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放射能は県境で停まるのか?-宮城県丸森町筆甫地区(OurPlanet-TVより)

 今晩(2013年9月28日)配信した「メルマガ金原No.1496」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放射能は県境で停まるのか?-宮城県丸森町筆甫地区(OurPlanet-TVより)
 
 去る(2013年)9月23日でパブリックコメントの募集が締め切られた、子ども・被災支援法(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)第5条に基づき、政府が策定すべきものとされた基本方針案(被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(案))は、同法第8条1項の「支援対象地域」を以下のように定める旨規定しています。
 
(引用開始)
 被災者の置かれた状況は多様であり、必要な支援内容を一律に定めることは容易でないが、原発事故発生後、年間積算線量が 20 ミリシーベルトに達するおそれのある地域と連続しながら、20 ミリシーベルトを下回るが相当な線量が広がっていた地域においては、居住者等に特に強い健康不安が生じたと言え、地域の社会的・
経済的一体性等も踏まえ、当該地域では、支援施策を網羅的に行うべきものと考えられる。
 このため、法第8条に規定する「支援対象地域」は、福島県中通り及び浜通り
市町村(避難指示区域等を除く)とする。
(引用終わり)
 
 「これはないだろう」と思った私は、パブコメ募集最終日の9月23日、以下のような見を送信しました(「支援対象地域」に関する部分のみ引用します)。
 
(引用開始)
 基本方針案については数々の問題がありますが、私がとりわけ問題だと考えていのは、「支援対象地域」を「福島県中通り及び浜通りの市町村(避難指示区域を除く)」と定めていることです。基本方針案はその理由として、「地域の社会的・済的一体性等も踏まえ、当該地域では、支援施策を網羅的に行うべきものと考られる」ということを挙げています。
 しかしながら、この「支援対象地域」の定め方は、妥当性を欠くのはもちろん、明ら
かに「違法」です。
 子ども・被災者支援法はその8条1項において、「支援対象地域」を「その地域に
おける放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っている一定の基準以上である地域をいう」と明確に定義しているのであって、これ以外の「定め方」を法は予定しておらず、復興庁が示した「中通り及び浜通りの市町村」を「支援対象地域」とするという方針は、行政府が立法府から委任された範囲を明確に逸脱する「違法」な越権行為であることはあまりにも明らかと言うべきです。
 基本方針案が掲げる「地域の社会的・経済的一体性等」を考慮する必要がない
いうことではありませんが、このように「法」の規定を行政府が「無視」して良い根拠になり得るはずがありません。
 仮に、法8条1項括弧書きの「一定の基準以上である地域」とそうでない地域が
「中通り・浜通りの市町村」に混在することになった場合、「一定の基準未満となった地域」にあっても、「地域の社会的・経済的一体性等」を考慮して、「準支援対象地域」(法1条の類推)とするということであれば合理性があると言えるでしょうが、基本方針案の考え方は完全に主客が転倒しており、到底容認できるものではありません。
(引用終わり)
 
 以上の意見は、もっぱら法律の条文(文理)解釈の観点からの批判であり、その見自体は誤っていないと思っていますが、もう少し別の観点からの批判も必要だったなと思います。
 
 それはこういうことです。
 子ども・被災者支援法第8条1項は、「支援対象地域」とは「その地域における線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基以上である地域をいう」であると定めています。
 つまり、同法が、第8条(支援対象地域で生活する被災者への支援)、第9条(支援対象地域以外の地域で生活する被災者への支援)、第10条(支援対象地域以外の地域から帰還する被災者への支援)等の様々な支援策を包括的に実施する対象地域を定めるにあたって、政府に全て一任するのではなく、「その地域における放射線量が」「一定の基準以上である地域」という客観的な基準によるべきこととしたのは、「合理性」と「公平性」とを担保するためであったと解されるのです。
 すなわち、第8条以下の様々な支援を必要とする地域を「合理的」に定めるための最も重要な指標は、健康被害に直結する「放射線量」であるということを明示するとともに、「支援対象地域」の指定が恣意的なものとならず、客観的に「公平」な指定となること確保しようとしたのだと考えるべきです。
 
 この問題につき、非常に考えさせられる映像が、OurPlanet-TVによってアップロードされました。
 
OurPlanet-TV 2013年9月27日
「県境が生んだ格差~原発事故から2年半・宮城県筆甫地区~」(16分02秒)
 
 OurPlanet-TVの番組案内を引用します。
 
(引用開始)
「福島との格差なぜ?」~放射能に苦悩する県境の町
 http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1649
 福島第1原発から北西に50キロの距離にある宮城県丸森町(まるもりまち)筆甫(ひっぽ)地区。いわき市南相馬市よりも放射線の数値は高いものの、復興庁が策定した子ども被災者支援法基本方針案で「支援対象地域」から外された。原子力損害償紛争審査会の「自主的避難対象地域」からも外されている。
 その壁となっているのが「県境」だ。福島県の伊達市相馬市に接する筆甫地
区は、飯舘村から車で10分の距離にある。宮城県と福島県をわける道は幅2メートルもないい農道で、「原発さえなければ」と書き残して亡くなった相馬市酪農家の家にも隣接している。
 今年5月、筆甫地区の住民698人が福島県内と同水準の損害賠償を求めて、力損害賠償紛争解決センターに申し立てを行った。福島県外での集団申し立てはめてのことだ。住民の9割が参加している。
 山の中で自然とともに暮らしてきた筆甫の人々。これまでは、ほとんど買い物を
しない自給自足の生活で、風呂は薪で炊き、あらゆるものを手作りしてきた。しかし、2011年に筆甫地区で計測された川魚からは1キログラムあたり2042ベクレルの放射性セウムが検出されたほか、タケノコからは1866ベクレル、椎茸からは1570ベクレル測され、山との暮らしは崩壊した。
 これまでの伝統的な里山暮らしが全て壊されたが、国からの支援は、福島県で
はないとの理由で、あらゆる面で切り捨てられている。被災者として認められず、苦しい思いを募らせる筆甫地区の人々を取材した。
(引用終わり)
 
 大橋光子さん(筆甫地区)の「県境で放射能が停まった訳ではない」という言葉に政府はどう答えるのでしょうか?
 
(参考サイト)
OurPkanet-TV 2013年5月21日
「福島と同等の賠償を」丸森住民698名がADR集団申し立て
丸森町 原発事故対策室からのお知らせ
民の声新聞 2012年5月8日
0.3μSVの中で生活する子どもたち~宮城県のホットスポット丸森町を歩く