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憲法をめぐって「集う人々」を取り上げた神奈川新聞の特集

 今晩(2014年5月5日)配信した「メルマガ金原No.1717」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
憲法をめぐって「集う人々」を取り上げた神奈川新聞の特集

 憲法記念日の前後、各新聞では憲法に関わる様々な特集記事が掲載されていました。今
や、まともな論説は、ブロック紙、地方紙でこそ読めるという状況は憲法についても変わりはありせん。
 
 そのような中で、神奈川新聞が2日から4日にかけて掲載した「集う人々 憲法をめぐって」に注目しました。
 
2014年5月2日 集う人々 憲法をめぐって (上)
(1)子育てママ ランチで語ろう
(2)「オシャレにカッコよく」しゃべろう 弁護士・太田啓子さん
 
2014年5月3日 集う人々 憲法をめぐって (中)
(1)9条の価値 ネットで世界へ
(2)不戦の夢、励まし合い 主婦・鷹巣直美さん
 
2014年5月4日 集う人々 憲法をめぐって (下)
(1)自衛隊認め、護憲の幅広げ
(2)無駄な戦争で死なせない 元内閣官房副長官補・柳沢協二さん
 
 (上)は、出前講座「憲法カフェ」に取り組む「明日の自由を守る若手弁護士の会」(あすか)の太田啓子弁護士、(中)は、憲法9条を保持してきた日本国民にノーベル平和賞をという運動を始めた主婦・鷹巣直美さん、(下)は、元防衛官僚で、6月に「自衛隊を活(い)かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」の発足を準備中の柳澤協二さんが、それぞ
取り上げられています。
 
 この人選には、編集者の明確な意図が読み取れます。
 この特集で取り上げられた方々は、いずれも、「従来の護憲派」の枠を超えて、いかに憲を守るための動きを拡げていけるかという問題意識を持ち、注目すべき実践を行っているという共通点があります。
 もちろん、憲法をめぐる現在の状況の下、このような問題意識が基本的に正しい方向性を指し示しているということ自体、それこそ私を含む「従来の護憲派」も否定するものではありません。・・・と言うよりも、新たな方向を模索する動きは、「従来の護憲派」の中から既に起こっていたことでもあります。
 私としては、「護憲派」を自認する人が、これらの新たな動きを模索する人たちに対し、意見が完全に一致しないからと言って(一する方が不思議です)、冷笑的、批判的な態度をとることのないようにと願うばかりです。
 
 以下に、上記神奈川新聞のインタビュー構成記事から、3人の方々の発言の一部を引用してご紹介したいと思います。
 
弁護士・太田啓子さん
 これまで会場になったのはカフェ、レストラン、お好み焼きのお店、病院など。頼まれて行くのではなく、こちらから「営業」して開拓しています。
 インターネットで検索し、チラシとともに手紙を送る。勉強会をやらせてくれませんか、と。「オーガニック」や「エコ」をうたい、社会問題に関心を持っていそうな店に当たりをつけていきます。
 営業を始めたのは、藤沢駅前でチラシをまいても反応がさっぱりだったから。憲法について考えましょうと口にすると「何かの団体の人?」といぶかしがられる。コーヒーを飲みながら、ケーキをつつきながらですよと伝えると、面白そうねとノッてくる。おしゃれな「カフェ」なら女子ウケもいいでしょう。
 最初にやるのは「○×クイズ」。例えば、日本は9条で戦争放棄と戦力不保持をうたっているので外国から攻められてもやり返せないという設問。答えは「×」。政府見解では、(1)急迫不正の侵害がある(2)外交交渉など侵害を排除するための手段が、武力行使以外にない(3)相手国に攻め入ったりしない必要最小限度にとどまる-の3要件を満たせば武力行使ができるとしている。
 それを知らず、やられっ放しでは困るし、自分の国をちゃんと守れるよう憲法を変えたほうがいいと思っている人も多いのではないでしょうか。
 いずれにしろ、私の考えを押しつけないように気を配る。まず憲法を知る「知憲」がスタンスです。
(略)
 参加者には家庭や職場、身の回りの人と憲法について会話をしてほしいとお願いしています。少しずつ、一歩ずつです。
 長い目で見れば、親から子へ憲法の大切さが伝えられていくのが理想です。
 あるお母さんから、小学校低学年の子どもに憲法をどう教えればいいかと質問されました。まず知っておくべきは天賦人権論。人権は天から与えられた権利で、自分にもお友達にも人権がある。憲法があるから人権があるのではなくて、生まれたときから誰にでも人権があるんだよ、と伝えるといいと思います。
 日本社会には権利の行使をわがままと受け止める風潮がある。私の権利は大切なもので、だからあなたの権利も尊重するという意識を子どものころから教わっておくべきでしょう。
 そして権利は筋トレのようなもので、鍛えていないと、いざというときに使えなくなる。例えば表現の自由。空気を読まない。小さい声でも言いたいと思ったら口に出す。ツイッターでつぶやく。カフェでおしゃべりをする。小さいことだけど、大事だと思います。国が戦争をしようとしても、疑問を抱く人が多いほどやりづらくなるでしょう。憲法が保障する人権は不断の努力によ
って保持しなければならない。それもまた、憲法12条に書かれていることです。
(金原注)「子育てママ ランチで語ろう」には、注目すべき小林さんの発言が紹介されています。「お母さんたちは、特に子どもの将来に関わる問題だと分かればスイッチが入る
 
主婦・鷹巣直美さん
 子育てをしていて思いました。子どもって本当にかわいい。よその家の子も、どこの国の子どもも。子どもを泣かすのは嫌だし、相手の国の子どもだって泣かすのは嫌だと思いました。この国は「もう戦争はしないよ」という憲法をみんなで一生懸命、掲げてきました。
 脅されたりばかにされたりするのは、誰でも怖いし嫌です。でも戦力武装するのはもっと恐ろしいことだし、ほかの国の人たちを怖がらせる。
 9条を大事にし、「私たちは戦争はしたくないんだよ」と相手の国々に本気で伝え続ければ、「ああ、僕たちもそうだよ」と好意を持たれ、手をつないでくれるようになるんじゃないか。それが世界中が仲良くやっていく力になるんじゃないか。単純ですが、相手の国のお父さんやお母さんたちを信じたい。どこの国の子どもであろうと、戦争なんかで泣かしたくないですよね、と。
 そうして9条こそが世界中で仲良く暮らすための約束であり、広めたいと考えるようになりました。
 そんな時、目にしたのがノーベル平和賞の授賞式を伝えるテレビのニュースでした。欧州の平和と和解、民主主義と人権の向上に貢献したという理由で欧州連合(EU)が選ばれた。2012年のことでした。
 この賞は、すごい結果を出したから与えられるのではなく、平和の実現という目的に向かって頑張っている人たちを応援する意味もあるんだ、と気付かされました。
 9条の理想と現実との間にギャップはあると思うけれど、70年近く守ってきて、それだけですごいことだし、平和賞に値すると思ったのが始まりでした。
(略)
 手分けをして手紙を書き、推薦人になってもらえるよう協力を求め、13人1団体の推薦文を得ることができ、4月9日にノミネートの報告が届きました。
 その後は国内だけでなく、韓国や中国、香港、ノルウェー、スペインなど各国のメディアからも実行委員会に取材があり、世界中で話題にしてもらえた。韓国、中国の人たちもノミネートを喜んでくれているそうで、うれしかった。「戦争はしたくないよ」という思いは一緒なんだとあらためて感じました。
 受賞者の発表は10月10日ですが、今からわくわくしています。ネット上の署名は今も集めています。9条を守っていきましょうという声が大きくなれば、受賞が近づく気がして。今年が駄目でもまた来年と、無理なく続けていければいい。
 世界の人々に日本は戦争をしない国だと知られるようになれば、憧れを持たれるはずです。観光や視察にも来てくれるんじゃないか。「戦争しない国、日本ってかっこいいね」と褒められたらいいと思いませんか。例えば、電車の中で人が居眠りできるといったささいな風景から、人々が安心して暮らしている「戦争をしない国らしさ」を感じてもらいたい。
(略)
 政治家はいろんなことを考えないといけなくて、本当に難しいことをやってもらっていると感謝しています。私はクリスチャンだから毎日、その人たちに本来のよい仕事をしてもらえるよう、神様、守ってください、と祈っています。
 安倍晋三首相のこともです。
 戦争がしたくて政治家をしている人などいないはず。でも、どこかの国が怖いし、心配だし、疑心暗鬼に陥っているのではないでしょうか。そのように思い詰めてしまわぬよう、「戦争はしたくないね」という輪を世界に広げていきたい。そうすれば、憲法を変えなければと思っていた政治家も「ああ、そうだよ。僕らも本当は戦争も、憲法改正もしたくないんだよ」と素直に言ってもらえるようになるのではないか。
(略)
 だから、受賞した場合に、安倍さんが喜んでもらいに行けるような状況をつくっていかなければと思います。政治家や特定の一部の人たちだけでできることではないから、みんなで励まし合い、支え合うのです。
 平和賞の対象は日本国民となっていますが、2014年に生きる私たちだけでなく、戦後70年近く「戦争はいけないんだよ」と語り継いでくれた人たちみんなで受賞できるんじゃないかと思っています。不戦の誓いは亡くなった人も含めておじいちゃん、おばあちゃん世代が地道に伝えてきてくれたもの。どこかのすごいグループとかではなく、そうした名もない人たちにも光
が当たるといいなと思っているのです。
 
内閣官房副長官補・柳沢協二さん
 日本の防衛政策は集団的自衛権は行使せず、他国の戦闘行為とは一体化しないということが基準になってつくられてきた。私は、その枠組みの中で何ができるのかを考えてきた。意外に聞こえるかもしれませんが、憲法9条こそが防衛政策のよりどころでした。
 9条の制約が外れ、何をしてもいいということになり、自衛隊と防衛官僚が喜ぶかといえば、そんなことはありません。「自衛隊は戦争が好きで、戦争をしたがっている」などと批判されることがありますが、違う。日本で一番戦争をしたくないと思っているのは自衛隊員です。戦争の現実を肌で感じていますから。
(略)
 サマワから撤収するとき、当時の小泉純一郎首相に成果は何かと問われ、私は「自衛隊は1発の弾も撃ちませんでした。それが大事だった。だから任務をやり遂げることができたのです」と説明した。
 これこそ日本の自衛隊だからできる貢献のあり方ではないでしょうか。小泉さんも、帰国した隊員の前で「1発の銃弾を発することなく、1人の死者も出さずに任務を果たしたのは素晴らしい。日本国民にもイラク国民にとっても記憶に残る。ご苦労さま」と訓示しています。
 でも、安倍晋三首相はそれでは駄目だという。なぜ駄目なのか。1発の銃弾も撃たない自衛隊の国際貢献のあり方をもっと誇りに思っていいのではないでしょうか。
(略)
 私の基本的な思いは、大切な自衛隊員を無駄な戦争で失ってはいけないということです。外国から攻められて反撃することはある。これが悪いとは思わないし、9条があっても個別的自衛権として認められるというのが政府の見解です。
 無駄な戦争とは、外交の失敗や国民の感情を制御できなくなって始めてしまう政治の失敗の結果、起こります。そんなことで隊員を無駄死にさせるわけにはいかない。
 防衛官僚だった当時、戦争を体験した政治家は戦争は絶対に駄目だという信念を持っていた。二度と戦争はいけないと言っていたのは特に政治家たちでした。経験に基づく人生観、世界観で動いてきた。
 そうしたリベラルな右派はいまや絶滅危惧種。いや、もう絶滅してしまったか。自民党にはウルトラライトしかいない。「戦争をしたのは親の世代。だから自分たちは知らない」と公言している。親の世代が戦争をどう認識して、われわれはどう学ぶべきか。もっと謙虚に耳を傾けないといけない。
(略)
 議論の下書きを描いているのは、恐らく外務官僚でしょう。基本的な軍事的知識を持っていれば恥ずかしくて口にできないことばかりですから。ミサイルを撃ち落とさないと日米同盟が壊れるというが、そもそも物理的に不可能。この国の知的レベルがどうなってしまったのか、と心配になるほど常識外です。
 テロへの対処もそう。軍事力でテロと対決するのは誤った方法だというコンセンサスが国際的にある。求められているのは、大きな戦争に備えることではない。きっかけとなる軍事衝突が起きないよう緊張の拡大を防ぐ危機管理の枠組みづくりです。俺の方が強いぞ、という抑止だけでなく、戦争をしない方が得だよということを理解させることによる抑止です。
 結局、安倍首相が何をしたいのか、何を目標にしているのか、分からない。具体的な必要性があって議論しているのではない。ただ「やりたい」ということしかないように映ります。 
(略)
 一方で、ここのところ護憲派の方々を前に話をする機会が増えています。自衛隊憲法に違反しているからけしからんというのは、抽象論だということをよく話しています。そんなことで流れに逆らうことはできない。どうやって日本を守るのか、それをぶつけていかないと議論で勝てないと伝えます。
(略)
 基本的な考え方を変えてほしいとは言わないが、私の話を聞いて拍手しているだけではいけません、とも話します。
 従来の護憲派の方々とは考え方に違いはある。でも、これが大事なことですが護憲という点では一致している。私が経験してきたことを聞いてもらえるなら、これからも話をしていきたいと思っています。