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生活保護法“改正”案のとんでもない内容

 今晩(2013年5月18日)配信した「メルマガ金原No.1359」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
生活保護法“改正”案のとんでもない内容
 
 「憲法9条」とも「原発」とも直接の関係はないものの、おそらく密接な関連はあと思われる大きな問題を取り上げます。それは、生活保護法「改正」問題です。
 
 5月17日に閣議決定された生活保護法改正案には様々な問題点が指摘されていますが、特に大きな問題は、生活保護の「申請」時に申請書や保護の要否を判定するのに必要な書類の提出を要求しようとしていること、及び民法上の扶養義務の履行を事実上保護の要件化しようとしていることです。
 
 
 まずは、「申請」の様式行為化についてです。
 
(引用開始)
 現行生活保護法は,保護の申請は,書面によることを要求しておらず,申請時に要否判定に必要な書類の提出も義務づけていない(現行法24条1項)。
 口頭による保護申請も認められるというのが確立した裁判例であり,保護の実施機関が,審査応答義務を果たす過程で,要否判定に必要な書類(通帳や賃貸借契約書等)を収集することとされている。
 しかし,実際の実務運用においては,要保護者が生活保護の申請意思を表
しても申請書を交付しなかったり,申請時には必要ない疎明資料の提出を求めて追い返す事例が少なからず見受けられたが,これらの行為は,申請権を侵害する違法な「水際作戦」と評価され,数々の裁判例においても違法であると断罪され
てきた。
(略)
 ところが,改正法案24条1項は,「要保護者の氏名及び住所」等だけでなく,「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況,養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」のほか「厚労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出してしなければならないとし,同条2項は,申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
 すなわち,改正法案は,これまで口頭でも良いとされていた申請を必要事項
を記載した書面の提出を要する「要式行為」とした上で,要否判定に必要な書類の提
出までも必須の要件としている。
 改正法案24条1項及び2項が成立すると,必要とされる事項をすべて申請
書に記載し,必要とされる書類をすべて提出しない限り,申請を受け付けないことが合法となる。つまり,これまでは,申請意思が表明されれば,まずはこれを受け付けて,その後に実施機関の側が調査権限を行使して,保護の要否判定を行う義務を負っていたものが,逆に,要保護者の側が疎明資料を漏れなく提出して自身が要保
護状態にあることを事実上証明しなければならなくなる。
 これは,これまで違法であった「水際作戦」を合法化・法制化することによって,
くの生活困窮者を窓口でシャットアウトする効果をもつ。
 「生活保護は、憲法25条に定められた国民の基本的人権である生存権保障し、要保護者の生命を守る制度であって、要保護状態にあるのに保護を受けられないと、その生命が危険にさらされることにもなるのであるから、他の行政手続にもまして、利用できる制度を利用できないことにならないように対処する義務がある」(倉北自殺事件判決)にもかかわらず、生活保護を必要とする状況にある生活困窮者に申請時に今回の法改正案のような負担を課せば、客観的には生活保護の受給要件を満たしているにもかかわらず申請を断念に追い込まれる要保護者が続出する危険性が高い。
(引用終わり)
 
 次に、扶養義務の履行を事実上保護の要件化しようという規定についてです。
 
(引用開始)
 現行生活保護法は,扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず,単に優先関係にあるものとして(現行法4条2項),現に扶養(仕送り等)がなされた場合に収入認定してその分保護費を減額するに止めている。
 しかし,実際の実務運用においては,あたかも親族の扶養が保護の要件で
あるかのごとき説明を行い,別れた夫や親子兄弟に面倒を見てもらうよう述べて申請を受け付けずに追い返す事例が少なからず見られ,札幌市や北九州市などにおいては,追い返された要保護者が餓死死体で発見され社会問題となってきた。
(略)
 しかし,改正法案28条2項は,保護の実施機関が,要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができると規定している。
 また,改正法案29条1項は,生活保護を申請する「要保護者の扶養義務
者」だけでなく過去に生活保護を利用していた「被保護者の扶養義務者」について,「官公署,日本年金機構若しくは共済組合等に対し,必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を求め,又は,銀行,信託会社・・雇主その他の
関係人に,報告を求めることができる」と規定している。
 つまり,生活保護を利用しようとする者や過去に利用していた者の扶養義
者(親子,兄弟姉妹)は,その収入や資産の状況について,直接報告を求められたり,官公署,年金機構,銀行等を洗いざらい調査され,さらには,
勤務先にまで照会をかけられたりすることとなるというのである。
 さらに,改正法案24条8項は,「保護の実施機関は,知れたる扶養義務
者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において,保護の開始の決定をしようとするときは,厚生労働省令で定めるところにより,あらかじめ,当該扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。」と規定されている。厚生労働省令でいかなる事項が定められるのかは現時点において定かではないが,(略)端的に言えば,正直に収入や資産状況を告白し,できうる限りの扶養(仕送り等)を行わなければ,官公署・銀行,さらには勤務先にまで洗いざらい調査をかけ,事後的に本人に支弁した保護費の支払いを求めることがあるぞと受け取れる「脅し」の文書が想定されるのである。
 上記のとおり,親子,兄弟等の親族が生活保護の申請をすれば,その扶養義務者は,その収入や資産状況を勤務先も含めて洗いざらい調査され得る立場に立つことになる(仮に,本人が生活保護から自立しても,生活保
護を利用していた期間については生涯調査の対象となる)。そして,保護の開始決定前にその旨の警告を受けるのであるから,扶養義務者としては,無理をしてでも扶養を行うよう努力するか,保護の申請をした本人に申請を取り下げるよう働きかけるであろう。
 これは,扶養を事実上保護の要件とするのと同じ効果を持つことが明らか
である。
 生活保護を利用しようとする者の親族もまた生活に困窮していることが多
く,仮にそうでなくても,関係が悪化したり疎遠になっていることが多い。扶養を事実上強制されることとなれば,生活に困窮する者の大多数が生活保護の利用を断念せざるを得ず,さらには,親族間の軋轢を悪化させる事態が容
易に想像できる。
(引用終わり)
 
 この問題をマスメディアがどう報じているのか、一例として日本経済新聞を見てみましょう(WEB版2013年5月17日11時57分
 
(抜粋引用開始)
 政府は17日の閣議で、不正受給対策や失業者の自立支援を盛り込んだ生活保護法改正案と生活困窮者自立支援法案を決定した。不正受給への罰則引き上げや後発医薬品の使用を促進し、増え続ける保護費を抑制する。失業などで経済的に困窮した人が生活保護を受給しないで済むように、自立支援策も強化する。
 生活保護法改正案では、不正受給への反発を受け、罰金の上限を今の30万円から100万円に引き上げる。さらに不正受給の返還金に不正分の4割を上乗せできるようにする。自立支援の強化では、保護中に働いて得たお金の一部を積み立て、保護脱却時に支給する「就労自立給付金」制度を創設する。
(略)
 生活保護費は国・地方あわせて約3.8兆円で、10年で約6割増えた。受給者には低年金で生活が立ちゆかなくなった高齢受給者が多いが、リーマン・ショック以降は本来なら就労可能な若者の保護受給も増えている。
(引用終わり)
 
 憲法的視点から「改正」案の問題点を報じるという姿勢の全くない記事ですが、日経ならまあこんなものでしょう。
 それにしても、堂々と「増え続ける保護費を抑制する」と書く神経が問題です。
 規制緩和によってグローバル資本主義に奉仕し、国民の窮乏化を容認する基本政策を長年推進してきた結果として保護費が「増え続ける」ことになったのでしょうが。
 根本的な原因に目を向けず、さらに窮乏化に拍車をかけ、健康で文化な最低限度の生活を全ての国民に保障した憲法25条を踏みにじろうとい生活保護法「改正」案に断固反対する声をあげなければと思います。
 
(参考サイト)
5月15日、生活保護問題対策全国会議が開いた記者会見で配布された資料
 
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター・もやい
 
ダイヤモンド・オンライン 2013年5月17日
 
田中龍作ジャーナル 2013年5月15日