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集団的自衛権の行使事例を学ぼう(「レファレンス」掲載論文から)

 今晩(2014年4月27日)配信した「メルマガ金原No.1709」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
集団的自衛権の行使事例を学ぼう(「レファレンス」掲載論文から)
 
 国立国会図書館が発行する月刊誌「レファレンス」については、以前、このメルマガ(ブログ)でご紹介したことがありました。
※「レファレンス」とは 「各分野の国政課題の分析、内外の制度の紹介、国政課題の歴史的考察等、国政の中長期的課題に関する本格的な論説を掲載した月刊の調査論文集で
 
2013年11月28日
「レファレンス」掲載論文で学ぶ「集団的自衛権 政府公権解釈の変遷」
 
 その際ご紹介した論文は、以下のものでした。
 
「レファレンス」平成23年11月号掲載
憲法第9 条と集団的自衛権―国会答弁から集団的自衛権解釈の変遷を見る―』
政治議会課憲法室 鈴木尊紘
 
 上記論文の要旨は以下のとおりです。
 
(引用開始)
① 集団的自衛権は、わが国の外交・安全保障政策が国会で審議される際に、常に問題とされてきた。今後も国際情勢に応じて、また、憲法改正論議の中で、この問題は、国会における大きなテーマになるものと思われる。本稿は、集団的自衛権についての政府答弁を日本国憲法の誕生時期から現在まで抽出し、その歴史的変遷を辿ることを目的とするものである。その上で、当該答弁で示される政府解釈の各年代における特徴を示し、その特徴がどのように変化してきたのかにつき分析を試みる。
② 膨大な国会答弁を実際に紐解くと、終戦直後は、集団的自衛権概念を政府が明確
には示しておらず、また、朝鮮戦争及び対日講和時期(1950 年~1956年)、安保改定期(1957年~1960年)においても、同概念は国会答弁の中で何度も議論の対象になるが、完全に明確化されたものではないことが分かる。
③ 1972年の決算委員会資料及び1981年の政府答弁書において、集団的自衛権が現
在定式化される形で公に概念化され、我が国は集団的自衛権を独立国である以上保有はするが、その行使はできないという現在まで繰り返される重要な答弁が見られる。それ以降は、個々のケースが集団的自衛権の行使に当たらないか、ひいては憲法違反にならないかという議論が展開される。
④ 1990年代、2000年代において、個々具体的な議論として挙げられるのは多岐にわたる
が、最近では特に BMD(弾道ミサイル防衛)計画において集団的自衛権が論議された。民主党への政権交代以後も、集団的自衛権の政府解釈に変化は見られない。
(引用終わり)
 
 上記論文に先立つこと3年弱、2009年(平成21年)1月号の「リファレンス」に『集団的自衛権の法的性質とその発達―国際法上の議論―』(松葉真美)という論文が掲載されているいということが、「明日の自由を守る若手弁護士の会」(あすわか)サイトで紹介されていました。
 
2014年4月26日 土曜日
明日の自由を守る若手弁護士の会 
集団的自衛権の実例 1
 
 当該論文はこちらから読むことができます。
 
「レファレンス」平成21年1月号掲載
集団的自衛権の法的性質とその発達―国際法上の議論―』
 外交防衛課  松葉 真美
 
 上記松葉論文の要旨は以下のとおりです。
 
(引用開始) 
① 我が国政府は、集団的自衛権(right of collective self-defense)を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」としている。これまで政府は、日本が集団的自衛権保有していることを認めつつ、その行使は日本国憲法第9条により禁じられていると解釈してきた。
② 集団的自衛権は、国際連合憲章第51条に規定された国家の国際法上の権利で
ある。国連憲章は、集団安全保障体制の構築を規定する一方で、個別的又は集団的自衛権規定を置いている。集団的自衛権は、国連憲章において初めて認められた権利であるが、国連憲章はその意味については特に規定しておらず、学者や各国の間に一定の共通理解が確立しているものの見解は分かれる。
③ 集団的自衛権の制定経緯を振り返ってみると、この権利が、大国の拒否権によっ
て集団安全保障機能が麻痺し、地域的機構の自立性が失われることに対する中小国の危惧から生み出された権利であることがわかる。集団的自衛権国連憲章規定されて以来、これに基づいて数多くの二国間または多国間の集団防衛条約が締結され、集団防衛体制が構築されてきた。
④ 集団的自衛権は、しばしば集団安全保障と混同される。集団安全保障が1つの集
団の内部の秩序維持に向けた制度であるのに対し、集団的自衛権は外部の敵による攻撃から自らを防衛する権利である。国連憲章下で、集団安全保障と集団的自衛権は、本質的に異なる概念ながら密接な関係を有している。
⑤ 集団的自衛権の法的性質については、⑴他国の権利を防衛するとする正当防衛
論、⑵個別的自衛権の共同行使とする自己防衛論、⑶攻撃を受けた他国の安全と独立が自国にとって死活的に重要な場合に防衛行為をとることができるとする議論の3つに分けられる。現在の通説は⑶であるといえるが、攻撃を受けた国と集団的自衛権を行使する国の関係が具体的に明らかではなく、軍事介入を幅広く認める結果となる恐れがある。
⑥ その点、国際司法裁判所が、1986年のニカラグア事件判決において、集団的自衛
権を行使するためには、攻撃を受けた国による攻撃事実の宣言及び他国に対する援助要請が必要であると判断したことは注目される。
⑦ 実際に集団的自衛権が行使された事例を見てみると、やはりその濫用が疑われて
きたことは否めない。そこでは、外部からの武力攻撃の発生の有無と、被攻撃国による援助要請の正当性が常に論点となってきた。国際秩序の維持のためには、これらを正しく見極めた上での集団的自衛権の行使が必要であり、我が国も集団安全保障体制との整合性を意識して今後の議論を進めていくことが望まれる。
(引用終わり)
 
 「あすわか」が特に注目して紹介したのが上記要旨の「実際に集団的自衛権が行使された事例を見てみると、やはりその濫用が疑われてきたことは否めない」の部分であり、論文の最終章「Ⅵ 集団的自衛権の行使事例」を紹介しようとしたものです。
 
 国連憲章51条・第2文は「この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない」とされていることから、実際に国連安全保障理事会に報告がなされた主要な事例が掲載されており、非常に参考になります。
 
「Ⅵ 集団的自衛権の行使事例」の内、前文と後文、及び事例については項目のみ引用します。
 
(引用開始)
Ⅵ 集団的自衛権の行使事例
 Ⅱ章で述べたように集団的自衛権は、冷戦下の国際社会において、武力攻撃が起
きたにも関わらず、大国の拒否権によって安保理が機能せずに犠牲国が放置されるという事態を避けるために規定された。そして今日までに、集団的自衛権の行使を約した集団防衛条約が二国間、多国間を問わず数多く締結されてきた。しかし、これまでに実際集団的自衛権が行使された事例を振り返ってみると、その数はさほど多くない。以下、これまでに集団的自衛権の行使が国連憲章第51条に従って安保理に報告された主な事例を紹介する。
1 ソ連ハンガリー(1956年)
2 米国/レバノン(1958年)
3 英国/ヨルダン(1958年)
4 米国/ベトナム(1965‒75年)
5 ソ連チェコスロヴァキア(1968年)
6 ソ連アフガニスタン(1979年)
7 米国/ニカラグア(1981年)
8 リビア/チャド(1981年)、フランス/チャド(1983年、1986年)
9 イラクによるクウェート侵攻(1990年)                  10 ロシア/タジキスタン(1993年)
11 米国/アフガニスタン(2001年)
 以上のように、これまでの集団的自衛権の行使事例を概観すると、しばしばその濫用が疑われてきたことが窺える。そして常に論点となるのは、外部からの武力攻撃の発生の有無と、被攻撃国による援助要請の正当性であった。すなわち、現地の状況が集団的自衛権の行使要件を満たしているのか、あるいは内戦に何らかの政治的意図をもった第三国が介入したとみるべきなのか、といった点について、しばしば各国の間で認識の違いが生じていたのである。
(引用終わり)
 
 以上の「事例」のうち、「9 イラクによるクウェート侵攻」については、おそらく安保理決議678号(1990年11月)により「加盟国に対し国際の平和と安全を回復するため必要なあらゆる手段をとる権限」を与え、これに基づいて始まったいわゆる「湾岸戦争」(1991年1月~3月)は集団安全保障措置であり、それ以前が、個別的または集団的自衛権行使の問題だったと思われます(国連憲章51条・第1文「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」)。
 なお、2003年から始まったイラク戦争について記載がないのは、国連安保理に「個別的または集団的自衛の措置をとった」と報告した国がどこもなかったからでしょうか?少なくとも米国は、「先制的(個別的)自衛権を行使した」と公言していましたけれどね。
 それ以外の事例については、上記論文自体をお読みください。著者も指摘しているとおり、「しばしばその濫用が疑われてきた」経緯が一目瞭然です。
 しかも、この論文には掲載されていない「イラク戦争」以後、国連憲章51条の従来型「集団的自衛権」(これも「濫用」が疑われてきた)の他に、米国が「先制的自衛権」を行使して始まった戦争に参戦する「米国予防戦争追随型『集団的自衛権』」の2種類があるのだということを明確に意識する必要があります。

 そのためにも、是非、以上の松葉論文をご一読されるようお勧めします。