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国連社会権規約委員会による第3回日本政府報告書に対する総括所見

 今晩(2013年5月29日)配信した「メルマガ金原No.1371」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
 
国連社会権規約委員会による第3回日本政府報告書に対する総括所見
 
 地方公共団体から朝鮮学校に対する補助金打ち切りの動きが広がる中で、去る(2013年)4月11日、札幌市の上田文雄市長が記者会見において、「札幌で学ぶ子どもたちのためでございますので、子どもと大人の政治の世界とは分けて考えるべきであるというふうに私は思います。札幌市の朝鮮学校で学んだ子どもたちが、今後、世界で、日本と北朝鮮を含めた友好関係といったものを築いていく礎になっていただける、そういう人格者に育っていただきたいという期待を込めて、私は、補助金の支出については従前どおり継続するべきである、そんなふうに考えておりますという見識を表明したことを、メルマガ金原No.1324でご紹介したことをご記憶しょうか?
 
 その際、日本も締約国となっている国連人権規約のうちの社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)をご紹介しましたが、その第16条1項及び第17条1項は次のように規定されています。
 
第16条1項
 この規約の締約国は、この規約において認められる権利の実現のためにとった置及びこれらの権利の実現についてもたらされた進歩に関する報告をこの部の規定に従って提出することを約束する。
 
第17条1項
 この規約の締約国は、経済社会理事会が締約国及び関係専門機関との協の後この規約の効力発生の後一年以内に作成する計画に従い、報告を段階的に提出する。
 
 この規定に基づいて提出された締約国からの報告は、「経済的、社会的及び化的権利に関する委員会」で審査され、その最終見解(総括所見)が公表されることになっています。
 
 先のメルマガを配信した時点では、第2回「日本政府報告書」に対する「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解」(2001年9月24日)が最新のものでした。
 
 ところで、2009年12月には、第3回「日本政府報告書」が提出されていました。
 
 提出された報告は、正式な審査会期の前に作業部会によって検討が行われのですが、様々なNGOなどが、審査に資するための「情報提供」を行います。
 上記の第3回「日本政府報告書」に関わる日本弁護士連合会からの情報提「~会期前作業部会によって作成される質問表に盛り込まれるべき事項とその背景事情について~」(2012年2月17日)は以下のとおりです。
 
 その上で、第3回「日本政府報告書」に関する日本弁護士連合会としての正な「日弁連報告書」(2013年1月18日)を提出しています。
 
 そして、「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」は、第50会期2013年4月29日~5月17日)において第3回「日本政府報告書」を検討した結果、5月17日、「総括所見」を採択して公表しました。
 
 原文(英文・ワードファイル)は以下のサイト(ARC 平野裕二の子どもの権利・際情報サイト)からダウンロードできますし、また日本語仮訳(社会権規約NGOート連絡会議訳)も掲載されています。
 
 マスコミ等は、橋下発言とのからみで“従軍慰安婦”問題やヘイトスピーチ問題関連した部分を取り上げていましたが、非常に幅広い分野に関する勧告がなされています。
 以下には、ごく一部のみ抜粋してご紹介しますが、上記「仮訳」は非常に読みすい良い訳ですから、是非通読していただければと思います。
 
(抜粋引用開始)
9.委員会は、社会的扶助に対する予算配分額が相当に削減されたことにより、とりわけ全住民のうち不利な立場に置かれた集団および周縁化された集団にとて、経済的および社会的権利の享受に悪影響が生じていることに、懸念をもっ留意する。
12.委員会は、締約国の雇用法において障害を理由とする差別からの全面的保護が定められていないことに、懸念をもって留意する。
13.委員会は、締約国で根深く残るジェンダー役割についてのステレオタイプのため、女性による経済的、社会的および文化的権利の平等な享受が妨げられ続けていることを懸念する。委員会はまた、数次にわたる男女共同参画基本計画の採択のような措置がとられたにも関わらず、ジェンダー役割に関する社会一般の態度の変革を狙った十分な措置がとられてこなかったことに、懸念をもって留意する。
17.委員会は、使用者による自主的取り組みを奨励するために締約国がとった措置にも関わらず、相当数の労働者が著しい長時間労働に従事し続けていることに、懸念をもって留意する。委員会はまた、過労死、および、職場における心理的いやがらせを理由とする自殺が起こり続けていることを懸念する。
18.委員会は、締約国全域の最低賃金の平均水準が、最低生活水準、生活保護給付額および上昇する生活費に満たないことを懸念する。
 委員会は、労働者およびその家族が人間にふさわしい生活を送れることを確保する目的で、最低賃金水準を決定する際に考慮される要素を見直すよう、締約国に対して促す。
25.委員会は、原子力発電所の安全性に関して透明性が欠けておりかつ必要な情報が開示されていないこと、ならびに、原子力事故の防止および処理に関する地域的備えが全国的に不十分であることに関する懸念をあらためて表明する。
26.委員会は、「慰安婦」が受けてきた搾取により、彼女たちによる経済的、社会的および文化的権利の享受ならびに彼女たちの賠償請求権に対する悪影響が永続していることを懸念する。
 委員会は、搾取の永続的影響に対応し、かつ「慰安婦」による経済的、社会
的および文化的権利の享受を保障するため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。委員会はまた、「慰安婦」にスティグマを付与するヘイトスピーチその他の示威行動を防止するため、締約国が「慰安婦」の搾取について公衆を教育するよう勧告する。
27.委員会は、締約国の高校教育授業料無償化プログラムから朝鮮学校が除
外されていることを懸念する。これは差別である。
 差別の禁止は、教育のあらゆる側面に全面的かつ即時的に適用され、また国際的に定められたすべての差別禁止事由を包含していることを想起しつつ、委員会は、高校教育授業料無償化プログラムが朝鮮学校に通う子どもたちにも適用されることを確保するよう、締約国に対して求める。
28.委員会は、多数の外国人児童が学校に通っていないことに、懸念をもって留意する。
 委員会は、締約国に対し、義務教育の状況の監視を、法律上の地位に関わ
らず締約国の領域内にいるすべての子ども(国民ではない子どもを含む)に対して適用するよう促す。
30.委員会は、アイヌ民族が先住民族として認められ、かつその他の進展が達成されたにも関わらず、経済的、社会的および文化的権利の享受に関してアイヌ族が不利な立場に置かれたままであることを依然として懸念する。委員会は、アイヌ語が消滅の危機にあることをとりわけ懸念する。

 

(引用終わり)