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安倍内閣総理大臣ら全閣僚の“懲戒処分”を求めた珍道世直さん ※追記あり

 今晩(2014年8月11日)配信した「メルマガ金原No.1814」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安倍内閣総理大臣ら全閣僚の“懲戒処分”を求めた珍道世直さん ※追記あり
 
 「7月1日閣議決定」をめぐっては、松阪市山中光茂市長が違憲訴訟を提起する意向を表明しており、その動きについては私もメルマガ(ブログ)で取り上げました。
 
2014年7月18日
「7/1閣議決定」は憲法違反か?
 
 ところで、元三重県職員の珍道世直(ちんどうときなお/75歳)さんという方が、既に閣議決定の無効確認などを求める訴訟を東京地裁に起こしたというニュースを目にされた方も多いと思います。
 しかし、その訴訟の詳細がマスメディアで報じられることもなく、私自身、そもそも弁護士が代理人についているのか否かすら知りませんでした。
 なお、今日になって、msn産経ニュースが比較的詳細な報道をしていたことに気がつきました。
 
 
 去る8月9日、その珍道さんも会員となっている「九条の会・津」主催により、「私が『集団的自衛権の行使容認は憲法違反』と提訴したわけ」と題した珍道さんの講演会が開かれ、IWJによって中継されたアーカイブ映像を視聴することができます。
 
 
 私は、この映像を視聴するとともに、資料としてアップされている「訴状」及び「訴状(補充書)」を読ませてもらい(プリントアウトした上で拡大コピーしてようやく読めました)、珍道さんのこの訴訟にかける思いの概略をようやく理解できた思いがしました。
 そこで、皆さんにも、是非この「訴状」(及び「補充書」)を一読されることをお勧めしたいと思います。
 
 なお、この訴訟の概要は以下のとおりです。
 
係属裁判所 東京地方裁判所
提訴日 平成26年7月11日
事件名(訴状の標題による) 「閣議決定」が憲法に違反する決定であり無効であることの確認等を求める
原告 珍道世直
原告訴訟代理人 なし(本人訴訟)
被告 内閣総理大臣 安倍晋三 外18名(全国務大臣
請求の趣旨(訴状から引用)
 2014年7月1日、安倍内閣が行った「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(憲法9条の下で許容される自衛の措置)」は、憲法第9条に違反する決定であり、無効であることの確認を求める。併せて、この閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した
各大臣の懲戒処分を求める。
その他 提訴後、弁護士からの助言により、10万円の損害賠償(慰謝料)の支払を求める請求を追加したと述べられていました(映像の52分~)。
早期の却下を避けるため、損害賠償請求を追加したのは当然の戦略だとは思いますが、安倍晋三ほか全閣僚「個人」を訴えている訴訟で損害賠償請求を追加というのは、国家賠償法ではなく、民法に基づく請求なのだろうか?などというのは技術的な問題ですが・・・。
 
 私は、IWJの中継を視聴して、珍道さんが、閣議決定違憲確認請求の他に、総理大臣以下各大臣に対する“懲戒処分”を求めていたということを初めて知りました(産経ニュースでは報じられていたようですが)。
 「そんなこと出来るの?」と疑問に思われるでしょうね。
 まずは、珍道さんの主張を訴状・請求の原因及び要点から引用してみます。
 
(引用開始)
7 また、この閣議決定を先導した安倍内閣総理大臣及びこれに加担した全ての各国務大臣は、憲法第99条の「憲法尊重擁護の義務」(天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員は、この憲法を尊重し、擁護する義務を負う)に違反しており、国家公務員法による国家公務員特別職の官吏として、国家公務員法第82条の懲
戒処分(免職、停職、減給のいずれか)に処せられるべきである。
(引用終わり)
 
 実は、請求の趣旨で求められた「この閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した各大臣の懲戒処分を求める」という請求に対応する請求の原因(請求の趣旨を根拠付ける事実及び主張)はこれだけなのです。
 何しろ、閣議決定のわずか10日後に訴状を裁判所に提出したのですから、まあ仕方がないでしょうが。
 
 珍道さんが根拠とした条文は以下のとおりです。
 
第八十二条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫
理法第五条第三項 の規定に基づく訓令及び同条第四項 の規定に基づく規則を含む。)
に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
2 略
 
 法律解釈論としては、82条1項にいう「職員」とは?ということをまず確定することが第一歩です。
 国家公務員法1条1項は、「この法律は、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする」と定め、さらに続く第2条で、「国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ(1項)」、「一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する(2項)」と規定した上で、「この法律の規定は、一般職に属するすべての職(以下その職を官職といい、その職を占める者を職員という。)に、これを適用する。(略)(4項)」と定めていますので、以後、国家公務員法に「職員」という用語が使われていれば、特別な規定がない限り、それは一般職国家公務員のことであると解釈することになります。さらに、2条5項はだめ押し的に、「この法律の規定は、この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り、特別職に属する職には、これを適用しない」と規定されていますので、特別職国家公務員である内閣総理大臣国務大臣(法2条3項)には、国家公務員法の諸規定は適用されません。もちろん、82条1項の「懲戒処分」も適用されないと解するほかありません。
 それに、国家公務員法84条1項は、「懲戒処分は、任命権者が、これを行う」と規定していますが、内閣総理大臣の任命権者というのは天皇ですからね(憲法6条1項)。天皇が総理大臣を懲戒できるというような解釈は、象徴天皇制の大原則からも、到底導くことはできません。
 さらに、だめ押しのだめ押しですが、訴状・請求の趣旨において、「懲戒処分を求める」と請求しても、裁判所に公務員を懲戒する権限はそもそもありませんので(それは「任命権者」にのみあります)、請求自体成り立ちません。
 
 以上のとおり、珍道さんの「懲戒処分」を求める請求は、あえなく却下となるものと思われます。そもそも、弁護士が代理人となっていれば、こういう請求をするということ自体「あり得ない」ことだったでしょう。本人訴訟なればこそ、東京地裁にこのような訴えが登場したということだと思いますが、私は、そのこと自体には十分な意義があると思います。
 もう一度、上記国家公務員法82条1項の条文を読んでみてください。一号はともかくとして、
 二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
 三  国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
というのは、まさに安倍内閣の全閣僚が犯した非行そのものではないですか。
 残念ながら、彼らに国家公務員法上の「懲戒処分」を加える根拠規定はありません。
 しかし、彼らが何の責任も問われないというようなことが許されて良いのか?という憤りは、多くの国民が共有する気持ちだと思います。
 別の観点からですが、私も似たような思いを文章にしたことがあります。
 
 
 そういう意味からも、山中光茂松阪市長が中心となる違憲訴訟と並び、珍道世直さんが始めたこの訴訟についても注目していきたいと思います。
 ところで、松阪市三重県でしたよね?三重には立派な人が多いなあ。

(追記 2014年12月12日)
 上記訴訟については、10月17日に第1回口頭弁論が開かれたものの即日結審し、2014年12月12日(金)、東京地方裁判所は、珍道さんの請求を却下する判決を言い渡しました。

NHK NEWS WEB 2014年12月12日 17時11分
集団的自衛権訴訟 原告の訴え退ける

(抜粋引用開始)
(略)
 三重県の元県庁職員、珍道世直さん(75)は、集団的自衛権の行使を容認した、ことし7月の閣議決定について、「自衛の名の下に他の国との戦闘に道を開くもので、戦争の放棄を定めた憲法9条に明確に違反する」と主張して、当時の安倍内閣の閣僚に対し、閣議決定の無効などを求めていました。
 12日の判決で東京地方裁判所の岡崎克彦裁判長は「今回の閣議決定は安全保障体制の整備について、内閣としての意思決定をしたもので、直ちに原告の権利を制限するものではない。原告と内閣との間で具体的な権利や義務について争っているとはいえず、訴えは法律に適さない」として訴えを退けました。
 判決のあと、原告の珍道さんは「閣議決定で安全保障上、国民の権利や義務に大きな影響を及ぼす事態が生じており、判決は受け入れられない」と述べ、控訴する考えを示しました。
(引用終わり)

 実は、私のこのブログを読まれた珍道さんご本人から、先月の終わりにご丁重なお手紙を頂戴したところ、12日の判決が厳しいものになることを予想しながら、その場合には直ちに控訴したいと書かれていました。
 その手紙の末尾の部分を引用しても、おそらく珍道さんもご了解いただけるだろうと判断し、以下にご紹介することとします。私たちも珍道さんと志は一つだと是非お伝えしたいと思います。
 
「裁判所の壁と国の壁の二重の大きな壁が立ちふさがっておりますが、“戦争への道を開いてはいけない”、“不戦100年の国家”、“不戦永久の国家”を願って、一微力な国民ですが、取り組んで参りたいと決意いたしております。どうか今後ともお見守り下さい。」
 

(付録)
『いつのまにか』 原詩:山内 清 作曲:中川五郎 演奏:中川五郎