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12人の怒れる識者(国民安保法制懇)に期待する

 

 今晩(2014年5月30日)配信した「メルマガ金原No.1742」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
12人の怒れる識者(国民安保法制懇)に期待する

msn産経ニュース 2014年5月15日10時27分
安保法制懇、午後に報告書 首相は夕刻に記者会見 集団的自衛権行使容認

 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140515/plc14051510270007-n1.htm
(抜粋引用開始)
 政府の有識者会議安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会安保法制懇)」
15日午後、集団的自衛権の行使容認を含めた憲法解釈に関し、安倍晋三首相に報書を提出する。
(引用終わり)
 
朝日新聞デジタル 2014年5月20日00時38分
安保法制懇「正統性あるわけない」 北岡座長代理
(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相の私的諮問機関安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会
(安保法制懇)の北岡伸一座長代理は19日、自民党の会合で、「安保法制懇に正統性がないと(新聞に)書かれるが、首相の私的懇談会だから、正統性なんてそもそもあるわけがない」と語った。
(引用終わり)
 
 安保法制懇にどのような「肩書き」(というのも変ですが)を付けるかによって、同懇談会をどのような存在と見ているのかがほぼ明らかになるのですが、それにしても「政府の有識者会議」という表現は、「政府の」というのも、「有識者」というのも、納得しがたいと感じた人が多いことと思います。
 「政府の有識者会議」と表記していたのは、産経の他に読売があり、また、NHKは「政
有識者懇談会」でしたね。
 それでは、産経・読売・NHKが、「政府の」とか「有識者」とか表記していたことに根拠が
いのかというと、彼らの立場に立てば(立ちたくもありませんが)、実は「全くないこともない」というのが微妙なところです。
 「政府の」にしても、「有識者」にしても、以下の文書(首相官邸ホームページに掲載)
一応根拠と言えば根拠です。

安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会の開催について 
(抜粋引用開始)
2.構成
(1)懇談会は、別紙に掲げる有識者により構成し、内閣総理大臣が開催する。
(2)内閣総理大臣は、別紙に掲げる有識者の中から、懇談会の座長を依頼する。
(3)懇談会は、必要に応じ、関係者の出席を求めることができる。
(4)懇談会の事務は、内閣官房において処理する。
(引用終わり)
 
 内閣総理大臣が開催する懇談会を「政府の」と称するのは「僭称」だろうと思いますが、「有識者」については、つまり「言った者勝ち」ということに尽きます。
 その別紙「有識者」というのが以下の14名です。
 
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会 有識者
岩間陽子 政策研究大学院大学教授
岡崎久彦 特定非営利活動法人岡崎研究所所長・理事長
葛西敬之 東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長
北岡伸一 国際大学学長・政策研究大学院大学教授
坂元一哉 大阪大学大学院教授
佐瀬昌盛 防衛大学校名誉教授
佐 藤 謙 公益財団法人世界平和研究所理事長(元防衛事務次官)
田中明彦 独立行政法人国際協力機構理事長
中西 寛 京都大学大学院教授
西 修 駒澤大学名誉教授
西元徹也 公益社団法人隊友会会長(元統合幕僚会議議長)
細谷雄一 慶應義塾大学教授
村瀬信也 上智大学教授
柳井俊二 国際海洋法裁判所長(元外務事務次官)

 「有識者」であることは何によって担保されるのか?などと言うだけ無駄かもしれませんが、
それにしても、憲法の三大基本原理の一つである「平和主義」に関わる政府の公権解釈を大転換するかどうかを検討するために集められた14人の「有識者」がこれ?しかも、憲法学者が(強いて挙げればですが)1人しかいない!
 ちなみに、浦部法穂氏が法学館憲法研究所に連載している「憲法時評」の最新号の
タイトルは、「安倍晋三と14人の『無識者』たち」というもので、中身も怒りに満ちた文章でした。是非ご一読をお勧めします。

 さて、この動きを黙視できないと考えた真の尊敬すべき識者(「有識者」という表現は避
けたいですね)12名が、一昨日(2014年5月28日)、「国民安保法制懇」を設立し、その内6名の方が出席して記者会見を開きました。

神奈川新聞 2014年5月29日07時03分
集団的自衛権 行使容認の問題点指摘 憲法学者ら国民安保法制懇を結成
(抜粋引用開始)
 憲法解釈の変更によって安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使容認に反対
する憲法学者や元防衛大教授らが28日、「国民安保法制懇」の結成会見を都内で開いた。集団的自衛権の行使容認を結論付ける報告書を提出した安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会安保法制懇)」に対抗し、問題点を指摘する報告書を今夏にも発表するとしている。
憲法学者小林節・慶応大名誉教授や伊藤真弁護士、柳沢協二・元内閣官房
長官補、伊勢崎賢治・東京外国語大教授ら12人で立ち上げた。
阪田雅裕・元内閣法制局長官は「憲法解釈を一政権の手で変えるのは立憲主義
法治国家の破壊。集団的自衛権は国のあり方を変える問題で、正面から憲法改正問うべきだという点でわれわれは一致している」と宣言。「個々に不当性を唱えてきたが、政権という強敵に対し一緒になって声を大きくし、国民の良識を踏まえた議論をしていこうと思った」と設立の理由を述べた。(略)
(引用終わり)
 
 12人のメンバーは以下のとおりです。「立憲デモクラシーの会」有志に、法制、安全保障、外交等の分野で豊富な実務経験を有する方々が加わった強力な布陣となっています。
 
国民安保法制懇 委員
阪田雅裕 (元第61代内閣法制局長官
大森政輔 (元第58代内閣法制局長官
樋口陽一 (東京大学名誉教授・憲法
小林  節 (慶應義塾大学名誉教授・憲法
長谷部恭男早稲田大学教授・憲法
最上敏樹 (早稲田大学教授・国際法
柳澤協二 (元防衛省防衛研究所長、元内閣官房副長官補)
孫崎 享 (元防衛大学校教授、元外務省情報局長)
伊勢崎賢治東京外国語大学教授・平和構築/紛争予防)
愛敬浩二 (名古屋大学教授・憲法
青井未帆 (学習院大学教授・憲法
伊藤 真 (法学館憲法研究所所長、弁護士)

 記者会見の模様は、以下の映像で視聴できます。ちなみに、記者会見に出席されたの
は、阪田雅裕氏、大森政輔氏、小林節氏、孫崎享氏、伊勢崎賢治氏、伊藤真氏、以上6名の方々でした。

0140528 UPLAN【記者会見】国民安保法制懇設立記者会見
出席者の発言を視聴する目安の時間
 02分~ 阪田雅裕氏(冒頭発言)
 10分~ 伊勢崎賢治
 23分~ 孫崎享
 32分~ 大森政輔氏
 45分~ 阪田雅裕氏 
 48分~ 小林節
 56分~ 伊藤真
 1時間06分~ 質疑応答

IWJ 2014/05/28 【集団的自衛権】国民による「安保法制懇」立ち上げ 元法
局長官や憲法学者らが警鐘「民主主義がぶっ壊れている」
※視聴のためには会員登録が必要です。

 安倍政権の暴走を阻止するために様々な組織が誕生(もしくは予定)しています。
例えば、

○戦争をさせない1000人委員会
○立憲デモクラシーの会
自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会

 そこに「国民安保法制懇」です。メンバーの重複もあり、屋上屋を架す傾きがないこと
もないのですが、危機の核心である「集団的自衛権」について、憲法国際法の専門家と安保・外交問題実務経験者、それに政府公権解釈を担ってきた元内閣法制局長官ら「12人の怒れるメンバー(伊藤真氏談)」が全力を挙げて取り組んでくれることはまことに心強い動きだと思います。
 もちろん、安保法制懇「報告書」に対する分析・批判は、多くの個人・団体が行いつ
つあるはずですが、様々な立場を包含しつつ、国民に対する発信力が期待できる有力な識者が「立憲主義の破壊に抗うべく」(設立宣言より)結集した意義は非常に大きなものがあると思います。
 私も、微力ながら、この動きを1人でも多くの国民に伝えていく努力をしたいと考えてい
ます。
 ただ、「国民安保法制懇」という名称が適切かについては、いまひとつしっくりこない向きもあるでしょうね(かくいう私もそうなのですが)。
 
 なお、このメンバーの顔ぶれを見ると、伊藤真弁護士が主宰する法学館憲法研究所が事務局的な役割を担うのかなと思い、同研究所サイトを閲覧してみたのですが、まだ何も掲載されておらず、また、「国民安保法制懇」で検索しても、公式サイトはまだ立ち上がっていないのか、発見できませんでした、
 従って、最後にご紹介する「国民安保法制懇 設立宣言」も、YouTube 中継冒頭
の画像、及び参議院議員・有田芳夫氏の tweet などを読みながら、私が書き起こしものなので、もしかすると転記ミスがあるかもしれませんので、その節は何卒ご容赦くだい。

(引用開始)
             国 民 安 保 法 制 懇  設 立 宣 言
               ~立憲主義の破壊に反対する~

                                  2014年5月28日
                                  国民安保法制懇設立委員

 5月15日、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に
する懇談会」(安保法制懇)は、「限定的に集団的自衛権を行使することは許される」として、憲法解釈の変更を求める「提言」を安倍首相に提出し、同日、安倍首相は記者会見を開き、集団的自衛権行使容認の方向性を明言した。
 しかし、安保法制懇が掲げる事例は、いずれも非現実的であったり、本来集団的
自衛権行使の問題でない事例ばかりであり、集団的自衛権行使の本質が示されていない。安保法制懇が示した集団的自衛権行使の「条件」についても、集団的自衛権行使の歯止めになるものでもなく、また、“限定的”と言ったところで、他国同志の戦争に、一方当事国として参戦する集団的自衛権の行使の本質に変わりはない。
 そもそも集団的自衛権は、戦争を他国に行う大義として利用されてきた歴史がある
ことは自明の事実である。アメリカや韓国のベトナム戦争への参戦、旧ソ連アフガニスタン侵攻、NATO諸国のアフガニスタン攻撃などは、ことごとく集団的自衛権の行使として遂行されてきたのであり、日本の「集団的自衛権」行使は、今後日本がかかる戦争に正面から参戦することを意味する。戦争の前線に国民を送り出し、命を落とす危険にさらすことの是非について、国民の間で真剣な議論がなされるべきであるにもかかわらず、安倍政権は、広く国民が真摯に議論するための正しい情報を伝えているとは言い難い。
 そればかりか、「政府解釈の変更」によって集団的自衛権の行使を容認しようと極め
て拙速にことを進めており、主権者である国民を軽視していると言わざるを得ない。
 集団的自衛権の行使が憲法上認められないということは、すでに確立した政府見
解であり(1981年5月29日の政府答弁書等)、集団的自衛権の行使を認めるためには「憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」とされてきた(1983年2月22衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)。
 いうまでもなく立憲主義国家における憲法とは、国の統治のあり方を律するものであ
り、統治権力が遵守すべき規範である。
 政府の恣意的な「解釈変更」によって、これまで憲法が禁止してきた集団的自衛権
行使を可能にすることは、憲法が統治権力に課している縛りを政府自らが取り外すことに他ならず、立憲主義の破壊に等しい歴史的暴挙と言わざるを得ない。
 私たちは、主権者である国民としてこの暴挙を黙認することは到底できない。かかる
立憲主義の破壊に抗うべく、憲法国際法、安全保障などの分野の専門家、実務家が結集し、ここに「国民安保法制懇」を設立する。
                                              以上 
(引用終わり)