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靖国派は「死文化」した敵国条項(国連憲章)を蘇らせようというのだろうか? 

 今晩(2014年11月16日)配信した「メルマガ金原No.1911」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
靖国派は「死文化」した敵国条項国連憲章)を蘇らせようというのだろうか? 

 1945年6月26日にサンフランシスコにおいて調印され、同年10月24日に発効した国際連合憲章には、いわゆる「敵国条項」が存在し、1995年の国連総会において、ドイツや日本などが提出した敵国条項を憲章から削除する決議案が賛成多数によって採択されたものの、「この憲章の改正は、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって各自の憲法上の手続に従って批准された時に、すべての国際連合加盟国に対して効力を生ずる」(国連憲章108条)というハードルが高く、いまだに削除されるには至っていません。
 
 通常、敵国条項と言われるのは、憲章の53条・77条・107条の3箇条ですが、実質的に旧敵国に対する不利益を課しているのは53条と107条です。以下にこの2つの条文を引用します。
 
 
CHAPTER VIII: REGIONAL ARRANGEMENTS
第8章 地域的取極
Article 53
1.The Security Council shall, where appropriate, utilize such regional arrangements oragencies for enforcement action under its authority. But no enforcement action shall be taken under regional arrangements or by regional agencies without the authorization of the Security Council, with the exception of measures against any enemy state, as defined in paragraph 2 of this Article, provided for pursuant to Article 107 or in regionalarrangements directed against renewal of aggressive policy on the part of any such state, until such time as the Organization may, on request of the Governments concerned, be charged with the responsibility for preventing further aggression by such a state.
2.The term enemy state as used in paragraph 1 of this Article applies to any state which
during the Second World War has been an enemy of any signatory of the present
Charter.
第53条
1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の
地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とす
る。
2.本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵
国であった国に適用される。
 
CHAPTER XVII: TRANSITIONAL SECURITY ARRANGEMENTS
第17章 安全保障の過渡的規定
Article 107
Nothing in the present Charter shall invalidate or preclude action, in relation to any state which during the Second World War has been an enemy of any signatory to the present Charter, taken or authorized as a result of that war by the Governments having responsibility for such action.
第107条
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関
る行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したも
のを無効にし、又は排除するものではない。

 国連憲章53条1項前段は、地域安全保障機構による強制行動(武力制裁)が行われる場合には、必ず国連安全保障理事会の許可が必要であるとの原則を規定しながら、同項後段において、第二次世界大戦中に連合国の敵国であった国(同条2項)が、戦争により確定した事項に反したり(107条)、侵略政策を再現する行動等を起こしたりした場合には、国連加盟国や地域安全保障機構は安保理の許可がなくとも、当該旧敵国に対して強制行動(武力制裁)を課すことが容認されるとしているのです。
 
 もちろん、この規定が調印された1945年6月26日の時点では、沖縄地上戦がほぼ終結していたとはいえ、いまだ日本は抗戦を継続していたということは認識しておかねばなりませんが、それにしても、日本の国連加盟が承認された1956年12月から既に57年以上が経過した現在に至るまで、この敵国条項は存在し続けているのです。
 
 もっとも、前述の1995年総会決議採択などから、現状、これらの敵国条項は「死文化」しているという理解が一般的です。

 日本政府(麻生太郎内閣)は、2009年6月、民主党岩國哲人衆議院議員からの
質問主意書に対する答弁書において、以下のように回答しています。
 
衆議院議員岩國哲人君提出国連憲章の旧敵国条項(第五十三条、第百七条)に関する質問に対する答弁書
「我が国としては、平成十七年九月の国際連合首脳会合成果文書において、国際連合憲章第五十三条、第七十七条及び第百七条における「敵国」への言及を削除することを決意する旨記述されたことも踏まえ、国際連合安全保障理事会改革を含む国際連合革の動向など、国際連合憲章の改正を必要とし得る他の事情も勘案しつつ、適当な機会をとらえ、国際連合憲章第五十三条、第七十七条及び第百七条における「敵国」への言及の削除を求めていく考えである」
 
 さて、事実上「死文化」しているというのなら、今頃なぜわざわざこの敵国条項を取り上げたのかというと・・・。
 昨日、IWJで、岩上休身さんによる保阪正康さんへのロングインタビューを視聴していたところ、この敵国条項に言及した部分があり、「そうだ。こういう視点も必要だった」と気付かせ
てもらったというのがきっかけです。
 ちなみに、このアーカイブ動画は明日(11月17日)まで特別に無料視聴できます。
 
2014/11/13 「昭和一桁」と重なりあう、現代日本の軍事国家化 今こそ、昭和史から教訓を引き出すべき時 ~ノンフィクション作家・保阪正康氏に岩上安身が聞く
※1時間04分~あたりで、敵国条項について触れられていますが、その前後のあたりだけでも是非視聴していただきたいですね。
 
 つまりこういうことです。
 日本の戦後体制(安倍用語によれば「戦後レジーム」)は、ポツダム宣言の受諾から始まっているのですが、そのポツダム宣言が発出された1945年7月26日には、敵国条項
含む国連憲章が署名されてから既に1ヶ月が経過していました。
 そして、降伏文書に調印して正式に連合国の占領統治下に入り、1951年9月8日、国連憲章が署名された都市(サンフランシスコ)において、対日平和条約に署名することにより(発効は翌年4月28日)国際社会への復帰が承認され、1956年、日ソ国交回復にともない、ようやく同年12月18日に国連への加盟が承認されたという経過をたどってい
ます。
 この間、ポツダム宣言受諾から始まり、極東国際軍事裁判及び連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾することを約した平和条約、さらに敵国条項を含んだ国連憲章などを全て遵守することを前提として、現在の日本の国際的地位があるのです。
 これが日本の戦後体制の「法的基盤」です。これは好ましいとか好ましくないとか、気に
入るとか気に入らないとかいう問題ではありません。事実としてこうとしか解釈する余地がないのです。
 これを、個人として「自分は認めない」というのは勝手ですが、政権を担当する者は絶対言ってはならないことです。それを言った瞬間に、日本は戦後営々として築いてきた「法的
基盤」を喪失するのですから。
 それはまた、「死文化」したはずの敵国条項を蘇らせることになりかねない愚かな振る舞いです。
 果たして、靖国神社に集団参拝する国会議員に、それだけの見識や覚悟はあるのでしょうか。
 
(弁護士・金原徹雄のブログ)
2014年1月1日