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ネット情報のウラの取り方 菅義偉官房長官の外国特派員協会での会見を例に

 

 今晩(2014年7月13日)配信した「メルマガ金原No.1785」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
ネット情報のウラの取り方 菅義偉官房長官外国特派員協会での会見を例に
 
 今日は、少しいつもとは毛色の変わった記事、というか変わった「書き方」の記事を書いてみようと思います。
 私が、メルマガ(ブログ)をどのようにして書いているのか、その「楽屋裏」の公開です。
 正直、ネタ切れで、バックヤードものでも書かなければ仕方がない日もあるということでが。
 
【着想】
 Facebook の「ホーム」に流れる情報を、それこそ「流し読み」していると、ふと気になって中身を確認したくなる情報が目につくことがあります。
 今回目に止まったのは、一昨日(7月11日)日本外国特派員協会で行われた菅義偉(すが・よしひで)官房長官記者会見における質疑の模様を伝えた12日付の日刊ゲンダイの記事の紹介でした。
 ちなみに、この投稿自体、Twitter に流れていた情報をシェアしたもののようです。
 日刊ゲンダイは、Facebook 利用者から記事引用される頻度の非常に高い夕刊紙です。もっとも、これは私の「友達」の傾向を反映した結果である可能性が高く、ネトウヨ皆さんの「ホーム」には、夕刊フジの記事が頻繁に流れているのかもしれません。
 このように、ネット情報を取り扱う場合、人は、自分の考えに親和性の高い情報だけを意識的・無意識的に選別して収集する傾向がある、ということに自覚的である必要があります。
 
【準備作業 日刊ゲンダイの記事を読む】
 Facebook で紹介された新聞記事に興味を持てば、まずやることは記事を読むことです。「当たり前ではないか」と思いますか?たしかに「当たり前」なのですが、しかし、FacebookTwitter に流れている新聞記事を材料とした投稿にに書き込まれたコメントを読んでみると、「この人、本当に記事を読んでからコメントを書いているのだろうか?」と疑われることも少なくありません。この日刊ゲンダイの記事について言えば、「外国人記者の指摘に官房長官逆ギレ 09年に自民が提言 『憲法解釈の安易な変更許されない』のフザケタ二枚舌」という雄弁な(雄弁過ぎる?)見出しを読むだけでも、記事を読んだ「つもり」に十分なれますからね。
 ただし、読むにしても、かなり大きなディスプレイでないと、字が小さ過ぎて「物理的に読めない」ということもあるでしょうが(私がそうなのですが)。そういう人は、日刊ゲンダイは、注目記事をネットで無料で読めるようにしているという予備知識があれば、サイト検索をかけて記事を探すという方法があります。今日(7月13日)現在、7月8日以降掲載分の記事が検索できました。
 
  ↓
ニュース
  ↓
官房長官が逆ギレ 仏記者が指摘した09年の「自民提言」(7月12日)
 
 以下に主要部分を引用します。
 
(抜粋引用開始)
 菅官房長官が11日、外国特派員協会で講演。アベノミクスの経済効果について、「政治主導で進めていく、改革意欲の強い政権だ」などと自画自賛したが、講演後の質問は、集団的自衛権行使容認の閣議決定拉致問題中韓との関係に集中した。海外メディアから見ても、安倍政権の安保政策はよく分からなくて不安だということだろう。
 海外メディアの質問に菅官房長官は「国民の生命と安全を守るのが政府の仕事」「対話のドアは常にオープン」などと従来の政府答弁をソツなく繰り返した。唯一、気色ばんだのが、仏メディア記者から日本語でこう質問された時だった。
 
自民党は2009年12月16日に民主党政権の政治主導に対して緊急提言をまとめ、国民のものである憲法を一内閣が恣意的に解釈変更することは許されないとしたが、安倍政権は憲法を解釈変更した。提言当時の考え方は今も変わらないか?」
 
 質問が終わるや否や、菅官房長官は強い口調で「それは、まったくあたらない」と反論。質問の英訳後に答えるよう、司会者からたしなめられてしまうほど、冷静さを欠いていた。
 
自民党HPから削除
 この緊急提言は野党転落後の09年、自民党政策調査会の「『政治主導』の在り方検証・検討PT」がまとめたもの。こんな記載がある。
憲法は、主権者である国民が政府・国会の権限を制限するための法であるという性格を
持ち、その解釈が政治的恣意によって安易に変更されることは、国民主権の基本原則の観点から許されない>
 まるで、今の安倍政権に対する苦言そのものだ。
(略)
 自民党本部に問い合わせると「2年前にHPをリニューアルした際、古い資料は削除してしまった」(広報)、「そんな昔の提言は当時の担当者も分からないし、調べるのに時間がかかる」(政調)との回答だった。
 まさか、都合が悪いからHPから削除したわけではないだろうが、安倍自民党が触れられた
くない過去なのは間違いない。
(引用終わり)
 
【裏付1 外国特派員協会公式YouTubeチャンネルで会見を視聴する】
 さて、ここから裏付けの作業に取りかかるのですが、外国特派員協会の記者会見は、同協会の公式YouTubeチャンネルに映像記録がアップされている可能性が高いという予備知識があれば、「外国特派員協会/菅官房長官」というようなキーワードで「動画検索」をかけてみれば、録画を見つけるのは難しくないはずです。
 ・・・と思ったのですが、このキーワードで出てきたのはIWJのサンプル映像でした。
 仕方がないので、日本外国特派員協会(FCCJ)チャンネルから入っていって探すことになりました。
 アップされたばかりの動画なのですぐ見つかります。
 
Yoshihide Suga: "Defending the Politics of the Abe Administration" Chief Cabinet Secretary
 
 約68分の会見映像の内、冒頭29分ころまでが菅官房長官の冒頭発言であり、そのが質疑です。
 そして、日刊ゲンダイが取り上げた仏メディア記者からの日本語による質問というのは、49分以降の部分です。「FRANCE10」の(おそらく)日本人記者からの質問の内容は、日刊ンダイが伝えたとおりです。
 それに対する菅官房長官の解答は「答え」になっていませんね。
 ちなみに、「FRANCE10」のサイトには「日仏共同テレビ局」と書いてありました。
 早速、「週間人気記事」の欄に、「「官房長官、逆ギレ」と報じられた菅義偉・会見全記録@日本特派員協会-質疑応答篇-」という記事が掲載されていました。
 
【裏付2 「『政治主導』の在り方に関する緊急提言」を探す】
 日刊ゲンダイによれば、自民党の「政治主導」の在り方検証・検討PTがとりまとめ、2009年12月16日に公表したという「緊急提言」は、かつて自民党ホームページに掲載されていたものの、2年前のサイトリニューアルを機に「削除」されたということですが、どこかのサイトにアーカイブされている可能性もあり、誰かがブログに全文転載していないとも限らないという
ことで、ネット検索をしてみることになります。
 ただし今回は、色々探してみましたが、どうしても発見できませんでした。
 しかしながら、「書誌」情報については以下のサイトがヒットしました。これで「提言」の正式タイトルが「『政治主導』の在り方に関する緊急提言」であることが確認できました。
 
「月刊自由民主(683号)」掲載
「政策特報(1347号) 自由民主党政務調査会 編」掲載
 
 この「書誌情報」を基に、「月刊自由民主」のバックナンバーを所蔵している図書館であれば、少なくとも閲覧はできる(複写サービスを利用できるところもあるかもしれない)というところまでは分かりました。
 
【裏付3 関連情報に目配りする】
 一番肝心の「緊急提言」は探しきれなかったのですが、探しているうちに、関連情報が目に付くこともあります。その内のいくつかをピックアップしておきます。
 
○「林よしまさ(芳正)参議院議員」ホームページ(2009年12月16日)より
(引用開始)
 現在、民主党は「憲法三権分立という規定はない」、「官僚による国会答弁を禁止する」、「陳情窓口を民主党幹事長室に一本化する」など、多くの問題点を提起しています。本来、「政治主導」の在り方は、政権交代が行われても健全な議会制民主主義が機能するためのものでなくてはなりません。そのため、自由民主党政務調査会「政治主導」の在
り方検証・検討PT(座長、林芳正)において、これらのうち1、民主党の「国会改革」について 2、陳情制限について 3、行政刷新会議事業仕分けについて の3点について「緊急提言」を行いました。他の問題点については、今後更に検証・検討を行います。詳細は自民党のwebサイトに掲載されます。
(引用終わり)
 
○「石田真敏」ブログ(2009年12月16日)
(抜粋引用開始) 
 先週、事務局長として立ち上げた「政治主導」の在り方検証・検討プロジェクトチームが本日の11時から党本部で「政治主導」の在り方に関する緊急提言を行いました。
 論点はたくさんあり、今後も議論していきますが、今回はまず、すぐにも訴える必要のある
項目をまとめました。
 鳩山政権は、「政治主導」の名のもと、日本の統治システムを大きく改造しようとしています。わかりやすい例が「三権分立」から二権分立へ、です。
 誰もが学校で習う日本の民主主義の基本、「三権分立」の解体!日本の政治体制の大転換になりかねません。
 国民全員が注意深く対応するべき事柄ですが、自民党としても、しっかりした考えを持って対案を出していかなければならない!そういう考えで立ち上げたプロジェクトです。
(引用終わり)
 
○立憲デモクラシーの会「安保法制懇報告と安倍首相記者会見に関する見解」を公表し記者会見開催(2014年6月9日)
 冒頭山口二郎法政大学教授発言の6分~で言及されたのが自民党の「『政治主導』の在り方に関する緊急提言」であり(どうやら記者会見参加者に配布した資料の中にそのサワリが引用してあったらしい)、しかもこの日の記者会見を取材して映像を YouTubeアップしたのが「FRANCE10」なのですから、これが、7月11日に行われた外国特派員協会での記者会見での「FRANCE10」記者の質問に結びついたことは間違いないでしょう。
 
○第186回国会(常会) 2014年6月12日 
参議院 農林水産委員会 会議録(第16号)
徳永エリ君 続いて、林大臣に伺います。 「平成二十一年十二月十六日、自民党務調査会、「政治主導」の在り方、ここに提言の取りまとめがあります、この検証・検討PTの緊急提言の中で、内閣法制局長官を政府特別補佐人から削除するという当時の民主党の国会改革案に対して、憲法は主権者である国民が政府、国会の権限を制限するため
の法であるという性格を持ち、その解釈が政治的恣意によって安易に変更されることは国民主権の基本原則の観点から許されないとしています。
 林大臣はこのPTの座長として取りまとめをなさった責任者であられます。政治的恣意によ
憲法の解釈変更は許されないというこの提言について、林大臣の今のお考えをお伺いいたします。
国務大臣林芳正君) 御指摘のありました緊急提言でございますが、当時、民主党内閣法制局長官を政府特別補佐人から削除されましたこと等に関して、平成二十一年十二月に取りまとめたものでございます。
 今お話がありましたように、そこでは憲法の解釈について、政治的恣意によって安易に変更
されることは国民主権の基本原則の観点から許されないということを述べたものでございます。 
徳永エリ君 今のお考えは。 
国務大臣林芳正君) 集団的自衛権の行使ということで今御質問いただきましたけれども、総理は、国民の生命と安全を守る、こういう観点から、熟慮の末、御判断をされたものと、こういうふうに理解しておりまして、自分は総理のお考えを支持しております。
 総理の示された検討の基本的方向性、これを踏まえて行われております与党協議の結果、
その後の対応を決定していくことになると、こういうふうに理解をしております。 
徳永エリ君 歴代政権が踏襲してきた憲法解釈を一政権の判断で変更できるとしたら、権力から国民の権利を守るという立憲主義の否定であります。このような前例を決してつくってはならない。内閣の判断で他の条文解釈も自由に変えられるようになり、憲法の空洞化を招きかねないと思います。林大臣には慎重な御対応をよろしくお願い申し上げます。
 安倍総理に伺います。
 他国からの攻撃や侵略から国民の命と暮らしを守る安全保障の問題は、我が国にとって
大変に重要な問題だということはよく分かります。昨日の党首討論でもありましたけれども、ホ
ルムズ海峡が閉鎖された際の経済パニックのお話をされておりました。
 食料も心配です。食料安全保障もしっかりと守っていかなければなりません。日本の食料
安全保障、特に食料自給率に関する総理のお考えをお伺いいたします。
内閣総理大臣安倍晋三君) 食料の安定供給を将来にわたって確保していくことは国民に対する国家の最も基本的な責務であり、国内農業生産の増大を図り、食料自給率食料自給力を共に向上させていくことは極めて重要であると考えております。(以下略)
 
 6月9日の「立憲デモクラシーの会」記者会見だけであれば、菅官房長官の耳には入っていなかったかもしれませんが、6月12日の参議院農林水産委員会での民主党議員の質問は、安倍首相の面前で行われたということもあり、すぐに菅長官のところまで伝わったでしょう。
 
【とりあえずのまとめ】
 肝心の自民党の「『政治主導』の在り方に関する緊急提言」自体を読めていないため、中途半端であることは否めません。
 それに、菅官房長官が、いつ頃からこの2009年「緊急提言」を意識し始めたのか?という点については、データ不足で「不明」としか言いようがありません。
 
 さて、どうでしょうか?Facebook に流れていた情報を取り上げて咀嚼し、これを自らの情報として発信するための作業として、私が行っている手順の一端をご紹介しました。
 もちろん、(主として時間の都合で)これよりずっと「手抜き」をすることもよくありますが、本来の「あるべき姿」はこういうものだと思っています。
 少しはご参考になったでしょうか?
 

(付録)
『ほんものとにせもの ~False From True~』 
作詞作曲:ピート・シーガー 日本語詞:中川五郎 演奏:中川五郎