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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

“慰安婦”問題を考える様々な視点(たとえば「アジア女性基金」)

政治 人権
 今晩(2013年6月1日)配信した「メルマガ金原No.1374」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
慰安婦”問題を考える様々な視点(たとえば「アジア女性基金」)
 
 「複眼的思考」の重要性ということが説かれることがあります。 
 ものごとを、ある一面からだけとらえるのではなく、多方面から光を当てて立体的に対象をとらえることによって、はじめて真実に迫ることができるということでしょうか。
 一般論として概ね異論はないと思いますが、現実にそれを実践するということは至難です。
 紙ベースの世界でもそうですが、これがインターネットを飛び交う言説に限って言えば、一方的、攻撃的な決めつけこそ「常態」であると言わざるを得ません。
 「ネトウヨ」がそういう存在であることは言うまでもありませんが、「ネトウヨ」とは対極に立つと自負している(私を含めた)人々が、本当に「複眼的思考」を実践できているのかということになると、実は「ネトウヨ」と五十歩百歩だったりすることも多いのではないかと思います(気を悪くする人もいるでしょうが)。
 
 一例として、橋下徹大阪市長の妄言を機に、再び大きく取り上げられるようになった“慰安婦”問題を考えるために有用と私が考えた「複眼の一つ」をご紹介します。
 私がご紹介しようというのは、橋下発言を徹底批判する多くの言説ではりません(紹介するまでもなく皆さんの目には十分触れているでしょうから)。
 かといって、橋下擁護論を詳しく紹介しようという訳でもありません。まあ、対立するの主張に目配りすることも無意味ではないので、2013年5月28日に東京開かれた河野談話」の撤廃を求める緊急国民集会の模様を詳細に報じた経ニュースの記事にリンクをはっておきますが。
 
 “慰安婦”問題に「複眼的思考」を持ち込むためのうってつけの素材だと私が考えたのは、以下のインタビュー記事です。
 
2013年5月25日
日本が誇るべきこと、省みること、そして内外に伝えるべきこと~「慰安婦」問題の理解のために
江川紹子氏による大沼保昭氏へのインタビュー
 
 大沼保昭氏は、前東京大学大学院教授、現在は明治大学特任教授で、国際法の研究者として非常に著名な方です。実は、私も参加させてもらっている弁護士数名による勉強会のテキストとして、同氏の『国際法 はじめて学ぶ人のための』(東信堂)が使われ、ほぼ1年がかりで読み切ったことがあります。
 658ページのこの大部のテキストに「はじめて学ぶ人のための」という副題がついているのは何故か?というと、「きっかけが何であれ、国際法のことを知ってみたい、という一般市民の方々に読んでいただきたい」(はしがき)からであるといことで、たしかに通常の国際法の教科書とは、(学問的レベルは決して落さぬものの)相当毛色が違うという印象を受けました。
 同氏にはまた、『人権、国家、文明 普遍主義的人権観から文際的人権観へ』(筑摩書房)という、現代の人権を考える場合に避けては通れぬ問題についての重要な論考もあります。
 
 ところで、ジャーナリストの江川紹子さんが、今この時期に大沼保昭さんにンタビューを申し入れたのは、大沼さんが、アジア女性基金女性のためのアジア平和国民基金)の呼びかけ人であるとともに、設立された財団法人の理事務められ、2007年に同財団が活動を終えた後、『「慰安婦」問題とは何だったのか メディア・NGO・政府の功罪』(中公新書)という著作によって、同財団による「償い事業」のある意味「総括」を行った人だったからです。
 
 同財団は既に活動を終えたものの、「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」というサイトが遺され、いつでも閲覧することができます。
 
 同サイトの「ご案内」は、掲載資料の目次として活用できます。このページを一覧するだけでも、貴重な資料が集積されていることが分かります。
 
 日本人でも、アジア女性基金による「償い事業」の詳細を知っている人は少ないでしょう(私自身がそうです)。同サイトの中の「アジア女性基金誕生と基本性格」から、事業の骨子を説明した部分を引用します。
 
(引用開始)
 国民的な「償い事業」は三本の柱からなっています。
 第一は、総理の手紙です。手紙は、「慰安婦」問題の本質は、軍の関与の
もと、女性の名誉と尊厳を深く傷つけたところにあるとして、多くの苦痛を経験し、癒しがたい傷を負われたすべての人々に対し、道義的な責任を認め、心からのお詫びと反省を表明するとしています。
 また歴史を直視し、正しく後世に伝えることを約束しています。基金は、この
紙を元「慰安婦」の方々お一人おひとりにおわたしします。それに加えて基金としては、政府と国民の立場が一層はっきりと被害者につたえられるように「基金」理事長の手紙をそえることにしました。
(中略)
 第二は、元「慰安婦」の方々への国民からの「償い金」の支給です。国民からの募金に基づいて、一人あたり200万円をお渡しするものです。
 第三は、医療福祉支援事業です。これは日本政府が道義的責任を認め、そ
の責任を果たすために、犠牲者に対して5年間で総額8.3億円の政府資金により医療福祉支援事業を実施するものだとの位置づけがあたえられました。この規模は、各国・地域の物価水準を考慮にいれてきめました。韓国と台湾については一人あたり300万円相当、フィリピンについては120万円相当とさだめられました。方式のちがうオランダでも、一人あたり300万円相当となりました。
(引用終わり)
 
 江川さんによる大沼さんインタビューでも触れられている「総理のおわびの手紙」というのを、実は私は初めて読みました。以下に引用します。
 
(引用開始)
 拝啓
 このたび、政府と国民が協力して進めている「女性のためのアジア平和国民基金」を通じ、元従軍慰安婦の方々へのわが国の国民的な償いが行われるに際し、私の気持ちを表明させていただきます。
 いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と
尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。
 我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。わ
が国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関わる諸問題にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えております。
 末筆ながら、皆様方のこれからの人生が安らかなものとなりますよう、心からお祈
りしております。
                                       敬具
平成8(1996)年
日本国内閣総理大臣 橋本龍太郎
(歴代署名:小渕恵三森喜朗小泉純一郎)
(引用終わり)
 
 四代にわたる総理大臣が、直筆で署名してこの手紙を送っていたのですよ。これって、大変「重み」のあることではないでしょうか?「河野談話」の見直しなど「あり得ない」でしょう・・・という風に決めつけるのが、「単眼的思考」というものなのかもしれませんね。
 
 私自身、アジア女性基金が、民間からの拠出金を原資として「償い」の事業を行うと聞いて、「何という中途半端な」という思いを抱いたことは否定できません。
 もちろん、小沼保昭さんも、基金の限界など百も承知の上で、それでも「出来るだけのことをしよう」と努力を続けられたのだと思いますが、そういう基金にかかわる人々の努力を、どれだけの国民が理解しようとしたのでしょうか。はなはだ心許ないと言わざるを得ません。
 私にしてからが、「総理のおわびの手紙」を初めて読んだのですから。
 
 大沼保昭さんへのインタビュー自体のご紹介をする余裕がなくなりましたが、是非リンク先をお読みいただきたいと思います。

 

 とはいえ、私が大沼さんの全ての発言に賛同しているとか、賛同して欲しいとか言っている訳ではないことは、今さらご説明するまでもありませんよね。