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勝俣恒久元東電会長らに「起訴相当」議決の意味するもの

今晩(2014年7月31日)配信した「メルマガ金原No.1803」を転載します。

なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
勝俣恒久東電会長らに「起訴相当」議決の意味するもの
 
東京新聞 2014年7月31日 夕刊
東電元3幹部 起訴相当」福島原発事故 検審議決 検察、再捜査へ
(抜粋引用開始)
 東京電力福島第一原発事故東電津波対策を怠ったために起きたとして、福島県民ら約五千七百人が歴代の幹部六人の捜査のやり直しを求めている問題で、東京第五検察審査会は三十一日、六人を不起訴とした東京地検の処分に対し、勝俣恒久元会長(74)ら三人を業務上過失致死傷罪で「起訴相当」と議決したと公表した。議決は二十三日付。検察が再捜査するが、仮に再び不起訴としても、別のメンバーによる検審が再び起訴相当と議決すれば強制起訴される。 
 福島第一の事故をめぐり、市民で構成する検審が関係者を起訴すべきだと判断したのは初
めて。今も約十三万人が避難生活を送る未曽有の事故で、刑事責任を問われる可能性が出てきた。
 ほかに起訴相当となったのは、武藤栄元副社長(64)と武黒一郎元副社長(68)。小森
明生元常務(61)は不起訴不当、別の元副社長ら二人は不起訴相当とした。
 捜査の最大の焦点は、東電が二〇〇八年に十五メートル超の津波を試算しながら対策を
取らなかったことが過失に当たるかどうかだった。東京地検は「最も過酷な条件での試算で、数値通りの津波の襲来を予測することは困難だった」として過失を認めなかった。
 これに対し検審は「地震津波が具体的にいつどこで発生するかは予見できない。想定外
の事態が起こりうることを前提とした対策を検討しておくべきだ」と指摘。試算を受けた東電対応を「時間稼ぎ」と断じた上で「容易に無視できないと認識しつつ、何とか採用を回避したいとのもくろみがあった」と批判した。
 勝俣元会長は事情聴取で「重要な点は知らなかった」と供述したが、検審は「信用できな
い」と一蹴。「想定を大きく超える津波が来る可能性について報告を受けたと考えられる。東電の最高責任者として各部署に適切な対応策をとらせることができた」とした。
(引用終わり)
 
 過去の検察審査会の議決には、首を傾げるものもあったことは事実ですが、東京第五検察審査会の今回の「議決の要旨」(全20ページ)を一読した上での私の感想は、「ポイントが絞られており、説得力のある優れた議決」というものでした。
 そして、この結果を勝ち取るために告訴団・弁護団のとった戦略の正しさが実証されたと思いました。
 昨年(2013年)10月16日に申立人らが提出した審査申立書(不起訴処分を不当とする理由)から一部を抜粋してご紹介します。
 
(抜粋引用開始)
 本件申立人も含む告訴人(本件申立人についても、以下「告訴人」とします)らは、平成24年(2012年)6月11日提出の告訴状と追加書面において、  
  東京電力役員15名
  法人としての東京電力株式会社
  国(原子力安全委員会原子力安全保安院文部科学省)の行政機関職員15名
  福島県放射線健康リスク管理アドバイザー3名
の合計33名と1社を、被告訴人として告訴しました。
 また、告訴人らは、東京電力とその役員ら、国行政機関職員ら、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーらの被告訴人らには、業務上過失致死傷罪、公害犯罪処罰法違反、業務上過失激発物破裂罪が成立すると主張してきました。
 しかし、検察審査会への審査に当たって、市民によって構成される検察審査会の審理がより深まり充実したものとなるように、論点が明確になり的確な判断がなされるように、審査対象を次の点に限定し、この点についてのみ、判断を求めることとしました。
(引用終わり)
 
 ・・・とした上で、被告訴人を「本件事故以前に原子力発電を担当していた東京電力員の中から勝俣恒久会長はじめとする6名に絞り、また、対象となる罪名も、「検察庁が成立の可能性を否定していない、業務上過失致死傷罪に限定」しました。
 また、争点についても、「東京電力及び被告訴人である取締役らは、幾度となく福島第一原発における津波高の試算を繰り返し、警告的な数値を得ていました。それらをひた隠しにして、何らの安全性強化策もとらずに、国の規制当局のたびたびの催促によって、ようやく渋々と試算結果を報告したのは震災の4日前でした」という点に絞り込んだのですが、この見通しは大正解でしたね。
 「議決の理由」は、次のように述べています。
 
(抜粋引用開始)
 当審査会は、津波襲来に関する予見可能性を検討する上で、地震調査研究推進本部(以下「推本」という。)の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下「長期評価」という。)とこれに基づく津波高の試算が重要な意味を持つと考えるので、以下、推本の長期評価がどのように扱われていたかを踏まえ、検討を行う。
(引用終わり)
 
 なお、議決の要旨は以下のとおりです。それほど長くはなく、難しい概念が使われている訳でもないので、誰でも読んで理解できます。
 
平成25年東京第五検察審査会審査事件(申立)第11号、同第12号
申立書記載罪名 業務上過失致死傷
検察官裁定罪名 業務上過失致死傷
議決年月日 平成26年7月23日
「議決の要旨」
 
 なお、この議決を受けて、告訴団の武藤類子団長らによる緊急記者会見が福島県庁内で行われ、IWJ福島によって中継されました。
 
2014/07/31 【福島】福島原発告訴団 検察審査会による東電旧経営陣らへの起訴相当を含む議決をうけての緊急記者会見(動画)
 
 これから東京地検による再捜査となるので、まだまだ道程(みちのり)は遠いですが、かくも大きな人災が引き起こされながら、「誰も責任をとらない」「誰も責任を問われない」という結果が容認されてはならないという意識が、検察審査会のメンバーの多くにも共有されたからこそなされた議決だと思います。
 もちろん、道徳・倫理と法律論を混同してはなりませんが、この両者が全く無縁のものであるはずがありません。道徳・倫理に支えられてこそ、法律論も正しい筋道から逸れることなく、適正・妥当な結論に達することができるのです。
 そのような意味から、先日の福井地裁による大飯原発運転差止判決に続く、勇気づけられる司法の動きであり、是非多くの人と情報を共有しなければと思い、取り上げることにしました。
 

(付録)
『血まみれの鳩』 作詞作曲:西岡たかし 演奏
長野たかし