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赤池誠章氏(自民党)の参議院憲法審査会(2/26)での発言から考える

 今晩(2014年3月2日)配信した「メルマガ金原No.1653」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 

 

赤池誠章氏(自民党)の参議院憲法審査会(2/26)での発言から考える
 
 現在、衆参両院に憲法審査会が設置され(衆議院は2009年、参議院は2011年)、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、日本国憲法の改正案の原案(以下「憲法改正原案」という。)、日本憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する」活動を行っています(衆議院憲法審査会規程、参議院憲法緒審査会規程の各第1条・同文)。
 委員の定数は、衆議院は50人、参議院は45人とされ、「各会派の所属議員数の比率により、これを各会派に割り当て選任する」こととなっています(衆参同文)。
 各憲法審査会での議論の内容は、時に新聞等で報道されることがあるにしても、それほど注目度が高いわけではなく、正直に言えば、私自身、最近はほとんどフォローしていませんでした。
 ところが、神保哲生さんと宮台真司さんによる今週のニュース・コメンタリーを視聴していたところ、去る2月26日の参議院憲法審査会における赤池誠章(あかいけ・まさあき)議員(自由民主党)の発言というのか意見表明の一部が紹介されていて実に驚きました。
 
ビデオニュース・ドットコム ニュース・コメンタリー(2014年2月28日収録)
憲法違反の憲法」はどの憲法に違反をしているのか
 
 「驚きました」と書きましたが、赤池議員が語った内容そのものに驚いたわけではありません。それは、「手垢が付いた」と評するに十分な「押し付け憲法論」だったからです。
 たしかに、2012年4月27日に自民党が公表した「日本国憲法改正草案」は、到底「改正」などと言えるような代物ではなく、現行憲法「破棄」、新憲法「制定」と言うべき価値転換を企図したものであり、その「Q&A(増補版)」のQ1の答において、「わが党は、結党以来、自主憲法制定を党是としています。占領体制から脱却し、日本を主権国家にふさわしい国にするため、これまで憲法改正に向けて多くの提言を発表してきまし」「現行憲法は、連合国軍の占領下において、同司令部が指示した草案を基に、その了解の範囲において制定されたものです。日本国の主権が制限された中で制定された憲法には、国民の自由な意思が反映されていないと考えます。そして、実際の規定においても、自衛権の否定ともとられかねない 9 条の規定など、多くの問題を有しています」と説明している部分も、実質的には「押し付け憲法論」に与していると読めますので、赤池議員が、党の方針を無視して突飛な個人的意見を述べた訳ではないでしょう。
 
 それにもかかわらず、私が驚いたのは以下のような理由によります。
 4月下旬にオバマ大統領の日本訪問という重要な政治日程を控えながら、ここ最近の首相周辺の「緊張感の無さ」は異常です。「NHK三馬鹿トリオ」や金美齢などの「お友だち」による暴言や、「安倍首相側近」という自覚もなければ(いや「あるからこそ」かもしれませんが)最低限の外交的配慮もできないことを露呈した萩生田光一総裁特別補佐、衛藤晟一首相補佐官萩生田光一総裁特別補佐らによる米国の神経を逆なでする妄言の数々に加え、あろうことか、内閣の要である菅義偉官房長官が、2月28日の衆議院予算委員会において、従軍慰安婦問題に関する河野談話について政府の中に検討チームを作ると明言したと伝えられています(ロイターなど)。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1R05720140228
このニュースを知った時、「これは内閣を窮地に追い込むために野党が“はめた”のではないか?」と私は思いましたもの。もっとも、山田宏議員(日本維新の会)からの質問に答えてであったということなので、その可能性は高くはなさそうですが。
 このような、「わざと米国に喧嘩を売っているのではないか?」と思われても仕方がないような発言が続く中での赤池議員による参議院憲法審査会での意見表明は、当人の意図がどうあれ、安倍政権と米国(オバマ政権のみならず議会や世論も含めた総体としての「米国」)との関係の中に位置付けられることは、発言前から当然認識していなければならないことであったはずです。
 同議員の発言を以下に文字起こししておきましたが、既にこの発言の英訳が米国政府のしかるべき部署にまで届いていることは確実です(オバマ大統領の執務室まで届いているかどうかは知りませんが、少なくともケリー国務長官のところまでは、遅かれ早かれ報告されるでしょう)。
 
 冒頭でご紹介したニュース・コメンタリーの中で、宮台さんが、「赤池さんにはもっと頑張って欲しい。頑張れば頑張るほど、安倍内閣に対する米国の牽制意欲が増しますからね。その意味では、十分頑張ったかもしれませんね。赤池さん、いい働きしましたと皮肉たっぷりに評されたことばにほぼ同感するのですが、とはいえ、宮台さんほどの見識も持たず、達観もできていない私としては、「それにしても、この意見表明はないだろう」と、つい言いたくなるのですね。
 突っ込みどころ満載で、やり始めたらきりがないので、反論はほんの少しだけにしておきます(まず、赤池議員の発言の文字起こしに目を通した後でお読みいただければと思います)。
 
1 制定過程(押し付け憲法論)について
 「憲法自体が憲法違反の存在というものであります」については、神保さんと宮台さん、それに憲法審査会では白眞勲議員(民主党)から揶揄されていましたが、この発言の問題点は多分二つあります。
 一つは、赤池議員が述べた文脈から言えば、この部分は、「自ら前文で述べた理念を裏切る経過によって制定されたものであって、このことからも、現行憲法に『正統性』がないことは明らかです」とでも言うべきところでしょう。つまり、彼には、適切な日本語を用いる語学力がないということです。これは、大したことではないとお考えでしょうか?私はそうは思いません。国会において、会派を代表して憲法を論ずる以上、少なくとも、筋の通った日本語によって主張を展開する責務が、発言する議員には課せられていると思います。
 二つめの問題点は、表面的な文脈から言えば、「憲法自体が憲法違反の存在といものであります」という表現自体「間違い」だと思いますが、実は、「押し付け憲法論」を突き詰めていけば、「現行憲法は、大日本帝国憲法に違反して無効である」という結論にたどり着きかねない、というか、たどり着くのがより論理的であるということです。自民党「日本国憲法改正草案Q&A」などはその辺をスルーしており、赤池議員も「無効」だと明言はしていません(日本国憲法によって参議院議員という地位を与えられていながら、その根拠を否定できるのかという疑問に逢着せざるを得ませんからね)。もっとも、法律としての大前提である『正統性』がないと感じております」とまで言うのですから、赤池議員は、個人的には「日本国憲法無効論者」なのだろうと思います(もっとも、憲法審査会というのは、議員が個人としての意見をたたかわせるところなのだろうか?)。要するに、はしなくも、そのような潜在意識がつい「憲法自体が憲法違反の存在」という表現を思いつかせてしまったのだろうというのが私の推測です。
 
2 内容について
(1)戦争放棄条項
 ここでは、「日本人には、自分の国を守る力を持たさず、二度と立ち上がらせないようにするという弱体化という占領政策、米国の属国化、保護国化という考え方があります」についてのみコメントします。
 「押し付け憲法論者」の中には、「自主憲法制定&日米安保条約破棄&国軍増強」をセットで主張する人々もあり、そのような方策が正しいとは思いませんが、論理的にはそれなりに一貫性のある考え方だろうと思います。ところが、少なくとも国会議席を有する「押し付け憲法論者」の圧倒的多数は、「日米安全保障条約制(日米同盟)堅持」を主張しているようであり、その間の論理的整合性がどうなっているのか、全く理解できません。そもそも、日米安全保障条約は、日本国憲法、サンフランシスコ平和条約及び国連憲章の存在を前提とした条約ですよ。その重要な
前提である日本国憲法の「正統性」を否定し、さらに靖国神社参拝を繰り返して、極東軍事裁判の結果を受け容れたサンフランシスコ平和条約も実質的に否定しておきながら、日米安全保障条約体制だけが存続できる、あるいは米国がその考え方を支持するだろうという論理がどうすれば出てくるのでしょうか?
 さらに、「米国の属国化、保護国」という、赤池氏が言うところの日本国憲法定時における米国の占領政策は、日本が独立を回復した後にも、見事に貫徹されているという評価もあり得るところですが、その点について、自民党赤池氏が口をつぐんでいるのは解せません。
 沖縄における事実上の占領体制の継続、首都圏における米軍管制空域の存在、膨大な「思いやり予算」、独立回復後「米国の戦争」に反対したことは一度もない日本政府の対米政策・・・、なるほど「属国」「保護国」と言われても仕方がないですね。そして、そのような状況を根本的に転換する用意も意思もないのであれば、現実問題として可能な選択肢は、「憲法9条があるから海外で戦争はできない属国」か、それとも「宗主国・米国の指示のままに国民(今なら自衛隊員)を海外で戦死させる属国」かのどちらかしかないはずであって、要するに赤池氏の主張は、日本を後者のような国にするということでしょう。
(2)社会契約説と日本の歴史・伝統・文化
 自民党日本国憲法Q&A(増補版)」Q14(増補前はQ13だった)の答に「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現憲法規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました」という表記や、同趣旨の自民党議員の発言が物議を醸したものでしたが、「人口国家・米国流の社会契約説」に従ったものだから改正しなければならないという議論は、どうせ誰かの説の売りでしょうが、私は初めて見ました。それにしても党を代表して発言しようというのですから、党内機関によるチェックはなかったのでしょうかね?2005年の郵政選挙において衆議院山梨1区で落選したものの比例復活したが、1期務めただけで2009年の選挙で落選し、2013年の参議院全国区で当選したばかりという経歴の議員に全面的に憲法審査会での発言を任せるほど自民党は人材不足なのだろうか?
 そもそも、米国合衆国憲法や、それに先立つ各州憲法が、基本的に社会契約説を基礎として作られたということ自体、別に間違ってはいませんが、その思想の源は人工国家でも何でもないヨーロッパで生まれたものですよ。それに「フィクション」ということばで何事かを非難したつもりであるとすれば、実に浅薄な考えと言わざるを得ません。全ての思想の表現は、何かしら「フィクション」を含まないものなどあり得ず、赤池氏や自民党が固執する「日本の歴史や伝統文化」など、「フィクション」の固まりではないですか。
(3)スターリン憲法の影響 
 「反論はほんの少しだけ」のつもりが、書き出したらそうもいかなくなってしまいました。しかし、この「スターリン憲法に影響されて」いるから「共産主義が紛れ込んでおり」、社会主義者や共産主義者が護憲になる理由がここにあるわけであります」に至っては、「一体これはいつの時代の発言か?」と周囲を見渡さざるを得ません。
 インターネット審議中継を見る限り、赤池議員は、このような発言を真顔で行っており、それがいかに珍妙な発言であるか、全く分かっていないようです。これって、つまり、ネトウヨから支持され、都知事選で60万票以上集めた田母上俊雄氏の人気にあやかってみましたということですね。・・・という位しか感想が出てきません。ただ一言、「自民党も落ちたものだ」と言うのみです(「松下政経塾出身だからこの程度だろう」と言われたら、他の出身者はどう思いますかね?)。
3 民意
 「選挙に勝てば何でもあり」というのは、今や橋下徹氏の専売特許ではなくなり、最近では安倍首相の愛用タームになっていますので、別に驚きはしませんが、ただ呆れるばかりです。
 
 疲れてきましたので、反論はこの辺で止めておきます。
 以下に、赤池氏の発言を視聴する方法と、全文の文字起こしを掲載しておきますので(当然ながら文字遣いは金原の判断によるものです)、ご自分なりの「反論」を考えてみてください。「押し付け憲法論」に論理的に立ち向かうスキルを鍛えるためには、分量も適当であり、結構良い「素材」かもしれませんよ。
 
 と、ここまでで止めておくつもりでしたが、もう一度読み直してみて、どうしても言っておきたいところがあと2箇所ありました。
 一つは、中国を指して「チャイナ」と言った部分です。石原慎太郎氏のように「支那というだけの勇気もないのなら、普通に「中国」と言えばよいものを、どういうつもりだったのでしょうか?おろかしい、としか言いようがありません。
 もう一つは、最後の「世界有数の歴史と伝統を誇る我が国」という表現です。自民改憲案の前文の思想を凝縮すればこういう表現になるのですが、これも救いがたくおろかしいと言うしかありません。
 日本に憲法を押し付けた人工国家・米国などよりはるかに古い「歴史と伝統」があるのだと誇っているのかもしれませんが、古いと言えば、中国の方がはるかに古い文明を誇っているではないですか?歴史学上、まだ大和朝廷など影も形も無かった紀元前に、孔子以下の思想家が百家争鳴した春秋戦国時代があり・・・などと書き出せばきりがなく、だからといって中国の方が日本より偉いことになるものではない、というのが近代の思想でしょう。
 赤池氏や自民党の議員諸氏は、よほど中国に対するコンプレックスが根深いのではないか?と思わざるを得ません。
 
赤池誠章氏の参議院憲法審査会での発言を視聴する方法
参議院インターネット審議中継
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審議中継カレンダーから「2014年2月26日」を選択してクリック
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赤池誠章自由民主党)」を選択してクリック
 
 
2014年2月26日 参議院憲法審査会における
赤池誠章議員(自民党)の発言
 
 私は、自由民主党赤池誠章です。自民党は、昭和30年(1955年)立党以来、自主憲法制定が党是であります。当時の立党文書の1つである「党の使命」には次のように書かれております。「国内の現状を見るに、祖国愛と自主独立の精神は失われ、(略)独立体制は未だ十分整わず、(略)ここに至った一半の原因は、敗戦の初期の占領政策の過誤にある」「初期の占領政策の方向が、主としてわが国の弱体化に置かれていたため、(大幅に略)現行憲法の自主的改正を始めとする独立体制の整備を強力に実行し、もって、国民の負託に応えんとするものである」
 自民党が立党して今年で59年となります。来年は戦後70年、自民党は立党60年を迎えるわけであります。改めて、自主憲法制定実現に向けて、私はその意義、理由を、以下に三点あると考えております。
 
 第一は、現行憲法には制定過程に問題があり、法律としての大前提である「正統性」がないと感じております。ご承知のとおり、マッカーサーが率いる占領軍(GHQから、占領中に言論統制されている中で、押し付けられたものです。現行憲法は、日本国民の自由意思で、公正で民主的な手続で起草されたものではありません。これは、占領軍が、占領地の法律を尊重しなければいけない国際法の違反でもあり、何よりも現行憲法が自らの前文にある「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、(大幅に略)ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」に反しています。憲法自体が憲法違反の存在というものであります。正当に選挙もされない占領軍の最高司令官マッカーサーの指示によって短期間で英語で草案が作られ、日本国民に知らされないまま、日本国政府に渡され、政府はそれを翻訳して憲法草案が作られ、衆議院貴族院と議論されて成立したものであります。
 その制定過程を知る以上、国民代表である私たち国会議員がそれを「是」とすることはあり得ないと私は考えております。これを現行のまま放置することは「恥」であり、後世から叱責を受けかねないと感じております。
 
 第二は、制定過程、その後の主権が回復して国民が十分承認をされているという反論がある中で、私は、憲法の内容自体にも問題があると感じております。
 現行憲法の基礎となっております考え方は3つあると言われております。
 第1は、制定過程で分かるように、日本人には、自分の国を守る力を持たさず、二度と立ち上がらせないようにするという弱体化という占領政策、米国の属国化、保護国化という考え方があります。それが、戦争放棄憲法9条となっております。その条項が、激動する国際情勢の現在、国会安全保障の足かせとなっております。
 第2は、人口国家・米国流の社会契約説であります。敗戦後の日本国民が契約によって新しい国家を作ったフィクションに基づいています。だから、日本の歴史や伝統文化は全く反映されておりません。
 第3は、旧ソ連の1936年スターリン憲法に影響されており、共産主義が紛れ込んでおります。第24条の家族生活における個人の尊重と両性の平等、27条の勤労の権利及び義務などはその条項にあたると言われております。社会主義者や共産主義者が護憲になる理由がここにあるわけであります。
 
 第三の自主憲法制定理由は、国民の自治権や民意であります。自民党は、一昨年、第2次憲法草案全文を発表して、12月に総選挙を闘い、勝利して政権を奪還しました。さらに昨年夏の参議院通常選挙において第1党となりました。自主憲法制定は、国民の民意となりつつあります。これは、国内外の激動する情勢が国民意識を変化させてきたからだと思っております。
 国際社会における米国の相対的地位の低下、北朝鮮の日本人拉致事件、チャイナの尖閣諸島侵略行為、ロシアの北方領土や韓国の竹島への不法占拠の強化、国内においては東日本大震災がありました。日本国民は、現行憲法では、自分自身や自分の家族、地域や国家を守ることができないのではないかと気付いています。
 
 以上、現行憲法の「正統性のない制定過程」、「日本の歴史から断絶した憲法内容」、「民意」の三点から、自主憲法制定は、今まさに国政の重要課題となっております。今後は、憲法改正国民投票のいわゆる18歳投票年齢などの3つの宿題を解決させ、全国各地で国民の声を聞く国民運動を展開しつつ、立憲主義に基づき、改正原案をさらに詰め、来たるべく(ママ)国政選挙において、3分の2以上の国会議員を結集させるべく、私自身もその一助になればと考えております。
 世界有数の歴史と伝統を誇る我が国を守り発展させ、子孫につながっていくために、立憲主義に基づいた自主憲法を制定する決意の表明とさせていただきました。ご静聴ありがとうございました。