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少年法適用年齢の18歳への引き下げに反対する日本弁護士連合会の意見書、パンフレットのご紹介

 2019年1月11日配信(予定)のメルマガ金原.No.3389を転載します。
 
少年法適用年齢の18歳への引き下げに反対する日本弁護士連合会の意見書、パンフレットのご紹介
 
 日本弁護士連合会は、弁護士法第1条(弁護士の使命)に基づき、様々な課題についての研究、実践、提言等を行っていますが、とりわけ重点的に取り組んでいる課題については、WEBサイトのトップページに目立つバナーを設け、特設コーナーに誘導するようにしており、その6つある「日弁連が取り組む重要課題」のうちの1つが、「少年法適用年齢の引き下げに反対します」です。
 
 この「少年法の適用年齢引き下げ(20歳→18歳)には反対です!」コーナーでは、日弁連が発表した意見書や会長声明にリンクしている他、一般市民向けに作成したパンフレットのPDF版にもリンクされ、誰でもダウンロードできるようになっています。
 
 同じ日弁連WEBサイトの特設コーナーでも、これまでたびたびご紹介してきた「憲法を考える」などとは異なり、
少年法適用年齢を20歳から18歳に引き下げることの是非については、いまひとつ、市民の理解を得るのが難しいテーマかもしれません。
 第一、「少年法って何?」「選挙権も18歳からになったし、民法成人年齢もいずれ18歳になるらしいから、別にいいんじゃないの?」という素朴な疑問に、分かりやすい言葉で説得しなければならないのですから、これはなかなか大変です。
 もっとも、司法修習生の給費制復活に比べれば、まだしも主張しやすいかもしれませんが。
 
 なぜ、日弁連をはじめ、全国全ての弁護士会弁護士会連合会が、少年法適用年齢の20歳(現行)から18歳への引き下げに反対しているかについては、巻末に、昨年11月21日付で日弁連が発表した「少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書」を引用しておきますので、是非お読みください。
 ただ、相当な分量となりますので、「意見の理由」の内、
  第1 はじめに
  第2 少年犯罪の動向と現行少年法制に対する評価
     第3 少年法の適用年齢引下げ論の根拠について
  第6 結論
は全文引用し、
  第4 年齢の引下げに伴う刑事政策的懸念と検討されている犯罪者処遇策
  第5 少年法の適用年齢を引き下げた場合に生じる未検討の問題
については、基本的に項目のみご紹介しています。
 
 なお、このような「意見書」を多くの人に読んでいただくことは難しいだろうということで、日弁連では、2種類のパンフレットを発行し、WEBサイトからダウンロードできるようにしています。
 
パンフレット「少年法の適用年齢引下げを語る前に~なぜ私たちは引下げに反対するのか~」(2017年6月改定版)
 
 以上が、主要な論点に目配りし、現場の声も取り入れた全般的な理解を求める内容になっているのに対し、このたび発行された(実は今日1月11日にWEBサイトにアップされたばかりです)新しいパンフレットは、「日弁連が2018年11月6日に開催したシンポジウムで、少年院出身者や少年事件被害者、元家庭裁判所調査官、元少年院長、研究者など様々な方が、それぞれの立場から、少年法適用年齢引下げの問題を語りました。その発言をベースに」作成されたのが以下のパンフレットです。
 
パンフレット「リレートーク 私も少年法適用年齢引下げに反対します」(2019年1月11日)
 
 やはり、長年現場に身を置いた方々のご意見にはとても説得力があると思います。一々引用はしませんが、是非お読みいただければと思います。
 
 引用はしないと書きましたが、これだけはどうしても引用させてください。
 
龍谷大学矯正・保護課程講師、元浪速少年院長 菱田 律子さん
少年法適用年齢の引下げは18歳・19歳の立ち直りのチャンスを奪う
(抜粋引用開始)
 今、少年院は、収容減に直面しています。「はやらない店」はコックさんの腕が鈍る。少年院の場合は教官の処遇力が鈍ることになります。
 少年法適用年齢が引き下げられると、少年院は整理削減され、広域収容が拡大し、保護者との関係改善にも悪影響を及ぼすことになります。ますます「はやらない店」状態になり、何もいいところがありません。危機感をひしひしと感じています。
 少年院を必要とする少年たちのために、これからの日本のために、少年法適用年齢の引下げに反対します。
(引用終わり)
 
 以下の日弁連「意見書」にもあるとおり、少年犯罪は減少しています。あるいは「激減している」と言ってもよいほどです。
 少年院に収容される少年が減少しているということは、審判前の一定期間(原則として4週間以内)少年を収容する少年鑑別所の収容人数も減少しているということです。それは、少年人口の減少のペースをはるかに超えた減少であることを、私たち法曹実務家は実感しています。
 この上、年長少年(18歳・19歳)を少年法の適用対象から外した時にどんな事態を迎えるのか、とても「明るい未来」が開けようとは思えません。
 皆さんも、上記のパンフレットなどをお読みいただき、この問題に関心を持っていただければ幸いです。
 
 それでは、以下に日弁連少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書」をご紹介します。
 
(抜粋引用開始)
       少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることに反対する意見書
 
                                              2018年(平成30年)11月21日
                                                                  日本弁護士連合会
 
                              意 見 の 趣 旨
 少年法の適用年齢を18歳未満とした上で,18歳及び19歳の者について,少年法の果たす機能を代替するためのいかなる刑事政策的な配慮をしたとしても,現行少年法制の果たしてきた機能や効果には遠く及ばない。
 改めて,少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすることに反対する。
                                       
                              意 見 の 理 由
第1 はじめに
 当連合会は,2015年2月20日,公職選挙法の選挙権年齢と民法の成年年齢の引下げが議論される状況を踏まえ,「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」(以下「2015年意見書」という。)を公表し,仮に民法の成年年齢を18歳に引き下げた場合であっても,少年法2条の「成人」年齢を引き下げることには反対である旨を表明した。
 その後,2017年2月には,法務大臣が法制審議会に対し,「非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方」とともに「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすること」を諮問するに至った。
 これを受け,法制審議会に少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「部会」という。)が設置され,仮に少年法の適用年齢を18歳未満とした場合に採り得る刑事政策的対応を含めた犯罪者処遇策が検討されており,また,それらも踏まえた上で少年法の適用年齢引下げの是非が議論されている。
 さらに,この間,2018年6月には,飲酒・喫煙,公営ギャンブル等に関する各法律については20歳を基準として現行の適用年齢を維持する一方で,民法の成年年齢を18歳に引き下げる内容の民法の一部改正法が,様々な意見がなおある中で成立した(2022年4月施行予定)。
 そこで,当連合会は,このような2015年意見書公表後における状況の進捗を踏まえ,改めて,少年法2条の「成人」及び「少年」の年齢引下げに関して意見を述べるものである。
 
第2 少年犯罪の動向と現行少年法制に対する評価
 まず,少年法の適用年齢引下げについて議論するに当たっては,その前提として,以下のことが確認される必要がある。
1 少年犯罪は増加も凶悪化もしていないこと
 少年法の年齢引下げに関する世論調査によると,反対よりも賛成が多い傾向にあるが,その背景には,「少年非行が増加している。少年犯罪は凶悪化している。」という誤解があると思われる。
 実際には,少年の検挙者数は近年14年連続で減少し,2017年には,1983年のピーク時の13.6%にまで減少(86.4%減)している(少年人口当たりの発生数で比べても2016年においてピーク時の23.9%にまで減少(76.1%減))。また,少年による殺人・強盗・放火・強姦の「凶悪事件」についても,2017年には,1960年のピーク時の3.6%にまで減少(96.4%減)(少年人口比ではピーク時の5.4%にまで減少(94.6%減))している。このように,少年非行は増加しておらず,それどころか重大事案を含め大きく減少しているのであり,このような傾向は18歳,
19歳の少年についても同様である。
2 現行の少年法制は有効に機能していること
 旧少年法(大正11年法律第42号)は,少年の年齢を18歳未満としていたが,1948年に制定された現行少年法(昭和23年法律第168号)は,これを20歳未満に引き上げた。改正法案の国会審議では,政府委員は,20歳くらいまでの者の犯罪の増加と悪質化が顕著であることを指摘した上で,「この程度の年齢の者は,未だ心身の発達が十分でなく環境その他外部的条件の影響を受け易いことを示しているのでありますが,このことは,彼等の犯罪が深い悪性に根ざしたものではなく,従ってこれに対して刑罰を科するよりは,むしろ保護処分によってその教化を図る方が適切である場合の極めて多いことを意味している」と説明している。そして現行少年法により採用された全件送致主義,調査官調査を中核とした審判手続及び少年院教育等の保護処分は,70年にわたり,極めて有効に機能している。上記のような少年犯罪の著しい減少という状況も,現行少年法が有効に機能していることの一つの表れである。
 この点については,法制審議会の部会においても,「今回の議論というのは,現行少年法の下で18歳,19歳の年長少年に対して行われている手続や保護処分が有効に機能していないので,少年法の適用年齢を下げることを検討しようとするものではないのだということについては,意見の一致がある。」「現行法の下での年長少年に対する手続や処遇の有効性という観点からは,少年法の適用年齢を引き下げる必要性はない。」と整理されており,これに対する異論は出ていない。
 つまり,部会における現在の議論も,現行少年法制の機能に問題があるという問題意識によるものではなく,逆に,現行少年法制が有効に機能していることを前提にした上で,その中で適用年齢を18歳未満とすることができるかという問題設定がなされているのである。
 
第3 少年法の適用年齢引下げ論の根拠について
 少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げるべきとする立場からは,いくつかの根拠が挙げられている。そこで,それらの根拠について,特に民法の成年年齢引下げとの関係を中心に検討を加えることとする。
1 適用年齢は法律ごとに個別具体的に検討すべきであること
 まず,法律の適用年齢については,それぞれの立法趣旨や目的に照らして,法律ごとに個別具体的に検討すべきである。この点については,政府も,民法の成年年齢引下げに関する国会審議において,「法律で定められている年齢要件は,それぞれの法律の趣旨や立法目的に基づいて定められていることから,その変更の可否を検討するに当たっても,それぞれの法律の立法目的等を考慮する必要がある」との立場を明らかにしている。
 そして,現行少年法は,旧少年法の適用実践とその成果を踏まえ,若年犯罪者については刑罰より保護処分の方が更生にとって適切かつ効果的であるとの立法政策に基づいて,適用年齢を18歳未満から20歳未満に引き上げたものである。それ以来現在に至るまで,現行少年法の運用は現実にその効果を挙げているのであるから,民法の成年年齢が引き下げられても,それに伴って少年法の適用年齢を引き下げるべきではない(2015年意見書)。
2 「国法上の統一」「分かりやすさ」は根拠となり得ないこと
 これに対し,「一般的な法律において『大人』として取り扱われることとなる年齢は,一致する方が国民にとって分かりやす」いとの意見や,「大人と子供の分水嶺を示す各種法令には国法上の統一性が必要である。」との意見があるようである。
 しかし,政府も,法律の適用年齢について,それぞれの法律の趣旨や立法目的等を考慮する必要があるとしているのは,前述したとおりである。
 そして,飲酒に関しては,未成年者飲酒禁止法の趣旨が健康被害防止と非行防止という二点にあり,民法の成年年齢の定めとはその趣旨を異にしていることから,民法の成年年齢と一致させる必要がないとし,さらに,競馬法勝馬投票券購入制限年齢についても,青少年保護の観点から定められたものであるから,やはり民法の成年年齢と一致させる必要がないとしており,その結果,民法の成年年齢は18歳に引き下げられることとなった一方で,飲酒・喫煙,公営ギャンブル等については,20歳以上とする適用年齢が維持されたのである。
 以上からも明らかなとおり,法律で定められている年齢要件は,それぞれの法律の趣旨や立法目的に基づいて定められているべきであって,民法の成年年齢の引下げがなされたからといって,あらゆる法律において「大人」として取り扱われるべき年齢が変わったということはできない。また,実際にも,各種法令における適用年齢は統一されていないのであるから,「国法上の統一」等は少年法について適用年齢を下げる根拠とはなり得ない。
3 「民法上の成年者への保護主義に基づく介入は過剰」とは言えないこと
 また,少年法の保護処分は,少年が類型的に未成熟であって判断能力が不十分であることから,国家が後見的に介入するという保護主義パターナリズム)によって正当化されている側面があるところ,親権に服さず取引に関する行為能力も認められる民法上の「成年者」を,類型的に保護主義に基づく保護処分の対象とすることは過剰な介入である,との意見もある。
 しかし,パターナリズムによる国家の介入が許容される年齢は,一律に決定されるものではなく,その介入の必要性や介入の内容・性質によって異なる。
 上記の飲酒・喫煙・ギャンブルの禁止も,「健康被害防止」「非行誘発の防止」「青少年保護」など,本人の利益を護るという観点からのパターナリズムによる国家の介入であって,民法上の「成年者」に対する介入を許容することとしている。そして,少年法による介入は,身体拘束も含むものであって,その程度は大きいとは言えるが,他方で,未成熟で可塑性の高い少年に対して更生や社会復帰の効果は大きく,当該少年にとって利益になるから,民法上の「成年者」であっても,これを保護処分の対象とすることが「過剰な介入」になるものではない。
 現行法においても,婚姻により「成年者」とみなされる者(民法753条)も,なお少年法の対象とされており,また,審判時に20歳未満であれば,その後民法の成年年齢に達してもなお少年院での収容を継続できるが(少年院法137条~139条,更生保護法66条,68条,71条,72条),これらについて「過剰な介入」であるとの批判は見受けられない。
 また,「親権」は,民法上,親の子どもに対する権利ではなく,むしろ親の社会的責務や親の配慮と整理されており,国家が保護主義によって後見的に介入し得る期間が親権の対象となる期間と一致しなければならない理由もない。
 さらに,現実に保護処分の対象となる者は,18歳・19歳の者全てではなく,資質上のハンディキャップや厳しい生育環境の中で親や周囲からの適切な教育・援助が受けられなかったことから非行に至った者がほとんどである。すなわち,少年法が実際に適用されるのは,20歳未満の者の中で成長発達のために特別の支援が必要とされる者なのであるから,少年法による国の介入の根拠を民法上の未成年であることと直結させることは相当でない。
4 「各制約の根拠は,未成熟・判断能力不十分で共通であり,整合性をはかるべき」とも言えないこと
 さらには,各法律の制度の根拠に共通する部分があるのであれば整合性が図られるべきであり,少年法民法は,共に本人が未成熟であって判断能力が不十分であることに鑑み,本人のためにその自由を制約するものであるから,民法上成年として扱われ,そのような保護の対象とならない18歳・19歳の者について,少年法上類型的に少年と扱って国家が後見的に介入することは整合的でない,との意見もあるが,以下に述べるとおり相当ではない。
 まず,今回の民法の成年年齢引下げの国会審議においても,「18歳・19歳の若年者が大人として完成されたことを意味するのではなく,いまだ成長の過程にある」などとされており,18歳・19歳の者は未成熟であるという認識が共有されていることが重要である。
 今回の民法の成年年齢引下げは,その認識を前提にしつつ,主として経済取引に着目した社会的,経済的成熟度を基準にすべきとの立場に立ってされたものであり,さらに踏み込んで,18歳の者の中の自立心を持ち経済活動に意欲を有する者に対して積極的な社会参加を促し,社会の活性化を図るという目的が挙げられる場合もある。
 他方,少年法は,18歳・19歳になっても生育環境や資質上のハンディキャップを抱えて非行を犯した者に対し,国が教育・指導を施して社会人として行動できるようにすることを目的としているのであり,今回の民法の成年年齢引下げとは,その目的及び想定する場面を異にしている。
 以上のとおり,民法少年法とは,そもそも適用年齢を検討すべき視点が全く異質なのであり,制度の根拠が共通していると評価することもできない。むしろ,少年法の適用年齢は,「非行防止」を目的とする未成年飲酒禁止法や,「青少年保護」の観点から定められた競馬法勝馬投票券購入制限年齢と趣旨・目的が共通しており,20歳を維持すべきである。
 
第4 年齢の引下げに伴う刑事政策的懸念と検討されている犯罪者処遇策
 次に,少年法の適用年齢引下げに伴って生じると懸念されている問題とその対応策について検討を加える。
 この点,少年法の適用年齢を18歳未満にすべきとする立場からも,罪を犯した者の社会復帰や再犯防止といった刑事政策的観点からは,現行少年法の保護処分が果たしている機能には大きなものがあり,年齢引下げに伴い,18歳・19歳の者が従来の保護処分による働き掛けや,その前提となる家庭裁判所における調査を受けられないことになれば,改善更生・再犯防止という観点から問題が生じる,との懸念が示されている。単なる年齢引下げだけでは18歳・19歳の者の改善更生や社会復帰に問題が生じるという懸念については,年齢引下げに賛成・反対いずれの立場においても共通の認識となっていると言ってよい。
 このような刑事政策的懸念を受け,部会では,まず,仮に少年法の年齢を引き下げた場合に採り得る措置を含めた犯罪者処遇策を検討し,その上で少年法の年齢引下げの是非について議論する,との進行予定の下で審議が進められている。
 そして,部会内に設置された3つの分科会において検討された犯罪者処遇策の結果が2018年7月の部会第8回会議で報告され,以降,部会において議論が重ねられている。
 そこで以下,部会で議論されている犯罪者処遇策について検討する。
1 検討されている犯罪者処遇策の概要
 部会では,18歳・19歳の者を少年法の対象から外して「成人」として扱う場合には,現在20歳以上に適用されている刑事訴訟法が18歳・19歳に適用されることを前提として,①自由刑のいわゆる実刑,②自由刑の執行猶予,③罰金刑,④起訴猶予,などの各場面でどのような「処遇」を行うことが可能か,が検討されている。
2 公訴が提起され刑事裁判手続で処遇が決せられる場合の問題点
(1) 刑事裁判手続全般における問題-家庭裁判所調査官による調査の欠如
ア 想定される問題状況
イ 検討されている対応策について
(2) 比較的重い罪を犯した18歳・19歳の処遇に関する問題
ア 収容される場合でも少年院ではなく刑務所に収容されてしまうこと
(ア) 想定される問題状況
(イ) 検討されている対応策について
(ウ) 小括
イ 刑の全部執行猶予となる場合の問題
(ア) 想定される問題状況
(イ) 検討されている対応策について
(ウ) 小括
(3) 比較的軽微な罪を犯した18歳・19歳の者が罰金刑となる場合の問題点
ア 想定される問題状況
イ 検討されている対応策について
ウ 小括
3 起訴猶予となる場合の問題点
(1) 想定される問題状況
(2) 検討されている対応策について
ア 検察官による「起訴猶予に伴う再犯防止措置」
イ「若年者に対する新たな処分」
(ア) 処分の位置付けと概要
(イ) 審判手続・調査の実効性
(ウ) 他の成人との公平性の問題
(エ) 検察審査会制度との関係
4 まとめ
 以上のとおり,現在検討されている犯罪者処遇策でも,少年法の適用年齢引下げに伴う問題点は解消されない。
 そもそも,18歳・19歳の者を保護主義の対象外とし,行為責任主義の下で扱うとしながら,保護主義に基づく現行少年法と同様に有効性ある刑事政策的措置を講じようとすること自体に矛盾・無理があるというべきであり,理論的に整合する範囲で実効性ある制度設計は不可能と言うほかない。
 既に述べたとおり,現行少年法は極めて有効に機能しているのであるから,その実効性を損なうような適用年齢の引下げを行うべきではない。
 
第5 少年法の適用年齢を引き下げた場合に生じる未検討の問題
 他にも,少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げた場合には,以下に述べるような,未検討・未解決の問題が生じる。
1 年齢の基準時の問題
2 資格制限の問題
3 保護者への働き掛けに関する問題
4 ぐ犯に関する問題
5 推知報道禁止の問題
 
第6 結論
 以上に述べたとおり,現在,部会で検討されている犯罪者処遇策によっても,少年法の適用年齢引下げに伴う刑事政策的な懸念や問題は解消されない。また,民法の成年年齢が引き下げられたことを踏まえても,少年法の適用年齢を引き下げる必要性は全く認められず,むしろ引下げの弊害が極めて大きいのであって,これを行うべきではない。
 したがって,当連合会は,少年法における「少年」の年齢を18歳未満へ引き下げることには改めて反対する。、
(引用終わり)

日刊ゲンダイのコラムで読む小林 節さん(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)の「安倍壊憲」批判と「真の野党共闘」の勧め

 2019年1月10日配信(予定)のメルマガ金原.No.3388を転載します。
 
日刊ゲンダイのコラムで読む小林 節さん(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)の「安倍壊憲」批判と「真の野党共闘」の勧め
 
 来る1月19日(土)午後1時30分から、和歌山県民文化会館大ホール(キャパ2,000!)において、県下10団体が結成した実行委員会の主催により、「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」が行われることは、このブログでも2度にわたってお伝えしてきました。
 
2018年12月3日
速報!「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」(2019年1月19日@和歌山県民文化会館大ホール)を開催します
 
2018年12月23日
詳報「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」(2019年1月19日@和歌山県民文化会館大ホール)
 
 本番まであと9日、そろそろ、先日(1月7日付)お送りしたプレス・リリースの効果が出てきたようで、まず今日(1月10日)の「わかやま新報」1面に以下のような記事が載りました。
 
桂文福小林節氏ら出演 19日 改憲反対の県民集
(引用開始)
 憲法9条自衛隊を明記するなど安倍晋三首相が意欲を示す改憲に反対する市民団体などが企画する「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」が19日午後1時半から、和歌山市松原通の県民文化会館大ホールで開かれる。
 安全保障法制の廃止や改憲反対の運動をしている県内10団体による実行委員会が主催。入場無料。
 第1部は、紀の川市出身の落語家で「芸人9条の会」の桂文福さんによる相撲甚句河内音頭、9条新作落語。第2部は憲法学者、弁護士で慶應義塾大学名誉教授の小林節さんの講演「安倍壊憲をなぜ阻止しなければならないのか」。第3部は有田川町出身の津軽三味線奏者、三木久美夫さんらによる「ワカヤマピースバンド」のライブ演奏となっている。
 申し込み不要。1・2部は手話通訳つき。ロビーでは紙芝居や絵本、折り紙など子どもが楽しめるブースも設ける。
 問い合わせは事務局の金原法律事務所(℡073・427・0852)。
(引用終わり)
 
 掲載していただいてまことにありがたいのですが、ただ1点、「三木久美夫さんらによる「ワカヤマピースバンド」のライブ演奏」とある部分は訂正を要します。
 三木さんは、ご自身の率いる「龍絃会(りゅうげんかい)」の一員として津軽三味線の妙技を披露され、その後、「Wakayama Peace Band」(臨時結成の7人編成)によるライブ演奏が行われます。
 
 さて、今日は、第2部で講演される小林節先生の「安倍壊憲」批判を、先生が連載されている日刊ゲンダイのコラム「ここがおかしい 小林節が斬る!」で跡付けようと考えました。
 けれども、ここ1年間(2018年1月10日~2019年1月5日)に発表されただけでも、全部で50本もあるのですから、これを分類するだけでも大変です。
 そこで、「安倍壊憲」批判の観点から4つに論点を絞り、それにちょうど符合する小林先生のコラムを探すという、まことにささやかな方針に変更しました。
 それでも、「その論点にはもっとふさわしい別の記事があるではないか」ということになりそうですが、力不足につき何卒ご寛恕いただければと思います。
 要するに、来る1月19日のご講演の予習教材を提供しようという試みです。
 
【論点1 内閣総理大臣改憲の提案をすることができるのか】
首相にも改憲の提案権はある しかしその「内容」が悪い(2018/11/07)
(抜粋引用開始)
 憲法改正が使命だと自任する安倍首相が改憲を唱道する機会が増えてきた。
 それに対して、護憲派の人士から、「首相が改憲を主張することは憲法尊重擁護義務(99条)に違反する」とか、「改憲の発議は国会の専権(96条)で、首相の提案は越権で三権分立に反する」といった批判が返ってくることが多い。
 しかし、改憲を唱道する限りでは、首相はいささかも憲法に違反していない。
 まず、憲法自体が96条で改憲を予定しその手続きを明記している。だから、改憲を主張すること自体は憲法を軽んじることにはならない。つまり、制定時の予測を超えた新しい時代状況の中で改憲を考えること自体は憲法が予定したことである。
 また、首相は、憲法上「内閣を代表して(改憲案を含む)議案を国会に提出する職責を担っている(72条)」以上、政治家として改憲の提案を唱道する権限を有している。
(略)
 護憲派の人士が自らを真に「護憲」派だと思っているならば、今、安倍政権が公然と企図している9条に「必要な自衛を行う組織」を加筆する改憲案が、法的にも政治的にも憲法「改悪」であることを論証すべきである。
(引用終わり)
 
【論点2 立憲的(護憲的)改憲論を今主張することの意味】
たとえ正論ではあっても…いま場違いな「立憲的改憲論」(2018/05/11)
(抜粋引用開始)
 もう20年以上も前であるが、改憲提案などは夢物語であった頃に、私は、白紙の上に新しい憲法を書く感覚で改憲論を提案していた。その中で、9条については、あの「どうにでも読める」または「難解な」現行9条の文言が、結局、規範力を生まず、政府による恣意的な解釈・運用を許していると気づいた。そこで、もっと明確に、できること(専守防衛)とできないこと(海外派兵)が読み取れるように、9条の文言を明確に「改正」することを提案した。私は、それを「護憲的改憲」と呼んで最近まで一貫して主張してきた。
 数年前に枝野幸男代議士(立憲民主党代表)が同様の立場を表明し、今井一氏(「国民投票」に詳しいジャーナリスト)などもその論陣に加わった。最近は、それと同じ観点を「立憲的改憲」と称して、伊勢崎賢治氏(東京外国語大教授)らが強く唱道している。
 もちろん、それはひとつの正論である。だが、今の政治情勢の中で、その主張を続けることを、私は、「場違い」「時知らず」だと思うに至り、今は自らに禁じている。
 今は、改憲が自らの「使命」だと信じる安倍首相が、衆参各院の3分の2以上の支持を背景に9条の具体的な改憲案を示して政治日程が進行している状況にある。
 だから今は、改憲派護憲派も、向かい合って自説の正当性を論じ合っている場合ではない。安倍首相の改憲案の1点に焦点を合わせて、それが是であるか非であるか?について各自の立場を決め、国民投票に備えるべき時である。
(略)
(引用終わり)
 
【論点3 自衛隊憲法に明記するとどうなるのか】
安倍「改憲」の焦点はただ一つ 少数説で争う時ではない(2018/10/11)
(抜粋引用開始)
(略)
 時間が限られているし、首相の意向は既に明らかになっている以上、近い将来に提案されてくる改憲案も分かり切っている。
 つまり、「現行の9条1項2項およびその解釈(専守防衛の原則)を維持した上で、自衛隊とその権能を憲法に明記するもの」である。条文素案としては、「国の平和と独立を守り国及び国民の安全を保つために『必要な自衛の措置をとり』そのための実力組織として『自衛隊を保持する』」である。
 しかし、これは嘘と矛盾に満ちている。
 第1に、専守防衛を維持する……と言うが、既に、2015年の新安保法制(戦争法)で、わが国の「存立危機事態」か、わが国の安全保障に対する「重要影響事態」だと政府が認定した場合には海外派兵を解禁してしまっている。この矛盾をどう説明するのか?
 第2に、これまでは「必要・最小限」の自衛措置なら合憲だとしてきたものを、ここで「最小限」という条件を外してしまいながら、「これまでの解釈を維持している」とは言えないはずで、ここに大きな嘘がある。
 第3に、「戦力の不保持」と「交戦権の不行使」を明記した2項の下で海外派兵はできないとしてきた政府解釈の下で海外派兵を解禁した2014年の解釈変更に加え、新たに、「必要な自衛措置は(何でも)できる」という3項が加えられた場合には、『新法(3項)は旧法(2項)を改廃する』という法の一般原則に従って2項は自動的に失効するはずである。となると、「今までと何も変わらない」と度々強調してきた首相の言葉は明白な嘘以外の何ものでもない。
 そして、普通の軍事大国となって米軍の友軍としてわが国の自衛隊が世界に出動することの是非が問われることになる。実は、この一点の賛否だけが問われているのである。
(引用終わり)
 
【論点4 安倍壊憲を阻止するために~真の野党共闘の必要性】
根拠はあるのか 不可解な「共産党抜き」野党共闘の主張(2018/09/02)
(抜粋引用開始)
 月刊日本9月号の中で、「共産党抜きの野党共闘」について正鵠を得た発言が目についた。
 まず、元参院自民党議員会長・村上正邦氏は「野党は……『共産党とは組めない』とか内輪もめばかりしていますが、本気で政権交代を目指しているならば、そんな甘っちょろいことは言えないはずですよ」と語っている。
 さらに、経済学者の植草一秀氏は「1人しか当選者が出ない選挙で、反自公陣営が複数候補を擁立すれば自公が勝利するのは当たり前だ。『共産党とは共闘しない』とする勢力は『隠れ自公応援団』である疑いが濃厚なのだ」とまで断言している。
 確かに、1選挙区で1人しか当選できない「小選挙区制」(知事選、衆院小選挙区参院地方区等)において、常に自公共同推薦候補が立っている以上、野党側は1人の野党統一候補に絞れない限り、もとより勝ち目はない。
(略)
 だから、私には、この期に及んで「共産党抜きの野党共闘を」などと言っている人の気が知れない。私がそのような人々に何回その「根拠」を尋ねてもまともな答えが返ってきたためしがない。
 この際、野党各党の責任ある人士により、「野党共闘共産党を加えることの是非」というテーマで公開シンポジウムを至急開催することを、提案しておきたい。
(引用終わり)
 
「人心一新」は野党共闘の立派な大義 総選挙の統一方針に(2018/12/26)
(抜粋引用開始)
(略)
 今の選挙制度の立法趣旨は、2大グループの対決を前提に、まず、相対的多数派に絶対的多数の議席を与え、激動の時代に政策の決定・執行を迅速化することにある。加えて、「絶対的権力は絶対に堕落する」という歴史の教訓に学び、政権交代(つまり権力の大掃除)が起こりやすい制度でもある。つまり、民意がわずかに移動しただけで簡単に政変が起きる制度である。このメカニズムは、参院選1人区でねじれ国会を実現する場合も全く同じである。
 今、安倍長期政権の下で、権力の一元化と私物化が露骨に進行している。それに対して、国民の中の2割ほどの熱烈な「信者」のごとき政権支持者は別にして、国民の多数がしらけ、政治に倦んでいることは各種世論調査で明らかである。
 過去の国政選挙でも、与野党それぞれの合計得票はいずれも40%台で大差はない。しかし、野党が分裂しているために、上述のような選挙制度に助けられて、自・公与党は、40%台の得票で70%台の議席を得て、絶対的権力を享受してきた。
 そこで「野党共闘」を提案すると、必ず「政策の一致が必要だ」という声が上がってくる。しかし、社会が複雑になり財政が逼迫した現状において、与党内においても初めから政策が一致していることなどない。政策は、議会での討論を経て詰めていくものである。
 その点で、「人心一新」が総選挙の際の統一方針になることを忘れないでほしい。「もうこの政権の顔触れには飽き飽きした」という民意も正当な民意である。
 だから、野党は、「人心一新」で選挙共闘を組み、まずは政権交代を図るべきである。
(引用終わり)
 
 最後に、これまでも何度かご紹介していますが、最後に、2018年3月19日、「安倍政治を終わらせよう!3.19院内集会」(主催:戦争をさせない1000人委員会、立憲フォーラム)での小林節先生のミニ講演の動画をご紹介しておきます。
 
小林節氏 (慶應義塾大学名誉教授)スピーチ『ようやく見えて来た安倍壊憲案の異常性』「安倍政治を終わらせよう!3.19院内集会」[2/5]2018.3.19 @参議院議員会館講堂(28分)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/小林節氏関連)
2013年5月13日
小林節氏らの「96条“改正”絶対阻止」の主張に連帯するために
2013年5月27日
小林節教授の「立憲フォーラム」勉強会での講演
2013年6月9日
6/8小林節氏講演会「改憲派が斬る!96条改悪に異議あり!」(in神戸市)
2013年7月3日
6/17小林節慶應義塾大学教授記者会見(日本記者クラブ
2013年7月13日
この7年間、私たちは何をしていたのか?~「小林節さんに聞いた」(2006年/マガジン9条)を読んで~
2013年7月31日
小林節氏×伊藤真氏~憲法改正を議論するために~
2013年12月20日
小林節さんの“集団的自衛権についての意見”が知りたい
2014年4月15日
集団的自衛権でも小林節さんに頑張ってもらおう(付・立正佼成会集団的自衛権についての見解)
2014年9月7日
立憲主義は8年前から危機的状況だった~2006年5月18日衆議院憲法調査特別委員会での小林節参考人の意見から
2014年9月13日
対談「小林節氏vs山中光茂松阪市長」で楽しく学ぶ集団的自衛権
2015年5月2日
樋口陽一氏、小林節氏、小沢一郎氏による憲法をめぐる鼎談を視聴する
2015年6月7日
憲法学者の矜恃~衆議院憲法審査会(6/4)における参考人質疑をじっくりと味わいたい
2015年6月16日
憲法学者の矜恃~長谷部恭男氏と小林節氏の記者会見を視聴して(6/15)
2015年9月17日
参議院安保特別委員会の強行採決を目に焼き付ける(付・小林節弁護団長が違憲訴訟の出訴時期を明言~9/15中央公聴会
2015年9月27日
安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決
2015年10月12日
今こそ「運動としての学習会」が必要だ
2015年10月16日
11/21小林節さんが田辺市和歌山県)で講演されます
2015年12月2日
安保法制違憲訴訟を考える(4)~伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟の会)による決意表明(11/19@国会前)と小林節氏の現時点(11/21@和歌山県田辺市)での見解
2016年1月20日
小林節(ブシ)で貰った元気の使い道~「さぁ、安倍政治を終らそう 1・19集会」を視聴して
2016年3月22日
速報・小林節氏講演会(5/14@和歌山市民会館大ホール)に結集を!
2016年4月14日
詳報・小林節氏講演会(5/14@和歌山市民会館大ホール)~小林先生の“性根”を理解した上で結集を!
2016年5月14日
小林節氏講演会「政治の暴走を止めるために」@和歌山市(5/14)のご紹介と見えてきた課題
2018年12月23日
詳報「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」(2019年1月19日@和歌山県民文化会館大ホール)

市民連合「2019年頭所感」を読む

 2019年1月9日配信(予定)のメルマガ金原.No.3387を転載します。
 
市民連合「2019年頭所感」を読む
 
 「年頭所感」という言葉に接してまず私の脳裏に浮かぶのは、4年前に自分自身が書いた以下のブログです。
 
2015年1月1日
3人の年頭所感を読んで2015年の日本を思う~今上陛下、安倍首相、内田樹
 
 自分で読み返して言うのも何ですが、元旦早々、我ながらよく気合いを入れて書いたものだと感心します。
 そのように気合いが入る大きな要因であった今上陛下(明仁天皇)の、即位依頼ずっと発表され続けていた「天皇陛下のご感想(新年に当たり)」も、平成28年(2016年)元日が最後となりました。
 以来、「年頭所感」読み比べの意欲もなくなり、私のブログに「年頭所感」の話題が登場することもなくなったという次第です。
 
 それが、1月も9日になってから「年頭所感」を取り上げるというのは、たまたま市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)のホームページを閲覧したところ、トップページのNewsの冒頭に、「2019年頭所感」というのが載っていたからです。天皇でも首相でもなく、市民団体が「所感」というのも語感的にどうなのか?と思わないでもありませんが、「年頭声明」でもおかしいし、「年頭談話」というのも何だかなあ、ということで、「年頭所感」に落ち着いたのかもしれません。
 
 内容は、以下に全文引用しますので、是非お読み戴きたいのですが、いよいよ夏には参院選を控える2019年を迎え、野党共闘の重要性をいま一度確認し、全国の志を共有する人々に発信する必要があると、市民連合の呼びかけ人の皆さんは考えられたのでしょう。
 
 従って、以下の「年頭所感」の最も重要な部分は多分ここでしょう。
 
「それでも市民連合が、国民民主党を含めた立憲野党の本格的な選挙協力をめざす理由は以下の通りです。(1)安倍政権下での改憲発議への反対、違憲の安保法制の廃止、立憲主義の回復など共闘の大原則についての一致が、玉木代表や平野幹事長と確認できたこと、(2)旧民主党民進党議員として特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法など一貫してともに反対をしてきた実績があること、(3)オール沖縄の成功が示すように、穏健保守層までウイングを広げた野党共闘が勝利には不可欠であること、(4)一緒に組めるはずの政治勢力を排除することは、改憲発議に協力する政権補完勢力をつくり、参議院選挙での候補者乱立と共倒れを招くことにほかならないこと、などです。」
 
 時あたかも、私の地元和歌山でも、参院選に向けて大きな動きがありました。
 
わかやま新報 19年01月09日 06時59分
夏の参院選出馬表明 元弁護士会長の藤井氏
(引用開始)
今夏に行われる参院選和歌山選挙区(改選数1)に、元和歌山弁護士会会長の藤井幹雄氏(58)が無所属で立候補することを正式に表明し、7日に和歌山県和歌山市友田町のホテルグランヴィア和歌山で記者会見した。安倍政権を「憲法そのものを破壊し、わが国を再び戦争へと導こうとしている」と厳しく批判し、対決姿勢を鮮明にした。
 
藤井氏はかつらぎ町出身。1985年に東京大学法学部を卒業後、司法試験に合格。95年に和歌山弁護士会に登録し、2016年度には会長を務めた。9条ネットわかやまの世話人代表も務め、98年に発生した毒物カレー事件では林真須美死刑囚の一、二審の弁護を担当した。
 
藤井氏には、擁立を主導した連合和歌山が同日の執行委員会で推薦を決め、国民民主党も推薦を発表。立憲民主党社民党の各県組織は推薦に向けて党本部と調整している。
 
藤井氏は記者会見で、安倍政権について「強行採決を繰り返し、議論のないまま自衛隊憲法9条に明記するという改憲案を打ち出し、憲法を私物化している」と述べ、「厳しい戦いになるが、精いっぱい頑張りたい。県民の中には『このままでいいのか?』と思う人もいるはず。そんな人の選択肢になれたら。政治の暴走を止めるために今戦わなくてはいけない」と決意を示した。
 
同選挙区には、自民党現職で経済産業大臣世耕弘成氏(56)、共産党新人の前久氏(62)が立候補を表明しており、藤井氏を「野党統一候補」とできるのかが一つの焦点となるが、連合和歌山の池田祐輔会長は共産党との共闘について、「政党としては難しい」と否定的な見解を示している。
(引用終わり)
 
 1987年の4月はじめ、当時は2年間の修習の最初に司法修習生としての辞令を配属先の地方裁判所で受け取ることになっており、和歌山では、その辞令交付式の前日に、1年先輩の司法修習生から歓迎会を開いてもらう慣例になっていて、その歓迎会の席上で、私は藤井さんと(6人しかいない和歌山修習の同期生として)初めて会ったのでした。
 それから、あっという間に32年近くが経ってしまいました。
 1989年4月の弁護士登録時に、私は和歌山弁護士会に、藤井さんは沖縄弁護士会に入会することになりましたが、夏になると、藤井さんをコンダクターとした和歌山修習同期会沖縄ツアーを満喫したりという関係が続くうちに、1995年に藤井さんは郷里の和歌山弁護士会に登録換えし、今に至るという訳です。
 この他、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」や「9条ネットわかやま」での活動など、語り出せばきりがありません。
 そのような個人的な感慨とは別に、今回の藤井さんの決断は、以下の市民連合の「年頭所感」と基本的な問題意識を共有した末のものであったと私は確信します。
 
 上の新聞報道にもあるとおり、日本共産党からは、前ひさしさんが立候補を表明しており、野党系の2人の候補者の間の調整という微妙な問題があるので、今のところこれ以上は述べません。
 ただ、私個人としては、市民連合「2019年頭所感」に賛意を示したいと思っています。
 
 それでは、市民連合が今年の元旦に発表した「2019年頭所感」をお読みください。
 
(引用開始)
January 01 2019
2019年頭所感
 
公文書改竄、虚偽答弁、隠蔽工作、データ捏造など前代未聞の蛮行が政府により繰り返された2018年、主権者たる国民の代表が会する国会がこれほどまでにないがしろにされたことはありませんでした。また、女性に対する許しがたいセクシュアル・ハラスメントや性暴力、医大・医学部入試におけるあからさまな女性差別、旧優生保護法に基づく強制不妊手術や国・地方自治体における雇用水増しなどで明るみに出た障がい者差別、入国管理局による非人道的な長期収容や著しい人権侵害が横行する外国人研修生・技能実習生制度の実態が浮き彫りにした外国人差別、「生産性がない」というヘイト発言など右派政治家やメディアによるLGBT差別、そして辺野古での土砂投入に象徴される沖縄差別など、今日もなお日本の政治、社会、経済にはびこるさまざまな差別が一気に白日の下にさらされた年でもありました。
 
2019年はいったいどのような年になるのでしょうか。
 
春の統一地方選挙と沖縄・大阪衆院補選から夏の参議院選挙へとつづく2019年は重要な「選挙イヤー」にあたり、主権者自らがこのような政治のあり方に終止符を打つチャンスと言えます。しかし、追い詰められるたびになりふりかまわぬ強行突破を繰り返してきた安倍政権は、解散権をまた濫用して衆参同日選を仕掛けてくる可能性をちらつかせており、さらに憲法破壊の総仕上げとして改憲発議を強行する姿勢を崩していません。私たちは、2019年、大きな正念場を迎えることになります。
 
自民党は、2012年12月に政権復帰を遂げて以来、2014年12月、2017年10月と衆議院選挙において公明党と合わせて3分の2を超える議席を得る圧勝をつづけてきましたが、実は、2009年8月に民主党に惨敗し下野した際に獲得した得票数に一度たりとも達していません。安倍自民党の言いなりとなってしまった公明党も、近年得票数を減らしつづけています。それでも自公連立与党が圧勝をつづけるのは、衆議院における小選挙区参議院の地方一人区などで野党候補が共倒れを繰り返し、また、野党の分裂により有効な選択肢(オルタナティブ)を失ったと考える有権者の多くが政治をあきらめ棄権するようになってしまったからです。
 
私たち市民連合は、2015年12月以来、誰もが尊厳ある暮らしをおくることができる「あたりまえの政治」を取り戻すため、全国各地の市民の皆さんと連携し、野党の共闘態勢を構築することを目指してきました。2016年7月の参議院選挙では、32の一人区すべてで野党統一候補の擁立が実現し、11選挙区において勝利をおさめるなど、これまで一定の成果をあげることができました。しかし、2017年10月の衆議院選挙では、希望の党への合流をめぐり民進党が分裂し、またしても野党の分断が自公連立与党を利する結果をもたらしてしまいました。
 
野党がバラバラに戦った2013年7月の参議院選挙では、31あった一人区のうち29議席までも自民党に取られています。これらの議席が改選となる2019年、野党共闘の成否で選挙結果とその後の政治状況は大きく変わってきます。野党間の政策合意と候補者調整を進め、改憲発議に必要な3分の2の議席を大きく割り込ませることができれば、安倍政権を退陣に追い込むことも十分可能です。他方、野党候補が乱立するようなことになれば、政権の延命を許すばかりか、改憲への動きが加速する事態につながりかねません。言い換えれば、自公連立与党にとって、野党の分断と投票率の低迷こそが政権存続のカギを握っているのです。
 
また、現在すでに連立与党や維新などの改憲勢力が衆参両院で3分の2を有していると言っても、安倍改憲を成し遂げるためには単に発議を強行するだけではなく、国民投票過半数の賛成を確保しなくてはならず、そのために野党の一部を取り込み、大義も民意もない改憲発議に見せかけの正当性を付与することを狙っています。だからこそ、安倍政権は国民民主党への働きかけを強めるなど、野党の分断を執拗に画策しています。
 
安倍政権の打倒と安倍改憲の阻止を目指す私たち市民連合は、立憲民主党日本共産党社会民主党自由党無所属の会と意見交換や政策協議を重ねると同時に、立憲主義の擁護、安保法制の廃止、9条改悪の阻止、個人の尊厳を擁護する政治の実現という大原則の共有を前提に、国民民主党とも連携の可能性を模索してきました。これら立憲野党5党1会派は、働き方改革入管法改正案などの重要法案を巡って国会でも共闘を進め、2018年9月に行われた沖縄県知事選挙においてともに玉城デニー候補を支援しそれぞれ勝利に貢献してきました。
 
こうしたなか、11月6日市民連合は国民民主党玉木雄一郎代表と平野博文幹事長と意見交換を行い、安倍政権下での改憲発議の阻止、違憲の安保法制の廃止、立憲主義の回復といった基本的な方向性の共有を確認し、11月16日の「立憲野党と市民連合意見交換会」には平野幹事長と小宮山泰子衆議院議員が国民民主党から初めて参加し、11月26日のシンポジウムにも立憲野党5党1会派の幹事長・書記局長が一堂に会し「安倍政権にかわる新しい選択肢」を主題に議論を深めました。政策合意の更新や候補者調整など喫緊の課題はまだ山積みですが、市民連合は、分断を乗り越え、旧無所属の会や国民民主党を含めた大きく力強い共闘態勢によって「選挙イヤー」における立憲勢力の躍進をめざす方針です。
 
希望の党の流れをくむ国民民主党を共闘の枠組みに入れるべきではない、という声も市民連合に少なからず寄せられています。2017年10月の衆議院選挙の際、市民連合希望の党との共闘は行いませんでしたので、国民民主党との連携について疑問や批判が呈されるのは無理からぬことと私たちも承知しています。
 
それでも市民連合が、国民民主党を含めた立憲野党の本格的な選挙協力をめざす理由は以下の通りです。(1)安倍政権下での改憲発議への反対、違憲の安保法制の廃止、立憲主義の回復など共闘の大原則についての一致が、玉木代表や平野幹事長と確認できたこと、(2)旧民主党民進党議員として特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法など一貫してともに反対をしてきた実績があること、(3)オール沖縄の成功が示すように、穏健保守層までウイングを広げた野党共闘が勝利には不可欠であること、(4)一緒に組めるはずの政治勢力を排除することは、改憲発議に協力する政権補完勢力をつくり、参議院選挙での候補者乱立と共倒れを招くことにほかならないこと、などです。
 
理屈はどうであれわかりにくい共闘は有権者のさらなる離反を招くだけ、というご批判はとりわけ深刻に受け止めざるを得ない、と私たちも考えています。そもそも複数政党間の共闘は、政党合併ではない以上、小さいとは言えない違いが残らざるを得ず、相互不信を完全に解消することも困難かもしれません。しかし、「安倍一色」に染まる連立与党に対して、意見の多様性を互いに尊重し、話し合いを通じて合意点を探っていく政治手法は、立憲野党の強みでもあるはずです。立憲主義の回復、安保法制の廃止、安倍改憲の阻止などの一致点を土台に、誰もが自分らしく暮らせる社会や経済をつくるための政策を今後どれだけ具体的に構想し、発信していくことができるか、そうして、政治をあきらめてしまった有権者たちを今一度呼び戻すことができるかが私たちに問われていると考えます。
 
2019年、差別のない「あたりまえの政治」をつくるために、市民連合は、市民と立憲野党の大きく力強い共闘を呼びかけます。
 
2019年1月1日
 
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
(引用終わり)
 
(付録)
通販生活の意見広告「9条球場」(50秒)
通販生活 Published on Dec 31, 2018
日本民間放送連盟の「憲法改正国民投票のテレビCM量に関しては一切、自主規制しません」という理事会決議がとても気になります。
国民投票のテレビCMはイギリスやフランスのように「有料CM禁止」が公平でしょう。
今だって「意見広告」はどの局も禁止ですし。」

日本弁護士連合会「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」を読む

 2019年1月8日配信(予定)のメルマガ金原.No.3386を転載します。
 
日本弁護士連合会「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」を読む
 
 昨年の12月20日付で採択された日本弁護士連合会の意見書としては、既に「旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書」をご紹介していますが(「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」に対する弁護団コメント、朝日社説、日弁連意見書のご紹介/2018年12月28日)、
同日の日弁連理事会で承認された意見書は他にも4本あり、今日はそのうちの「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」をご紹介します。
 
 この問題に関して日弁連は、夙に2015年12月18日、「施行後5年を目途とする公文書管理法の見直しに向けた意見書」を発表し、様々な提言を行っていました。
 ところが、その後、後に引用する意見書で言及しているとおり、① 防衛省における南スーダンPKO派遣部隊の日報廃棄問題(自衛隊日報問題)、② 財務省における学校法人森友学園への国有地売却の経緯に関する書類廃棄、決裁文書の改ざん問題(森友問題)、③ 文部科学省における学校法人加計学園愛媛県今治市での獣医学部新設計画に関する文書の問題(加計問題)などの目を疑うばかりの問題事例が続出しました。
 その後、「行政文書の管理に関するガイドライン」が改正されはしたものの、かえって、残すべき文書を残さない運用が増加するという事態が明らかになってきました。
 そこで、以下の意見書が公表されるに至ったということでしょう。
 PDFファイルで16頁もあり、全文引用するには長過ぎますので、
  第1 意見の趣旨
  第2 意見の理由
   1 公文書管理法施行後の経過と問題事例
のみ引用し、具体的な提言部分の詳細な理由については、リンク先の日弁連サイトでお読みいただければと思います。
 
 なお、その前提として、公文書管理法とガイドラインにリンクしておきますので、適宜参照しながら意見書をお読みいただければと思います。
 
公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)
 
行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年4月1日内閣総理大臣決定、最終改正平成29年12月26日)
 
改正「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成29年12月26日一部改正)に関する解説集(平成30年1月31日内閣府大臣官房公文書管理課)
 
 それでは、日弁連「公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書」をお読みください。
 
(抜粋引用開始)
                公文書管理法制の改正及び運用の改善を求める意見書
 
                                             2018年(平成30年)12月20日
                                                                 日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
1 政府が行政機関の職員に対し,公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)4条が定める意思形成過程文書に関する文書作成義務について,行政文書の管理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)の規定する文書主義の原則を徹底させることを求める。
2 公文書管理法制の制度設計に関し,
(1) 公文書の恣意的な廃棄等が行われないように監視するため,独立した第三者機関としての公文書管理庁を設置すること
(2) 公文書管理法を,行政文書の作成段階から徹底して電子記録管理を行う法制度に変更すること
を政府及び国会に対して求める。
3 現行の公文書管理法,ガイドラインの改正及び運用の改善に際しては,
(1) 事後的検証に必要な文書が,情報公開及び公文書管理の対象から外れない運用をすること(公文書管理法2条4項,ガイドライン第1関係)
(2) 行政文書ファイルにおける文書整理に関する「保存期間を同じくすることが適当であるものに限る」(公文書管理法5条2項)との文言を削除すること
(3) 文書の保存期間を1年未満とすることを原則禁止すること(公文書管理法8条2項を受けての内閣総理大臣決定,ガイドライン第4,3関係)
(4) ガイドラインから「可能な限り,当該打合せ等の相手方(以下「相手方」という。)の発言部分等についても,相手方による確認等により,正確性の確保を期するものとする。」との規定を削除すること(ガイドライン第3,3関係)
(5) 罰則について新たな故意犯を導入するのであれば,慎重に検討すること
(6) 公文書管理に関する法令違反等の不適切行為に関する内部通報専用の窓口を,各府省及び新設する公文書管理庁に整備すること
(7) 長期間利用制限をすべき秘匿性の高い文書であっても利用制限は30年を超えないとするいわゆる「30年原則」を制度化すること(公文書管理法16条関係)
を政府に対して求める。
 
第2 意見の理由
1 公文書管理法施行後の経過と問題事例
(1) 公文書管理法施行5年後の見直しはなされなかった
 2011年(平成23年)4月1日に施行された公文書管理法附則13条は,「政府は,この法律の施行後五年を目途として,この法律の施行の状況を勘案しつつ,行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と規定する。
 これを受けて当連合会は,2015年(平成27年)12月18日,「施行後5年を目途とする公文書管理法の見直しに向けた意見書」(以下「2015年意見書」という。)を発表し,ⅰ)公文書管理庁の設置,ⅱ)徹底した電子記録管理を行う法制度への移行,ⅲ)目的規定への「知る権利」の明記,ⅳ)公文書管理法3条を削除して公文書管理法の適用除外をなくす,ⅴ)いわゆる「30年原則」の採用,ⅵ)地方自治体における公文書管理体制の促進を提案した。
 しかし,公文書管理委員会が,2016年(平成28年)3月23日に発表した,「公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書」では,公文書管理法の改正に関する指摘はなされなかった。
(2) 2015年意見書発表後に明らかになった問題事案
防衛省における,南スーダンPKO派遣部隊の日報廃棄問題(以下「自衛隊日報問題」という。)
 2016年(平成28年)7月上旬,陸上自衛隊が派遣されている南スーダンの首都で大規模な戦闘が発生した。この件に関し,ジャーナリストが,防衛省に対して,「同月6日(日本時間)~15日の期間に中央即応集団指令部と南スーダン派遣施設隊との間でやり取りした文書全て(電子記録含む)」を開示請求した。
 開示請求当時,派遣部隊が作成した日報が陸上自衛隊の指揮システムの掲示板にアップロードされ,同システムの利用者が閲覧及びダウンロード可能な状態にあった。しかし,日報を開示対象から外す意図の下に,中央即応集団指令部の職員が陸上幕僚監部関係職員に対し,日報は個人資料であると説明し,開示対象に含めないこととなった。その後なされた日報の開示請求に対しても,防衛省は,文書不存在を理由に不開示決定を行った。しかし,実際には,陸上自衛隊が日報を一貫して所持していたことが後に明らかとなった。
 派遣部隊自身が作成した貴重な一次資料である日報は,派遣活動の成果や問題点を検証し,今後のPKO活動の可否・内容を考えるために必要であり,長期間にわたり保管されなければならない文書である。それにもかかわらず,文書不存在を理由に不開示決定を行った防衛省の対応は,2018年(平成30年)4月27日付け与党・公文書管理の改革に関するワーキングチーム作成「公文書管理の改革に関する中間報告」(以下「与党中間報告書」という。)も指摘するように,「戦闘」という用語を用いたことを国民から隠すためであると見られても仕方のない行為であって,国民主権の理念にのっとり公文書等の管理を規定する公文書管理法の精神に反している。
財務省における,学校法人森友学園への国有地売却の経緯に関する書類廃棄,決裁文書の改ざん問題(以下「森友問題」という。)
 2017年(平成29年)2月,大阪市の学校法人森友学園に対して,同学園が設立する小学校の建設を予定している国有地が,近隣の土地評価額に比べて著しく低い価格で財務省近畿財務局から払い下げられていたことが発覚した。国有地の売却手続については,国の事業の実績を合理的に跡付け,検証することができるよう文書を作成しなければならず,少なくとも会計検査院による検査期間が終了するまでは,経緯を含めた説明責任を果たすために保管されなければならない。 
 しかし,同月24日の衆議院予算委員会で,当時の財務省理財局長は,本件土地の払下げに関する交渉記録が財務省行政文書管理規則によって保存期間が1年未満とされており,森友学園との売買契約成立により事案が終了したため廃棄したと答弁した。
 ところが,2018年(平成30年)3月2日,財務省森友学園との本件土地の売却契約に関する決裁文書を書き換えていたとの新聞報道がなされ,同月12日,財務省の内部調査により,前年の2月下旬から4月にかけて14件の決裁文書が改ざんされていたことが判明した。同年6月4日に同省が公表した,「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」によれば,交渉記録の廃棄や決裁文書の改ざんが,「国会審議が相当程度紛糾することを懸念し,それを回避する目的」でなされたものと結論付けている(同報告書36頁)。これらの行為は,公文書管理法が定める公文書の作成,管理,保存又は廃棄の規定上,想定外の行為である。
文部科学省(以下「文科省」という。)における,学校法人加計学園愛媛県今治市での獣医学部新設計画に関する文書の問題(以下「加計問題」という。)
 2017年(平成29年)5月17日,政府の国家戦略特区制度を活用した学校法人加計学園の,愛媛県今治市での獣医学部新設計画について,文科省が,内閣府から,「総理のご意向だと聞いている」「官邸の最高レベルが言っている」と言われたことを記録した文書を作成していたことが報道された。
 問題となった文書は,政府の国家戦略特区制度を活用した学部新設の認可プロセスという,まさに,国が説明責任を負う政府及び文科省の意思決定に至る過程に関するものであり,文書を作成し保管しなければならないことは言うまでもない。
 それにもかかわらず,当初,内閣官房長官は,「怪文書のようなもの」である等と述べ,文科省も「文書の存在は確認できなかった」と発表した。
 ところが,文科省の元事務次官が,当該文書は本物であると話し,その後当該文書が省内の複数の部署で電子データとして共有されていたことが報道された。これに対し,文科省が,「個人のメモや備忘録は公開しないこととしているが,今回の件は,国民の声を真摯に受け止めて徹底した調査を行うという特例的な調査である」として再調査したところ,同年6月,問題の文書と同内容あるいは同じ文書の存在が確認された。
 省内の複数の部署で電子データとして共有され,事務次官も閲覧できた文書を,「個人のメモ」として取り扱う文科省の行政文書に関する解釈は,公文書管理,情報公開に対する信頼を揺るがすものであると言わざるを得ない。
(3) ガイドラインが改正されたがなお問題は解消していない
 自衛隊日報問題,森友問題,加計問題は,公文書管理及び情報公開法制が本来求めている記録に基づいた説明責任を行政が果たしていないことを示している。しかし,そのことへの対応として公文書管理法の改正は行われず,2017年(平成29年)12月に,公文書管理委員会がガイドラインを改正するにとどまった。
 確かに,このガイドラインの改正により,保存期間1年未満の文書の取扱い等,公文書管理の運用の改善に一定の効果が期待できる。しかし,他方で文書の正確性を確保する方策等においては,文書を残さない方向への後退を招く危険性があり,実際に,ガイドライン改正後に以下の事象が発生している。
経済産業省(以下「経産省」という。)における内部文書問題
 2018年(平成30年)3月,経産省が,ガイドラインの改正内容を職員に説明するに当たって同省職員に配布した内部文書の中で,省内外での打合せなどの記録について,「打合せ等の記録」は「いつ,誰と,何の打合せ」を行ったかが分かればよく,「議事録のように,発言の詳述は必要ない」等と記載していたことが同年8月に判明した。
防衛省海上幕僚監部における内部文書問題
 2018年(平成30年)11月,防衛省が,職員用の行政文書管理マニュアルで,ガイドラインの改正により作成が義務付けられた打合せ記録の対象を,課長級以上の会議に限定すると受け取れる記載をしていることが判明した。これに対し,防衛省はマニュアルの記載は例示に過ぎないと説明したが,その後,海上幕僚監部が幹部研修で使っていた資料に,打合せ記録の「作成範囲の統一基準」として課長級以上の会議と明示していることが判明した。 
 これらの事象に照らすならば,もはやガイドラインの改正というレベルだけでは国民の行政への信頼回復は不可能であり,公文書管理法制の運用改善のみならず,公文書管理法制の見直しを含めた法改正が必要である。
~以下、省略~
(引用終わり)

放送予告「大丈夫。のはずが...西日本豪雨半年 暮らしと教訓(仮)」(NNNドキュメント@2019年1月20日)

 2019年1月7日配信(予定)のメルマガ金原.No.3385を転載します。
 
放送予告「大丈夫。のはずが...西日本豪雨半年 暮らしと教訓(仮)」(NNNドキュメント@2019年1月20日
 
 2019年、初のTVドキュメンタリー番組の紹介は、NNNドキュメントです。
 
日本テレビ系 2019年1月21日(月)午前0時55分~(20日深夜)【拡大枠】
NNNドキュメント「大丈夫。のはずが...西日本豪雨半年 暮らしと教訓(仮)」
(番組案内から引用開始)
2018年7月に起きた平成最悪の豪雨災害、西日本豪雨。犠牲者は220人を超え未だ行方不明者も。特に被害の大きかった広島、岡山、愛媛は、それぞれ、土砂災害、堤防決壊、ダム放流と災害に特徴を持つ。歴史的にも繰り返されてきた災害で、なぜ逃げられなかったのか?家族を亡くし家を失った被災者のこれからの暮らしはどうなるのか?この事は、私たちに何を警告するのか?広島、岡山、愛媛の3局共同制作で総力取材する。
(引用終わり)
 
 以上の「3局共同制作」ということで思い出すのは、テレビ朝日系のドキュメンタリー番組枠「テレメンタリー」において、西日本豪雨災害について、被災地元放送局が制作した以下のような番組を放送したことです。
 
9月2日「道は濁流になった」制作:広島ホームテレビ
9月9日「ダムに沈められた町」制作:愛媛朝日テレビ
9月22日「自治体の悲鳴~水害列島日本~」制作:九州朝日放送(福岡県東峰村
12月9日「灯りを奪われた町で」制作:瀬戸内海放送岡山県倉敷市真備町
 
 NHKのような大組織とは異なり、民放ネットワークの場合、地方放送局それぞれが独自取材して制作した番組を放送することになるのですから、各局の災害に対する取材者としての向き合い方にも差異があって当然です。
 NNNドキュメントでも、これまで西日本豪雨災害を取り上げてこなかった訳ではなく、9月10日には、広島テレビが制作した「すべて土砂に埋まった...西日本豪雨 奪われた暮らし」を放送しています。
 ところが、今度放送される「大丈夫。のはずが...西日本豪雨半年暮らしと教訓(仮)」は、広島テレビ西日本放送南海放送の「3局共同制作」で、【拡大枠】(通常30分枠のところ、多分1時間枠になるのではと思います)ということですから、テレメンタリーのように、各放送局がそれぞれ個別の番組を制作するというのではなく、共同して1本のドキュメンタリー番組にするというのですから、どういう視点で番組としての統一性を出すのか、ディレクターの手腕が期待されます。
 もしかしたら、3局それぞれ、全国ネットではなく、自局単独ローカルで放送した番組素材があり、それを再編集しつつ、追加取材を行って仕上げたのかもしれませんが、大いに関心を持って視聴したいと思います。

和歌山市・新成人アンケート2019(後編)~結果レポート

 2019年1月6日配信(予定)のメルマガ金原.No.3384を転載します。
 
和歌山市・新成人アンケート2019(後編)~結果レポート
 
 今日(1月6日)は、1月2日のブログ(和歌山市・新成人アンケート2019(前編)~予告編と昨年までの回顧)で予告したとおり、和歌山県民文化会館和歌山市成人式「はたちのつどい」が開かれ、成人を迎えた(満20歳もしくは19歳の)多くの若者で賑わいました。今年の新成人は、3,590人(男1,859人、女1,731人)で、対前年比57人の増加ということです。まだ、今年の参加者数(というか受付者数でしょうが)が何人だったか分かりませんが、例年、だいたい2,000人程度の新成人が参加するようです。
 これを目当てに、というのも何ですが、色々な団体が例年さまざまな取組を行っています。
 
 今日も、先のブログでご紹介したとおり、「平和と憲法を守りたい市民の声」が、2005年以来14回目の新成人アンケートを実施したのを始め、原水爆禁止和歌山県協議会が、新日本婦人の会和歌山市支部の協力を得て、「被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」を行っていましたし、昨年もお見かけした民主青年新聞(民青同盟)の皆さんが、今年も、簡単なシールアンケートと本格的なアンケート用紙を併用しながら活動されていました。 ところで、民青同盟といえば、昨年の私のFacebookとブログに写真を掲載した「金髪の青年」が一部で注目を集めたのですが、
その青年は今年もお見かけしたものの「金髪」ではない!と、少しがっかりしました。
 あと、昨年は、和歌山市選挙管理委員会が、着ぐるみの「選挙のめいすいくん」も動員して模擬投票所を開設していましたが、
今年はブース(模擬投票所)の設営はなく、代わって、(財)明るい選挙推進協会の法被を着た方々が、アンケート用紙を持って新成人に声をかけているようでした。
 実は、民青同盟のシールアンケートが、今春の統一地方選挙や今夏の参院選の投票に行きますか?というものでしたから、両方から声をかけられた人はとまどったでしょうね。民青同盟の男性(顔見知りの院生)が、「いっそ、ここでアンケートをとっている各団体が質問事項を持ち寄って、統一アンケート用紙を作ればいいのに(長くなってしまうかもしれないけれど)」と言っていたのは興味深かったですね。
 
 ところで、2017年まで和歌山ビッグホエールで開かれていた「はたちのつどい」が、昨年から和歌山県民文化会館に会場が移され、今年も引き続き同ホールで開かれたということは、会場の収容力はキャパ2,000の県民文化会館で十分ということなのでしょうね。
 13日後の1月19日(土)に「危ないぞ!みんなで止めよう安倍改憲 1・19和歌山県民のつどい」を、ここ県民文化会館大ホールで開く身としては、正直「せめてこの半分でも来てくれたら」と痛切に思いました。
 なお、今日は、「つどい」実行委員会の柏原卓さん(九条の会・わかやま)や西村佳三さん(憲法九条を守るわかやま県民の会)が、19日のチラシを配るために県文前に来てくださいました。
 
  ちなみに、会場を訪れる新成人にとって、久しぶりに友人と交歓することが最大の目的であり、よしもと芸人のコント、ましてや知事や市長の挨拶を聞きたくて来る者はまあほとんどいないでしょう。
 ということで、係員が「入場してください」「歩道に立たないでください」と声をからしても、会場前の広場、というのか階段というのか、が立錐の余地もなくなってしまうのも仕方がないでしょうね。もっとも、ここにあと400人か500人多く押しかけたら、階段で転倒事故発生という悪夢が現実化しかねません。今は、非常に微妙なバランスの上で、無事開催を続けているような気がします。
 末尾に、会場正面の新成人の集まり具合が分かる3枚の写真を掲載しておきます。1枚目は11時10分頃、2枚目は11時40分頃、そして3枚目は12時30分頃に、いずれも道路の反対側、県庁前の歩道から撮影したものです。
 
 さて、それでは、通算14回目となる、「平和と憲法を守りたい市民の声」による新成人アンケート2019の結果をご報告します。
 ここは、終了後、私がマスコミ各社にFAXで送信したプレスリリースを引用することで報告に代えたいと思います。

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(引用開始)
【プレスリリース/本文書のみ】
                                                                2019年1月6日
報道機関 各位
                               平和と憲法を守りたい市民の声
                                世話人代表 松 浦 攸 吉
                                     
                  新成人アンケート2019の集計結果を
                               お知らせします
 
 平素は私たちの活動にご理解ご協力をいただきまことにありがとうございます。
 本日、和歌山市の新成人を対象として、成人式「はたちのつどい」会場周辺において意識調査(アンケート)を行い、約360人の新成人から回答を得ることができました。
 今年の新成人は3,590人ですから、ちょうどその1割(実際に成人式に参加した新成人のおそらく2割近く)から回答を得られたことになり、それなりに精度の高い調査結果が得られたのではないかと思います。
 なお、当会による新成人アンケートは、2005年(平成17年)を第1回として、通算14回目となります(2017年のみ悪天候のため中止)。
 その集計結果は下記のとおりですのでお知らせ致します。
 
                                      記
○と き 2018年1月6日(日)午前11時00分頃~午後0時45分頃
 
○ところ 和歌山県民文化会館(成人式会場)周辺
 
〇質問項目とその結果
 
1 沖縄県辺野古沿岸の埋立工事について
   推進する(賛成)          27人
   中止する(反対)          76人
   わからない・どちらとも言えない 263人
     計   366人 
 
2 日本国憲法9条について
   変更すべき             51人
   変更すべきではない       125人
   わからない・どちらとも言えない 178人
     計     354人
(引用終わり)
 
 なお、少し補足すると、このアンケートは、アンケート用紙(会場前の写真3枚に続いて集計結果を書き込んだアンケート用紙の写真を掲載します)を持った調査員が、新成人から回答を得て、「正」の字で人数をカウントしていくのですが、新成人との対話の中で引き出された彼らのコメントを(網羅的にではありませんが)用紙にメモすることにしており、そのコメントをテキスト化したものも担当者から送っていただきました。
 最初、そのコメントを通読した際には、「これはそのまま全部は載せられないな」と思い、いくつか興味深いものをセレクトしてご紹介しようかと思ったのですが、結局それは、私自身の理解が及ぶコメントだけ選別し、理解困難なものを排除する結果になるのではないかと思えてきましたので、結局そのまま全部掲載することにしました。
 何しろ、回答者自身が書いたものではなく、調査員の聞き取りメモですから、その真意が正確に理解できないものもあるのはやむを得ません(自分で書いてもらっても同じかもしれませんが)。そういうものという前提でお読みください。
 
(アンケート集計結果から引用開始)
【コメント】
沖縄県辺野古沿岸の埋立工事について~
推進する(賛成)
 ・なんとなく・・・
 ・普天間の危険除去のため。
中止する(反対)
 ・今の知事が誰か知らない。
 ・政府のこと(決定?)には、もちろん反対する。
 ・法学部なので、ニュースは気にしている。
 ・自然を守りたい。
 ・絶対反対。
わからない・どちらとも言えない
 ・ニュースで聞いたことがない。
 ・知らない。
 ・何のことかわからない。
 ・県民の意見は「反対」のように報道されているが、そこ(基地?)で職を得ている人もいるので、反対が多いわけではないと思う。きちんと報道するべき。
 ・頭悪いから難しいことを聞かないでほしい
 ・詳細をよく知らないので答えようがない
番外 ※用意した回答の中に無い
 ・どちらに転んでも金が動くので、どちらになっても何も変わらない(難解な回答だ…)
 
日本国憲法9条について~
変更すべき
 ・なんとなく
 ・9条があってもなくても攻撃されることはある
 ・考えは人それぞれ
 ・アメリカのことを考えたら仕方ない
(徴兵されたら?と聞いたところ)
 ・そう決まったのであれば行かなければならない
変更すべきでない
 ・もちろん
 ・わからないけど、他の人が言ってるなら反対
 ・小学校で習った。男の子がかわいそう。(徴兵?)なので、ゼッタイすべきでない。
 ・法学部なので、憲法は基本的に変えてはいけないと思っている。
 ・戦争はいやだ(複数あり)
 ・絶対反対
わからない・どちらとも言えない
 ・考えたこともない
 ・知らない(初めて聞いた)
 ・9条知らない
 ・今日は楽しむために来てるので質問しないでほしい
 ・9条は守る方がよいが、攻められたら守らなければならない(防衛?)ので、どちらとも言えない
 ・(知識不足なので)適当に答えることはできない
(引用終わり)
 
 「わからない・どちらとも言えない」という選択肢を設けずにアンケートをとることも過去には多かったのですが(その場合、「わからない」という回答は、2択の真ん中にシールを貼った~2016年まではシールアンケートだったので)、今回の設問では、「わからない」という選択肢を作っておかないと、大変なことになっていたでしょうね。
 特に、辺野古に関する質問など、回答者の約72%が「わからない・どちらとも言えない」ですからね。そもそも「辺野古」を「へのこ」とちゃんと読めるのか?ということからして心配になります。若者が新聞を読まなくなった、ということはずっと前から言われていますが、確かにそうなのかもしれないという気がします。
 他方で、「知識不足」であることを自覚して、適当にどちらかに答えることはしない、という態度を誠実さの表れと評価することは可能かもしれません。知識不足を自覚した後、自ら知識を求めてくれるかどうかはともかくとして、ですが。
 
 私たちが年来続けてきた「憲法9条の明文改憲に反対する」声が、「憲法9条なんて知らない」「聞いたことがない」という若者に届いていないことは確かです。そして、そのような層がどんどん増えているような気さえするのですが、さてどうしたら良いものか・・・ということを、あらためて認識させてくれる新成人アンケートの結果でした。

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家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~『子ども白書2018』から

 2019年1月5日配信(予定)のメルマガ金原.No.3383を転載します。
 
家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~『子ども白書2018』から
 
 昨年11月16日のブログ(『子ども白書2018  「子どもを大切にする国」をめざして』(日本子どもを守る会編)のご紹介)でご紹介したとおり、昨年8月、日本子どもを守る会が編集する『子ども白書2018 「子どもを大切にする国」をめざして』が本の泉社から刊行されました。

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 今日ご紹介するのは、同書の〈ことしの子ども最前線〉の1編として、私が執筆したものですが、先のブログにも書いたとおり、過去に私がブログに書いた記事のツギハギの域を出るものではなく、タイトル自体、ブログで一度使ったものの再利用です。
  もっとも、ツギハギではあっても、この問題(家庭教育支援条例を作って何をしたいのか?)を考えるために必要な基礎的事項の一応の整理にはなっているかと思いますので、ご紹介することとしました。
 
 なお、「家庭教育支援」に関わって、参考となるサイトを2つご紹介しておきます。
 1つは、「24条返させないキャンペーン」WEBサイトの中のカテゴリー「家庭教育支援法案」に分類された記事です。ネット上で読める様々な情報にリンクされていて、同法案の動向をフォローしたい向きにはとても参考となります。
 
 もう1つは、家庭教育支援法や家庭教育支援条例がなくても、国は「家庭教育支援」を推進しているということに関わるものですが、全国都道府県教育長協議会第2部会が一昨年(2017年)3月にとりまとめた「今後の家庭教育支援の在り方について~定量的な効果検証の試みと好事例の収集~」という報告書です。
 同報告書は、その「調査結果のまとめ」において、以下のように述べています。
「今回の調査研究では、個々の事業の評価に止まらず、家庭教育支援施策の成果、効果を評価するため、全国学力・学習状況調査(児童質問紙等)の「子供の基本的生活習慣の改善」や「地域への参加、関心」といった評価項目を活用し、定量的な効果検証を試みた。
その結果、「親への学習支援」と「放課後子供教室の設置」に比較的よく取り組んでいるとする市区町村では、「子供の基本的生活習慣」や「地域への参加、関心」といった児童質問紙等の設問の肯定的回答の平均値が、全国や都道府県の平均値と比べ、概ね高い傾向を示した。」
 家庭教育支援法案や家庭教育支援条例だけではなく、着々と進行する「家庭教育支援」についての注目を怠ってはならないと思います。
 

『子ども白書2018 「子どもを大切にする国」をめざして』
日本子どもを守る会編 2018年8月 本の泉社発行 より
 
                     家庭教育支援条例のある「まち」に住んで
 
                               金 原 徹 雄
 
1 私の住む「まち」に家庭教育支援条例が制定されていた
 私は、和歌山市で生まれ、還暦を過ぎた今まで、司法試験受験のためと、合格後司法研修所を修了するまでの一時期を除き、ずっと生まれ故郷の和歌山市で暮らしてきました。ところが、その和歌山市(県庁所在地で中核市)に、近年、どうにも気になる動きが目につくようになってきたのです。
 例えば、和歌山県と一体となって、市内のリゾート施設に外国人専用(これも怪しくなってきましたが)カジノを誘致するという方針を打ち出したり、和歌山市民図書館に指定管理者制度を導入し、全国で物議を醸している「ツタヤ図書館」を運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を指定管理者に指定したり(全国の中核市で初)といったことです。
 そして、本稿では、和歌山市におけるもう一つの「全国の中核市で初」をご紹介したいと思います。それは、和歌山市家庭教育支援条例の制定と同条例に基づく具体的な施策についてです。
 まことに恥ずかしながら、和歌山市議会が、2016年12月15日に和歌山市家庭教育支援条例を可決成立させていたということ自体、翌年の3月になるまで私は全く知りませんでした。参院選、安保法制、原発共謀罪と、取組課題が山積していたからというのは言い訳にはならないでしょうが。
 現在までに、この種の家庭教育支援条例がどれくらいの自治体で制定されているのか、最新の情報は承知していないのですが、2017年3月末の時点で条例の制定を確認できたのは、8県(熊本、鹿児島、.静岡、.岐阜、徳島、宮崎、群馬、茨城)、5市(石川県加賀市、長野県千曲市和歌山市、鹿児島県南南九州市、.愛知県豊橋市)にのぼります。
 
2 始まりは教育基本法の全面「改正」
 和歌山市家庭教育支援条例が、第3条(基本理念)において、「家庭教育への支援は、保護者が教育基本法(平成18年法律第120号)第10条第1項に定めるところにより、子供の教育について第一義的責任を有しているとの基本的認識の下に・・・」とあるとおり、
現下の家庭教育支援条例や、近々の国会上程が取り沙汰されている家庭教育支援法案は、第一次安倍晋三政権下の2006年12月に全面「改正」された新・教育基本法にその根拠を置いています。
 
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
 
 すなわち、上記第10条2項で規定された「国及び地方公共団体」の「務め」を具体化するための条例の制定であり、法案の準備であるということなのでしょう。
 ちなみに、日本国憲法施行の直前に公布され、憲法を実現するための不可欠の付属法令であった旧・教育基本法にも「家庭教育」という用語は使われていましたが、それは、あくまで「社会教育」の一部、その例示であって、保護者が「子の教育について第一義的責任を有する」というような価値観の押しつけなどしていませんでした。
 家庭教育支援条例についても、家庭教育支援法案についても、その起点は教育基本法の全面「改正」であり、教育に関する憲法とも言われた旧・教育基本法が書き換えられたことにより、実質的な意味における憲法は変容を被らざるを得なかったという評価が必要なのだろうと思います。
 
3 和歌山市家庭教育支援条例の構成(特に親と市の役割)
 和歌山市家庭教育支援条例は、先に引用した第3条で(基本理念)を定め、続く第4条以下において、市(第4条)、保護者(第5条)、学校等(第6条)、地域住民及び地域活動団体(第7条)及び事業者(第8条)の各「役割」を規定し、第5条ないし第8条には、その役割に応じた努力義務を課しています。
 この内、第5条(保護者の役割)は、「保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と規定し、「子供に愛情をもって接」することを(努力義務とはいえ)保護者(原則として親)に義務付けています。私は、これを読んで、法律(条例)上の概念として「愛情」という表現を使用することに何のためらいもなかったのか?と慄然としました。
 もっとも、この種条例の先駆的存在である熊本県条例(くまもと家庭教育支援条例)の第6条(保護者の役割)も、「保護者は、基本理念にのっとり、その子どもの教育について第一義的責任を有するものとして、子どもに愛情をもって接し、子どもの生活のために必要な習慣の確立並びに子どもの自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。」と規定しています。
 正直言って、和歌山市条例は「くまもと家庭教育支援条例」の引き写しです。かくて、コピペ条例が増殖していくのだろうなあ、というのが、私が熊本県和歌山市の家庭教育支援条例を読み比べた上での感想であるとともに、「自民党日本国憲法改正草案の第24条1項、『家族は、互いに助け合わなければならない。』と同じじゃないか。」と呟かざるを得ませんでした。
 和歌山市条例に戻り、とりわけ「市が何をするのか?」にフォーカスして読み進めてみましょう。条例は、第4条(市の役割)で、「市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、家庭教育を支援するために必要な体制を整備するとともに、家庭教育を支援するための施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。」(1項)という総括規定を置いた上で、第9条~第14条において、市が行う各種家庭教育支援行政の根拠規定を列挙しています。
 詳細については、条文自体にあたっていただきたいのですが、とりわけ、「親としての学び(保護者が子供の発達段階に応じた家庭教育に関する知識、子育ての知識その他の親として成長するために必要なことを学ぶことをいう。)の支援」(第9条)と「親になるための学び(子供が家庭の役割、子育ての意義その他の将来親になるために必要なことについて学ぶことをいう。)の支援」については要注意です。なぜ要注意なのかということは、
次項で述べる家庭教育支援条例制定記念講演会の模様をお読みになれば分かります。
 
4 和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会に行ってきた
 和歌山市は、2016年12月の家庭教育支援条例の制定をうけ、平成29年度予算に、「条例の趣旨を市民の方に周知・啓発するための講演会開催やパンフレットの作成、担い手講座や親子食育講座等の実施」のために、78万5000円の新規予算を付けました(所管:生涯学習課)。
 その予算のかなりの部分を使ったと思われる「和歌山市家庭教育支援条例制定 記念講演会~大人が変われば 子供も変わる~(主催:和歌山市和歌山市教育委員会)」が、2017年7月1日(土)、同年春に開校したばかりの市立小中一貫校を会場として開催されましたので、私も参加してきました。
 第1部・記念講演「家庭教育支援条例の意義と課題」、第2部・パネルディスカッション「本音で語る!和歌山市の子育て『子育てしやすいまちって、どんなまち?』」の内容自体については、特段報告するほどのこともありませんので、ここでは、どのような人が登壇者として選ばれたかに注意を喚起しておきます。
 記念講演の講師かつ第2部のパネリストを務めたのが一般財団法人親学推進協会会長の高橋史朗氏(明星大学特別教授)であったばかりでなく、第2部・パネルディスカッションのコーディネーターを務めた辻由起子氏(大阪府認定子ども家庭サポーター)は、親学推進協会理事、親学アドバイザー(同氏のホームページの記載による)でした。さらに、高橋教授以外のパネリスト3名の内、和歌山市教育長を除く2名の地元の女性も、1人は「親学を学んで救われた」と発言し、もう1人は「親学アドバイザーである」と自己紹介していました。
 そもそも、条例において、「親としての学び」や「親になるための学び」を市が支援すると謳われている以上、別に驚くほどのことではないのかもしれませんが、私も、参加するまで、ここまで「親学」一辺倒で来るとは予想していませんでした。
 教育基本法の全面「改正」とほぼ同時(2006年12月)に設立された親学推進協会が唱道する「親学」の詳細をここで語る余裕はありませんが、巷間伝えられる発達障害に対する無理解などを脇に置くとしても、伝統的と称する価値観の押し付けや、提言の非科学性が多くの批判を浴びていることはご承知のことと思います。
 そして、条例実施段階の実質2年目である平成30年度の和歌山市の予算を調べてみると、目立つものとして、「『親としての学び』支援のための学習プログラム開発」(所管:学校教育課)に113万2000円の予算が付いていました。「事業目的及び概要」として「子供の発達段階に応じた家庭教育や子育ての知識を学ぶための講座・研修会等で使用するための学習プログラムを開発します。また、開発に当たり、先進地を視察し家庭教育支援の支援者が活用しやすい学習プログラムの開発に生かします。」とありましたので、この予算の具体的な執行と「親学」との関連も注視する必要があると思います。
 
5 法律や条例がなくても「家庭教育支援チーム」は子育て中の家庭を訪問している
 以上は、私が住む和歌山市の状況についての報告でしたが、実は、家庭教育支援法がなくても、家庭教育支援条例のない市町村であっても、国家による「家庭への介入」は着々と進められているということは、本田由紀教授(東京大学大学院教育学研究科)による警鐘によって、私もようやく気がつきました。
 そして、調べてみたところ、この点においても、和歌山県は「先進県」(?)であるようなのです。
 文部科学省に設置された「家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会」による「家庭教育支援の具体的な推進方策について」(2017年1月)などを読むと、家庭教育支援チームによる子育て中の家庭への「全戸訪問」が望ましいあるべき姿であると明確に示されています。
御坊市串本町の3市5町の家庭教育支援チームが文科省に登録しており、中でも、湯浅町家庭教育支援チーム「とらいあんぐる」による「全戸訪問」の取組は、推奨すべきモデルケースとして、全国的な注目を集めていましたが、2018年3月15日、「とらいあんぐる」は、全国24の家庭教育支援チームとともに、文部科学大臣表彰を受けました。
 文科省ホームページで紹介されているところによると、「とらいあんぐる」は、スクールソーシャルワーカーをリーダーとして、保護者や地域住民らも加わる計16名で構成され、「0才児から中学3年生までの子供がいる全ての家庭をA・B・C の3ブロックに分け、1ヶ月に1ブロック、3ヶ月で全家庭を訪問する(年間4回訪問実施)」「全戸家庭訪問」を行っているということです。
 人口1万2000人余りの小さな町だからこそ出来る「全戸訪問」かもしれませんが、1年に4回も(!)、他人が「家庭教育支援」のためにやって来るということを、子育て中の個々の家庭がどう受け止めているのでしょうか。
 
6 家庭教育支援法案について
 2017年の通常国会に上程されるのではないかと言われていた家庭教育支援法案については、本稿執筆時点(2018年5月)においても、いまだに提出時期は分かりません。
 また、法案の内容についても、2016年10月段階で明らかとなった自民党の素案と、2017年2月に朝日新聞が「自民党が今国会で提出をめざす『家庭教育支援法案』の全容が明らかになった」として、2016年10月案からの具体的な修正項目を報じた内容が知られているだけだと思います。
 この1年以上の沈黙を「嵐の前の静けさ」と考えるべきか、はたまた、改憲4項目の発議を最優先とし、その妨げになりそうな法案は後回しにすることにしているのか、正直、実情はよく分かりません。
  けれども、新・教育基本法(2006年)から自民党日本国憲法改正草案(2012年)、そして、伝えられる家庭教育支援法案(2016年・2017年)までの流れに一貫性があることは、誰の目にも明らかなことです。
 また、その背景として、復古的な政治潮流と、新自由主義的な自己責任論を強調する潮流とが、複雑に合流しているということは、つとに識者が指摘されているところです。
 従って、この流れは、安倍政権だけが生み出したものではない以上、容易なことではせき止められないと考えなければならないと思います。
 
7 最後に~温故知新
 昨年(2017年)、東京の大久保秀俊さん、久保木太一さんという両若手弁護士が、1942年5月7日付で、文部次官から各地方長官宛に通牒された「戰時家庭教育指導ニ關スル件」の別紙として示された「戰時家庭教育指導要項」を分かりやすく「超訳」されたことを知り、ご了解を得て私のブログに転載させていただきました(ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月)統合版)。
 是非、原文もしくは超訳でこの「戦時家庭教育指導要項」を読んでいただきたいのですが、「我ガ国ニ於ケル家ノ特質」を国が勝手に措定し、それに適合するように、「健全ナル家風ノ樹立」、「母ノ教養訓練」、「子女ノ薫陶養護」、「家生活ノ刷新充実」の細部に至るまで国が指図をするという内容に、若い人なら笑ってしまうかもしれません。
 けれども、現状の我が国は、笑いごとでは済まない状況に至っているという認識を多くの人に持ってもらう必要があります。
 「子女ノ薫陶養護ハ家庭教育ノ中核ナリ父母ノ慈愛ノ下、健全ナル家風ノ中ニ有為ナル次代皇国民ノ錬成ヲ為スベク」(戦時家庭教育指導要項)と「保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図る」(和歌山市家庭教育支援条例)との間に、それほどの径庭があるとはとても思えません。
 歴史に学び、今を知ることは、何によらず常に重要です。
 
●プロフィール
 きんばら・てつお 1954年生まれ。弁護士。和歌山弁護士会子どもの権利委員会、和歌山県人権擁護委員連合会子ども人権委員会などで、子どもの人権に関わる活動を30年続けてきた。2013年から「弁護士・金原徹雄のブログ」を毎日更新中。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/家庭教育支援関連)
2017年3月29日
「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む
2017年6月28日
和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会「大人が変われば 子供も変わる」(7/1)から何が読み取れるか
2017年7月4日
家庭教育支援条例のある「まち」に住んで~和歌山市家庭教育支援条例制定記念講演会参加記~
2017年7月27日
法律や条例がなくても「家庭教育支援チーム」は子育て中の家庭を訪問している
2017年8月3日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 前編
2017年8月4日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 中編
2017年8月5日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 後編
2017年8月6日
ルビ付き原文と超訳で読む「戦時家庭教育指導要項」(1942年5月) 統合版
2018年11月16日
『子ども白書2018  「子どもを大切にする国」をめざして』(日本子どもを守る会編)のご紹介

国立国会図書館・調査及び立法考査局の刊行物から学ぶ

 2019年1月4日配信(予定)のメルマガ金原.No.3382を転載します。
 
国立国会図書館・調査及び立法考査局の刊行物から学ぶ
 
 国立国会図書館は、日本で最も多くの出版物、具体的には、
 
一 図書
二 小冊子
三 逐次刊行物
四 楽譜
五 地図
六 映画フィルム
七 前各号に掲げるもののほか、印刷その他の方法により複製した文書又は図画
八 蓄音機用レコード
九 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつては認識することができない方法により文字、映像、音又はプログラムを記録した物
 
が集積されている図書館です(のはずです)。
 上記「一~九」は、国立国会図書館法24条1項に規定された「出版物」のリストですが、同項において、これらの出版物が、「国の諸機関により又は国の諸機関のため」に発行されたときは、「当該機関は、公用又は外国政府出版物との交換その他の国際的交換の用に供するために、館長の定めるところにより、三十部以下の部数を直ちに国立国会図書館に納入しなければならない。」と定められており、このことは、独立行政法人国立大学法人特殊法人地方公共団体、港務局、地方住宅供給公社地方道路公社土地開発公社地方独立行政法人等(地方機関の納入冊数は少なくなりますが)にも適用されますし、それ以外の者が「第二十四条第一項に規定する出版物を発行したときは、前二条の規定に該当する場合を除いて、文化財の蓄積及びその利用に資するため、発行の日から三十日以内に、最良版の完全なもの一部を国立国会図書館に納入しなければならない。」(同法25条1項)と定められているからです。
 実際、私も亡母の法事に際し、まことにささやかな句集を印刷して、親戚・知人に貰っていただいたのですが、その際、忘れずに1冊国立国会図書館に送ったのは、上記献本制度についての知識があったからです。
 ですから、「国立国会図書館サーチ」で検索すると、「雀の庭:金原壽美子句集」(2003年12月出版/非売品/55頁/肖像あり)のデータにお目にかかることができます。
 皆さんも、自費出版されることがありましたら、忘れずに国立国会図書館に1冊(美本を)送りましょうね。
 
 余談ながら、私が国立国会図書館に「図書」を送ったことがもう一度ありました。それは、2006年6月に発行した「平和のうちに生きるために:憲法9条を守る和歌山弁護士の会創立1周年記念誌」であり、当時、私は同会の事務局長でしたので、忘れず献本したのでした。
 
 実は、今日は、国立国会図書館に置かれた「調査及び立法考査局」(国立国会図書館法 第六章)が発行する刊行物をご紹介しようと思って書き始めたのですが、つい献本制度についての説明と思い出に時間をとられ、本論は走り書きで終わらざるを得なくなりました(私のブログではよくあることです)。
 
 同図書館・調査及び立法考査局は、「一 要求に応じ、両議院の委員会に懸案中の法案又は内閣から国会に送付せられた案件を、分析又は評価して、両議院の委員会に進言し補佐するとともに、妥当な決定のための根拠を提供して援助すること。」「二 要求に応じ、又は要求を予測して自発的に、立法資料又はその関連資料の蒐集、分類、分析、飜訳、索引、摘録、編集、報告及びその他の準備をし、その資料の選択又は提出には党派的、官僚的偏見に捉われることなく、両議院、委員会及び議員に役立ち得る資料を提供すること。」「三 立法の準備に際し、両議院、委員会及び議員を補佐して、議案起草の奉仕を提供すること。但し、この補佐は委員会又は議員の要求ある場合に限つて提供され、調査及び立法考査局職員はいかなる場合にも立法の発議又は督促をしてはならない。」(同法15条)とされ、以下のような刊行物を発行(多くはWEBサイトでも公開)しています。
 
調査と情報-Issue Brief-:時々の国政上の課題に関する簡潔な解説シリーズです。ひとつの号にひとつのテーマを取り上げ、原則として10ページ以内にまとめています。
 
レファレンス:各分野の国政課題の分析、内外の制度の紹介、国政課題の歴史的考察等、国政の中長期的課題に関する本格的な論説を掲載した月刊の調査論文集です。
 
外国の立法:外国の法令の翻訳紹介、制定経緯の解説、外国の立法情報を収録しています。法案の立案や審議に際し、主要国の立法例を参照したいとの要望に応えています。諸外国の立法動向の解説、関係法令の翻訳等を内容とする季刊版と、諸外国の立法動向を簡潔にまとめた月刊版(平成20(2008)年4月以降)があります。
 
調査資料:特定のテーマに関する調査報告・資料集です。
 
 これらの目次を眺めるだけでも、「読んでみたい」と思う論文が目白押しですが、とてもそれらを全部読んでいるだけの時間を作れそうもないのが残念です。
 例えば、「外国の立法 No.278」(2018年12月:季刊版)に掲載された「【アメリカ】アメリカの2017年女性、平和及び安全保障法」って何だろう?と思いませんか?
 ざっと、要旨を読んでみると、2000年10月31日に国連・安全保障理事会が採択した「女性・平和・安全保障に関する安全保障理事会決議第1325号」を具体化するための法律ということでした。
 法律の全文翻訳も掲載されていますが、概要を引用してみましょう。
 
(引用開始)
 全9条からなる同法の概要は、次のとおりである。
(1)認定(第2条)
 世界中で、紛争予防や解決、紛争後の平和構築において、女性が過少代表にとどまっていることや、その一方で、女性がこれまでこれらの分野で顕著な成功を収めてきたこと等を、連邦議会として認定した。
(2)連邦議会の意思(第3条)
 紛争予防や解決への女性の意義ある参加は、より包括的で、民主的な社会の促進に役立ち、国や地域の長期的な安定に決定的に重要であること、また、合衆国が紛争予防等の取組において、女性の意義ある参加を促進する世界的なリーダーでなければならないことは、連邦議会の意思であるとした。
(3)政策の表明(第4条)
 具体的に列挙された各種の外交的努力やプログラムにより強化される海外における紛争の予防、管理や解決、紛争後の支援及び復興の取組のあらゆる側面への女性の意義ある参加を促進することが、合衆国の政策であるとした。
(4)戦略(第5条)
 この法律が制定されてから1年以内に、またその4年後に、大統領は、第4条で表明された政策目的をどのように実現してゆくのかを記述した、「女性、平和及び安全保障戦略」を策定し、連邦議会に提出しなければならないとし、この戦略に盛り込む内容が詳細に規定された。
 また、大統領が、平和構築等に関わる女性に対して、技術的支援や研修等を実施するべきことや、必要に応じてジェンダー分析を適用すること等が、連邦議会の意思として表明された。
(5)研修(第6条)
 国務長官、合衆国国際開発庁長官及び国防長官が、紛争予防及び平和構築への女性の参加に関する研修を関係する要員に確実に受けさせなければならないことと、研修の分野が規定された。
(6)協議及び協力(第7条)
 国務長官と合衆国国際開発庁長官が、安全保障及び平和構築の分野への女性の参加について、海外にいる合衆国の要員が適切な関係者と協議するようガイドラインを策定するか、あるいは、他の手段を講じることができるとした。 
 また、国際的な平和維持活動において、女性の意義ある参加を促進するために、国務長官は、国際組織や国、地方の組織と協力しなければならないとした。
(7)連邦議会への報告(第8条)
 第5条に規定する戦略の提出後2年以内に、大統領は、同戦略の実施の概要等に関する報告書を連邦議会に提出しなければならないとした。
(引用終わり)
 
 この法律は、トランプ政権になってから成立したものですが、本論文の末尾「おわりに」で筆者(廣瀬淳子氏、原田久義氏)が以下のように述べていることに注意すべきでしょう。
 
(引用開始)
 1989年から2011年にかけて行われた和平交渉において、女性が参加した場合に、和平合意が2年持続する確率が20% 増加し、更に15年持続する確率が35% 増加するという分析結果がある。一方、1992年から2011年にかけて行われた和平交渉において、女性が交渉責任者であった割合は2%、交渉者であった割合は9% にすぎない。
 こうした状況を改善するため、アメリカの果たす役割は大きい。2017年法が成立したことにより、これまでの行政命令を根拠とする取組よりは、政権が交代したとしても政策変更がされにくくなることが予想される。また、大統領や政府の戦略策定等が法定されたことから、女性の参加が実質的に促進され、世界の安全保障の推進に貢献することも期待されている。
 一方、2017年5月に連邦議会へ提出した予算において、トランプ(Donald Trump)政権が女性、平和及び安全保障に係る予算を半額以下に削減したことから、法の実効性を確保するための適正な予算措置を課題として指摘する報道もなされている。
(引用終わり)
 
 私は、巻末リストのとおり、これまで月刊「レファレンス」に掲載される論文ついては、特に安全保障法制との関連で注目してきたのですが、その他の刊行物について、あまり注目していませんでした(そこまでの余裕がなかった)。
 けれども、これらの研究成果は、国会議員やそのスタッフのためだけに提供されている訳ではありません。広く国民全体の共有知とするためにWEBサイトで公開されているのですから、活用しなければ勿体ないですよね。
 ということで、今日のところは、自らを戒める備忘録として書き留めました。
 
 それにしても、調査資料の冒頭に掲載されている「EUにおける外国人労働者をめぐる現状と課題―ドイツを中心に―平成29年度国際政策セミナー報告書」(2018年2月23日に行われたセミナーの記録)は興味深い内容のようです。パネリストとして、広渡清吾先生(東京大学名誉教授)も参加されていますし。
 外国人労働者を受け入れるというのであれば、「ドイツに学ぶ」ということは必須の手順ですものね。
 
 皆さんも、以上の刊行物のインデックスを折りに触れて閲覧され、関心を持たれる分野についての最新の研究成果を学んでみませんか。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/「レファレンス」関連)
2013年11月28日
「レファレンス」掲載論文で学ぶ「集団的自衛権 政府公権解釈の変遷」
2014年4月27日
集団的自衛権の行使事例を学ぼう(「レファレンス」掲載論文から)
2015年9月10日
月刊レファレンス(2015年3月号)の小特集「集団的自衛権」掲載論文4点のご紹介
2016年8月5日
月刊レファレンス(2016年4月号)の小特集「新安保法制の今後の課題」掲載論文のご紹介
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む

新しい作家を迎えられないパブリック・ドメイン・デイ(元旦)~これが20年間続くのか

 2019年1月3日配信(予定)のメルマガ金原.No.3381を転載します。
 
新しい作家を迎えられないパブリック・ドメイン・デイ(元旦)~これが20年間続くのか
 
 著作権の保護期間について、私はこのブログで、ここ2年ほどの間に2度取り上げてきました。
 
2016年11月17日
トランプ大統領が誕生しても安心できない「著作権保護期間70年への延長問題」~青空文庫の主張を読む
 
2018年1月4日
著作権保護期間「70年」で本当にいいのか?~元旦(パブリック・ドメイン・デイ)の青空文庫「そらもよう」を読んで
 
 以上で詳説したこれまでの経緯を一々振り返ることはしませんが、ちょうど1年前、昨年1月4日のブログで懸念していた、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効よりも先に、米国抜きの「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」の発効により、昨年末(2018年12月30日)、著作権の保護期間を、従来の著作者の死後50年から70年に延長する改正著作権法が施行されました。
 この結果、もしも保護期間が死後50年のままであれば、1968年(昭和43年)に亡くなった子母澤寛広津和郎などの著作物は、2019年1月1日からパブリック・ドメイン著作権フリー)となっていたものが、改正著作権法の施行により、2038年12月31日までその保護期間が延長されることになりました。
 
 この間の経緯については、文化庁WEBサイトの以下の記事などをご参照ください。
 
環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について
 
平成30年12月30日施行 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の発効に伴う著作権法改正の施行について
 
著作物等の保護期間の延長に関するQ&A
 
 なお、総務省の法令データベースでは、まだ「改正」は反映されておらず、「50年」のままですが、本日現在、既に著作権法は以下のようになっているはずです。
 
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(保護期間の原則)
第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。 
(無名又は変名の著作物の保護期間)
第五十二条 無名又は変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年を経過するまでの間、存続する。ただし、その存続期間の満了前にその著作者の死後七十年を経過していると認められる無名又は変名の著作物の著作権は、その著作者の死後七十年を経過したと認められる時において、消滅したものとする。
2 略
(団体名義の著作物の保護期間)
第五十三条 法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかつたときは、その創作後七十年)を経過するまでの間、存続する。
2 略
3 略
(映画の著作物の保護期間)
第五十四条 略
第五十五条 削除
(継続的刊行物等の公表の時)
第五十六条 略
(保護期間の計算方法)
第五十七条 第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項又は第五十四条第一項の場合において、著作者の死後七十年の期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。
 
 私は、就寝前の短い時間ですが、寝床で本を読む習慣があります。選ぶ本によっては恰好の睡眠薬代わりとなり、2頁も読まないうちに眠りに落ちることもありますが、ついつい引き込まれてしまい、睡眠時間を削ってしまう本もあります。
 未読の本だけではなく、時には書棚にある本から懐かしいものを抜きだして読むこともあり、えてしてそういう本は睡眠薬代わりにはなりません。
 昨秋には、私が中学から高校の頃(私の中学入学は昭和42年)に愛読した作家、武者小路実篤の文庫本を何冊も読み返しました。当時は新潮文庫と角川文庫が文芸書を主に文庫化しており、というか、文庫といえば、岩波、新潮、角川以外にはせいぜいケース付きの旺文社文庫がある位という時代でしたから、私も専ら新潮文庫と角川文庫で武者小路を読んだものです。
 今でも、「友情」とか「お目出たき人」などは文庫でも読めるようですが、皆さんは、武者小路実篤の「若き人々」とか「母と子」という長編小説を知ってますか?これは、かなりのファンでなければ、そもそも作品の存在自体知らないでしょうね。
 特に名作の誉れがある訳でも何でもありませんし、通俗的なハッピーエンドの小説というのが一般の評価かもしれないのですが、初読からもう多分半世紀が経過していますが、何年かごとに書棚から取り出しては読み返し、もう表紙もぼろぼろです。
 ちなみに、「若き人々」(角川文庫)を何度目かに読んだ時、「これは『お目出たき人』をもう一度語り直した作品ではないか。現実には失恋に終わった若き日の体験を、彼女と結ばれるハッピーエンドにして語り直した作品ではないか」と思ったものでした。
 
 私が中学、高校時代に買い求めた武者小路実篤新潮文庫や角川文庫は大事に保存してありますが、それは、全作品の中のごく一部に過ぎず、さらに多くの作品を読もうと思えば、現実的には小学館版の全18巻の全集を、図書館で借りて読むか、古本で購入するしかなく、私のようなファンならそれでも良いといえば良いようなものの、もっと多くの人に彼の文学に触れて欲しいという思いを実現するためには、パブリック・ドメインとなった後の「青空文庫」入りが大きな期待でした。
 ところが、上述のとおり、1968年(昭和43年)以降に死亡した著作者の作品は、当分の間、パブリック・ドメインとはならないことになりました。
 ちなみに、白樺派の作家は長命を保った人が多く、それぞれパブリック・ドメインになるのは、
  志賀直哉 1971年(昭和46年)亡⇒2041年まで
  武者小路実篤 1976年(昭和51年)亡⇒2046年まで
  里見弴 1983年(昭和58年)亡⇒2053年まで
と、21世紀も半ば頃となってしまいましたので、私の寿命のあるうちに武者小路の作品を「青空文庫」で読むのはまあ無理ですね。
 
 問題は、著作権法第1条に定める「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」という法の趣旨から考えて、今回の「改正」がどのように「文化の発展に寄与」するのか、その筋道が何ら明らかにされていないということにあります。前掲の、文化庁サイトに掲載されたQ&Aを読んでもさっぱり分かりません。
 
 昨年の元旦、「青空文庫」には、その日、パブリック・ドメインとなった28人の作品がアップされました。その中には、山本周五郎壺井栄などの著名な作家も含まれていました。
  今年の元旦の「青空文庫」には、新たにパブリック・ドメインとなった作家の作品は掲載されませんでした(そのような著作者が向こう20年間いなくなったためです)。
 その代わり、「青空文庫」呼びかけ人である故・富田倫生さんの2005年に発表した論説が掲載されました。
 
富田倫生:「天に積む宝」のふやし方、へらし方~著作権保護期間延長が青空文庫にもたらすもの~
 
 最後に、今年元旦の青空文庫「そらもよう」の末尾の部分を引用します。自分自身がどのように「文化の発展に寄与」できるのか、1人1人が考えるきっかけとなることを祈りながら。
 
(引用開始)
何より大事なのは、どんなかたちであれ、この「青空文庫」という発想を継承しつつ、「パブリック・ドメイン」の重要性を、これから訪れるはずの時の試練にも耐えながら訴え続けることです。
たとえ今日から新しくパブリック・ドメインになる作品が20年間出てこなくとも、この1月1日がパブリック・ドメイン・デイであることを忘れるつもりはありません。
パブリック・ドメインの意義に想いを馳せることや、社会全体で文化を共有する大切さを伝えていくためのお祝いの日を萎縮する必要はないのです。
 
ようやく社会に芽生えてきた文化共有の行為や気持ちを途絶えさせないために、そして本を共有する青空文庫という模伝子《ミーム》をあとに残していくためにも、ともに大声で叫びましょう。
 
リメンバー・パブリック・ドメイン・デイ!(U)
(引用終わり)

和歌山市・新成人アンケート2019(前編)~予告編と昨年までの回顧

 2019年1月2日配信(予定)のメルマガ金原.No.3380を転載します。
 
和歌山市・新成人アンケート2019(前編)~予告編と昨年までの回顧
 
 和歌山市では、成人式「はたちのつどい」を、「成人の日」(1月の第2月曜日)の前日もしくはその1週間前の日曜日に開催する例となっており、今年は、1月6日(日)午後1時から、和歌山県民文化会館大ホール(キャパ2000席)で開催されます。
  今年成人式を迎えるのは、「平成10年(1998年)4月2日~平成11年(1999年)4月1日の出生者」であり、該当者数は3,590人(男1,859人、女1,731人)で、対前年比57人の増加ということです。
 
 成人式に参加する新成人にとって、式典自体よりも、会場「前」での友人との再開・交歓が重要な目的であることは言うまでもありません。
 ところが、一昨年までは、会場が和歌山ビッグホエールでしたから、会場「前」も結構広かったのですが、昨年から、(事情はよく分からぬながら)和歌山県民文化会館に移りましたので、県文前「広場」の混雑ぶりは相当なものでした。
 昨年の混雑ぶりについては、私のブログ(及びリンクしているFacebook)に掲載した写真をご覧ください。
 
 ところで、この和歌山市成人式で、主として平和問題についての新成人の意識調査を継続して行ってきた「平和と憲法を守りたい市民の声」(松浦攸吉世話人代表)という市民団体があります。
 私は、同会に入会したおぼえはないのですが、代表の松浦攸吉さんとは様々な団体でご一緒している縁もあり、頼まれごとをすると断り切れず、何となく「嘱託広報担当」というような役割を担っています。
 
 さて、その「平和と憲法を守りたい市民の声」による新成人意識調査が始まったのは、同会の長らく更新されていないブログによると、2005年1月9日のことで、その時のテーマは「自衛隊撤退」だったとか。
 この時期、2004年1月から始まった自衛隊イラク派遣が大問題となっていましたから、新成人の意見を調べてみようということで始まったのかもしれません。
 
 私が松浦さんから誘われて、ビッグホエール前でのシールアンケートの取材(ブログでレポートするための)に出かけるようになったのは2012年からですが、その後、会場が変更となった昨年(2018年)まで、ずっと、事前広報や現地取材、結果のブログでのレポートなどを行ってきました(2017年は荒天のためにアンケートは中止)。
 
 昨年から会場が和歌山県民文化会館前に変更となったため、従来行っていたシールアンケートは、シールを貼るボードを設置する場所がないということで、調査員が手分けして新成人から調査項目への回答を聞き取り、これを集計して意識調査を行う方式に変更とな
りました。昨年の模様をレポートした私のブログ(和歌山市・新成人アンケート2018(後編)~今年は賑わっていました(結果レポート)/2018年1月7日)。
 
 昨年のレポートをお読みいただければ分かると思いますが、会場前では、主催者である和歌山市教育委員会のブースをはじめ、原水爆禁止和歌山県協議会、新婦人の会和歌山市支部、民主青年新聞(民青同盟)などの皆さんが様々な活動をされていました。
 そのような中で、「平和と憲法を守りたい市民の声」がたゆまず新成人アンケートを続けてきたからこそ見えてくるものもあると思います。一例として、昨年のレポートの一部を引用します。
 
(引用開始)
 戦争関連の質問項目は、毎年かなり内容が異なるので比較しにくいのですが、原発容認か否かについての回答率は気になりますよね。今年の37.3%ってどうなの?ということで、過去5回分を調べてみました。
 
2012年「原発を存続させる」92/430=21.4%
2013年「原発を存続させる」122/431=28.3%
2014年「原発は「いる」」110/354=31.1%
2015年「原発は再稼働する」161/481=33.5%
2016年「原発は存続させる」166/477=34.8%
 
 うーん。恐ろしいほど「順調に」原発容認派が増えている!現在19歳、20歳ということは、福島第一原発事故が起きた時には12歳か13歳。来年以降はもっと原発容認派の「成人」が増えていくのだろうか。何とかしなければ。
 
※2018年の質問と結果
原発は・・・
 必要=152人(37.3%)
 無くてもよい=237人(58.2%)
 分からない・どちらとも言えない(選択肢にはなし)=18人(4.4%) 
(引用終わり)
 
 以下のプレスリリースに記載したとおり、今年の質問項目は「辺野古」と「9条」が予定されており、「原発」はないようなのですが、惜しいなあ・・・。 
 
 それでは、2012年(第8回アンケート)から2018年(第13回)までの6回分のテーマと結果をまとめてご紹介します。
 2011年までは、「9条」「自衛隊」など、安全保障関連のテーマだけでアンケートを実施していたものが、2011年3月の東京電力福島第一原発事故をうけ、原発問題との2本立てでアンケートを行うようになったのが2012年からです。
 なお、前述したとおり、2017年は、天候不良のため、成人式自体は挙行されたものの、屋外でのアンケートは無理ということで中止のやむなきに至りました。
 
2012年1月8日(日) 和歌山市の新成人 3,699人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第8回新成人アンケート
「あなたが総理大臣だったらどうしますか?」
自衛隊について
 ・アメリカの戦争に軍隊として参加する=17人
 ・災害救助に専念する=371人
 ・分からない・決められない等=8人(選択肢にはない)
 回答者計=396人
原発について
 ・原発を存続させる=92人
 ・原発を止めて自然エネルギーを目指す=322人
 ・分からない・決められない等=16人(選択肢にはない)
 回答者計=430人
 
2013年1月13日(日) 和歌山市の新成人 3,676人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第9回新成人アンケート
「あなたが総理大臣だったらどうしますか?」
自衛隊について
 ・他国の戦争に軍隊として参加させる=39人
 ・災害救助隊に専念する=394人
 ・どちらでもない(分からないなど)=4人(選択肢にはない)
 回答者計=437人
原発について
 ・原発を存続させる=122人
 ・原発を止めて再生可能エネルギーを目指す=294人
 ・どちらでもない(分からないなど)=15人(選択肢にはない)
 回答者計=431人
 
2014年1月12日(日) 和歌山市の新成人 3,505人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第10回新成人アンケート
「あなたならどうする?」
 ・「憲法9条」を「知っている」=237人
   「憲法9条」は「いる」 216人 
   「憲法9条」は「いらない」 13人
   分からない 8人(選択肢にはない)
 ・「憲法9条」を「知らない」=132人
 回答者計=369人
 ・「原発」は「いる」=110人
 ・「原発」は「いらない」=210人
 ・分からない=34人(選択肢にはない)
 回答者計=354人
 
2015年1月11日(日) 和歌山市の新成人 3,610人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第11回新成人アンケート
「あなたはどうしますか?」
憲法9条について
 ・変える=48人(10.04%)
 ・わからない=176人(36.82%)
 ・変えない=254人(53.14%)
 回答者計=478人
原発再稼働について
 ・再稼働する=161人(33.47%)
 ・わからない=157人(32.64%)
 ・再稼働しない=163人(33.89%)
 回答者計=481人
 
2016年1月10日(日) 和歌山市の新成人 3,537人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第12回新成人アンケート
「あなたのご意見をお聞かせください」
◎安保法制で国民は
 ・守られる=93人(18.34%)
 ・危険になる=143人(28.21%)
 ・分からない=271人(53.45%)
 回答者計=507人
原発稼働について
 ・即廃炉=93人(19.50%)
 ・段階的廃炉=218人(45.70%)
 ・存続する=166人(34.80%)
 回答者計=477人
 
2018年1月6日(日) 和歌山市の新成人 3,543人
「平和と憲法を守りたい市民の声」第13回新成人アンケート
◎あなたの気になるキーワードを選んでください(複数回答可)
 ・森・加計=20人
 ・戦争・紛争=61人
 ・就職=130人
 ・オリンピック=97人
 ・貧困(格差)=30人
 ・人間関係=64人
 ・沖縄=27人
 ・憲法=24人
 ・消費税=92人
原発は・・・
 ・必要=152人(37.3%)
 ・無くてもよい=237人(58.2%)
 ・分からない・どちらとも言えない(選択肢にはなし)=18人(4.4%)
 回答者計=407人 
◎戦争・紛争は・・・
 ・武力で解決=34人(8.5%)
 ・対話で解決=358人(89.9%)
 ・分からない・どちらとも言えない(選択肢にはなし)=6人(1.5%)
 回答者計=398人
 
 それでは、以下に、6日の新成人アンケートの実施をお知らせしたプレスリリース(私が今日FAXでマスコミ各社に送りました)の主要部分を引用します。アンケートの結果については、早ければ当日のブログでご紹介する予定です。
 
(引用開始)
【プレスリリース/本文書のみ】
                                                                    2019年1月2日
報道機関 各位
                          平和と憲法を守りたい市民の声
                          世話人代表 松 浦 攸 吉
                                       
                 1/6 新成人を対象にアンケート調査を行います
 
 平素は私たちの活動にご理解ご協力をいただきまことにありがとうございます。
 今年も当会では、和歌山市の新成人を対象として、成人式「はたちのつどい」会場周辺での意識調査(アンケート)を行うことになりました。
 成人式がビッグホエールで行われていたときは、シールアンケートの形で意識調査を行ってきましたが、昨年から会場が県民文化会館に変更されたこともあり、調査担当者が新成人に協力をお願いしてアンケートに答えていただく方式となりました。
 今年の新成人アンケートは、下記要領で実施致します。
 例年、多くの新成人がアンケートに協力してくださっており、今年、どのような結果となるか、取材の上、報道していただければまことに幸甚に存じます。
 
                                      記
○と き 2019年1月6日(日)午前11時00分頃~
○ところ 和歌山県民文化会館(成人式会場)周辺
〇質問項目(あくまでも予定です)
 1 沖縄県辺野古沿岸の埋立工事について
    推進すべき/中止すべき
 2 憲法9条について
    変更すべき/変更すべきではない
(引用終わり)