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阪田雅裕氏の7月1日閣議決定についての評価を聴いて考えたこと

 今晩(2014年11月19日)配信した「メルマガ金原No.1914」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
阪田雅裕氏の7月1日閣議決定についての評価を聴いて考えたこと

 「九条の会」アピールに賛同する兵庫県医師・歯科医師・医学者の会(略称「九条の会兵庫県医師の会)が主催する市民講演会が、去る11月16日(日)、神戸市の兵庫県農業会館で開催されました。
 同会の講演会では、過去多くの著名な方々が講師を務めておられます。
 公式サイトによれば、ざっと以下のとおりです。

2004年11月21日 東京大学教授 小森陽一
2005年7月30日 加藤周一
2005年10月2日 女優・方言指導者 大原穣子氏
2006年1月14日 伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長 伊藤真
2006年9月30日 精神科医・帝塚山学院大学教授 香山リカ
2007年5月13日 哲学者・評論家 鶴見俊輔
2007年12月16日 映画監督 井筒和幸
2008年12月14日 京都大学教授 山室信一
2010年1月10日 東京大国語大学教授 伊勢崎賢治
2010年4月11日 「北朝鮮による拉致被害者家族会」元事務局長 蓮池透
2010年12月12日 立命館大学国際平和ミュージアム・名誉館長 安斎育郎氏
2011年1月22日 沖縄県保険医協会会長 仲里尚実氏
2011年5月15日 PMS総院長・ペシャワール会現地代表 中村哲
2013年1月13日 元防衛大教授 孫崎 亨氏
 
 そして、今回の講師は元内閣法制局長官の阪田雅裕氏でした。
 講演会の開催概要をチラシから抜粋します。

(抜粋引用開始)
“法の番人”元内閣法制局長官が語る
集団的自衛権が許されないわけ
安倍内閣による集団的自衛権行使容認の閣議決定に対し、元内閣法制局長官として立憲主義を守る立場から批判されている阪田雅裕さんに、日本人が他国の人々と「殺す殺される」関係にならないよう守ってきた憲法9条の意義について講演いただきます。
2014年11月16日(日)16:00~17:30
会場:兵庫県農業会館10階 101・102号室
定員:300人(事前申込み制) 資料代:500円(保険医協会会員 無料)
主催/九条の会兵庫県医師の会
共催/兵庫県保険医協会、兵庫県民主医療機関連合会、核戦争を防止する兵庫県医師の会、九条の会・医療者の会(全国)
講師:阪田雅裕氏(元内閣法制局長官
1943年生まれ、和歌山県出身東京大学法学部卒業後、大蔵省へ入省。1981年内閣法制局第一部参事官に就任。その後、大蔵省大臣官房参事官、内閣法制局第1部長、内閣法制次長などを歴任し、2004年から内閣法制局長官。2006年退官し、弁護士登録。アンダーソン・毛利・友常法律事務所顧問就任。また、社会福祉法人全国盲ろう者協会理事長、大阪大学大学院法学研究科客員教授などを兼任する。主な著書に『政府の憲法解釈』(有斐閣、2013年)、『「法の番人」内閣法制局の矜持』(大月書店、2014年)など。
集団的自衛権行使容認のための解釈改憲に慎重、反対の有識者と「国民安保法制懇」を設立。
(引用終わり)
 
 なお、このチラシは相当前に作られていたようで、ご存知の方も多いと思いますが、考え方が一致しない部分があるということで、阪田さんは国民安保法制懇を退会されています。
 
 この講演会は、IWJ兵庫によって中継され、アーカイブを視聴することができます。
 
2014/11/16【兵庫】“法の番人” 元内閣法制局長官が語る ―集団的自衛権が許されないわけ(動画)

 私がこの講演に注目したのは、端的に言えば、阪田さんが国民安保法制懇を退会した理由を知りたいと考えたからです。
 この講演会の冒頭でも話されているとおり、元来、阪田さんは「集団的自衛権の行使自体が良くない」とか「憲法9条を変えてはいけない」というような主張をするつもりは毛頭なく、ただ、憲法9条がある以上、それを「改正」しない限り、集団的自衛権を行使することは許されない、それが立憲主義法治主義からの当然の帰結だという立場であって、この点については終始一貫しています(だと思います)。

 このようなスタンスから、弁護士会などからの講演依頼には応じても、いわゆる「9条の会」からの依頼には基本的に応じないと聞いていたのですが、今年開催された「九条の会」10周年記念集会にビデオ出演されたあたりから、やや方針転換されたのかもしれません。
 
 その阪田さんが袂を分かった国民安保法制懇の報告書については、以下の記事をご参照ください。
 
2014年10月1日
 
 結局は、7月1日閣議決定をどういうものと理解するか(解釈するか)という点で、国民安保法制懇のメンバーと意見が食い違ったのだろうという推測はついていましたので、その点に絞って阪田さんの意見に注目しました、
 上記動画の1時間18分~27分までの部分が、7月1日閣議決定についての阪田さんの解釈が語れらた部分です。
 この内、国民安保法制懇の他のメンバーと一致できなかった核心部分と思われる箇所を文字起こししてみます。
 
1時間21分~
「(阪田雅裕氏)で、私はまあ、これでぎりぎりですよ。みんな、だからもう「とんでもない」と、今回の閣議決定は。「箸にも棒にもかからん」と仰るんですが、私はちょっと、多少というか、長く政府で飯を食ってきたこともあって、さっきも申し上げたように、内閣法制局なる組織のですね、大変辛い立場も分かるんです。ですからまあ、理屈としては、それは専守防衛は、国民を守るために自衛隊が出て行く、実力を行使するという範囲内で、もし我が国が直接攻められていなくても、行使をしなければいけないという場面があれば、それは分かるよね。で、ぎりぎりどんな場合かというと、無い知恵絞って考えたんですよ。朝鮮半島が有事だと、たとえばね。韓国が攻撃を受けている。で、攻撃をしている国が、今は韓国を攻めている。だけど、韓国やっつけたら次は日本だと叫んでいる。叫ばないまでも、客観的な状況に照らしてですね、韓国が負けたら日本に戦火が及ぶことは必至である。というようなことが分かる、まさに「明白な危険」ですよね。そういう場合に、韓国が劣勢だけど、まあしょうがないよね、我が国が攻撃されてないからと言って、自衛隊はですね。指をくわえて見ていなければいけないということは、もしかしたらないかもしれない。そういう場合に限るんだと、いうことであればですね。これまでは集団的自衛権の行使は駄目だと言ってたんですから、それはもう解釈の変更であることは私は否定するものではないんですけどもね。だけど、論理としては、今までの論理の延長戦上で、そこは考えることができるのかなというふうに思うのです。だから、ここに至った以上はですね、その範囲内に限られるんだよ、ということをですね、しっかりと証(あかし)を取っていく、言質(げんち)を取っていくという努力が大事なのかなというふうに思っています。で同時にもう1つ大事なことはですね。申し上げたように、今まではそんな場合も含めて、集団的自衛権の行使なんてのはやらない、それはやる必要もないからやらないと言ってきた訳ですね。国民の生命を守る上で。だけど変える訳ですから、変えるというためには、変えることについて何故それが必要であるかということの十分な説明が当然にいる訳です、これは。立法事実と言いますけどね」(略)
「私は、その論理がその限りにおいては分かるよというだけでですね。また、今まで一緒に集団的自衛権の行使は駄目だと言ってきた人たちからはですね、「お前は裏切り者だ」みたいなことを言われて大変心外なんですけどね。別に基本的にこの閣議決定を評価している訳でもなんでもない。ですから、おかしいということは確かなんですが、おかしいものをおかしくない範囲にとどめるためにはどうすればいいかということについて一生懸命考えているだけということであります」
 
 私は阪田さんが「裏切り者」だとは思いませんが、以上の説明には、はっきり言って説得力が不足していると思います。
 朝鮮半島有事を例に出して説明されていますが、これは、いわゆる「15事例」と五十歩百歩としか思えず、また、「今まではそんな場合も含めて、集団的自衛権の行使なんてのはやらない、それはやる必要もないからやらないと言ってきた訳ですね」というのは、「やる必要がないからやらない」のではなく、「やれないからやらない」ではなかったのか?と反問したいですね。
 さらに、「ここに至った以上は」「おかしいものをおかしくない範囲にとどめるためにはどうすればいいか」という発想は、戦略論としてはあり得るでしょうが、それが有効に機能するとは到底思えないということがあります(ここは意見の別れるところでしょうが)。
 ただ、このような意見にも耳を傾けながら、自らの見解を揺るぎないものにしていく作業が誰にとっても必要なのだと思います。

 
(弁護士・金原徹雄のブログより)
2013年9月19日
阪田雅裕元内閣法制局長官が語る“集団的自衛権”(9月25日まで全編視聴可能)
2013年11月17日
大阪弁護士会「シンポジウム 集団的自衛権について考える」(11/16)を視聴する
2014年2月23日
阪田雅裕元内閣法制局長官が訴える「法治主義の危機」(2/20集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会 第1回) ※追加映像あり
2014年3月6日
文字で読める阪田雅裕氏インタビュー(朝日新聞、IWJブログ、マガジン9) ※追加映像あり
2014年5月16日
(増補版)日本記者クラブ・研究会の映像で考える“集団的自衛権”(北岡伸一氏、阪田雅裕氏、柳澤協二氏、長谷部恭男氏)
2014年5月30日
12人の怒れる識者(国民安保法制懇)に期待する