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安倍晋三氏の“昭和殉難者”追悼メッセージを忘れるな(「朝日たたき」の陰にあるもの)

 今晩(2014年9月14日)配信した「メルマガ金原No.1848」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安倍晋三氏の“昭和殉難者”追悼メッセージを忘れるな(「朝日たたき」の陰にあるもの)

msn産経ニュース 2014.9.12 10:39
安倍首相、朝日報道に苦言 「慰安婦問題の誤報で日本の名誉が傷つけられた」
 

(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相は11日、ニッポン放送番組で、朝日新聞による慰安婦問題の報道に関し
慰安婦問題の誤報で多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられた」と指摘し
た。首相の発言要旨は以下の通り。
【消費税10%への引き上げ】(略)
【遺骨収集】(略)
ウクライナ情勢】(略)
【日露関係】(略)
拉致問題
朝日新聞報道】
 個別の報道機関の報道内容の是非についてはコメントすべきではないが、例えば、慰安婦
問題の誤報で多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実といってもいい。一般論として申し上げれば、報道は国内外に大きな影響を与え、わが国の名誉を傷つけることがある。そういうことも十分に認識しながら、責任ある態度で、正確で信用性の高い
報道が求められている。それが国民の願いではないか。
(引用終わり)
 
 上記記事で取り上げられているニッポン放送の番組の録音が、番組の公式サイトにアップされています。
 
2014/09/11 ザ・ボイス 青山繁晴 安倍内閣総理大臣との本気対談/ニュース解説「政府が吉田調書を公開」など
 

 30分40秒~が該当箇所ですが、産経ニュースの要約は概ね正確です。「個別の報道機関の報道内容の是非についてはコメントすべきではない」などと言いながら、「慰安婦問題の誤報で多くの人が苦しみ、国際社会で日本の名誉が傷つけられたことは事実といってもいい」という、何の根拠もない断言を平然と言ってのける態度に頭にきた人も多いことでしょう。ちなみに、安倍首相のこの番組での発言には、国会答弁と同じように、全て台本が用意されていたと考え
るのが常識ですし、録音を聴いた印象でも、台本があるのは間違いないと思います。
 従って、このコメントについて考える際には、安倍首相個人の思惑がどうのこうのということを超えて、安倍政権を運営する勢力全体の意向として、この首相発言がもたらす反響を狙い澄まして「発言させた」と考える必要があります。
 
 なお、従軍慰安婦問題については、昨年、大阪市橋下徹市長の妄言をきっかけに書いた以下の記事をご参照いただければと思います。
 
 
 そこでご紹介した「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」というサイトの、特に「第一室:日本軍の慰安所と慰安婦」は是非ご一読いただきたいと思います。
 橋本龍太郎首相から小泉純一郎首相まで、歴代4人の総理大臣が、元慰安婦の女性に謝罪の手紙を送ったのは、朝日が報じた吉田証言を根拠にしてなどではありませんよ。
 
 これだけでも頭にきていたところ、今日(9月14日)になって、さらに次のような報道に接しました。
 
時事ドットコム 2014年9月14日10時40分
慰安婦誤報、朝日は周知努力を=安倍首相

(引用開始)
 安倍晋三首相は14日のNHKの番組で、朝日新聞従軍慰安婦問題をめぐる報道の一
部を誤報と認め謝罪したことについて、「世界に向かってしっかりと取り消すことが求められている。朝日新聞自体が、もっと努力していただく必要がある」と述べ、海外も含め周知に努めるよう求
めた。
 首相は「日本兵が人さらいのように慰安婦にしたとの記事が世界中で事実と思われ、非難す
る碑ができている」と指摘。その上で、今後の韓国との関係について「一度できた固定観念を変えることは難しいが、関係改善に生かしていくことができればいい」と述べ、政府としても説明して
いく意向を示した。
(引用終わり)
 
 11日のニッポン放送の番組とは異なり、今日のNHKについては、私自身視聴しておらず、裏付けがとれていないので断言する訳にはいきませんが、もしも時事通信による内容要約が、前記産経ニュースと同程度に正確であると仮定すれば、安倍首相及びその宣伝チームに対して、「つけあがるもいい加減にしろ」と言わざるを得ません。
 民主主義国家であるならば、政治の最高権力者が、報道機関に対して絶対にやってはならない、言ってはならない「規(のり)」というものがあるはずで、その究極の根拠は憲法21条1項です。
 
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
 
 そもそも、一般私人間でさえ、誤報や名誉毀損記事が掲載された場合でも、任意の訂正記事や謝罪記事が掲載されない限り、裁判所に訴えて、損害賠償や謝罪広告を命じてもらうしかないというのに、権力者が報道機関に対して、訂正の方法や程度をあれこれ指図するこ
となど「あり得ない」でしょう。
 もしもそんなことがまかりとおるのであれば、報道機関に権力をチェックするという民主制を支える最も重要な機能を付与し、表現の自由を保障した憲法規範に、権力者自らが死刑を宣告
するようなものです。
 もっとも、特定秘密保護法を強行成立させ、集団的自衛権行使容認を閣議決定するなど、憲法よりも自分の方が「偉い」と心底思っているとしか考えられないような「安倍内閣やりたい放題リスト」にさらに1つの事例が加わっただけだとして不感症気味になりかねまんせんが、私たちは、そのような自らの「慣れ」をこそ恐れねばなりません。
 
 ちなみに、2012年4月27日に自民党が公表した「日本国憲法改正草案」は、現行憲法とは全く価値観を逆転させて、21条を以下のように「改正」しようとしており、安倍内閣は、9条だけではなく、21条も、明文改憲を待つまでもなく、「解釈改憲」したつもりなのかもしれません。
 
 (表現の自由
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
 
 ネトウヨや産経、読売、週刊文春週刊新潮なら分からないこともありませんが、官邸がここまで「朝日たたき」に狂奔する理由は何でしょうか?様々に推測されることはありますが、その内の1つであることは間違いないのではと私が考えていることがあります。
 それは、8月27日付の朝日新聞が報じた以下の記事です。
 
(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相が4月、A級、BC級戦犯として処刑された元日本軍人の追悼法要に自民党総裁名で哀悼メッセージを書面で送っていたことが朝日新聞の調べで分かった。連合国による裁判を「報復」と位置づけ、処刑された全員を「昭和殉難者」として慰霊する法要で、首
相は「自らの魂を賭して祖国の礎となられた」と伝えていた。
 メッセージを送ったのは高野山真言宗奥の院和歌山県高野町)にある「昭和殉難者
務死追悼碑」の法要。元将校らが立ち上げた「追悼碑を守る会」と、陸軍士官学校や防衛大
のOBで作る「近畿偕行会」が共催で毎年春に営んでいる。
 追悼碑は連合国による戦犯処罰を「歴史上世界に例を見ない過酷で報復的裁判」とし、戦
犯の名誉回復と追悼を目的に1994年に建立。戦犯として処刑されたり、収容所内で病死や自殺をしたりした計約1180人の名前が刻まれている。靖国神社に合祀(ごうし)される東条英
機元首相らA級戦犯14人も含む。
(略)
 首相のメッセージは司会者が披露。「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎
となられた昭和殉職者の御霊に謹んで哀悼の誠を捧げる」とし、「今後とも恒久平和を願い、人
共生の未来を切り開いていくことをお誓い申し上げる」とした。
(略)
 安倍首相は昨年と04年の年次法要にも主催者側の依頼に応じ、自民党総裁、幹事長の
役職名で書面を送付。昨年は「私たちにはご英霊を奉り、祖国の礎となられたお気持ちに想いを致す義務がある」「ご英霊に恥じることのない、新しい日本の在り方を定めて参りたい」と伝え
ていた。
(略)
(引用終わり)
 
 
 この記事の内容について、8月27日の定例記者会見において、菅義偉官房長官は、安倍首相が書面を送ったことは認めた上で、「私人としての行為だ。政府としてのコメントは控えたい」と述べ、A級戦犯らに対する認識については「極東国際軍事裁判東京裁判)で有罪判決を受けたことは事実だ。わが国はサンフランシスコ平和条約で裁判を受諾している」と説明したとのことです(msn産経ニュース)。
 記者会意見の映像はこちらです。
 
 内閣を組織している与党・自由民主党党首としてのメッセージが「私人としての行為」であるはずがないと思いますが、この問題が昨年12月26日の靖国神社参拝問題のように、欧米(特に米国)の世論に火を付けることのないようにしたいという官房長官の意向はよく伝わってきます。
 
 ところが、朝日新聞は、官房長官の期待に反し、8月29日付の社説で追い打ちをかけます。首相官邸としては、「朝日がかさにかかってきた」と受け取ったかもしれません。

 ここに、問題の朝日の社説を「全文引用」します。よもや、朝日新聞から「著作権侵害通告」など来ないでしょう(来たらお笑いですが)。   
 
(引用開始))
 
「私人としてのメッセージ」で済む話ではないだろう。
 安倍首相が今年4月、A級、BC級戦犯として処刑された元日本軍人の追悼法要に、自民
党総裁名で哀悼メッセージを書面で送っていた。
 「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎となられた昭和殉職者の御霊に謹ん
で哀悼の誠を捧げる」
 送付先は、高野山真言宗奥の院和歌山県)にある「昭和殉難者法務死追悼碑」の法
要。碑は、連合国による戦犯処罰を「歴史上世界に例を見ない過酷で報復的裁判」とし、戦犯の名誉回復と追悼を目的に20年前に建立された。名前を刻まれている人の中には、東条英機元首相らA級戦犯14人が含まれている。首相は昨年と04年の年次法要にも、自民党
総裁、幹事長の役職名で書面を送付していた。
 菅官房長官は会見で、内閣総理大臣としてではなく、私人としての行為との認識を示した。
その上で、「A級戦犯については、極東国際軍事裁判所(東京裁判)において、被告人が平和に対する罪を犯したとして有罪判決を受けたことは事実」「我が国はサンフランシスコ平和(講
和)条約で同裁判所の裁判を受諾している」と述べた。
 戦後69年。このような端的な歴史的事実を、いまだに繰り返し国内外に向けて表明しなけ
ればならないとは情けない。
 日本は、東京裁判の判決を受け入れることによって主権を回復し、国際社会に復帰した。同
時に、国内的には、戦争責任を戦争指導者たるA級戦犯に負わせる形で戦後の歩みを始め
た。
 連合国による裁判を「報復」と位置づけ、戦犯として処刑された全員を「昭和殉難者」とする
法要にメッセージを送る首相の行為は、国際社会との約束をないがしろにしようとしていると受け取られても仕方ない。いや、何よりも、戦争指導者を「殉難者」とすることは、日本人として受け入れがたい。戦後日本が地道に積み上げてきたものを、いかに深く傷つけているか。自覚す
べきである。
 首相の口からぜひ聞きたい。
 多大なる犠牲を生み出し、日本を破滅へと導いた戦争指導者が「祖国の礎」であるとは、い
ったいいかなる意味なのか。あの戦争の責任は、誰がどう取るべきだったと考えているのか。
 「英霊」「御霊」などの言葉遣いでものごとをあいまいにするのはやめ、「私人」といった使い分
けを排して、「魂を賭して」堂々と、自らの歴史観を語ってほしい。
 首相には、その責任がある。
(引用終わり)
 
 この「昭和殉難者法務死追悼碑」については、A級戦犯以外の刑死等した「全ての」BC級戦犯を追悼していること自体にも問題はあると思いますが、ここは、とりあえず戦争を指導したA級戦犯に対して(も)「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎となられた昭和殉職者」と賞揚したことに絞って考えましょう。
 基本的には、靖国神社参拝と問題の本質は同根であり、朝日の社説が要領良くまとめて
くれているとおりです。
 詳しくは、私が今年の元旦に書いた以下の記事を(かなり長いですが)お読みいただければと思います。
 
 
 私は朝日のこの社説を読んだ時、「ここまで気合いの入った朝日の社説を読んだのは久しぶりだ」と思い、自分が登録しているMLやFacebookで紹介したりしました。「朝日たたきが大変な時に、論説室の中にも骨のある論説委員がいるようだ」と頼もしく思ったものでした。
 
 しかし、その後、この問題はどうなったのでしょうね?毎日新聞東京新聞も、8月27日に
簡単な記事は出したようですが、その後、続報は出たのでしょうか?
 現在の朝日に昭和殉難者追悼メッセージ問題をこれ以上追及する余力がないのであれば、
「毎日はどうした?」と思わざるを得ません。
 よもや、「朝日から離れる購読者の多くが読売や産経に流れるとは考えにくい。読者拡大の
チャンス到来」などと考えているとは思いたくはありませんからね。

 産経・読売以外の全ての新聞・メディアが、官邸による憲法無視の朝日たたきを「自らの問題」と捉えて反撃することを切に希望するとともに、“昭和殉難者”に対する追悼メッセージによってまたしても露わとなった安倍首相の歴史認識を徹底的に追及することを期待したいと思います。