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集団的自衛権行使容認「閣議決定」と教科用図書検定基準

 今晩(2014年7月10日)配信した「メルマガ金原No.1782」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
集団的自衛権行使容認「閣議決定」と教科用図書検定基準

 まず、「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)」公式サイトに7月5日に掲載された以下の記事をお読みください。

(抜粋引用開始)
くどいようですが、集団的自衛権行使容認の閣議決定についてです
たまに「閣議決定されちゃったけど何も変わらない!」みたいな話って聞きません??
確かに集団的自衛権を行使するためには、
自衛隊法とかの関係法令やアメリカさんとの取り決めを細かく変更しなきゃならんので、
すぐに集団的自衛権が行使されちゃう、って可能性は低いですが
この閣議決定で、大々的に変わる(ことを強制される)ものがあるんです!
それは、『教科書』
「えぇー、なんで? 教科書なんて作る人の自由じゃないの?」
と思ったみなさん、やや不正確
「えぇー、なんで? 教科書検定って検閲みたいのあるけど、それは閣議決定と関係ないじゃん」
と思ったみなさん、惜しい、ちょっと前まではそうでした
実は、
今年の1月17日、教科書検定の基準が変わったんです!
どう変わったかっていうと、
こういう文章が追加されています
 
閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は
最高裁判所判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること』
 
つまり、いまでは、閣議決定があれば、それに基づいた記述が必要なんです!
「何!? その基準、聞いたことないよ?」
と思ったみなさん、正解!
だって、この基準、年末年始にこっそりと短期間(12.25~1.14)のパブコメやっただけで、特に大
きく報道されることもありませんでしたからね。
(そういえば、短期間のパブコメって、秘密保護法でもそうでしたよね)
だから
この基準に則れば
集団的自衛権は行使できる」って閣議決定に基づいた記述が必要なんです
間違っても、「集団的自衛権は行使できないのが政府見解」なんて記述があってはダメなんで
すね!
そこで、教科書を変える(ことを強制される)ことになるんです
だから、
集団的自衛権 教科書8社が記述の改訂検討】(7月3日 NHKニュース)ってなるんです
(略)
ちなみに、この基準に従えば、
どれだけ学問的に誤り(大多数の学者が反対して)ても
(まっ、実際集団的自衛権を解釈変更で認めるのは、大多数の学者さんは反対のようですが)
どれだけ非科学的な内容でも
閣議決定されれば、それを教科書に載せて、学校の先生はそれに従って教えなきゃいけない、っ
てことになるんですよね、きっと。
その学問の専門家ではないにもかかわらず、自民党さんと公明党さんが言えば、それを教えなき
ゃいけない
それって、すっごい怖いことじゃないかなぁ
ってか、それって天動説の時代に戻った感じがするなぁ。
そんなことやってたら、学力(科学的思考力)が身に付かないんじゃないかなぁ。
う~ん、この基準の改訂、メリットが思いつかない *1
(引用終わり)
 
 実は、この教科書検定基準の改定が1月に行われていて、これが大問題になり得るということは、「あすわか」サイトに掲載されたのは7月5日のことですが、既に閣議決定の翌日(7月2日)、「あすわか」のメーリングリストに流れているということを、和歌山弁護士会所属の「あすわか」会員から教えてもらっていました。
 
 まず事実関係を押さえておきましょう。
 「義務教育諸学校教科用図書検定基準及び高等学校教科用図書検定基準の一部を改正する告示(平成26年1月17日文部科学省告示第2号)」なるものが、今年の1月17日にされています。
 「閣議決定」が登場する部分を抜粋します。
 
1 義務教育諸学校教科用図書検定基準(平成21年文部科学省告示第33号)の一部を次のように改正する。
 第3章の[社会科(「地図」を除く。)]の2中(5)を(7)とし,(4)を(6)とし,(3)を(5)とし,(2)
の次に次のように加える。
 (4) 閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所判例
が存在する場合には,それらに基づいた記述がされていること。
2 高等学校教科用図書検定基準(平成21年文部科学省告示第166号)の一部を次のように改正する。
 第3章の[地理歴史科(「地図」を除く。)]の1中(4)を(6)とし,(3)を(5)とし,(2)を(4)とし,
(1)の次に次のように加える。
 (3) 閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所判例
が存在する場合には,それらに基づいた記述がされていること。
 第3章の[公民科]の2中(6)を(8)とし,(5)を(7)とし,(4)を(6)とし,(3)の次に次のように
加える。
 (5) 閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所判例
が存在する場合には,それらに基づいた記述がされていること。
 
 なお、附則により、「この告示は,公布の日から施行し,平成28年度以降の使用に係る教科用図書の検定から適用する」とされています。
 
 また、NHKニュースが伝えた【集団的自衛権 教科書8社が記述の改訂検討】ですが、どうやら既にネット上での閲覧は出来なくなっているようです。
 そこで、そのニュースを貼り付けていたと思われるブログから「孫引き」しておきます(従って、正
確性は保証しかねます)。
 
NHKニュース 2014年7月3日5時15分
集団的自衛権 教科書8社が記述の改訂検討
(抜粋引用開始)
 憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が行われたことを受けて、中学校と高校の教科書で集団的自衛権について記述している11の出版社のうち8社が記述を見直す必要があるとして、文部科学省への訂正申請を検討していることが分かりました。
 文部科学省によりますと、現在使われている教科書のうち中学校の「公民」で3社、高校は
現代社会」や「政治・経済」を発行している8社すべてが集団的自衛権について記述してい
ます。
 憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を受けて、NHKがこれら
11社に対応を取材したところ、8社が来年度使われる教科書の記述を見直す必要があると
して文部科学省への訂正申請を検討していることが分かりました。
 訂正申請は誤植や客観的な事実の変化があった場合、4年に一度行われる教科書検定
を待たずに記述の修正を申し出ることができる制度です。
(略)
 一方、他の3社は「著者や文部科学省と相談して見直しが必要か考える」としています。
 各社によりますと、来年春の教科書の配付に間に合わせるには年内に訂正が認められるこ
とが必要だということで、戦後日本の安全保障政策が大きな転換点を迎えるなか、教育現
場も対応を迫られようとしています。
(引用終わり)
 
 上述したとおり、2種類の「教科用図書検定基準」自体が適用されるのは「平成28年度以降の使用に係る教科用図書の検定」からですから、今回の教科書会社の動きは、直接この新基準を「適用」するというのではありませんが、もちろん、密接な関連があることは言うまでもありません。
 検定済み教科書の「訂正」というのは、以下の条項を根拠に行われる手続です。
 
(検定済図書の訂正)
第14条 検定を経た図書について、誤記、誤植、脱字若しくは誤った事実の記載又は客
観的事情の変更に伴い明白に誤りとなった事実の記載があることを発見したときは、発行
者は、文部科学大臣の承認を受け、必要な訂正を行わなければならない。
2 検定を経た図書について、前項に規定する記載を除くほか、学習を進める上に支障と
なる記載、更新を行うことが適切な事実の記載若しくは統計資料の記載又は変更を行うことが適切な体裁があることを発見したときは、発行者は、文部科学大臣の承認を受け、
必要な訂正を行うことができる。
3 第1項に規定する記載の訂正が、客観的に明白な誤記、誤植若しくは脱字に係るもの
であって、内容の同一性を失わない範囲のものであるとき、又は前項に規定する記載の訂正が、同一性をもった資料により統計資料の記載の更新を行うもの若しくは体裁の変更に係るものであって、内容の同一性を失わない範囲のものであるときは、発行者は、前2項の
規定にかかわらず、文部科学大臣が別に定める日までにあらかじめ文部科学大臣へ届け出ることにより訂正を行うことができる。
4 文部科学大臣は、検定を経た図書について、第1項及び第2項に規定する記載があると認めるときは、発行者に対し、その訂正の申請を勧告することができる。
 
 先のNHKニュースによれば、「清水書院は高校の『政治・経済』で『政府自身、従来から集団的自衛権の行使は違憲であるとの原則を示している』と書くなど4点で記述してい」るとのことですから、教科用図書検定規則第14条1項を素直に読めば、「客観的事情の変更に伴い明白に誤りとなった事実の記載」ということになるのでしょうね。
 そこで、この訂正が、「政府自身、従来から集団的自衛権の行使は違憲であるとの
原則を示していたが、平成26年7月1日の閣議決定により、限定的に集団的自衛権行使できる場合があることを認めるに至った」というような、比較的価値中立的な記述に
とどまるかどうかが問題です。
 なにしろ、「平成28年度以降の使用に係る教科用図書の検定から適用されるという新
基準は、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解(略)が存在する場合には,それらに基づいた記述がされていること」とあるのですから、これは「価値中立的
な記述」を容認する趣旨とは解しにくいですね。
 そうすると、平成27年度用教科用図書の「訂正」にあたっても、新基準の趣旨を先取り
して、「閣議決定に基づいた記述」となるおそれがあります。
 そう、「あすわか」が「天動説」と喝破したような状況が現出する可能性が多分にあるので
す。日本中の憲法学者の大半が「違憲」だと批判する閣議決定を、そのような意見があることすら伝えず、ただ単に「閣議決定」の内容だけ教える教科書が子どもたちに与えられるとな
れば、まさに現代の「天動説」と言わざるを得ません。
 
 はたして、新検定基準がこのような事態まで見通した上で制定されたのか(そういう意見もあるようですが)、私には分かりません。ただ、仮にそうであったとすると、これは権力者が自ら「墓穴を掘った」ということになり得るのではないかという気がします。
 現在の教育現場が非常に厳しい状況であるということは承知しているつもりですが、それにしても、今回の「閣議決定」を正しいものとして教え込むというのは、いくら何でも「底が抜て」います。
 集団的自衛権行使容認反対の世論を盛り上げることが当面の私たちの最大の目標で
すが、その際、この教科書問題も重要な「武器」として私たちは活用すべきだと思います。
 
 ところで、7月3日にNHKニュースが報じた後、他のメディアが後追い報道をしましたっけ?簡単な検索では見つからなかったのですが、この点はやや気になるところです。ひょっとすると、文科省が出版社に箝口令をしいたのではないか?などと、いらぬ気を回したくもなりますからね。

 いずれ東京新聞こちら特報部」か毎日新聞「特集ワイド」などで取り上げてくれることを
期待しています。
 皆さんも、是非注目していてください。 
 

(付録)
『For a Life』 作詞:中川五郎 作曲:PANTA 演奏:中川五郎
 

 

*1:+_+