今晩(2013年2月25日)配信した「メルマガ金原No.1275」を転載します。
浦部法穂氏が説く「憲法尊重擁護義務」(法学館憲法研究所)
100分近くに及ぶ「演説」を是非視聴したいという人は、このメルマガ読者の中にはほとんどいないと思いますが、今回取り上げる「憲法尊重擁護義務」(日本国憲法99条)との関連において、憲法に関してどんなことを言っているか、その映像を少しのぞいてみられることをお勧めします(決して楽しい作業ではありませんが、まだ正式な議事録が公開されていませんので、やむを得ません)。
石原慎太郎氏は、かねがね「憲法の破棄」を主張しており、今さら目新しい議論でもないからか、誰も正面切ってその法的問題点を指摘しませんが、神戸大学名誉教授である(弁護士登録もされています)憲法学者の浦部法穂(うらべ・のりほ)氏が、自ら顧問をされている法学館憲法研究所サイトに連載している「浦部法穂の憲法時評」に、「憲法尊重擁護義務」という文章を発表されました。
いつも落ち着いた文章を書かれる浦部先生が、今回は「腹に据えかねた」のでしょうか、非常に力の入った書きぶりであり、私も一読ただちに「拡散しよう」と決意した次第です。
浦部先生の文章は、法律家の文章らしく、非常に論理的に組み立てられていますから、是非リンク先を閲覧して全文をお読み願いたいのですが、あえて私が一部を抜粋して引用するとすれば、以下の箇所が重要だと思います。
(引用開始)
憲法第10章は「最高法規」という標題になっており、そこには、基本的人権の永久不可侵性(97条)、憲法に反する法律等は無効であること(98条)、そして公務員の憲法尊重擁護義務(99条)を定める3箇条の条文が置かれている。憲法は国の最高法規だということは、おそらく誰もが知っていることだろうが、多くの場合、それは、違憲の法律等は無効だという意味合いでのみ(つまり憲法98条の規定だけ)理解されているのではないかと思う。しかし、97条は、永久不可侵の人権を保障することがこの憲法の中心的な目的であるとして、憲法が最高法規であることの実質的根拠を示すものであり、また、99条は、憲法が権力担当者に向けられた規範であることを明記することによって、憲法の最も重要な基本的性格を明らかにしたものである。そういう意味で、最高法規ということの法的な意味を明らかにした98条以外に97条と99条という条文が「最高法規」の章に置かれていることには、重要な意味がある。
(中略)
かりに石原氏が言うように、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言しそれによって現行憲法の無効が確定するとしよう。さて、そのあとはいったいどうなるであろうか。憲法が無効だということになれば、内閣総理大臣や他の大臣も、国会議員も、その地位の法的根拠を失う。彼らが大臣や国会議員でいられるのは、あくまでも日本国憲法の規定に基づいてのことであるから、憲法が無効なら大臣でいることも国会議員でいることもできないのは当然である。つまり、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言し現行憲法が無効になったら、その瞬間に、当の内閣総理大臣は内閣総理大臣でいられなくなり、また、他の大臣も国会議員もその地位を失うことになるのである。それでも彼らがなお総理大臣や大臣あるいは国会議員の地位にとどまり続けたとしたら、彼らは何ら法的根拠なく権力を奪取しているにほかならないこととなる。何ら法的根拠なく、つまり非合法的に、権力を奪取する行為は、すなわちクーデターである。石原氏は、内閣総理大臣が「憲法破棄」を宣言しても内閣総理大臣の地位や自分の衆議院議員としての身分はそのまま維持されることを前提に前記の質問をしているようだが、そうであれば、彼のあの質問はクーデターの唱道以外のなにものでもない。
(中略)
一般の国家公務員は、その職に就くにあたり、次のような宣誓書の提出が義務づけられている(国家公務員法97条、職員の服務の宣誓に関する政令1条別記様式)。
「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」
国会議員や大臣等にも、この際、同じように、就任にあたって憲法尊重擁護と国民全体への奉仕といった趣旨のことがらを内容とする宣誓義務を課すこととしてはどうであろう。
「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。」
国会議員や大臣等にも、この際、同じように、就任にあたって憲法尊重擁護と国民全体への奉仕といった趣旨のことがらを内容とする宣誓義務を課すこととしてはどうであろう。
(引用終わり)