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“集団的自衛権”に関する日本弁護士連合会総会決議と私のレジュメのご紹介

 今晩(2013年6月23日)配信した「メルマガ金原No.1396」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
集団的自衛権”に関する日本弁護士連合会総会決議と私のレジュメのご紹
 
 参議院選挙の結果如何にかかわらず、憲法をめぐる緊急の課題であった「96条」問題が、潮目の変化によって、改憲派の最優先項目ではなくなりつつありますが、代わって前面に出てくるのは「集団的自衛権」だろうと私は予想しています
 
 「96条」と同様に「集団的自衛権」についても、一部の保守論客との「国民統一戦線」が結成できれば良いのですが、一朝一夕にはいかないでしょう。
 目標はそこに置きつつ、当面はしっかりと理論武装しておくことが肝心です。
 
 今なお、この問題を学ぶ際の最重要文献は、第一次安倍晋三内閣が崩壊する直前に世に出た、豊下楢彦氏の『集団的自衛権とは何か』(岩波新書/2007年7月刊)でしょう。
 
 また、去る(2013年)5月31日の日本弁護士連合会定期総会で採択された「集団的自衛権の行使容認に反対する決議」は、主要な論点を把握するのに便宜だと思いますのでご紹介しておきます。
 
 「決議」では、その「提案理由」を以下の5項目に大別して論じています。
 
第1 集団的自衛権行使を容認する最近の動き
第2 集団的自衛権に関する政府の見解
第3 集団的自衛権に関する当連合会の意見
第4 国家安全保障基本法案の問題点
第5 集団的自衛権行使の容認に反対する
 
 概ね、日弁連が3月14日に公表した「集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対す意見書」での論述に沿った内容となっています(それはそうでしょうね)。
 過去の政府見解や日弁連意見の総ざらえとしては、よくまとまっていて便利かと思います。
 そして、「提案理由」の「第5 集団的自衛権行使の容認に反対する」(まとめ)では、「立憲主義」の観点を強調していますので、この部分をご紹介しておきましょう。
 
(引用開始)
 我が国の安全保障防衛政策は、立憲主義を尊重し、憲法前文と第9条に基づいて策定されなければならないものである。憲法前文と第9条が規定している恒久平和主義、平和的生存権の保障は、憲法の基本原理であり、時々の政府や国会の判断で解釈を変更することはもとより、法律を制定する方法でこれを変更することは、憲法を最高法規と定め(第10章)、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(第98条)、国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課することで(第99条)政府や立法府を憲法による制約の下に置こうとした立憲主義に違反し、到底許されるものではない。
 よって、当連合会は、憲法の諸原理を尊重する立場から、憲法第9条によって禁じられている集団的自衛権の行使を、政府が従来の解釈・見解の変更によって容認することや、集団的自衛権の行使を容認する憲法違反の法案の立法に強く反対し、本決議案を提案するものである。
(引用終わり)
 
 ただし、私が自分で学習会の講師を務める場合には、日弁連「意見書」で論じられているような諸点はほぼ省略します。これらの歴史的経緯を押さえておくことは理論的に非常に重要ではありますが、時間の制約もあり、また聴衆に与えるインパクトの点からも、私は次のような話をするようにしています(私が最近使っているレジュメのロング・ヴァージョンから抜粋してご紹介します)。
 
(引用開始)
集団的自衛権容認の動き(解釈改憲と立法改憲)
① 第1次安倍内閣によって設置された「安全保障の法的基盤の再構築に関
する懇談会」が集団的自衛権を容認すべきとの「報告書」を提出したのが2008年。当時の福田康夫首相はこれを無視。ところが・・・
 2013年2月、委員の顔ぶれも名称も同一の「懇談会」が復活。はじめから
結論ありきの「出来レース」。
 内閣としての「憲法解釈」の変更を打ち出すことが予想されている。
② 2012年7月 自民党総務会が「国家安全保障基本法案(骨子)」を了
解。とりまとめの中心を担った石破茂氏(現幹事長)は、成立に非常に強い意欲を示し続けている(集団的自衛権の行使、多国籍軍への参加、武器輸出の全てにお墨付きを与える「改憲」の先取りのようなとんでもない法案)。
 現在伝えられるところによれば、内閣法制局と公明党を「迂回」するためか、
員立法による成立を目指すらしい(自民党以外の改憲勢力との「部分連合」も取りざたされている)。
③ 集団的自衛権とは何かを抽象的に議論しても一般市民に理解してもらうこ
とは難しい。
 世界の紛争、戦争で、実際に集団的自衛権を行使すると称して戦争をしてい
る国の実例をこそ学ぶべき。
 国連憲章上、戦争行為を「合法」と主張できる3類型は、
 ⅰ)安全保障理事会の承認(国連憲章42条等) 
 ⅱ)個別的自衛権の行使(国連憲章51条) 
 ⅲ)集団的自衛権の行使(同上)
④ イラク戦争を想起せよ!
 2003年のイラク戦争開戦時に当時の小泉首相は即座にアメリカの軍事行
動を「支持」すると明言し、陸上自衛隊の施設隊を、そして後には航空自衛隊の輸送機を派遣した(後年、名古屋高裁が空自の空輸行為は憲法9条1項に違反するとの判決をくだした)。
 ただし、からくも自衛隊が直接の戦闘に参加することだけは回避できた。
 ところで、以下の諸国は、イラク戦争において、アメリカ以外で2桁以上の「戦
死者」を出した国である。イギリス(3桁)、ポーランド、スペイン、イタリア、ウクライナ、ブルガリア。
※ 1桁にまで広げれば、デンマーク、オーストラリア、オランダ、タイ、韓国等10
数カ国が加わる。
 これらの国がイラク戦争に参戦した根拠は「集団的自衛権」である(イラク戦争
安全保障理事会の軍事行動承認決議はなかったし、これらの国がイラクから攻撃された訳でもないのだから)。
 2003年当時、日本に集団的自衛権の行使を容認する政府解釈や法律が
あったとしたらどうなっていたか?
 アメリカからの「出兵要請」を拒めたと考える者がいるとすれば、よほどの楽天家
であるか、もしくは何も考えていない証拠である。
 私たちは国民に訴えなければならない。「日本が攻め込まれた訳でもないのに、
アメリカ軍の指揮下であたら自衛隊員(国防軍兵士?)を戦死させてもよいのか?日本の若者にイラク(イラン、北朝鮮?)で人殺しをさせたいのか?(現代の争は市民に多くの犠牲者が出ることが不可避である)」と。集団的自衛権使を容認するというのはそういうことである。
⑤ 「尖閣」と集団的自衛権は(基本的には)関係ない
 尖閣諸島付近で日中両国が軍事衝突することが万一あったとしても、それは
「個別的自衛権」を行使できる場合にあたるかどうかの問題であって、「集団的自衛権」とは関係がない。
 もしも「集団的自衛権」の問題になり得るとすれば、アメリカが、「日本国とアメ
リカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」5条前段の「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」の規定に基づき、共通の危険に対処するための行動(軍事行動)を起こすかどうかということであって、この場合の集団的自衛権行使の主体は、日本ではなくアメリカである。
※(余談)現在までのところ、「尖閣」の危機がからくも現実の武力衝突にまで発
展せずに済んでいるのは、アメリカがそれを望んでいないからであるとの逆説的評価が可能かもしれない。
(引用終わり)
 
(参考サイト)
 上記「決議」でも引用されているとおり、日本弁護士連合会は、過去何度か「集団的自衛権」(を含む憲法問題)についての見解を公表していますので、以下にリンクしておきます。
 
2005年11月11日 人権擁護大会決議
立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」
 
2008年10月3日 人権擁護大会決議
「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」
 
2012年5月3日 会長談話
東日本大震災からの復興の中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話」
 
2012年7月27日 会長声明
集団的自衛権の行使を容認する動きに反対する会長声明」
 
2013年3月14日 意見書
集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反
対す意見書」