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ヘイトスピーチ規制を強く勧告した国連人種差別撤廃委員会

 

 今晩(2014年9月2日)配信した「メルマガ金原No.1836」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
ヘイトスピーチ規制を強く勧告した国連人種差別撤廃委員会
 
 去る8月20日・21日の両日、スイスのジュネーブにおいて、国連人種差別撤廃委員会による人種差別撤廃条約の実施状況に関する第7・8・9回日本政府報告書についての審査が行われ、同月29日に総括所見が採択されましたが、中でも、ヘイト・スピーチに対する適切な対策を講じることを日本政府に対して厳しく勧告したことは、報道で承知している方も多いことと思います。
 
毎日新聞 2014年08月29日 21時38分(最終更新 08月29日 23時32分)
ヘイトスピーチ:起訴含め刑事捜査を日本に勧告 国連

 
http://mainichi.jp/select/news/20140830k0000m030129000c.html
(抜粋引用開始)
【カイロ坂口裕彦】ジュネーブにある国連の人種差別撤廃委員会は29日、異なる人種や数民族に対する差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を行った個人や団体に対して「捜査を行い、必要な場合には起訴すべきだ」と日本政府に勧告した。インターネットを含むメディアでのヘイトスピーチについても適切な措置をとることを要請。人種差別の禁止に向けて、「特
定もしくは包括的な法整備」の実現を求めた。
 国連人権委員会も7月、ヘイトスピーチなど人種差別を助長する行為の禁止を勧告。両
委員会の勧告に強制力はないが、国連ヘイトスピーチへの厳しい対応を相次いで求めた
ことで、日本政府や国会は早期の対応を迫られた形だ。
 撤廃委員会の最終見解は、前回(2010年)に比べ、ヘイトスピーチの記述が大幅に増
加。日本での問題の深刻化を印象づけた。見解は、日本での暴力的なヘイトスピーチの広がりに懸念を表明。一方で、ヘイトスピーチ対策を、その他の抗議活動などの「表現の自由を規制する「口実にすべきではない」ともくぎを刺した。差別的な街宣デモなどへの断固とした対応や、教育の充実などによる差別防止も勧告した。また、ヘイトスピーチを行った公職者や
政治家に対しての制裁も促した。
 日本は人種差別撤廃条約に加盟するが、ヘイトスピーチの法規制を求める4条は「表現の
自由」を理由に留保している。委員会はこの留保の撤回も求めた。ドイツなど欧州ではヘイト
スピーチを法律で規制している国が多い。
(略)
(引用終わり)
 
 なお、今年の3月、私のメルマガ(ブログ)でも、人種差別撤廃条約ヘイトスピーチ規制の問題について、元百合子さんの論考をもとに考えたことがありました。
 
2014年3月25日
ヘイト・スピーチと法規制~人種差別撤廃委員会一般的勧告35から考える
 
 そこでもご紹介した人種差別撤廃委員会が2013年に公表した一般的勧告35「人種主義的ヘイトスピーチと闘う」は是非通読していただきたと思います。
 
2013年9月26日 
人種差別撤廃委員会 一般的勧告35
人種主義的ヘイトスピーチと闘う(人種差別撤廃委員会一般的勧告 35 翻訳委員
会訳)
 
http://www.hurights.or.jp/archives/opinion/pdf/%E4%B8%80%E8%88%AC%E7%9A%84%E5%8B%A7%E5%91%8A35.pdf
 
 上記一般的勧告35の総括において、人種差別撤廃委員会は次のように述べています。
 
(引用開始)
46.世界のさまざまな地域にヘイトスピーチが蔓延してゆくことは、人権への重大な現代的挑戦であることに変わりない。ひとつの国が本条約全体を誠実に実施するということは、ヘイトスピーチ現象に対抗するより広範な世界的取り組みの一部をなすものなのであり、不寛容と憎悪から解放された社会ビジョンを生きた現実として実現しよう、普遍的人権を尊重する文
化を促進しようという、最もすばらしい希望を表現していることなのである。
(引用終わり)
 
 このような基本的姿勢を昨年9月に公表したばかりの人種差別撤廃委員会が、日本におけるヘイトスピーチレイシズムデモの映像を視聴したというのですから、以下のような勧告が出たのも当然と言わねばなりません。
 
 8月29日に採択された総括所見の英語原文は以下のとおりです。
 
Committee on the Elimination of Racial Discrimination
Concluding observations on the combined seventh to ninth periodic reports
of Japan
 
http://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2014/09/01/Concluding%20Observation%20%28Advance%20unedited%20Version%29.pdf
 
 ヒューライツ大阪(一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター)サイトに、同総括所見の人種差別撤廃NGO ネットワーク(ERD ネット)による仮訳が掲載されています。
 
 
 また、差別反対東京アクションによる翻訳も公開されています。
 
http://ta4ad.net/wp/wp-content/uploads/2014/09/1d55f383b97c46c02b35e3c58e68b997.pdf
 
 ここでは、人種差別撤廃NGO ネットワーク(ERD ネット)による仮訳から、ヘイトスピーチ関連の項目を抜き出してご紹介します。
 
(引用開始)
C.懸念と勧告
4 条に準拠した立法措置

10.締約国の4 条(a)(b)項の留保の撤回あるいはその範囲の縮減を求めた委員会の勧告
に関して締約国が述べた見解および理由に留意するものの、委員会は締約国がその留保を維持するという決定を遺憾に思う。人種差別思想の流布や表明が刑法上の名誉毀損罪および他の犯罪を構成しうることに留意しつつも、委員会は、締約国の法制が4 条のすべての
規定を十分遵守していないことを懸念する(第4 条)。
ヘイト・スピーチとヘイト・クライム
11.委員会は、締約国における、外国人やマイノリ ティ、とりわけコリアンに対する人種主義
的デモや集会を組織する右翼運動もしくは右翼集団による切迫した暴力への煽動を含むヘイト・スピーチのまん延の報告について懸念を表明する。委員会はまた、公人や政治家によるヘイト・スピーチや憎悪の煽動となる発言の報告を懸念する。委員会はさらに、集会の場やインターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチの広がりと人種主義的暴力や憎悪の煽動に懸念を表明する。また、委員会は、そのような行為が締約国によって必ずしも適切に捜査
や起訴されていないことを懸念する。(第4条)
人種主義的ヘイト・スピーチとの闘いに関する一般的勧告35(2013 年)を思い起こし、
員会は人種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならないことを想起する。しかしながら、委員会は締約国に、人種主義的ヘイト・スピーチおよびヘイト・クライムからの防御の必要のある被害をうけやすい集団の権利を守ることの重要性を思い起こすよう促す。したがって、委員会は、以下の適切な措置を取るよ
う勧告する:
(a) 憎悪および人種主義の表明並びに集会における人種主義的暴力と憎悪に断固と
して取り組むこと、
(b) インターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチと闘うための適切な手段を取る
こと、
(c) そうした行動に責任のある民間の個人並びに団体を捜査し、適切な場合は起訴す
ること、
(d) ヘイト・スピーチおよび憎悪扇動を流布する公人および政治家に対する適切な制裁
を追求すること、そして、
(e)人種主義的ヘイト・スピーチの根本的原因に取り組み、人種差別につながる偏見と
闘い、異なる国籍、人種あるいは民族の諸集団の間での理解、寛容そして友好を促進
するために、教授、教育、文化そして情報の方策を強化すること。
特に重要な勧告

33.委員会はまた、上記パラグラフ11(ヘイト・スピーチとヘイト・クライム)、19(朝鮮学校)、
21( 琉球・沖縄の状況)および23(難民および庇護希望者)にある特に重要な勧告に締約国の注意が向くことを望む、そして、次回の定期報告書に、これらの実施のためにとった具体
的措置に関する詳細な情報を提供するよう要請する。
(引用終わり)
 
 「委員会は人種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならないことを想起する」と言う勧告が出る前日の8月28日、自民党の「ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム」(座長・平沢勝栄政調会長代理)において、高市早苗政調会長が「電話の声も聞こえず、仕事にならない。批判を恐れず議論を進めたい」と発言し、国会周辺での街宣活動等を規制することも併せて検討する方針を打ち出したというニュースに接して、皆さんはどう思われたでしょうか?私は、一瞬「焼け太り」という言葉を連想してしまいました(批判殺到でとりあえず方針転換したようですが油断はできません)。
 
 私たちは、一般的勧告35が、「委員会が強調するのは、人種主義的ヘイトスピーチがその後の大規模人権侵害およびジェノサイドにつながってゆくということであり、紛争状況においても大きな役割を果たすということである」(採択されたアプローチ)と述べていることに注目すべきだと思います。ジェノサイドなど、日本にはあり得ないと思いますか?そういう人は、1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災の最中(さなか)、多くの朝鮮人や中国人にどのような運命
が降りかかったかを忘れるべきではありません。
 最後に、萩原朔太郎の短い3行詩をご紹介してこの稿を終えます。
 
近日所感  萩原朔太郎 (初出「現代」1924年2月号)
 
 朝鮮人あまた殺され
 その血百里の間に連なれり
 われ怒りて視る、何の慘虐ぞ