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安倍首相の答弁から露呈した「外見的立憲主義」

 

 今晩(2014年8月5日)配信した「メルマガ金原No.1808」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安倍首相の答弁から露呈した「外見的立憲主義
 
 7月1日閣議決定について、あれこれ考えをめぐらせていると、どんどん迷路に踏み込んでいくようで、少しもすっきりしないということは何度か書いてきました。

 また、7月14日に衆議院予算委員会で、翌15日に参議院予算委員会で行われた閉会中集中審議についても、長時間の映像を全部視聴する時間的余裕がなく、つまみ食い的に何カ所か視聴しただけなので、気にはなっているのです。

衆議院インターネット審議中継
  ↓
カレンダーから「2014年7月14日」を選択してクリック
  ↓
会議名から「予算委員会」を選択してクリック
 
参議院インターネット審議中継
  ↓
カレンダーから「2014年7月15日」を選択してクリック
  ↓
会議名「予算委員会」の右横の2つめのアイコン(発言者一覧)を選択してクリック

 以上から、審議中継の映像を視聴することができますが、さすがにこれを全編視聴するには相当の忍耐心が必要でしょう。「日本の将来の命運がかかっている」と思えば、どんな苦痛でも耐え忍べないことはないはずとはいうものの・・・ねえ。
 
 そこで、とりあえず、一気に視聴することは諦めて、注目すべき答弁を引き出した質問者ごとに、少しずつ取り上げて検討してみようと思います。
 最初に取り上げるのは、民主党大塚耕平参議院議員による質問です。
 映像を視聴するのは大変という人には、会議録をお読みになることをお勧めします。
 
第186回国会閉会後 予算委員会 第1号
平成二十六年七月十五日(火曜日)

 日銀出身で、2001年、2007年、2013年と、3期連続して愛知選挙区から参議院議員選挙に当選している大塚議員は、民主党「中間派」らしいのですが、それはともかく、私が大塚議員の質問の中で何に注目したかを述べる前に、大塚議員自身の質問に臨むにあたっての問題意識をまとめた部分を引用しましょう。
 
(引用開始)
 そこで、長官(金原注:横畠裕介内閣法制局長官のこと)、今から申し上げることは、必要があれば紙でもお渡ししますので、今後の個別法の策定、そして国会への提出、我々は本当は閣議決定撤回してもう一回きちっと国会で議論させてくださいという立場ですよ。だけど、はい、分かりましたということにはならないと思いますので、我々が何を懸念しているかというこ
とを申し上げます。
 一、密接な関係にある国の定義が曖昧であり、条約関係のない、つまり米国以外も対象
にしているという前提に立っているのではないか。でも、これは少し緩和されました。
 二、日本の実質的利益の侵害を前提としないことから、日本に直接的な影響が及ばない
場合も対象にしているのではないか。ここはまだ不明確なので、是非今後の議論を詰めさせ
てください。
 三、新三要件は抽象的な表現にとどまっており、自衛隊が出動するケースが恣意的に弾
力化される危険性をはらんでいるのではないか。これは、少し明らかになりました。
 そして、先ほどの新三要件の、密接な関係にある国に対する武力攻撃が現実の武力攻
撃だということが明らかになったので少し緩和されましたが、まだ完全じゃありません。
 そして、その結果として、つまり明らかでない部分をもうちょっと明らかにしていただかないと、
その結果として他国の先制攻撃を支援するために自衛隊が出動する危険性があり、専守防衛の範囲を逸脱するのではないかという懸念があること。これは、そうじゃないということは何度も答弁しておられますが、さっきの武力攻撃の定義のところをきちっと明確にすることで、よ
り国民の皆さんが安心できる組立てをしていただかないといけないと思います。
そして、六、今回の閣議決定は、国内向けには従来の憲法解釈の基本的考え方を変え
るものではないと説明する一方、国際的には集団的自衛権が根拠となる場合もあると説明しており、国民と諸外国に対して異なる説明をしていること。それ、別に否定しているんじゃないんですよ。否定していないです、総理、僕は。つまり、そういう考え方で今回政策を打ち出
しておられるというのは理解できましたから整理しているんです、今。
七、そうした複雑な法理を用いたことにより、今回の閣議決定は、いわゆる集団的自衛権
を自国のための集団的自衛権と自国のためではない集団的自衛権という二つに分類する結果となっている。政府はあくまで、このうち前者の自国のための集団的自衛権を認めたにすぎないという論理を駆使しているが、こうした分類は国際法的には存在していない。諸外国からは、集団的自衛権を認めたということは自国のためではない自衛権、つまり他国のための集団的自衛権の行使を求められる危険性があるのではないかと心配しているということ
です。
八、政府がホルムズ海峡等における機雷除去に関して行っている説明では、国際司法
裁判所が明らかにした集団的自衛権行使要件である他国への武力攻撃の事実、支援の要請の二つを満たせない事態が生じることも想定され、集団的自衛権では説明できな
いケースが発生する可能性がある。
以上の矛盾に対して、より整合的な法理としては、自国のための集団的自衛権という国
際法的には存在しない概念を用いるよりは、集団的自衛権的な要素を含んだ個別的自衛権という概念を用いることも頭の体操としてはあり得ると。従来の憲法解釈との整合性及び諸外国に誤解を与え他国のための集団的自衛権の行使を求められる危険性を排除する観点から、あくまで個別的自衛権の対応範囲、考え方を弾力化するという選択をする方が相対的に論理性が高く、歴代の政府が選択してきた対応との継続性も担保さ
れるという意見もあるということです。
以上申し上げたことは、今後も議論させていただきますが、法制局長官は、法案審査で
法制局に法案が上がってきたときにはきちっとそういう点を詰めていただきたいということを要
望しておきます。
(引用終わり)
 
 民主党きっての政策通と言われるだけのことはあり、確かに「頭の体操」として、大塚議員による質疑を読み返すことには十分な価値があると思いました。
 
 さて、私が特に関心を持った部分はどこかと言えば、大塚議員が「六、今回の閣議決定は、国内向けには従来の憲法解釈の基本的考え方を変えるものではないと説明する一方、国際的には集団的自衛権が根拠となる場合もあると説明しており、国民と諸外国に対して異なる説明をしていること。(略)そうした複雑な法理を用いたことにより、今回閣議決定は、いわゆる集団的自衛権を自国のための集団的自衛権と自国のためではない集団的自衛権という二つに分類する結果となっている。政府はあくまで、このうち前者の自国のための集団的自衛権を認めたにすぎないという論理を駆使しているが、こうした分類は国際法的には存在していない。諸外国からは、集団的自衛権を認めたということは自国のためではない自衛権、つまり他国のための集団的自衛権の行使を求められる危険性があるのではないかと心配している」と述べている部分です。
 
 これに関連する質疑は、岸田文雄代務大臣との間でなされています。
 
(引用開始)
大塚耕平君 閣議決定の文書、ここにございますが、総理も熟読しておられると思いますけれども、集団的自衛権という文言が出てくるのは実は随分後の方になってからなんですね。御承知のとおり、三、憲法九条下の下で許容される自衛の措置の(四)になって初めて出てまいります。我が国による武力の行使が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある、こういう前
提で今の総理の御説明も成り立っておられます。
そうすると、防衛大臣にお伺いしたいんですが、いや、これは外務大臣かもしれません。
集団的自衛権という概念の中に、自国のための集団的自衛権と自国のためでない集団
自衛権という区別があるんでしょうか。
国務大臣岸田文雄君) 国際法上の議論として、そういう区別の議論があるというこ
とは承知はしておりません。
(引用終わり)
 
 7月1日閣議決定「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」における問題の上記レトリックを再確認しておきます。
 
(引用開始)
 我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然であるが、国法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法
上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。
(引用終わり)
 
 この、ある種「巧妙な」レトリックについては、私も以前取り上げたことがありました。
 
2014年7月26日
閣議決定」で「集団的自衛権」の定義は変更されたのか?
 
 大塚議員がこの点を追及し、岸田外務大臣から上記のような答弁を引き出したことは是非記憶しておくべきでしょう。
 
 さて、もう1つ、私が注目したのは、大塚議員からの最後の質問に答えた安倍晋三首相の答弁です。この点に注目すべきだと教えてくれたのは、東京大学法学部の石川健治教授であり、7月16日にTBSラジオの番組「萩上チキSession22」に出演した中で指摘されていました。

SS22 石川健治×木村草太 「集団的自衛権の国会論戦を徹底分析」2014.07.16
 https://www.youtube.com/watch?v=WcVnGtJXs4I

 まず、会議録の中から、問題の安倍首相の答弁を引用します。

(引用開始)
 国会は国権の最高機関であります。他方、法制局長官からお答えをしたように、憲法六十五条において、行政権は内閣に属するわけであります。政府に属するわけであります。そして、日々の行政において、我々は憲法尊重擁護義務がございますから、当然、その中において憲法を適切に解釈しながら行政を行っていくところであります。適切に行う
上においては、解釈を行っていくということであります。
 そして、安全保障についてのこの憲法解釈でありますが、憲法の中に明示的に自衛権
あるいは自衛隊の存在が書き込まれていないわけでございます。それによって、我々は、現在の安保政策の根幹の解釈については、言わば解釈の積み重ね、それは多くは国会答
弁によってなされてきているわけでございます。
(引用終わり)

 この答弁の中の「憲法の中に明示的に自衛権あるいは自衛隊の存在が書き込まれていないわけでございます」について、上記番組の31分~で石川教授が解説しておられますが、「外見的立憲主義」の地金があらわれたものという評価なのです。
 石川教授の説明を部分的に書き起こしてみました。

(引用開始)
 「書かれていなければ何をやってもいいんだ」「禁止されていなければ何をやってもいいんだ」ということなんですね。これは一見分かりやすいようですけれども、これは大変危険な議論であるということを今日は言いたい訳です。そもそもですね、憲法に禁止されてなければ何でもしていいのか、この構造というのはどういうことかというと、本来は絶対的な権力、専
制的な権力を自分たちは持ってるんだけども、憲法に書いてることについては、国民と妥協して、憲法に従いますよ、という風に言ってることに他ならない訳です。だから、立憲主義衣服をまとっているけども、その背後には専制権力の鎧が見え隠れしているという、そういう構造になってる訳です。(略)本当は何でも出来るんだと、だけども書かれていることだけに
ついて約束は守ると、これは本当の立憲主義じゃないんですよね。(略)こういう場合の立憲主義というのは、「外見的立憲主義」って言うんですよ。
(引用終わり)

 「外見的立憲主義」!、実に懐かしい概念で、法学部を卒業して以来というか、司法試験に合格して以来というか、それ以降、まず念頭に浮かべる必要を感じたことのない概念を、目の前で行われている国会審議の解説で聞くことになるとは、実に恐るべき時代になったものです。
 もちろん、与党関係者やそのシンパは、「首相の答弁にそのような意図はなく、曲解である」と主張するでしょうが、これは首相の主観的意図の問題ではなく、これまでの首相及び与党、ならびにその周辺が、ここに至るまでとってきた憲法との向き合い方の総体に対する評価の問題であり、私は、全面的に石川教授の意見に賛成です。

 このように、決して実り多い議論がなされたとは思われていない国会審議でも、子細に検討すれば、有益な知見が得られるものであり、食わず嫌いで敬遠する態度は正しくないということをあらためて認識したのでした。
 

(付録)
『Don't mind (どんまい)』 作詞作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ