NHKという組織と“ジャーナリズムの精神”
「メルマガ金原」アーカイブス・シリーズをお送りします。2012年7月31日に配信したNo.1046です。とりわけ3.11以降、マス・メディアとどう接するのが正しい態度かについて、色々と考えるところはあるのですが、なかなか定見というほどの意見は確立できていません。従って、以下も自らのうちにある様々な考えの一側面ということになります。
NHKという組織と“ジャーナリズムの精神”
1954年生まれの私と同年代の方の中には、「芸なし芸人」のバラエティー番組など観たくもなく、連続ドラマにも関心がなく、プロ野球中継を観たいという意欲もわかず、夜の9時になると、何となくNHKのニュース番組にチャンネルを合わせてしまう、という人もいるのではないかと思います。
3.11までは私もそうだったなあ、と思い返したりしています。
「ニュースウォッチ9」をほとんど観なくなったのは、夜の9時台からメルマガを書き始めることが多いので、観ている時間がないということもありますが、やはり、大越健介キャスターの番組進行が我慢ならない、ということが一番の理由でしょう。
「ほとんど観ない」と書いたものの、意識的に観ることはなくなったということであり、帰宅して食事をしながら「たまたま」観てしまうことは結構あったりするので、先日も、日本プロ野球選手会が、来年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に参加しないことにしたという、本来なら「快挙」として報じてもおかしくないニュースが取り上げられた際にも、大越氏ならきっと「反動的な」コメントをするに違いないと思って観ていると、予想にたがわず(?)、「ファンの期待」なる空疎な理由を持ち出して選手会を批判していました(注:ご存知のとおり、結局日本プロ野球選手会は方針を変更しました)。
要するに、彼の立ち位置があからさまに権力側にすり寄っていることがあまりにも明らかなため、「ジャーナリズム」とは何か?という問題を厳しく意識せざるを得ないのです。
もっとも、私自身は、「ニュースウォッチ9」を観ないのと同じくらいに「報道ステーション」も観ておらず、土井さんの評価に全面的に賛同して良いものやらどうやら、確信を持つには至っていないことはお断りしなければなりません(多分、大筋では賛同できると思うのですが)。
なお、もう1つお伝えしたいのは、NHK教育テレビ(Eテレ)のETV特集で、「ネットワークで作る放射能汚染地図」シリーズを制作した七沢潔プロデューサーや番組ディレクターが、4月にNHKから厳重注意処分を受けていたということが、今月(7月)はじめに分かったということです。
それを伝えた戸崎賢二さんの文章を是非お読みください。
戸崎賢二氏(放送を語る会会員)
『「厳重注意」を受けるべきは誰か
~NHK「ETV特集」スタッフへの「注意処分」を考える~』
※「月刊マスコミ市民」2012年7月号「放送を語る会 談話室」に掲載
戸崎氏によれば、「局内で伝えられているところを総合すると、『厳重注意』の理由は、前記の書籍(『ホットスポット』講談社刊)の中で、執筆者が、NHKが禁じていた30キロ圏内の取材を行った事実を公表したこと、原発報道についてNHKの他部局を批判したこと、などだったとされる」というのであり、仮にそのとおりであったとすると、とんでもないことです。
また、戸崎さんの文章に触発されて書かれた永田浩三さんの文章もご紹介しておきます。
永田浩三氏(武蔵大学社会学部教授、元NHKディレクター、プロデューサー)
ブログ「隙だらけ好きだらけ日記-映像 写真 文学そして風景-」掲載
「ETV特集関係者の処分」(2012年7月30日掲載)
「ETV特集関係者の処分」(2012年7月30日掲載)
永田さんの文章の一部を引用します。
(抜粋引用開始)
この処分をきっかけに、NHK職員が、原稿を書く場合は、事前の検閲がなされるようになった。検閲によって問題個所が発見され、修正が十分なされない場合は、出版が許されない。こんなことは、NHKの歴史において初めてのことだ。去年、津波の被災地や、原発事故の直接の影響をうけた地域の取材をおこなった仲間たちと、一緒に本を出したことがあったが、私の存在は、限りなく消すということで、ようやく出版できるようになった。たぶん、今後は、それも許されないだろう。これを、恐怖政治、氷河時代と言わずして何という。
JRからやってきた現会長は、JRの合理化で名を馳せた人間だ。NHKもJRも、時間にきっちりしている公共機関として、共通性があるというのが、持論らしい。JRの親分、K氏の意を受けたお目付け役が、いつも寄り添い、勝手なことができないよう、財界からの監視も厳しいという。
脱原発を求めるうねりについて冷ややかで、来たるべき自民党政権の復活に向けて、着々と布石を打っている。トヨタからやってきた、前の専務理事は、「国論をまとめるための情報提供をするのが、NHKの役割だ」と言ったと、中村さんは書いている。これは、戦前・戦中の情報局傘下にあった時代の発想だ。こんなひとが、NHKのニュースと番組のトップにあったことに、驚く。
(引用終わり)
ここに書かれたことの真偽を判断する材料の持ち合わせはありませんから、とりあえず一つの「伝聞情報」として受け取っていただきたいと思います。
七沢潔プロデューサーについては、講演の様子を動画サイトで少し視聴しただけですが、かなり「癖のある」性格ではないかという印象を持ったことは事実です。あまり、組織の中で出世しそうもない人と言い換えてもかまいません。
もっとも、そういう人でもなければ、ああいうシリーズを信念を持って作り続けることは不可能だろうとも思います。
巨大組織NHKは、常に権力の広報機関に成り下がる危機と隣り合わせであり、少しでも国民の監視がゆるめば、転落の一途をたどるということでしょう。
私たち一人一人が「ジャーナリズムの精神」とは何かということに敏感であり続けなければならないと思います。