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「7.1クーデター」を支持した米国の“内政干渉”

 

 今晩(2014年7月17日)配信した「メルマガ金原No.1789」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「7.1クーデター」を支持した米国の“内政干渉”
 
 神戸女学院大学名誉教授の内田樹(うちだ・たつる)さんのブログ「内田樹の研究室」に、「アッカーマン教授の安倍政権論」という翻訳紹介が掲載されていました。
 
内田樹の研究室 2014年7月17日 
アッカーマン教授の安倍政権
 
 内容は、先週金曜日(7月11日のことでしょう)に国防総省で行われた記者会見において、ヘーゲル国防長官が、安倍政権の「大胆にして、歴史的、画期的な決定」に「強い支援」を約束すると述べたことを、エール大学のブルース・アッカーマン教授が批判した論考を抜粋して翻訳紹介されたものです。
 アッカーマン教授のその論考では、日本と並んでドイツに対する米国政府の政策も批判の
対象となっていたようです。
 アッカーマン教授の論考(原文)は以下のサイトに掲載されています。
 
Bruce Ackerman  Posted: 07/15/2014 9:12 am
America's Tragic Turn in Germany and Japan
 
 以下に、訳文と原文の主要部分を引用します。
 
(引用開始)
 安倍晋三首相は時代錯誤的なナショナリストであり、日本の戦後憲法マッカーサーの占
領政策によって不当に押しつけられたものだとして、彼の自民党を先導して憲法への信頼性を傷つけるキャンペーンを展開している。
 彼の最初の標的は九条であった。彼は当初は憲法に規定してある国民投票に訴えて、こ
れを廃絶することを目指していたが、この動きが広汎な世論と議会内部での抵抗に遭遇すると、ギアを入れ替えて、憲法をいじらないままで目的を達成する方法を探った。
 
Prime Minister Shinzo Abe is an unreconstructed nationalist, who is leading his Liberal Democratic Party on a campaign to discredit Japan's post-war Constitution as an illegitimate imposition of the MacCarthur occupation. His first target is the Peace Article, which he initially sought to repudiate by calling a referendum as provided under the Constitution. When this initiative generated broad popular and parliamentary resistance, he switched gears and is now trying to achieve the same end by unconstitutional means.
 
 7月1日安倍は彼の政府は憲法九条を「再解釈」することで、憲法が「永遠」に放棄したはずの「武力による威嚇または武力の行使」は可能であると宣言して、過去二世代にわたる憲法解釈を覆した。
 
On July 1, Abe announced that his government would "reinterpret" Article Nine to allow the "the threat or use of force" that the Constitution renounced "forever," repudiating two generations of contrary legal understanding.
 
(略)
 
 もし、安倍がこのまま成功を収めると、彼のラディカルな憲法再解釈は日本国憲法が保証している基本的な政治的権利、市民的権利を抑制しようとしている自民党改憲案の先駆的実践としての役割を果すことになる。
 この政治的事件の賭け金はきわめて高いものであり、これからあとの数ヶ月、近代日本史上
最も重要な議論が繰り広げられることになるだろう。
 
If Abe is allowed to succeed, his radical reinterpretation will serve as a precedent for the Liberal Democratic Party's announced plans to break free of Japan's constitutional commitments to fundamental political and civil rights. With the stakes so high, the coming months will see one of the most important debates in modern
Japanese history.
 
 しかし、国防長官チャック・ヘーゲルは違う方向からこの議論に介入した。
 ペンタゴンでの先週金曜の記者会見で、安倍のこの決定が日本の立憲政治にとってどれほ
ど重大な意味をもつものかに言及することなしに、ヘーゲルは米政府は安倍政権の「大胆にして、歴史的、画期的な決定」に「強い支援」を約束すると述べたのである。
 
Yet this is just the moment that Secretary of Defense Chuck Hagel has chosen to intervene -- and on the wrong side. At a Pentagon news conference last Friday, he announced the administration's "strong support" for the "bold, historic, landmark decision" of the Abe government, without mentioning the graveconstitutional issues involved.
 
 この声明は日本のみならずアメリカにとってもひとつの転換点を意味している。
 というのは、この声明でヘーゲルはアメリカが二世代にわたって支持していた日本の憲法秩序
を否定したからである。
 安倍の憲法への攻撃の歴史的意味を勘案するならば、アメリカの立場をペンタゴンの記者会
見の席でヘーゲルが述べるに任せるということがあってはならなかった。
 これは大統領自身が、アジアの自由民主主義の未来に与える安倍の決定の破壊的衝撃
(devastating impact)について国務長官とともに精査したのちに、ホワイトハウスで取り扱うべき事案だったからである。
 
This announcement represents a landmark for the United States no less than Japan -- repudiating a constitutional order that America has helped promote for two generations. Given the epochal significance of Abe's constitutional coup, it should not have been left to Hagel to announce America's position at a Pentagon press conference. The president himself should have addressed the matter at the White House, after consulting with his Secretary of State on its devastating impact on the future of liberal democracy in Asia.
 
(略)
 
 ドイツと日本にかかわる先週のニュースは「目覚まし時計」の鳴動である。
 アメリカ政府は緊急の問題と、本当に根本的な問題をしっかり識別しなければならない。ア
メリカ政府が日本、ドイツとの伝統的な戦後パートナーシップについて再考することを怠れば、われわれは遠からず独裁主義的日本(authoritarian Japan)とアメリカにきっぱり背を向けたドイツに遭遇することになるだろう。
 それは二十世紀の最大の遺産が破壊されたということを意味している。
 
Last week's news was a wake-up call. The administration must learn to distinguish the urgent from the truly fundamental. Unless it rethinks our traditional post-war partnerships, it risks an authoritarian Japan and a profoundly alienated Germany -- destroying one of the greatest legacies of the twentieth century.
(引用終わり)
 
 「7.1クーデター」についての米国政府の反応については、以下の記事を引用しておきます。産経の記事は相当眉につばをつけて読まないとだまされることがありますが、おそらく、この記事の内容はほぼそのとおりでしょう。
 
MSN産経ニュース 2014年7月2日20時08分
ヘーゲル国防長官が歓迎 集団的自衛権の行使容認で米政府
 http://sankei.jp.msn.com/world/news/140702/amr14070220080009-n1.htm
(引用開始)
【ワシントン=加納宏幸】集団的自衛権の行使を可能にする日本政府による憲法解釈変更
閣議決定について、ヘーゲル米国防長官は1日、「自衛隊のより幅広い作戦を可能にし、日米同盟をより効果的にするものとして歓迎する」との声明を発表した。「地域や世界の平和や安全に貢献しようとしている日本にとり重要な一歩だ」と評価。年末までに予定する日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定に向け、「同盟を最新のものとする努力を補完する」と期待を示した。
 また、ローズ米大統領副補佐官は同日の記者会見で、「新政策について明確にする外交努力を果たし、誤解を防ぐために透明性を確保した」とし、日本政府による近隣諸国に対する説明努力を評価。国務省のハーフ副報道官も中国や韓国の反発について、日本が近隣諸国に十分な説明をしてきたとして、退けた。
(引用終わり)
 
 日本の防衛政策の根本的な転換を、日本政府が米国政府の了解なしに踏み切れるはずがないという、日本人にとって、あまりにも自明な「公理」を適用した結果、このような米国政府の反応を伝え聞いても、誰も驚く者はいなかったのだと思います。私にしても、腹は立ちましたが、驚きはしませんでした。
 それに、米国が、「自由と民主主義の伝道師」という顔を前面に押し出しながら、他方で、自
国の利益のためなら、どんな独裁政権とでもためらいなく手を結ぶ外交政策を展開してきたことは周知のことであり、極東の日本でその「一例」が追加されただけではないか、という気持ちもあったりしました。
 
 けれど、内田樹さんによって紹介されたブルース・アッカーマン教授の論考を読むに及び、そん
な物わかりの良過ぎる態度は間違っていたということを痛感しました。
 過去の米国政府による独裁政権支援がどうあれ、今回の「7.1クーデター」への米国の支
持は、れっきとした日本に対する内政干渉、しかも、憲法秩序の破壊への支持という、最高度に悪質な干渉であるということに、もっと日本人は自覚的でなければならないと思いました。
 アッカーマン教授の論考の趣旨は、自国の外交政策の大きな過誤、すなわち、20世紀最大
の遺産の一つの破壊(destroying one of the greatest legacies of the twentieth century)をもたらすことへの警鐘なのですが、日本人の立場からも、米国の覚醒を促す方向での運動が是非必要だと思います。
 

(付録)
『水と光』 作詞作曲:中川五郎 演奏:中川五郎