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集団的自衛権と国家安全保障基本法案(憲法と法治主義を守るために)

 今晩(2014年2月4日)配信した「メルマガ金原No.1627」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
集団的自衛権と国家安全保障基本法案(憲法法治主義を守るために)
 
 「毎日配信」という無謀なモットーを掲げて2011年3月にスタートしたこの「メルマガ金原」ですが、今晩のように仕事のために帰宅が10時を回り、配信用のストック(書き溜め)もない時はどうすればよいのか?というと、3年近くの間には色々な「手法」をあみ出てきた訳で、そのうちの一つが、別の目的のために書いた文章を「流用」することです。
 
 というわけで、来週2月13日(木)に、和歌山県平和フォーラムからの依頼で行う講演会のために書きかけているレジュメを(まだ書き終えていませんが)掲載させてもらうことにします。
 「流用」するにしても、講演会が終わってからにする方が望ましいのは百も承知ですが、何しろ他に適当なものがないので仕方がない、とやや開き直っているところです。
 なお、この和歌山県平和フォーラム主催の講演会は、既にメルマガ(ブログ)でご紹介済みです(予告1/28&2/13「2014年 和歌山県平和フォーラム春季連続講演会」)。
 
 この連続講演会のうち、1月28日の前田哲男さん(軍事ジャーナリスト)の講演は既に終了しており(私も聴講しました)、それを踏まえた続編という位置付けでお話をするつもりでレジュメを書き始めたものです。
 主催者が用意された演題は「日本国憲法について考えよう―自民党の「憲法改正案」を阻止しよう―」というものですが、現時点で、自民党日本国憲法改正草案」の内容を詳しく解説し、明文改憲阻止を訴えるのはやや焦点がずれているような気がするので、前回の前田さんのお話を引き継いで、集団的自衛権や国会安全保障基本法案の問題点を、今度は法的観点から洗い出してみるということを基本にしようと考えた次第です。
 従って、チラシをご覧になって来られた方には、「看板に偽りあり」となるかもしれませんが、その点は何卒ご容赦ください。
 以下に、13日の講演会の概略を転記しておきます。
 
2014年 春季連続講演会
戦争ができる国
戦争をしようとする国づくりを
許さない。
 
日時 2014年2月13日(木)18:00~20:00
会場 和歌山県勤労福祉会館プラザホープ 2F多目的室
日本国憲法について考えよう―自民党の「憲法改正案」を阻止しよう―
講師 金原徹雄氏(弁護士)
■主催:和歌山県平和フォーラム ■後援:部落解放同盟和歌山県連合会
【お問い合わせ】和歌山県平和フォーラム
 和歌山市雑賀屋町9 宮田ビル TEL:073-425-4180
 
 それでは、以下に、上記講演会のためのレジュメ草稿を掲載します。もちろん、まだ1週間以上ありますから、演題も内容も変わる可能性があります。
 
 
   集団的自衛権と国家安全保障基本法
     ~憲法法治主義を守るために~
          弁護士 金 原 徹 雄
 
1 はじめに
 前回、和歌山県平和フォーラム主催の憲法学習会(2013年4月23日)の講師
として「憲法をめぐる状況と課題~様々な危機に立ち向かうために~」と題してお話させていただいてから10ヵ月が経った。
 まずは、前回の学習会において私が指摘した「様々な危機」を振り返り、10ヵ月後
の今、それらの「危機」がどのように変化したのか、あるいは変化しなかったのかについ確認しておきたい。
① 国会議席状況の「危機」
 自民党日本維新の会みんなの党などの改憲諸政党が優に衆議院の2/3を
超える議席を保有するに至った2012年12月の総選挙の結果、第2次安倍晋三政権が誕生し、さらに、2013年7月の参議院選挙により、改憲3派による2/3の議席確保はかろうじて免れたものの、与党である自公両党が過半数を大きく超える議席を確保し、これを機に安倍政権の「暴走」が顕著となった。
② 集団的自衛権をめぐる「解釈改憲の危機」と「立法改憲の危機」
 この「危機」は、より深刻化して継続しており、2014年が「闘いの正念場」となるこ
とは確実である。後に詳述する。
③ 憲法96条・明文改憲の危機 昨年夏の参議院選挙の主要争点の1つとなることがほぼ確実視されていた憲法
96条(改正規定)先行改憲論については、その企てが立憲主義の根幹を揺るがすものであることに危機感をいだいた広範な学者や市民の強い反対により、事実上、参院選の争点とはならず、当面の危機は遠退いた。
④ 自民党日本国憲法改正草案」による危機
 自民党が2012年4月に公表した「日本国憲法改正草案」は、そのままの形で改
憲発議されるとは考えられず、(連立の組替がない限り)公明党に配慮した修正(特定秘密保護法の立法過程から考えて、本質的な改変などあり得ないと思うが)を施された上で、具体的「改正案」が俎上に上ることになると思われる。
 ただし当面は、②の「解釈改憲」「立法改憲」を目指すものと思われる。
 そこで、1月28日に行われた前田哲男先生による講演を引き継ぐことも意識して、
集団的自衛権及び国家安全保障基本法案と憲法についてお話し、その後、もしも時間に余裕があれば、その他の憲法をめぐる自民党の立場についての批判を述べることとする。
 
2 集団的自衛権日本国憲法
(1)安保法制懇による報告書提出(2014年4月想定)
 第1次安倍内閣によって設置された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇
談会」が集団的自衛権行使を容認すべきとの「報告書」を提出したのは2008年であったが、諮問した安倍首相は既に政権を投げ出しており、報告書を受け取った福康夫首相はこれをゴミ箱に放り込んだ(多分)。
 ところが、第2次安倍政権発足直後の2013年2月、委員の顔ぶれも名称も同
一の「懇談会」が復活。はじめから結論ありきの「出来レース」である。
 前田先生からお話があったとおり、予算通過後の本年(2014年)4月頃、安保
法制懇から「予定通り」の報告書が提出されるものと予想されており、その際、国連による集団安全保障措置への参加も認めるべきことが盛り込まれるかもしれない。
(2)閣議決定による解釈変更
 上記安保法制懇からの報告書提出を受けて、「集団的自衛権については、権利
としては保有しているが、憲法9条2項の規定があるため、行使することはできない」という従来の政府公権解釈を変更する閣議決定がなされるのではないかと想定されている。
 この場合、公明党が「政権離脱」カードを「本気で」切ることができるかどうかが問
題であるが、公明党に最後の下駄を預けるような状況は何としても避けねばならず、閣議決定という方針自体を放棄させる広範な国民運動を組織しなければならない。
 なお、内閣の憲法解釈変更に立ちふさがる可能性があった内閣法制局には、20
13年8月、「集団的自衛権容認派」の外交官・小松一郎氏を長官として送り込んでいる(現在入院中であるが)。
(3)従来の憲法解釈を再確認する
 日本は自民党が支配しているのでも安倍晋三が支配しているのでもなく、日本国
憲法の定める基本原理の下、国民代表である国会が制定する法律に基づいて運営される国家であり、これを普通「法治主義」という。
 従って、従来、何故日本国政府(その大半の時期は自民党が政権与党であった)
が、集団的自衛権を行使できないという解釈を貫いてきたのかを理解する必要がある。これを理解する前提としては、「集団的自衛権の定義」及び「自衛隊は何故合憲なのか」を押さえておかねばならない。
① 集団的自衛権の定義
 「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてい
ないにもかかわらず、実力をもって阻止すること」(1972年・田中角栄内閣)

 

② 自衛隊は何故合憲なのか(政府解釈)
 「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めた憲法9条2項の規定
あるにもかかわらず、何故自衛隊は合憲であるのかについて、政府は以下のように解釈してきた。すなわち、憲法9条も、我が国が、外国の侵略から国民の生命、財産などを守るための自衛権を有していること自体は当然のこととして認めている。自衛隊は、我が国が急迫不正の侵害を受けた際、これに反撃して国民の生命、財産を守るための必要最小限の実力であるから、憲法9条2項が保持を禁じた戦力にはあたらず合憲である。
③ 集団的自衛権の行使が憲法上認められるかについての解釈
 従来の政府解釈が、集団的自衛権は行使できないとしてきたのは、上記の2つ
の前提から論理必然的に導かれる結論だからである。つまり、集団的自衛権というのは、我が国が「攻撃されていない」ことが大前提であって(攻撃を受ければ個別自衛権の問題となって自衛隊の守備範囲である)、それにもかかわらず、「自国と密接な関係にある外国」のために「実力をもって阻止」(つまり武力行使)するというのであるから、我が国を守るための必要最小限の実力であればこそ合憲となる自衛隊にそのような任務を与えることは憲法9条2項の解釈上不可能というのが、長年引き継がれてきた政府(内閣法制局)の解釈なのである。
 従って、集団的自衛権行使容認という憲法解釈を導くためのポイントは、憲法
条2項の規定にもかかわらず、何故自衛隊は合憲なのか?という論点についての解釈にこそある。
 4月にも出ると言われる安保法制懇の報告書を読む場合には、まさにこの点(自
衛隊は何故合憲か)についてどのように論述しているかに注目して読むべきである。もしもこの点をスルーし、単に「国際安全保障環境の変化」などによって「集団的自衛権の行使が必要」と主張しているだけであれば、それは「法解釈の変更」の名に値せず、法治主義を無視した「クーデターの勧め」に過ぎないと考えるべきである。
 阪田雅博氏をはじめとする何人もの元内閣法制局長官が、集団的自衛権行使
は認められないと主張しているのは、日本は「人による支配」ではなく「法による支配」が貫徹されてきた法治主義の国(とりあえずここでは「法の支配」と「法治主義」を同義としておく)であり、自分たちは、その要となる重責を担ってきたという誇りと責任感によるものであることを理解しなければならない。
(4)国連憲章51条とブッシュ・ドクトリン
 国連憲章51条は、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武
力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と規定しており、先に述べた日本政府の定義も、この規定を踏まえたものである。
 しかし、現時点において集団的自衛権を論じる場合、この憲章の規定だけでは
不十分(現実を反映していない)であることを認識すべきである。
 2003年、イラク戦争開始前に米国のジョージ・ブッシュ大統領は、以下のような
演説を行った。「われわれは行動を起す。行動しないリスクの方が極めて大きいからだ。すべての自由な国家に危害を加えるイラクの力は、1年、あるいは5年後に何倍にもなるだろう。この力を得れば、サダム・フセインと彼のテロリスト連合は、最強となったときに破壊的な紛争の機会を得ることができる。この脅威が突然、われわれの空や都市を脅かす前に、われわれは今、脅威が発生する場所で、脅威に立ち向かうことを選択する」
 この宣言は何を意味しているのであろうか?イラク戦争の経過を振り返れば明ら
かなとおり、米国はイラクから攻撃を受けた「から」武力行使をしたわけではない。逆である。米国の方から攻撃をしかけたのである。その理由はといえば、何年後かに強力な力を持つようになった(第一段の仮定)イラクが、米国を攻撃する可能性がある(第二段の仮定)から、今、「脅威に立ち向かう」(先制攻撃する)というのである。このブッシュ・ドクトリンで宣言された考え方は、その後、バラク・オバマ大統領の民主党政権でも継承されていることは、同大統領の2013年の国連総会での演説、「アメリカは、中東と北アフリカにおける核心的な利益を守るために、軍事力を含むあらゆる国力を使用する用意があります。(略)国をテロ攻撃から守るために必要な時は直接的な手段をとります」によって確認されている。
 米国にとって、このような武力行使自衛権の行使なのであり、米国と「密接な
関係にある」諸外国の軍隊が米軍とともに戦うことを「集団的自衛権の行使」と主張しているのである。イラク戦争における英国、イタリア、ポーランド、スペインその他多くの国がそのような「集団的自衛権」を行使したことを絶対に忘れてはならない。
 
3 国会安全保障基本法案と日本国憲法 
(1)2012年版(骨子)の問題点
 2012年7月、自民党総務会は「国家安全保障基本法案(概要)」を了解し
た。
 その第2条2項四号は「国際連合憲章に定められた自衛権の行使については、
必要最小限度とすること」とし、個別的自衛権集団的自衛権の区別なく、憲章51条の自衛権行使が出来ることを前提とした規定となっており、その内容が第10条で「第2条第2項第4号の基本方針に基づき、我が国が自衛権を行使する場合には、以下の事項を遵守しなければならない」としてより具体化している。
 さらに、第11条には、国際連合憲章上定められた安全保障措置等への参加
を前提とした規定が置かれ、第12条では、国は、「防衛に資する産業基盤の保持及び育成につき配慮する」として、原則的に武器輸出を解禁しようとしている。
(2)立法改憲の持つ意味
 国家安全保障基本法案(2012年7月・自民党案)は、本来、憲法9条の改
正手続を経なければ合憲とならないはずの事柄を、下位規範である法律の制定によって潜脱的に実現しようとするものであって、ほとんど「軍事力を行使しないクーデター」と呼ぶのが相応しい企てである。
 この法案が成立すれば、憲法9条は「改正」されずとも立ち枯れとなるだろう。あ
るいは「仮死状態」になるといっても良い。不可逆的に9条が死ぬのは、自衛隊員が「戦争」によって他国民を殺傷し、戦死した時、もしくは憲法9条が明文改憲された時である。
 しかし、このような「立法改憲」は、間近に前例がある。昨年(2013年)12月
6日に国会で無理押しに成立された特定秘密保護法である。
 明らかに憲法21条(表現の自由・知る権利の保障)、31条(適正手続の保
障)を無視した一種の「授権法」であって、麻生太郎副総理が推奨する「ナチスの手口」を着々と実行しつつある安倍政権であるから、国家安全保障基本法強行突破しようとすることは、容易に想定できることである。
(3)国家安全保障基本法を許さないために
 我々の当面の目標は、「国のあり方」を根底からくつがえす「国家による陰謀」
を阻止するための「国民統一戦線への結集」だろう。
 まさに「言うは易く行うは難し」の典型のような課題であり、間近では東京都知
事選の推移を見るだけでも、その容易ならざることは明らかである。
 とはいえ、1年以内に安倍政権を打倒するという目標を達成するためには(それ
以上の時間をかけている余裕はおそらくない)、無理でも困難でも、その旗を掲げ続けるしかない。
 そのためには、伝統的な自民党支持層にも共感の輪を作り出す取組も絶対
に必要である。私がかねてブログ等で(一部から批判されながら)、天皇・皇后両陛下の「憲法観」を再々ご紹介しているのも、象徴天皇制と9条は、そもそもの成り立ちから一体のものであったことはさておくとしても、決して矛盾するものではなく、伝統的に皇室に親愛の情を抱く保守層に対して、9条の平和主義を守ることこそ皇室の願いに沿う道なのだと自信をもって訴えるべきだと考えているからである。
 また、いわゆる加憲の立場から、憲法9条自衛隊を合憲の存在と認める規
定を追加すべきという層に対しても、今は、立憲主義法治主義を無視する暴走政権と共に闘うべき時であるとの訴えを続けなければならない。