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今晩(2014年8月14日)配信した「メルマガ金原No.1817」を転載します。

なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
刑事特別法で住民を威嚇する植民地政府に対抗するために
 
 今日(8月14日)、沖縄県名護市辺野古沖合で、沖縄防衛局によるブイやフロートの設置作業が始まりました。ブイなどは普天間基地の移設に伴う海底ボーリング調査の工事区域を示すもので、反対派がその区域内に立ち入った場合、警備にあたる海上保安庁が、刑事特別法によって検挙するとの方針が報じられています。
 
 この「政府方針」は、昨年末の仲井眞弘多沖縄県知事による「変節」直後、産経ニュースが政府は28日、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古への移設について、辺野古での代替施設建設に対する妨害を排除するため、米軍施設・区域への侵入を禁じる「刑事特別法」を適用する方針を固めた。建設場所のキャンプ・シュワブ沿岸部は立ち入り制限海域で、同法の適用が可能だ。海上保安庁沖縄県警を積極投入して妨害を厳
正に取り締まる」と誇らしげに報道していましたが、その後の他メディアの続報などから、よくある産経の「ガセ」ではなかったことが明らかになりました。
 
msn産経ニュース 2013年12月29日
辺野古工事 海保も投入 妨害即検挙 刑事特別法適用方針
 
 その刑事特別法とは、以下のような長大な名称の法律です。
 
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法(昭和二十七年五月七日法律第百三十八号)
 
 この法律によって住民を「威嚇」しようとしている罰条は第2条です。
 
(施設又は区域を侵す罪)
第二条 正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(協定第二条第一
項の施設又は区域をいう。以下同じ。)であつて入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、一年以下の懲役又は二千円以下の罰金若しくは科料に処する。但し刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条がある場合には、同法による。
 
 上記構成要件中の「合衆国軍隊が使用する施設又は区域(協定第二条第一項の施設又は区域をいう。以下同じ。)」を理解するため、日米地位協定も読んでおきましょう。
 
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
第二条
1(a) 合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設
及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。
(b) 合衆国が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の終了
の時に使用している施設及び区域は、両政府が(a)の規定に従つて合意した施設及び区域とみなす。
 
 そして、去る7月1日の閣議(そう、例の「閣議決定」と同じ閣議です)において、キャンプシュワブ沖水域について、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」第2条に基づく施設及び区域の共同使用、使用条件変更及び追加提供についての決定がなされ、翌7月2日付の官報で告示されました。
 これを報じた琉球朝日放送の映像と沖縄タイムスの記事をご覧ください。
 
琉球朝日放送 2014年7月2日 11時44分
辺野古制限水域拡大 官報に告示
 
沖縄タイムス 2014年7月3日 06時43分
辺野古制限域、月内にもブイ 官報告示
(抜粋引用開始)
 米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設に関して政府は2日、キャンプ・シュワブ沖を
工事完了日まで常時立ち入り禁止とする臨時制限区域(約561ヘクタール)の設定と、同区域の共同使用を官報に告示した。告示によって効力が発生し、反対活動などで進入した場合、刑事特別法などが適用される可能性がある。これまで陸岸から50メートルだった常時立ち入り禁止の範囲は、最大で沖合約2キロまで拡大した。
 海上の臨時制限区域を明確にするため、沖縄防衛局は今月中にも着手する海底ボーリン
グ調査を前に、ブイ(浮標)の設置を予定している。
 防衛省は制限区域を設定する目的を安全確保とするが、法的に進入を制限し、円滑に工
事を進めるため、反対派による妨害行為を阻止することも狙いとみられる。
 漁船操業制限法を一部改正し、臨時制限区域と同じ範囲を常時、漁船操業禁止とする
ことも合わせて告示され、沖縄防衛局は同日、関係漁協に連絡するよう県に対して通知した。同局は今後、関係漁協との補償調整を進める。
 臨時制限区域の設定と共同使用は6月20日に日米合同委員会で合意し、1日の閣議
で決定した。
 官報では同区域の設定について、「陸上施設と普天間飛行場代替施設の建設に係る区
域の保安並びに水陸両用訓練に使用するため」と記載した。
 日米地位協定に基づく共同使用は「沖縄防衛局が普天間飛行場代替施設の建設のた
め」と、日本政府が移設工事のため制限区域に出入りする根拠としている。
(略)
(引用終わり)
 
 今日(8月14日)のブイ設置は、7月1日・閣議決定で定めた安倍内閣の規定方針がいよいよ現地で実施に移されたということです。
 産経ニュースが「海上保安庁沖縄県警を積極投入して妨害を厳正に取り締まる」と「威
嚇」したことが現実のものになろうとしています。
 刑事特別法2条が適用された著名な事件として「砂川事件」がありますが(1957年)、そ
れから半世紀以上も経過した21世紀の今日、本気で国はそのような事態を繰り返そうというのでしょうか?おそらく安倍政権ならやるでしょう。あの内閣には冷静なブレーキ役など存在しないということは、政権発足後、いやというほど見せつけられてきましたから。
 
 しかし、考えてもみて欲しいのですが、刑事特別法というのは、長々しい正式名称から一目瞭然のとおり、日米安保条約及び日米地位協定を実効あるものとするため、日本国の施政下にある人間(多くは日本国民)を規制して、米軍を守るための法律ですよ。
 今まさに住民と海上保安庁とがにらみ合っている海域は、7月1日「閣議決定」及び翌日の官報「告示」によって、日本も「共同使用」できるとはいえ、基本的に「合衆国軍隊が使用する施設又は区域」ということになったのであり、海上保安庁は、その米軍が「使用する施設又は区域」を守るために日本国民を排除しようとしているのです。
 いずれこの海上保安庁の艦船群に、海上自衛隊掃海母艦ぶんごを加え、国民に武器を向けて抑圧しようとしているのが安倍政権の姿です。

 砂川事件が「(旧)日米安保条約の合憲性」を正面から争う事件に発展したように、

今、安倍政権がやろうとしていることは、究極的には、多くの国民に、日米安保条約が本当に国民のために役立っているのか?という根本的な問題に否応なく直面させることにならざるを得ません(政権にそんな覚悟があるのかという疑問はありますが)。

 
 辺野古沖で展開している事態は、心ある人にとっては、宗主国の利益を守るために住民を弾圧する植民地政府そのものという実に「分かりやす過ぎる」構図になっています。
 私たちは、この構図を徹底的に国民の共有認識に高めるためにあらゆる努力を惜しまない
ことが必要だと思います。