遠隔地居住者間の家事調停の申立てについて
今晩(2013年12月1日)配信した「メルマガ金原No.1560」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
遠隔地居住者間の家事調停の申立てについて
今日取り上げたテーマ「遠隔地居住者間の家事調停の申立てについて」をご覧になって、このメルマガ(ブログ)の成り立ちから言って、「原発」とも「憲法」とも一見して関係なさそうなテーマなので驚かれたでしょうか?
それとも、私も普通の弁護士と同じような仕事もしているんだ、と安心されたでしょうか?
それはともかくとして・・・。
離婚や遺産分割などの家族間の紛争を解決するために、地方裁判所とは別系統の家庭裁判所が設けられているということは、国民的常識と言って良いと思います(多分大丈夫でしょうね?)。もっとも、多くの県では、地方裁判所と家庭裁判所は同じ庁舎の中に入っていますし、所長も兼任が普通ですから、「どこがどう違うのか」についてはよく分からないかもしれませんね。
これを一言で説明することは無理ですが、一応、法律上の定義をご紹介しておきましょうか。
第三十一条の三 (裁判権その他の権限) 家庭裁判所は、次の権限を有する。
一 家事事件手続法 (平成二十三年法律第五十二号)で定める家庭に関する事件の審判及び調停
二 人事訴訟法 (平成十五年法律第百九号)で定める人事訴訟の第一審の裁判
三 少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)で定める少年の保護事件の審判
2 家庭裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
一 家事事件手続法 (平成二十三年法律第五十二号)で定める家庭に関する事件の審判及び調停
二 人事訴訟法 (平成十五年法律第百九号)で定める人事訴訟の第一審の裁判
三 少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)で定める少年の保護事件の審判
2 家庭裁判所は、この法律に定めるものの外、他の法律において特に定める権限を有する。
今日ご紹介しようと思っている「家事調停」は、上記1号に記載のとおり、「家事事件手続法」で定められた手続の1つです。
実は、この「家事事件手続法」は、今年(2013年)1月1日に施行されたばかりの新しい法律であり、それ以前は、「家事審判法」という法律によって規律されていました。
このような重要法令が新しくなる場合には、弁護士会でも研修を重ねるのですが、実際に制度が施行されるまでは、研修を受講してもなかなか具体的なイメージがわかないもので、これほど重要な新規定が盛り込まれていることに、最近になってようやく気がついたといううかつさです(規定が新設されたことは知っていたのですが、それをどう活かすのかということに思いが至っていませんでした)。
私がうかつにも気がついていなかった新制度をご紹介する前に、まずは「家事調停事件」についての説明及び「家事事件手続法」についての解説をご紹介しておきますので、必要に応じてご参照ください。
家事調停事件とは(裁判所ホームページ)
家事事件手続法の施行を迎えて(裁判所ホームページ)
家事審判法から「家事事件手続法」へ(東京弁護士会ホームページ)
「家事事件手続法」によって規定されることになった新たなシステムとして、従来の実務のあり方に大きな影響を及ぼすことになると思われる規定をご紹介したいと思います。
分かりやすくするために、「架空の事例」を設定してみましょう。
【事例】Aさん(女性)は、事情があって、2011年4月以降、2人の子(当時4歳女子と2歳男子)を連れ、それまでの住居地(東京23区内)に夫Bさんを残し、和歌山県に転居して現在に至っている。当初は理解のあった夫も、別居が長期化するに及び、「東京に帰ってくるか、それとも離婚か」と迫り、生活費もはかばかしく送金してくれなくなった。
さて、このような相談を受けた弁護士が、まず真っ先に考えるのは、話し合いで解決しない限り、調停提起を考えざるを得ないが(婚姻費用分担請求または夫婦関係調整)、和歌山家庭裁判所に申し立てるのは無理だ、ということです(以下、条文の引用は特記せぬ限り「家事事件手続法」からです)。
(管轄等)
(以下略)
従って、【事例】の場合、Aさんから相談を受けた和歌山の弁護士としては、Bさんから「和歌山家庭裁判所で調停を行うこと」についての同意書が得られない限り、東京家庭裁判所に調停申立てをせざるを得ない、ということになります。Bさんに働きかけて、Bさんの方から和歌山家裁に調停を申し立てるように仕向けるという高等テクニックもありますが、いつもうまくいくとは限りませんしね。
ところが、この「距離の壁」をほぼ超えることができるシステムが「家事事件手続法」によって導入されたのでした。
(音声の送受信による通話の方法による手続)
第五十四条 家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる。
2 家事審判の手続の期日に出頭しないで前項の手続に関与した者は、その期日に出頭したものとみなす。
第五十四条 家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる。
2 家事審判の手続の期日に出頭しないで前項の手続に関与した者は、その期日に出頭したものとみなす。
(家事審判の手続の規定の準用等)
第二百五十八条 第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
(以下略)
第二百五十八条 第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
(以下略)
家事事件手続法施行規則(最高裁規則)
(音声の送受信による通話の方法による手続・法第五十四条)
第四十二条 家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うときは、家庭裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。
2 前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を家事審判事件の記録上明らかにしなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を明らかにすることができる。
第四十二条 家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うときは、家庭裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない。
2 前項の手続を行ったときは、その旨及び通話先の電話番号を家事審判事件の記録上明らかにしなければならない。この場合においては、通話先の電話番号に加えてその場所を明らかにすることができる。
いかがでしょうか?よく分からない?
「家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法」というのが、いわゆる「電話会議システム」や「テレビ会議システム」と呼ばれるもののことだと分かれば、おおよそは理解できるのではないでしょうか。
ちなみに、54条は「家事審判」についての規定ですが、258条1項によって、「家事調停」にも準用されることになります。
【事例】に即して考えてみましょう。
以上の規定を活用することを前提として、
①Aさんが、Bさんを相手方として東京家庭裁判所に調停を申し立てる。
②Bさんから同意書を得た上で(合意管轄)、Aさんが和歌山家庭裁判所に調停を申し立てる。
③Bさんが、Aさんを相手方として和歌山家庭裁判所に調停を申し立てる。
のいずれの方法によっても、通常の調停期日は、電話会議またはテレビ会議の方法で進行することが可能であると思います。
つまり、「家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて」電話会議システムかテレビ会議システムによって家事調停の期日における手続を行うことができるのですから。
具体的なイメージとしては、次のようなことになるのではないかと思います。
①事件が東京家庭裁判所に係属した場合
申立人Aさんは、和歌山家庭裁判所もしくは依頼した代理人の事務所に赴き、電話会議で調停期日に参加する。
相手方Bさんは、東京家庭裁判所に赴いて調停の期日に参加する。
調停委員会(家事審判官1名、家事調停委員2名以上)は、東京家庭裁判所において調停手続を進行する。
②、③事件が和歌山家庭裁判所に係属した場合
Aさんは、和歌山家庭裁判所に赴いて調停の期日に参加する。
Bさんは、東京家庭裁判所もしくは依頼した代理人の事務所に赴き、電話会議で調停期日に参加する。
調停委員会(家事審判官1名、家事調停委員2名以上)は、和歌山家庭裁判所において調停手続を進行する。
ここで、管轄裁判所外で手続に参加する当事者が、居住地の家庭裁判所もしくは代理人の事務所に赴いて電話会議に参加する、と限定したのは、家事事件手続法施行規則42条に「家庭裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話先の場所の確認をしなければならない」とあるからで、代理人弁護士の事務所電話番号は日弁連サイトでも確認できますので、規則の要件を満たすことは容易ですが、個人の自宅や事務所ではそうはいきませんし、代理人以外のどういう人物が回りにいないとも限らないので、スムースな調停期日の進行に差し支える懸念もあります。
ということで、家事事件手続法が主として想定しているのは、「居住地裁判所」もしくは「代理人事務所」なのだろうということです。
例えば、【事例】①のとおり、私がAさんの代理人となって東京家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停を起こしたとすると、調停期日に際しては、Aさんに私の事務所まで来てもらい、東京家裁(ここには調停委員とBさんがいる)と電話会議システムで結んで手続を行うことになるでしょう。
それは、家事事件手続法に以下のような規定があることによります。
(調停の成立及び効力)
第二百六十八条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。
(略)
第二百六十八条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。
(略)
3 離婚又は離縁についての調停事件においては、第二百五十八条第一項において準用する第五十四条第一項に規定する方法によっては、調停を成立させることができない。
(以下略)
(以下略)
生活費(婚姻費用分担)を求める調停なら、最後まで電話会議で調停を成立させることも可能ですが、「離婚又は離縁」については、人の身分上の地位に重大な変動をもたらす効果があるため、当事者の意思確認を慎重に行う必要が、他の調停事件よりも格段に高いというのが、この規定の趣旨でしょう。
従来から、民事訴訟の分野では電話会議システムを使った訴訟進行は普通に行われていましたが、家事調停の分野において、従来から悩みの種であった「管轄裁判所までの距離による壁」の問題に一定の解決のめどが立ったということは非常に大きいと思いました。
このメルマガ(ブログ)を読んでくださっている方の大半は、弁護士以外の方だと思いますので、「新制度紹介」として(遅ればせながら)書いてみました。