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『憲法って、何だろう?』(奈良弁護士会)を読み直す

 今晩(2013年4月20日)配信した「メルマガ金原No.1331」を転載します。
 
『憲法って、何だろう?』(奈良弁護士会)を読み直す
 
 全国の弁護士会の多くには、「憲法委員会」という委員会があります。私が所属する和歌山弁護士会にも憲法委員会があり、昨年(2012年)は、秘密保全法制について考える市民集を開催したりしました。
 
 ところで、お隣の奈良弁護士会・憲法委員会は、全国的にも注目を浴びる素晴らしい活動をされています。
 それが、今日ご紹介する『憲法って、何だろう?』という小冊子、一般には「憲法絵本」と呼ばれている冊子の発行です。
 
 2008年1月に、イラストレーターの星野一子さんのカラーイラストをそえて、日本国憲法の中の重要な条文を、親しみやすく、しかも詩的な文章に書き換えた20ペジ足らずの小冊子です。

 その年の8月には、日本弁護士連合会が奈良弁護士会と星野さんの許諾を得て増刷し、頒布することとなりました。

 ただ、一般ルートでの販売はしていないと思います。

 2009年12月、当時「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」の事務局長であった私は、同会が「九条の会・わかやま」と共催した「月山桂先生『法曹界に生きて平和をおもう』出版記念講演会」の来場者にお持ち帰りいただく記念品として何が良いかと考え、この『憲法って、何だろう?』を思いつき、日弁連に依頼して必要部数を送ってもらったのでした(お読みいただいた方々から大変好評を博しました)。

 

 日弁連サイトには既に憲法絵本に関する告知記事は掲載されていないようなので、既に日弁連による頒布事業は終了している可能性が高いと思います。

 ただし、原著作権者である奈良弁護士会のWEBサイトには、今でも『憲法って、何だろう?』の「申込方法」「申込書(書式)」が掲載されていますので、ひょっとするとまだ入手可能なのかもしれませんが未確認です(関心のある方は奈良弁護士会までお問い合わせください)。
 
 奈良弁護士会では、この憲法絵本を単に刊行しただけではなく、これを教材とした出張授業などにも取り組んでおられるようで、以下のような新聞報道に接したこともありました(毎日新聞・奈良 2010年12月1日付)。
 
(抜粋引用開始)
 障害者の文化活動を支援する財団法人たんぽぽの家(奈良市六条西3)と弁護士会による「憲法絵本と語りの会」が、県内の中学校で開かれている。弁護士会が発行した憲法絵本を使い、子供たちに憲法に親しんでもらおうと企画。
(中略)
 生駒市西松ケ丘の市立生駒中で開かれた語りの会には、1年生約200人が参加。障害を個性として生かし、自分の思いを重ね合わせて表現する「わたぼう語り部」の伊藤樹里さん(33)が絵本を語り聞かせ、田中啓義弁護士(52)が解説した。
 戦争放棄を明記した9条1項は「争いごとは話し合いとルールで解決する そが、『人間の知恵』」などと語り、子供たちは熱心に聞き入った。最後に声楽を専攻する大学2年、田中茜さんが、個人の尊重と幸福追求権を規定した13条を題材にした歌を披露した。
 参加した中川優歩さん(13)は「憲法はとっつきにくいイメージがあったが、語はわかりやすかった」と、感想を語った。田中弁護士は「憲法は人の生き方、社の作り方の指針。子供たちには憲法をしっかり学んで、命や自由、幸せについて考えてもらいたい」と話していた。
(後略)
(引用終わり)
 
 なお、『憲法って、何だろう?』そのものはインターネット上では公開されていまが、その実に詳細な「解説版」が奈良弁士会WEBサイトに掲載されています(絵本のテキスト部分も「解説版」の該当箇所に掲載されていますので、その部分だけ抜き出して末尾に引用しておきます)。
 WEBサイトから直接印刷したところ、判読も難しいような小さな文字ポイントで16頁もありました。
 非常に充実した「解説」であり、大人の学習会のテキストとして使うのにも十分過ぎるほどの高度な内容が盛り込まれています。
 試みに、7月の参議院選挙の争点として急浮上しそうな「憲法96条(改正規定)」についてどう解説されているか、該当部分を引用してみます。
 
(引用開始)
「変えにくい」から憲法
96条1項 「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」
 先ほど、憲法は最高権力者である「国民の代表者」を縛るためにある「最高法規」だと言いました。
 裏返せば、「憲法」とは、権力者にとって一番邪魔なものです。だから、権力者が、それを自分に都合のよいように変えたいと思うのはむしろ当然です。それを防ぐため、どこの国の憲法でも、これを改正する手続は厳重になっています。
 それは、簡単に変えられるような憲法は、「最高法規」としての役割を果たすことができないからです。
 そして、わが憲法も、96条で、憲法を改正するについては、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で発議した案について、さらに国民投票で過半数の賛成を得る事が必要とされています。
 このことを、「絵本」では
  「憲法はリーダーを縛るもの」
  「リーダーにとって一番じゃまなもの」
  「だから、簡単には変えられない」
と表現しました。
(中略)
君たちが大人になるころ
12条 「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」
97条 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」
 もともとこの「絵本」は、中学生を対象として企画されたものです。
 憲法改正国民投票の手続を定める法律が制定された今、彼ら彼女らが大人になるころ、主権者としての判断を迫られることになるかも知れない・・・その思いを、「絵本」では
  「君たちが大人になるころ」
  「憲法が変わるかもしれない」
  「変えるか、変えないか」
  「それは、君たちが決める」
と表現しました。
 ただ、そこに込めた思いは、単に若い人たちの票がどう動くかといったレベルの話だけではありません。
 97条は、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」だと言いますが、それを裏返せば、憲法とは現実に起きた「失敗の集大成」なのです。
 人類が、なぜ、失敗を繰り返してきたかというと、憲法は「守らなければならない」ルールではあるけれども、「守るのが大変」なルールでもあるからです。
 例えば、これからも憲法を守っていくためには、「21世紀型貧困」をどうやって解決するのかという難問に立ち向かわなければなりません。また、「戦争」についても、「平和主義」を貫徹しようとすれば、戦後日本の後ろ盾となってきたアメリカとの関係をどうイメージしてゆくのか?・・・という難問に突き当たります。
 これらは、まさに、若い人たちに課された課題です。憲法を守り続けることができるかどうかは、「不断の努力」(12条)によって、これらの諸問題を解決することができるかどうかによって決まる。その期待を込めて、
  「変えるか、変えないか」
  「それは、君たちが決める」
と言いたいのです。
(引用終わり)
 
 2008年1月に出来た『憲法って、何だろう』を最初に学んだ中学生がもう間もなく20歳になろうとしています。
 時代は、奈良弁護士会・憲法委員会が予想した以上のスピードで推移していますが、今からでも「手遅れ」ということはありません。
 また、中学生のためだけのものでもありません。
 今こそこの素晴らしいテキストを自ら学び、活用していただければと思います。
 

『憲法って、何だろう?』(テキスト部分)
 
1頁
むつかしく考える必要は、ないよ
でも、とても、大切なこと
 
2頁 あなたは、あなたの人生の主人公
あなたは、あなたであるだけで、大切な人
あなたは、誰のものでもない
あなたは、どこに住んでもかまわない
あなたは、どんな仕事についてもかまわない
あなたは、誰と結婚してもかまわない
あなたは 
ほかの人にめいわくをかけなければ
自分で自分の生きがいを見つけて
自分の人生を歩むことができる
それが「自由」です
 ※ 13条
 
3頁 みんなが、自分の人生の主人公
みんな、違う顔をしている
でも、みんな、その人であるだけで、大切な人
それが「平等」です
 ※ 14条
 
4頁 みんなが、日本という国の主人公
あなたは、一人では生きていけない
だから、みんなと一緒に、日本という国に住んでいる
この国は、神様がつくったものではない
誰かのものでもない
みんなで、日本という国をつくっている
それが「国民主権」です
 ※ 前文、1条、20条3項
 
5頁 リーダーは、みんなで選ぶ
この国のリーダーはみんなで選ぶ
神様が決めるのではない
誰かひとりが決めるのでもない
あなたは、リーダーに直接お願いすることができる
「自分がリーダーになる」と名乗りをあげてもいい
それが「参政権」です
 ※ 15条1項、16条
 
6頁 じっくり考えて、議論するのが大事
みんなでつくった国だから
選ばれたリーダーにお任せではだめ
一人一人の国民が
じっくり考えて
議論する
それが「民主主義」です
 ※ 21条1項
 
7頁 憲法は、リーダーを縛るもの
みんな、リーダーの決めたルールに従う
リーダーは、憲法に従う
なぜ?
リーダーも人間だから
かならず、まちがうから
たいへんなことになるから
リーダーが決めるルールが「法律」
リーダーを縛るルールが「憲法」
それが「法の支配」です
 ※ 98条1項、99条
 
8頁 リーダーは、1人ではいけない
1人に全部をまかせてはいけない
ルールをつくる人
ルールを使って政治をする人
ルールが間違っていないかをチェックする人
リーダーは3人必要だな
それが「三権分立」です
 ※ 41条、65条、81条
 
9頁 住むところがない人は、「自由」?
学校へ行かせてもらえなかった人は、「自由」?
働かされすぎて死んでしまった人は、「自由」?
仕事がない人は、「自由」?
好きでこうなったわけじゃない
こういう人たちを助けてこそリーダー
これは、よわい人たちの権利
それが「社会権」です
 ※ 25条1項
 
10頁 多数決の「いじめ」はダメ
「自由」と「平等」そして「参政権」と「社会権
これは、あなたが生まれながらにして持っている権利
それが「基本的人権」です
リーダーも、これを取り上げることはできない
多数決で決めたルールでもダメ
それが「人権の尊重」です
 ※ 11条、98条1項
 
11頁 「自由」と「わがまま」は違う
憲法が保障する「自由」は
「したいことをする自由」じゃない
それは
「なすべきことをする自由」
あなたは
他の人をしあわせにすることで
しあわせになれる
他の人の不幸をわかちあって
自分の不幸も乗りこえられる
それが「生きがい」です
 ※ 12条
 
12頁 何をすべきか・・・それは自分で決める
ほかの人に、何をしてあげたらいい?
何ができる?
何をすることが「いいこと」?
それは、みんな違う
それを決められるのは、あなただけ
それを、リーダーに聞いてはいけない
ルールで決めてもいけない
それが「個性」です
 ※ 19条
 
13頁 世界には190以上の国がある
この国に住んでいるのはあなただけではない
この世界に住んでいるのは日本人だけではない
 ※ 前文
 
14頁 争いごとで、「戦争」はしない
いろいろな国があれば、争いごとも起きる
ここはどこの土地?
この石油はどこの国がつかう?
ケンカが起きるのは、人間と一緒
でも
ケンカをしても、なぐってはいけない
人をころしてはいけない
だから
戦争もいけない
争いごとは、話し合いとルールで解決する
それが、「人間の智恵」
 ※ 9条1項
 
15頁 よその国で戦争はしない
でも、戦争はなくならない
人間はよわい
武器を持っていると使いたくなる
戦争をしたくなる
だから、武器を持たないのも一つの智恵
でも、ほかの国から攻められたらどうする?
これは・・・難しい
でも、攻められてもいないのに戦争をするのはやめよう
日本の外で戦争をするのはやめよう
日本の憲法は、リーダーが勝手に戦争をすることを禁止した
それが、「日本の智恵」
 ※ 9条2項
 
16頁 戦争は最大の人権侵害
戦争をしたら人が死ぬ
人が人をころす
みんなで作った国なのに
その国が人をころす
「お国のため」に、ころす
・・・何で?
 ※ 前文
 
17頁 「変えにくい」から憲法
憲法はリーダーを縛るもの
リーダーにとって一番じゃまなもの
だから、簡単には変えられない
 ※ 96条1項
 
18頁 君たちが大人になるころ
君たちが大人になるころ
憲法が変わるかもしれない
変えるか、変えないか
それは、君たちが決める
 ※ 12条、97条