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閣議決定「一問一答」増補版を点検する

 

 今晩(2014年7月23日)配信した「メルマガ金原No.1795」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
閣議決定「一問一答」増補版を点検する
 
 7月5日に内閣官房のホームページに掲載された「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答については、7月18日付のメルマガ(ブログ)で「有効活用」することをお勧めしました。
 
2014年7月18日
提案します 閣議決定「一問一答」を活用しましょう
 
 私が上記記事を書いた時点での設問は(当初から2問追加されて)全部で24問でした。
 ところが、その後、一気に35問まで増えていたということを、昨日(7月22日)の「しんぶん
赤旗」WEB版で知りました。
 
しんぶん赤旗WEB版 2014年7月22日(火)
集団的自衛権 官邸言い訳集 ウソとゴマカシ膨れる 内閣官房HPで設問・回答
22→35に
(抜粋引用開始)
 集団的自衛権行使容認の「閣議決定」に対する反対世論を意識して首相官邸が作
成した問答形式の言い訳集の設問・回答が次々追加され、内閣官房ホームページで初掲載した5日時点から13問13答増の35問35答に膨れました(21日現在)。世論に追い詰められる安倍政権の悪あがきがにじみ出ています。
(略)
 新たに追加された設問・回答の多くは、集団的自衛権問題をテーマに行われた14、15
両日の衆参予算委員会での集中審議を受けたものです。
 たとえば「自衛隊員が戦闘に巻き込まれ血を流すリスクがこれまで以上に高まるのでは?」
と設問。予算委では日本共産党笠井亮衆院議員小池晃参院議員が戦闘に自衛隊が巻き込まれる危険性を連続追及し、安倍晋三首相は「(自衛隊の活動場所が)戦闘行為の現場になる可能性はある」「身を守るため、任務を遂行するため武器の使用はある」と認めました。ところが言い訳集の回答は「自衛隊員が海外で、わが国の安全と無関係な戦争に参加することは断じてない」と言い張るだけ。
(略)
(引用終わり)
 
 これを読み、すぐに「一問一答」を読んでみました。たしかに、35問に増えていました。
 
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答
 
 7月18日に私が読んだ時に比べれば11問の増加ですが、どういう項目が増えたのか、その【問】にどういう【答】を用意したのか、以下に抜き出してみました。
 内閣官房(といっても一枚岩ではないでしょうが)の問題意識のあり処を推測する手がかり
になるかもしれません。
 
【問2】 我が国を取り巻く安全保障環境の変化とは、具体的にどのようなものか?
【答】 例えば、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の軍事技術が高度化・拡散し、北朝鮮
日本の大部分をノドンミサイルの射程に入れており、また、核開発も行っています。さらに、グローバルなパワーバランスの変化があり、国際テロの脅威や、海洋、サイバー空間へのアクセスを妨げるリスクも深刻化しています。
 
【問6】 今後、更に憲法解釈を変更して、世界各国と同様に国際法上合法な集団的自
衛権の行使を全面的に認めるようになるのではないか?
【答】 その場合には憲法改正が必要です。なぜなら、世界各国と同様に集団的自衛権
行使を認めるなど、憲法第9条の解釈に関する従来の政府見解の基本的な論理を超えて武力の行使が認められるとするような解釈を現憲法の下で採用することはできません。
 
【問10】 今回拙速に閣議決定だけで決めたのは、集団的自衛権の行使に向けた政府の
独走ではないか?
【答】 閣議決定は、政府が意思決定をする方法の中で最も重い決め方です。憲法自体に
は、自衛権への言及は何もなく、自衛権をめぐるこれまでの昭和47年の政府見解は、閣議決定を経たものではありません。今回の閣議決定は、時間をかけて慎重に議論を重ねた上で行いました。今回の閣議決定があっても、実際に自衛隊が活動できるようになるためには、根拠となる国内法が必要になります。今後、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。これに加え、実際の行使に当たっては、これまでと同様、国会承認を求めることになり、「新三要件」を満たしているか、政府が判断するのみならず、国会の承認を頂かなければなりません。
 
【問16】 今回、集団的自衛権に関して憲法解釈の変更をしたのだから、徴兵制も同様に、憲法解釈を変更して導入する可能性があるのではないか?
【答】 徴兵制は、平時であると有事であるとを問わず、憲法第13条(個人の尊重・幸福追
求権等)、第18条(苦役からの自由等)などの規定の趣旨から見て許容されるものではなく、解釈変更の余地はありません。
 
【問19】 今回の閣議決定で、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ血を流すリスクがこれまで以
上に高まるのではないか?
【答】 自衛隊員は、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて
国民の負託にこたえること」を宣誓して、任務に当たっています。自衛隊員がいざという時に備えて日頃から厳しい訓練を徹底的に行っている理由はただ一つ。国民の命と平和な暮らしを守るためであり、そのために、他に手段がないからです。
 新たな法整備により与えられる任務は、これまで同様、危険度の高い任務になります。あ
くまでも、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためのものであるという自衛隊員の任務には、何ら変更はありません。自衛隊員が、海外で、我が国の安全と無関係な戦争に参加することは断じてありません。
 また、我が国の安全の確保や国際社会の平和と安定のために活動する他国の軍隊に対
して、いわゆる後方支援といわれる支援活動を行う場合については、いかなる場所で活動する場合であっても、これまでと同様、自衛隊の部隊の安全を確保しつつ行うことは言うまでもありません。
 
【問21】 国会で議論されている「新三要件」に言う「我が国の存立が脅かされ、国民の生
命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」の有無は、どのような基準で判断するのか?
【答】 現実に発生した事態の個別・具体的な状況に即して、主に、攻撃国の意思・能力・
事態の発生場所、その規模・態様・推移などの要素を総合的に考えて、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから、「新三要件」を満たすか否か客観的、合理的に判断します。
 
【問24】 狭いところで幅33キロメートルの地点もあるホルムズ海峡に機雷が敷設された場
合、我が国に大きな影響があるのか?
【答】 我が国が輸入する原油の約8割、天然ガスの2割強は、ホルムズ海峡を通過してお
り、ホルムズ海峡は、エネルギー安全保障の観点から極めて重要な輸送経路となっています。現在、中東情勢が不安定になっただけで、石油価格が上昇し、ガソリン価格も高騰していますが、仮に、この海峡の地域で武力紛争が発生し、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合には、かつての石油ショックも比較にならない程に高騰し、世界経済は大混乱に陥り、我が国に深刻なエネルギー危機が発生するでしょう。
 
【問25】 日本は石油を備蓄しているから、ホルムズ海峡が封鎖されても「新三要件」に言
う「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」に当たらないのではないか?
【答】 石油備蓄が約6ヶ月分ありますが、機雷が除去されなければ危険はなくなりません。
石油供給が回復しなければ我が国の国民生活に死活的な影響が生じ、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されることとなる事態は生じ得ます。実際に「新三要件」に当てはまるか否かは、その事態の状況や、国際的な状況等も考慮して判断していくことになります。
 
【問27】 機雷の除去は、海外で武力を行使するものであり、海外派兵に当たるのではな
いか?
【答】 国際紛争を力で解決するために機雷を敷設し、船舶の自由な航行を妨げることは
国際法違反です。自由航行を回復するために機雷を除去することは、国際法上は武力の行使に分類されますが、機雷の除去は受動的、限定的な行為であり、敵を撃破するための大規模な空爆や地上戦とは、性格が大きく異なります。機雷の除去を行う自衛隊の船舶は攻撃的なものではなく、木や強化プラスチックでできており脆弱なため、まさに、そこで戦闘行為が行われているところに派遣して、機雷の除去を行うことは、想定されません。
 
【問30】 米国から戦争への協力を要請された場合に、断れなくなるのではないか?
【答】 武力行使を目的として、イラク戦争湾岸戦争のような戦闘に参加することは、これ
からもありません。我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がない場合、他に適当な手段がある場合、必要最小限の範囲を超える場合は、「新三要件」を満たさず、「できない」と答えるのは当然のことです。
 
【問34】 今回の政府の決定が防衛予算を増加させ、軍拡競争をあおるのではないか?
【答】 決して軍拡につながることはありません。我が国の防衛予算は、中期防衛力整備計
画に基づき、5年間、毎年0.8パーセントずつ増やすことが既に決められていますが、それでも2002年の水準に戻るにすぎません。
 
 この新たに付け加えられた11問を眺めてみて、一読誰もが気がつくのは、【問24】、【問25】、【問27】で強調されるホルムズ海峡での機雷除去です。従前から掲載されていた【問23】、【問26】を含めれば、実に5問連続で、石油輸入レーン確保関連のQ&Aが続き、他の項目に比べて異様に突出しています。
 他の項目は公明党が作成した「言い訳集」、この5問だけは自民党が作成した「自衛隊
活用宣言」という印象さえ受けます。
 「ホルムズ海峡が封鎖されれば必ず掃海艇を派遣します」という言質を、米国政府か財界
に取られているのでないか?と想像をたくましくしたくなるほどです。
 
 あと、【問10】の【答】にある「憲法自体には、自衛権への言及は何もなく、自衛権をめぐるこれまでの昭和47年の政府見解は、閣議決定を経たものではありません。今回の閣議決定は、時間をかけて慎重に議論を重ねた上で行いました」について一言します。
 「昭和47年の政府見解」とは、今回の閣議決定で採用された「新3要件論」の下敷きと
なったと言われるもので、昭和47年10月14日、田中角栄内閣が、参議院決算委員会に、委員の要求に応じて提出した資料に記載されていた見解であり、1981年に明確化された政府の集団的自衛権に関する見解の嚆矢となる表現を用いていたことで知られるものです。
 そして、1981年(昭和56年)5月29日、鈴木善幸内閣は、第94 回国会での衆議
院稲葉誠一議員提出の質問主意書に対する答弁書(内閣衆質94 第32 号)において、国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9 条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている」と、その見解を明らかにし、以後、33年間にわたり、この解釈が一貫して維持されてきたのです。
国立国会図書館刊「レファレンス」平成23年11月号掲載「憲法第9条と集団的自衛権―国会答弁から集団的自衛権解釈の変遷を見る―」(鈴木尊紘)参照
  http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/pdf/073002.pdf
 なお、内閣に対する質問主意書(議長による承認を経たもの)については、原則として7日以内に「内閣」として答弁する必要があるため(国会法74条~76条)、質問主意書対する答弁書については、必ず閣議決定を要するものとされています。
 ところで、「憲法自体には、自衛権への言及は何もなく」については、起案者がどういうつ
もりで「マクラ」に振ったのか分かりませんが、「明文規定がないのだから、内閣が自由に解釈できる」という含意である可能性もゼロではなく、そうだとすればとんでもないことですね。
 
 個々の【問】【答】に対する批判としては、井上正信弁護士によるものをご紹介していましたが、その後、伊藤和子弁護士による批判も発表されていますので、ご紹介しておきます。
 
【NPJ通信】憲法9条と日本の安全を考える 井上正信 2014年7月15日
批判バージョン 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法
制の整備について」の一問一答
 
人権は国境を越えて 弁護士伊藤和子のダイアリー 2014年7月19日
政府は平気で嘘をつく~ 集団的自衛権をめぐる政府の一問一答があまりに信用で
きない。
 
 最後に、7月18日に私が書いた「一問一答」活用の「提案」を再掲するとともに、新たな設問(11問)を加えた全35問について、その【問】だけを引用しておきます。
 
 「一問一答」で想定した【問】は、「ここを突っ込まれたら困るけれど、答えを用意しない
訳にはいかない」と官僚が智恵を絞って並べたものでしょう。
 【問】についてはよく考えていますが、【答】については、井上正信弁護士も指摘している
とおり、ほとんど「答え」になっていません。
 ということは、私たちは、この「一問一答」を、集団的自衛権行使を容認した「閣議決
定」についての、誰にでも分かるおかしなところを列挙したカタログとして「活用」できるのではないでしょうか。
 
 まずは、以上の【問】に対し、自分なりの【答】を考えてみることをお勧めします。
 次は、政府の「一問一答」の【答】を読んだ上で、それに対する再反論を考えてみましょ
う。その際には、井上弁護士の「批判バージョン」(や伊藤和子弁護士の批判)も大いに参考にしましょう。
 こういう作業は、1人でやっていてもなかなか進むものではありません。数人の仲間で集
まって、「集団的自衛権ワークショップ」をやるというのはどうですか?政府の「一問一答」はうってつけの題材になるでしょう。その際、「無料でチューターをやってもいい」という弁護士が身近にいれば、是非依頼してみてください。
 
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の全35問
【問1】 集団的自衛権とは何か?
【問2】 我が国を取り巻く安全保障環境の変化とは、具体的にどのようなものか?
【問3】 なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?
【問4】 解釈改憲立憲主義の否定ではないのか?
【問5】 なぜ憲法改正しないのか?
【問6】 今後、更に憲法解釈を変更して、世界各国と同様に国際法上合法な集
団的自衛権の行使を全面的に認めるようになるのではないか?
【問7】 国会での議論を経ずに憲法解釈を変えるのは、国民の代表を無視するも
のではないか?
【問8】 議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないのではないか?
【問9】 今回の閣議決定は密室で議論されたのではないか?
【問10】 今回拙速に閣議決定だけで決めたのは、集団的自衛権の行使に向け
た政府の独走ではないか?
【問11】 今回の閣議決定で議論は終わりなのか?
【問12】 憲法解釈を変え、平和主義を放棄するのか?
【問13】 憲法解釈を変え、専守防衛を放棄するのか?
【問14】 戦後日本社会の大前提である平和憲法が根底から破壊されるのでは
ないか?
【問15】 徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?
【問16】 今回、集団的自衛権に関して憲法解釈の変更をしたのだから、徴兵制
も同様に、憲法解釈を変更して導入する可能性があるのではないか?
【問17】 日本が戦争をする国になり、将来、自分達の子供や若者が戦場に行か
されるようになるのではないか?
【問18】 自衛隊員が、海外で人を殺し、殺されることになるのではないか?
【問19】 今回の閣議決定で、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ血を流すリスクがこれ
まで以上に高まるのではないか?
【問20】 歯止めがあいまいで、政府の判断次第で武力の行使が無制約に行われ
るのではないか?
【問21】 国会で議論されている「新三要件」に言う「我が国の存立が脅かされ、国
民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」の有無は、どのような基準で判断するのか?
【問22】 自衛隊は世界中のどこにでも行って戦うようになるのではないか?
【問23】 国民生活上、石油の供給は必要不可欠ではないか?
【問24】 狭いところで幅33キロメートルの地点もあるホルムズ海峡に機雷が敷設さ
れた場合、我が国に大きな影響があるのか?
【問25】 日本は石油を備蓄しているから、ホルムズ海峡が封鎖されても「新三要
件」に言う「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」に当たらないのではないか?
【問26】 日本は石油のために戦争するようになるのではないか?
【問27】 機雷の除去は、海外で武力を行使するものであり、海外派兵に当たるの
ではないか?
【問28】 従来の政府見解を論拠に逆の結論を導き出すのは矛盾ではないか?
【問29】 今回の閣議決定により、米国の戦争に巻き込まれるようになるのではない
か?
【問30】 米国から戦争への協力を要請された場合に、断れなくなるのではないか?
【問31】 今回の閣議決定により、必要ない軋轢を生み、戦争になるのではないか?
【問32】 今回の閣議決定によっても、結局戦争を起こそうとする国を止められないの
ではないか?
【問33】 武器輸出の緩和に続いて今回の閣議決定を行い、軍国主義へ突き進ん
でいるのではないか?
【問34】 今回の政府の決定が防衛予算を増加させ、軍拡競争をあおるのではない
か?
【問35】 安倍総理はなぜこれほどまでに安全保障政策が好きなのか?
  

(付録)
『忘れないということ』 作詞作曲:よしだよしこ 演奏:よしだよしこ