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絵本『新・戦争のつくりかた』の読みかた

 今晩(2014年10月23日)配信した「メルマガ金原No.1887」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
絵本『新・戦争のつくりかた』の読みかた

 10年前(2004年)、最初は冊子版として、その後、マガジンハウスから出版された書籍版
して普及され、現在では、WEB版が無償公開されている絵本『戦争のつくりかた』を私のメルマガ(ブログ)でご紹介したのは、今年8月のことでした。
 
 
 そして、それからすぐに『新・戦争のつくりかた』(マガジンハウス)が刊行されるという予告があり、「9月11日」に第1刷が発行されました。
 
 
新・戦争のつくりかた
りぼん・ぷろじぇくと
マガジンハウス
2014-09-11


 第1刷の奥書から、上記紹介ページには掲載されていないスタッフを抜粋してご紹介します。
 
原案・監修 りぼん山本
制作協力 飯森和彦、池田香代子、石塚淳、伊藤美好、今村和宏、木田裕子、小原美
由紀、hana、阪野信子、福間由紀子、室田元美、山本祐子、ようだい、吉田真紀子(50
音順)
装丁 木庭貴信 
 
 私は、旧版の冊子版書籍版ともに未入手であり、WEB版を読んだだけなので、『新・戦争のつくりかた』と直接の比較はできないのですが、新版に掲載された「話すことから、なにかがはじまると信じて」(33頁~)及び「資料について」(36頁~)などを基に、旧版と比較した新版の特徴を摘記すると以下のとおりです。
 
1 本文は1字1句変更されていません。「わたしたちの国は、60年ちかくまえに、『戦争しない』と決めました。」(3頁)という部分も含めてです。それに、どうやら頁の配置も一切変わっていないようです(旧版の2頁にあった文章は新版でも2頁にある)。
 
2 他方、井上ヤスミチさんによるイラストは全て新作に入れ替わりました。ただし、モチーフ自体はそれほど大幅に変更されている訳ではなく、基本的には、10年間の経過によるアップトゥーデートですが、微妙な方向修正も見られます。例えば、
 
(8頁)
政府が、
戦争するとか、戦争するかもしれない、と決めると、
テレビや新聞やラジオは、
政府が発表したとおりのことを言うようになります。
 
政府につごうのわるいことは言わない、
というきまりも作ります。
 
に対応する9頁のイラストは、旧版の奥行きのあるTV受像器(おそらくブラウン管)が薄型TV(おそらく液晶)に変わっています。ただ、10年前のイラストでは、母親と息子が恐ろしげにTVの画面に見入っていたのに、新版では、TVを見ているのはハイハイしている赤ちゃんだけで、母親は笑顔を浮かべながら画面に背を向け、おそらくは子どもの食べた後の食器を片付けようとしています。たしかに、新版のために描かれたイラストの方が、より時代の状況に即した情景だと感じます。

3 資料集が非常に充実したものになりました。まず、新しく作られた資料が2点あります。1つ
は「自衛隊の海外派遣地域」が一覧できる地図とそれに付された解説です(裏表紙見開き)。1991年のペルシャ湾への掃海艇の派遣以降、現在も活動中のソマリア沖や南スーダンに至
るまで、「こんなに出かけていたんだ」ということが一目瞭然です。
 もう1つは、関連年表(1947~2014)であり、1947年5月3日・日本国憲法施行から
2014年7月1日・閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」まで、戦争へと向かう日本の歩みが、関連法令、条約、政府方針などを中心に跡付けられています。このような大きな流れを俯瞰することにより、現在の危機が、安倍政権を打倒すれば全て解決するというような底の浅いものではないということに否応なく気付
かされます。
 
4 資料集の充実ということでいえば、関連法律集(36頁~55頁)が旧版に比べ、飛躍的に分量が増えた(何と3倍!)そうです。これは必ずしも喜ぶべきことではなく、10年前には「そのようになるのではないか」という悪い予感であったものが、具体的な法令や閣議決定として現実にその姿を現したということでもあるのですから。
 その一例として、少し長くなりますが、上に引用した8頁に対応する関連法律集の該当部分を引用します。
 
P8 政府が、戦争するとか、戦争するかもしれない、と決めると、テレビやラジオや新聞は、政府が発表したとおりのことを言うようになります。
武力攻撃事態対処法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めると
ころによる。
六 指定公共機関 独立行政法人(略)、日本銀行日本赤十字社日本放送協会その
他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で
定めるものをいう。
(指定公共機関の責務)
第6条 指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃
事態等への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する。
国民保護法[2004年6月18日]
(国民に対する情報の提供)
第8条 国及び地方公共団体は、武力攻撃事態等においては、国民の保護のための措置
に関し、国民に対し、正確な情報を、適時に、かつ、適切な方法で提供しなければならない。
2 国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、国民の保護のた
めの措置に関する情報については、新聞、放送、インターネットその他の適切な方法により、迅
速に国民に提供するよう努めなければならない。
*指定公共機関(2004年9月17日指定)
【放送事業者】日本放送協会朝日放送テレビ朝日テレビ東京、TBSテレビ、フジテレビ
ジョン、毎日放送関西テレビ放送中京テレビ放送CBCテレビ、東海テレビ放送、名古屋テレビ放送、日本テレビ放送網讀賣テレビ放送大阪放送CBCラジオ、TBSラジオ&コミ
ュニケーションズ、日経ラジオ社ニッポン放送文化放送東海ラジオ放送
(金原注)『新・戦争のつくりかた』42頁では、この条文は「武力攻撃事態対処法」第8条とし
て記載されていますが、「国民保護法」第8条の誤りです。
(基本指針)
第32条 政府は、武力攻撃事態等に備えて、国民の保護のための措置の実施に関し、あら
かじめ、国民の保護に関する基本指針(略)を定めるものとする。
(指定公共機関及び指定地方公共機関の国民の保護に関する業務計画)
第36条 指定公共機関は、基本指針に基づき、その業務に関し、国民の保護に関する業務
計画を作成しなければならない。
2 指定地方公共機関は、都道府県の国民の保護に関する計画に基づき、その業務に関し、
国民の保護に関する業務計画を作成しなければならない。
3 前二項の国民の保護に関する業務計画に定める事項は、次のとおりとする。
一 当該指定公共機関又は指定地方公共機関が実施する国民の保護のための措置の内
及び実施方法に関する事項
二 国民の保護のための措置を実施するための体制に関する事項
三 国民の保護のための措置の実施に関する関係機関との連携に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、国民の保護のための措置の実施に関し必要な事項
4 指定公共機関及び指定地方公共機関は、それぞれその国民の保護に関する業務計画
を作成したときは、速やかに、指定公共機関にあっては当該指定公共機関を所管する指定行政機関の長を経由して内閣総理大臣に、指定地方公共機関にあっては当該指定地方公共機関を指定した都道府県知事に報告しなければならない。この場合において、内閣総理大臣又は都道府県知事は、当該指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、必要な
助言をすることができる。
*2014年4月1日現在、全150機関で国民保護業務計画を作成済み。
(警報の放送)
第50条 放送事業者である指定公共機関及び指定地方公共機関は、(略)通知を受け
たときは、(略)速やかに、その内容を放送しなければならない。
特定公共施設利用法[2004年6月18日]
(港湾施設の利用指針)
第6条 5 対策本部長は、港湾施設の利用指針を定めたときは、(略)公にすることにより
国の安全が害されるおそれがある事項を除き、その内容を公示するものとする。
*電波の利用指針に準用。
(電波の利用指針)
第17条 対策本部長は、武力攻撃事態等において、対処措置等の的確かつ迅速な実施
を図るため、対処基本方針に基づき、電波の利用に関する指針(略)を定めることができる。
*対策本部長:内閣総理大臣
 
P8-2 政府につごうのわるいことは言わない、というきまりも作ります。
特定秘密保護法
(この法律の解釈適用)
第22条 2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る
的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを
正当な業務による行為とするものとする。
*「公益を図る」以外の目的もあると判断されれば、処罰の対象になりうる。客観的な基準で
はないので、恣意的な運用を許す余地がある。
第7章 罰則
第23条 特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏
らしたときは、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び千万円以下の
罰金に処する。特定秘密の取扱いの業務に従事しなくなった後においても、同様とする。
2 第4条第5項、第9条、第10条又は第18条第4項後段の規定により提供された特定
秘密について、当該提供の目的である業務により当該特定秘密を知得した者がこれを漏らしたときは、五年以下の懲役に処し、又は情状により五年以下の懲役及び五百万円以下の罰金に処する。第10条第1項第一号ロに規定する場合において提示された特定秘密に
ついて、当該特定秘密の提示を受けた者がこれを漏らしたときも、同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。
4 過失により第1項の罪を犯した者は、二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処
する。
5 過失により第2項の罪を犯した者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処
する。
第24条 外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民
の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(略)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び
千万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前2項の規定は、刑法(略)その他の罰則の適用を妨げない。
第25条 第23条第1項又は前条第1項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は
煽動した者は、五年以下の懲役に処する。
2 第23条第2項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、三年以
下の懲役に処する。
第26条 第23条第3項若しくは第24条第2項の罪を犯した者又は前条の罪を犯した者
のうち第23条第1項若しくは第2項若しくは第24条第1項に規定する行為の遂行を共謀
したものが自首したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
籾井勝人NHK会長[2014年1月25日 就任会見]
「政府が右と言ってるものを我々が左と言うわけにはいかないと。国際放送についてはそういう
ニュアンスもあると思います」
 
 本文6行に対応する資料としての関連法律集がこれだけあるのですが、他の頁についてもだいたいこのような調子です。
 ところで、私がいちいち『新・戦争のつくりかた』の資料集を読みながら上記の条文を入力し
たわけでないことは当然で、書籍の該当頁を横目で眺めながら、インターネットサイト(条文
については総務省の法令データベース)からコピペしたものです。
 そして、その作業をさらに楽にしてくれたのは、「絵本 戦争のつくりかた」WEBサイトの中の
「関連資料」コーナーです。
 ここには、2014年9月現在の資料が掲載されており、今は『新・戦争のつくりかた』第1刷の資料集に対応する法令等にリンクがはられていますが、これから新たな法令等が成立すれば、WEBサイトのこの頁に追加されていくことになるのでしょう。当面、2015年招集の次期通常国会後半(統一地方選挙後)に一括上程されるのではないかとされる集団的自衛権行使関連法令「改正」案が問題です。
 
 旧版と新版の比較は以上の程度にしておきましょう。
 この作品は、本文と井上ヤスミチさんの絵を繰り返し読んだり眺めたりして考えるという読み
方ももちろんできます。
 イラストは旧作ですが、旧版はいつでもWEB版で読むことができます。
 また、以上で詳しくご紹介したように、日本が戦争への道を着々と歩んできて、今やその総決算一歩手前であることをしっかりと学習するためのテキストとしても得がたい書籍です。
 関連法律集の条文の羅列だけでは馴染めない、読む気になれない人が多いでしょうが、短
い章句からなる本文や直感的に問題の本質に迫るイラストと照らし合わせることにより、無味
乾燥な法律の条文の意味が具体的なイメージとなって読み手に迫ってくることと思います。
 和歌山でも、子育て中のママが集い、子どもの将来について気になることをみんなで語り合
う催しが開かれているという知らせが届いたりしていますが、そのような集まりで、テキストというほど大上段に振りかぶったものではなく、最初はみんなで回し読みするところから始め、しっかりと勉強したくなったら1人1人が購入する書籍として、値段も手頃(1000円+税)だし、とてもふさわしいのではないかと思います。
 
 最後に、7月1日・閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」以後の世界を生きることを余儀なくされた私たちが、まさに今直面している事態を10年前に正確に予測していた『戦争のつくりかた』の後半部分を引用したいと思います。まだ希望はあると信じながら。
 
(20頁)
わたしたちの国の「憲法」は、
「戦争しない」と決めています。
 
憲法」は、
政府がやるべきことと、
やってはいけないことを
わたしたちが決めた、
国のおおもとのきまりです。
 
戦争したい人たちには、つごうのわるいきまりです。
 
そこで、
「わたしたちの国は、戦争に参加できる」と、
憲法」を書きかえます。
 
(22頁)
さあ、これで、わたしたちの国は、
戦争できる国になりました。
 
政府が戦争すると決めたら、
あなたは、国のために命を捨てることができます。
 
政府が、「これは国際貢献だ」と言えば、
そのために命を捨てることができます。
 
戦争で人を殺すこともできます。
 
(23頁)
おとうさんやおかあさんや、
学校の友だちや先生や、近所の人たちが、
戦争のために死んでも、悲しむことはありません。
 
政府はほめてくれます。
国や「国際貢献」のために、いいことをしたのですから。
 
(24頁)
人のいのちが世の中で一番たいせつだと、
今までおそわってきたのは 間違いになりました。
 
(25頁)
一番たいせつなのは、「国」になったのです。
 
(28頁)
もしあなたが、「そんなのはいやだ」と思ったら、
お願いがあります。
 
ここに書いてあることが
ひとつでもおこっていると気づいたら、
おとなたちに、
「たいへんだよ、なんとかしようよ」と
言ってください。
 
おとなは、「いそがしい」とか言って、
ういうことに なかなか気づこうとしませんから。
 
(31頁)
わたしたちは 未来をつくりだすことができます。
戦争しない方法を、えらびとることも。
 
(付記)
 『新・戦争のつくりかた』の帯に掲載する推薦文をアーサー・ビナードさんが寄せていますので、
それをご紹介しておきます。
 
“よくよく考えれば、「平和」の反対語は
「戦争」じゃなくて「ペテン」だとわかります。
ぼくらがペテンにひっかかるところから、
もう戦争は始まっています”
     アーサー・ビナード(詩人)