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「立憲主義」を聴いたことがないという参議院憲法審査会委員

 「メルマガ金原」アーカイブス・シリーズの1編として、2012年5月30日に配信したNo.961「『立憲主義』を聴いたことがないという参議院憲法審査会委員」をご紹介します。
 憲法にも憲法学にも、何の敬意も持たない人間が参議院の憲法審査会委員を務めているということに、1人でも多くの国民が危機感を持ってくださることを念願しています。
 なお、併せて「憲法記念日に考える(立憲主義ということ)」もお読みいただけると幸いです。
 
立憲主義」を聴いたことがないという参議院憲法審査会委員
 
 今日の昼休みに事務所でコーヒーを飲みながらパソコンを立ち上げたところ、Afternoon Cfe というブログに、「警報:ガチで『立憲主義って、聞いたこと無い』という自民党国会議員が憲法審査会委員をつとめている!!」という扇情的なタイトルの記事が掲載されているのに目がとまりました。
 
 このブログでやり玉に挙げられている自民党国会議員というのは、礒崎陽輔‏(いそざきようすけ)参議院議員であり、その問題発言(tweet)は以下のとおりです。
(引用開始)
時々、憲法改正草案に対して、「立憲主義」を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか。
(引用終わり)
 
 Afternoon Cafe の管理人は、以下のように憤っているのですが・・・。
(抜粋引用開始)
思わず、4月1日じゃないよね!?ってカレンダー見てしまった。
立憲主義って昔からある学説ですかって、あーた、学説とかいうレベルの話じゃない
でしょ。
それ、国民主権ってなに?とか
法の支配、法治国家ってなに?とか
民主主義ってなに?とかいうレベルの話ですよ!
こんなひとが憲法審査会委員って信じられません。
どうりで立憲主義を完全にぶち壊した文言のめちゃめちゃな改正案になってるわけ
です。
以前からずっと、自民党の憲法改正案は立憲主義を理解していないと書いては来
ましたが、まさか、まさか、本当に知らなかったとは・・・世も末です。
いやいやいやいや、そんなはずはない知らないはずはない、たちの悪い冗談です
よね、礒崎さん?
と思い直して続きのツイート読んでみたら・・・本当に知らなかったみたい・・・orz
学生時代の憲法講義では聴いたことないってマジあり得ません。
学生時代に英文学部に所属してたけど、シェイクスピアなんて聞いたことがない、
といってるに等しいですよ、これ。
(引用終わり)
 
 さて、これだけご紹介しただけでは、やはり十分な情報提供とは言えないでしょう。
 ということで、少し裏を取ってみることにしました。
 
裏付1:礒崎陽輔‏参議院議の経歴調査
 ご本人の公式サイトに掲載されたプロフィール
 全部コピーして貼り付ける必要もないでしょうが、注目すべき箇所のみ抜粋します。
   経歴
   昭和32年10月 大分市上野に生まれる
      51年 3月 大分県立大分舞鶴高等学校卒業(23回生)
      57年 3月 東京大学法学部卒業
      57年 4月 旧自治省に入省
                 以下略
      62年 4月 和歌山市企画部次長、財政部長
                 以下略
   平成18年 7月 総務省大臣官房参事官を最後に退職
      19年 7月 第21回参議院議員通常選挙・大分選挙区で当選
   現職
    参議院
     予算委員会理事
     総務委員会委員
     憲法審査会委員
    自由民主党
     憲法改正推進本部事務局次長・起草委員会事務局長
     他の党務は略
 
裏付2:Wikipediaに掲載された「立憲主義」の説明
(抜粋引用開始)
立憲主義Constitutionalism)は、多義的な概念であるが、国家の統治を、憲法に基づき行う原理、ないし、憲法によって権力の行使を拘束・制限し、統治機構の構成と権限を定めて、権利・自由の保障を図る原理をいう。
古典的立憲主義
 省略
近代的立憲主義
(前略)
近代的立憲主義は、このような絶対君主の有する主権を制限し、個人の権利・自由を保護しようとする動きの中で生まれたのである。そこでは、憲法は、権力を制限し、国民の権利・自由を擁護することを目的とするものとされ、このような内容を持つ憲法を、特に立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)という。フランス人権宣言16条には「権利の保障が確保されることなく、権力分立が定められていないすべての社会は、憲法をもつものではない」とあるが、ここにいう「憲法」や、19世紀に各国で定められた自由主義的憲法こそ、立憲的意味の憲法である。個人の人権の保障と権力分立は、その重要な要素である。
(後略)
外見的立憲主義
 省略
近代的立憲主義の現代的変容
 省略
(引用終わり)
 
裏付3:Afternoon Cafe の該当記事へのコメントの参照
 様々なコメントの書き込みがあってこれも参考になります。
 特に、慶応義塾大学の小林節(こばやしせつ)教授が「マガジン9条」のインタビューに答えた記事は是非一読したいですね(かなり前のものですが)。
 
裏付4:礒崎陽輔‏議員の tweet の続きを検証する
 字数制限のある twitter では、1つのテーマを論じる場合には、いくつかの tweet が連なることが多いので、Afternoon Cafe が引用する tweet の続きがあるのではないかと思い、ご本人の twitter に当たってみようと思ったのですが、既に同じことを考えてまとめてく れていた人がいたので引用します(やや手抜きですが)。
(引用開始)
時々、憲法改正草案に対して、「立憲主義」を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか。
確かに、「憲法は、国家権力の抑制を定め、国民の人権を守るものだ。」とよく言われます。立憲主義とは、このことでしょうか。それは否定しませんが、それは憲法の重要な側面を規定した言い方であり、憲法を問われれば、「国家の基本法」というのが正解でしょう。
立憲主義」、Wickpediaでは、樋口陽一先生の著書が引用されています。私は、芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いたことがありません。いつからの学説でしょうか?
我々が憲法の教科書に使ったのは、有斐閣の法律学全集で、清宮四郎先生と宮澤俊義先生のもの。ありませんね。佐藤功先生の「日本国憲法概説」を見ていますが、「立憲主義」は、ないようです。法制局に聞くと、京都大学佐藤幸治先生が広めたのではないかと。それならば、80年代後半以降でしょう。
(引用終わり)
 
 とりあえず裏を取る作業はこんなところでいいでしょう。
 そこで、私の意見ですが、基本的にこの元自治官僚は人格に問題があると思います。
 こういう元学生に「芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いたことがありません」と言われては、芦部信喜(あしべのぶよし)先生も浮かばれないでしょう。
 もっとも、案外、東大法学部から官僚を目指すような学生にロクな者はいないと達観しておられたかもしれませんが。
 1999年に逝去された芦部先生は、2005年「自民党・新憲法草案」や2012年「自民党・日本国憲法改正草案」を目にされることはなかった訳ですが、もしも先生が長命を保たれていれば、必ずや自民党案の「非」を指摘されていたことでしょう。
 私自身は、東京で司法試験の受験勉強をしていた当時、中央大学主催の講演会で一度芦部先生の講演を伺ったことがあるだけなのですが、たんたんとした語り口の中にも、深い学識がにじみ出ており、深い感銘を受けたものでした。
 
 さて、礒崎陽輔‏議員が本当に「立憲主義」という言葉を聴いたことがなかったのか否か?ということですが、ここまで調べてくると、「どっちでも同じだ」というのが私の結論です。
 知らなかったとすれば度し難い「無知」ですし、一応字面(じづら)だけは知っていたが、自民党案を批判する者を揶揄したつもりであったとすれば、「厚顔無恥」の極みです。
 状況証拠から見れば、どちらかと言えば後者の可能性の方が高いでしょうが。
 
 5月3日の憲法記念日に、メルマガNo.929で「憲法記念日に考える(立憲主義ということ)」という文章を書いた私としては、なおざりに出来ない話題であったため、つい力がってしまいました。
 
 以前にも書きましたが、「原発の危機」「放射能の危機」と「憲法の危機」は通底しているということをあらためて実感しています。