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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」はおかしい

 今晩(2014年4月5日)配信した「メルマガ金原No.1687」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」はおかしい
 
 最近、特に政府が愛用するカタカナ用語に「リスクコミュニケーション(リスコミ)」という言葉があります。ただ、その明確な定義を示すことなく使われる場合も多く、単なる「政府広報」の別称ではないか?と疑われるケースもあったりします。

 

 政府機関のWEBサイトで「リスクコミュニケーション」についての定義を明示しているものを探してみたところ、以下のような記述が目にとまりました。
 
(引用開始) 
○「リスクコミュニケーション」の定義・・・リスク分析の全過程において、リスク評価者、リスク管理者、消費者、事業者、研究者、その他の関係者の間で、情報および意見を相互に交換することです。リスク評価の結果およびリスク管理の決定事項の説明を含みます。
(引用終わり)
 
首相官邸災害対策ページ
(引用開始)
 今回のような大規模複合災害においては、行政の危機管理能力には一定の限界があり、コミュニティや住民自身の《自助》が不可欠となります。地域の安全において不可欠な役割を担う行政、専門家、企業、住民、それぞれの役割を明らかにすること。そのために共通の意識を持ち、協力関係をつくること。…その方策として、互いに危機について意見や情報を交換し、共有し合う「リスクコミュニケーション」が重要になります。
原子力災害専門家グループ・遠藤啓吾京都医療科学大学学長)
(引用終わり)
 
 関係者(ステークホルダー)間における双方向の「意見交換」が重視される(コミュニケーションというのですから)ということのようで、例えば、「リスクコミュニケーションという概念は未だ一般化しているとは言いきれないものの、それに該当する取り組みとしては、行政と市民が協力して地域防災力の向上化を図る防災まちづくりという取り組みにおいて、災害図上訓練やワークショップによって合意形成手段がとられるなどの事例も見られる(ウイキペディアより)というようなことであれば、それなりに納得できるのですが・・・。
 
 これが、今年(2014年)2月18日に政府が公表した以下のような「リスクコミュニケーション」では、そう簡単に納得できかねる訳です。
 
帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ
(引用開始) 
 帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージについて、施策を担当している関係省庁間で取りまとめました。今後、個々人の不安に対応したきめ細やかなリスコミを推進することがますます重要となってきており、本パッケージは、こうした認識の下、国等が当面取り組むべき施策を取りまとめたものです。
 「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」概要
 http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20140218_risk_communication_package_summary.pdf
 「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」本文
 http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20140218_risk_communication_package_all.pdf
(資料へのお問い合わせ)
 本資料の全体に関する問い合わせは復興庁原子力災害復興班又は環境省環境保
健部まで。
 個別の内容につきましては、復興庁又は環境省に問い合わせいただければ、必要に応
じ関係省庁にお繋ぎ致します。
(引用終わり) 
 
 「帰還に向けた」という政策目標を「所与の前提」とした「リスクコミュニケーション」って一体何でしょうか?
 復興庁ホームページの記述を再度引用すれば、「個々人の不安に対応したきめ細やかなリスコミを推進することがますます重要となってきており、本パッケージは、こうした認識の下、国等が当面取り組むべき施策を取りまとめたものです」ということであり、これを素直に読めば、「国が帰還を推奨しているにもかかわらず、個々人が不安を抱いて帰還が進まない事態を解消するため、関係省庁が協力して、個々人の不安の解消に努めることがすなわちリスクコミュニケーションということである」と国が考えているのだということになると思うのですが、この読み方って間違っているでしょうか?
 
 この「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」については、発表直後から多くの批判が寄せられています。
 その代表例として、国際環境NGO FoE Japan(エフ・オー・イー・ジャパン)が2月19日に発表した緊急声明をご紹介しておきます。
 
【緊急声明】安全神話の押し付けに懸念:政府発表の「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーション」と放射線リスクに対する基礎的情報」に問題提起
(抜粋引用開始)
1.「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」
①「帰還」を前提としたものであることはおかしい。避難し続ける選択肢も尊重されるべきで
あり、どちらを選択しても、住民への経済的・社会的支援が保障されるべき 。
②「不安払しょく」を目的としている情報発信が主体。放射線リスクに不確実性が伴うこと
が国際的な通説であるのに、低線量被ばくのリスクはない、もしくは気にする必要がないという考え方を押しつけていることは問題である。
③被ばく管理の責任を個人に負わせるべきではない。「個人線量計」配布自体は有意
であるが、そのことにより「帰還」を促進すべきではない。個人の行動は千差万別であり、放射線に対する感受性もさまざまであることに留意すべきである。
2.冊子「放射線リスクに対する基礎的情報」
①以下を含む、放射線被ばくのリスクに関する多くの重要な情報が記載されていない、もし
くは無視されている。
・子どもの放射線の感受性の高さ。
・個人により感受性が違うこと。
・従来の放射線防護の政策と規制。例えば、放射線管理区域(3か月で1.3mSv)における規制の内容とその意味。
放射線リスクを示唆する情報が、掲載されていない。
③根拠が公開されていないUNSCEARレポートを前面に出している。  
④医療被ばくとの比較、生活習慣や飲酒などとのがんリスクと比較しているが、非常にミス
リーディングである。
チェルノブイリ原発事故の影響については、小児甲状腺癌の影響以外について、UNSC
EARやIAEAは「放射線被曝を起因とする公衆衛生上の大きな影響があったという証拠はない」としているが、基本的にはこの見解を単純化してくりかえしている。
3.結論
政府は、被ばくリスクに関する安全神話を押し付けるべきではなく、現在、避難を継続して
いる住民の方々および帰還を選択された住民双方に対して、「原発事故・子ども被災支援法」に基づく十分な支援を行うべきである。
(引用終わり)
 
 復興庁から「施策パッケージ」が公表された翌日に発表された緊急声明なので、十分な検討を加える時間的余裕のない中で書かれたものであることは踏まえておく必要があります。
 
 ところで、このたび「市民と科学者の内部被曝問題研究会」ブログに、同会呼びかけ人の1人である山田耕作氏(物性物理学/京都大学名誉教授)が書かれた、政府「基礎的情報」に対する詳細な反論が掲載されていました(2014年3月27日)。
 
山田耕作『政府資料「放射線リスクに関する基礎的情報」の問題点』
 
 PDFで22頁に及ぶ論考なので、私も十分目を通せていませんが、とりあえずどのような論点についての検討が加えられているのかを知っていただくため、以下に目次を引用しておきます。是非時間を作って読み込みたいと思います。
 
(引用開始)
 目
第1章 はじめに
第2章 放射線被曝をめぐる争点
第3章 「基礎情報」の問題点‐住民の健康と命を犠牲にするリスク政策
    (以下「放射線リスクに関する基礎的情報」の節に沿っている)
    0節 本資料の位置づけ
    1節 空間線量の経年変化
    2節 事故直後の外部被曝の状況
    3節 個人線量計における外部被曝の状況
    4節 初期の内部被曝の状況
    5節 甲状腺検査の状況
    6節 現在の内部被曝の状況(ホールボディカウンター検査)
    7節 食品中の放射性物質から受ける内部被曝の推計
    8節 各種環境モニタリングの実施状況
    9節 WHO, UNSCEARの評価
    10節 身の回りの放射線
    11節 日常生活における放射線被曝
    12節 世界の自然放射線の状況と健康影響
    13節 放射線の健康への影響
    14節 放射線防護を講じる際のICRPの基本的考え方
    15節 今回の原子力災害に対する我が国の対応
    (参考2)チェルノブイリ原発事故との比較
    用語解説
      外部被曝内部被曝
      確定的影響と確率的影響
      放射線によるDNAの損傷と修復
第4章 「基礎情報」のその他の問題点
 1.予防原則の無視
 2.リスク・ベネフィット論は強者の論理
 3.国際的権威ではなく、被害者の立場で被曝の真実を記述すべきである
 4.閾値と集団線量
 5.疫学の軽視や無視
 6.低線量被曝における重大な被害
 7.低線量被曝の甚大な被害と食品の厳格な管理の必要性
第5章 おわりに
参考文献
追記 ブログ「東京電力原発事故、その恐るべき健康被害の全貌-Googleトレンドは嘘
をつかない-」 
(引用終わり)
 
 最後の追記で紹介されている『東京電力原発事故、その恐るべき健康被害の全貌-Googleトレンドは嘘をつかない-』は、宝塚市在住の岡田直樹さんという方の論考です。
 岡田さんは、「宝塚パソコンサポート」を自営されているようで、そのプロフィール紹介によると、「1977年生まれ、京都大学大学院人間・環境学研究科出身」ということです。
 山田耕作先生が、「学問的にも新しく、興味ある試みだと思います」と言われるとおり、「こういう目の付け所があったのか」と驚きます。
 これも一読をお勧めしたいと思います。