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もう一度「安定ヨウ素剤の予防服用」を考える

 今晩(2014年4月30日)配信した「メルマガ金原No.1712」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
もう一度「安定ヨウ素剤の予防服用」を考える
 
 写真週刊誌「FRIDAY(フライデー)」(2014年3月7日号)に、この記事が掲載されたのが2月下旬あったのに、今まで気がついていなかったとはうかつでした(ネットでは相当話題になっていたようです)。
 
「FRIDAY(フライデー)」デジタル 2014年2月21日
安定ヨウ素剤飲んでいた 福島県立医大 医師たちの偽りの「安全宣言」
 
 3.11直後、本来であれば適切なタイミングで服用させるべき安定ヨウ素剤を、結局、国も福島県も住民に対する服用指示をせず(そればかりか、「指示がない限り服用してはいけない」とまで言っていた)、あたら住民を被曝させてしまったことはご存じのことと思います(・・・こう書いていると、韓国南西部、珍島沖で沈没した旅客船セウォル号の船内が、沈没間際に脱出指示を流すまで、「その場を動かないように」という放送を続け、のた多くの高校生らが脱出の機会を逸して犠牲となったということを思い出さざるを得せん)。

 結局、県の担当者の指示を無視してまで、町独自の判断で町民への配布・服用指
を組織的に行ったのは三春町(みはるまち)だけでした。そのことは以前私のメルマガ(ブログ)に書きました。
 
 
 ところが、「フライデー」の伝えるところによれば、福島県立医科大学の医師ら関係者安定ヨウ素剤を服用していたことが、1人の医師の情報公開請求によって明らかになったというのです。
 
(抜粋引用開始) 
 だが医大内部資料によると、医師たちは秘かにヨウ素剤を飲んでいた。
 医大は、県から4000錠のヨウ素剤を入手。1号機が水素爆発した3月12日から配り
始め、多いところでは1000錠単位で院内の各科に渡していた。しかも、医療行為を行ない職員の家族や学生にも配布。資料には「水に溶かしてすぐに飲むように」と、服用
仕方まで明記されているのである。
 『事故が発生してから病院に来なくなった医師もいて、動揺が広がっていました。院内
の混乱を鎮めるために、上層部がヨウ素剤の配布を決めたようです。しかも服用を県に
進言していない手前、配布については緘口令が敷かれていました』(医大職員)
(引用終わり)
 
 私は、福島県立医大関係者が安定ヨウ素剤を服用したこと自体についてとやかく言うつもりはありません(私が同じ立場であっても服用していた、あるいは家族に服用させていたと思うので)。
 問題は、この3年間、その事実が実質的に「秘匿」されていたこと、3.11直後に住民にヨウ素剤の服用を指示しなかったことについての「責任の所在」を何ら究明せず、ほおかむりしてしまっていること(その中には、福島県内の中核医療機関として、県に対して切な助言を行わなかった福島県立医大の責任も当然含まれます)だと思います。
 
 安定ヨウ素剤と聞いて、私がすぐに思い出すのは「三春町の4日間」だけではありません。これも私のメルマガ(ブログ)に書いたことですが、福島県から息子さんを連れて大阪避難されたお母さんの手記も忘れることができません。
 
 
 昨年(2013年)8月31日にその手記集を読んだ私は、すぐにその中から、福島県から避難されたAさんの手記をご紹介しました。原発事故直後の安定ヨウ素剤用にかかわる貴重な「証言」だと思いますので、もう一度引用します。
 
(抜粋引用開始)  
 Aさんは、福島第一原発から65㎞ほどのところにあった自宅が地震で損壊して住めくなり、原発から約40㎞にあった自分の実家に1歳の息子を連れて避難していたのですが、実家のある町で40歳未満の全町民に安定ヨウ素剤が配布されることになったものの、自分と息子は既にその町の住民ではないため、配布対象とはならず、せめて息子の分だけでも何とか配布して欲しいとお願いし、いろいろなところに電話で要請したりしたもののどうしても息子のために入手してあげることができなかったというのです。
 Aさんは手記に書いています。
 「幼い息子が被曝するかもしれないという状況の中で薬をもらえないのは、親としては
本当に辛かった、としか言いようがありません。被曝していく息子を目の前に、何もしてれない悔しさ・・悲しさ・・憤り。今でもその時の光景が鮮明によみがえってきて、夜中にうなされたり寝付けなかったりすることがあります。私は親なのに我が子を守ってやることができなかった、という不甲斐なさが今でも頭から離れません」
 本来、万一原発事故が起こった際の対処基準を作るというのであれば、このAさんのうな思いを全ての母親に二度とさせてはならない、ということが教訓になっていなければらないはずですが、実際にはどうなのでしょうか? 
(引用終わり)
 
 昨年(2013年)全部改正された「原子力災害対策指針」を踏まえ、原子力規制庁が作成した「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって(地方公共団体用)」「3. 安定ヨウ素剤配布・服用のための事前準備」「(3)購入と備蓄」(3頁)に、「地方公共団体は、緊急時の安定ヨウ素剤の配布に備えて、各地域に応じた必要数を備蓄する必要がある。備蓄数については、緊急時の配布に備えた住民の人口分だけではなく、事前配布対象者のうちの未服用の者への追加配布、当該地域にある学校の学生、会社の社員、イベント参加者や旅行者等の一時滞在者の数も見込み、余裕をもった数の安定ヨウ素剤を備蓄しておくことが必要である」とあり、これを実際に各地方公共団体が守っていれば、Aさんの悲劇を繰り返さずに済むはずなのですが。
 なお、Aさんの実家のある町が三春町であったか否かは未確認です。
 
 ただし、新しい「原子力災害対策指針」の安定ヨウ素剤の予防服用に関する規定にも重大な問題があるように思われます。
 
第3 緊急事態応急対策
(5)防護措置
安定ヨウ素剤の予防服用(55頁)
(引用開始)
 放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐため、原則として、原子力規制委員会が服の必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安ヨウ素剤を服用させる必要がある。原子力規制委員会の判断及び原子力災害対策本部の指示は安定ヨウ素剤を備蓄している地方公共団体に速やかに伝達されることが必要である。
 安定ヨウ素剤の予防服用に当たっては、副作用や禁忌者等に関する注意を事前
周知するほか、以下の点を留意すべきである。
安定ヨウ素剤の服用は、放射性ヨウ素以外の他の放射性核種に対しては防護効
が無い。
安定ヨウ素剤の予防服用は、その防護効果のみに過度に依存せず、避難、屋内
退避、飲食物摂取制限等の防護措置とともに講ずる必要がある。また、不注意による経
口摂取の防止対策も講じる必要がある。
・緊急時に投与・服用する場合は、精神的な不安などにより平時には見られない反
が認められる可能性がある。
・年齢に応じた服用量に留意する必要がある。特に乳幼児については過剰服用に
意し、服用量を守って投与する必要がある。
また、安定ヨウ素剤の服用の方法は、以下のとおりとするべきである。
・PAZ(金原注:概ね5㎞を目安とする「予防的防護措置を準備する区域」)におい
は、全面緊急事態に至った時点で、直ちに、避難と安定ヨウ素剤の服用について原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児、乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において、先的に避難
する。
・PAZ外においては、全面緊急事態に至った後に、原子力施設の状況や空間放
線量率等に応じて、避難や屋内退避等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について、原子力規制委員会が必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体
が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。
 なお、プルーム通過時の防護措置としての安定ヨウ素剤の投与の判断基準、屋
退避等の防護措置との併用の在り方等については、原子力規制委員会において検
討し、本指針に記載する。
(引用終わり)
 
 「原則として、原子力規制委員会が服の必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安ヨウ素剤を服用させる」というのですが、福島第一原発事故に際しての国(原子力災害対策本部)や福島県の行動を振り返る時、こんな一元的な指示系統がうまく機能するとは到底信じられません。
 「指針」には、「原子力規制委員会の判断及び原子力災害対策本部の指示は安定ヨウ素剤を備蓄している地方公共団体に速やかに伝達されることが必要であるとありますが、その「必要」が「実現」するためには、
原子力規制委員会が適切な時期に適切な判断を行うこと
原子力規制委員会の判断が速やかに国の原子力災害対策本部に伝達されること
③国から対象地方公共団体(おそらく都道府県)への指示が速やかに行われること
都道府県から各市町村への「安定ヨウ素剤予防服用の指示」が漏れなく速やかに行われること
が不可欠であり、このうちのどこか1箇所にでも障害が発生すれば、結局「フクシマ二の舞」にならざるを得ません。
 ではどうするのが最善かと問われて代案を直ちに提示する見識の持ち合わせは残念ながら私にはありませんが、少なくとも、市町村にも一定の独自の判断権を認めるべきだろうとは思います。
 
 「フライデー」の報じた記事をきっかけに、もう一度、安定ヨウ素剤の予防服用について考えてみました。
 原発再稼働が現実味を帯びてきた現下の状況を踏まえれば、決して避けては通れない問題の1つだと思います。