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『あたらしい憲法のはなし』と“立憲主義”(運動の再構築のために)

 今晩(2013年8月2日)配信した「メルマガ金原No.1437」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
『あたらしい憲法のはなし』と“立憲主義”(運動の再構築のために)
 
 自民党が、昨年(2013年)4月27日、新しい改憲案(日本国憲法改正草案)を発表して以来、特に今年の憲法記念日前後から、それまで憲法教科書の片隅(?)で論じられていた“立憲主義”という概念が、にわかに脚光を浴び、新聞の見出しや社説にまで場するようになりました。
 
 しかしながら、昨年の5月28日、「時々、憲法改正草案に対して、『立憲主義』を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょう」と恥ずかしげもなくtweetした自民党参議院議員(自分では東大法学部で芦部信先生から憲法を学んだと称していましたが)がいた位ですから、日本の教育現場で果たして「立憲主義」が教えられているのかどうか心配になりますね。
 
 ここからの議論の前提として、「立憲主義」とは、個人の権利・自由(基本的人権)を保障するため、国家権力を制限することが憲法制定の目的であるとする、近代市民革命以降に成立した思想であると定義しておきます。
 
 ところで、私は昭和29年(1954年)の遅生まれで、昭和42年(1967年)中学校入学、昭和45年(1970年)高等学校入学なのですが、実は私自身、中学校や高校で「立憲主義」を習った記憶は全然ないのです。
 とはいえ、40年以上前のことですから、記憶が失われただけかもしれないのですが、いにも、私は小学校入学から高校卒業までの教科書を全部保存しており、中学3年の社会科教科書及び高校3年の時に使った政治経済の教科書を引っ張り出してきた(当時は「公民」という呼び方はありませんでした)。
 私が使ったのは以下の2冊の教科書でした。
 
「中学社会3 政治・経済・社会的分野」 
 日本書籍株式会社 昭和44年1月25日発行
「現代 政治・経済 最新版」 美濃部亮吉、稲田正次、三潴信邦 
 清水書院 昭和47年2月15日 再販発行
 
 中学3年次と高校3年次に使用した2冊の教科書の憲法に触れた箇所を再読してみましたが、いずれにも、「立憲主義」という用語は登場せず、またその概念を説明した箇所もありませんでした。
 ただ、意外であったのは、東京教育大学の著名な(名誉)教授3名の連名で刊行された高用の教科書よりも、日本書籍の「中学社会3」の方がはるかに充実した内容であることでした。
 例えば、平和主義を解説した部分では、1928年の不戦条約第1条がそのまま引用されており(ケロッグ=ブリアン条約という通称名まで紹介されている)、また、日本国憲法9条1項同様に侵略戦争を放棄した外国憲法(イタリア、ドイツ、ポーランド)の条文が引用されたりしています。
 また、「中学社会3」では、「立憲政治」という段落において、近代市民革命の成果を説明した上で、「国民の人権を守ることをもとにして、主権の所在や三権分立をはじめ、政治のあり方の基本を定めた法が憲法である。したがって、憲法は国政の基本法であるとともに、人権を保障する規定であるということができる。憲法にもとづいておこなわれる政治を立憲政治という」と記述されています。
 惜しい!あと一歩なのに・・・というところでしょうか。
 
 私の中学・高校時代の話では、いくら何でも古過ぎるでしょうから、最新の文部科学省「学習指導要領」ではどうなっているのかを調べてみました。
 
中学校・社会・公民的分野
(引用開始)
(3) 私たちと政治
ア 人間の尊重と日本国憲法の基本的原則
 人間の尊重についての考え方を,基本的人権を中心に深めさせ,法の意義を理
解させるとともに,民主的な社会生活を営むためには,法に基づく政治が大切であることを理解させ,我が国の政治が日本国憲法に基づいて行われていることの意義について考えさせる。また,日本国憲法基本的人権の尊重,国民主権及び平和主義を基本的原則としていることについての理解を深め,日本国及び日本国民統合の象徴としての天皇の地位と天皇の国事に関する行為について理解させる。
イ 民主政治と政治参加
 地方自治の基本的な考え方について理解させる。その際,地方公共団体の政治
の仕組みについて理解させるとともに,住民の権利や義務に関連させて,地方自治の発展に寄与しようとする住民としての自治意識の基礎を育てる。また,国会を中心とする我が国の民主政治の仕組みのあらましや政党の役割を理解させ,議会制民主主義の意義について考えさせるとともに,多数決の原理とその運用の在り方について理解を深めさせる。さらに,国民の権利を守り,社会の秩序を維持するために,法に基づく公正な裁判の保障があることについて理解させるとともに,民主政治の推進と,公正な世論の形成や国民の政治参加との関連について考えさせる。その際,選挙の意義について考えさせる。
(引用終わり)
 
高等学校・公民
(引用開始)
(1) 現代の政治
 現代の日本の政治及び国際政治の動向について関心を高め,基本的人権と議
会制民主主義を尊重し擁護することの意義を理解させるとともに,民主政治の本質について把握させ,政治についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。
ア 民主政治の基本原理と日本国憲法
 日本国憲法における基本的人権の尊重,国民主権,天皇の地位と役割,国会,
内閣,裁判所などの政治機構を概観させるとともに,政治と法の意義と機能,基本的人権の保障と法の支配,権利と義務の関係,議会制民主主義地方自治などについて理解させ,民主政治の本質や現代政治の特質について把握させ,政党政
治や選挙などに着目して,望ましい政治の在り方及び主権者としての政治参加の在り方について考察させる。
イ 現代の国際政治
 国際社会の変遷,人権,国家主権,領土などに関する国際法の意義,国際連合
をはじめとする国際機構の役割,我が国の安全保障と防衛及び国際貢献について理解させ,国際政治の特質や国際紛争の諸要因について把握させ,国際平和と人類の福祉に寄与する日本の役割について考察させる。
(引用終わり)
 
 現在の「学習指導要領」にも、「立憲主義」は登場しませんね。
 そして、文科省(旧文部省)が「立憲主義」という概念について鈍感というか、熱心でないのは、何も今に始まったことではないのです。
 先日、「小林節氏×伊藤真氏~憲法改正を議論するために~」でご紹介した『自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!』という新刊の中で、伊藤真弁護士も指摘されているとおり、昭和22年に文部省が発行した『あたらしい憲法のはなし』自体、「立憲主義」の何たるかを児童・生徒に教えようという意思の全く感じられない書きぶりだったのです(というか、執筆者が「立憲主義」という概念を理解していたかどうかすら疑問す)
 
 伊藤さんも引用していた最初と最後の部分を読んでみましょう。
 
(引用開始)
一 憲法
 みなさん、あたらしい憲法ができました。そうして昭和二十二年五月三日から、私たち日本國民は、この憲法を守ってゆくことになりました。
十五 最高法規
 みなさん、あたらしい憲法は、日本國民がつくった、日本國民の憲法です。これからさき、この憲法を守って、日本の國がさかえるようにしてゆこうではありませんか。
(引用終わり)
 
 どうも、いくら読んでも、国民がこの「あたらしい憲法」を守っていこうとは書いてありますが、「立憲主義」をうかがわせるような説明はさっぱり見当たらないのですね。
 そして、こと「憲法とは何か?」という基本原理に関する文部省→文部科学省え方は、この『新しい憲法のはなし』の路線をずっと踏襲しているらしいのです(間違っていたら教育学関係者から是非ご指摘いただきたいのですが)。
 
 参議院議員選挙が終わり、当分国政選挙がないという見通しの中で、憲法改悪阻止のための運動再構築の方策が様々に論じられていますが、多くの方から提案されており、私も同感なのが、従来の枠を超えた数、層の憲法学習会を間断なく実施していくということです。
 「憲法とは何か?」という最も基本的な部分での教育がかくも手薄であるのなら、私たちの努力でその穴を埋めていくしかないでしょう。
 迂遠なようでも、それが憲法9条や96条を守るための王道だろうと思います。
 
(「弁護士・金原徹雄のブログ」から)
2012年5月3日
「憲法記念日に考える(立憲主義ということ)」前編

 

「憲法記念日に考える(立憲主義ということ)」後編
2012年5月30日
「『立憲主義』を聴いたことがないという参議院憲法審査会委員」
2013年4月3日
日本国憲法『第10章 最高法規』を読む」前編
日本国憲法『第10章 最高法規』を読む」後編
2013年5月13日
小林節氏らの『96条“改正”絶対阻止』の主張に連帯するために」
2013年7月13日
「この7年間、私たちは何をしていたのか?~『小林節さんに聞いた』(2006年/マガジ
ン9条)を読んで~」