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共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む

 今晩(2017年4月14日)配信した「メルマガ金原No.2782」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む

 共謀罪シリーズの第20回です。
 いよいよ今日から衆議院法務委員会で法案審議が始まりました。国会に反対派議員を少数しか送り込めていない中での闘いは困難を極めて当然ですが、だからといって何もしないという選択肢はありません。
当面5月までの短期決戦と覚悟を決めて、出来ることをやりきるだけです。
 今日は、その闘いのために必要となる理論武装に役立つ民科法律部会の声明をご紹介することにしました(記者会見動画も併せてご覧ください)。
 
【その1 ニュースの部】
東京新聞 2017年4月14日 夕刊
「テロ」の文言は無関係 「共謀罪」衆院委で質疑

(引用開始)
 犯罪に合意したことを処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案について、金田勝年法相は十四日、衆院法務委員会で趣旨説明を行った。政府与党は今国会での成立を目指し、十九日にも本格的な質疑に入りたい意向だが、四月中の衆院通過は困難との見方が出ている。趣旨説明に先立って行われた衆院法務委での議論では「一般市民が処罰対象となる」「監視社会につながる」といった懸念につ
いて与野党から質疑が行われた。
 条文の「テロリズム集団」との文言についての民進党逢坂誠二氏の質問に対し、金田法相は「『テロリズム集団』は組織的犯罪集団の例示であり、文言がある場合とない場合で犯罪の成立範囲が異なること
はない」と説明。「テロ」の文言が法案の本質に関係しないことが明らかになった。
 「共謀罪」法案は適用対象を「組織的犯罪集団」と規定。集団の活動として、二人以上で犯罪を計画し
、そのうちの一人でも準備行為をした場合、計画に合意した全員が処罰される。
 政府は二〇〇〇年に署名した国連の国際組織犯罪防止条約を締結するために「共謀罪」の創設を目指す。四度目の法案提出となった今回は東京五輪パラリンピックに向けたテロ対策を前面に押し出す。金田
法相はこの日の趣旨説明で、「テロを含む組織犯罪を未然に防止する」と強調した。
 野党は「テロ対策は口実」「憲法が保障する思想・良心の自由が侵害される」などと廃案を求めている

(引用終わり)
 
【その2 動画の部】
20170413 UPLAN【記者会見・院内集会】「共謀罪法案」に反対する研究団体&法律家団体院内集会(2時
間14分)

※前半の記者会見は、民科法律部会(民主主義科学者協会法律部会)が3月27日に発表した声明「「テロ等準備罪」=「共謀罪」法案に断固反対する」のお披露目が目的の1つであり、冒頭、小沢隆一東京慈
恵会医科大学教授からその概要が説明され、その後、以下の方々の発言となりました。
10分~ 新倉 修氏(青山学院大学名誉教授 刑事法学からの発言)
15分~ 白鳥晃司氏(平和と民主主義のための研究団体連絡会議(平民研連)代表委員 平民研連・歴史
教育者協議会の声明紹介)
21分~ 清水雅彦氏(日本体育大学教授 憲法学からの発言)
26分~ 米倉洋子氏(弁護士 法律家団体の取り組み紹介)
32分~ 大江京子氏(弁護士 同)
 記者会見は57分ころに終わり、その後、院内集会となります(司会は清水雅彦さん)。
 なお、民科法律部会の声明は、以下の【その3 声明の部】に掲載します。
 
(引用開始)
 私たち民主主義科学者協会法律部会は、あらゆる分野における法学研究者の研究上の連絡、協力を促進
し、民主主義法学の発展をはかることを目的とする学術団体である。
 政府は、3月21日の閣議で、「共謀罪」の構成要件を含む「テロ等準備罪」を新設する組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)を決定した。本法案は、その立法理由とされている「国連越境組織犯罪防止条約」(以下、「TOC条約」と記す。)の批准には必要のないものである。にもかかわらず、その成立が強行されれば、いわゆる「テロ組織」とは関わりのない人も含めて、広く市民一般の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされるという戦後最悪の治安立法となる。本会は、その基本理念である民主主義という立場に立って、この法案の危険性を明らかにするとともに、これを今度も廃案とするよう、広く社会に訴えるものである。
 
Ⅰ.「共謀罪」法案の問題点
1.「テロ等準備罪」は「共謀罪」そのもの

 本法案は、これまで3度廃案となった「共謀罪」法案と、その本質において同じものである。そこにい
う「テロ等準備罪」は、窃盗、詐欺、横領などのありふれた犯罪を二人以上で計画し、準備行為をしただけで処罰するものであり、そこにいう準備行為も無限定である。
 対象犯罪が676から277に減らされたことも、実質的な限定にはならない。除外された犯罪には過失犯や予備罪など、その性質上、もともと対象犯罪とはなりえなかったものが多数含まれており、これをもって
「対象犯罪が絞られた」と評することはできない。
 他方、本法案では、公職選挙法上の組織的な「買収及び利害誘導罪」(公選法221条、222条)や会社法上の特別背任罪会社法960条)、取締役等の贈収賄罪(会社法967条)、その他特別法上の多くの収賄罪などの罪が対象犯罪から除外されている。これは、対象犯罪の限定が、単に議員や財界の懸念を払しょくするために行われた恣意的なものであることを疑わせるものである。
 
2.「組織的犯罪集団」は「テロ組織」に限定されない
 そもそも、TOC条約にいう「組織的犯罪集団」は、「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するもの」(TOC条約2条(a))である。したがって、「組織的犯罪集団」は「テロ組織」に限定されない。法案にも「その他の組織的犯罪集団」とあるように、「組織的犯罪集団」には、広くテロ組織との関連がない犯罪の遂行を目的とするものも含まれる。そこでは、普通の団体が、277の罪のいずれかの遂行を常態とするような組織に性質を一変させた場合、組織的犯罪集団とみなされうる。
 
3.一般市民も処罰対象となりうる
 「組織的犯罪集団」に属さない一般市民もまた、本法案6条の2第2項により処罰対象となることも、看過してはならない。しかも、準備行為が行われたことを知らなくても処罰されうるのである。
 
Ⅱ.TOC条約批准という論拠の虚偽性
1.TOC条約の求めるものとの齟齬
 本法案の立法理由とされているTOC条約は、国際的な経済的犯罪集団に対して国際的な協力を促進することを目的としたものである。「合意」や「参加」の犯罪化は、そのための処罰の間隙を埋めるためのものである。ゆえに、実質的にみて処罰の間隙がなければ、本法案のような立法は不要である。むしろ、日本は死刑を温存しているため、捜査共助や犯人引渡しを拒否されることの方が、国際的な協力を阻害することになる。
 
2.条約上の「テロ対策」は履行済み
 テロ対策の国際的枠組みとしては、「テロ資金供与防止条約」を始めとする5つの国連条約、および、その他8つの国際条約が採択されている。日本はこれらをすべて締結し国内法化しており、これに加えて「テロ等準備罪」を追加する必要性はない。
 
3.テロの脅威は「対テロ戦争」への参戦から
 また、「安保法」による自衛隊派遣によって「対テロ戦争」等の戦争に本格的に参戦することは、却ってテロの脅威を高める。そうではなくて、憲法9条違反の「安保法」を廃止し、憲法前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」という観点からすれば、テロの背景にある世界の人権抑圧や貧困問題の解決によってテロの温床をなくし、かつ、「テロ等準備罪」による市民的自由への脅威を招くことのない社会を構築することこそが切実に求められている。
 
Ⅲ.監視社会の構築による市民的自由の窒息
 本法案には、密告者必要的減免の規定がある。また、昨年5月には、「通信傍受法(盗聴法)」の対象犯罪が大幅に拡大されている。ゆえに、本法案が成立すれば、犯罪計画段階での密告が奨励され、また、捜査手法として盗聴が日常化する危険が大きい。これによって、憲法13条で保障されるプライバシー権や、21条で保障される通信の秘密が侵害されるおそれがある。このような盗聴と密告が蔓延する「監視社会」では、権力濫用からの市民の自由と安全は危機に瀕することとなる。そして、「共謀罪」を理由とする捜査と処罰の可能性は、政府や大企業等の過ちを正すことを通じて、民主主義社会を根底から支える市民の政治的表現の自由に対して深刻な萎縮効果を及ぼすことは確実である。まさに本法案は、市民の自由や
民主主義にとって重大な危険をもたらすものなのである。
 以上の理由から、私たちは「テロ等準備罪」処罰を目指す本法案に断固反対する。
 
2017年3月27日
民主主義科学者協会法律部会理事会

(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年2月6日2017年3月31日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.7~4/9日高教育会館(御坊市)で学習会がありま
2017年4月7日

(付録)
『お灯まつり、春へ』 作詞・作曲・演奏:松原洋一
 
※紀宝9条の会、くまの平和ネットワーク、そして「わがらーず」の松原洋一さんの演奏をお楽しみください。
 
暦が冬に 別れを告げる頃
落ち着かないよな 胸騒ぎ
心はとぶよ ふるさとの峰
山が真っ赤に 燃える夜
 男の烈しさと 女の優しさが
 火の粉となって 舞い踊る
※春を呼ぶまつりだよ
  一度帰ってこないか※※
 
珍しく雪が 町を白く染めて
風にそよぐ 松明の花
今年上るんか あゝ上るでと
なじみの言葉が 耳にあたたかい
 男の願いと 女の祈りが
 火の粉となって 乱れ飛ぶ
※~※※
 
透明な空気が ぴんと張り詰めて
何かがはじける そんな予感
きりりと締めた 男結び
白い背中に 声がとぶ
 男の夢と 女の愛が
 火の粉となって 星になる
※~※※
 (2回くりかえし)

 

再紹介・青木泰さん(環境ジャーナリスト)が論証する「8億円のゴミはなかった」~インタビュー動画+論考

 今晩(2017年4月13日)配信した「メルマガ金原No.2781」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
再紹介・青木泰さん(環境ジャーナリスト)が論証する「8億円のゴミはなかった」~インタビュー動画+論考

 今日は、去る4月4日(火)にお送りした環境ジャーナリスト・青木泰さんに対するインタビュー動画紹介記事「「実はなかった8億円のゴミ!?」~環境ジャーナリスト・青木泰氏インタビュー(UPLAN)を視聴する」の増補版です。
 
 「森友学園問題」については、様々な面から光を当てることが可能であり、佐藤学さん(学習院大学教授・教育学)のように、「戦後最大の教育スキャンダル」というとらえ方をする論客もおられます(「軍学共同反対 共謀罪を考える 大学人シンポジウム」(4/9)を視聴しよう/2017年4月10日)。
 
 そのような多面的な見方も是非必要である一方、当然のことながら、本筋を見失わないようにすることが重要です。
 青木泰さんが説得力豊に展開される「8億円のゴミはなかった」という主張は、是非多くの日本人が知っておくべきだと思います。
 ただ、YouTubeの動画だけでは、それほど多くの広がりを期待できないかもしれないと思っていたところ、青木さんが、ご自身の調査・分析の結果を文章にまとめてネット上で発表されていることを知りましたので、今日、増補版をお届けすることにしたものです。
 まず、先にご紹介していたUPLANによるインタビュー動画を再掲します。
 
20170404 UPLAN 実はなかった 8億円のゴミ!? ―国の資料から読み解く―(33分)

(動画説明から引用開始)
2017/04/04 に公開
※注) 発言内で「民進党森ゆうこさん」とありますが正しくは「自由党森ゆうこさん」です。
【UPLAN月島スタジオ】
3月30日に参議院議員会館で開催された記者会見・緊急集会「~木村真豊中市議を迎えて~森友問題の今後を占う緊急集会!」ではさまざまな問題が語られたせいもあり、私たちが最も重要な問題の中心と考えている「8億円のゴミは実は存在しないのではないか」という視点について詳細に触れる時間がなかった。
そのため再度青木泰氏(環境ジャーナリスト)をUPLAN月島スタジオにお招きしてこの問題について語っていただいた。理財局が8億円値引きの根拠としている9.9メートルのゴミはもともと存在しなかった。なぜそれがわかるのか。簡単である。財務局が以前に調査した報告書に書かれているのである。森友問題以前の調査なので国も何の関心もない時期だから、廃棄処分も黒塗りもされていない。そこに明瞭に書かれている。ゴミが埋まっているのは3メートルの盛土層までであると。」
(引用終わり)
 
 私のメルマガ(ブログ)でご紹介した動画は上記だけだったのですが、実は、UPLANによるインタビューはもう1本収録されていましたので、こちらもご紹介しておきます。
 
20170404 UPLAN 森友問題がよくわからない視聴者が聞く 8億円値引きの謎(30分)

(動画説明から引用開始)
2017/04/04 に公開
【UPLAN月島スタジオ】
テレビを見ていてもなんだか「森友問題がよくわからない」という普通の主婦の視点で、ゴミ処理問題の第一人者環境ジャーナリストの青木泰氏に疑問をぶつけていただいた。
わからないのも無理はない。テレビではこの問題の本質とはかけ離れた籠池氏の家族やメールやFAXなど枝葉末節の問題しか扱っていない。この事件のほんとうの核は、近畿財務局に「不正」の疑いがあること、それが「書類すてちゃいました」で済まされそうになっていること。他のいかなる犯罪においても「証拠すてましたから」と言って許されることがあるだろうか。却って重くなるのが普通ではないのだろうか。
わからない普通の主婦が問いかけているのは、この国の官僚機構の深層にあるほんとうの闇なのである。
(引用終わり)
 
 さて、増補版の本体である青木泰さん自身による論考は、昨日(4月12日)、「Business Journal」というサイトに掲載されました。題して「【森友問題】地中深部ごみは「存在しない」との報告書…8億円値下げは計算の間違い」。
 これなら、素早く目を通すことが可能です。論考の核心部分を論じた終結部分を引用しますが、是非リンク先で全文をお読みください。
 
Business Journal 7.04.12
【森友問題】地中深部ごみは「存在しない」との報告書…8億円値下げは計算の間違い

(抜粋引用開始)
 
では、本当に9.9メートルの深さの高深部にごみはあったのだろうか。実は「ない」とする専門業者がボーリング調査測定した報告資料を、財務省保有していたのである。
 ごみの撤去に関する報告書類は、2点あることがわかっている。第1回目のごみ撤去にあたって根拠としている書類は、「平成21年度大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査業務 報告書(OA301)平成22年(2010年)1月 国土交通省大阪航空局 大和探査技術株式会社」。作成されたのは、今回の森友問題が起きるはるか前である。作成者は国土交通省であり、国土交通省大阪航空局が、この土地の地下の構造物の状況を調査したもので、どのような用地として利用できるかを確認するためのものである。
 この時に「報告書(OA302)」も作成され、それは豊中市が購入した土地部分の調査報告書である。レーザーなども使いながら探索し、数十カ所の地点を定め、その地点の調査をしている。3メートルくらいの浅い部分に、どのようなごみが埋まっているかの詳細が報告されている。森友学園が行った1回目のごみの撤去は、この報告書に基づいて行っている。
 もうひとつは、今回の森友問題に直接関係する報告書であり、「(仮称)M学園小学校新築工事 地盤調査報告書 平成26年12月」である。「(仮称)M学園」とはもちろん森友学園のことである。大阪府私立学校審議会で、森友学園の小学校設立申請について、条件付き認可が下りたのは、翌年15年(平成27年)1月27日であるため、その前年の12月に作成されたこの報告書では、「(仮称)M学園」となっている。
 当該地における「新設小学校の建設に先立ち、計画地盤の構成を明らかにし、設計施工の基礎資料にする」ための報告書であり、敷地内の2点をボーリング(約20平方メートルの深度)調査し、地層の状態を明らかにし、洪積層第二砂質土層を構造物の支持層にするのが有利という判定を行っていた。国有財産近畿地方審議会で、当該土地を森友学園に貸し付け・処理等を適当と判断する(同年2月10日)直前に調査されたものである。
 写真4は、この「地盤調査報告書」のP.42に示された地層図であり、この調査では森友が購入した用地の土中の層として、土の表面から深さ方向に向かって、地層として(1)盛土層、(2)沖積層、(3)洪積層と続く。その地層ごとに地質が記載されている。(1)の盛土層では盛り土(3メートル厚)、(2)の沖積層では第1粘土層(0.3メートル)、砂質土層(3メートル)、第2粘土層(4メートル)と続き、(3)の洪積層では、第1砂質土層(1メートル)、第1粘土層(1平方メートル)、第2砂質土層(2~5メートル)と続いていることが示されている(P.39~42)(註5)
 一番表面部分の盛り土の中には「敷地造成時に施行された砂質土が主体であり、(略)上部で植物根を多く混入し、中~下部で、塩ビ片や木片及びビニール片などを多く混入している」と書かれている。
 つまり表層部分から約3メートルの盛り土の部分にはごみはあるが、それ以外の地層は1万年前後をかけて、堆積してつくられた堆積層であり、それらの地層から塩ビ片やビニール片が出るはずもなく、木片の場合もすでに朽ち果てている。
 この土地は、昭和40年頃は池や湿地だったといわれている。その後住宅地になり、その住宅地を国が、最初は騒音対策地域として、後には災害避難公園として買い上げ、豊中市森友学園に売却したのである。住宅地に整備する過程で、土壌を投入し盛り土する。それが盛り土層である。その際、土壌を安定させるために、コンクリートがらなどを投入したことは、それ自体の良し悪しは別にして、十分考えられることである。
 浅い部分にはごみは存在するが深い部分にはごみは存在しないというこの報告書は、先に示した10年の国交省の報告書とも符合する。学校の校舎や体育館の建設に当たって、浅い部分にはごみが存在するが、深い部分にはごみがなく、建築物を支える地層が存在するという報告である。国有財産近畿地方審議会で論議されていれば、この報告書は15年2月の同審議会が、森友学園に貸し付けもしくは売却の「処理適当」という判断に大きく影響を与えたことが考えられる。
 まず、国会での審議を通して、深部にはごみがないとするこの報告書の内容の真偽を確認する必要がある。この報告書の内容を知りながら8億円もの撤去費がかかる膨大なごみが存在すると報告したのであるならば、この報告書を否定するごみが存在するという報告資料がなければならない。しかし堆積層にそのようなごみが存在するという、おバカな話があるはずもなく、そうであれば、8億のごみの算定は、意図的な偽装であり犯罪行為となる。その点での追及が不可欠である。
 8億円の値引きが、このように深部にないごみを、あたかも存在するかのようにみせ、その結果、国有財産をただ同然に割り引いたという背任行為が輪郭としてみえてきた以上、大阪航空局国交省)、近畿財務局、財務省ら関係者と、彼らへの口利きのきっかけをつくった安倍昭恵氏を含め、国会での追及と証人喚問の必要がある。
 そして先読みすれば、“アッキード事件”での国会解散となれば、問われてくるのは、私たち国民が問題に関する正確な情報を掴んでいるかどうかという点になる。筆者はさまざまな媒体で本件について情報発信しているので、参考にしていただきたい(註6)
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
※本稿の内容を引用する際は、引用元の記載をお願いします。
(註5)一般的に日本の地層の歴史では、(2)沖積層、(3)洪積層は1万年以上も前の新世代の第4世紀につくられた地層であり、それぞれ沖積世、洪積世につくられ、沖積層は軟弱地盤、洪積層は良好地盤とされている。「地盤調査報告書」では、そこで(3)の洪積層のなかの第2砂質土層に構造物の基礎を置くように記載されている。
(註6)月刊誌「紙の爆弾」(鹿砦社/5月号、現在発売中)掲載の記事『森友学園国有地払い下げ “8億円減額”詐欺行為全貌』
(引用終わり) 
 

(付録)
『僕らは熊野(ここ)で歌ってゆく~笠木透さんに捧ぐ~』 作詞・作曲・演奏:松原洋一
 
※紀宝9条の会、くまの平和ネットワーク、そして「わがらーず」の松原洋一さんの名曲です。
 
水平線に朝日が昇り 山の緑が動き出す
伝え切れない想いを胸に 今この時と弾けるように
 心豊かに 自由を語れ
 僕らは現在(いま)を 歌いたい
 あなたの歌を こころに留めて
 僕らは熊野(ここ)で 歌っていく
 
青い空に雲が往き 海と山とを繋いでいる
語り切れない言葉に替えて もう大丈夫と囁くように
 心静かに 平和を祈れ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 胸に抱いて
 僕らは熊野で 歌っていく
 
山の連なり夕日に染まり 風が止んだ不思議な空間
納め切れない今日一日の 喜び哀しみ癒すように
 心解いて 自然と遊べ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 思い出かさね
 僕らは熊野で 歌っていく
 
夜の静寂(しじま)に星が流れる 赤く輝く銀河の果てに
押さえ切れない見果てぬ夢を いつかこの手で届けよう
 心許して 友と歌え
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 希望に染めて
 僕らは熊野で 歌っていく
 
 心広げて未来はどっちだ 私は現在を歌いたい
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で 歌っていく
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で歌っていく
 
※非売品CD『僕らは熊野(ここ)で歌っていく 「帰ってきた新曲たち」LIVE from FOLKS』(松原洋一/2016年1月20日)ライナーノートより
「14年12月22日に亡くなった笠木さん。あなたのような曲を作りたいと思ってきましたが、まだまだです。天頂の星の上からどうぞ見守っていてくださいね。」

 

石橋湛山『大日本主義の幻想』(大正10年)を日本ペンクラブ電子文藝館で読む

 今晩(2017年4月12日)配信した「メルマガ金原No.2780」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
石橋湛山大日本主義の幻想』(大正10年)を日本ペンクラブ電子文藝館で読む

 私には、内閣総理大臣まで務めた政治家の文章を読みたいというような嗜好は全くなく、回想録の類などとんと読む機会がありません。本当は、そのような著作を系統立って読めば、それなりに得るものはあるでしょうし、近代日本政治史を勉強しようという人にとっては、必須の素養かもしれませんが、いかんせん、私にはそのような時間がありません。
 ただし、そんな私にも、かつて1冊だけ、元内閣総理大臣の回想録を読む機会がありました。ただし、その回想録が書かれたのは、執筆者が内閣総理大臣に就任する5年以上前のことだったのですが。
 
 その回顧録というのが、自由民主党第二代総裁、1956年(昭和31年)12月、鳩山一郎の後を継いで、内閣総理大臣に就任したものの、翌年1月、急性肺炎で倒れ、翌月、首相の職責を果たせないとして内閣総辞職を選択、在任期間わずか65日間であった石橋湛山(いしばし・たんざん)が、1951年(昭和26年)に毎日新聞社から刊行した『湛山回想』です(歴史上の偉人として、あえて敬称は省略します)。

 私が読んだのは岩波文庫版ですが、「読んでみたい」と思ったきっかけは、同じ石橋湛山の、政治家に転身する前のジャーナリスト(主に東洋経済新報で健筆をふるった)としての主要な評論をまとめた『石橋湛山評論集』(松尾尊兌編/岩波文庫)を一読し、非常な感銘を受けたことによります。

 私の手許にある岩波文庫版『石橋湛山評論集』は、1992年10月15日発行の第16刷ですから、私が入手して読んだのは、おそらく発行から1~2年以内のころ、私が弁護士になってまだそれほど経っていない駆け出しのころだったはずです。
 
 岩波文庫版『石橋湛山評論集』の表紙カバーには、以下のような惹句が掲載されています。
 
(引用開始)
明治44年から敗戦直後まで、『東洋経済新報』において健筆を揮った石橋湛山(1884-1973)の評論は、普選問題、ロシア革命、三・一独立運動満州事変等についての評論のどれをとっても、日本にほとんど比類のない自由主義の論調に貫かれており、非武装・非侵略という日本国憲法の精神を見事なまでに先取していた。39編を精選。
(引用終わり)
 
 幸い、同書は品切れにはなっていないようなので、いつでも入手可能です。
 廉価で入手できますので、是非通読していただきたいのですが、どんなことが書かれているのか、そのほんのさわりですが、全39編のうちの12編の読みどころが引用されているサイト(一般財団法人 石橋湛山記念財団)があります。
 その12編のタイトルを掲げておきます。

  
国家と宗教及び文芸
  維新後婦人に対する観念の変遷
  青島は断じて領有すべからず
  禍根をのこす外交政策
  一切を棄つるの覚悟
  大日本主義の幻想
  行政改革根本主義
  市町村に地租営業税を移譲すべし
  世界開放主義を提げて
  敢えて婆心を披瀝し新内閣に望む
  更正日本の針路
  日本防衛論
  
 ここでは、晩年の昭和43年に発表した「日本防衛論」の有名な一節のみご紹介しましょう。

(引用開始)
 
重ねて言うが、我が国の独立と安全を守るために、軍備の拡張という国力を消耗するような考えでいったら、国防を全うすることができないばかりでなく、国を滅ぼす。したがって、そういう考え方をもった政治家に託すわけにはいかない。政治家の諸君にのぞみたいのは、おのれ一身の利益より先に、党の利益を考えてもらいたい。党のことより国家国民の利益を優先して考えてもらいたいということである。
 人間だれでも、私利心を持っている。私は持っていないと言ったら嘘になる。しかし、政治家の私利心が第一に追求するべきものは、財産や私生活の楽しみではない。国民の間に湧き上がる信頼であり、名声である。これこそ、政治家の私利心が何はさておき追求すべき目的でなければならぬ。そうでないなら、政治家をやめて他の職業に変わるがいい。もしも政治家諸君がこのような心構えを持ってくれたら、国民の政治に対する不信感は払拭され、愛国心もおのずから湧き上がる。言論機関は、このような政治家を声援し、育成する努力を払ってもらいたい。
(引用終わり)
 
 さて、政治史的な観点からは、湛山らが首唱した「小日本主義」を語るべきなのでしょうが、それだけの準備も見識も持ち合わせぬ身としては、是非、『石橋湛山評論集』、なかんずく「小日本主義」を代表する論文「大日本主義の幻想」を読んでくださいと言うにとどめるしかありません。
 ・・・なのですが、実は、この「大日本主義の幻想」全文をフリーで公開しているサイトがあることに最近気がついたのです。
 石橋湛山の没年は1973年であり、50年の著作権保護期間が切れるまでまだ数年待たねばなりませんので、いくら「青空文庫石橋湛山」で検索しても一編もヒットしません。
 ところが、日本ペンクラブが運営する「電子文藝館」にこの「大日本主義の幻想」(大正十年七月三〇日・八月六日・一三日号「東洋経済新報・社説」)全文が掲載されていたのです。
 「電子文藝館」に掲載された作品には様々なものがあるようですが、著作権保護期間内の作品は、著作権者(同継承者)の許諾を得た上での掲載であることは言うまでもありません。詳しくは「電子文藝館」のトップページをご覧ください。
 
 以下に、「大日本主義の幻想」の中から、とりわけ有名な箇所を引用しますが、是非「電子文藝館」で全文を読むとともに、岩波文庫石橋湛山評論集』を入手して通読されますよう、心よりお勧めします。
 
大日本主義の幻想  石橋湛山
(抜粋引用開始)
 
朝鮮台湾樺太も棄てる覚悟をしろ、支那や、シベリヤに対する干渉は、勿論やめろ。之実に対太平洋会議策の根本なりと云う、吾輩の議論 (前号に述べた如き) に反対する者は、多分次ぎの二点を挙げて来るだろうと思う。
(一)我国は此等の場所を、しっかりと抑えて置かねば、経済的に、又国防的に自立することが出来ない。少なくも、そを脅さるる虞(おそれ)がある。
(二)列強は何れも海外に広大な殖民地を有しておる。然らざれば米国の如く其国自らが広大である。而して彼等は其広大にして天産豊なる土地に障壁を設けて、他国民の入るを許さない。此事実の前に立って、日本に独り、海外の領土又は勢力範囲を棄てよと云うは不公平である。
 吾輩は、此二つの駁論(ばくろん)に対しては、次ぎの如く答える。第一点は、幻想である、第二点は小欲に囚えられ、大欲を遂ぐるの途を知らざるものであると。
(略)
 軍備に就ては、此頃、いろいろの説が流行する。けれども畢竟(ひっきょう)、之を整うる必要は、(一)他国を侵略するか、或は(二)他国に侵略せらるる虞れあるかの二つの場合の外にはない。他国を侵略する意図も無し、又他国から侵略せらるる虞れもないならば、警察以上の兵力は、海陸ともに、絶対に用は無い。さて然らば我国は、何れの場合を予想して軍備を整えておるのであるか。政治家も、軍人も、新聞記者も異口同音に、我軍備は決して他国を侵略する目的ではないと云う。勿論そうあらねばならぬ筈である。吾輩も亦まさに、我軍備は他国を侵略する目的で蓄えられておろうとは思わない。併し乍ら吾輩の常に此点に於て疑問とするのは、既に他国を侵略する目的でないとすれば、他国から侵略せらるる虞れのない限り、我国は軍備を整うる必要のない筈だが、一体何国から我国は侵略せらるる虞れがあるのかと云うことである。前には之を露国だと云うた。今は之を米国にしておるらしい。果して然らば、吾輩は更に尋ねたい。米国にせよ、他の国にせよ、若し我国を侵略するとせば、何処を取ろうとするのかと。思うに之に対して何人も、彼等が我日本の本土を奪いに来ると答えはしまい。日本の本土の如きは、只遣(や)ると云うても、誰れも貰い手は無いであろう。されば若し米国なり、或は其他の国なりが、我国を侵略する虞れがあるとすれば、そは蓋し我海外領土に対してであろう。否、此等の土地さえも、実は、余り問題にはならぬのであって、戦争勃発の危険の最も多いのは、寧ろ支那又はシベリヤである。我国が支那又はシベリヤを自由にしようとする、米国が之を妨げようとする。或は米国が支那又はシベリヤに勢力を張ろうとする、我国が之を然(そう)させまいとする。茲(ここ)繭(に)戦争が起れば、起る。而して其結果、我海外領土や本土も、敵軍に襲わるる危険が起る。されば若し我国にして支那又はシベリヤを我縄張りとしようとする野心を棄つるならば、満州、台湾、朝鮮、樺太等も入用でないと云う態度に出づるならば、戦争は絶対に起らない、従って我国が他国から侵さるると云うことも決してない。論者は、此等の土地を我領土とし、若しくは我勢力範囲として置くことが、国防上必要だと云うが、実は此等の土地を斯くして置き、若しくは斯くせんとすればこそ、国防の必要が起るのである。其等は軍備を必要とする原因であって、軍備の必要から起った結果ではない。
(略)
 以上の諸理由に依り吾輩は、我国が大日本主義を棄つることは、何等の不利を我国に醸(かも)さない、否啻(ただ)に不利を醸さないのみならず、却って大なる利益を、我れに与うるものなるを断言する。朝鮮、台湾、樺太満州と云う如き、僅かばかりの土地を棄つることに依り広大なる支那の全土を我友とし、進んで東洋の全体、否、世界の弱小国全体を我道徳的支持者とすることは、如何ばかりの利益であるか計り知れない。若し其時に於て尚お、米国が横暴であり、或は英国が驕慢(きょうまん)であって、東洋の諸民族乃至は世界の弱小国民を虐(しいた)ぐるが如きことあらば、我国は宜しく其虐げらるる者の盟主となって、英米を膺懲(ようちょう)すべし。此場合に於ては、区々たる平常の軍備の如きは問題でない。戦法の極意は人の和にある。驕慢なる一、二の国が、如何に大なる軍備を擁するとも、自由解放の世界的盟主として、背後に東洋乃至全世界の心からの支持を有する我国は、断じて其戦に破るることはない。若し我国にして、今後戦争をする機会が事あるとすれば、其戦争は当(まさ)に斯くの如きものでなければならぬ。而かも我国にして此覚悟で、一切の小欲を棄てて進むならば、恐らくは此戦争に至らずして、驕慢(きょうまん)なる国は亡ぶるであろう。今回の太平洋会議は、実に我国が、此大政策を試むべき、第一の舞台である。
大正十年七月三〇日・八月六日・一三日号「社説」
(引用終わり)
 

(付録)
『僕らは熊野(ここ)で歌ってゆく 笠木透さんに捧ぐ』 作詞・作曲・演奏:松原洋一
 
※紀宝9条の会、くまの平和ネットワーク、そして「わがらーず」の松原洋一さんによる演奏です。

 

開催予告5/13伊藤千尋さん講演会「憲法を生かす世界の人々」@和歌山市(5月の風に We Love 憲法 2017)

 今晩(2017年4月11日)配信した「メルマガ金原No.2779」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
開催予告5/13伊藤千尋さん講演会「憲法を生かす世界の人々」@和歌山市(5月の風に We Love 憲法 2017)

 和歌山市では、2014年以来、5月3日の憲法記念日には、和歌山城西の丸広場を会場として、“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama”という楽しいイベント(何しろ、最大のウリが「餅まき」です!)が開催されていますが(※今年のチラシ)、その前後には、ずっと以前から、講演を主体とした企画が継続して実施されています。

 憲法記念日「前」には、青年法律家協会和歌山支部が主催する憲法記念行事(憲法を考える夕べ)が開催される例となっており、今年は、4月28日(金)午後6時から、和歌山県民文化会館小ホールを会場として、中野晃一さん(上智大学教授・政治学)をお招きして、「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」と題した講演をお願いしており、私のメルマガ(ブログ)でも既にご案内済みです。
 
 そして、憲法記念日「後」の5月中旬の土曜日午後には、和歌山県勤労福祉会館プラザホープ4階ホールを会場として、憲法九条を守るわかやま県民の会が主催する「5月の風に We Love 憲法」において、講演をメインにしながら、その前に音楽等の文化企画も併せて実施されるのが恒例となっています。
 
 ということで、青法協和歌山支部憲法九条を守るわかやま県民の会は、同じような時期に、憲法に関わる講演会を企画することになる訳ですから、どうしても講師候補者が似たような顔ぶれになることは避けがたく、実際、同じ年に両団体が同じ講師を招くことになってしまい(それも一度ならず二度まで!)、多くの方から「何とか調整はつかなかたのか?」というお叱りを受けたものでした。
 講師が重複したのは、2011年の伊波洋一さん、2013年の孫崎亨さんでした。
 
 さすがに、2度目の孫崎亨さんのバッティングが明らかになった後、二度と同じ失態を繰り返さぬよう、どちらの団体であっても、先に企画が決まった方が、ただちに他方の団体に決定した講師名を連絡するという紳士協定が結ばれた結果、今のところ順調に講師選定がなされています。
 
 さて、今年の県民の会の「5月の風に We Love 憲法」の講師がジャーナリストの伊藤千尋さんに決まったという話はだいぶ前から聞いていましたが、今日、私の事務所にもチラシが届いたのを機に、ご紹介することとしました。
 ただし、チラシの表は講演会情報なのですが、裏面に記載された内容と講演の関連性がよく分からなかったので、とりあえず、以下にはチラシの表に記載された情報のみ転記します。

チラシ表面の文字情報から引用開始)
5月の風に We Love 憲法 2017
講演 憲法を生かす世界の人々
     -15%の市民が目に見える行動をすれば社会は動く-
講師 伊藤 千尋 

[講師プロフィール](いとう・ちひろ)1949年、山口県生まれ、東大法学部卒。学生時代にキューバでサトウキビ刈り国際ボランティア、東大「ジプシー」調査探検隊長。74年、朝日新聞社に入社し長崎支局、東京本社社会部、外報部、AERA編集部などを経てサンパウロ支局長(米州特派員)、バルセロナ支局長(欧州特派員)、ロサンゼルス支局長(米州特派員)などを歴任。2014年からフリーの国際ジャーナリスト。これまで、76か国を現地取材した。NGOコスタリカ平和の会」共同代表、「九条の会世話人。著書に『反米大陸』(集英社新書)、『燃える中南米』(岩波新書)、『今こそ問われる市民意識』(女子パウロ会)、『キューバ-超大国を屈服させたラテンの魂』『観光コースでないベトナム』(以下、高文研)、『一人の声が世界を変えた』『辺境を旅ゆけば日本が見えた』(以上、新日本出版社)、『地球を活かす-市民が創る自然エネルギー』、『活憲の時代-コスタリカから9条へ』、『変革の時代』(以上、シネフロント社)、『世界一周元気な市民力』(大月書店)、『闘う新聞-ハンギョレの12年』(岩波ブックレット)、『太陽の汗、月の涙』(すずさわ書店)など。
    
文化企画
Crowfield(クローフィールド) アコースティックバン
 
日時 2017年5月13日(土)13時開場 参加無料
場所 和歌山県勤労福祉会館プラザホープ 4F 大ホール

      
和歌山市北出島1丁目5-47 TEL:073-425-3335
 
[事務局・問い合わせ]憲法九条を守るわかやま県民の会
 和歌山市湊通丁南1丁目1の3 名城ビル2階 県地評内
 TEL:073-436-3520 FAX:073-436-3554 E-mail:
w-9jokenm@naxnet.or.jp
(引用終わり)
 
 「憲法を生かす世界の人々-15%の市民が目に見える行動をすれば社会は動く-」という講演テーマが素晴らしいですね。青法協が中野晃一さんにお願いした「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」とも響き合うものがありますよね。
是非、両方の企画に足を運んでいただきたいと思います。
 
(参考動画1)
伊藤千尋さん講演『今こそ九条を活かすときー世界が求める真の積極的平和』(1時間23分)

※2016年12月11日、「戦争する国にさせない 12・11ながの市民のつどい」での伊藤千尋さんの講演動画です。ものすごい引きの画面なので、講師の表情はよく分かりませんが、音声は非常にクリアに収録されてとても聞きやすいので、この動画を選びました。「憲法かえるのやだネット長野」ホームページから、当日のレジュメと資料がダウンロードできます。
その後、同じ日の講演動画をもう一つ見つけました。こちらの方が「寄りの絵」になっています。

 
(参考動画2)
『この島~憲法9条のうた~』 by m&n(Crowfield)

※“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2015”でのm&nの演奏。昨年、m&nが改名してCrowfieldになりました。
 

「軍学共同反対 共謀罪を考える 大学人シンポジウム」(4/9)を視聴しよう

 今晩(2017年4月10日)配信した「メルマガ金原No.2778」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
軍学共同反対 共謀罪を考える 大学人シンポジウム」(4/9)を視聴しよう

 昨日(4月9日)午後1時30分から、明治大学リバティタワー1階1011教室において、安全保障
関連法に反対する学者の会が主催し、首都圏大学・市民有志連絡会、軍学共同反対連絡会、明治大学教職員組合が共催する「軍学共同反対 共謀罪を考える 大学人シンポジウム」が開催されました。
 ちなみに、シンポジウムのタイトルには、「軍学共同反対」と「共謀罪を考える」の2大テーマしか表示されていませんでしたが、第2部の後半では、佐藤学さん(学習院大学教授)が、教育学者の視点から「森友学園問題の本質」と題した講演をされています。しかも、当日使われたパワーポイント資料の表題には、「戦後最大の教育スキャンダル」というサブタイトルが付されていました(※シンポジウムのチラシ)。
 実際、ところどころ視聴しただけですが、佐藤先生による講演の時に、一番会場が盛り上がっていたような(?)気がします。
 盛り上がれば良いというものではありませんが、森友学園問題は、国有財産が政治家や官僚によって非常に恣意的に処分されたという側面に光を当てるのが本筋であるにせよ、教育スキャンダルという側面も決して
忘れてはならないと思います(第2、第3の教育スキャンダルが出番を待っているようですし)。
 非常に盛り沢山な内容なので、視聴の便宜のため、各登壇者の発言を検索しやすいように目安の時間を記載しましたのでご活用ください。
 
20170409 UPLAN【第1部】軍学共同反対―大学と学問の危機に抗して(2時間05分) 
 
軍学共同反対 共謀罪を考える 大学人シンポジウム】
冒頭~ 総合司会 中野晃一氏(上智大学教授)
1分~ 開催挨拶 広渡清吾氏(日本学術会議前会長)
【第1部 軍学共同反対―大学と学問の危機に抗して】
11分~ 報告1「日本学術会議における審議過程」 小森田秋夫氏(神奈川大学教授)
43分~ 報告2「軍学共同の問題性」 池内 了氏(名古屋大学名誉教授)
1時間11分~ シンポジウム
 1時間11分~ 石田英敬氏(コーディネーター・東京大学教授)
 1時間13分~ 香山リカ氏(立教大学教授)
 1時間27分~ 田中義教氏(大学有志の会、法政大学)
 1時間40分~ 飯尾俊二氏(大学有志の会、東京工業大学
 1時間52分~ フロアーからの発言・質問、小森田秋夫氏、池内 了氏
 
20170409 UPLAN【第2部】高山佳奈子共謀罪の危険性」 佐藤学森友学園問題の本質」(53分)

【第2部 安倍政治を糺す】
1分~ 講演1「共謀罪立法の危険性」 高山佳奈子氏(京都大学教授)
24分~ 講演2「森友学園問題の本質-戦後最大の教育スキャンダル-」
       佐藤 学氏(学習院大学教授)
49分~ まとめ 中野晃一氏

「テロ対策」が嘘だと自信をもって言えるようになるために~共謀罪緊急学習会を受講する意義

 今晩(2017年4月9日)配信した「メルマガ金原No.2777」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「テロ対策」が嘘だと自信をもって言えるようになるために~共謀罪緊急学習会を受講する意義

 本日(4月9日)午後1時から、和歌山県御坊市の日高教育会館において、「“共謀罪”とは何か?・その狙いとは」と題した緊急学習会の講師を務めてきました(※チラシ)。
 主催の「憲法9条を守り・いかす日高連絡会」は、憲法9条を守る御坊・日高共同センターと御坊・日高地方の地域9条の会との連絡会ということで、開会前に会長さんと少しお話をしたところ、日高郡内の市町には全て9条の会があり、熱心に活動していることが分かりました。
 今日も、午前中にスタンディングアピールをした上で、午後から学習会に取り組んでいただいたのでし
た。
 共謀罪に反対する運動は、当面、安保法案の時よりもはるかに短期決戦と考えねばならず、悠長に学習会などやっている場合ではないという意見があるかもしれませんが、私の見るところ、安保法案の時よりも、さらに法案の中身自体についての理解が進んでいないように思われます。そして、そういう事情は、法案に賛成する側にしても同じようなものであり、どちらも、実際の法案自体は横に置いた上で、賛成とか反対とか声を上げているものの、中身がよく分かってないので、どうしても発言自体が自信なげになり
がちです。
CIMG7046 そういった状況の中、4月6日の衆議院本会議での安倍首相の答弁が、いくら官僚が用意した(多分オールルビ付きだと推測します)答弁用原稿の棒読みであろうが、何十回でも「テロ対策」のために必要という見え透いた嘘を繰り返そうが、嘘を嘘と見抜いている人は多くなく、「嘘も100回言えば本当になる」というたとえのとおり(ちなみに、ナチスドイツ宣伝相ゲッベルスがこう言ったというのは「嘘」
に近いらしいですが)、それがそのまま通用することになりかねません。
 自信をもって、「テロ対策は嘘だ」と言えるようになるだけでも、緊急学習会の意義はあるだろうと思
います。
 なお、3月3日の和歌山県平和フォーラムなど主催による学習会と同様、主催者に無理を言って、『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(全48頁・頒価200円)をテキストとして用意してい
ただきました。
 以下に、はなはだ不十分なものであり、とても公開するようなものではないという自覚はあるのですが、「短期決戦」という覚悟を決める以上、このようなレジュメでも、何かの役に立つこともあるかもしれ
ないと考え、今日の学習会のために書いたレジュメをご紹介します。ちにみに、これは、3月3日の学習会用に書いたメモをふくらませたものであることをお断りします。
 ちなみに、本稿は、本メルマガ(ブログ)における共謀罪シリーズの第19回となります。
 

2017年4月9日(日)午後1時00分~ 日高教育会館(和歌山県御坊市
憲法9条を守り・いかす日高連絡会 憲法連絡会・緊急学習会

            “共謀罪”とは何か?・その狙いとは
 
                               弁護士 金 原 徹 雄  
 
1 3月21日に国会に上程された共謀罪法案
(1)2月28日に自民・公明両党に示された法案には「テロ」の「テ」の字もなかった。
 ところが、与党からの指摘を受け、共謀罪の構成要件を定めた「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」第6条の2に、4箇所も「テロリズム集団その他の」という文言を追加する修正を加え、閣議決定の上、3月21日に衆議院に提出した。
 
テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
 
 もちろん、「テロリズム集団」は単なる例示であり、意味があるのは「その他の」の方である。
(2)本レジュメ起案時は、4月6日に審議入りすることで、自民・公明両党が合意に達したと伝えられている段階である。
 
2 資料の説明
①「一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる」(全48頁)
 (以下、本レジュメで「テキスト」と呼称)
 編集・発行
  「秘密保護法」廃止へ!実行委員会(平和フォーラム 新聞労連 ほか)
  「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会(許すな!憲法改悪市民連絡会 憲法会議)
  盗聴法廃止ネットワーク(盗聴法に反対する市民連絡会 日本国民救援会
 ※上記3団体に、
  「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」
  「共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会」
 が加わって「共謀罪NO!実行委員会」が作られ、統一署名が呼びかけられている(後記)。
②「対象の犯罪と罪名一覧」
 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」別表第3と第4を新聞社でまとめたもの(対象犯罪数277)
 
3 共謀罪の「これまで」を振り返る(テキスト15、26頁)
 2000年11月:国連越境組織犯罪防止条約 採択
 2003年 3月:第1回 国会上程
 2004年 2月:第2回 国会上程
 2005年10月:第3回 国会上程
 2006年4月~6月:与野党修正案提出
 2006年 9月:第一次安倍晋三内閣成立
 2009年 7月:第3回法案が衆議院解散にともない廃案に
 2012年12月:第二次安倍晋三内閣成立
 2017年 3月:第4回 国会上程 
 
4 共謀罪が出来たなら~最も重大な3つの問題点
(1)日本の刑事法体系が破壊される(テキスト6頁)
①陰謀(共謀)→予備→未遂→既遂
・陰謀(共謀)罪は例外中の例外
・刑法77条「内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。」
・他に、外患陰謀罪、私戦陰謀罪、爆発物取締罰則等 
・ところが、広汎な犯罪について共謀(計画)を罰することになると、未遂は処罰されないのにその前々
段階の共謀(計画)は処罰されるというような犯罪が続出するという不合理な事態が現出する。
 ※例:横領罪(刑法252条/5年以下の懲役) 未遂処罰規定なし
②未遂罪との均衡がくずれる
 刑法43条「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」
 実行に着手までしながら、自らの意思で中止した場合(中止未遂)には、必要的にその刑が減軽または免除されるのに、その前々段階の共謀(計画)の段階で検挙されれば、自ら(抜け駆けで)実行の着手前に自首しない限り、減軽・免除の利益を受けられない(共謀罪法案第6条の2第1項ただし書)という不均衡が生じる。  
③日本の刑事法体系の思想(テキスト6頁)
 罰すべきは「意思」ではなく「行為」である。
 具体的な「法益侵害」またはその「具体的危険」が発生したことが刑罰権行使の根拠とする。
(2)「捜査」のあり方が一変する(テキスト7頁)
・共謀(計画)罪は、2人以上の者の意思の合致によって成立する。
・どうやって捜査するのか?盗聴(通信傍受)、おとり捜査が常態化する恐れがある。
・既に昨年、通信傍受法・刑事訴訟法が「改正」され、通信傍受できる対象犯罪が拡大されており(同年12月施行)、また、従来のように通信事業者の施設内でその立会いの下でやらねばならないという制約も撤廃されている(こちらの施行はまだ)。共謀罪が成立すれば、これも盗聴(通信傍受)の対象とされる可能性が非常に高い。
(3)人権が蔑ろにされる息苦しい社会となる(テキスト5、21、28頁)
・犯罪構成要件が曖昧過ぎる。
・刑罰法令の人権保障機能が失われる。
・思想・良心の自由、表現の自由などの人権体系の根幹をなす優越的権利が危機に瀕する。
・現在よりも、一層の「監視社会化」が進んだ息苦しい社会が到来することは疑いない。法案(第6条の2第1項ただし書)による密告奨励の自首規定はそれを助長する。
⇒昨年の参院選大分県警(別府署)が野党統一候補陣営を隠しカメラで盗撮していたことを想起せよ。
 
5 国連越境組織犯罪防止条約の批准に共謀罪は不要(テキスト15頁)
・そもそも条約はマフィアや蛇頭などの国際的組織犯罪集団の効果的な取り締まりのために締結された条約であってテロ対策は無関係。
・日本は全てのテロ対策条約(全部で13)を批准済み。
国連越境組織犯罪防止条約を批准済みの187カ国のうち、批准のために新たに共謀罪を作ったのはノルウェーブルガリアの2カ国のみと政府も答弁している。
・現行法のままで条約批准は可能。必要であれば留保宣言付きで批准すればよい。 
 海渡雄一弁護士レジュメから引用
 「越境組織犯罪条約については、日本政府は異常なほど律儀に条約の文言を墨守して、国内法化をしようとした。むしろ、一部の法務警察官僚は、批准を機に過去になかったような処罰範囲の拡大の好機ととらえた節がある。もしかすると、アメリカ政府との間で、アメリカ並みの共謀罪を作るという合意があったのかもしれない」
 
6 戦争する国づくりの集大成としての共謀罪(テキスト11頁)
 2006年 教育基本法「全面改悪」(第一次安倍政権)
 2013年 秘密保護法(以下、第二次安倍政権)
 2015年 安保法制(戦争法)
 2016年 盗聴法(通信傍受法)拡大
 2017年 共謀罪
 国が常時市民を監視し、萎縮させ、戦争に協力させるための体制作りの集大成としての共謀罪。 
 
7 共同の取組で共謀罪阻止を
(1)「共謀罪NO!実行委員会」結成(2017年3月~)
 呼びかけ団体
 ●「秘密保護法廃止」へ!実行委員会(新聞労連、平和フォーラム等)
 ●解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会(憲法会議、許すな!憲法改悪・市民連絡会等)
 ●日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
 ●共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
 ●盗聴法廃止ネットワーク(日本国民救援会等)
(2)3月~5月 緊急統一署名に取り組もう!
 「共謀罪NO!実行委員会」
 「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」
 が共同で呼びかける。
(3)和歌山でも
和歌山県平和フォーラムと和歌山県地方労働組合評議会が「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の枠組により、共謀罪に反対する共通チラシを作成・配布している。
・3月9日(木)18時~19時、JR和歌山駅前で、上記両団体などが参加する緊急行動(統一署名も)が行われた。
・国会での審議入りを踏まえた早急な運動の拡大が求められている。
                                             以 上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
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2017年2月23日
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2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年2月6日2017年3月31日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.7~4/9日高教育会館(御坊市)で学習会がありま
2017年4月7日

教育勅語に関する安倍晋三内閣の立場を再確認する~初鹿明博衆議院議員の質問主意書に対する答弁書を読んで

 今晩(2017年4月8日)配信した「メルマガ金原No.2776」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
教育勅語に関する安倍晋三内閣の立場を再確認する~初鹿明博衆議院議員質問主意書に対する答弁書を読んで

 明治23年10月30日に発布され、翌31日に官報に掲載された勅語、いわゆる教育勅語が、これほど耳目を集めることになるとは思いませんでした。きっかけはどの辺なのでしょうか。やはり「森友学園
問題」からでしょうかね。
 実際、最近、私がメルマガ(ブログ)で教育勅語に触れたのは、まず、3月19日に行われた「『森友
10万人デモ』安倍退陣に追い込もう! 緊急集会クライマックス」(国会正門前)における鈴木邦男さん(一水会最高顧問)によるスピーチを文字起こしした時でした(鈴木邦男さんの「愛国」スピーチ@3/19国会正門前~全編文字起こし/2017年3月25日)。
 
鈴木邦男氏スピーチ文字起こしから抜粋引用開始)

 だって、今、教育勅語、憶えてる人いないですよ。僕も知りません。(歴代の)天皇の名前も知りませ
ん。右翼でしたらみんな知ってると思うかもしれませんが、知らないです。というのは、10年、20年前くらいまではね、結構、右翼の人たちも、「我々は右翼なんだから、きちっと教育勅語を奉読しなくちゃ」と、そういう人もいました。だから、どんな集会に行っても、教育勅語奉読というのをやってました。でもそれはね、右翼の先輩である野村秋介さんが止めさせたんです。なぜ止めさせたかというと、これ義務で、俺たち愛国者だから、俺たちは右翼だから、やらなくちゃいけないんだということでやってる。そうすると、若い人が読むと、つっかえるんですね(笑)。難しいから、読めないんです。それで、「なんだこれは」と思って野村さんが言ったのは、「義務でやるなんて止めろ。心がこもってないんなら止めろ」と、そういうことで止めさせました。多分、僕なんかがそんなこと言ったら殺されるでしょうけど、野村さんだからね、全部止めたんです。
(略)
 で、教育勅語もそうですけど、子どもたちに教育勅語を暗唱させてどうするんですか。その子どもたち
がどうなったかを、きちんと誰かルポしてみたらいいんじゃないですかね(笑)。
(引用終わり)
 
 次に私がメルマガ(ブログ)で教育勅語を取り上げたのは、家庭教育支援法案(まだ国会上程されていないようですが)について考えた時で、この法案の直接的な根拠は2006年版・新教育基本法の第10条「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。/2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」にあるのですが、その淵源を遡れば、どうしても教育勅語に行き着くということで、その全文を引用しました(「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む/2017年3月29日)。
 
(引用開始)
朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世々厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ敎育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ
皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン
斯ノ道ハ實ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施
シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其德ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ
明治二十三年十月三十日
御名御璽
(振り仮名付き)
朕(ちん)惟フニ(おもうに)我カ(わが)皇祖皇宗(こうそ こうそう)國ヲ(くにを)肇ムルコト(はじむること)宏遠ニ(こうえんに)德ヲ樹ツルコト(たつること)深厚ナリ(しんこうなり)我カ(わが)臣民(しんみん)克ク(よく)忠ニ(ちゅうに)克ク(よく)孝ニ(こうに)億兆(おくちょう)心ヲ一ニシテ(しんをいつにして)世世(よよ)厥ノ(その)美ヲ(びを)濟セルハ(なせるは)此レ(これ)我カ國體(こくたい)ノ精華ニシテ敎育ノ淵源(えんげん)亦(また)實ニ(じつに)此ニ(ここに)存ス(ぞんす)爾(なんじ)臣民(しんみん)父母ニ孝ニ(ふぼに こうに)兄弟ニ友ニ(けいていに ゆうに)夫婦相和シ(ふうふ あいわし)朋友相信シ(ほうゆう あいしんじ)恭儉己レヲ持シ(きょうけん おのれをじし)博愛衆ニ及ホシ(はくあい しゅうにおよぼし)學ヲ修メ業ヲ習ヒ(がくをおさめ しゅうをならい)以テ智能ヲ啓發シ(もってちのうをけいはつし)德器ヲ成就シ(とっきをじょうじゅし)進テ公益ヲ廣メ(すすんでこうえきをひろめ)世務ヲ開キ(せむ/せいむ をひらき)常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ(つねにこっけんをじゅうし こくほうにしたがい)一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ(いったんかんきゅうあれば ぎゆうこうにほうじ)以テ(もって)天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ(てんじょうむがいのこううんをふよくすべし)是ノ如キハ(このごときは)獨リ(ひとり)朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス(ちんがちゅうりょうのしんみんたるのみならず)又(また)以テ(もって)爾(なんじ)祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ
足ラン(そせんのいふうをけんしょうするにたらん)
斯ノ(この)道ハ實ニ(じつに)我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ(いくんにして)子孫臣民ノ倶ニ(ともに)守スヘキ(じゅんしゅすべき)所(ところ)之ヲ古今ニ通シテ謬ラス(あやまらず)之ヲ中外ニ施シテ悖ラス(もとらず)朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ(けんけんふくよう して)咸(みな)其德ヲ(そのとく
を)一ニセンコトヲ庶幾フ(こいねがう)
明治二十三年十月三十日
御名御璽(ぎょめい ぎょじ)
(引用終わり)
 
 ただ、その後、高橋源一郎さんによる卓抜な現代語訳の存在を知り、それもご紹介すべきだったかなと思います。
 全文転載するのもいかがかと思うので(一種の文芸作品でもある?)、高橋さんのtwitterにリンクした上で(3月14日に8回に分けて投稿されています)、その一部のみ引用します。
 
高橋源一郎訳「教育勅語」①
高橋源一郎訳「教育勅語」②
高橋源一郎訳「教育勅語」③
高橋源一郎訳「教育勅語」④
高橋源一郎訳「教育勅語」⑤
「もちろんのことだけれど、ぼくが制定した憲法を大切にして、法律をやぶるようなことは絶対しちゃい
けません。よろしいですか。さて、その上で、いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、戦争
が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください」
(原文)常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ(以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ)
高橋源一郎訳「教育勅語」⑥
「というか、永遠に続くぼくたち天皇家を護るために戦争に行ってください。それが正義であり「人とし
ての正しい道」なんです。そのことは、きみたちが、ただ単にぼくの忠実な臣下であることを証明するだ
けでなく、きみたちの祖先が同じように忠誠を誓っていたことを讃えることにもなるんです」
(原文)以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ/是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先
ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン
高橋源一郎訳「教育勅語」⑦
高橋源一郎訳「教育勅語」⑧
高橋源一郎訳「教育勅語」あとがき
「とまあ、サクっと訳したので、若干間違いあるかもしれませんが、だいたい、いい線いってると思いま
す。自分で読み返して思ったんですが、これ、マジ引くよね……。」
 
 ここまでだけでもなかなか賑やかなことですが、事態を一層紛糾させたのは・・・というか、事態がどうなっているのかを白日の下に明らかにするきっかけとなったのが、民進党衆議院議員初鹿明博氏の質問主意書教育勅語の根本理念に関する質問主意書」に対し、3月31日、内閣によってなされた答弁の内容が明らかになったことによります。
 
朝日新聞デジタル 2017年3月31日 13:12 
教育勅語、教材で用いること否定せず 政府が答弁書

(引用開始)
 政府は31日、戦前・戦中の教育勅語を学校教育で使うことについて、「勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切である」としたうえで、「憲法教育基本法等に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書閣議決定した。民進党の初鹿
明博衆院議員の質問主意書に答えた。
 勅語については、太平洋戦争後の1948年、衆参両院が排除・失効の確認を決議している。
 また、稲田朋美防衛相が国会答弁で「親孝行や友達を大切にするとか、そういう(勅語の)核の部分は今も大切なもの」と述べたことの是非について、答弁書は「政治家個人としての見解」とし、政府として
の見解を示さなかった。
(引用終わり)
 
 この後、週明けの4月3日以降、松野博一文部科学大臣菅義偉官房長官らが、この答弁書の線に沿った発言を繰り返しただけではなく、昨日(4月7日)の内閣委員会では、義家弘介文部科学副大臣が、さらに踏み込んだ発言を行いました(意図的なのか、ただのばかなのか、判断に迷いますが、おそらくは前者の可能性の方が高いような気がします)。
 
朝日新聞デジタル 2017年4月7日13時43分
朝礼での教育勅語の朗読「問題のない行為」 文科副大臣

(引用開始)
 義家弘介文部科学副大臣は7日の衆院内閣委員会で、幼稚園など教育現場の毎日の朝礼で子どもたちが教育勅語を朗読することについて、「教育基本法に反しない限りは問題のない行為であろうと思います」
と答弁した。
 民進党泉健太氏が、学校法人「森友学園」(大阪市)が運営する幼稚園の従来の教育方針に触れたう
えで、「朗読は問題のない行為か」とただした。
 泉氏が「『教育基本法に反しない限り』とは何か」と重ねて問うと、文科省の白間竜一郎審議官が「どういう教育を行うかは一義的にそれぞれの学校で創意工夫しながら考えることであり、問題があるかどう
かは法令等に照らし、所轄庁である都道府県が適切に判断される」と答えた。
 教育勅語をめぐっては、中曽根内閣だった1983年5月の参院決算委員会で、瀬戸山三男文部大臣(当時)が島根県の私立高校が学校行事で教育勅語を朗読していたことについて、「教育勅語を朗読しない
、学校教育において使わないことで今日まで(全国の学校に)指導してきた」と述べていた。(南彰)
(引用終わり)
 
 こうなったら、とにかく初鹿議員の質問主意書とそれに対して閣議決定を経て答弁された内閣の見解とをしっかり読み込むことがどうしても必要だと思います。
 今週始めに衆議院ホームページを確認したところでは、初鹿議員の質問主意書しか掲載されていなかったのですが、今日閲覧したところ、ようやく内閣答弁書も掲載されていました(もっとも、まだPDF版だけですが)。
 
 
 
 以下には、分かりやすくするため、初鹿議員の質問主意書の内容を紺色で全文転載した上で、各項目に対する内閣答弁書の内容を、各質問項目の直後に対応させて掲載します(茶色で表記)。
 
質問主意書及び答弁書から引用開始)
教育勅語の根本理念に関する質問主意書
 
 教育ニ関スル勅語(以下、教育勅語と言う)は終戦後、昭和二十三年六月十九日に、衆議院で「教育勅語等排除に関する決議」が、参議院で「教育勅語等の失効確認に関する決議」が決議され、国権の最高機関である国会によって、教育の指導原理性が否定されました。
 この事実を踏まえて、以下政府に質問します。
 
一 衆議院の排除決議において、教育勅語の根本理念が「主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる」として、この排除と指導原理的性格を認めないことが宣言されています。政府は教育勅語の根本理念が「主権在君」並びに「神話的国体観」に基づいているという決議の考えを現在も踏襲しているのでしょうか。
 
答弁書
一について
 お尋ねの「決議の考えを現在も踏襲している」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘
の「教育勅語等排除に関する決議」は、「教育勅語・・・その他の教育に関する諸詔勅・・・の根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる。よつて憲法第九十八条の本旨に従い、ここに衆議院は院議を以て、これらの詔勅を排除し、その指導原理的性格を認めない」ことを宣言したと承知しているが、教育に関する勅語については、昭和二十三年六月十九日の衆議院本会議において、森戸文部大臣(当時)が「教育勅語その他の詔勅に対しましては、教育上の指導原理たる性格を否定してきたのであります。このことは、新憲法の制定、それに基く教育基本法並びに学校教育法の制定によつて、法制上明確にされました」と答弁しているとおりであると考えている。
 
二 松野博一文部科学大臣は、記者会見において「憲法教育基本法に反しないように配慮して授業に活用するということは、これは一義的にはその学校の教育方針、教育内容に関するものでありますし、また、教師の皆さんに一定の裁量が認められる」と発言し、その後の国会質疑でも同様の答弁を繰り返しています。
 衆議院の決議を踏まえれば、教育勅語は「民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ」などの現在
でも守るべき徳目が記載されているとはいえ、根本理念が基本的人権を損ない、国際信義に疑点を残すものであり、教育勅語の本文をそのまま教育に用いることは憲法上認められないと考えますが、政府の見解を伺います。
 
答弁書
二について
 お尋ねのような行為が憲法に違反するか否かについては、個別具体的な状況に即して判断されるべきも
のであり、一概にお答えすることは困難である。
 
三 衆参の決議を徹底するために、教育勅語本文を学校教育で使用することを禁止すべきだと考えますが、政府の見解を伺います。
 
答弁書
三について
 お尋ねの「禁止」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、学校において、教育に関す
勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法教育基本法(平成十八年法律第百二十号)等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではないと考えている。
 
四 教育勅語について、稲田朋美防衛大臣は「教育勅語の核である、例えば道徳、それから日本が道義国家を目指すべきであるという、その核について、私は変えておりません」「私は、その教育勅語の精神であるところの、日本が道義国家を目指すべきである、そして親孝行ですとか友達を大切にするとか、そういう核の部分ですね、そこは今も大切なものとして維持をしている」「教育勅語に流れているところの核の部分、そこは取り戻すべきだというふうに考えております」と教育勅語に共感する答弁を行っています
 閣僚が教育勅語に共感、共鳴、賛意を示す事は、衆議院の排除決議で指摘した国際信義に疑点を残すこ
とに繋がると考えますが、政府の見解を伺います。
 
五 国際社会において信頼される道義国家であるためにも、国際社会に疑点を残す考えを表明している稲田朋美防衛大臣は罷免すべきだと考えますが、政府の見解を伺います。
 
 右質問する。
 
答弁書
四及び五について
 御指摘の答弁は、稲田防衛大臣が政治家個人としての見解を述べたものであると承知しており、当該答
弁に係るお尋ねについては、政府としてお答えする立場にない。
 稲田防衛大臣については、本年三月二十七日の参議院予算委員会において、安倍内閣総理大臣が「今後
ともしっかりと職責を全うしてもらいたい」と答弁しているところである。
(引用終わり)
 
 長々と引用してきましたが、明らかに従来の政府の立場を踏み越え(少なくとも中曽根内閣当時とは異なり)、教育現場での教育勅語の使用を許容するというメッセージを発しているということで、昨日の衆議院内閣委員会での義家弘介文部科学副大臣の答弁も、単なる戯れ言や口が滑ったという類いの発言ではなく、3月31日付答弁書の射程範囲内での答弁だったと理解すべきなのだろうと思います。
 いやあ、とんでもないことになっていますが、これを「とんでもない」と思う国民が多数派になるのは夢のまた夢なのでしょうか?
 
 最後に、初鹿博明議員の質問主意書に引用されている、衆参両院の決議をご紹介しておきます。
 
昭和23年6月19日 衆議院本会議
教育勅語等排除に関する決議

(引用開始)
 民主平和國家として世界史的建設途上にあるわが國の現実は、その精神内容において未だ決定的な民主化を確認するを得ないのは遺憾である。これが徹底に最も緊要なことは教育基本法に則り、教育の革新と振興とをはかることにある。しかるに既に過去の文書となつている教育勅語並びに陸海軍軍人に賜りたる勅諭その他の教育に関する諾詔勅が、今日もなお國民道徳の指導原理としての性格を持続しているかの如
く誤解されるのは、從來の行政上の措置が不十分であつたがためである。
 思うに、これらの詔勅の根本理念が主権在君並びに神話的國体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ國際信義に対して疑点を残すもととなる。よつて憲法第九十八條の本旨に從い、ここに衆議院は院議を以て、これらの詔勅を排除し、その指導原理的性格を認めないことを宣言する。政府は直ち
にこれらの詔勅の謄本を回収し、排除の措置を完了すべきである。
 右決議する。
(引用終わり)
 
第2回国会 昭和23年6月19日 参議院本会議 
教育勅語等の失効確認に関する決議

(引用開始)
 われらは、さきに日本国憲法の人類普遍の原理に則り、教育基本法を制定して、わが国家及びわが民族を中心とする教育の誤りを徹底的に払拭し、真理と平和とを希求する人間を育成する民主主義的教育理念をおごそかに宣明した。その結果として、教育勅語は、軍人に賜はりたる勅諭、戊申詔書、青少年学徒に
賜はりたる勅語その他の諸詔勅とともに、既に廃止せられその効力を失つている。
 しかし教育勅語等が、あるいは従来の如き効力を今日なお保有するかの疑いを懐く者あるをおもんばかり、われらはとくに、それらが既に効力を失つている事実を明確にするとともに、政府をして教育勅語
の他の諸詔勅の謄本をもれなく回収せしめる。
 われらはここに、教育の真の権威の確立と国民道徳の振興のために、全国民が一致して教育基本法の明
示する新教育理念の普及徹底に努力をいたすべきことを期する。
 右決議する。
(引用終わり)

共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.8~三重県議会、宮崎県議会が「慎重な検討を求める意見書」を採択

 今晩(2017年4月7日)配信した「メルマガ金原No.2775」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.8~三重県議会、宮崎県議会が「慎重な検討を求める意見書」を採択

 共謀罪シリーズの第18回をお送りします。
 3月21日に閣議決定され、その日のうちに国会に上程された共謀罪法案組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)が、昨日(4月6日)、いよいよ衆議院本会議で審議入りしました。
 今日は、その関連のニュース、動画の他、同じく昨日(4月6日)日比谷野外音楽堂で行われた「話し合うことが罪になる共謀罪法案の廃案を求める4・6大集会&デモ」の動画をご紹介しました。
 そして、声明の部では、宮崎県議会が3月22日に採択した「テロ等準備罪」の新設について慎重な検討を求める意見書」をご紹介しました。自民党が優に過半数を超える議席を有する地方議会において、いかにして「慎重な検討を求める意見書」が採択(それも全会一致!)されるに至ったのか、その間の事情は詳らかにしませんが、いずれにせよ注目したいと思います。
 
【その1 ニュースの部】
東京新聞 2017年4月7日 朝刊
「共謀罪」審議入り 首相「テロ対策」前面 野党「市民も処罰の恐れ」

(抜粋引用開始)
 犯罪に合意したことを処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は六日、衆院本会
議で審議入りした。安倍晋三首相は「東京五輪パラリンピックを控え、テロ対策に万全を期すことは開催国の責務」などと共謀罪の必要性を強調。野党は「テロ対策は口実」「憲法が保障する思想・良心の自
由などを侵害する」「一般市民も処罰の可能性がある」などと追及した。(山田祐一郎、木谷孝洋)
 共謀罪は組織的犯罪集団の活動として、二人以上で犯罪を計画(合意)し、誰か一人が何らかの準備行
為をした場合、全員が処罰される。自民、民進、公明、共産、日本維新の会の五党が質疑に立った。
 心の中で考えたことが処罰されるとの指摘について首相は「内心を処罰するものでない」と繰り返し、
その根拠として、合意だけでなく準備行為がなければ処罰できないことを挙げた。
 しかし、処罰対象は犯罪の手前の段階の「合意」であり、捜査では外側から分からない心の中を調べることになる。また準備行為は、資金や物品の手配、下見と、曖昧で危険性がない行為であり、捜査機関の
判断次第でどんな行為も準備行為とみなされ、捜査につながる恐れがある。
 公明党国重徹氏が「市民団体が座り込みを計画しただけで組織的犯罪集団に当たるのか」と指摘すると、金田勝年法相は「目的が重大な犯罪の実行にあるとは考えられず、対象になることはない」と答えた。だが、普通の団体でも目的が犯罪の実行に変わったとみなされれば、組織的犯罪集団に認定される可能
性がある。目的が変わったかどうかを判断するのは捜査機関になる。
 政府は今回、共謀罪を「テロ等準備罪」と呼び、テロ対策を前面に押し出す。民進党逢坂誠二氏は「テロ対策を口実にして法案の成立を画策するのは姑息(こそく)な手口だ」と批判。これに対し、首相は
「テロ対策に『これで十分』ということはない。できる対策は全て尽くす」と説明した。
(略)
 本紙は、組織犯罪処罰法改正案の審議で注目する三つのテーマと九つの論点を設定しました。今後、政
府・与党と野党がどのような議論を交わすのか。継続的にチェックしていきます。
(金原注)東京新聞が設定した「三つのテーマと九つの論点」は以下のとおりです。
「心の中」の処罰(違憲の恐れ)
①計画段階の捜査で人権侵害の恐れ
②何が「合意」に当たるのか
③何が「準備行為」に当たるのか
一般人の処罰
④何が「組織的犯罪集団」に当たるのか
⑤冤罪、誤認逮捕の恐れ
「テロ対策」なのか
⑥なぜ対象犯罪が277なのか
⑦テロを防止できるか
⑧国際組織犯罪防止条約はテロを対象にしているのか
共謀罪なしで条約締結できないのか
(引用終わり)
 
【その2 動画の部】
平成29年4月6日 【衆議院】 「本会議」(2時間06分)
 
20170406 UPLAN 話し合うことが罪になる共謀罪法案の廃案を求める4・6大集会&デモ(2時間28分)

開会の挨拶
 
24分~ 海渡雄一さん(共謀罪NO!実行委員会)
政党挨拶
29分~ 有田芳生さん(民進党参議院議員
36分~ 田村智子さん(共産党参議院議員
41分~ 福島瑞穂さん(社民党参議院議員
48分~ 山本太郎さん(自由党参議院議員
55分~ 伊波洋一さん(沖縄の風参議院議員
発言
1時間01分~ 吉岡 忍さん(ノンフィクション作家/日本ペンクラブ専務理事)
1時間08分~ 青木初子さん(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
1時間14分~ 佐藤学さん(安全保障関連法に反対する学者の会)
1時間18分~ 山口二郎さん(立憲デモクラシーの会)
1時間22分~ 高山佳奈子さん(京都大学教授・刑事法)
行動提起 
1時間28分~ 福山真劫さん(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)
共催:共謀罪NO!実行委員会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
会場:日比谷野外音楽堂
1時間32分~ 国会請願デモ
 
【その3 声明の部】
宮崎県議会 議員発議案第3号
「テロ等準備罪」の新設について慎重な検討を求める意見書

(引用開始)
 東京オリンピックパラリンピック競技大会の開催を三年後に控えており、テロ対策は最重要課題の一つである。テロ行為を防止するためには、国際社会と緊密に連携することが必要不可欠であり、こうした協力関係を構築する上で、既に187の国と地域が締結している「国際的な組織犯罪の防止に関する国際
連合条約」を締結することは極めて重要である。
 今般、同条約に基づく国内法の整備の一環として、「テロ等準備罪」の新設が検討されているが、現行法においてもテロ行為等の準備行為を処罰する規定が存在しており、現行法の規定に加えて、テロ行為等
の準備行為の処罰を一般化する必要性や合理性が明らかにされなければならない。
 また、「テロ等準備罪」については、一般市民が対象とならないよう、犯罪の主体を「組織的犯罪集団」とする、対象となる罪を絞り込む、構成要件に準備行為を加えるなどの対応を図るとされているが、様
々な懸念があると指摘されている。
 犯罪の主体について、政府見解は、正当な活動を行っていた団体であっても、その目的が犯罪を実行することに一変したと認められる場合には、「組織的犯罪集団」に当たり得るとしており、取締りの対象に
なる可能性があると指摘されている。
 よって、本県議会は、国に対し、「テロ等準備罪」の新設について、幅広い観点から慎重に検討するこ
とを強く要望する。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
  平成29年3月22日
                              宮 崎 県 議 会
衆議院議長 大島理森 殿
参議院議長 伊達忠一 殿
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
法務大臣 金田勝年 殿
内閣官房長官 菅 義偉 殿
(引用終わり)
 
 以上は、3月22日に宮崎県議会が採択した意見書です。実は、都道府県レベルの議会では、3月2日に三重県議会「「テロ等準備罪」の新設について慎重な検討を求める意見書」を採択しており、宮崎県議会と表題が一緒であるばかりか、実は本文もほとんど一緒です。一字一句比較した訳ではありませんが、三重県議会にあった「加えて、「テロ等準備罪」の新設は、未遂に至らない段階の行為の処罰範囲を拡大することから、捜査機関による監視等の範囲の拡大につながるおそれがあることも懸念されている。」が、宮崎県議会で無くなっていること、執行先に、三重にはなかった菅義偉内閣官房長官が宮崎では付け加わっていることくらいでしょうか。
 明らかに、宮崎県議会が、先行する三重県議会の意見書を参考にしたものと思われます。
 それにもかかわらず、なぜ私が先行した三重県議会ではなく、宮崎県議会の方を引用したのかというと、三重県議会は、自民党ではなく、民進党系の「新政みえ」が最大会派であるという珍しい(?)
県議会であるのに対し、宮崎県議会は、定数39名の内、
  宮崎県議会自由民主党  22名
  自由民主党県民クラブ     1名
  自由民主党 青の国      1名
という具合に、自民党過半数議席を占めている状況の中、何と「全回一致」で、この「慎重な検討を
求める意見書」が採択されたということに注目したからです。
 どういう事情なのかよく分かりませんが、とりあえず「宮崎県議会、素晴らしい」と言うべきなのだろ
うと思います。
 
NHK WEB NEWS 4月6日 16時58分
「テロ等準備罪」 36地方議会が撤回などの意見書

(引用開始)
 共謀罪の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案が衆議院本会議で審議入りしましたが、6
日までに全国36の地方議会から法案の撤回や反対、それに、慎重な審議を求める意見書が国会に送られ
ています。
 衆議院の事務局によりますと、6日までに長野県千曲市福島県会津若松市、北海道江差町、東京都国立市など全国12の都道県にある合わせて36の地方議会からこの法案について意見書が衆議院に送られ
ているということです。
 このうち、29件は「国民を監視し萎縮させ、民主主義を奪う法案だ」などとして撤回や反対などを求めています。残りの7件は国民が抱く危惧を払拭(ふっしょく)し、十分慎重な審議を求めるなどとして
いるもので、この中には、三重と宮崎の県議会レベルの意見書が含まれています。
 一方、法案に賛成し、積極的に成立を求める内容のものはないということです。こうした意見書は今後
、正式に受理され、法案が審議される法務委員会に参考として送られることになっています。
 宮崎県議会は、先月22日、慎重な検討を求める意見書を全会一致で可決しています。意見書では「東京オリンピックパラリンピックを3年後に控え組織的なテロや犯罪を防ぐための国際組織犯罪防止条約を締結することは極めて重要だ」とする一方で、「テロ等準備罪」について、「さまざまな懸念があると指摘されている」としています。そのうえで、「国に対し幅広い観点から慎重に検討することを強く要望
する」としていて、全会一致で可決されました。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年2月6日2017年3月31日

「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」(4/5)に期待する

 今晩(2017年4月6日)配信した「メルマガ金原No.2774」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」(4/5)に期待する

 昨日(4月5日)夕刻、市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)と立憲野党4党(民進党日本共産党自由党社民党)の意見交換会が国会内で開かれ、野党4党は、「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」を確認しました。
 
産経ニュース 2017.4.5 21:57
4野党が次期衆院選に向け共通見解 「原発ゼロ」など市民連合に提示

(引用開始)
 民進、共産、自由、社民の4野党の幹事長らは5日、市民グループ「市民連合」との意見交換会を国会内で開き、次期衆院選の公約づくりに向け、「原発ゼロを目指す」と明記した4党の共通見解を提示した。自民党憲法改正草案をベースとした改憲の阻止や、安全保障法制の白紙化なども盛り込んだ。
 民進党野田佳彦幹事長は会合後、記者団に「今年は政治決戦の年。それに向けた準備をより加速していきたい」と強調した。共産党小池晃書記局長は「いよいよこれを土台にして、より豊かで魅力的な共通政策を作っていくことがわれわれの課題だ」と述べ、衆院選での野党共闘の条件としている「共通政策の締結」に向け意気込んでみせた。
 会合では、野田氏が「今日的な問題においても市民連合と強く連携したい」と提案。共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の成立阻止や、学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地払い下げ問題の真相解明をめぐっても、市民連合と連携を強化していくことで一致した。
(引用終わり)
 
 他のニュースも似たり寄ったりで、あまり詳しく報じたところはなかったようです。上記産経ニュースが比較的まとまっている方でしょうか(小池書記局長の発言について「意気込んでみせた」という部分はデスクによる修正か、それとも現場記者のデスクへの「忖度」か、が少し気になりますが)。
 もう一つ、東京新聞の記事も引用しておきます。
 
東京新聞 2017年4月6日 朝刊
次期衆院選の公約「原発ゼロ目指す」 4野党が共通見解

(抜粋引用開始)
 民進、共産、自由、社民の野党四党の幹事長・書記局長は五日、安全保障関連法廃止を掲げる市民グループ「市民連合」と国会内で会合を開き、次期衆院選の公約づくりを巡り「原発ゼロを目指す」などとした共通見解をまとめた。憲法九条の改悪阻止や安保関連法の白紙撤回、就学前から大学までの原則教育無償化なども明記した。各党が公約に反映させる。
 民進党野田佳彦幹事長は会見で、衆院選に向け「基本的理念、政策的な方向性は四党で共有できた。これを基本に政治決戦の準備を加速したい」と指摘。共産党小池晃書記局長は「魅力的な共通政策をつくることが課題だ」と述べた。
 ただ、民進党は共通公約に発展させることには慎重姿勢を示している。
(引用終わり/下線は金原による)
 
 実は、昨年の参院選前、2016年6月7日にも、市民連合が「野党4党の政策に対する市民連合の要望書」を提出し、これに4党の党首(社民党は幹事長)が署名したということがありました(必読!市民連合から4野党への要望書(付・6/12に和歌山のゆら登信さんと市民連合が政策協定に調印します/2016年6月8日)。
 今回は、昨年12月9日に市民連合が4党に提示した「市民連合が実現を目指す政策」についての協議結果を踏まえ、4党がとりまとめた「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」を確認したということです。
 
 そこで、その「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」全文を読んでみようと思って探したところ、民進党ホームページの「ニュース」欄に、「野党4党と市民連合との意見交換会で基本的な理念、政策的な方向性の共有を確認」という記事が掲載され、その中に、「四党の考え方」のPDFファイルも掲載されていましたので、少し長くなりますが、以下に全文引用します。。
 
(引用開始)
                                          2017年4月5日
 
         『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方
 
 四年間続いた安倍政権の下、我が国の立憲主義、民主主義は大きく脅かされている。アベノミクスは日本経済の持続的成長をもたらすことなく、格差を助長してきた。
 民進党日本共産党自由党社会民主党の野党四党は、昨年の参議院選挙にあたり、①安保法制を廃止し、集団的自衛権行使容認の閣議決定を撤回、立憲主義を回復する、②アベノミクスによる国民生活破壊、格差と貧困を是正する、③TPPや沖縄問題など、国民の声に耳を傾けない強権政治を許さない、④安倍政権の下での憲法改悪に反対する、との内容を共有・確認し、また、昨年6月7日に市民連合から提出された『野党4党の政策に対する市民連合の要望書』を受け止め、さらには昨年の通常国会で、介護、保育、雇用、被災者支援、男女平等、LGBT(性的マイノリティー)差別解消をはじめとした15本の議員立法を共通の政策として共同提案し、全力で戦った。
 野党四党は、これらの到達点、さらに早期の衆院解散・総選挙は十分にあり得るという前提のうえに立って、できる限りの協力を進めることで合意している。今般、『市民連合が実現を目指す政策』についても、その現状認識及び基本理念を十分共有できると確認した。
 今こそ、安保法制を廃止し、立憲主義を回復するとともに、個人の尊厳と基本的人権の保障を進めることが求められている。自由民主党憲法改正草案のように立憲主義と平和主義を脅かす憲法改正は認められない。アベノミクスからの転換を進め、すべての人間に尊厳ある生活を確保するための社会経済政策を実現すべきである。
 今後も、安倍政権の打倒を目指して政策面や国会活動における四党間の協力を進めていく。
(改頁)
 
 四年間続いた安倍政権の下、我が国の立憲主義、民主主義は危機に直面している。アベノミクスは日本経済の持続的成長をもたらすことなく、格差拡大を助長し、人口減少を放置してきた。
 民進、共産、自由、社民の四党は、早期の衆院解散総選挙は十分にあり得るという前提に立って、できる限りの協力を進めることで合意している。そのうえで、市民連合が実現を目指す政策について四党政策実務者による協議を進めた結果、以下のような考え方を共有することを私たちは確認した。
 
1. 国民生活の安定と「分厚い中間層」の復活に向け、社会経済政策を転換する
(1) 子育て・教育・若者
〇就学前教育から大学まで、すべての教育について原則無償化をめざす。
〇保育施設の拡充、保育士の賃金引き上げ等を通じて待機児童をなくす。
〇安倍政権が放置してきた子育て・教育への投資を劇的に拡大することにより、教育の機会平等と質の向上、持続的成長の実現、雇用の創出、女性の社会進出、人口減少対策等を後押しする。
(2) 雇用・働き方
〇残業代ゼロ法案の成立を阻止するとともに、インターバル規制を含む長時間労働規制法を早期に成立させる。
〇同一価値労働同一賃金の実現など非正規労働者に対する待遇の差別を禁止する。
最低賃金の大幅引き上げなど、賃金・労働条件を改善する。
(3) 社会保障
国民皆保険制度を維持し、年金の最低保障機能を強化する。
〇介護労働者の賃金など待遇を改善するなど、介護の充実を進める。
〇働き方や性別等に中立的かつ公正な社会保障制度、税制を確立する。
(4) 女性・ジェンダー
〇選択的夫婦別姓を実現する。
〇政治分野で候補者割り当てクオータを導入する。
〇包括的な性暴力の禁止に向け、性暴力被害者支援法を制定する。
LGBTに対する差別解消施策を盛り込んだ法律を制定する。
(5) 地域活性化
霞ヶ関目線で効果の上がらない地方創生を掲げ、カジノによる地域振興に迷走する安倍政権と対峙し、地方の自主性を尊重した公正な地域活性化を進める。
〇農家に対する所得補償制度を法制化する。
 
2. 原発ゼロを目指し、エネルギー政策を抜本的に転換する
(1) 原発ゼロを目指す
 3.11を原点として新しい日本のエネルギー政策を構想する。
(2) 省エネルギーの徹底
 断熱の徹底、廃熱の有効利用等をすすめ、世界一の省エネ社会を実現する。
(3) 再生可能エネルギーの飛躍的増強
 太陽光発電風力発電への支援、ソーラーシェアリングの大幅拡大等を進める。
(4) 地球温暖化対策の推進
 国際社会に通用する中長期数値目標を設定し、地球環境・生態系の保全を進めるとともに新産業と雇用の創出につなげる。
 
3. 立憲主義を守り抜き、平和を創造する
(1) 立憲主義と平和主義を脅かす憲法改悪の阻止
 自民党憲法改正草案は、立憲主義に反し、基本的人権の尊重や国民主権、そして平和主義という基本的価値を脅かすものであり、これを基礎とした改定、特に平和主義を破壊する憲法9条の改悪を阻止する。
(2) 2015年安保法制の白紙化
 安倍政権下で強行された安全保障法制は立憲主義と平和主義を揺るがすものであり、その白紙撤回を求める。
(3) 戦略的なアジア太平洋外交の推進
 同盟国である米国を含め、近隣諸国、関係国との対話を促進し、地域における信頼醸成に努める。
(4) 沖縄の基地負担の軽減
 沖縄の民意を踏みにじって基地建設を強引に進める政府の姿勢は、容認できない。沖縄県民の思いを尊重しながら基地負担の軽減を進める。
(5) 情報公開の推進と報道の自由の回復
 安倍政権下で後退した情報公開と報道の自由は、民主政治の基盤であり、危機感を持ってその推進、回復に取り組む。
                                           以上
(引用終わり)
 
 そこで、この「四党の考え方」の前提となった「市民連合が実現を目指す政策」も当然読んでみたいということになるのですが、上記民進党のニュースの中にPDFファイル化されて掲載されていました(市民連合のホームページには見当たらず)。
 けれども、このPDFファイルには、テキストデータが埋め込まれておらず、コピペすることができないので、全文はリンク先のPDFファイルをご覧になっていただくとして、市民連合が「私たちは以下の政策を提案します。」として掲げた「3 重要政策」の項目のみ転記します。
 
(抜粋引用開始)
               市民連合が実現を目指す政策
                                       2016.12.09

1 政治の現状認識 (略)
 
2 基本理念 (略)
 
3 重要政策
私たちは以下の政策を提案します。立憲野党の合意を得て、野党、市民の力で推進していくことを望みます。
① 安保法制の廃止と対話による平和の創出
(略)
・2015年安保法制の廃止
・アジアにおける相互信頼関係を再構築するためのイニシアティブ
・日米中韓による多角的対話の推進
南スーダンPKO駆けつけ警護からの即時撤収
・沖縄の民意を無視した辺野古新基地建設の停止と、基地負担の軽減
 
② 若者や女性に焦点を当てた社会経済政策の創造
(略)
A 女性・ジェンダー政策
・女性の自己決定権の保障 選択的夫婦別姓の実現
・雇用における男女差別の禁止と性暴力被害者支援法の制定
・ライフスタイルの選択を制約しない税制、社会保障制度の実現
・待機児童をなくすため、保育施設の充実、保育士の賃金引き上げ、保育の質を改善する
・国会、地方議会において候補者割当クオータを導入し、議員の男女同数を目指す
LGBT差別解消法の制定
B 子ども・若者政策
・子どもの貧困を廃絶するための中・高等教育を含む教育費の無償化
・学ぶ権利の保障のための中・高等教育を含む教育費の無償化
・給付型奨学金の創設と既存奨学金債務の減免
・仕事と子育てに取り組む若い家族のために、社会的セーフティネットとして低家賃の公営住宅を増設する。
 
③ 公正で持続可能な社会と経済をつくるための政策転換 
(略)
A 雇用政策の転換
・政府提出の労働基準法改正案への反対及び同法の遵守と長時間労働を規制する法案に罰則を設ける等長時間労働の規制
最低賃金の時給1500円以上への大幅引き上げなど働きつづけられる賃金・労働条件の引き上げ
・合理的理由のない格差を認めない同一労働同一賃金の実現など非正規労働者に対する差別の禁止・年金、健康保険に関する雇用形態による不利益の解消
B 社会保障政策の転換・2025年(高齢化のピーク)以降も持続する年金制度の再構築と最低保障年金の創設
・介護労働者の賃金改善
国民皆保険制度の維持
・累進所得税、法人課税、資産課税のバランスの回復、タックスヘイブン対策による公正な税制の実現
 
④ 脱原発への決意
(略)
東京電力福島第一原発事故の徹底的な究明と、安全対策や避難計画等が不備のままでの再稼働を認めない。
再生可能エネルギーの拡大計画の策定による温暖化対策の推進
 
⑤ 多様な地域社会の持続
(略)
・公共交通機関、教育・医療等の公共サービスの維持により生活基盤をどこでも平等に確保する
・農家に対する公正な所得補償制度
・地元に残りたい若者のための雇用創出と賃金の引上げ
(引用終わり)
 
 以上を読み比べてみれば、かなりの程度に市民連合からの「提案」を取り入れて、4党が「考え方を共有すること」が確認されたことが分かります。
 
 なお、いずれ記者会見の動画がアップされるのではないかと思いますが、各政党の公式サイトが、自党出席者の発言をどのように伝えたかを見ておきます(といっても、自由党社民党は見当たりませんでしたが)。
 
「(意見交換会で)野田幹事長は開会に当たって、3月12日の民進党結党後初めての定期党大会で「一致できる政策を見出す努力を行い、市民との連携を軸として野党の連携を進めていき、安倍1強支配に対抗していく」ことを活動方針として確認したことにも触れ、「今日はその前進につながる意見交換の場になることを強く期待したい」とあいさつ。」
「(記者会見で)野田幹事長は、「市民連合の皆さんが抱いている現状の認識と基本的な理念、政策的な方向性については4党でしっかり共有できたと思っている。このことを基本に置いて、政治決戦に向けた準備をより加速していきたい」と表明。森友学園疑惑の真相究明と共謀罪の廃案についても市民連合との共闘を確認できた意義にも触れ、「これからも連携を取りながら安倍政権打倒に向けて全力を尽くしていきたい」と力を込めた。
 共謀罪の廃案については特に、「内心の自由を脅かす脅威を共通して持っていること。こういう国民の多様な生き方、価値観、活動に対して制約を加えるような動きについてはそれぞれ立ち位置はあるかもしれないが強い危機感を共有しているということだ」と指摘。「過去にも協力して反対してきており、本質的な中身は変わっていない。むしろ性質(たち)が悪くなったのは正体隠しながらテロ等準備あるいはオリンピック対策と言っているということ。もっと筋も性質も悪くなっているのだから、より厳しく激しく闘っていく」と述べた。」
 
日本共産党 小池晃書記局長
日本共産党小池晃書記局長は意見交換会後の共同記者会見で、4野党の考え方について「これはまさに現時点での到達点。これを土台にして、より豊かで魅力ある共通政策をつくっていくことが課題だ」と強調。「『共謀罪』の廃案や『森友』問題の追及でも4野党が力を合わせてたたかっていく中で、より豊かな政策をつくっていくことが必要だ」と述べました。同時に、今後の政策づくりについて「議論の中身を国民のみなさんにみていただけるような努力もしながら、ぜひ来たるべき総選挙で、野党と市民の共闘で自公と補完勢力を少数に追い込んでいく。その旗印を立てていきたい。今日はその点で、大きな一歩が示された」と語りました。」
 
自由党 玉城デニー幹事長
※公式サイトにはアップされていない。
 
社民党 又市征治幹事長
※公式サイトにはアップされていない。
 
 東京新聞も伝えるとおり、「共通公約」を掲げるにはハードルが高いでしょうが、「事実上」であっても、極力、重要政策について共通の基盤を持つことはとても重要だと思います。
 衆議院解散の時期は混沌としていますが、この「四党の考え方」を基礎として、選挙区調整などの協議も具体的に進展することを心より願います。
 
(追記)
 このメルマガを配信してブログをアップした直後、中野晃一さんのFacebookで、市民連合の公式サイトに「4月5日 野党4党との意見交換会」がアップされたことを知りました。
 そこには、
 「市民連合が実現を目指す政策」(2016.12.09)
 「『市民連合が実現を目指す政策』に関する四党の考え方」(2017年4月5日)
 「市民連合からの野党4党への要請」(2017年4月5日)
という3点の文書が掲載されていました(もう少し待てば良かった!)。
 以下には、初めて読んだ「市民連合からの野党4党への要請」を全文引用します。
 全国各地で野党共闘を模索している市民運動にとって、これらの文書をどのように活用すべきか考えることが緊急の課題となるでしょう。
 
(引用開始)
市民連合からの野党4党への要請
 
 4野党が通常国会において安倍政権による国家の私物化に対して果敢に戦っていることに、市民連合は深い敬意を表します。
 昨年12月の4野党と市民連合の意見交換会において、市民連合は共通政策の骨子を提案し、その場で幹事長、書記局長から基本的に共有できるという反応をいただいたところです。その後、全国各地で野党と市民の協力を求める運動が広がり、市民連合のメンバーもそのような運動の集会に赴き、野党結集、野党と市民の共同の機運を高めるために尽力してきました。
 このたび、4野党から政策の基盤となる共通認識の骨子について見解を示していただきました。通常国会の多忙な日程の中、認識の共有のために努力してくださった4野党の方々に、市民連合はお礼申し上げたいと思います。また、市民連合の目指す政策について、その基本的な方向性を共有していただいたことに、感謝申し上げます。政策実現までの道筋やスピードについては各党間、および政党と市民連合との間で差異はありますが、現段階で作る共通認識は、野党と市民の共闘を進める際の道しるべとなるべきものであり、総選挙の際に政権交代を迫るための政策の手前の、基本的な方向性を示すもので十分だと考えます。
 野党結集を図るうえで、具体的な候補者の選定にはまだ長い話し合いが必要だと思われます。解散総選挙の時期が不透明になる中、市民連合はこれからしばらくの間、全国の運動において共有すべき政策を具体化する作業を進めたいと考えています。今回ご提示いただいた共通認識の骨子は、全国の野党と市民の協力を目指す市民に大きな勇気を与え、各地での運動を加速すると確信しています。
 市民連合は、目前の重大事である森友学園疑惑の究明、共謀罪に対する反対運動の展開についても野党と市民の共闘を広げ、人間本位の民主政治、立憲政治を取り戻すために、4野党とともに努力したいと決意を新たにしています。今後とも引き続き野党と市民の協力を強化していきたいと願っています。
 
2017年4月5日
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
(引用終わり)  

「カジノ実施法案」作成作業が始まりました~クリーンなカジノの実現を目指して(!?)

 今晩(2017年4月5日)配信した「メルマガ金原No.2773」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「カジノ実施法案」作成作業が始まりました~クリーンなカジノの実現を目指して(!?)

 これまでも、カジノ解禁推進法をめぐっては、何度かこのメルマガ(ブログ)で取り上げてきましたが、いよいよカジノ実施法制定に向けて政府が具体的な活動を始めましたので、注意喚起の意味も込めて取り上げておこうと思います。
 その動きを伝える報道を引用しておきます。
 
日本経済新聞 2017/4/4 9:48
首相、カジノ「最高水準の規制導入」 推進本部初会合

(引用開始)
 
政府は4日午前、カジノを含む統合型リゾート(IR)導入に向けた推進本部の初会合を首相官邸で開いた。推進本部の本部長を務める安倍晋三首相は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と表明。政府はカジノの運営方法や入場規制について本格的な検討を進め、秋の臨時国会にIR実施法案の提出を目指す。ギャンブル依存症対策なども議論し、詳細なルール作りを急ぐ。
 首相はIRについて「大規模な民間投資がおこなわれ、大きな経済効果・雇用創出効果をもたらすことが重要だ」と強調。カジノに関しては「国民の幅広い理解を得られるようクリーンなカジノを実現する」と述べ、法案提出へ向けた作業の加速を全閣僚に指示した。
 同本部の下に設置する推進会議の委員として美原融・大阪商業大教授や渡辺雅之・三宅法律事務所パートナー弁護士ら8人を決定。6日に初会合を開く。
 政府はIRを経済成長の起爆剤としたい考え。カジノ解禁を巡ってはマネーロンダリングなどの犯罪防止策や暴力団対策が重要課題となる。政府は法案が成立した後、内閣府の外局として「カジノ管理委員会」を設置し、入場規制のあり方や対象者について具体的な検討を進める方針だ。
 昨年末に施行されたIR整備推進法(カジノ法)は1年以内をめどに、政府に実施法案を作成して国会に提出するよう求めている。
(引用終わり)
 
 以上の記事をしっかり理解する前提として、昨年12月26日に公布され、第三章を除いて即日施行されたカジノ解禁推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)の規定を復習しておきましょう。「第一章 総則」を引用します。
 
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)
  
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その地の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域をいう。
(基本理念)
第三条 特定複合観光施設区域の整備の推進は、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与するとともに、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われるものとする。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
(法制上の措置等)
第五条 政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。
  第二章 特定複合観光施設区域の整備の推進に関し基本となる事項
(以下略)
 
 ただし、上記総務省ホームページに掲載された法律は、附則第1項のただし書「ただし、第三章の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」に基づき、3月24日に施行された第三章(第14条から第23条)がまだ「未施行」のままとなっており、条文が掲載されていません。施行直後に「読めない」ということ自体は別に珍しいことではありませんが、不便には違いありません。
 そこで、首相官邸ホームページに「特定複合観光施設区域整備推進本部」の設置根拠となる法令がPDFで掲載されていますので、煩をいとわず引用しておきます。
 
○特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成28年法律第115号(抄))
第三章 特定複合観光施設区域整備推進本部
(設置)
第十四条 特定複合観光施設区域の整備の推進を総合的かつ集中的に行うため、内閣に、特定複合観光施設区域整備推進本部(以下「本部」という。)を置く。
(所掌事務等)
第十五条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する総合調整に関すること。
二 特定複合観光施設区域の整備の推進を総合的かつ集中的に行うために必要な法律案及び政令案の立案に関すること。
三 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する関係機関及び関係団体との連絡調整に関すること。
2 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
(組織)
第十六条 本部は、特定複合観光施設区域整備推進本部長、特定複合観光施設区域整備推進副本部長及び特定複合観光施設区域整備推進本部員をもって組織する。
(特定複合観光施設区域整備推進本部長)
第十七条 本部の長は、特定複合観光施設区域整備推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
(特定複合観光施設区域整備推進副本部長)
第十八条 本部に、特定複合観光施設区域整備推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
(特定複合観光施設区域整備推進本部員)
第十九条 本部に、特定複合観光施設区域整備推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。
2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。
(資料の提出その他の協力)
第二十条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第一項第九号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる。
2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
(特定複合観光施設区域整備推進会議)
第二十一条 本部に、特定複合観光施設区域整備推進会議(以下「推進会議」という。)を置く。
2 推進会議は、学識経験を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する委員二十人以内で組織する。
3 推進会議は、特定複合観光施設区域の整備の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について調査審議し、本部長に意見を述べるものとする。
4 推進会議は、前項の規定により意見を述べたときは、遅滞なく、その内容を公表しなければならない。
5 本部長は、第三項の規定による意見に基づき措置を講じたときは、その旨を推進会議に通知しなければならない。
(事務局)
第二十二条 本部の事務を処理させるため、本部に、事務局を置く。
2 事務局に、事務局長のほか、所要の職員を置く。
3 事務局長は、本部長の命を受けて、局務を掌理する。
政令への委任)
第二十三条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
 
○特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律の一部の施行期日を定める政令平成29年政令第41号)
 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律附則第一項ただし書に規定する規定の施行期日は、平成二十九年三月二十四日とする。
 
○特定複合観光施設区域整備推進本部令(平成29年政令第42号)
(特定複合観光施設区域整備推進本部長補佐)
第一条 特定複合観光施設区域整備推進本部(以下「本部」という。)に、特定複合観光施設区域整備推進本部長補佐(以下「本部長補佐」という。)五人以内を置く。
2 本部長補佐は、内閣官房副長官内閣官房副長官補又は内閣総理大臣補佐官のうちから、内閣総理大臣が指名する者をもって充てる。
3 本部長補佐は、特定複合観光施設区域整備推進本部長(以下「本部長」という。)の命を受け、本部の事務局(以下単に「事務局」という。)の事務の総括及び事務局の職員の指揮監督に係る本部長の職務について本部長を補佐する。
(委員の任期等)
第二条 特定複合観光施設区域整備推進会議(以下「推進会議」という。)の委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員は、再任されることができる。
3 委員は、非常勤とする。
(議長)
第三条 推進会議に、議長を置き、委員の互選により選任する。
2 議長は、会務を総理し、推進会議を代表する。
3 議長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員が、その職務を代理する。
(議事)
第四条 推進会議は、委員の過半数が出席しなければ、会議を開き、議決することができ
ない。
2 推進会議の議事は、出席した委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
(事務局長)
第五条 事務局の事務局長は、関係のある他の職を占める者をもって充てられるものとする。
(事務局次長)
第六条 事務局に、事務局次長一人を置く。
2 事務局次長は、関係のある他の職を占める者をもって充てられるものとする。
3 事務局次長は、事務局長を助け、局務を整理する。
(審議官)
第七条 事務局に、審議官五人以内を置く。
2 審議官は、関係のある他の職を占める者をもって充てられるものとする。
3 審議官は、命を受けて、局務に関する重要事項についての企画及び立案に参画し、関係事務を総括整理する。
(参事官)
第八条 事務局に、参事官十人以内を置く。
2 参事官は、関係のある他の職を占める者をもって充てられるものとする。
3 参事官は 命を受けて 局務を分掌し、又は局務に関する重要事項の審議に参画する。
(本部長補佐等の勤務の形態)
第九条 本部長補佐、事務局長、事務局次長、審議官及び参事官は、その充てられる者の占める関係のある他の職が非常勤の職であるときは、非常勤とする。
(本部の組織の細目)
第十条 この政令に定めるもののほか、本部の組織に関し必要な細目は、内閣総理大臣が定める。
(本部の運営)
第十一条 この政令に定めるもののほか、本部の運営に関し必要な事項は、本部長が本部に諮って定める。
附 則
(施行期日)
1 この政令は、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律附則第一項ただし書に規定する規定の施行の日(平成二十九年三月二十四日)から施行する。
 
 以上のとおり、法第三章に定める内閣総理大臣を本部長とし、全ての国務大臣を本部員とする「特定複合観光施設区域整備推進本部」が3月24日に設置され、その第1回会合が昨日(4月4日)開催されたという訳です。
 そして、法第21条に基づいて本部に設置した「特定複合観光施設区域整備推進会議」において、「特定複合観光施設区域の整備の推進のために講ぜられる施策に係る重要事項について調査審議し、本部長に意見を述べる」こととなっており、その第1回の会合が明日(4月6日)開催される予定です。
 法第5条は、「政府は、(略)必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。」とあることから、リミットは今年の12月25日となっており、日本経済新聞が伝えるとおり、「秋の臨時国会にIR実施法案の提出を目指す。」のが当然のタイムスケジュールとなります。
 
 なお、昨日(4月4日)開催された「推進本部」の「配付資料」の中から、一部をご紹介しておきましょう。
 
(抜粋引用開始)
IR推進会議における検討
主な論点
・我が国が目指すべきIRの在り方(日本型IR)
・IR区域の認定制度の在り方
・カジノ規制の在り方
・カジノ管理委員会の組織の在り方
・納付金・入場料等の在り方 等

夏頃 大枠取りまとめ
更に国民的な議論
必要な法制上の措置(IR推進法第5条:「施行後一年以内を目途として講じなければならない」)
 

IR推進会議委員

熊谷 亮丸(㈱大和総研常務執行役員・調査本部副本部長・チーフエコノミスト
櫻井 敬子(学習院大学法学部教授)
篠原 文也(政治解説者、ジャーナリスト)
武内 紀子( ㈱コングレ代表取締役社長)
丸田 健太郎(有限責任あずさ監査法人 パートナー公認会計士
美原 融(大阪商業大学教授)
山内 弘隆(一橋大学大学院商学研究科教授)
渡邉 雅之(弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士)
(引用終わり)
 
 今日のところは、状況の確認をするのが目的なので、批判や反対運動についての考えを述べるのはまた別の機会にすることとして、最後に、昨日の推進本部の議事録から、石井啓一IR担当大臣(副本部長、国土交通大臣)の冒頭発言と、安倍晋三内閣総理大臣の発言を引用しておきます。

 ・・・と、批判は「別の機会に」と書いたばかりですが、「クリーンなカジノを実現するため、世界最高水準のカジノ規制を導入する」(安倍首相)を読んでは一言せざるを得ませんね。
 このような日本語は、いかに官僚の作文であっても、普通の廉恥心を持った者には、とても恥ずかしくて口に出来ないと思いますが、「世界最高水準の安全基準」を充たした原発を再稼働させると公言する人間にとって、「クリーンなカジノ」「世界最高水準のカジノ規制」という、何を意味するのか、実は起案した官僚にも分かっていないに違いない空虚な言葉をはき出すことなど何でもないことなのでしょう。
 このような空虚な言語にどう対峙すればよいのか、私たちの課題であり続けています。
 
 それにしても、どういう神経で議事録に「安倍内閣総理大臣御挨拶」と「御」の字を付けますかね?これも官僚の「忖度」なのでしょうか?
 
第1回 特定複合観光施設区域整備推進本部 会合 議事録
(抜粋引用開始)
(石井IR担当大臣)
 ただいまから、特定複合観光施設区域整備推進本部を開催いたします。議事進行を務めます、副本部長の石井です。会議の公開等については、他の本部の例にならい、議事録及び配布資料は、原則として、本部会合終了後、速やかに公開することとします。それでは議事に入ります。お手元の資料1「今後の進め方」を御覧下さい。昨年末にIR推進法が成立をいたしまして、3月24日に本部が設置されました。IR推進法には附帯決議が付されており、お手元に参考資料として配布しております。下の欄をご覧頂きたいと思いますが、明後日の六日からは、本部の下に置かれる有識者のIR推進会議において、主な論点について検討いただき、夏頃に大枠を取りまとめたいと考えております。その後に、附帯決議を踏まえ、国民的な議論を尽くした上で、IR推進法の施行後一年以内を目途として、必要な法制上の措置を講じることとなります。資料2「IRの推進体制」を御覧下さい。本部の体制については、資料の左側にあるとおりです。また、IR推進会議の委員については、本日付で、資料の右側にある8名となっております。引き続いて、関係閣僚から御発言をお願いします。はじめに、観光を所管する国土交通大臣として、私から申し上げます。IRの整備は、日本の新たな観光の魅力となり、インバウンドの促進をはじめ観光先進国の実現に大きく貢献するものと考えております。このため、国土交通省内に検討チームも設けたところであり、IRが、国際競争力のある滞在型観光を実現し、地域の特性を活かした観光地形成の中核となるよう、関係府省と連携しながら、しっかりと対応してまいります。
(略)
安倍内閣総理大臣御挨拶)
 本日から、IRの制度設計の検討が開始されます。「日本型IR」は、家族連れで楽しめるエンターテイメント施設や、国際会議場・展示場等を一体的に運営し、また、日本の伝統・文化・芸術を生かしたコンテンツを導入することで、国際競争力の高い滞在型観光を実現するものにしていかなければなりません。また、シンガポールのような大規模な民間投資が行われ、大きな経済効果・雇用創出効果をもたらすものとすることも重要です。あわせて、IRを訪れる旅行客が全国各地を訪問できるようにして、全国で経済効果をもたらしたいと考えます。さらに、カジノ収益を幅広い公益目的に還元することにより、国民の幅広い理解を得られるようにすること、クリーンなカジノを実現するため、世界最高水準のカジノ規制を導入するとともに、それを的確に執行するための体制を整備すること、依存症やマネー・ローンダリング、青少年への影響等、IRについての様々な懸念に万全の対策を講じることも重要であります。これらを通じ、クリーンなカジノを含んだ、魅力ある「日本型IR」を創り上げたいと思います。衆・参内閣委員会の附帯決議を踏まえ、国民の理解を得つつ、石井大臣を中心に関係閣僚が協力して検討いただきますように、お願いをいたします。
(引用終わり/下線は金原による)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年12月8日
カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

2016年12月13日
カジノ解禁推進法案の廃案を求める大阪弁護士会・会長声明(2016年12月12日)のご紹介~付・2014年10月の和歌山弁護士会・会長声明

2017年2月27日
和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き
2017年3月10日
「カジノで観光・まちづくり!?ちょっと、おかしいんとちゃうか!緊急トーク集会」3/13@プラザホープのご案内と4月・5月の「予告編」