府は,提出を検討中の法案は,話し合いだけでなく「準備行為」も要件とし,処罰対象を「組織的犯罪集団」に限るから一般市民は対象とならないなどと弁明してきた。しかし,過去の国会答弁では銀行でお金を下すという何ら危険でない行為も「準備行為」にあたるとし(2006年),先日法務省は,もともと正当な活動をしていたと認められる団体も,その目的が「犯罪を実行することにある団体」に一変したと認められる場合には「組織的犯罪集団」に当たるとの見解を公表した(2月16日)。すなわち,初めて「座り込みをしよう」と話し合った市民団体は,それだけで組織的威力業務妨害罪を目的とする組織的犯罪集団とみなされる可能性がある。さらに言えば,提出される法案では,2人以上が話し合いをした
だけで「集団」とされる可能性も高い。
 まさに一般市民の活動が狙い撃ちされる危険が極めて高い法案である。
 
 政府は,共謀罪法案は「テロ防止」目的の法案であり,「テロ防止」を目的とする国際組織犯罪防止条約を批准するために共謀罪を成立させることが不可欠であるなどと述べるが,これは二重三重に国民を騙すものである。
 まず国際組織犯罪防止条約は「テロ防止」目的の条約ではない。同条約は,「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」(5条)のマフィアなどの越境的犯罪集団の犯罪を防止するための条約である。そのことは,国連の立法ガイドで「目標が純粋に非物質的利益にあるテロリストグループや暴動グループは原則として組織的な犯罪集団に含まれない」と明記されていることからも明らかである(2
6項)。
 また,共謀罪を創設しなくても同条約は批准できる。同条約中には長期4年以上の犯罪についての共謀罪又は参加罪の立法を義務付けているかのような文言があるが,国連の立法ガイドは「共謀罪や参加罪などの法的概念を持たない国においては,これらの概念を強制することなく,組織的犯罪集団に対する実効
的な措置をとることも条約上認められる」(51項)と明記しているのである。
 そもそも我が国は,ハイジャック防止条約,シージャック防止条約等,テロ防止のための国連の主要13条約をすでに批准して国内法化も完了しており,これらに加え「テロ」を検挙・処罰するための法律も多数整備されており,「テロ防止」のためには現行法で十分である。また,「テロ」は単独で行われる場合もあるが,共謀罪は単独犯には適用できない。「テロ」と無縁の多くの犯罪について共謀罪を制定する
という的外れの対策で,「テロ防止」ができると考えることの方が危険である。
 市民の「テロ」に対する不安に便乗して共謀罪成立を強行することは許されるものではない。
 
 政府はこれまで,長期4年以上のあらゆる犯罪(676と言われている)についての共謀罪を創設しなければ条約を批准できないとしてきたが,国民の強い批判を受け,対象犯罪を277とする方針をとったと伝えられている。
 しかし対象犯罪を277に絞っても,これだけの数の犯罪について当局が2人以上の「話し合い」とわ
ずかな「準備行為」があると認めれば関係者を一網打尽にできる共謀罪の危険性は、戦前に猛威を振るった治安維持法をはるかに上回るものである。また,長期4年以上の全犯罪を対象としなくても条約の批准が可能だというならば,政府のこれまでの議論の前提は崩れており,共謀罪を成立させなくても国内法は整備済みであるとして、条約を批准できるはずである。
 政府の説明は完全に破綻している。それにもかかわらず政府が共謀罪の成立に固執する目的は,「テロ防止」や「条約の批准」以外の,市民の監視,市民運動などの弾圧にあるとしか考えられない。
 
 2016年5月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,盗聴法(通信傍受法)の対象犯罪の大幅な拡大と手続の緩和,他人の犯罪を証言することにより自己の犯罪を免れることができる司法取引の導入など,捜査権限が格段に拡大強化された。
 共謀罪の犯罪構成要件は「話し合い」であるから,電話やメールなどによる「話し合い」を立証しなければ強制捜査も公判維持も不可能である。従って,仮に共謀罪が成立したならば,情報収集目的で市民を監視する警察活動がますます強化され,その中で別件盗聴も行われ,盗聴法の対象犯罪に共謀罪を含める法改正や,部屋に盗聴器を仕掛ける「会話傍受」の法制化も企てられるであろう。現に法務大臣は,共謀罪を通信傍受の対象とすることは将来の検討課題だと認めている。司法取引・密告により「共謀」を立証
することも行われるようになり,共謀罪の冤罪事件が大量に発生する危険性も現実味を帯びている。
 4度目の共謀罪法案について,政府は過去3度の法案より要件を厳格にするなどと言うが,新設され強化された捜査手段とあいまって,むしろ過去の法案よりも人権侵害の危険性は飛躍的に高まっている。
 
 戦争への道を突き進み,憲法9条の改悪を企む安倍政権は,これに対抗する巨大な市民・野党の共同の運動が生まれたことに脅威を感じ,運動の弾圧を狙い,批准予定の国連条約が目的としていない「テロ防止」など嘘に嘘を重ねて共謀罪を強行に成立させようとしている。共謀罪はまさに現代の治安維持法である。この認識の下に,私たち法律家は広範な市民と手を携え,共謀罪の成立を阻む闘いに全力を尽くす決意である。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介

2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

一からわかる共謀罪(表)一からわかる共謀罪(裏)共謀罪(金原)チラシ 

和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 今晩(2017年2月27日)配信した「メルマガ金原No.2736」を配信します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 本日(2017年2月27日)、和歌山弁護士会は、「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」を発表し、関係機関に執行しました。
 既に2月14日の常議員会で承認されたという話は聞いていましたが、執行の準備のために公表が遅くなったものです。2月15日に和歌山市が発表した外国人専用カジノ誘致の方針について会長声明が言及していないのはそのためです。
 この会長声明を読んでいただく前に、カジノ解禁推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)の問題点を指摘したり、和歌山県和歌山市のカジノ誘致方針についての説明を読んでいただこうかとも思ったのですが、私の癖で、つい前置きが長くなり過ぎる恐れが十分にあるため、まず先に和歌山弁護士会「会長声明」を読んでいただこうと思います。

(引用開始)
  いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明
 
 平成28年12月15日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)が成立した。同法は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置を推進することが観光及び地域経済の振興に寄与するとの理解をもとに、一定の条件の下でカジノを合法化するものである。
 しかしながら、法案審議の段階から当会が指摘しているとおり、同法には多くの問題点がある。これらをあらためて確認すると、次のとおりである。
 
1 ギャンブル依存症の拡大、多重債務問題及び青少年への悪影響
 我が国ではもともとギャンブル依存者の割合が高く(2013年の厚生労働省調査によれば、成人男性で約8.8%、同女性で約1.8%)、カジノの解禁はこれに拍車をかけるとともに、多重債務の新たな要因となる可能性がある。また、同法の施行によって、観光地にカジノが存在することとなると、ギャンブルに対する青少年の抵抗感が薄れ、健全な育成を阻害するおそれがある。
2 暴力団の関与及びマネー・ロンダリングの問題
 暴力団が新たな資金源としてカジノへの関与を企図することは、容易に想定されるところである。また、カジノがマネー・ロンダリングの道具として利用されるおそれも否定できない。
 
 このような懸念を払拭することなく、わずか2週間(衆議院委員会ではわずか6時間)という短い審議時間で成立した同法には、内容・審議のあり方の両面で問題があるといわざるを得ない。
 また、各紙報道によれば、和歌山県は、カジノを含むIRを積極的に誘致する姿勢を示している。しかし、建設候補地とされる和歌山市の市民に対し同市が実施したアンケート調査(平成29年1月実施、対象者571名、回答率約76%)によれば、「和歌山市にIRを誘致することになればどう思うか」との質問に対して、「反対」「どちらかといえば反対」は合わせて47.8%となっており、「賛成」「どちらかといえば賛成」の41.6%を上回った(なお、同市が昨年おこなったアンケート結果からは、反対意見は2.9ポイント増加し、賛成意見は2.7ポイント減少した)。
 建設候補地の自治体の住民がこのような意思を示したことは、カジノ設置に対する国民の不安のあらわれであるといえる。
 よって、当会は、「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める。
 
  2017年(平成29年)2月27日
                        和歌山弁護士会         
                          会長 藤 井 幹 雄

(引用終わり)
 
 なお、付言すると、和歌山弁護士会は、2014年10月10日にも、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を発出していました。
 
 そこで、カジノ解禁推進法です。
 2016年12月15日の衆議院本会議で可決・成立し(参議院で一部修正があったため)、同月26日に公布(及び一部を除いて即日施行)された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」を、推進派は「IR推進法」と呼び、反対派は概ね「カジノ解禁法」あるいは「カジノ解禁推進法」と略称するようです。
 とりあえず、総務省の法令データベースに掲載された条文にリンクしておきます。ただし、普通に法令名だけでGoogle検索しても、なかなかこの法律自体がヒットせず、法令名の後ろに(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)をつけて検索したところ、ようやく以下のサイトにたどり着きました。
 
 
 そんなに長いものではありませんので、とにかく目を通されることをお勧めします。
 法律家の目から見ると、この法律の異様な点は数々ありますが、特に第4条の規定に注目してください。
 
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
 
 「国」が、「整備を推進する責務を有する」とされる「特定複合観光施設区域」とは何かは第2条に書かれています。
 
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域をいう。
 
 つまり、民間事業者が設置及び運営するカジノ施設を中核とする特定複合観光施設として、地方公共団体の申請に基づいて国が認定した区域の「整備を推進する責務」が国に有るとまで規定しているのです。そして、法整備等だけではなく、「整備を推進する」ために予算措置が必要となれば、当然国費を投入することが予定されているのですよね。ということは、民間事業者の設置・運営するカジノが収益を上げるために、認定区域の整備に国費を投入することも国の責務だと言っているのですよ。知ってました?
 
 パチンコ、パチスロは別として、これまで法律で例外的に許容されてきた賭博行為は、「公営ギャンブル」と称されるとおり、その施行主体は「都道府県」「一定の市町村」に限られていました(例外は日本中央競馬会)。
 以下、その根拠条文を示しておきます。
 
競馬法(昭和二十三年七月十三日法律第百五十八号) ※競馬
(競馬の施行)
第一条の二 日本中央競馬会又は都道府県は、この法律により、競馬を行うことができる。
2 次の各号のいずれかに該当する市町村(特別区を含む。以下同じ。)で、その財政上の特別の必要を考慮して総務大臣農林水産大臣と協議して指定するもの(以下「指定市町村」という。)は、その指定のあつた日から、その特別の必要がやむ時期としてその指定に付した期限が到来する日までの間に限り、この法律により、競馬を行うことができる。
一 著しく災害を受けた市町村
二 その区域内に地方競馬場が存在する市町村
3~6 略
 
自転車競技法(昭和二十三年八月一日法律第二百九号) ※競輪
(競輪の施行)
第一条 都道府県及び人口、財政等を勘案して総務大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)は、自転車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに、地方財政の健全化を図るため、この法律により、自転車競走を行うことができる。
2~5 略
 
小型自動車競走法(昭和二十五年五月二十七日法律第二百八号) ※オートレース
小型自動車競走の施行)
第三条 都道府県並びに京都市大阪市横浜市、神戸市、名古屋市、都のすべての特別区の組織する組合及びその区域内に小型自動車競走場が存在する市町村(以下「小型自動車競走施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律により、小型自動車競走を行うことができる。
2 略
 
モーターボート競走法(昭和二十六年六月十八日法律第二百四十二号) ※競艇
(競走の施行)
第二条 都道府県及び人口、財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律の規定により、モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~5 略
 
 ここで刑法の賭博罪を思い出しておきましょう。この罰則規定は、今でもれっきとした効力を有しており、実際に検挙もされているのですよ。
 
刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
  
第二十三章 賭博及び富くじに関する罪
(賭博)
第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
富くじ発売等)
第百八十七条 略
 
 カジノを例にあげれば、カジノ解禁推進法がないと仮定すると、カジノへ行ってルーレットやバカラに金(チップ)を賭けた客は単純賭博罪(刑法185条)、カジノの経営者やその従業員は賭博場開張等図利罪(とばくじょうかいちょうとうとりざい)ということになるはずです(同法186条2項)。
 それを一定の要件の下に合法化し(ここで「利権」が発生します)、その整備を国の責務とする根拠は一体何でしょうか?
 法律には、「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである」(カジノ解禁推進法1条)とされていますが、それを本気で信じる人がいるのでしょうかね。
 なお、このうちの「財政の改善」が、一体どの組織の「財政の改善」に役立つというのか?立地自治体なのか、それとも国なのか、この条文を読んだだけでは不明です。いかに議員立法とはいえ、いい加減なものです。
 この法律の第2章第3節には、以下のような規定がありますので、「国及び地方公共団体」の「財政の改善」に役立つということなのでしょうが、一言「嘘でしょう」と申し上げておきます。
 仮にある程度の収入が国や地方公共団体にもたらされたとしても、それは、賭博場開帳者(カジノを設置運営する民間事業者)から、賭博(メイン収入はこれでしょう)利用者からの上がりの一部を納付させたり(後記12条)、利用者から定額の入場料を徴収したり(13条)することによって得られるものであって、実態は、国や地方公共団体が、民間事業者が運営する賭博からのおこぼれをにあずかるということに他なりません。
 私は、そんなことは金輪際いやですけどね。
 
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)
(納付金)
第十二条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の設置及び運営をする者から納付金を徴収することができるものとする。
(入場料)
十三条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。 
 
 いずれにせよ、カジノ解禁推進法は、先にご紹介した第4条(国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。)に続き、第5条で以下のように規定し、今後のカジノ推進のスケジュールを指示しています。
 
(法制上の措置等)
第五条 政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。
 
 つまり、同法第二章(特定複合観光施設区域の整備の推進に関し基本となる事項)に基づき、具体的なカジノ推進に必要な法整備を、2017年12月中(施行後1年以内)をめどとして行うこととされているのですが、逆に言えば、この法整備がなされない限り、カジノ解禁推進法だけでは、カジノは開業できないのです。
 日本にカジノは要らないと考える人は、まず当面、この特定複合観光施設区域整備法案(というような名称になるでしょう)の成立を何としても阻止しなければなりませんし、来たるべき衆議院議員総選挙における重要争点に位置付けることも必須でしょう。
 
 以上は、国の施策についての対応ですが、個々の地方では、カジノ誘致の方針を打ち出した自治体における反対運動に力を入れなければなりません(カジノ解禁推進法第2条2項参照)。
 ということで、私の地元の和歌山です。
 和歌山県が、かねてからカジノ推進の方針を掲げていることは、先頃のメルマガ(ブログ)でご紹介したとおりです(カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判/2016年12月8日)。
 以下に、平成28年5月に和歌山県「特定複合観光施設区域への地方の選定を政府要望」した「具体的な措置」を再掲します。

(引用開始)
1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法制度の早期整備を図ること
2 地方創生を実現するため、特定複合観光施設区域に「地方」を選定するよう明文化すること
3 和歌山県を特定複合観光施設区域に選定すること
(引用終わり)
 
 そして、態度未定であった和歌山市も、複数の市民団体からの強い反対の申し入れにもかかわらず、以下のように誘致の方針を明らかにしました。
 
2月15日 市長記者会見(平成 29 年 2 月 15 日(水)14 時 30 分~)
市長発表事項 【統合型リゾート(IR)の誘致について~カジノ施設を外国人専用としたハイクラスの「和歌山型 IR」の実現に向けた取組を進めます~】

(引用開始)
 
皆さんこんにちは。明日定例会見の予定だったのですが、今日急きょ会見させていただきます。和歌山市では統合型リゾートについてこれまで検討してきました。いろんな観点から検討を進めてきましたが、カジノについては外国人専用とするハイクラスな和歌山型のIRというのをこれから誘致を目指して取り組んでいきたいというふうに思っています。資料にも書かせていただいていますが、和歌山市は非常にきれいな海岸線、また国立公園等もあります。そうした海岸線だとかマリンスポーツ、海洋レジャー、海洋型のリゾート地でもありますし、また和歌山城を始めとする歴史・文化にもあふれています。そうした和歌山ならではの個性を活かしたようなIR、和歌山型IRの誘致を進めていきたいと思っています。
 次のページ見ていただいたらと思います。和歌山市は、もちろんですけども関西国際空港に非常に近接しています。この関空に近接するという利点を活かして、紀伊半島にはいろんな観光資源があります。そこにも書いていますけど、パンダまた高野山那智の滝また奈良。非常に紀伊半島には観光資源が豊かですので、そうした紀伊半島の観光資源を活かした国際競争力の高い拠点となるような和歌山型のIRを進めていきたいと思っています。
 それでそこに3点目ということで書いていますが、もちろんホテル、国際会議場、コンベンション、レジャー施設など、さまざまな施設を誘致していきたいと思っています。子どもから大人まで楽しめるような楽しいIR、統合型リゾートというのを進めます。ただし、カジノ施設については日本人の入場を制限して外国人専用とするような形で誘致を進めていきたいと思っています。今後については和歌山型のIRの実現を目指して、県とも連携協力してIRを活用したような全体の観光振興ビジョンというのを検討していって、誘致に向けた取り組みというのを進めていきたいというふうに考えています。発表は以上でございます。よろしくお願いします。
(引用終わり)
 
 上記の尾花正啓(おばな・まさひろ)和歌山市長の会見で言及されている「資料」というのは多分これでしょう。
 「資料」といっても、要するに和歌山県下の観光地の写真をコラージュしただけのもので(東大寺大仏の写真もありますが)、これでどうして「外国人専用カジノ」が必要なのか、わけがわかりません。
 担当部局も本当は「やりたくない」のかもしれない、などと想像してしまう「資料」です。
 
 先ほども書きましたが、来たるべき衆議院議員総選挙では、カジノ解禁推進法成立の旗を振った議員を必ず落選させることを目標に(和歌山でも全国でも)頑張らねばと思います。

森友学園スキャンダルへの向き合い方~自分自身で納得できる「時系列表」を作るのが理想

 今晩(2017年2月26日)配信した「メルマガ金原No.2735」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
森友学園スキャンダルへの向き合い方~自分自身で納得できる「時系列表」を作るのが理想

 学校法人森友学園への不明朗な国有地売却問題については、地元・豊中市議会の木村真議員による情報公開請求訴訟の提起をきっかけとしてまず朝日新聞が報じたのが2月9日。それからまだ2週間余りしか経っていないのに、いろいろな情報が出てきました。
 ただ、何日か情報収集を怠っていると、すぐに付いていけなくなってしまいそうな位に進展が早いですね。
 私が、メルマガ(ブログ)で初めてこの問題を取り上げたのは、2月15日の2つの出来事、衆議院財務金融委員会における宮本岳志議員(日本共産党)による追及と、自由法曹団京都支部、大阪支部による現地調査後の記者会見を報じたIWJの記事を紹介したものでした(森友学園への不明朗な国有地払下げを追及した宮本岳志衆議院議員(日本共産党)の質疑(テキスト)を読む(付・自由法曹団記者会見)/2017年2月17日)。
 この時点では、上記2つの記事がIWJによる「極右学校法人の闇」の第1弾・第2弾だったのですが、それから11日経過した本日(2月26日)現在、IWJの「極右学校法人の闇」シリーズは、何と第20弾に達しています。
 特集記事は以下のページから全記事にアクセスできます。
 
 
 参照の便宜のため、個別の記事にもリンクをはっておきます。
 
 
 
 
 
 
ヒ素や鉛の検出された国有地「9割引」払い下げ、軍国教育、ヘイト文書、そして安倍総理夫妻との蜜月・・・「森友学園問題」とは何なのか~「極右学校法人の闇」第6弾 2017.2.20
 
 
 
 
 
 
 
【国会ハイライト】「犬臭い」と園児のリュックを捨てた!? 森友学園が運営する塚本幼稚園での「児童虐待」の実態を民進・玉木雄一郎議員が追及!~「極右学校法人の闇」第13弾!
 
 
 
 
 
 
 
 この内、【国会ハイライト】と付いているのは、国会における野党議員の追及をテキスト(速記録)で紹介したもので、これがとてもお薦めです。
 2月15日の衆議院財務委員会での宮本岳志議員による質疑をテキストで読んだ私は、思わず「非常によく出来たミステリーを読む醍醐味に近い」と書いてしまいました。
 他の(速記録)も、日によって程度に差はあるものの、いずれもスリリングであり、まずこの【国会ハイライト】を時系列順に読まれることをお勧めしたいと思います。
 
 
 
2月17日・衆議院予算委員会福島伸享議員(民進党
 
 
 
 
 
2月22日・衆議院予算委員会玉木雄一郎議員(民進党
 
 

 さて、ここまで色々な情報が出てくると、個々の情報の信頼度について評価しながら、それを時系列の中のしかるべき箇所に組み込み、前後の事実とのつながりを推測し、という作業を行うのがオーソドックスな手順というものです。とはいえ、それを自分自身でやるだけの時間はとてもないし、「誰か、可能な限り資料の裏付けをとりながら、信頼できる時系列表を作っている人はいないだろうか?」というまことに他力本願な希望に添うサイトを探したところ、ありました!
 と言っても、別に探すのに苦労した訳でも何でもなく、「森友学園」「時系列表」という2つのキーワードでGoogle検索したところ、トップに表示されたのがこのサイトでした。
 
【2/26更新】森友学園大阪市淀川区)と大阪・豊中の国有地 情報集約
 
 サイト名「よどきかく」、トップには「大阪市内を中心とした、保育所・幼稚園・子育て・生活情報等を発信しています。」とあるとおり、最新の他の記事のタイトルを抜き出してみると、
 「(仮称)中心部児童急増対策プロジェクトチーム」を設置へ
 【H29新設保育所紹介】(9)ぴっころきっず谷町園(中央区)
 【ニュース・追記あり】みるく保育園の元園長・元副園長を詐欺容疑で逮捕
 【大阪市政】平成29年度から4歳児も教育費無償化へ
 【重要】大阪市保育所等1次調整の申込数・内定数・未内定数が公表されました

など、なるほど多彩です。
 
 なお、同サイトの「時系列表」ですが、これもまるまる信用するのではなく、勘違いはないか?新しい情報に基づいて訂正すべき箇所はないか?という視点から、確認していくという姿勢で読んでいく必要があります。そして、この「時系列表」の非常に優れている点として、記載した事項の裏付けとなる資料を明示しており、ネットで閲覧可能なものはリンクがはられていますので、そのような検証をしながら活用するための「時系列表」としてうってつけです。
 この時系列表を大きめのサイズの紙に印刷し、裏付資料(国会質疑などは本来二次資料ですが、国と森友学園との契約書や不動産鑑定士による鑑定書などの一次資料を簡単には読めない現状では、一次資料に準じる資料として重要です)と照らし合わせて得心すれば青ペンでチェックし、補充や訂正をすべきと判断したら赤ペンで書き込みをするということが出来たらいいなあ・・・と思いますが、なかなか現実には時間がない。

 いずれにしても、1人1人が他人の言説を鵜呑みにするのではなく、基礎資料に直接あたってみた上で、自分自身の「時系列表」を作り上げるのが理想です。
 そして、この方法論は、何も森友学園スキャンダルに限ったことではなく、あらゆる社会事象に向き合う際の基本的姿勢であるべきだということに気がつきます。
 そう何もかも理想通りにいくはずはなく、どこかで現実と折り合いをつけることになるのですが、それでも最低限、自分の立ち位置と「理想」との距離を正確に測れるように心掛けたいものです。

日本弁護士連合会「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 本日(2017年2月25日)配信した「メルマガ金原No.2734」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本弁護士連合会「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 一昨日(2月23日)、このメルマガ(ブログ)において、去る2017年2月17日付で日本弁護士連合会が取りまとめ、同月23日付で法務大臣外務大臣に提出した「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」全文転載してご紹介しました。
 ところで、日本弁護士連合会は、上記意見書と同じ2月17日、もう1つの重要な意見書を取りまとめています(同日付となっているのは、同じ日に開かれた日弁連理事会で承認されたということでしょう)。それが、今日ご紹介する「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」です。
 共謀罪についての意見書は、PDFファイルで11ページでしたが、緊急事態条項についての意見書は、本文だけで22ページ、別紙も含めれば31ページにもなるという大作で、ブログへの全文転載をするかどうか、かなり考え込みました。
 けれども、やはり「別紙も含めて全文転載しよう」と決めたのは、その作業をすることによって、私自身がこの「意見書」を熟読できるから、という理由が大きいですね。おかげで、日弁連の「校正漏れ」を2箇所発見して訂正しましたもの(末尾に注記しておきました)。
 
 この「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」を別紙を含めて通読したところ、これまでの議論の成果を十分に取り入れて体系化するとともに、とりわけ、武力攻撃、内乱(テロ)、大規模災害などに対処するための法体系が既に充分に整備されており、多大の弊害の発生が予想される緊急事態条項を憲法に新設しなければならない立法事実など存在しないということを、非常に丁寧に論証しているという印象を受けました。
 私自身、日弁連の会員ですから、自分が所属する団体の「意見書」を賞賛しても説得力が充分ではないでしょうから、まずは皆さんご自身で、是非この「意見書」をお読みいただきたいと思います。長いことは長いですが、理解が困難な部分はないと思いますので、丁寧に読み進めていただければ、きっと得心していただけるものと思います。
 
 ところで、「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」の執行先(提出先)は法務大臣外務大臣でしたが、この「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」の執行先は「各政党代表者」でした。
 この「意見書」の構成は、以下の目次(私が「意見書」から見出しを抜き出して作りました)をご覧いただければわかるとおり、緊急事態条項(国家緊急権)一般を論じた部分もありますが、その主眼が自民党日本国憲法改正草案」「第9章 緊急事態」(第98条、第99条)に対する徹底批判であることは明らかです。
 私は、寡聞にして、日本弁護士連合会が、憲法改正問題に関して、一政党の改憲案に反対する意見書を取りまとめたという例を聞いたことがありません(初めてかもしれません)。もしかすると、これについては、日連会員の間にも色々な意見があるかもしれませんが、私自身は、日弁連執行部及び理事会の決断を支持します。
 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲推進1000万人賛同署名や全国の地方議会で続々と採択されている改憲推進意見書(例えば和歌山県議会)では、いずれも大規模災害対応のための改憲が主要改憲項目として強調されており、自民党日本国憲法改正草案」における緊急事態条項は、その「見本」としての役割を担っています。昨年の参院選の結果、衆参両院でいわゆる改憲勢力が2/3以上の議席保有することになった情勢下、「行政府の長」であるはずの安倍晋三内閣総理大臣自らが施政方針演説で改憲議論を呼びかけるという緊迫した状況を踏まえれば、国会両院の憲法審査会で具体的に緊急事態条項についての議論が始まる前に、日弁連としての意見書を公表する意義と必要性は大きいと思うからです。
 
 もしかすると、私のメルマガ(ブログ)史上「最長」の記事となるかもしれませんが、非常に重要な内容を含んでいますので、最後まで読み通してくださることを心からお願いします。
 なお、本文中で指摘されている日弁連意見書等及び別紙2~4の各「法制の概要」中の参照条文については、各意見書、報告書、声明や法律、条約などへのリンクを埋め込んでおきましたのでご活用ください。 
 
(目次)
第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
 1 はじめに
 2 日本国憲法と緊急事態条項(国家緊急権)
  (1) 立憲主義
  (2) 緊急事態条項(国家緊急権)の濫用の実例
   ① ドイツ
   ② フランス
   ③ 日本
  (3) 日本国憲法が緊急事態条項(国家緊急権)を設けていない理由
 3 緊急事態条項(国家緊急権)の憲法上の創設を検討する際の留意点
  (1) 緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるか
  (2) 権限濫用防止のための有効な法制度が設けられているか
 4 自民党改正草案-対象となる緊急事態
  (1) はじめに
  (2) 対象となる緊急事態
   ① 「我が国に対する外部からの武力攻撃」
   ② 「内乱等による社会秩序の混乱」
   ③ 「地震等による大規模な自然災害」
  (3) まとめ
  (4) 解散権の制限及び議員の任期等の特例について
  (5) まとめ
 5 自民党改正草案-濫用防止の制度設計
  (1) はじめに
  (2) 緊急事態宣言の発動要件の包括的委任等
  (3) 国会の承認
  (4) 措置の期間
  (5) 法律と同一の効力を有する政令
  (6) 財政上必要な支出その他の処分
  (7) 公的機関の指示に従う義務
  (8) 国会議員の任期について
  (9) 小括
 6 結論
法律の略称
(別紙1)自由民主党憲法改正草案第9章「緊急事態」
(別紙2)安全保障法制の概要
(別紙3)治安法制の概要
(別紙4)災害法制の概要
 
 
                       2017年(平成29年)2月17日
                       日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 緊急事態条項(国家緊急権)は,深刻な人権侵害を伴い,ひとたび行使されれば立憲主義が損なわれ回復が困難となるおそれがあるところ,その一例である自由民主党日本国憲法改正草案第9章が定める緊急事態条項は,戦争,内乱等,大規模自然災害その他の法律で定める緊急事態に対処するため,内閣に法律と同一の効力を有する政令制定権,内閣総理大臣に財政上処分権及び地方自治体の長に対する指示権を与え,何人にも国その他公の機関の指示に従うべき義務を定め,衆議院の解散権を制限し,両議院の任期及び選挙期日に特例を設けること(以下「対処措置」という。)を認めている。
 しかし,戦争・内乱等・大規模自然災害に対処するために対処措置を講じる必要性は認められず,また,同草案の緊急事態条項には事前・事後の国会承認,緊急事態宣言の継続期間や解除に関する定め,基本的人権を最大限尊重すべきことなどが規定されているが,これらによっては内閣及び内閣総理大臣の権限濫用を防ぐことはできない。
 よって,当連合会は,同草案を含め,日本国憲法を改正し,戦争,内乱等,大規模自然災害に対処するため同草案が定めるような対処措置を内容とする緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する。
 
第2 意見の理由
1 はじめに
 国家緊急権とは,戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など,平時の統治機構をもっては対処できない非常事態(以下「緊急事態」という。)において,国家の存立を維持するために,立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を採る権限をいう。
 自由民主党自民党)は,2012年(平成24年)4月に,「緊急事態」(第9章)を定めた日本国憲法改正草案(以下「自民党改正草案」という。)を公表した。
 自民党改正草案は,外部からの武力攻撃,内乱等による社会秩序の混乱,地震等による大規模災害その他の法律で定める緊急事態において,特に必要と認めるときは,内閣総理大臣が緊急事態の宣言を発することができ,同宣言が発せられたならば,①内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定できること(内閣の緊急命令権限),②内閣総理大臣が財政上必要な支出その他処分を行うことができること(内閣総理大臣の財政処分権限),③内閣総理大臣地方自治体の長に対して必要な指示をすることができること(内閣総理大臣の指示権限),④何人も法律の定めるところにより,当該宣言に係る事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われることに関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならないこと(国民等の服従義務),⑤緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる(解散権の制限及び議員の任期等の特例)とされている(別紙1参照)。その内容は,戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など平時の統治機構をもっては対応できない非常事態において,国家の存立を維持するために,立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限(国家緊急権)を認める場合の一例といえる。
 その後,2015年(平成27年)5月7日に開催された衆議院憲法審査会において,自民党は優先的に議論すべき事項として緊急事態条項(国家緊急権)を挙げ,民主党(当時),維新の党(当時),公明党などもこれに言及した。さらに,2016年(平成28年)11月17日及び同月24日の衆議院憲法審査会においても複数の議員から改憲項目の一つとして緊急事態条項(国家緊急権)が挙げられた。
 本意見書は,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法改正により創設する動きがあることに対し,緊急事態条項(国家緊急権)が,一時的とはいえ,立憲的な憲法秩序を停止し,人権が侵害される危険があることを踏まえ,立憲主義の理念を堅持し,国民主権基本的人権の尊重,恒久平和主義など日本国憲法の基本原理を尊重することを求める立場(第48回人権擁護大会「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」鳥取宣言〕)から意見を述べるものである。
 
2 日本国憲法と緊急事態条項(国家緊急権)
(1) 立憲主義
 日本国憲法は,最高法規である憲法により国家権力を制限し,人権保障を図るという立憲主義を基本理念としている。
 すなわち,国家権力の濫用から国民の自由や権利を守るために,国民が日本国憲法を確定し(前文),その憲法には,「個人の尊重」と基本的人権の保障(11条,13条,97条)並びに権力分立を定め(41条,65条,76条1項),また「法の支配」の下,憲法の最高法規性(98条1項)を担保するために裁判所に違憲立法審査権を認めた(81条)。さらに日本国憲法は,アジア・太平洋戦争を経て得た戦争は最大の人権侵害であるという教訓のもと,全世界の国民に平和的生存権を認め(前文),武力による威嚇又は武力の行使を禁止し(9条1項),戦力不保持,交戦権否認(9条2項)という徹底した恒久平和主義を採用している。
 このように,日本国憲法の根本にある立憲主義は,「個人の尊重」と「法の支配」を中核とする理念であり,国民主権基本的人権の尊重,恒久平和主義などの基本原理を支えるものである。そしてこの基本理念と基本原理は,人類の叡智が込められたものであり,将来の世代にわたり永続的に受け継がれるべきものである。
(2) 緊急事態条項(国家緊急権)の濫用の実例
 緊急事態条項(国家緊急権)は,立憲的な憲法秩序を停止して行政府に権限を集中し人権保障を停止させるものであるから濫用の危険があるし,現に過去において濫用されてきた。
① ドイツでは,ワイマール憲法48条の大統領非常権限に基づき,14年間に250回以上も緊急命令が発せられ,例外規定の常態化を招いた。
 1933年1月にヒンデンブルグ大統領により首相に任命されたヒトラーは,総選挙(3月5日)までの1か月間に,ナチス突撃隊等を駆使して政敵へのテロ行為を縦横無尽に行った。他方,同条に基づく大統領の緊急命令を根拠に,政敵の選挙集会の強制解散,機関誌の発禁処分,警察官の政敵への武器使用の容認などを行った。また,国会炎上事件を契機に出された大統領の緊急命令(国会炎上命令)を根拠に,多数のナチスの政敵を逮捕した。さらに,3月5日に実施された選挙の結果,ナチス議席過半数を確保できなかったにもかかわらず,国会炎上命令を根拠に共産党社会民主党国会議員を逮捕すること等により国会への登院を阻止し,「民族と国家の困難を除去するための法律」すなわち,「全権委任法(授権法)」を成立させた。
 このように,ドイツでは,政敵へのテロ行為に加えて,大統領非常権限に基づき発せられた緊急命令によりヒトラー独裁政権が樹立され,その後ユダヤ人の大量虐殺等の重大な人権侵害が行われたのである。
② またフランスでは,1961年4月21日深夜に起きた4人のフランスの退役将軍によるアルジェリアにおける反乱に対して,同月23日にド・ゴール大統領が第5共和国憲法16条に基づき緊急権を発動した。その後反乱自体は同月25日から26日にかけて鎮圧されたにもかかわらず,大統領は根本的解決を名目として更に9月30日までの5か月間,緊急権を適用した。その間,強制収容の対象となる危険人物の範囲を拡大し,出版の自由を制限するなどの措置が行なわれた。
 なお,フランスでは,2015年11月に発生したパリ同時多発テロに対し憲法上の緊急権に基づくものではないものの,緊急事態法に基づき「緊急事態宣言」が発令され,その後4回延長され現在に至っている。そこでは,疑わしい人物の自宅軟禁やテロを称賛した宗教施設の閉鎖などが可能と報じられており,その濫用が懸念されている。
③ 日本でも1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災において,戦時や事変などに軍隊に権限を集中する制度である戒厳令(明治15年太政官布告第36号)中の一部(戒厳令9条及び14条)を緊急勅令大日本帝国憲法8条)に基づき施行するなど適用範囲が拡大される中で多数の中国人や朝鮮人が虐殺された。そこでは軍隊や自警団が朝鮮人等を虐殺し(詳細は2003年(平成15年)8月25日「関東大震災人権救済申立事件調査報告書」参照),「大杉事件」や「亀戸事件」など無政府主義者社会主義者が憲兵や警察により殺害される事件が起きた。
(3) 日本国憲法が緊急事態条項(国家緊急権)を設けていない理由
① このように,緊急事態条項(国家緊急権)は立憲主義を破壊し,人権を侵害する大きな危険性をはらんでおり,歴史上も,緊急事態の名目の下,混乱に乗じて権力者の地位を強化するために濫用されてきた。
 そのため,日本国憲法の制定議会においても,大日本帝国憲法における緊急勅令(8条),緊急財政処分(70条),戒厳(14条),非常大権(31条)などの緊急事態条項(国家緊急権)を日本国憲法にも設けるべきかが問題とされ,審議された。
② 1946年(昭和21年)7月2日及び同月15日の衆議院帝国憲法改正案委員会において,金森徳次郎国務大臣は,大日本帝国憲法改正案(日本国憲法案)に「緊急勅令」「緊急財政処分」「非常大権」などの規定を設けていない理由について問われたのに対し,(ⅰ)民主政治を徹底させて国民の権利を充分擁護するためには,非常事態に政府の一存で行う措置は極力防止しなければならないこと,(ⅱ)非常という言葉を口実に政府の自由判断を大幅に残しておくとどの様な精緻な憲法でも破壊される可能性があること,(ⅲ)特殊の必要があれば臨時国会を召集し,衆議院が解散中であれば参議院の緊急集会を召集して対処できること,(ⅳ)特殊な事態には平常時から法令等の制定によって濫用されない形式で完備しておくことが出来ること,と答弁している。
 緊急事態において一時的とはいえ憲法上権力者に国家緊急権を授権することは,たとえその要件をいかに厳格なものにしたとしても濫用されることは避けられないという認識の下,日本国憲法は,緊急事態においても,行政府への権力の集中と人権保障の停止を本質とする国家緊急権によるのではなく,あくまでも民主政治を徹底することにより対応すべきであるし,それが可能であるとして,緊急事態条項を設けなかったのである。
③ また,日本国憲法は,過去の軍国主義の歴史と先の大戦の惨禍への深い反省に基づいて,前文に平和的生存権を謳い,9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定め,国家権力に縛りをかけた。
 その結果,日本は平時から周辺諸国と平和で友好な関係を構築するための外交を実践することにより有事を理由とする緊急事態の発生を防ぐべきであり,戦時に軍隊に権限を集中することを認める「戒厳」や「非常大権」という緊急事態条項(国家緊急権)を認めないこととしたのである。
日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)がないことについて「法の欠缺」であるとの見解があるが,上記帝国議会での審議の経過等に照らせば,憲法制定当時においては,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上設けることをむしろ積極的に拒否していたのである。
 
3 緊急事態条項(国家緊急権)の憲法上の創設を検討する際の留意点
(1) 緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるか
 戦争,内乱,恐慌,大規模自然災害などの緊急事態に対して,国民の生命,身体の安全を守るために予め法制度を整備すべきことは当然である。その場合,憲法制定当時,日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を設けることをあえて認めなかったことに鑑みるならば,まず法律の制定・改正や運用の改善などによる対処が検討されるべきである。そして,法律の制定・改正等では対応できず憲法改正によらなければ支障が生じるという場合に初めて,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべき必要性が認められることになる。
 なお,災害やテロについてみると,フランス,ドイツ,イギリス,アメリカ)の4か国のうち憲法上の国家緊急権を定めているのはドイツだけで,他の3か国は法律で対処している。
(2) 権限濫用防止のための有効な法制度が設けられているか
① 緊急事態条項(国家緊急権)により特定の国家機関に権限が集中した場合,当該機関は自らの地位を強化するために,権限を濫用し,立憲主義を破壊し人権を侵害する危険性を常にはらんでいる。そのため,その濫用を防止するために憲法上法制度を設けたとしても,そこには限界がある。
 そのため,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきかを検討するに当たっては,法制度上の限界を踏まえながら,国会による民主的抑制や裁判所による司法的抑制という法制度がその運用において有効に機能し得るのかを厳密かつ慎重に検討すべきである。
 衆議院及び参議院過半数を占める与党が内閣を構成している場合における内閣に対する国会の民主的抑制機能の有効性や,司法作用は基本的に事後的な作用であり迅速な対応が期待できないこと,付随的違憲審査制の下で具体的な事件争訟がなければ司法審査ができないこと,統治行為論等を理由に司法判断を回避する可能性があることなど,現在の司法の運用を前提とした場合に裁判所の司法的抑制機能の有効性が認められるかなども考慮すべきである。
 さらに立憲主義を堅持するためには,国民の民主的抑制が有効に機能し得るのかも考慮すべきである。国民の民主的抑制の究極的なものとして国民の抵抗権がある。ドイツにおいては緊急事態条項(国家緊急権)が憲法上新設される際に,国民の抵抗権規定が付加されたが(基本法20条4項),抵抗権規定が憲法上付加されるか否かにかかわらず,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用に対して国民が抵抗できる環境が整っていることが必要で
ある。
 このように,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用防止のための法制度については,憲法の規定内容とともに,国会による民主的抑制や裁判所による司法的抑制,国民の民主的な抑制力などを考慮して,厳密かつ慎重に検討されるべきである。
② さらに,国会及び国民の民主的抑制に関連して秘密保護法との関係が問題となる。
 国会や国民において緊急事態条項(国家緊急権)が発動される当否を判断する際,安全保障関連情報が国会や国民に開示されることが必要である。
 ところが,秘密保護法は,当該情報を「特定秘密」として指定することから,国会や国民が緊急事態条項(国家緊急権)の発動の当否を適切に判断することができない。しかも,秘密保護法は,特定秘密の指定解除の要件も不十分であることから,緊急事態条項(国家緊急権)の発動の当否の検証が将来長きにわたり困難となる可能性が高い。このように,秘密保護法は国民の知る権利を侵害し国民主権を形骸化することから,当連合会は秘密保護法に反対を表明してきた。緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきかを検討するに当たっては,秘密保護法により国会及び国民の民主的抑制が有効に機能し得ない状況の下では,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用防止が期待できないことも考慮されるべきである。
 
4 自民党改正草案-対象となる緊急事態
(1) はじめに
 このような緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設することについて検討する際の留意点を踏まえた上で,今日,具体的な条項案として公表されている自民党改正草案について検討する。
 自民党改正草案第9章「緊急事態」には,「緊急事態の宣言」(98条)と「緊急事態の宣言の効果」(99条)の規定が設けられている(別紙1)。そこでは,対象となる緊急事態の類型として,「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」の3つが挙げられている。そこで,まず,この3類型について緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるのかを検討する。次に,自民党改正草案の制度について,権限濫用防止のため有効な法制度かを検討する。
(2) 対象となる緊急事態
① 「我が国に対する外部からの武力攻撃」
日本国憲法は,立憲主義と徹底した恒久平和主義に基づき,外部からの武力攻撃を防ぐために平時の平和外交により周辺諸国との友好関係を構築し,紛争が生じても平和的手段により解決すべきとしている。
 また,外部からの武力攻撃又はそのおそれが生じた場合への対処については,安全保障会議設置法,自衛隊法,事態対処法,米軍等行動関連措置法,特定公共施設利用法,外国軍用品等海上輸送規制法,捕虜取扱法,国民保護法,国際人道法違反処罰法などから成る法制度が整備されている(概要は別紙2)。
 国家安全保障会議では,安全保障に関する外交・防衛政策や国防の基本方針等が審議されている。武力攻撃事態等に至った場合には,臨時に設置される事態対策本部を中心に,地方公共団体等とも連携をしながら,防衛対処基本方針に基づき対処措置を実施していく。その実施に当たり,内閣総理大臣(事態対策本部長)は,地方公共団体等を総合調整し,地方公共団体を指示し,更には自ら対処措置を実施することができるなど強力な権限が認められている。また,米軍等との連携や国民保護に関する法制度も整備されている。国民保護法では,国民は,国民の保護のための措置の実施に関する協力要請に対しては,必要な協力をするよう努めるものとされている(国民保護法4条 1 項)。また,内閣は,著しく大規模な武力攻撃災害が発生し,国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保する必要がある場合において,一定の条件の下,金銭債務の支払猶予等に関して政令を制定することができるとされている(同法130条1項)。
イ ただし,現行の安全保障法制には,武力攻撃予測事態の定義や範囲が曖昧であること,武力攻撃事態等の認定の客観性が十分に担保されていない等の問題点がある(2002年(平成14年)6月21日「「有事法制」3法案についての意見書」,2003年(平成15年)5月14日「有事法制法案の採択に対する会長声明」,2004年(平成16年)3月18日「国民保護法案」についての意見書」等)。
 また,2015年(平成25年)9月19日に採択された平和安全法制整備法により,事態対処法に新たに存立危機事態(事態対処法2条4号)が加わったが,それは集団的自衛権の行使を容認するものであり,恒久平和主義及び立憲主義に違反するものである。
 このように,現行の安全保障法制は憲法原理に抵触するおそれや憲法違反の内容が含まれていることから,それらを憲法に適合するように修正すべきである。その上で,仮に安全保障法制として不十分な点があるのであれば,法律の改正等で対応すべきである。
ウ なお,終戦直後の1946年(昭和21年)7月2日に開催された前記衆議院帝国憲法改正委員会において,日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)に関する規定を設けるべきかが問われた際に,金森国務大臣が「我我過去何十年ノ日本ノ此ノ立憲政治ノ経験ニ徴シマシテ,間髪ヲ待テナイト云フ程ノ急務ハナイ」と答弁している。「過去何十年ノ日本」には当然に先の大戦が含まれているが,その先の大戦下においてすら間髪を待てないというほどの急務はなかったのである。
② 「内乱等による社会秩序の混乱」
ア 「内乱等による社会秩序の混乱」には大規模テロも含まれるが,内乱等に関しては,警察法第6章(「緊急事態の特別措置」),海上保安庁法,自衛隊法,事態対処法第三章(「緊急対処事態その他の緊急事態への対処のための措置」),国民保護法第8章(「緊急対処事態に対処するための措置」),刑法,刑事訴訟法警察官職務執行法出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)等の法制度がある。また,今日テロ防止対策に国際社会が取り組む必要性から「航空機内の犯罪に関する条約」(1969年)ほか多くのテロ防止対策に関連する条約が締結されている(概要は別紙3)。
 内乱等による社会秩序の混乱に関しては,警察法に基づき,内閣総理大臣が一時的に警察を統制することで,事態に対処する体制が整備されている。また,警察力だけでは不十分な場合には,自衛隊法に基づく治安出動が認められている。その場合,内閣総理大臣海上保安庁も統制下に置くことができるのであり,警察,海上保安庁自衛隊が一体として事態に対処するための体制が整備されている。日本の社会秩序を混乱させた者に対しては,内乱罪(刑法77条)など刑法その他の刑事法により各種刑罰規定が置かれている。また,日本の社会秩序を混乱させようとする者が外国人である場合には,入管法によりあらかじめ上陸を拒否することが可能である(入管法5条1項11号乃至14号)。
 また,原子力発電所の破壊等,化学剤の大量散布,航空機などによる自爆テロなど,武力攻撃に準ずるテロ等の事態(緊急対処事態。事態対処法22条1項)には,国や地方公共団体等は緊急対処保護措置を的確かつ迅速に実施することに万全を期す責務等を有するとされている(国民保護法172条)。そして,国民は,緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとされている(同法173条1項)。
イ このように,既に警察法自衛隊法,入管法,刑法等により,内乱等の社会秩序の混乱に対処することができる法制度及び体制が整備されている。実際に13人の死亡被害者と数千人の傷害被害者を出した地下鉄サリン事件(1995年(平成7年))においても,破壊活動防止法の適用すら行われず,平時における警察活動で対処することができたのである。また,テロ対策としては,テロの未然防止と万一テロが発生した場合には被害を最小限にくい止め,犯人を制圧・検挙するという事態対処の両面から,上記の法制度の下,1998年(平成10年)に内閣に内閣危機管理監が新設され,2001年(平成13年)には内閣官房長官を本部長とする「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」が設置されるなど,内閣官房を中心に政府の緊急事態対処体制が整備されてきており,突発的な事態の態様に応じた対処の基本方針についての閣議決定やマニュアルの策定等の整備が行われてきている。また,警察庁は,2015年(平成27年)2月には「警察庁国際テロ対策推進本部」を設置し,同年6月には「警察庁国際テロ対策強化要綱」を取りまとめ,同要綱に基づき情報収集・分析,水際対策,警戒警備,事態対処,官民連携を推進している(平成28年度警察白書・特集「国際テロ対策」参照)。
ウ ただし,現行の法制度の中には,警察組織の中に外事情報部による諜報活動が国民の思想信条の自由や集会結社の自由,メディアの報道の自由への萎縮効果をもたらすことなど,警察権限の拡大に伴う問題点なども認められる(2004年(平成16年)3月18日「警察法改正案に対する意見書」)。
 それらの問題点については改善を図り,また仮に不十分な点があるのであれば,それは法律の改正等で対応すべきである。
③ 「地震等による大規模な自然災害」
ア 大地震等による大規模な自然災害については,現行の日本国憲法の下で,既に高度に整備された法制度と体制が存在している。具体的な法制度としては,災害対策基本法大規模地震対策特別措置法原子力災害対策特別措置法新型インフルエンザ特別措置法,災害救助法,警察法自衛隊法等がある(概要は別紙4参照)。
 上記の災害対策の法制度においては,宣言や布告等を行い,国会の統制下において,一定範囲で内閣に政令制定権を認め,また,内閣総理大臣に必要な権限を付与するとともに,国民の財産権の制限や労働の義務等を課して一定の範囲で人権を制約している。仮に東日本大震災原発事故が併発したような複合災害時には現在の法制度でも未整備の部分があるとしても,それは法律の改正等で対応が可能である。その場合には,後記アンケート結果に示されているとおり,地方自治体への権限移譲,適切な役割分担という地方分権の視点から各地の実情に応じた整備を行うべきである。
東日本大震災において政府が初動時に迅速に対応出来なかったことを理由に緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきとの見解がある。
 しかし,政府が初動時に迅速に対応できなかった原因は,高度に整備された法制度があるにもかかわらず,平時から災害に備えた事前の準備がほとんどなされていなかったことによる。
 すなわち,災害対策基本法は,国の防災基本計画に基づき,指定行政機関等の防災業務計画,都道府県等の地域防災計画を作成すべきことを定めている(同法第三章)。また,指定行政機関の長等は,防災教育の実施に務め,防災訓練の実施義務がある(同法47条の2,48条)。更には原子力事業者にも,原子力事業者防災業務計画の作成義務が課せられている(原子力災害特別措置法7条)。ところが,現実には,「原発事故は起こらない」との前提で,避難のための防災計画の作成を怠り,防災訓練等事前の準備がほとんどなされていなかった。災害対策においてなすべきことは,発生した混乱や被害の原因を検証し,その対策を策定して事前の準備を進めることである。
ウ 緊急事態条項(国家緊急権)は,中央政府に権限を集中させることが災害対策に有効であるとの考えに基づくが,自然災害に直接対応するのは都道府県,市町村などの地方自治体や各種団体である。被災地域の実情に通じているこれら地方公共団体等こそが災害へのきめ細やかな対応を行うことができるのであり,それが被災者等の人権保障につながるのである。
 このことは,当連合会が2015年(平成27年)9月に東日本大震災の被災三県の37市町村に対して実施したアンケート結果にも表れている(24市町村から回答)。
 アンケート項目のうち「災害対策・災害対応について市町村の権限は強化すべきか軽減すべきか」との質問に対しては,「権限を強化すべし」との回答は6自治体(25%)に対し,「現状維持(災害対策基本法により第一義的な災害対策の権限は市町村に委ねられている現在の制度の維持)」は17自治体(71%),「権限軽減」は1自治体(4%)であった。
 「災害対策・災害対応について市町村と国の役割分担はどうすべきか」との質問に対しては,「市町村主導」は19自治体(79%),「場合による」は3自治体(13%),「国主導」は1自治体(4%),「未回答」は1自治体(4%)であった。
 「災害対策・災害対応について憲法は障害になったか」との質問に対しては,「障害にならない」は23自治体(96%),「なった」は1自治体(4%)であった。
 この結果は,中央政府に権限を集中させるのではなく,被災者に一番近い自治体である市町村に主導的な役割を与えることの必要性を示している。また,緊急事態条項(国家緊急権)を持たない現在の日本国憲法が災害対応について障害にならなかったことも表している。
 被災経験のある各地の弁護士会からも「東日本大震災の災害対応について国家緊急権規定が存在すれば適切な対応ができたという事実は全く認められず」(仙台弁護士会),「被災者の救済と被災地の復興のために何より必要なのは,政府に権力を集中されるための法制度を新設することよりも,むしろ,事前の災害・事故対策を十分に行うとともに,既存の法制度を最大限に活用することである」(福島県弁護士会)などの意見が表明されている。
エ このように,大規模な自然災害への対応は,現行の法制度の運用・改善によるべきであり,それが可能である。自然災害を理由に日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設する必要性が認められないばかりか,内閣に権限を集中されることはむしろ有害である。
(3) まとめ
① 上記のとおり,自民党改正草案が非常事態として挙げている「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」に関しては,法律に基づく制度が整備されている。
自民党憲法草案は,緊急事態宣言が発せられた場合,内閣の緊急命令権限を認めるべきとするが,災害対策基本法や国民保護法は,各法律の授権に基づいて内閣の政令制定権を認めている(災害対策基本法109条,国民保護法130条)。
 また,同草案は,内閣総理大臣の指示権限を認めるべきとするが,内閣総理大臣の指示権限も含めてすでに法律により内閣総理大臣に一定の権限が集中する仕組みが認められている(事態対処法14条1項,15条1項・2項,警察法72条,73条1項・2項。災害対策基本法28条の6・2項,大規模地震対策特別措置法13条1項,原子力災害対策特別措置法15条3項など)。
 さらに,同草案は,国民等への服従義務を認めるべきであるとするが,国民保護法は,国民の保護のための措置や緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めることや(国民保護法4条1項,173条1項),災害救助法は,大規模自然災害の場合には,被災者の救助等のため,一定の者に対して業務に協力させることができること等を認めている(災害救助法7条ないし10条,災害対策基本法59条1項等。別紙3の6参照)。
 そして,それらの規定では対応できない具体的な事情は認められないし,仮にそのような事情が認められるとしても,まず法律の制定・改正や運用の改善などによる対処が検討されるべきである。その検討を経ることなく,上記3つの緊急事態において,内閣の緊急命令権限,内閣総理大臣の指示権限,国民等の服従義務を憲法上創設することを認める必要性はない。
③ また,自民党改正草案では,内閣総理大臣の財政処分権限を認めるべきであるとするが,一般には緊急事態への対応は予備費が使われ,仮に予備費では不足する場合には補正予算を組むことにより対応することが予定されている。それでは対応できないという具体的な事情は認められないし,仮にそのような事情が認められるならば,まずは予算編成の改善等を検討すべきである。その検討を経ることなく,内閣総理大臣の財政処分権限を憲法上創設することを認める必要性はない。
④ 解散権の制限及び議員の任期等の特例を設けることの必要性については,項を改めて検討する。
(4) 解散権の制限及び議員の任期等の特例について
自民党改正草案99条4項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」として,内閣の衆議院の解散権行使を制限し,参議院及び衆議院の議員の任期延長等を認めている。
② 同条項が「両議院の議員」の任期等の特例を認めていることから,まず,参議院議員の任期について検討する。
 現行憲法において,「参議院議員の任期は,6年とし,3年ごとに議員の半数を改選する。」(日本国憲法46条)とされ,また,「参議院議員通常選挙は,議員の任期が終る日の前30日以内に行う。」とされているから(公職選挙法32条1項),参議院議員が同院の定足数(総議員の3分の1。日本国憲法56条1項)を欠くことはあり得ない。自民党改正草案Q&Aも,この点に関し,「参議院議員通常選挙は,任期満了前に行われるのが原則であり,参議院議員が大量に欠員になることは通常ありえません。」と明記している(Q42の答参照)。
 したがって,自民党改正草案99条4項には「両議院の議員」と明記されているものの,憲法上,参議院議員の期間延長の特例を設ける必要性は認められない。
③ 他方,衆議院議員の任期については,解散又は任期満了により,同院の議員全員がその資格を喪失するため,その前後に緊急事態が発生し,衆議院が組織できない場合が想定できる。
 そこで,以下,解散の場合と任期満了の場合とに分けて検討する。
④ 解散の場合
ア 内閣が解散権を行使しようとしているときに緊急事態が生じた場合,通常,任期満了が迫っている等の事情がないときには,内閣としては通常解散権の行使を差し控えると思われるし,仮に解散権を行使したとしても,その場合は衆議院解散後に緊急事態が発生した場合と同じであり,日本国憲法はそのような場面を想定して,参議院の緊急集会を設けているのであるから(日本国憲法54条2項但書),緊急事態への対応は可能である。したがって,憲法上,内閣の解散権を制限する必要性は認められない。
衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合,参議院議員は存在しているし,仮に参議院議員の任期が満了となっても半数の参議院議員は存在していることから(日本国憲法46条),参議院の緊急集会を開催することにより(同法54条2項但書),緊急事態への対応が可能である。したがって,衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合を想定して,憲法衆議院議員の任期に特例を設ける必要性は認められない。
 なお,日本国憲法54条1項は,「衆議院が解散されたときは,解散の日から40日以内に,衆議院議員の総選挙を行い,その選挙の日から30日以内に,国会を召集しなければならない。」と定めている。そこで,衆議院解散後総選挙前に緊急事態が発生したために総選挙や国会召集が上記期間内に実施できない場合が生じ得るとして,選挙期日の特例を設けるべきかが問題となる。
 大日本帝国憲法45条は,解散の日から5ヶ月以内に国会を召集することとしていたのに対して,日本国憲法54条1項によれば,解散の日から最長でも70日以内に国会を召集すべしとした。それは,国会が長い間存在しないことが,国民主権の原理からみて望ましくないことから,大日本帝国憲法に比べて国会召集の期間を短縮したのである。したがって,上記期間制限は厳格に解するべきであり,期間制限の特例を設けることは国民主権の原理の観点から弊害がある。しかも,自民党改正草案Q&Aは,「緊急事態下でも総選挙の施行が必要であれば,通常の方法ではできなくとも,期間を短縮するなど何らかの方法で実施すること」により上記期間内の選挙は可能であると回答している(Q42回答)。
これらのことからすれば,緊急事態であることを理由に,同条項の期間制限に特例を設けるべきではなく,あくまでも同条項の期間制限に適合するように公職選挙法の繰延選挙の規定に期間短縮等の簡易に選挙が実施できる方法を定めて,選挙や国会召集が行われるべきである。
⑤ 任期満了の場合
衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生した場合には,緊急事態発生後から任期満了前までは衆議院議員も存在することから,国会(臨時会)を招集し(日本国憲法53条),緊急事態に対処することが可能である。そして,総選挙が予定どおり実施されるならば,選挙実施後は新たに選出された衆議院議員が存在していることから,国会を召集し緊急事態に対処することは可能である。したがって,この場合には,議員の任期の特例を設ける必要はない。
衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生したため,予定どおり選挙を実施することができず任期満了が到来することにより,衆議院議員が存在しない事態が生じる場合があり得る。
 この場合,「衆議院が解散されたとき」に認められる参議院の緊急集会の規定は適用されない。そのため,憲法上任期延長を認めることにより,衆議院議員の不在状態を解消し,国会(臨時会)の召集を可能とすることも考えられるが,他方で,任期延長は,延長された間は選挙が実施されないことになり,その間,国民から選挙の機会を奪うことにもなる。
 任期延長を認める場合にその期間が問題となるが,緊急事態の程度や規模は千差万別であることから,その期間は事態ごとに個別的に判断せざるを得ない。しかも,その判断は内閣が行うことが想定されるが,国会がその判断の適正さを確認することができないため,必要以上に任期延長を認めてしまうおそれも否定できない。現に,1941年に衆議院議員の任期が,任期満了前に,立法措置により 1 年間延期されたことがある。その理由は,「今日のような緊迫した内外情勢下に,短期間でも国民を選挙に没頭させることは,国政について不必要にとかく議論を誘発し,不必要な摩擦競争を生じせしめて,内外外交上はなはだ面白くない結果を招くおそれがあるのみならず,挙国一致防衛国家体制の整備を邁
進しようとする決意について,疑いを起こさしめぬとも限らぬので,議会の任期を延長して,今後ほぼ1年間は選挙を行わぬこととした」というものであった(法学協会「第七六帝國議會・新法律の解説」1941年有斐閣)。そして1年後には戦時下において任期満了に伴う総選挙(翼賛選挙)が施行された。それは,「議会の刷新を期し,政治力の結集を図ることがむしろ戦争遂行のため緊要であると考え,戦争の真っ最中であえて総選挙を断行した」のである(「議会制度百年史・帝国議会史・下巻」636頁)。このように,衆議院議員の任期延長が戦争遂行の国内体制整備のために行われた日本の過去の実例に照らすと,憲法上任期の特例(任期延長)が認められることにより,内閣が必要以上に任期を延長し,それにより国民の選挙の機会を失わせることにより政権与党が議会の多数を占める体制が維持され,民意が十分に反映されないまま内閣主導の下で緊急事態への国内体制が整備されていく可能性は否定できない。そのような事態は,国民主権の原理に照らして弊害が大きいと言わざるを得ない。
 以上から,緊急事態の発生により総選挙が実施されないまま衆議院議員の任期満了が到来した場合に対応するために任期延長を認めることは,内閣の権限濫用のおそれがあり,国民主権の原理に照らして弊害もあることから,憲法上任期の特例の規定を設けるべきではない。
 むしろ,日本国憲法制定当時の前記金森国務大臣の答弁にみられるように,緊急事態に対しては,あくまでも民主政治を徹底することにより対応すべきとの日本国憲法制定当時の考え方によれば,繰延投票(公職選挙法57条)により選挙を実施することにより衆議院議員不在の状況を可及的速やかに回復し,国会(特別会)を召集することで対応すべき
である。そして,先の自民党改正草案Q&AのQ42の回答によれば,それが可能である。
 なお,過去に任期満了による総選挙が実施されたのは1976年(昭和51年)12月の1度だけであり,憲法施行後70年に1度しかない。
 このように過去においても極めて頻度が少ないことに加え,そのような場面で緊急事態が発生し,しかも全国のほとんどの選挙区で選挙が実施できずに衆議院議員の任期満了が到来するという事態が発生することが,どれほど現実的なのか疑問である。
 以上から,衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生したため衆議院の定数を欠くほど多くの選挙区において予定どおり選挙を実施できずに任期満了が到来した場合を想定して,憲法上任期の特例を設ける必要性は認められない。
⑥ 以上のとおり,緊急事態が発生した場合に,内閣の解散権の制限や,議員の任期及び選挙期日の特例を憲法上創設する必要はない。
(5) まとめ
 このように,自民党改正草案に定められているように,緊急事態が発生したときに,内閣の緊急命令権限,内閣総理大臣の財政処分権限,内閣総理大臣の指示権限,国民等の服従義務,解散権の制限及び議員の任務等の特例を設けるという緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められない。
 
5 自民党改正草案-濫用防止の制度設計
(1) はじめに
 自民党改正草案が想定している緊急事態において,憲法上緊急事態条項(国家緊急権)を創設すべき必要性が認められないことに加え,自民党改正草案の条項の制度設計では,以下のとおり,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用を防ぐことはできない。
(2) 緊急事態宣言の発動要件の包括的委任等
 自民党改正草案は,緊急事態宣言を発することができる場合として,「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」に加えて「その他の法律で定める緊急事態」を挙げているが,この規定内容では対処措置の対象となる緊急事態について憲法上の限定がなく包括的に法律に委ねられることになる。
 また,内閣総理大臣が緊急事態宣言は,「特に必要があると認めるとき」は「法律の定めるところにより」閣議にかけて発することができると定めているが,仮に法律で緊急事態宣言を発することができる要件を定めるということであれば,その要件は憲法上の限定はなく包括的に法律に委ねることになる。また,仮に法律には単に手続的要件を定めるのみであり緊急事態宣言を発することができる要件を定めない場合には,緊急事態宣言の要件としては憲法上必要性の要件のみとなり,内閣総理大臣に専断的な決定権を与えることになる。
 これらの規定内容では,緊急事態の範囲が広がり,しかも内閣総理大臣は緊急事態宣言の発動要件の判断について憲法上の歯止めがなく,内閣総理大臣に専断的な決定権を与えるものであり,立憲主義を損ないかねないものである。
 また,例示されている「我が国に対する外部からの武力攻撃」「社会秩序の混乱」「大規模な自然災害」という文言も包括的かつ広範であり,宣言を発令する要件としては不明確である。
(3) 国会の承認
 緊急事態宣言については事前又は事後の国会承認(98条2項),「政令」「その他の処分」については事後の国会承認(99条2項)が必要とされている。しかし,前記のとおり,国会が緊急事態宣言の当否を判断するに当たり安全保障関連情報の開示を求めても,当該情報は「特定秘密」に指定され国会への開示も制限されることになる。そのため,内閣に対する国会の民主的抑制機能を十分に果たすことができない。
(4) 措置の期間
 自民党改正草案では緊急事態の期間に制限を設けていない(98条3項)。国会の事前承認があればいくらでも更新することができることになる。
 また,同案は100日を超えるごとに国会の事前承認を必要としているが(98条3項),緊急事態条項(国家緊急権)は例外的措置であることからすると,100日は長すぎる。
(5) 法律と同一の効力を有する政令
自民党改正草案99条1項は,「緊急事態の宣言が発せられたときは,法律の定めるところにより,内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」と規定している。この規定によれば,制定できる政令の範囲に限定はなく,また憲法の人権規定その他の憲法規範を遵守しなければならないのかも明らかではない。憲法上,内閣に対して,政令だけで従前の法律を全て改正できる権限を与えるものと解することが可能であり,例えば,緊急事態宣言の期間中,刑事訴訟法と同一の効力を有する政令を制定することにより,令状なき身体拘束・家宅捜索・通信傍受など,平時では法律で行っても憲法違反となるようなことが認められる可能性がある。また,本来の手続を省略した土地収用,家屋・工作物の除却等の即時断行的な行政処分が行われ,これに対する行政訴訟も差止め請求も停止させられることも考えられる。このように,本条による措置はあまりに広範であり,かつ人権が制約される危険性も大きい。
② また,自民党改正草案における上記の政令の制定に関しては,「国会が閉会中又は衆議院が解散中であり,かつ,臨時会の招集を決定し,又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないとき」(災害対策基本法109条)というような限定がない(国民保護法130条にも同様の規定がある。なお,大日本帝国憲法の緊急勅令においても議会閉会中に限定していた(8条1項)。)。
政令には事後に国会の承認を必要とするが,承認が得られない場合に効力を失う旨の規定がない(99条1項2項)(なお,大日本帝国憲法においても緊急勅令が事後に議会の承認を得られない場合は将来に向かって効力を失う旨の規定があった(8条2項))。
(6) 財政上必要な支出その他の処分
 自民党改正草案では,内閣総理大臣は「財政上必要な支出その他の処分」を行うことができると定められている(99条1項)。ここでは,財政処分を内閣総理大臣に包括的に委ねている。しかも,事後の国会承認が得られない場合に効力を失う旨の規定もない(99条2項)。
 国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいてこれを行使しなければならないとされている(日本国憲法83条)。これは,日本が戦前,軍事費のために無制限な財政支出を行って国家財政を破綻させたことに対する真摯な反省の下,財政民主主義を定めたものである。赤字国債を原則として禁止する財政法も同じ理念による。自民党改正草案99条1項は,この財政民主主義に抵触するものであるが,内閣総理大臣国債発行も含めて無制限に財政を処理する権限を認めるものであり濫用を防止し得ない。
(7) 公的機関の指示に従う義務
自民党改正草案99条3項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合には,何人も,法律の定めるところにより,当該宣言にかかる事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他の公の機関の指示に従わなければならない」として国民の公的機関の指示に従う義務を規定している。
 これまでも,例えば,国民保護法において,「国民は,この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとする。」との規定が置かれていた(4条1項)。しかし,文言上明らかなとおり,「協力をするよう努める」という努力義務にとどまるものであり,また,努力義務であるにもかかわらず,万が一にも強制にわたることがあってはならないという趣旨から,「前項の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって,その要請に当たって強制にわたることがあってはならない。」との規定も注意的に置かれていた(4条2項)。
 しかし,自民党改正草案99条3項は,「協力をするよう努める」ことを超えて,「指示に従わなければならない」という義務を定めるものであり,強制されることを含むものである。仮に緊急事態下であるとしても,法律の授権に基づくものではなく,現憲法下では認められていない憲法により直接定められている国その他の公の機関の指示に対する国民の順守義務について,指示の主体及び義務の内容が憲法上限定されないまま,「法律の定めるところにより」幅広く認められることになれば,基本的人権が無制限に制約されかねない。
 この点,同項は,「この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。」と定めている。しかし,そのような規定があったとしても,憲法に国等の指示に対する国民の順守義務の根拠が明記された上でこのような規定が置かれていることからして,人権相互の矛盾・衝突を調整する内在的制約(日本国憲法13条「公共の福祉」)とは異なり,憲法の人権保障の例外としての外在的制約が認められることとなる(自民党改正草案Q&Aにおいても,「国民の生命,身体及び財産という大きな人権を守るために,そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得る。」と説明されている。なお,法律レベルではあるが,事態対処法ですら,「武力攻撃事態への対処においては,日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず,これに制限が加えられる場合にあっても,その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ」とされている(事態対処法3条4項)。)。
 また,諸外国の例を見ても,フランス憲法16条にこのような条項はないし,ドイツ憲法の緊急事態条項には,例えば,防衛事態(連邦領域が武力で攻撃された,又はこのような攻撃が直接に切迫していること。ドイツ基本法115a 条1項)に関して,兵役又は代替役務の義務を負わない者に,非軍事役務の従事義務(同法12a 条3項)を,また非軍事的衛生施設,治療施設等の労働力不足のときにそれを補うために女子を徴用することができる(同条4項)など,限定された役務従事義務を規定するだけである。
② さらに,日本が1979年に批准した自由権規約(「市民的及び政治的権利に関する国際規約」)4条1項及び2項は,緊急事態の存在が公式に宣言されたときでも,人種などによる差別は許されず,思想良心の自由,奴隷・奴隷状態の禁止等の人権については侵害してはならないと定めている。
 しかし,上記のとおり,自民党改正草案99条3項は,「この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。」と規定するにとどまり,侵害を禁止することが端的に明記されておらず,平時では許容されない人権侵害の余地を認めるとも解されるものであるから,自由権規約4条 1 項及び2項と抵触する。
③ 以上のとおり,自民党改正草案99条3項によって,基本的人権が不当に制約されかねないという懸念は払拭されるものではなく,むしろ,この規定が憲法上明記されることによって司法による人権の事後的救済が困難になるおそれがあり,立憲主義を損なうものといわざるを得ない。
(8) 国会議員の任期について
 自民党改正草案99条4項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」と定めている。
 前記4(4)で述べたとおり,緊急事態において特例として議員の任期が延長されることにより,本来予定されていた任期満了による総選挙が実施されなくなる。これは,国民の選挙の機会を失わせるものである。
 また,議員の任期の特例は「法律の定めるところにより」設けることができるとされており,憲法上の歯止めがない。仮に議員の任期延長について,法律により内閣総理大臣の裁量に委ねられることになれば,政権与党が多数を占める状態が継続し,緊急事態宣言時の内閣が政権を維持し続けることもあり得る。
 さらに,衆議院が解散された場合には,解散の日から40日以内に選挙を行うことが定められているが(日本国憲法54条1項),仮に選挙期日の特例について,法律により内閣総理大臣の裁量に委ねられることになれば,解散後,衆議院議員が不在のまま長期にわたり総選挙が実施されず,国会も召集されないまま,緊急事態宣言時の内閣が政権を維持し続けることもあり得る。
 これでは,国会及び国民による内閣に対する民主的抑制が十分に働かず,濫用を防止することは困難である。
(9) 小括
 そもそも,自民党改正草案が緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する理由の一つに,緊急事態条項(国家緊急権)に基づく権限の行使を憲法で縛り,その濫用を防止しようとする立憲主義が挙げられている。ところが,自民党改正草案は,緊急事態条項(国家緊急権)の全てにおいて,「法律の定めるところにより」との文言を含んでおり,重要な部分の多くを法律に委ねている。特に,98条1項は,緊急事態宣言の要件を定めるものであるが,それを「その他法律で定める緊急事態」として法律に委ねてしまえば,法律でいかようにも要件を定めることになり,憲法による縛りはなくなる。また,99条3項は,基本的人権に制限を加えることを許容するとも解される規定であるが,その内容についても法律に委ねてしまえば,平時では許容されないような人権制限が法律で可能となる。これは立憲主義を破壊するものであり,立憲主義の立場から憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を規定すべきであるとの自らの論拠にも反する。
 以上のことから,自民党改正草案の制度設計は,立憲主義に反し,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用を防止することはできず,基本的人権を損なう危険性が避けられない。
 
6 結論
 よって,意見の趣旨記載のとおり,当連合会は,自民党改正草案を含め,日本国憲法を改正し,戦争,内乱,大規模自然災害に対処するため同草案が定めるような対処措置を内容とする緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する。
                                     以 上

法律の略称
【事態対処法】
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
【米軍等行動関連措置法】
武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
特定公共施設利用法
武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
【外国軍用品等海上輸送規制法
武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
【捕虜取扱法】
武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律
【国民保護法】
武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
国際人道法違反処罰法
国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律

(別紙1)自由民主党憲法改正草案第9章「緊急事態」
【第98条】
1 内閣総理大臣は,我が国に対する外部からの武力攻撃,内乱等による社会秩序の混乱,地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において,特に必要があると認めるときは,法律の定めるところにより,閣議にかけて,緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は,法律の定めるところにより,事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は,前項の場合において不承認の議決があったとき,国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき,又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは,法律の定めるところにより,閣議にかけて,当該宣言を速やかに解除しなければならない。
 また,百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは,百日を超えるごとに,事前に国会の承認を得なければならない。
4 第2項及び前項後段の国会の承認については,第60条第2項の規定を準用する。この場合において,同項中「三十日以内」とあるのは,「五日以内」と読み替えるものとする。
【第99条】
1 緊急事態の宣言が発せられたときは,法律の定めるところにより,内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか,内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い,地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については,法律の定めるところにより,事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には,何人も,法律の定めるところにより,当該宣言に係る事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
 この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

(別紙2)安全保障法制の概要
1 我が国の安全保障に関する重要事項を審議する機関として,内閣に国家安全保障会議が設置されている(国家安全保障会議設置法1条)。同会議は,武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(以下「武力攻撃事態」という。事態対処法2条2号)及び武力攻撃事態には至っていないが,事態が緊迫し,武力攻撃が予測されるに至った事態(以下「武力攻撃予測事態」という。同法2条3号。以下,武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態を併せて「武力攻撃事態等」という。)への対処に関する基本的な方針等について審議をする(国家安全保障会議設置法2条1項)。
2 武力攻撃事態等に至ったときは,政府は武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定める(事態対処法9条1項)。対処基本方針が定められたときは,内閣総理大臣は,臨時に内閣に武力攻撃事態等対策本部(以下「事態対策本部」という。)を設置し(同法10条),内閣総理大臣が対策本部長に就任する(同法11条)。
 武力攻撃事態等に至った場合,対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間,指定行政機関等は,武力攻撃事態等の終結等のために必要な措置(以下「対処措置」という。事態対処法2条8号参照)を実施する。対策本部長は,対処措置を的確かつ迅速に実施するために,対処基本方針に基づき,指定行政機関の長等に対し,対処措置に関する総合調整を行う(同法14条1項)。また,内閣総理大臣は,上記の総合調整に基づく所要の対処措置が実施されないときは,地方公共団体の長等に当該対処処置を実施すべきことを指示し(同法15条1項),それも実施されないときは,自ら当該対処処置を実施することができる(同法15条2項)。
3 自衛隊の行動等に関しては,武力攻撃事態に至った場合,内閣総理大臣は防衛出動を命ずることができる(自衛隊法76条)。防衛出動時には,自衛隊には,武力行使権限(同法88条),公共の秩序維持のための権限(同法92条),緊急通行権限(同法92条の2)が認められている。
 また,武力攻撃予測事態に至った場合には,防衛大臣は,防衛出動の待機を命ずることができ(自衛隊法77条),その下で,防衛施設を構築することができる(同法77条の2)。それに従事する自衛官には,一定の範囲で武器使用が認められている。
4 米軍等との関係では,米軍等行動関連措置法の定めるところにより,日本が米軍等に対し,補給,輸送,修理・整備,医療,通信,空港・港湾業務等の物品や役務の提供を行うことができる(同法77条の3)。
5 国民保護に関しては,防衛大臣は,都道府県知事から自衛隊の部隊等の派遣要請を受けた場合,又は,事態対策本部長である内閣総理大臣から自衛隊の部隊等の派遣を求められた場合には,部隊等を派遣することができる(国民保護法15条1項,2項,自衛隊法77条の4)。また,「国民は,この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとする。」との規定が置かれている(4条1項)。内閣は,著しく大規模な武力攻撃災害が発生し,国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保する必要がある場合において,一定の条件の下,金銭債務の支払猶予等に関して政令制定権限が認められている(同法130条1項)。
6 港湾施設,飛行場施設,道路,海域,空域及び電波(以下「特定公共施設等」という。特定公共施設利用法2条3項)の利用のうち港湾施設については,内閣総理大臣(対策本部長)は,港湾管理者に対して,優先的利用の要請をすることができ(同法7条1項),それが確保できない場合には港湾管理者に確保するよう指示し(同法9条1項),それでもなお確保できない場合には国土交通大臣を指揮して確保のための措置を行うことができる(同法9条3項)。これは,飛行場施設の利用に関しても同じである(同法11条)。
7 我が国の領海及び我が国周辺の公海における外国軍用品等(兵器・武器・弾薬等や外国軍隊の構成員)の海上輸送の規制に関しては,防衛大臣は,内閣総理大臣の承認を得て,防衛出動を命じられた海上自衛隊の部隊に対して,停船命令や船上検査などの停泊検査及び回航措置の手続を実施するよう命ずることができる(外国軍用品等海上輸送規制法4条1項)。その際,自衛官は職務の遂行に関して武器を使用することができる(同法37条,自衛隊法94条の7)。
8 このほかにも,捕虜取扱法では武力攻撃事態における捕虜等の拘束など捕虜の取扱について定めている(捕虜取扱法4条,自衛隊法94条の8)。

(別紙3)治安法制の概要
1 内閣総理大臣は,大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して,緊急事態の布告(以下別紙3において「布告」という。)を発することができる(警察法71条1項)。布告が発せられたとき,内閣総理大臣は一時的に警察を統制し,警察庁長官(以下「長官」という。)を直接に指揮監督する(同法72条)。長官は,布告に記載された区域(以下「布告区域」という。)を管轄する都道府県警察の警視総監等に対し,必要な命令・指揮をし(同法73条1項),布告区域外の都道府県警察に対して布告区域等への警察官の派遣を命じることができる(同法73条2項)。
2 また,内閣総理大臣は,間接侵略その他の緊急事態に際して,一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合には,自衛隊の出動を命ずることができる(以下「治安出動命令」という。自衛隊法78条1項)。この場合,内閣総理大臣は,海上保安庁防衛大臣の統制下に入れることができ(同法80条1項),防衛大臣がこれを指揮することになる(同法80条2項)。なお,防衛大臣は,治安出動命令が発せられることが予測される場合には,出動待機命令を発することができる(同法79条1項)。また,治安出動命令が発せられ,武器を所持した者が不法行為を行うことが見込まれる場合,当該武器所持者の所在場所等における情報収集を命ずることができる(同法79条の2)。
3 都道府県知事は,治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には,内閣総理大臣に対して自衛隊の出動を要請し(同法81条1項),内閣総理大臣は,事態やむを得ないと認める場合には,自衛隊の出動を命ずることができる(同法81条2項)。
4 これら治安出動の他にも,内閣総理大臣自衛隊の施設等への警護出動命令(同法81条の2),防衛大臣の海上における警備活動命令(同法82条)などの定めが置かれている。
5 日本の社会秩序を混乱させた者に対しては,当該者が行った犯罪に応じて,刑法その他の刑事法により各種刑罰規定が定められている。
6 なお,2005年(平成17年)の自衛隊法改正により弾道ミサイル等に対する破壊措置命令に関する規定(同法82条の2)が設けられたが,政府はこれを,防衛出動命令下命前の措置であるので武力の行使ではなく武器の使用であるとして,防衛作用ではなく警察作用としている(2005年(平成17年)7月5日参議院外交防衛委員会での大野功統防衛庁長官の答弁)。政府の見解を前提とするならば,これも治安維持の制度に位置付けることができる。
7 テロ対策防止に関する条約としては,①航空機内の犯罪に関する条約(1969年),航空機不法奪取防止条約(1971年),③民間航空への不法行為防止条約(1973年),④空港での暴力行為防止議定書(1989年),⑤国家代表等への犯罪防止・処罰条約(1977年),⑥人質行為防止条約(1983年),⑦核物質防護条約(1987年),⑧海上航行不法行為防止条約(1992年),大陸棚プラットフォーム不法行為防止条約(1992年),⑨プラスチック爆弾探知条約(1998年),⑩テロ爆弾使用防止条約(2001年),⑪テロ資金供与防止条約(2002年)などがある(2003年(平成15年)2月衆議院憲法調査会事務局「「非常事態と憲法」に関する基礎的資料-安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(平成15年2月6日及び3月6日の参考資料)」・衆憲資第14号)。
8 政府は,武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で,国家として緊急に対処することが必要なもの(緊急対処事態)に至ったときは,緊急対処事態に関する対処方針(緊急対処事態対処方針)を定めるものとされている(事態対処法22条 1 項)。ここに緊急対処事態とは,武力攻撃に準ずるテロ等の事態をいい,例えば,原子力事業所などの破壊,大規模集客施設やターミナル駅などの爆破,生物剤や化学剤の大量散布,航空機などの自爆テロなどである(内閣官房国民保護ポータルサイト)。国民保護法は,国や地方公共団体等に対して,緊急対処保護措置を的確かつ迅速に実施することに万全を期す責務を有するとされている(同法172条)。そして,国民は,緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとされている(同法173条1項)。

(別紙4)災害法制の概要
1 災害対策基本法によれば,非常災害が発生し,かつ,当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合に,内閣総理大臣は,災害緊急事態の布告(以下別紙4において「布告」という。)を発することができる(同法105条1項)。この布告があったとき,次の措置が採られる。
(1) 内閣総理大臣は,臨時に内閣府に緊急災害対策本部を設置する(同法107条,28条の2)。緊急災害対策本部長には内閣総理大臣が就任する(同法28条の3,1項)。緊急災害対策本部には,緊急災害現地対策本部を置くことができる(同法28条の3,8項)。緊急災害対策本部長は,関係指定行政機関の長等に必要な指示をしたり(同法28条の6,2項),資料又は情報の提供,意見の表明その他必要な協力を求めたりすることができる(同条3項)。
(2) 政府は,災害緊急事態への対処に関する基本的な方針を定める(同法108条)。
(3) 内閣は,国の経済の秩序を維持する等の緊急の必要がある場合において,国会が閉会中又は衆議院が解散中であり,かつ,臨時会の招集を決定し,又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは,緊急措置として政令を制定することができる。政令の対象は,生活必需物資の配給等の制限他合計4点である(同法109条1項,同法109条の2)。政令には刑罰を付すことができる(同法109条2項)。政令を制定したときは,内閣は直ちに国会又は参議院の緊急集会で承認を求めなければならない(同法109条4項)。政令に代わる法律が制定されないこととなったときは,制定されないこととなったときに政令の効力は失われる(同法109条5項)。
(4) 内閣総理大臣は,国民に対し,国民生活との関連性が高い物資等をみだりに購入しないこと等の協力を要求することができる(同法108条の3)。
2 大規模地震対策特別措置法によれば,内閣総理大臣は,気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合において,地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは,地震災害に関する警戒宣言を発するとともに,住民等へ警戒態勢を執るべき旨を公示する等一定の措置を執らなければならない(同法9条1項)。
 警戒宣言を発したとき,次の措置が執られる。
(1) 内閣総理大臣は,臨時に内閣府地震災害警戒本部(以下「警戒本部」という。)を設置する(同法10条1項)。警戒本部長には内閣総理大臣が就任する(同法11条2項)。警戒本部は,所管区域において指定行政機関の長等が実施する地震防災応急対策又は災害応急対策(以下「地震防災応急対策等」という。)の総合調整等を行う(同法12条)。
(2) 警戒本部長は,関係指定行政機関の長等に対し,必要な指示を行うことができる(同法13条1項)。
(3) 警戒本部長は,防衛大臣に対し,自衛隊の部隊の派遣を要請することができる(同法13条2項)。
3 警察法によれば,前記のとおり,大規模な災害で治安の維持のために特に必要があると認めるときは,緊急事態の布告を発することができ(警察法71条1項),内閣総理大臣警察庁長官を直接指揮監督し,一時的に警察を統制することができる(同法72条)。
4 原子力災害対策特別措置法によれば,原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態が発生したと認められる場合,原子力規制委員会は,内閣総理大臣に対し,その状況に関する必要な情報の報告等を行う(同法15条1項)。
 上記報告等を受けた内閣総理大臣は,直ちに原子力緊急事態宣言を公示し(同法15条2項),原子力災害対策本部を設置し(同法16条1項),内閣総理大臣がその対策本部長に就任する(同法17条1項)。
 また,内閣総理大臣は,市町村長及び都道府県知事に対し,居住者等の避難のための立退き,屋内への退避の勧告等を行うべきこと等を指示することとされている(同法15条3項)。
5 自衛隊法によれば,都道府県知事等は,天災地変その他の災害に際して,防衛大臣等に自衛隊の派遣を要請することができ(同法83条1項),要請を受けた防衛大臣等は救援のために自衛隊を派遣することができる(同法83条2項本文)。ただし,特に緊急を要し,要請を待ついとまがないと認められるときは,要請を待たないで自衛隊を派遣することができる(同法83条2項但書き)。
6 地震等の大規模な自然災害の場合,被災者の救助等のために人権制約を認めた規定がある。
 すなわち,都道府県知事は,(ⅰ)医療,土木建築工事又は輸送関係者を救助に関する業務に従事させることができる(災害救助法7条1項)。これには罰則がある(同法31条)。(ⅱ)救助を要する者及びその近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる(同法8条)。(ⅲ)病院,診療所,旅館等を管理し,土地家屋物資を使用し,物資の生産,集荷,販売,配給,保管若しくは輸送を業とする者に物資の保管を命じ,収用できる(同法9条1項)。これには罰則がある(同法31条)。(ⅳ)職員に施設,土地,家屋,物資の所在場所,保管場所に立ち入り検査させることができる(同法10条1項)。これには罰則がある(同法33条1項)。
 市町村長は,(ⅰ)設備物件の占有者,所有者又は管理者に対して当該設備又は物件の除去,保安その他必要な措置を採ることを指示できる(災害対策基本法59条1項),(ⅱ)居住者等に対し避難のための立ち退きを勧告し,立ち退きを指示することができる(同法60条1項)。(ⅲ)居住者等に対し,屋内待避その他屋内における避難のための安全確保措置を指示できる(同法60条3項)。(ⅳ)警戒区域を設定し,立ち入りを制限,禁止,退去を命ずることができる(同法63条1項),(ⅴ)他人の土地・建物その他の工作物を一時使用し,土石竹木その他の物件を一時使用し,若しくは収用できる(同法64条1項)。(ⅵ)現場の災害を受けた工作物又は物件の除去その他必要な措置を採ることができる(同法64条2項)。(ⅶ)住民又は現場にある者を応急措置の業務に従事させることができる(同法65条1項)。
 
(校注/金原から)
10頁 28行目 「~という地方分権に視点から」を「~という地方分権の視点から」に訂正した。
31頁 5行目 文末に句点(。)を付加した。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年1月26日
水島朝穂教授による自民党改憲案「緊急事態条項」批判論文(2013年)がネットで公開されました
2016年2月3日
自民党改憲案・緊急事態条項はナチス授権法の再来か?~海渡雄一弁護士の論考を読む

2016年2月6日
立憲デモクラシーの会・公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」を視聴する

2016年4月11日
立憲デモクラシー講座第8回(4/8)「大震災と憲法―議員任期延長は必要か?(高見勝利氏)」のご紹介(付・『新憲法の解説』と緊急事態条項)
2016年5月29日
金森徳次郎国務大臣答弁と『新憲法の解説』を読む~災害を理由とした緊急事態条項は不要!
2016年10月24日
動画とレジュメで振り返る講演「参院選後の改憲の動きと私たちの課題」(2016年10月22日/講師:金原徹雄/主催:憲法を生かす会 和歌山)
 

(付録)
『これがボクらの道なのか』
『時代は変わる』
『遠い世界に』
『花をください』
『Hard Times Come Again No More』
『血まみれの鳩』
演奏:長野たかし&森川あやこ
 
※2013年10月5日@京都市御池地下街 ゼスト御池

「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

 今晩(2017年2月24日)配信した「メルマガ金原No.2733」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

【第1部 「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内】
 あと1週間に迫った、私が講師を頼まれている3月3日(金)の学習会のチラシが主催者(和歌山県平和フォーラム)から届きましたので、ご紹介します。
 このチラシは、和歌山県平和フォーラムなど3団体が3月中に行う2つの企画の共同チラシとなっており、3月3日は共謀罪についての学習会、そして3月25日(土)が、講演と映画で「沖縄の今」を考える集会です。
 以下に、チラシから2つの企画の概要を転記します。

 前半(3月3日)の企画は、私の講演はともかくとして、参加者には、『一(いち)からわかる共謀罪
 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価200円)という、分かりやすくてためになる冊子が無償配布されるはずですから、それだけでも参加していただく価値があると思います。何しろ、■「秘密保護法」廃止へ!実行委員会(平和フォーラム 新聞労連ほか)、■解釈で憲法9条を壊す!実行委員会(許すな!憲法改悪・市民連絡会 憲法会議)、■盗聴法廃止ネットワーク(盗聴法に反対する市民連絡会 日本国民救援会)の3団体が共同で編集・発行したものですから。
 同書には、海渡雄一弁護士(日弁連共謀罪法案対策本部副本部長)による2本の論考、「共謀罪って何?自由を奪う監視社会の到来」と「戦争準備法制としての治安維持法共謀罪」も収録されており、とてもよくまとまっていて参考になります(ということで、私は自分のレジュメは作らずに、海渡弁護士の論考をレジュメ代わりにすることにしました)。
 
 また、後半(3月25日)は、自治労沖縄県本部書記長の大嶺克志さんによる講演「沖縄で今、何が起きているのか」と、藤本幸久・影山あさ子共同監督作品『高江―森が泣いている 2』の上映が行われます。
 明後日(2月26日)、和歌山県平和委員会が中心になった実行委員会の主催によるドキュメンタリー映画『いのちの森 高江』(謝名元慶福監督)の上映会が予定されていますし、是非両作とも観たいのですが、どちらも拠ん所ない所用が・・・(困った)。 
 
チラシから概要を引用開始)
安倍政権の横暴を許すな!
 
安倍政権は憲法・沖縄・原発共謀罪など様々な分野で暴走を続けています。
 沖縄では辺野古新基地建設の強行。欠陥機オスプレイの飛行と県民の意見や法さえも無視する暴挙が繰
り返されています。
 共謀罪法案はその危険性ゆえに、世論の強い反対で三度の廃案に追い込まれましたが、安倍政権は四たび国会に提出し、成立を狙っています。テロへの不安に便乗した権力の横暴を許してはなりません。
 こうした状況をふまえ、運動を深化させるため、2つの学習、映画・講演会を企画致しました。参加をお待ちしています。
2017年3月3日(金)
時間/18:30~20:30
場所/和歌山市勤労者総合センター(ふくふくセンター)6階文化ホール
      和歌山市西汀丁34 TEL:073-433-1800
共謀罪”とは何か?・その狙いとは
講師 金原徹雄 氏(弁護士・憲法9条を守る和歌山弁護士の会 前事務局長)
2017年3月25日(土)
時間/14:00~16:30
場所/男女共生推進センターホール(和歌山市あいあいセンター内)
      和歌山市小人町29 TEL:073-432-4702
第1部 講演「沖縄で今、何が起きているのか」
     講師 大嶺克志 氏(自治労沖縄県本部書記長)
第2部 映画『高江―森が泣いている 2』(上映63分)
     藤本幸久・影山あさ子共同監督作品
(引用終わり)
 
(参考動画)
2016/12/17 映画『高江:森が泣いている2』初日トークイベント

※昨年12月17日のポレポレ東中野における公開初日トークイベント(藤本幸久監督、鎌田慧氏)の模様です。
 
【第2部 共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.2】
 今日の後半(第2部)は、共謀罪シリーズの第7回として、2月21日に続き、「共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介」のvol.2をお届けします。

(その1 ニュースの部)
東京新聞 2017年2月22日 朝刊
「共謀罪」拡大解釈の懸念 準備行為、条文に「その他」

(抜粋引用開始)
 共謀罪法案は、犯罪に合意しただけで罰するのは内心の処罰につながるといった批判を受け、過去三度も廃案になってきた。安倍晋三首相や金田勝年法相らは今回、新たな共謀罪法案について「準備行為があって初めて処罰の対象とする」と過去の法案よりも適用範囲を限定する方針を説明。一方でハイジャックテロや化学薬品テロでは、現行法の準備罪や予備罪よりも前段階での処罰が可能になるとして、テロ対策
での必要性を強調してきた。
 新たに明らかになった条文では「犯罪を行うことを計画をした者のいずれか」によって「計画に基づき
資金または物品の手配、関係場所の下見その他」の準備行為が行われた場合、処罰対象となる。ただ、準備行為はそれ自体が犯罪である必要がない。
 例えば、基地建設に反対する市民団体が工事車両を止めようと座り込みを決めた場合、捜査機関が裁量で組織的威力業務妨害が目的の組織的犯罪集団だと判断し、仲間への連絡が準備行為と認定される可能性
がある。
 また、政府への抗議活動をしている労組が「社長の譲歩が得られるまで徹夜も辞さない」と決めれば、組織的強要を目的とする組織的犯罪集団と認定され、誰か一人が弁当の買い出しに行けば、それが準備行
為とされる可能性がある。
 米国の共謀罪に詳しい小早川義則・名城大名誉教授(刑事訴訟法)は「米国では、顕示行為(準備行為)は非常に曖昧で、ほんのわずかな行為や状況証拠からの推認で共謀が立証される」と説明。「日本の法
体系と全くの異質のものを取り入れる必要性があるのか」と疑問を呈した。
 また、「その他」は無制限に解釈が広がる恐れがある。新屋(しんや)達之・福岡大教授(刑事法)は「何でも当てはめることができ、限定にはならない。結局、犯罪計画と関係ある準備行為かどうかは、捜
査側の判断になる」と述べた。
(引用終わり)
 
(その2 動画の部)
20170221 UPLAN 共謀罪を廃案にしよう!!安倍政治を終らせよう(1時間07分)

 2月21日(火)に行われた立憲フォーラムと戦争をさせない1000人委員会が主催する「安倍政治を終わらそう!2月21日集会」の模様です。
 この日のメイン講師は平岡秀夫さん(弁護士、元法務大臣、日本弁護士連合会共謀罪法案対策本部委員)、演題は「共謀罪と監視社会について考える」でした(動画の16分~1時間05分)。
 なお、平岡さんの講演後、1時間06分から山尾志桜里衆議院議員民進党)が、衆議院予算委委員会での審議状況について報告しています。ところで、山尾さんて、立憲フォーラムのメンバーだったんだろうか?(聞いたことなかったけど)。
 
(その3 声明の部)
MIC声明:「共謀罪」の国会提出に反対する
(引用開始)
                   
2017年2月24日
                   日本マスコミ文化情報労組会議
                   議長 小林 基秀
 国会で過去3度廃案になった「共謀罪」を「テロ等準備罪」と名称を変えた関連法案が、来月上旬に閣議
決定され、国会に提出されると報道されている。
 犯罪の実行行為がなくても相談をしただけで罪に問える「共謀罪」は、人々の思想・信条を処罰の対象
にするものであり、戦前の治安維持法にも通底する危険な法律だ。
 「共謀」(計画)を立証するために、電話や会議の盗聴や私信メールのチェックなどの捜査が将来的に導入されれば、プライバシーを著しく侵害する。民主主義社会の根幹である内心の自由表現の自由、集
会・結社の自由などの基本的人権を軽視する「共謀罪」は、日本国憲法の理念と相容れないと考える。
 政府は、対象となる犯罪の数を300未満に絞り込むとともに、テロを引き起こす可能性のある「組織的犯罪集団」のみを適用対象とすると説明し、さらに、計画だけでなく「準備行為」も要件にするとしている。しかし、組織的犯罪集団や準備行為の定義はあいまいなままだ。捜査当局の恣意的な判断により、政府に批判的な市民団体や労働組合などにも「テロ集団」のレッテルを貼り、摘発の対象にすることを私たち
は懸念する。
 古今東西、政府が、自らに批判的な勢力やメディアを恣意的な法の運用で弾圧した事例に枚挙にいとまがない。日常的な取材・報道活動や、労働組合の正当な活動まで犯罪とされかねないこの法案を、私たち
マスコミの現場で働く者は認めることはできない。
 これまでの国会審議をみても、法相が何度も答弁に窮して立ち往生し、実質的な議論がなされていない。これは政府が準備している法案が、体系立てて論理的に説明できないほど不備が多いことの表れではな
いか。その上、国会での質問封じの文書を配布するなど、拙劣な対応が非難の的となっている。
 民主主義社会にとって弊害が大きすぎる「共謀罪」関連法案の国会提出に、私たちは強く反対する。
                                     以 上
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
新聞労連民放労連出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)
この件に関する問い合わせは事務局・山下(070-5010-7156)までお願いします。

(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年1月25日
映画『いのちの森 高江』上映会@2/26和歌山市勤労者総合センターへのお誘い
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する

2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介

2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
 

(付録)
辺野古節』『満月の夕(ゆうべ)』『踊れ、踊らされる前に』 演奏:中川敬withリクオ
 
※2015年11月14日@新宿アルタ

共謀罪(金原)チラシ一からわかる共謀罪(表)一からわかる共謀罪(裏) 

日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 今晩(2017年2月23日)配信した「メルマガ金原No.2732」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 共謀罪シリーズの第6回として、去る2月17日に日本弁護士会連合会が公表した「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」をご紹介します。
 日弁連による同趣旨の意見書としては、2012年4月13日付「共謀罪の創設に反対する意見書」がありましたが、今通常国会に間もなく上程されるのではという緊迫した情勢の下、最新情勢を取り込むアップツーデートを行った新たな意見書を公表する必要があるという判断に基づくものでしょう。
 
 一読したところ、本意見書は、「テロ等組織犯罪準備罪」という新たな名称をまとった共謀罪法案が、①犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定、②「計画」の存在、③「準備行為」を処罰条件とするという3要件を規定しており、人権の侵害や恣意的な取締りにはつながらないという触れ込みに対して理論的な反駁を行うことに重点が置かれており、大いに参考にしていただけるのではないかと思います。
 
 なお、同じ2月17日、日本弁護士連合会は、「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」も公表しており、こちらの方も近くご紹介したいと思います。
 
(引用開始)
                          2017年(平成29年)2月17日
                          日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 当連合会は,いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する。
 
第2 意見の理由
1 共謀罪法案の国会への再提出

 政府は,2000年に署名され,2003年に発効した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「国連越境組織犯罪防止条約」という。)締結のために必要であるとして,2003年,2004年,2005年の3回にわたって共謀罪法案を国会に提出したが,いずれも廃案となった。
 ところが,2015年11月フランスでのテロ事件の発生を機に,政府関係者から,テロ対策のために共謀罪の創設が必要であるとの発言がなされるようになった。そして,2016年8月以降,政府が「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改めて取りまとめ,臨時国会に提出することを検討している旨報じられた。その後臨時国会への法案提出は見送られたものの,報道によれば,2017年1月に召集された通常国会共謀罪に関する新たな法案の提出が確実視されており,現時点において,法定刑が懲役4年以上である600を超える犯罪について共謀罪が新設されようとしている。
 当連合会は,共謀罪に関して,これまで,直近では,2012年4月13日付け「共謀罪の創設に反対する意見書」を提出しているが,以上の状況を踏まえ,当連合会の見解を改めて表明するために本意見書を取りまとめた。
 
2 共謀罪法案の概要
 これまでの報道及び本国会における審議を踏まえ,本国会に提出されることが想定される法案(以下「共謀罪法案」という。)は,現行の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(以下「組織的犯罪処罰法」という。)の第6条の2に「テロ等準備罪」を創設し,組織的犯罪集団の活動として,組織により行われる重大な犯罪の遂行を2名以上で計画した場合で,計画に係る犯罪の実行のための資金又は物品の取得等の準備行為が行われたときに処罰するとされている。
 そして,共謀罪法案は,3つの厳しい要件(①犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定,②「計画」の存在,③「準備行為」を処罰条件とする)を規定しており,人権の侵害や恣意的な取締りにはつながらず,これまでの批判は回避されているとしている。
 
3 共謀罪法案の基本的な問題点
(1)共謀罪法案は,現行刑法の体系を根底から変容させるものとなること

 現行刑法は,犯罪行為の結果発生に至った「既遂」の処罰を原則としつつ,例外的に,犯罪の実行行為には着手されたが結果発生に至らなかった「未遂」について処罰する(刑法第44条)という体系から構成されている。「未遂」の前段階である「予備」(犯罪の実行行為には至らない準備行為のこと),さらにその前段階である「陰謀」(2人以上の者が犯罪の実行を合意すること)が処罰の対象とされる場合もあるが,これら「予備」や「陰謀」は各罪の中でごく例外的に処罰対象とされているにとどまる。この点は,現行刑法典だけでも,「既遂」が200余り規定されているのに対して,「未遂」は60余り,「予備」は10余り,「陰謀」はわずか数罪にとどまることからも明らかである(なお,共謀罪法案の対象となる犯罪は刑法典に規定された犯罪に限定されるものではないが,刑法典が刑罰の基本法規であることから,ここでは,刑法典に規定されている犯罪類型を例に挙げて検討している。)。
 しかし,共謀罪法案の構成要件である「計画」は,現行刑法でみると「陰謀」とほぼ同義であると解されるので,共謀罪法案が成立すると,長期4年以上の刑が定められた犯罪については,「未遂」はおろか,「予備」にすら到っていない「陰謀」の段階で,犯罪が一律に成立することになる。現行刑法典でみると,長期4年以上の刑が定められた犯罪が100近くあることから,「陰謀」の段階において処罰の対象とされる犯罪が100近く出てくることになるが,これは「未遂」の60余りを優に超えている。しかも,これら100近くの犯罪の中には,その「未遂」が処罰されないものが約半数含まれており,「未遂」が処罰されないにもかかわらず,「陰謀」の段階で処罰されることとなる犯罪が約半数出てくることになる。
 このように,「計画」を要件とする共謀罪法案が成立した場合には,「既遂」の前々々段階において国家による刑罰権の発動がなされることとなる。しかし,「陰謀」の段階における法益侵害の危険性は,犯罪の実行に着手したが結果が発生しなかった「未遂」の場合に比すれば類型的にはるかに低く,それゆえに現行刑法上は「内乱」,「外患誘致・援助」,「私戦」等ごく限られた結果が極めて重大な犯罪についてのみ「陰謀」を処罰することとしているのであって,「陰謀」と同様の意味を有する「計画」について「未遂」の場合と同程度の(処罰の対象となる個数から言えば,それ以上の)刑罰権の発動が正当化されるとは考えられない。
(2)共謀罪法案においても,犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格は変わらないと見るべきこと
 上述のとおり,共謀罪法案は,前述のとおり3つの厳しい要件を規定しており,恣意的な取締りにはつながらないと説明されている。
 しかし,これらの構成要件ないし処罰条件は,犯罪の対象を限定する機能を適切に果たすことができないおそれがあり,共謀罪法案は,依然として,犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象とするものと評価されてもやむを得ないものである。以下,理由を述べる。
①「組織的犯罪集団」と規定しても犯罪主体が適切に限定されないこと
 共謀罪法案は,犯罪主体を「組織的犯罪集団」(団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が「重大な犯罪」(長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪)又は国連越境組織犯罪防止条約が定める犯罪を実行することにあるもの)と規定し,それらの行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者を処罰するとするものである。したがって,犯罪主体となり得るのは,テロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等に限定され,通常の市民団体や労働組合等の活動が処罰の対象となることはない,と説明されている。
 しかしながら,例えば,組織的犯罪処罰法は,「団体」について「共同の目的を有する多人数の継続的結合体であって,その目的又はその意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復継続して行われるもの」(同法第2条第1項)と規定する。また,暴力団員の行う暴力的要求行為等の規制を目的として制定された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」は,「暴力団」について,「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員も含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」(同法第2条第2号)と規定する。
 さらに,「破壊活動防止法」は,「団体」について,「特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体」とそれぞれ定義している(同法第4条第3項)。
 このように,主体を暴力団員等に限定したいのであれば,「組織的犯罪集団」の定義において,これらの法律に準じて,「常習性」,「反復継続性」等の要件が付加,明記されてしかるべきである。しかしながら,共謀罪法案の主体についてこのような要件の縛りはなく,主体がテロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等の構成員に限定されている趣旨を読み取ることはできない。
 また,「組織的犯罪集団」かどうかが問題となるのは,あくまで犯罪の共謀を行った時である。したがって,もともと適法な活動を目的とする市民団体や労働組合等がある時点で違法行為を計画した場合も,その時点で法の定義する「組織的犯罪集団」となったと解釈できる余地を残している。
 そして,共謀罪の適用が問題となるのは,団体が組織として犯罪行為実行することを共謀(共謀罪法案では「計画」)した時点であるから,もともと適法な活動を目的とする団体であったとしても,共謀の時点では「組織的犯罪集団」と認定され,共謀罪の対象とされる危険性が十分ある。現に,最高裁平成27年9月15日決定は,組織的犯罪処罰法に定める「団体」について,当初は適法な活動を行っていた会社であっても,その後の活動によっては要件を充足することを認め,さらに,当該会社の従業員の中に犯罪行為に加担していないものがいたからといって別異に解する理由はないとしている。
 このように,「組織的犯罪集団」を「共同の目的が犯罪を実行することにある団体」と定義しても,テロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等に限定される保証はなく,通常の市民団体や労働組合が処罰の対象とされる可能性があり,主体の限定は政府が言うように有効に機能するとは期待できない。
②「計画」の要件が存在しても犯罪の成立が適切に限定されないこと
 共謀罪法案は,「計画」という要件により,処罰の対象となるのは,犯罪の実行を目的とする合意が具体的・現実的になった段階に限定され,そのような段階に達成していない合意は処罰の対象とされないものとされている。
 しかし,「計画」とは,目的を達成するためにあらかじめ考えた方法・手段・手順等をさす用語とされているが,実質的には合意を言い換えたものであり,この文言だけからは,合意の具体性・現実性までが要求される趣旨は読み取れず,犯罪の成否を分かつ分水嶺として機能するとは思われない。
③「準備行為」の要件は適切に機能しないこと
 共謀罪法案は,計画(合意)のみならず,当該犯罪の実行の「準備行為」がなされることを処罰条件として付加されており,内心や思想を処罰するものではない,とされている。
 しかしながら,今回,「準備行為」の例として,資金又は物品の取得が例示されていることから分かるように,準備行為自体は,予備罪や準備罪における予備行為又は準備行為のように,その行為自体が結果発生の危険性を帯びる行為とはされておらず,計画に基づく行為(その行為は,我々が日常生活において通常行っている行為でも構わない。)が外部に現れれば,処罰条件は具備されたことになると理解される。
 また,「準備行為」は処罰条件に過ぎないため,「計画」の時点から犯罪の嫌疑がありとして犯罪捜査の対象となり得る。
 そうすると,「準備行為」がなされたことを処罰条件とするとしても,共謀罪法案は,依然として,犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象としていることと実質的には変わらないと言わざるを得ない。
④構成要件の人権保障機能が阻害されるおそれがあること
 現行刑法は,法律において構成要件を明記し,構成要件に該当しない行為については処罰の対象とせず国家の刑罰権の発動を抑制することによって,構成要件に人権保障機能を持たせている。現行刑法体系における構成要件は,外部に現れた人の「行為」のうち,法益侵害又はその危険性のあるものを個別・具体的に抽出して規定し,処罰の対象となる行為とそうでない行為が明確に区分されることから,構成要件は人権保障機能を果たしているとされる。ところが,共謀罪法案が成立すれば,「犯罪を実行する意思」の合致にほかならない「計画」が構成要件となり,しかも,これは外部から伺い知ることは困難であるから,犯罪の成否を区別するための構成要件の人権保障機能が十分に機能しないこととなりかねない。
⑤まとめ
 以上のとおりであって,共謀罪法案において3つの要件が付加されたとしても,従前の共謀罪法案と同じく,犯罪を実行しようとする意思を処罰の対象とする姿勢に変化はないものと見るべきである。
(3)罪名を「テロ等準備罪」と改めても,監視社会を招くおそれがあること
 共謀罪法案は,その呼称が「テロ等準備罪」とされていることから(さらに,上記(2)に記載の要件を付加することによって),この罪がテロその他の組織犯罪にしか適用されず,市民運動労働組合活動等には適用されない,と説明されている。
 しかし,共謀罪法案の構成要件は上述のとおりであるところ,この構成要件から,共謀罪法案がテロ等に対してのみ適用される犯罪類型であることは読み取れない。
 加えて,共謀罪法案が成立すれば,犯罪を共同して実行する意思の合致である「計画」が重要な構成要件となるところ,人と人とが犯罪を遂行する合意をしたかどうかや,その合意の内容が実際に犯罪に向けられたものか否かの判断は,犯罪の実行が着手されていない段階では,事柄の性質からして極めて困難である。したがって,犯罪の成否を明確にし,人権保障を担っている構成要件が機能せず,検挙しようとする捜査機関の恣意的な判断を容れる余地が出てくる。
 また,「計画」(合意)は人と人との意思の合致によって成立する。したがって,その捜査手法は,会話,電話,メール等の人の意思を表明する手段及び人の位置情報等を収集することとなる。既に通信傍受やGPS(グローバル・ポジショニング・システム)による捜査が行われているところ,共謀罪の捜査のためとして,新たな立法により,更なる通信傍受の範囲の拡大,会話傍受,更には行政盗聴まで認めるべきであるとの議論につながるおそれがある。このような捜査手法が認められたなら,市民団体や労働組合等の活動を警察が日常的に監視し,行き過ぎた行動に対して,共謀罪であるとして立件するおそれもあり,市民の人権に少なからぬ影響を及ぼしかねない。
 
4 国連越境組織犯罪防止条約との関係
(1)
政府は,共謀罪法案を制定する理由として,国連越境組織犯罪防止条約を締結するために国内法の整備が必要であることを挙げている。国連越境組織犯罪防止条約では,締結国に対して,重大な犯罪を行うことの合意の犯罪化等を求めているところ(第5条第1項),重大な犯罪とは,長期4年以上の刑が科される犯罪とされていることから(第2条(b)),長期4年以上の刑が定められた犯罪を実行する計画を立案したことを処罰の対象とする共謀罪法案の創設が不可欠としている。
 もとより当連合会においても,国連越境組織犯罪防止条約の締結について反対するものではないが,我が国においては国連越境組織犯罪防止条約との関係でも当然に共謀罪の創設を必要とするものではない。以下,その理由を述べる。
(2)「予備」,「陰謀」,「準備」の段階の処罰立法が既になされていること
 我が国においては,主要な暴力犯罪について,「未遂」以前の「予備」,「陰謀」,「準備」段階の行為を処罰の対象とする規定が相当程度存在している。
 まず,生命・身体・財産等を保護法益とするものとしては,殺人(刑法第201条,組織的犯罪処罰法第6条第1項),強盗(刑法第237条),身の代金目的略取(刑法第228条の3),営利目的等略取及び誘拐(組織的犯罪処罰法第6条第2項),いわゆるハイジャック(航空機の強取等の処罰に関する法律第3条)等について,「予備」の段階を処罰の対象とし,治安を妨げ,身体財産を害することを目的としての爆発物の使用(爆発物取締罰則第4条),他人の身体に対して害を加えることの「共謀」への参加(ただし,その一部の者が予備行為をした場合に限る。)(軽犯罪法第1条第29号)等について,処罰の対象とされている。
 次に,公共の安全を保護法益とするものとしては,現住建造物等放火(刑法第113条),激発物破裂(同法第117条),化学兵器を使用して毒性物質を発散させる化学兵器等使用(化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律第40条),病原体等を発散させて公共の危険を生じさせる行為(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第67条第3項),サリン等を発散させて公共の危険を生じさせる行為(サリン等による人身被害の防止に関する法律第5条第3項),放射線を発散させる行為(放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第3条第3項),けん銃等の輸入罪(銃砲刀剣類所持等取締法第31条の12),核物質の輸入罪(放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第6条第3項),麻薬等,覚せい剤大麻の輸入・輸出等(麻薬及び向精神薬取締法第67条,第69条の2,覚せい剤取締法第41条の6,大麻取締法第24条の4),犯罪収益等に関する事実の仮装,隠匿(組織的犯罪処罰法第10条第3項)等について,「予備」の段階を処罰の対象としている。さらに,2人以上の者が他人の生命等に対して共同して害を加える目的で凶器を準備して集合する行為等(刑法第208条の2)について,「準備」の段階を処罰の対象としている。また,公衆等脅迫目的の犯罪を実行しようとする者が武器を購入するために資金を集める行為,これらの者を援助する目的で資金,土地,建物,物品,役務を提供する行為が処罰の対象とされているが(公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律第2条から第5条),これは公衆等脅迫行為の「準備」と言えるものである。
 さらに,国家を保護法益とするものとしては,内乱(同法第78条),外患誘致,外患援助(同法第88条),私戦予備及び陰謀(同法第93条)等について,「予備」,「陰謀」の段階で,処罰の対象とされている。自衛隊員(治安出動命令を受け,防衛出動命令を受けた者を含む。)が上官の職務命令に対して多数共同して反抗等する行為(自衛隊法第119条,同法第120条,第122条),特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らす行為,法令の規定により特定秘密の提供を受けた者がこれを漏らす行為(特定秘密の保護に関する法律第25条)等について,「陰謀」の段階を処罰の対象としている。
 以上のとおり,我が国には,「予備」,「陰謀」,「準備」の段階を処罰の対象とする立法が既になされており,「陰謀」段階を処罰する新たな立法をする必要性は乏しい。
(3)テロ対策のための立法がなされてきたこと
 国連は,国連越境組織犯罪防止条約とテロ関係の条約を明確に区別した上で,テロ対策のための条約を多数制定している。例えば,ハイジャック防止のためのハーグ条約(1970年),核物質防護条約(1980年),シージャック防止条約(1988年),プラスチック爆薬探知条約(1991年)等のテロ防止関連13条約がそれである。
 また,2002年には,国連テロ資金供与防止条約が締結され,我が国では,(2)記載のとおり,国内法としてテロ資金提供処罰法(公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律)が制定された。この法律は,公衆等脅迫目的の犯罪を実行しようとする者を援助する目的で資金等を提供する行為である「準備」行為についても,処罰の対象とし,処罰対象者の範囲も,実行者に直接利益を提供する協力者だけでなく,間接的に支援する協力者にまで拡大している。
 2007年には,(2)記載のとおり,放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律が成立し,この法律においても,放射線を発散させる行為について「予備」を処罰することとされている。
(4)条約の一部留保を行う余地があること
 政府は,国連越境組織犯罪防止条約第5条が,「重大な犯罪」を共謀罪の対象犯罪とすることを義務付けていることから,共謀罪の対象犯罪を限定することはできず,限定すれば同条約に反するとともにその趣旨及び目的に反すると説明している。
 しかし,条約法に関するウィーン条約では,条約の趣旨及び目的と両立すれば,留保を付して条約を批准することができることとされており(第19条(C)),国連越境組織犯罪防止条約第5条については一部留保してもこの条約の趣旨及び目的と両立させることができ,したがって,一部留保してこの条約を締結することが可能と考えられる。以下理由を述べる。
 外務省の説明によれば,国際社会における法の抜け穴をなくし,国際的な組織犯罪の防止のための国際協力を促進することを通じて,深刻化する国際的な組織犯罪に対する国際的な取組の強化に寄与することができることから,早期に国連越境組織犯罪防止条約を締結することが我が国の責務である,としている。
 まず,上述において述べたとおり,テロ等対策のための主要な犯罪については,「未遂」の前段階を処罰する立法が既に存在しており,また,「予備」罪についても共謀共同正犯が認められ,予備行為の謀議に加わった者も処罰の対象とできることとされていることを踏まえれば,新たな立法をすることなく,国連越境組織犯罪防止条約を締結しても同条約の趣旨及び目的に反しないものと考えられる。
 また,従前の共謀罪審議において,当時の民主党が長期5年の刑期を超える犯罪を対象とした修正案を当時の自民党が受け入れる方針を明らかにしたことがあったことに加え,今般も,与党から「重大な犯罪」に該当する罪であっても,性質上対象になり得ない罪(過失犯等)や組織犯罪と関連性が低い罪(公職選挙法等)が除外されることが議論されていることからして,政府の条約解釈においても,条約上の「重大な犯罪」を全て共謀罪として立法する必要がないことが裏付けられている。そして,後述するように,個別にテロ等対策のための犯罪化が必要かどうかを検討した上で,どうしても必要なものに限り立法化を図るということによっても,国連越境組織犯罪防止条約の要求を満たすとして同条約を締結する,あるいは少なくとも同条約の趣旨及び目的と両立する範囲内で同条約を一部留保して締結することが可能なはずである。
 さらに,国連越境組織犯罪防止条約を締結するために,新たに共謀罪を設けたのは,外務省によれば,ノルウェーブルガリアの2か国にとどまっている。そのノルウェーブルガリアを含め,これまで共謀罪を設けて国連越境組織犯罪防止条約を締結した国・地域の全てが,「重大な犯罪」に該当する罪の全てについて共謀罪を制定していたのかについては不明のままである。
 また,上述のとおり,我が国においては,「予備」,「陰謀」,「準備」の段階を処罰の対象とする立法が既になされており,もしその水準では国連越境組織犯罪防止条約を締結できないというのであれば,これまで同条約を締結するために共謀罪を制定した国・地域の全てにおいて,我が国の水準以上に共謀罪が存在していることが明らかにされなければならないが,現時点でその説明がなされていないままである。
 したがって,国連越境組織犯罪防止条約の締結のためには,「重大な犯罪」全てについて共謀罪の新設が必要とする政府の主張は厳密に裏付けられておらず,むしろ,同条約を締結した国・地域が,この条約が要求する全ての犯罪について処罰できるように国内法を整備したか否かは明確ではなく,実質的に見て一部留保して締結した国・地域も少なくないと思われる。
 なお,人種差別撤廃条約を批准する際に,人種差別に関わる扇動や団体への参加を処罰すべきとする同条約第4条について,「日本国憲法の下における集会,結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において,これらの規定に基づく義務を履行する」と留保を付した例も存する。
 以上のとおり,国連越境組織犯罪防止条約についても,同条約の趣旨及び目的との両立を維持しながら,同条約第5条を部分的に留保することにより,同条約を締結することは可能である。
(5)テロ等対策の必要性があれば,個別・具体的な立法で対応すべきであること
 仮に我が国におけるテロ等対策について,上記(2)及び(3)で挙げた現行の立法では不十分である場合であっても,「未遂」の前段階の「予備」の段階で処罰する必要性のある犯罪行為,さらにその前の「陰謀」の段階,あるいは「準備」の段階での処罰が必要とされる犯罪行為をそれぞれ抽出した上で,処罰の対象行為を特定し,個別・具体的に立法を検討することが可能である(その立法の過程において,立法の必要性,構成要件の明確性等について,審議される。)。もとより,この場合であっても,現行刑法の体系を大きく損なうことがないよう,「未遂」の処罰規定がない犯罪について,共謀罪を創設すべきではないし,共謀罪が処罰される犯罪の個数は,「未遂」が処罰される犯罪の個数を大幅に下回る必要があるであろう。共謀罪法案のように,長期4年以上の刑が定められた犯罪について,一律に,犯罪とする必要性はない。
 
5 結論
 以上述べたとおり,テロ対策自体についても既に十分国内法上の手当はなされており,テロ対策のために政府・与党が検討・提案していたような広範な共謀罪の新設が必要なわけではない。また,国内法の整備状況を踏まえると,共謀罪法案を立法することなく,国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能である。
 もし,テロ対策や組織犯罪対策のために新たな立法が必要であるとしても,政府は個別の立法事実を明らかにした上で,個別に,未遂以前の行為の処罰をすることが必要なのか,それが国民の権利自由を侵害するおそれがないかという点を踏まえて,それに対応する個別立法の可否を検討すべきであり,個別の立法事実を一切問わずに,法定刑で一律に多数の共謀罪を新設する共謀罪法案を立法すべきではない。
 よって,当連合会は,いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する。
(引用終わり)
 
 

(付録)
辺野古節』『満月の夕(ゆうべ)』『踊れ、踊らされる前に』 演奏:中川敬withリクオ
 
※2015年11月14日@新宿アルタ

国連「平和への権利宣言」(2016年12月19日総会にて採択)を読む

 今晩(2017年2月22日)配信した「メルマガ金原No.2731」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
国連「平和への権利宣言」(2016年12月19日総会にて採択)を読む

 日本国憲法前文は4つの段落で構成されていますが、そのうちの第2段落は、「恒久の平和を念願」するとともに、「全世界の国民が」「平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と宣言しています。
 
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 
 日本国憲法施行の翌年(1948年)、第3回国際連合総会は、「世界人権宣言」を採択し、世界人権法発展の画期をなしましたが、そこに「平和のうちに生存する権利」を認めた明確な規定はありませんでした。
 「世界人権宣言」は、その後、1966年の第21回国連総会で、2つの国際人権規約(いわゆる社会権規約自由権規約)として採択され、締約国に法的義務が課されるとになりましたが、「平和のうちに生存する権利」あるいは「平和への権利」が保障されることはなく、その実現は、2016年12月19日、「平和への権利宣言」(Declaration on the Right to Peace)が国連総会全体会合で採択されるのを待たねばなりませんでした。
 
 昨年12月の国連総会での採択に際しては、賛否が分かれ、賛成多数での採択となりました。2月19日付の東京新聞が報じたところによると、主な賛成国、反対国、棄権国は以下のとおりだったとのことです。
 
賛成(131カ国) 
 中国、ロシア、インド、ブラジル、キューバインドネシア北朝鮮、シリアなど
反対(34カ国)
 米国、英国、フランス、ドイツ、日本、カナダ、スペイン、韓国など
棄権(19カ国)
 イタリア、トルコ、ポルトガルなど
 
 東京新聞の記事の一部を引用します。
 
東京新聞 2017年2月19日 朝刊
「平和に生きる権利」日本、採決反対 戦争を「人権侵害」と反対する根拠 国連総会で宣言

(抜粋引用開始)
 
平和に生きる権利をすべての人に認める「平和への権利宣言」が国連総会で採択された。国家が関与する戦争や紛争に、個人が「人権侵害」と反対できる根拠となる宣言。日本の非政府組織(NGO)も深く関与し、日本国憲法の理念も反映された。NGOは宣言を具体化する国際条約をつくるよう各国に働きかけていく。(清水俊介)
 日本のNGO「平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会」によると、きっかけは二〇〇三年のイラク戦争。多くの市民が巻き込まれたことをスペインのNGOが疑問視し「平和に対する人権規定があれば戦争を止められたのでは」と動き始めた。賛同が広がり、NGOも出席できる国連人権理事会での議論を経て、昨年十二月の国連総会で宣言を採択した。
(略)
 立案段階で日本実行委は「全世界の国民が、平和のうちに生存する権利を有する」との日本国憲法前文を伝え、宣言に生かされる形に。憲法施行七十年となる今年、各国のNGOとともに、国際条約をつくって批准するよう働き掛けを強めていきたい考え。
 ただ、国連総会では、米英などイラク戦争の有志連合の多くが反対。日本も反対に回った。日本外務省人権人道課の担当者は「理念は賛成だが、各国で意見が一致しておらず議論が熟していない」と説明する。
(引用終わり)
 
 東京新聞も伝えるとおり、このたびの国連総会における「平和への権利宣言」の採択に至る道のりでは、世界各国のNGOが主導的な役割を演じ、我が国においても、「平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会」が中心となって活発な活動を行ってきました。今後は、さらに「宣言から条約へ」を目指していくとのことです。
 
 私としては、「平和への権利宣言」の採択に勇気付けられる一方、欧米諸国の「反対」の真の理由が知りたいという気持ちもぬぐえません。日本が「反対」した理由?別に外務省に教えてもらわなくても、「反対」している諸国を見れば推測はつこうというものです。

 「平和への権利宣言」に対してどのような評価をするにしても、この宣言の採択に至った経緯を知り、さらに何よりも「宣言」そのものを熟読するのが前提であることはいうまでもありません。
 そのように考え、「平和への権利宣言」を日本語で読めるサイトを探したのですが、やはり「平和への権利国際キャンペーン」ホームページに載っている(仮訳)しかないようです。
 そこで、同キャンペーン・日本実行委員会事務局長の笹本潤弁護士のご了解をいただき、同キャンペーン・ホームページの中の「平和への権利とは」というコーナーに掲載された経過と(仮訳)のほぼ全文を転載させていただくことにしました。
 私も、じっくりと読み、「平和への権利」について考えをめぐらしたいと思います。
 皆さまも是非ご一読ください。
 
平和への権利国際キャンペーン 平和への権利とは
(引用開始)
平和への権利のあゆみ
はじまりは、戦争で“生きること”を奪われた人々を守りたい想い
スペイン市民から成る団体(スペイン国際人権法協会)が、2005年、ひとつの権利を国際人権として認めてもらうために運動を始めました。この権利こそが平和への権利です。
2003年からイラク戦争国連の承認を得ぬまま始められました。
“もしこのときに、世界に「平和への権利」があれば、戦争を止め、“生きること”で苦しむ人々を救えるのではないか“
 
市民一人ひとりが導いた平和への権利
スペインからはじまった平和のための一滴は、世界中のNGOを巻き込み大きな波へと成長を遂げます。
世界各地で国際NGO会議を開き、専門家や市民の声を集め世界の市民による平和への声として宣言を出しました。
2006年スペインでは、「ルアルカ宣言」の採択を機に、「ビルバオ宣言」、「バルセロナ宣言」の採択へと継きました。そして、アジア、アフリカ、南北アメリカでも市民一人ひとりがNGOとして30回以上の議論を経て、2010年12月には、世界900ものNGOが集結し、多くの専門家や各NGOの平和への考えを人権として反映させた「サンティアゴ宣言」が採択されました。
 
平和を人権として謳うサンティアゴ宣言
サンティアゴ宣言は、「平和」の意味の多義性を人権という視点から実現させようとしています。
それは、戦争や軍事的行動の否定だけでなく、貧困などの構造的暴力や差別や偏見を生みだす文化的暴力の否定も含まれています。
 
 
市民から国連へ「平和への権利」のお届け物
NGOによってつくられた「サンティアゴ宣言」が2011年に正式に国連に提出されたことにより、平和への権利は、議論の場を国連に移しました。平和への権利を国連人権理事会で国際宣言として採択するため、サンティアゴ宣言は国連の諮問委員会草案として「国連宣言案を検討するための作業部会」で、2013年から2015年にかけてNGOと政府によって議論がなされました。
 
平和への権利宣言の誕生へ
2016年7月1日、平和への権利宣言がキューバ政府の提案により、国連人権理事会32会期で正式に採択され、国連総会に提出されました、これには、世界中のNGOが驚かされました。そして遂に同年12月、国連総会31会期において平和への権利は国際宣言として採択されました。
 
これからの平和への権利宣言――あなたにできること
平和への権利は、国際宣言として採択されましたが、一人ひとりの平和を権利として保障するためにはここからが正念場です。国際宣言が国際条約として各国に批准され、平和が人権として市民の手に戻ってくるためにも、あなたの協力が必要です。平和への権利がより良い人権として、平和のうちに生きることを私たち自身の手で実現していきましょう。署名にご協力を宜しくお願いします。

   
平和への権利宣言(仮訳)

国連総会は、

国連憲章の目的及び原則に導かれ、

世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、ウィーン宣言及び行動計画を想起し、

また、発展の権利に関する宣言、持続可能な開発目標を含む国連ミレニアム宣言、2005年世界サミット成果文書をも想起し、

さらに、平和的生存のための社会の準備に関する宣言、平和に対する人民の権利宣言及び平和の文化に関する宣言と行動計画、かつ、この宣言に関連する他の国際文書を想起し、

植民地独立付与宣言を想起し、

諸国家は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならないという原則、諸国家は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならないという原則、国連憲章に従って、いずれかの国の国内管轄権内にある事項にも干渉しない義務、国連憲章に従って、協力し合う諸国家の義務、人民の同権及び自決の原則、諸国家の主権平等の原則及び諸国家は、国連憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならないという原則を、国連憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言が、厳粛に宣言したことを想起し、

その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、又は、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎み、かつ、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決するための、国連憲章に掲げられているすべての加盟国の義務を再確認し、

平和の文化の十分な発展は、外国の支配又は占領という植民地的あるいは他の形態のもとで生きる人々を含む、国連憲章に掲げられ、かつ、国際人権規約、並びに、1960年12月14日国際連合総会決議1514(XV)に盛り込まれている「植民地及びその人民の独立を認める宣言」に具体化されている自己決定に対するすべての人民の権利の実現と一体的に結びついていること(integrally linked)を確認し、

1970年10月24日国際連合総会決議2625(XXV)に具体化されている「国際連合憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言」に規定されているように、国又は領域の国民的統一及び領土保全の部分的又は全体的破壊に対して、又はその政治的独立に対して行われるいかなる試みも、国際連合憲章の目的及び原則に矛盾することを確信して、

平和的手段による紛争又は争議の解決の重要性を認め、

テロリズムの行為、方法及び実行が、国際連合の目的及び原則の重大な侵害を引き起こすものであり、かつ、国際の平和及び安全に対して脅威となり、諸国の友好関係を害し、諸国の領土保全及び安全を脅かし、国際協力を妨げ、人権、基本的自由及び社会の民主的基盤の破壊を目的とするものであることを認め、国際テロリズムに関する廃絶措置宣言を想起し、テロリズムのいかなる行為も、行われたとき及び行った者のいかんを問わず、犯罪であり、かつ、正当化することのできないものであることを再確認し、

テロリズムとの闘いにおけるあらゆる方途は、国連憲章に掲げられているものと同様に、国際人権法、難民法及び国際人道法を含む、国際法のもとでの義務に従わなければならないことを強調し、

テロリズムにかかわる国際条約の当事国となっていないすべての諸国に、当事国になることを優先事項として考慮することを要請し、

万人のための人権促進と保護及び法の支配は、テロリズムとの闘いに必要不可欠であることを再確認し、効果的なテロ対策措置と人権の保護は矛盾する目標ではなく、補完及び相互補強であることを認め、

戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権に関する信念をあらためて確認し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準とを促進し、かつ、寛容を実行し、また、善良な隣人として互いに平和に生活するため国連憲章前文に掲げられているとおり連合国の人民の決定を再確認し、

平和と安全、開発と人権は、国連システムの柱であり、集団的安全と福祉のための基盤であることを想起し、開発、平和及び安全、人権は関連しあうものであり、相互に補強するものであること認め、

平和とは、紛争のない状態だけでなく、対話が奨励され紛争が相互理解及び相互協力の精神で解決される、また、社会経済的発展が確保される積極的で動的な参加型プロセスを追求するものであることを認め、

人類社会すべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であることを想起し、平和が人間の固有の尊厳に由来する不可譲の権利の完全な享受により促進されることを認め、

すべての人は、世界人権宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有することをも想起し、

さらに、貧困を根絶し、万人のための持続的経済成長、持続可能な開発及び世界の繁栄を促進する世界的な取り組み、かつ、各国内及び各国間の不平等を是正する必要性を想起し、

国連憲章の目的及び原則に従った武力紛争予防、かつ、世界中の人民が直面する相互連関的な安全及び開発課題に効果的に対処する手段として武力紛争予防の文化を促進する取り組みの重要性を想起し、

国の十分かつ完全な開発、世界の福祉及び平和の目的は、あらゆる分野における男性と対等な条件での最大限の女性参加を追求することをも想起し、

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならないことを再確認し、平和的な手段による争議や紛争を解決する重要性を想起し、

人権及び宗教と信念の多様性の尊重を基礎とし、あらゆるレベルで寛容及び平和の文化を促進する世界対話を発展させる国際的な努力を強化する必要性を想起し、

紛争後の状況における国家オーナーシップ原則を基礎とした開発援助及び能力強化は、携わるすべての者を含む社会復帰、社会再統合及び和解の過程を通じて平和を回復すべきであることをも想起し、かつ、平和及び安全の地球的規模の追求のために国際連合の平和創造、平和維持及び平和構築活動の重要性を認め、

さらに、平和の文化及び正義、自由、平和のための人類の教育とは、人間の尊厳に欠くことのできないものであり、かつ、すべての国民が相互の援助及び相互の関心の精神を持って果たされなければならない義務であることを想起し、

平和の文化は、平和の文化に関する宣言で確認されるように、価値観、考え、行動の伝統及び様式、かつ、生き方から成る一連のものであり、このすべてのことは、平和への寄与を可能にする国内的及び国際的環境によって育まれるべきであることを再確認し、

平和及び安全の促進に貢献する価値観として緩和及び寛容の重要性を認め、

市民社会組織が、強化された平和の文化をもたらし得ることと同様に、平和構築及び平和維持をもたらし得るという重要な貢献を認め、

諸国家、国際連合及び他の関連ある国際機構が、平和の文化を強化し、かつ、訓練、指導、教育を通じて人権意識を保つことを目的としたプログラムへの資源を分配するための必要性を強調し、

さらに、平和の文化の促進に対する人権教育・研修に関する国際宣言の貢献の重要性も強調し、

相互の信頼と理解を根底にして、文化の多様性、寛容、対話、協力を重んじることが世界の平和と安全を保証する最善策のひとつであることを想起し、

平和を可能にし、平和の文化に貢献する美徳と同様に、寛容とは、我々の世界的文化、表現形態及び人間の在り方の豊かな多様性の尊重、受容及び理解であることを想起し、

さらに、法の支配を基礎とした社会全体及び民主的枠組みのなかでの発展における不可分なものとして、民族的または種族的、宗教的及び言語少数者に属する人々の権利の継続的な促進及び実現は、人民及び諸国家間の友好、協調、平和を強化することに対する貢献であろうことを想起し、

国家、地域及び国際レベルで戦略、計画、政策及び特別な積極的措置を含む適切な立法を立案し、促進し、実施し、平等な社会発展を進め、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連ある不寛容の犠牲者すべての市民、政治、経済、社会、文化的権利を実現することを想起し、

人種主義、人種差別、外国人排斥及び関連ある不寛容は、それが人種主義及び人種差別に等しい場合、人民と諸国の間の友好で平和な関係の障害となり、武力紛争を含む多くの国内紛争や国際紛争の根因となることを認め、

平和を推進する手段として、全人類、世界の人民及び諸国の間の寛容、対話、協力及び連帯を実践することが非常に重要であると認めることにより、自らをこれらの活動へと導くよう、そのためにも、現在及び将来の世代の双方が、将来の世代を戦争の惨害から免かれるという最高の願望で、平和のうちに共に生きることを学ぶことを現在の世代が確保すべきであり、関係者らに厳粛に招請し、

以下のとおり宣言する。
 
Article 1
Everyone has the right to enjoy peace such that all human rights are promoted and protected and development is fully realized.

第1条
すべての人は、すべての人権が促進及び保障され、並びに、発展が十分に実現されるような平和を享受する権利を有する。
 
Article 2
States should respect, implement and promote equality and non-discrimination, justice and the rule of law and guarantee freedom from fear and want as a means to build peace within and between societies.

第2条
国家は、平等及び無差別、正義及び法の支配を尊重、実施及び促進し、社会内及び社会間の平和を構築する手段として、恐怖と欠乏からの自由を保障すべきである。
 
Article 3
States, the United Nations and specialized agencies should take appropriate sustainable measures to implement the present Declaration, in particular the United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization. International, regional, national and local organizations and civil society are encouraged to support and assist in the implementation of the present Declaration.

第3条
国家、国際連合及び専門機関、特に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、この宣言を実施するために適切で持続可能な手段を取るべきである。国際機関、地域機関、国家機関、地方機関及び市民社会は、この宣言の実施において支援し、援助することを奨励される。
 
Article 4
International and national institutions of education for peace shall be promoted in order to strengthen among all human beings the spirit of tolerance, dialogue, cooperation and solidarity. To this end, the University for Peace should contribute to the great universal task of educating for peace by engaging in teaching, research, post-graduate training and dissemination of knowledge.

第4条
平和のための教育の国際及び国家機関は、寛容、対話、協力及び連帯の精神をすべての人間の間で強化するために促進されるものである。このため平和大学は、教育、研究、卒後研修及び知識の普及に取り組むことにより、平和のために教育するという重大で普遍的な任務に貢献すべきである。
 
Article 5
Nothing in the present Declaration shall be construed as being contrary to the purposes and principles of the United Nations. The provisions included in the present Declaration are to be understood in line with the Charter of the United Nations, the Universal Declaration of Human Rights and relevant international and regional instruments ratified by States.

第5条
この宣言のいかなる内容も国連の目的及び原則に反すると解釈してはならないものとする。この宣言の諸規定は、国連憲章、世界人権宣言及び諸国によって批准される関係する国際及び地域文書に沿って理解される。

​​(翻訳:本庄未佳)
(引用終わり)

共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介

 今晩(2017年2月21日)配信した「メルマガ金原No.2730」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介

 学習会の講師を頼まれたのを機に始めた共謀罪シリーズも、第4回までは順調に(?)来たものの、和歌山での企画案内や森友学園スキャンダルなど、他の記事の配信に忙しく、気がつけば、3月3日の学習会まであと10日となり、さすがに焦ってきました。
 レジュメについては、主催者が配布してくれることになっている『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』の中の、特に海渡雄一弁護士が書かれた「共謀罪って何?自由を奪う監視社会の到来」をレジュメ代わりにしようと開き直っているので、まあいいのですが、何が困るといって、肝心の法案が、閣議決定されるまでは、インターネットで閲覧できるようにならないことです。
 2年前の「安保法案」の時も、2015年5月14日の法案閣議決定までは、批判する対象が確定しないのですから、非常に困ったものでした。
 けれども、学習会の準備をするために、「早く閣議決定してくれ」と言う訳にもいきませんしね(法案
の国会上程絶対阻止!と主張しているのですから)。
 ということで、一体どんなことになるやら講師自身が一番不安ですが、3月3日の学習会の概要を再掲しておきます。
 
学習会「共謀罪とは何か?その狙いとは」
講師 金原徹雄(弁護士)
日時 2017年3月3日(金)午後6時30分~
場所 和歌山市勤労者総合センター6階文化ホール
主催 和歌山県平和フォーラム、戦争をさせない和歌山委員会
入場無料 参加者には『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価200円)を配布予定
 
 なにしろ、条文の本体が一般市民の前には姿をあらわさないので、報道機関の伝えるところに目配せしておくしかないでしょうか。
 最新のニュースにこういうものがありました。
 
時事ドットコム(2017/02/21-20:50)
資金手配や下見、条文で例示へ=「共謀罪」の準備行為-法務省

(引用開始)
 法務省は21日、「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の条文に、処罰の前提となる準備行為の具体例を盛り込む方針を固めた。「資金や物品の手配」「関係場所の
下見」などと例示する方向で、3月上旬にも国会に提出することを目指す。
 同省はまた、テロ等準備罪の法定刑について、殺人など「懲役・禁錮10年超の罪」を未然に検挙した場合は「同5年以下」、大麻密輸など「懲役・禁錮4年以上10年以下の罪」の場合には「同2年以下」
とそれぞれ設定する方針も固めた。
 計画段階での処罰を可能にする同法案をめぐっては、「犯罪のことを話題にしただけで罰せられるのではないか」との懸念が出ていた。同省は、具体的な準備行為を伴った場合に限って処罰対象とする方針を
示してきたが、不安解消に向け、条文でも例示する必要があると判断した。
(引用終わり)
 
 ただ、こういうニュースに接しても、条文自体を読んでみないことには、適切な評価をくだすことは不可能ですね。まあ、「例示」というからには、必ず「等」というマジックワードがもらさず付いてくるのだろうなあ、ということ位は想像がつきますが。
 
 あと、2月16日に行われた共謀罪を考える超党派の議員と市民の勉強会(第2回)「私は共謀罪の国会提出に反対です」の動画(NPJとUPLAN)をご紹介しておきます。共謀罪そのものの問題点については、特に立命館大学松宮孝明教授のスピーチに耳を傾けていただければと思います。
 
NPJ 「私は共謀罪の国会提出に反対です」(1時間37分)

司会:福島みずほ参議院議員社民党
発言(発言順)
冒頭~ 佐々木隆博衆議院議員民進党
1分~ 真山勇一参議院議員民進党
3分~ 逢坂誠二衆議院議員民進党
8分~ 小宮山泰子衆議院議員民進党
9分~ 藤野保史衆議院議員共産党)    
10分~ 泉 健太衆議院議員民進党
12分~ 初鹿明博衆議院議員民進党
13分~ 郡 和子衆議院議員民進党
15分~ 鎌田 慧氏(ルポライター)
22分~ 糸数慶子参議院議員沖縄の風
24分~ 杉尾秀哉参議院議員民進党
26分~ 森 裕子参議院議員自由党
28分~ 近藤昭一衆議院議員民進党
31分~ 佐高 信氏(評論家)
36分~ 井上哲士参議院議員共産党
37分~ 川田龍平参議院議員(無所属)
40分~ 孫崎 享氏(評論家)
44分~ 中野晃一氏(上智大学教授)
49分~ 飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)
54分~ 松宮孝明氏(立命館大学教授)
1時間08分~ 山田健太氏(日本ペンクラブ
1時間15分~ 太田啓子氏(明日の自由を守る若手弁護士の会)
1時間22分~ 小林基秀氏(新聞労連委員長)
1時間28分~ 岩崎貞明氏(日本マスコミ文化情報労組会議事務局長)
1時間31分~ 樋口 聡氏(出版労連 出版・産業対策事務局長)
1時間33分~ 福島みずほ参議院議員社民党
 
20170216 UPLAN「私は共謀罪の国会提出に反対です」(共謀罪を考える超党派の議員と市民の勉強会第2回(1時間32分)
 

日本ペンクラブの声明)
日本ペンクラブ声明 「共謀罪に反対する」
(引用開始)
共謀罪によってあなたの生活は監視され、
共謀罪によってあなたがテロリストに仕立てられる。
私たちは共謀罪の新設に反対します。
 
 私たち日本ペンクラブは、いま国会で審議が進む「共謀罪(「テロ等組織犯罪準備罪」)」の新設に強く反対する。過去の法案に対しても、全く不要であるばかりか、社会の基盤を壊すものとして私たちは反対してきたが、法案の本質が全く変わらない以上、その姿勢に微塵の違いもない。
 過去に3度国会に上程され、いずれも廃案となった法案同様、いま準備されている共謀罪は、事前に相談すると見なされただけでも処罰するとしている。これは、人の心の中に手を突っ込み、憲法で絶対的に保障されている「内心の自由(思想信条の自由)」を侵害するものに他ならない。結果として、表現の自由
、集会・結社の自由など自分の意思を表明する、あるいは表明しない自由が根本から奪われてしまう。
 しかも、現行法で、十分なテロ対策が可能であるにもかかわらず、共謀罪を新設しなければ東京オリンピックを開催できないというのは、オリンピックを人質にとった詭弁であり、オリンピックの政治的利用
である。
 このような法案を強引に成立させようとする政府の姿勢を許すわけにはいかない。  
 法案の成立を断固阻止すべきである。

  2017年2月15日

   一般社団法人日本ペンクラブ
     会長 浅田次郎
     言論表現委員長 山田健太
(引用終わり)
 

シンポジウム「障害者差別解消法と弁護士の役割」(3/18@和歌山ビッグ愛/和歌山弁護士会主催)のご案内

 今晩(2017年2月20日)配信した「メルマガ金原No.2729」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
シンポジウム「障害者差別解消法と弁護士の役割」(3/18@和歌山ビッグ愛/和歌山弁護士会主催)のご案内
 
 年度末の1~3月に集中する傾向のある和歌山弁護士会主催シンポジウムですが(憲法問題など、日弁連が重点活動分野に指定して共催分担金を出してくれる緊急企画は別です)、今年度の掉尾を飾るのは、高齢者・障害者支援センター運営委員会が準備してきたシンポジウム「障害者差別解消法と弁護士の役割」です。
 同委員会が3月にシンポを計画しているという話はだいぶ以前から耳に入っていましたが、昨日、長岡健太郎委員長が、近弁連管内の弁護士が登録している某MLに、チラシのデータなどを添付して内容を紹介した上で、「拡散歓迎です。」「盛りだくさんの内容です。」「3/18は和歌山ビッグ愛へ!」「皆様ぜひご予定ください!」という熱烈参加要請の投稿を行っているのに気付き、それで初めてシンポの内容を知りました。

 以下に、チラシ記載情報を転記しておきますが、委員長自身が「盛りだくさん」と言うとおり、基調講演が2人(岡山理科大学和歌山大学)、基調報告が3人(和歌山県和歌山市、障害者本人)、それにパネルディスカッション(明石市沖縄県ほか)を行い、トータル4時間を予定するというのですから、そのゲストの多彩さと併せて、「これは近弁連(近畿弁護士会連合会)のシンポか?」と見まがうばかりであり、担当委員会の気合いの入り方も尋常ではないようです。
 
 ということで、私も和歌山弁護士会の会員として、シンポに参加するだけではなく、広報に一役買うくらいの協力はしなければならないだろうと思い、まだ会員に対してチラシを添付した参加要請書も届いていないにもかかわらず、弁護士会事務局からチラシを1枚入手して本稿を書いているという次第です。
 
 なお、障害者差別解消法については、2015年12月17日に、私のメルマガ(ブログ)で「障害者差別解消法(2016年4月1日施行)を学習するための資料のご紹介」という記事を書き、基礎的な法令等にはリンクしておきましたので、ご参照いただければと思います。
 ここでは、障害者差別解消法そのものにだけリンクしておきます。
 
 
 それでは、チラシに記載された内容を転記します。
 
チラシから引用開始)
シンポジウム 
障害者差別解消法と弁護士の役割
 
2017年3月18日(土)
午後0時30分~午後4時30分(午後0時 開場)
和歌山ビッグ愛 1F 大ホール
 
入場無料・予約不要
手話通訳、要約筆記、ユーストリーム中継あり
 
 平成28年4月1日、障害者差別解消法が施行され、和歌山市では障害者差別解消推進条例も施行されました。
 本シンポジウムでは、何が「差別」に当たるのか、「合理的配慮」とは何かについて、具体的事例も交えながら理解を深めるとともに、障害当事者、市民、行政、そして弁護士・社会福祉士等の専門職が広く連携して、障害の有無を問わず共に暮らせる社会を作っていくためにどのようなことが必要か、そのための具体的な相談体制や解決のための仕組みについて考えていきたいと思います。
 
基調講演
①川島 聡氏(岡山理科大学 総合情報学部 社会情報学科 准教授)
 「合理的配慮とは何か」
西倉実季氏(和歌山大学 教育学部 准教授)
 「合理的配慮をめぐるプライバシーの問題」
 
基調報告
和歌山県の取組状況(和歌山県障害福祉 課長 中林憲一氏)
和歌山市の取組状況(和歌山市障害者支援課 課長 坂下雅朗氏)
③和歌山での具体的事例を元に(石田雅俊氏=和歌山市内の障害当事者)
 
パネルディスカッション
【コーディネーター】
長岡健太郎(和歌山弁護士会高齢者・障害者支援センター運営委員会委員長)
【登壇者】
石田雅俊氏
山田 賢氏(明石市 福祉部 福祉総務課 障害者施策担当係長)
上間清香氏(沖縄県 広域相談専門員)
森脇大介(弁護士会・和歌山弁護士会
 
主催 和歌山弁護士会(担当:高齢者・障害者支援センター運営委員会)
共催 障害と人権全国弁護士ネット
後援 和歌山県和歌山市和歌山県社会福祉士
お問い合わせ 和歌山弁護士会 TEL:073-422-4580 FAX :073-436-5322
(引用終わり)
 
 それから、チラシに記載されているとおり、昨年4月の法律の施行に合わせ、和歌山市では、和歌山市障害者差別解消推進条例が施行されたのですが、その際、和歌山市手話言語条例も同時に施行されたということを、今日、このメルマガ(ブログ)を書くために和歌山市のホームページを閲覧して初めて知りました。
 和歌山市民でも知らない人が多いと思いますので、最後に、この2つの条例を(少し長くなりますが)全文引用します。
 
和歌山市障害者差別解消推進条例
(目的)
第1条 この条例は、障害を理由とする差別の解消について、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにするとともに、障害を理由とする差別の解消を推進するために基本となる事項を定めることにより、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)による施策と相まって、障害のある人もない人も共に安心して暮らしやすい和歌山市の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)障害 身体障害、知的障害、精神障害発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害をいう。
(2)障害者 障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
(3)社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
(4)障害を理由とする差別 障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。
(基本理念)
第3条 障害者に対する障害を理由とする差別の解消は、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。
(1)全ての障害者は、自ら選択した場所に居住し、その地域社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。
(2)全ての障害者が、必要かつ合理的な配慮が的確に行われることにより、障害者でない者と等しく、権利を行使し、機会を得、又は待遇を受けることができること。
(3)全ての障害者は、言語(手話を含む。)、文字の表示、点字触手話指点字、拡大文字、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(次条及び第5条において「意思疎通手段」という。)であって、当該障害者が選択したものによる情報の取得又は利用するための支援が保障されること。
(市による意思疎通支援の実施)
第4条 市は、前条の基本理念にのっとり、障害者に対し、情報の取得又は利用のための支援を行うものとする。
2 前項の規定による支援は、障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じ、適切に行われなければならない。
3 市は、第1項の規定による支援について、情報処理に関する技術を活用して行うよう努めるものとする。
(市の責務)
第5条 市は、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明(障害者の保護者、後見人その他の関係者(以下「保護者等」という。)が当該障害者の代理人として行ったもの及びこれらの者が当該障害者の補佐人として行ったものを含む。)があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないと認めるときは、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を行わなければならない。
2 市は、第3条に定める基本理念にのっとり、障害及び障害者に対する理解を深め、障害を理由とする差別を解消するために必要な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
3 市は、第3条第3号に規定する支援を行うため、次に掲げる施策を行うものとする。
(1)障害者の意思疎通手段に対する市民の理解の増進及び当該意思疎通手段の普及を図るための施策
(2)手話通訳者、要約筆記者、点訳者、朗読者その他の意思疎通支援(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。次項及び第7条第3項において「障害者総合支援法」という。)第77条第1項第6号に規定する意思疎通支援をいう。)を行う者の配置の拡充
(3)その他障害者の円滑な情報の取得又は利用に資する施策
4 市は、前項各号に掲げる施策を障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項の規定に基づく和歌山市障害者計画及び障害者総合支援法第88条第1項の規定に基づく和歌山市障害福祉計画との整合性を図りながら、総合的かつ計画的に実施するものとする。
(市民等の役割)
第6条 市民及び事業者は、障害及び障害者に対する理解を深めるとともに、市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
(障害を理由とする差別に関する相談)
第7条 障害者又は障害者の保護者等は、当該障害者が障害を理由とする差別を受けたと認めるときは、当該障害を理由とする差別について、市長に相談することができる。
2 市長は、前項の規定による相談があったときは、次に掲げる事務を行うものとする。
(1)障害者又は障害者の保護者等への事実の確認を行う事務
(2)障害者又は障害者の保護者等に必要な助言及び情報提供を行う事務
(3)関係行政機関への紹介を行う事務
3 市長は、市が障害者総合支援法第77条第3号に掲げる事業の実施を委託している者に、前項各号に掲げる事務の全部又は一部を委託することができる。
(助言又はあっせんの求め)
第8条 障害者は、障害を理由とする差別を受けたと認めるときは、市長に申し出て、当該障害を理由とする差別に該当する事案(以下「差別事案」という。)を解決するため、市長が障害者、障害者の保護者等又は障害を理由とする差別をしたとされる者(市を除く。)(以下「当事者等」と総称する。)に必要な助言をすること又は当事者等の間に立ち、差別事案の解決に資するあっせん案の提示を行うことを求めることができる。
2 障害者の保護者等は、前項の規定による申出をすることができる。ただし、当該申出が当該障害者の意思に反することが明らかであると認められるときは、この限りでない。
3 前2項の申出は、次の各号のいずれかに該当すると市長が認めるときは、することができない。
(1)行政不服審査法(平成26年法律第68号)その他の法令により審査請求その他の不服申立てをすることができるとき。
(2)申出の原因となる差別事案が発生した日(継続的な行為にあっては、その行為の終了した日)から3年を経過しているとき(その期間内に申出ができなかったことにつきやむを得ない理由があるときを除く。)。
(3)現に犯罪の捜査の対象となっているとき。
(調査)
第9条 市長は、前条第1項又は第2項の規定による申出があったときは、当該申出に係る事実について調査を行わなければならない。
(助言又はあっせん)
第10条 市長は、前条の規定による調査の結果、必要があると認めるときは、当事者等に対し、必要な助言をし、又は当事者等の間に立ち、差別事案の解決に資するあっせん案の提示を行うことができる。
2 市長は、前項の規定による助言又はあっせん案の提示を行うかどうかの判断に資するため、又は前項の助言又はあっせん案の内容について意見を求めるため、第14条の規定により置く和歌山市障害者差別解消調整委員会(以下「調整委員会」という。)に諮問することができる。
3 市長は、第1項のあっせん案を作成しようとするときは、当事者等の意見の聴取を行わなければならない。
4 当事者等は、第1項のあっせん案を受諾したときは、その旨を記載し、記名押印又は署名した書面を市長に提出しなければならない。
(勧告)
第11条 市長は、前条第1項の規定により助言をし、又はあっせん案を提示した場合において、障害を理由とする差別をしたと認められる者が正当な理由がなく当該助言に従わず、又は当該あっせん案を受諾しないときは、当該障害を理由とする差別をしたと認められる者に対して当該助言に従うこと又は当該あっせん案を受諾するよう勧告することができる。
(公表)
第12条 市長は、前条の勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に従わないときは、当該者が受けた勧告の内容を公表することができる。この場合において、当該勧告の内容に個人又は法人(法人でない団体を含む。以下この条において同じ。)に関する情報であって、特定の個人又は法人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより特定の個人又は法人を識別することができることとなるものを含む。)が含まれているときは、当該情報を除いて公表しなければならない。
(意見の聴取)
第13条 市長は、第11条の勧告又は前条の公表をしようとする場合には、あらかじめ、期日、場所及び差別事案の内容を示して、公表の対象となる者その他差別事案に関係する者又はその代理人の出席を求めて、意見の聴取を行わなければならない。ただし、当該公表の対象となる者その他差別事案に関係する者又はその代理人が正当な理由がなく意見の聴取に応じる意思がないと認められるときは、意見の聴取を行わないで勧告し、又は公表することができる。
和歌山市障害者差別解消調整委員会の設置等)
第14条 本市に障害を理由とする差別を解消するための取組を推進するため、調整委員会を置く。
2 調整委員会は、次に掲げる事項について調査審議し、市長に意見を述べるものとする。
(1)市長が諮問する差別事案に対する助言又はあっせん案の提示に関する事項
(2)障害を理由とする差別の解消の推進に関する事項
(3)障害者の意思疎通支援に関する施策の実施状況等に関する事項
(4)その他障害を理由とする差別の解消の推進に関して市長が必要と認める事項
3 調整委員会は、委員35人以内で組織する。
4 委員は、次に掲げる者のうちから、市長が委嘱し、又は任命する。
(1)国又は地方公共団体の機関の職員であって、福祉、保健、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの
(2)特定非営利活動法人促進法(平成10年法律第7号)第2条第2項に規定する特定非営利活動法人その他障害者に係る公益の増進に資することを目的とした団体に属する者
(3)障害者又はその介護若しくは支援をする者に関する団体が推薦する者
(4)障害者に係る福祉又は保健に関する学識経験者
5 委員の任期は、2年とする。ただし、委員が欠けた場合における補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
6 委員は、再任されることができる。
7 調整委員会に委員長を置き、委員の互選により選任する。委員長は、会務を総理し、調整委員会を代表する。
8 委員長に事故があるとき、又は委員長が欠けたときは、あらかじめ委員長が指名する委員がその職務を代理する。
9 調整委員会の会議(以下この条において単に「会議」という。)は、委員長が招集する。ただし、委員の全員が新たに委嘱され、又は任命された後最初に招集すべき会議は、市長が招集する。
10 委員長は、会議の議長となる。
11 調整委員会は、委員の過半数の出席がなければ、会議を開くことができない。
12 調整委員会の議事は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
13 調整委員会は、必要があると認めるときは、委員以外の者に対して会議への出席を求め、その意見若しくは説明を聴き、又は必要な資料の提供を求めることができる。
14 委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とす
る。
15 調整委員会の庶務は、福祉局社会福祉部において処理する。
16 この条例に定めるもののほか、調整委員会の運営に関し必要な事項は、委員長が調整委員会に諮って定める。
   
附 則
(施行期日)
1 この条例は、平成28年4月1日から施行する。ただし、第8条から第14条までの規定は、同年7月1日から施行する。
(検討)
2 市長は、この条例の施行後3年を経過した場合において、条例の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の見直しを行うものとする。
 
和歌山市手話言語条例
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話を普及させ、かつ、地域において手話が使用されやすい環境を整備するための市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにすることにより、ろう者とろう者以外の者が共生することのできる地域社会の実現に資することを目的とする。
(基本理念)
第2条 手話は、独自の言語体系を有する文化的所産であり、ろう者が大切に伝承し、かつ、育んできたものであるということに鑑み、手話についての理解及び手話の普及は、手話を必要とする市民が手話により意思の疎通を円滑に行う権利を有しており、その権利は最大限尊重されるべきであるという認識に基づいて行われなければならない。
(市の責務)
第3条 市は、市民及び事業者の手話についての理解の促進を図り、手話が使用されやすい環境を整備するために、次に掲げる施策を推進するものとする。
(1)手話についての理解の推進及び手話の普及に関する施策
(2)市民の手話の獲得及び習得に関する施策
(3)前2号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策
(市民等の役割)
第4条 市民及び事業者は、第2条に定める基本理念に対する理解を深め、前条各号に掲げる施策に協力するよう努めるものとする。
(施策を推進するための方針)
第5条 市長は、第3条各号に掲げる施策を推進するための方針を定めるものとする。
2 市長は、前項の方針を定めようとするときは、ろう者、手話通訳者その他の関係者の意見を聴かなければならない。
   附 則
 この条例は、平成28年4月1日から施行する。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年12月17日
障害者差別解消法(2016年4月1日施行)を学習するための資料のご紹介

2016年6月5日
緊急予告!6/19市民集会「緊急事態条項と日本国憲法(講師:伊藤真弁護士)」(和歌山弁護士会)のご案内
2016年10月19日
12/3シンポジウム「シングルマザーの権利擁護―養育費算定表の問題点と履行確保の方策について―」(和歌山弁護士会)のご案内
2016年12月26日
1/21「シンポジウム 実りある面会交流~子どもの健やかな成長のために~」(和歌山弁護士会)のご案内
2017年1月20日
2/15「低周波音問題について考える」シンポジウム(和歌山弁護士会)のご案内

障害者差別解消法シンポ・チラシ 

放送予告3/10&3/11原発事故被災地への「帰還」をテーマとした2本のNHKスペシャル

 今晩(2017年2月19日)配信した「メルマガ金原No.2728」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告3/10&3/11原発事故被災地への「帰還」をテーマとした2本のNHKスペシャ

 間もなく6回目の3.11がやって来ます。例年、この時期には、震災関連のドキュメンタリー番組が
各局で放送されます。
 けれども、東京電力福島第一原発事故による被災者、避難者、被災自治体にとって、6年目の春は、4年目や5年目とは大きく異なった意味を持っています。
 
平成27年6月12日 原子力災害対策本部
「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂

(抜粋引用開始)
 こうした観点から、事故から6年を超えて避難指示の継続が見込まれる帰還困難区域以外の区域、すなわち避難指示解除準備区域・居住制限区域については、各市町村の復興計画等も踏まえ遅くとも事故から6年後(平成29年3月)までに避難指示を解除し、住民の方々の帰還を可能にしていけるよう、除染の
十分な実施はもとより、インフラや生活に密着したサービスの復旧などの加速に取り組む。
(引用終わり)
 
 東京電力福島第一原発が立地する大熊町双葉町は、帰還困難区域以外の区域を含めて全町避難指示が続くものの、それ以外は上記方針通り、浪江町、富岡町、飯舘村の帰還困難区域を除く全域と、川俣町山木屋地区の避難指示を解除する方針であると伝えられています(河北新報)。
 福島県等からの自主避難者に対する災害救助法に基づく住宅支援の今年3月末での打ち切りが、上記方針と一体のものであることは言うまでもありません。
 
 6回目の3.11をどう切り取るか、各局のドキュメンタリー番組の制作スタッフは色々と悩んだことと思いますが、どう考えても、6年目の今年、国の「帰還」政策を抜きにした番組は作れないでしょう。
 先日、ご紹介した関西ローカルの番組、MBSドキュメンタリー映像'17『消去される自主避難者(仮)』もその一例でしたが、今日ご紹介するNHKスペシャル2本も「帰還」がテーマです。
 そのうち、3月11日放送分の番組案内に書かれた一節放射能で汚染された広大な地域を除染し、人が戻るという世界でも先例のない“帰還政策”」を念頭に置きながら、今年の3.11ドキュメンタリーに注目したいと思います。
 
原発事故後、福島の若者の間で広まったある行為がある。15歳の誕生日を迎えた記念に、震災以来帰ることのなかった故郷を初めて訪ねるというものだ。安全への配慮から今も避難指示区域への一時帰宅は大人しか認められず、子どもは一切許されていない。許可が下りるボーダーラインとなるのが「15歳」なのだ。その年齢になるのを待ちすでに多くの若者が故郷へと向かってきた。今も時間がとまったままの街。毎日通った学校、馴染みのお菓子屋、友人と遊んだ公園、そして自宅。それぞれの場所に立ち止まって言葉をなくす者もいれば、歩いているうちに自然に涙があふれてきたという者もいる。未曾有の原発事故により尋常ならざる生活を送ることになった彼らにとって、短い故郷への旅は、失われた時間を見つめ、自分が歩んできた道のりを整理しこれからの生き方に思いを馳せる、いわば大人へと成長する旅でもある。
 番組では、故郷を目指す福島の若者たちに密着する。この6年はいったいどんな歳月だったのか。帰郷により、彼らのなかで何が変わり、どう新しい1歩を踏み出してゆくのか。困難を乗り越え懸命に生きてきた福島の10代の姿を通して、人間の普遍的な成長の物語を描く。」
 
福島第一原発事故から6年。避難指示が出されていた地域は大きな転機を迎える。“帰還困難区域”を除く大部分の地域で、避難指示が一斉に解除される計画なのだ。「住民が帰るための環境が整った」と国が判断したためで、これにより原発事故で立ち入りが制限された区域の7割が地図上から消えることになる。
 しかし、現場では様々な問題が取り残されたままだ。今回、避難指示が解除されるのは、これまでと比べて格段に放射線量が高かった地域。未だ点在するホットスポット、営農再開を阻む除染廃棄物の山、にも関わらず打ち切られていく東京電力からの賠償・・・。帰る条件が整っていないと訴える住民も少なくない。一方の自治体は、これ以上避難が続くと帰還意欲が失われ、町が消滅するという危機感から避難指示解
除を急いでおり、両者の溝が深まっている。
 また、既に避難指示が解除された自治体も復興への道は見通せていない。住民の帰還は思うように進まず、コンパクトタウン建設など、復興の切り札としてきた事業も大幅に遅延している。その原因を探ると
原発に依存してきた地域が抱える構造的な問題が見えてきた。
 放射能で汚染された広大な地域を除染し、人が戻るという世界でも先例のない“帰還政策”。いま現地
で何が起きているのか。原発事故からの復興に苦闘する現場を見つめる。」