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NHKと公共性(籾井新会長発言から考えるために)

 今晩(2014年2月2日)配信した「メルマガ金原No.1625」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。

NHKと公共性(籾井新会長発言から考えるために)

 NHK籾井勝人(もみい・かつと)新会長の就任会見時の暴言・妄言問題をきっかけとして、放送の「公共性」とは何か?政治権力と「公共性」との関係はいかなるものか?など、様々な問題が噴出しています。
 これに一定の結論を出すだけの能力は今の私にはありませんので、これから様々に考えをめぐらせていくための参考資料を集めてみました。
 
 まず、籾井会長の発言そのものです。
 1月25日のNHK会長就任記者会見における籾井勝人新会長による発言の数々を、その問題点とともに報道するつもりは、少なくともNHK自身には全くないようです。
 そのことは、記者会見当日にNHK広報局が公表した「籾井勝人会長就任記者会要旨」を一読すれば明らかです。
 
 NHK広報局が作った「要旨」が「改竄」「隠蔽」に過ぎないということを明確にする必要を感じたのか、朝日新聞デジタルは、会見翌日の26日に「会見詳報」をアップし、ANNニュースも、29日に会見映像をノーカットでWEB上に公開しました。
 
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 特定秘密保護法について「まあ一応通っちゃったんで、言ってもしょうがないんじゃないかと思うんですけども」(会見ノーカット(3))の部分に一切触れず、「個人的な意見は、差し控えたい」(NHK広報局「要旨」)ですからね。
 従軍慰安婦に関する発言などもひどいものですが、公共放送のトップが絶対に言ってはならない発言はこれでしょう。
 
(会見詳報2より引用開始)
 ――国際放送を強化すると言うが、日本の立場を政府見解をそのまま伝えるのか
 民主主義について、はっきりしていることは多数決。みんなのイメージやプロセスもあります。民主主義に対するイメージで放送していけば、政府と逆になるということはありえないのではないかと。議会民主主義からいっても、そういうことはありえないと思います。
 国際放送は多少国内とは違います。尖閣諸島竹島という領土問題については、明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。時には政府の言うこと、そういうこともあります。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない。国際放送については、そういうニュアンスもあると思います。外交も絡む問題ですし、我々がこう思うからと、勝手にあさってのことをいうわけにはいきません。領土問題については食い違いはない。
(引用終わり)
 
 実際の発言は、ANN映像の会見ノーカット(4)でご確認ください。上記「詳報」もかなり要約している部分があります。なお、これから何度も引用されるに違いない部分を正確に再現すると「政府が右って言ってるものを我々が左と言うわけにはいかない」となります。しっかりと憶えておきましょう。
 それにしても、この人の頭の中にある「民主主義」のイメージというのは「常に多数派に従うこと」なんですね。
 国会の「多数派」を基盤とする政府にとって、これほど都合のよい人物もまあいないでしょう。だからNHKの会長に選ばれたのでしょうが。
 この人に一度、伊藤真弁護士の講演(特に立憲主義についての)を聴かせたいと思ったのですが、聴くはずないか・・・。
 
 25日にこのひどい記者会見があったと思ったら、そのわずか5日後には、NHKラジオ第一放送の番組で、ディレクターによるとんでもない言論封殺が行われたことが発覚しました。別に籾井新会長が直接指示したわけではないでしょうが、番組制作現場の劣化は、籾井氏のような人物が会長に就任するという事態と「通底した危機」であることは間違いないでしょう。
 
(抜粋引用開始) 
 NHKラジオ第一放送で三十日朝に放送する番組で、中北徹東洋大教授(62)が「経済学の視点からリスクをゼロにできるのは原発を止めること」などとコメントする予定だったことにNHK側が難色を示し、中北教授が出演を拒否したことが二十九日、分かった。NHK側は中北教授に「東京都知事選の最中は、原発問題はやめてほしい」と求めたという。
 この番組は平日午前五時から八時までの「ラジオあさいちばん」で、中北教授は「ビ
ジネス展望」のコーナーでコメントする予定だった。
 中北教授の予定原稿はNHK側に二十九日午後に提出。原稿では「安全確保
の対策や保険の費用など、原発再稼働コストの世界的上昇や損害が巨額になること、事前に積み上げるべき廃炉費用が、電力会社の貸借対照表に計上されていないこと」を指摘。「廃炉費用が将来の国民が負担する、見えない大きな費用になる可能性がある」として、「即時脱原発か穏やかに原発依存を減らしていくのか」との費用
の選択になると総括している。
 中北教授によると、NHKの担当ディレクターは「絶対にやめてほしい」と言い、中北
教授は「趣旨を変えることはできない」などと拒否したという。
(引用終わり) 
 
 中北教授が、29日午後にNHKに提出した草稿が、朝日新聞のWEBRONZAにそのまま掲載されています。別に細川候補や宇都宮候補に肩入れしているわけではなく、経済学者としての意見を率直に述べようとしただけであることは明らかです。
 
 
 このようなNHKに象徴される報道機関の劣化の重要な原因が、政治権力による放送への介入であることを、今回ほどあからさまに表面化したことはなかったかもしれません。
 しかし、今日の事態を正確に理解するためには、2001年に起こった安倍晋三官房副長官(当時)らによる従軍慰安婦を扱ったETVの番組内容についての「申し入れ」と、その意を受けた役員による制作現場への介入により、番組の内容が大幅に改編させられてしまったという大事件を想起する必要がある、と考えたのがビデオニュース・ドットコムの神保哲生さんでした。
 そして、1月31日(金)収録のマル激トーク・オン・ディマンドは、上記弾圧を受けた番組のプロデューサーであり、現在、武蔵大学社会学部教授である永田浩三さんをゲストに招き、当時の状況を振り返るとともに、放送の公共性と政治権力の関係などについて、社会学者の宮台真司さんを交え、縦横に語り合っています。
 幸い、第5金曜日恒例の「5金スペシャル」として無料配信されていますので、少し長いのですが、是非視聴されますようにお勧めします。
 
ビデオニュース・ドットコム
マル激トーク・オン・ディマンド 第668回(2014年02月01日)
政治権力による放送の私物化を許してはならない
ゲスト:永田浩三氏(武蔵大学社会学部教授・ 元NHKプロデューサー)
 
 籾井新会長については、彼を会長に選んだNHK経営委員会に安倍政権が送り込んだ4人の新任委員の顔ぶれから、多くの者がその資質に懸念を抱いていたのであり、記者会見における質問が、大手マスコミ記者にしてはかなり頑張ったのも、そのような伏線があったからでしょう。
 4人のうちの作家・百田尚樹氏など、経営委員就任後も、ネトウヨの兄貴分としか思えない発言を繰り返しており、安倍首相の「お友達」のレベルの低さに呆れるばかりですが、これが安倍支持層の平均的な姿なのかもしれず、そうである以上、アメリカ政府の安倍政権に対する忍耐が限界に達するのも、そう遠い先のことではないかもしれません。
 それよりも何よりも、この4人の経営委員の中で私が最も気の毒に思うのは本田勝彦氏(日本たばこ産業顧問)です。仮に、本田氏がどんなに立派な見識の持ち主であり、NHKの経営委員に相応しい人であったとしても、人は本田氏のことを「安倍晋三首相の小学校時代の家庭教師」としか見ないのですから。
 そもそも、過去の総理大臣で、自分の家庭教師だった人物をNHK経営委員に任命した者などいたのでしょうか?
 『美しい日本へ』というのが、安倍首相が官房長官時代の2006年7月に出版した著書のタイトルでしたが、およそ私が考える日本人の「美しさ」からは、自分の家庭教師を重要な公職に任命するなどということは想像もできません。端的に言えば、安倍晋三という人には、「恥を知る」という、人間として、日本人として最低限持っていることが期待されている徳目が完全に欠落しているのかもしれません。
 
(参考サイト)
 今週のビデオニュース・ドットコムでは、ニュース・コメンタリーのコーナーにも永田浩三氏が参加し、2月10日正午までの期間限定で無料配信されている映画『100,000年後の安全』について語り合っていますので、この視聴もお勧めしておきます。
ニュース・コメンタリー (2014年02月01日)
人類は10万年先の未来に責任を持てるか