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地方議会の「国会に憲法改正の早期実現を求める意見書」は憲法尊重擁護義務に違反する

 今晩(2014年9月27日)配信した「メルマガ金原No.1861」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
地方議会の「国会に憲法改正の早期実現を求める意見書」は憲法尊重擁護義務に違反する

 和歌山県議会における「『国会に憲法改正の早期実現を求める意見書』提出を求める請願」(日本会議和歌山提出)騒動も、昨日(9月26日)最終日の本会議で、自民党和歌山県議団などの賛成多数で成立してしまいました。「抗議声明を出そう!」という声もあるし、通ってしまったからといって、まだまだ、忘れたり諦めたりするつもりは毛頭ありませんが、ただ、メルマガ&ブログで、この問題にばかりかまけている訳にもいきませんので、とりあえず今日の記事を中締めとします。
 
1 日本会議による国民運動の提唱
 今年8月1日付の朝日新聞の記事「地方から改憲の声、演出 日本会議が案文、議員ら呼応」が報じたとおり、全国の(主として)県議会を舞台に繰り広げられている、あえて言えば「茶番劇」の起点は、昨年(2013年)11月13日に東京・憲政記念館で開催された「憲法改正実現へ!日本会議全国代表者大会」において、「全国各地で国民運動を推進する代表者、国会議員、地方議員等800名が集い、憲法改正実現へ向けて、国民運動を力強
くスタートする大会とな」ったことにあるようです(日本会議WEBサイト「オピニオン」より)。
 
 その開会挨拶で三好達日本会議会長(元最高裁長官)が挨拶した内容の一部を書き出してみましょう(4分50秒~)。
 
憲法改正の実現へ!日本会議代表者大会 三好達会長

「(三好会長)それとともに他方では、私どもは、国会に対する働きかけを強めなければなりませ
ん。できる限り早期に、我々国民が憲法改正国民投票をすることができるように働きかけなければならない。なぜならば、皆さんはよくご承知のように、憲法上、憲法改正は国民の投票によって決めることに定められているのでありますが、国会が改正案を発議しなければ、我々国民は、投票をすることができない仕組になっております。つまり、国会が発議しないでいることは、国民の憲法改正に関する権限行使の前に、国会が立ちふさがっていることになりかねないのであります。(拍手)そういった意味におきまして、私は、今度の大会を、国民の啓発に立ちがある大会であると同時に、国会議員の方々に対してははなはだ失礼な言い方になることをお許しいただきたい訳でありますが、国家議員のお尻をひっぱたく会(笑と拍手)だと存じております、憲法のどこをどのように改正すべきか。私どもは7つの改憲テーマを掲げておりますが、私は、まだまだ勉強が足りませんので、今日の大会で表明される皆さんのご意見をも勉強させていただきながら、今後自分の考えを深めてまいりたいと考えているところであります」
 
 三好会長の挨拶で言及された日本会議が掲げる改憲の7つのテーマについては、上記大会のあった2013年11月13日付のクレジットが入った「改憲チラシ」日本会議サイトに掲載されています。
 「7つのテーマ」の項目だけ抜き出してみましょう。

1 前文…日本の美しい伝統文化を明記しよう
2 元首…国の代表は誰かを明記しよう
3 九条…平和条項とともに自衛隊の規定を明記しよう
4 環境…世界的規模の環境問題に対応する規定を
5 家族…国家・社会の基礎となる家族保護の規定を
6 緊急事態…大規模災害などの緊急事態対処規定を
7 96条…憲法改正へ国民参加のための条件緩和を
 
 これを読んだ全国各地の自民党議員は、「何だ、我が党の日本国憲法改正草案(2012年4月27日)と同じじゃないか。4番を付け加えれば完璧だ」とでも思ったのでしょうかね。
 
2 和歌山県議会「意見書」と石川県議会「意見書」を比較する
 和歌山県議会が何番目の「意見書」採択議会になったのか不明ながら、とりあえず最新の
採択議会であることは間違いないでしょう。
 そこで、全国で最も早く「意見書」を採択し、自民党本部が今年の3月に、全国の地方組織に参考送付した石川県議会「意見書」と対比して読み込んでみましょう。
 
 
(標題)
石  川 国会に憲法改正の早期実現を求める意見書
和歌山 国会に憲法改正の早期実現を求める意見書
 全く同じ。
 
(第1文)
石  川 日本国憲法は、昭和22年5月3日の施行以来、今日に至るまでの約70年間、
一度の改正も行われていない。
和歌山 日本国憲法は、昭和22年5月3日の施行以来、今日に至るまでの約70年間、
一度の改正も行われていない。
 全く同じ。
 
(第2文)
石  川 
しかしながら、この間、我が国を巡る内外の諸情勢は劇的な変化を遂げている。
和歌山 しかしこの間、わが国を巡る内外の諸情勢は劇的に変化を遂げている。
 ここで初めて“微妙な”差をつけています。
 
(第3文)
石  川 すなわち、我が国を取り巻く東アジア情勢は、一刻の猶予も許されない事態に直
面している。
和歌山 すなわち、我が国を取り巻く東アジア情勢は、一刻の猶予も許されない事態に直
面している。
 再び全く同じ。
 
(第4文)
石  川 
さらに、家族、環境などの諸問題や大規模災害等への対応が求められている。
和歌山 
さらに、家族、環境などの諸問題や大規模災害等への対応が求められている。
 全く同じ。
 
(第5文)
石  川 このような状況の変化を受け、様々な憲法改正案が各政党、各報道機関、民間
団体等から提唱されている。
和歌山 このような状況変化を受け、様々な憲法改正案が各政党、各報道機関、民間団
体等から提唱されている。
 少し変化をつけようと1文字だけ省略したようです。
 
(第6文)
石  川 国会でも、平成19年の国民投票法の成立を機に憲法審査会が設置され、憲法
改正に向けた制度が整備されるに至った。
和歌山 国会でも、平成19年の国民投票法の成立を機に憲法審査会が設置され、憲法
改正に向けた制度が整備されるに至った。
 再び全く同じ。
 
(第7文)
石  川 よって、国におかれては、新たな時代にふさわしい憲法に改めるため、憲法審査会に
おいて憲法改正案を早期に作成し、国民が自ら判断する国民投票を実現するよう強く求める。
和歌山 新たな時代にふさわしい憲法に改めるため、国会は憲法審査会において憲法改正
案を早期に作成し、国民が自ら判断する国民投票を実現することを求める。
 最後に来て初めて実質的な相違が登場します。「求める」相手を、石川が「国」としていたのを「国会」と改めています。これは、もちろん和歌山の方が正確なのであって、そもそも地方自治法99条は「普通地方公共団体の議会は(略)意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる」としているのですから、「国」では正確さを欠くことになるのです。よく気がつきましたね(日本会議和歌山が気がついていたのでしょうが)。
 
(第8文)
石  川 
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
和歌山 
以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出する。
 趣味の問題ですけど。
 
 最初に「ですます調」の「意見書(案)」を読んだ時から、他の県議会が採択した「意見書」とそっくりだなとは思っていましたが、朝日の記事で、自民党が石川県議会「意見書」を見本として配布したことを知り、さらに和歌山県議会(総務委員会)が、「ですます調」を「である調」に変更したおかげで、私も「徹底比較」をしてみようという気になったのですが、ここまでそっくりだとは思いませんでした。
 「ですます調」から「である調」への変更の作業自体は議会事務局がやった可能性が高いと思いますが、そうすると、自民党和歌山県議団がやったことと言えば、文案を練り上げる努力は一切放擲し、日本会議和歌山から出てきた「意見書(案)」を議会事務局の助言に基づいて(だろうと推測するのですが)「である調」に変更することに同意しただけで、賛成討論をするでもなく、ただ採決の際に起立するのを忘れないようにするということだけだったのでしょうね(「起立採
決」でしょうね?)。
 もちろん、自分たちが議決した「意見書」が、どこまで石川県とそっくりかを、私のように(?)厳密に検討した者などいるはずがありません。もしもそれをやった者がいたら、恥ずかしさのあまり議場にいたたまらなかったはずですから(そんなことはない?)。
 
3 地方議会議員憲法尊重擁護義務について
 昨日書いたメルマガ(ブログ)の末尾の部分を再掲します。
 
 4団体共同申入書を発出した後、和歌山の新人弁護士から、「県議会がこのような意見書を議決することがどうして憲法尊重擁護義務違反になるのですか?」と質問され、なかなか良い質問(どう答えるかを考えることによってより思考を深めさせてくれる質問が良い質問です)なので、この問題を書いてみようかと思っていたのですが、これは明日以降の宿題にしておきます。
 
 さて、その宿題の回答ですが、判例・学説を渉猟した訳ではないので、今のところは直感的な意見のレベルにとどまることをお断りした上で(また宿題を作ってしまった)、簡単に結論を述べると以下のようになります。
 
 日本国憲法99条の規定を再確認しましょう。
 
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
 
 地方議会議員は、明示こそされていませんが、「その他の公務員」に含まれることは言うまでもありません。
 公務員、特に自衛隊員の「服務宣誓」については、過去2回ほど書いたことがありました(後
掲参照)。
 地方公務員法31条も、「職員は、条例の定めるところにより、服務の宣誓をしなければなら
ない。」と定めています。
 例えば、和歌山県「職員の服務の宣誓に関する条例」には、「1 新たに職員となった者は、任命権者に対し、別記様式による宣誓書により宣誓をしなければならない。」とし、その様式(宣誓書)には、「私は、ここに、日本国憲法を尊重し、擁護することを誓います」という文言が、「私は地方自治の本旨を体するとともに、公務を民主的且つ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、県民全体の奉仕者として誠実公正に職務を執行することを誓います」の前に置かれ
います。
 もっとも、地方自治法の規定は、原則として議員などの特別職には適用されませんが(同法4条)、地方議会議員などの特別職については、直接、憲法99条によって「憲法尊重擁護義務」を課せられていることになります。
 
 この憲法99条が、「第9章 改正」の次、「第10章 最高法規」に置かれていることから明らかなとおり、公務員に課せられた憲法尊重擁護義務は、国家権力を制限することによって、国民の権利・自由を保障することこそが憲法の目的であるとする「近代立憲主義」の理念を担
保する非常に重要な規定です。

 もちろん、地方議会議員であろうが、一般職地方公務員であろうが、個人として「改憲すべき」との意見を持つこと自体は、憲法自身が思想・信条の自由(19条)として保障していると
ころです。
 問題は、地方議会議員が、その身分の故に与えられている公権力を行使する局面において、
憲法尊重擁護義務と矛盾するような行為をしてはならないということなのです。

 今回、和歌山県議会が議決し、それ以前にも多くの地方議会(大半が県議会)で議決された「意見書」は、「国会に憲法改正の早期実現を求める」という内容を有しており、私は、これは憲法99条に定められた憲法尊重擁護義務に明確に違反すると考えます。
 
 これに対しては、「明示的に憲法尊重擁護義務を課された国会議員には、憲法改正を主張することが認められているではないか。なぜ、地方議会の議員が同じ主張をすることが憲法尊重擁護義務違反になるのか?」という反論があり得るところでしょう。これについて、私は以下のように考えます。
 
 そもそも、国民主権原理に立脚し、憲法改正のために何らかの方法によって国民の意思を直接反映させる仕組みを持っている憲法にあっては、憲法改正権は、一種の「制度化された憲法制定権力」という性格を有することになります。
 日本国憲法の場合、国民投票の前提として、「国会による発議」が要件とされているのですが、「制度化された制憲権」の本体はあくまで国民投票を行う主体(国民)のはずであり、「制度化された制憲権」の意思が国民投票によって明示されるまでは、国会議員を含む全ての公務員
には、現行憲法を遵守する義務があるのです。

 ただ、憲法自身が国会に改正発議権を認めたこととの関連において、国会議員に対しては、改正発議という憲法が特別に付与した権限を行使する範囲内において、憲法尊重擁護義務が部分的に解除されているのだと考えると分かりやすいと思っています。ただし、それも「憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。」(憲法96条2項)という規定から明らかなとおり、現行憲法の基本原理と矛盾せぬ範囲内において、条項の追加・削除・修正を発議する権限が認められているに過ぎません。
 
 講学上の一論点として、かつて、内閣が改憲案を国会に提出することができるかどうかが論じられた時代があったように記憶しますが、通説はこれを否定し、さらに、内閣総理大臣や閣僚がその地位に基づいて、(国会議員としてではなく)内閣の一員として改憲を主張することが憲法尊重擁護義務に違反するということも、おそらく通説と言って良いと思います(現在の首相は第一次政権の時から「内閣として改憲を目指す」と公言していましたが)。
 そのこととの比較においても、今年に入ってからの一連の地方議会における「国会に憲法改正の早期実現を求める」意見書採択の動きは、明白な憲法尊重擁護義務違反であると私
は考えているのです。
 
 「地方議会議員憲法尊重擁護義務」というテーマで考えるべきことはまだまだあるだろうと思いますが、浅学非才の上に、調査している時間的余裕もなく、とりあえず雑駁な結論だけ書いてみました。
 
(弁護士・金原徹雄のブログより)
2013年8月29日
自衛隊員等の「服務宣誓」と日本国憲法
2014年7月3日
今あらためて考える 自衛隊員の「服務宣誓」