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テレビ局に「公平中立」を押し付ける自民党の傲岸不遜

 今晩(2014年11月27日)配信した「メルマガ金原No.1922」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
テレビ局に「公平中立」を押し付ける自民党の傲岸不遜

 私は、昨晩(11月26日)、twitterでこの情報に初めて接した時、「ガセネタ、偽造文書ではないのか?」という疑いを抱き、しならく様子を見た方が良いと思いました。
 それほど、れっきとした政権与党の重要な地位にある人間が、その肩書きを堂々と名乗った上で報道機関に送付する文書とはにわかに信じられなかったからです。
 しかしながら、第一報から一昼夜以上が経過したにもかかわらず、当該政党(自由民主党)の公式サイトには何の反応もなく、大手メディアから後追い報道もなされ、「偽物ではなく本物」であることが確定的となりましたので、取り上げることにしました。
 
 まず、昨日、この問題文書を「スクープ」したNOBODER(境界なき記者団)に掲載された記事をご紹介します。
 
 
 
 まずは、その「衝撃的」な文書をお読みください。これを「衝撃的」と感じるかどうかで、読む人の憲法についての感度をおよそ推し量ることができます。
 
(引用開始) 
                                      
平成26年11月20日
在京テレビキー局各社
 編成局長 殿
 報道局長 殿 
 
                           自由民主党
                            筆頭副幹事長  萩生田 光一
                            報道局長     福 井   照
 
    選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い
 
 日頃より大変お世話になっております。
 さて、ご承知のとおり、衆議院は明21日に解散され、総選挙が12月2日公示、14日投開票の予定で挙行される見通しとなっております。
 つきましては、公平中立、公正を旨とする報道各社の皆様にこちらからあらためてお願い申し上げるのも不遜とは存じますが、これから選挙が行われるまでの期間におきましては、さらに一層の公平中立、公正な報道姿勢にご留意いただきたくお願い申し上げます。
 特に、衆議院選挙は短期間であり、報道の内容が選挙の帰趨に大きく影響しかねないことは皆様にもご理解いただけるところと存じます。また、過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあったところです。
 したがいまして、私どもとしては、
 ・出演者の発言回数及び時間等については公平を期していただきたいこと
 ・ゲスト出演者等の選定についても公平中立、公正を期していただきたいこと
 ・テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中がないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
 ・街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
―等について特段のご配慮をいただきたく、お願い申しあげる次第です。
以上、ご無礼の段、ご容赦賜り、何とぞよろしくお願い申し上げます。
(引用終わり)
 
 とりあえず、上記「お願い」についての私の意見を述べる前に、これが実際に自民党が発出した文書であり、在京テレビキー局が受け取ったことについての裏付報道をご紹介しておきます。特に、毎日新聞の記事は、短い取材時間にもかかわらず、充実した内容になっています。
 
共同通信 2014/11/27 21:00
自民が選挙報道の公平求める文書 テレビ各局に渡す

(引用開始)
 
自民党衆院解散の前日、選挙期間中の報道の公平性を確保し、出演者やテーマなど内容にも配慮するよう求める文書を、在京テレビ各局に渡していたことが27日、自民党などへの取材で分かった。
 自民党広報本部は取材に「報道の自由は尊重するという点は何ら変わりない。報道各社は、当然ながら公正な報道を行ってもらえると理解している」と回答した。
 文書は20日付で、在京キー局の編成局長と報道局長宛て。差出人は自民党筆頭副幹事長の萩生田光一氏と、報道局長の福井照氏となっている。
(引用終わり)
 
毎日新聞 2014年11月27日 20時25分(最終更新 11月27日 21時04分)
衆院選:自民 テレビ局の選挙報道で細かく公平性要請

(抜粋引用開始)
 
自民党がNHKと在京民放テレビ局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を20日付で送っていたことが27日分かった。街頭インタビューの集め方など、番組の構成について細かに注意を求める内容は異例。編集権への介入に当たると懸念の声もあがっている。
 要望書は、解散前日の20日付。萩生田光一自民党筆頭副幹事長、福井照・報道局長の両衆院議員の連名。それによると、出演者の発言回数や時間▽ゲスト出演者の選定▽テーマ選び▽街頭インタビューや資料映像の使い方−−の4項目について「公平中立、公正」を要望する内容になっている。街頭インタビューをめぐっては今月18日、TBSの報道番組に出演した安倍晋三首相が、アベノミクスへの市民の厳しい意見が相次いだ映像が流れた後、「これ全然、声が反映されてません。おかしいじゃありませんか」と不快感を示していた。
 また要望書では、「過去にはあるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、大きな社会問題になった事例も現実にあった」とも記し、1993年の総選挙報道が国会の証人喚問に発展したテレビ朝日の「椿問題」とみられる事例をあげ、各局の報道姿勢をけん制している。
 この日の定例記者会見で、テレビ東京高橋雄一社長は「これをもらったから改めて何かに気をつけろというものとは受け止めていない」と述べた。NHK以外の各民放は文書が届いたことを認め、公平中立な報道を心がけるとしている。
 こうした要望は、選挙のたびに各政党が行っているが、公示前は珍しい。ある民放幹部は「ここまで細かい指示を受けた記憶はない」と話し、また別の民放幹部は「朝日新聞バッシングなどメディア批判が高まる中、萎縮効果はある」と語った。
 毎日新聞の取材に対し自民党は「報道の自由を尊重するという点は何ら変わりない。当然ながら公正な報道を行っていただけるものと理解している」と文書でコメントした。【望月麻紀、須藤唯哉、青島顕】
(後略)
(引用終わり)
 
 毎日新聞の上記報道にある「こうした要望は、選挙のたびに各政党が行っている」とはどういうものかにも興味がありますが、とりあえずは11月20日付の「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」についてです。
 
 毎日も触れている「街頭インタビューをめぐっては今月18日、TBSの報道番組に出演した安倍晋三首相が・・・」という部分に興味がある方は、「ニュース23」&「安倍」で動画検索するとともに、以下の記事などをお読みください。
 
 
 
 それよりも何よりも、一読まず多くの人が気がつくのは、「公平中立、公正」というフレーズが実に5回も繰り返されていることです(他に「公平」が1回)。ここまでくると「嫌味」としか思われず、この文章の書き手の「品性」のほどが露呈していると言わざるを得ませんが、その「出典」は放送法の以下の規定です。
 
放送法(昭和二十五年五月二日法律第百三十二号)
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
2 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
 
 私は「出典」と書きましたが、実は放送法4条では、「政治的に公平であること」は求められていますが、「中立」とも「公正」とも言っていないのです。知ってました?
 自民党の文書は、「公平中立」と勝手に2語を連結させていますが、元来、「公平」と「中立」というのは同じ概念ではないはずで、これを連結語にして何を意味させようとしているのか、説明する責任は自民党にあるでしょう。放送法では「公平」としか言っていないのですから。
 余談ですが、これに類する意味不明の連結語に「安心安全」という言葉があります。私は、「安心安全」という連結語を安易に使っている人の言うことは、眉につばをつけて聞くことにしています。
 
 ・・・それはさておき。
 放送法は、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」も放送事業者に求めていますが、これは「公平」の要請の具体化であって、「中立」を求めたものではないでしょう。
 自民党は、テレビ局に対して、ゲスト出演者等の選定、テーマの設定、資料映像の選択にまで口を出し、「公平中立、公正」を押し付けようとしています。一体、自民党の考える「公平中立、公正」とは何でしょうか?
 本来、これはメディアから自民党に問い質してもらいたいところですが、私の推測を述べるとすれば、キーワードは「中立」でしょう。
 この放送法に存在しない「中立」なる概念を勝手に放送事業者に押し付け、政府・自民党に批判的な意見を抑圧しようという意図が透けて見えます。

 そもそも、政権与党から、今この時期にこのような「お願い」をするというのは、放送法3条違反だとは考えなかったのでしょうか?
 
(放送番組編集の自由)
第三条 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
 
 もちろん、放送法3条が保障する「放送番組編集の自由」は、憲法21条に由来するものです。
 
日本国憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
 
 ちなみに、放送法は、日本放送協会(NHK)の組織、運営についても定めているのですが、私たちにも非常に馴染み深くなった以下の規定もご紹介しておきましょう。
 
第三節 経営委員会
(委員の任命)
第三十一条 委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、その選任については、教育、文化、科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない。
 
 この規定に基づき、安倍晋三首相は、本田勝彦氏(日本たばこ産業顧問/首相の元家庭教師)、長谷川三千子氏(埼玉大名誉教授)、百田尚樹氏(作家)らの「お友達」を一挙に経営委員に任命するという、これまで「最低限の恥を知る」総理大臣は決してやらなかった人事を断行し、まんまとNHKを支配下に置くことに成功した・・・かどうかは評価が分かれるところですが、いずれにしても、放送への政治介入など何とも思わない「勇将(?)」の下に弱卒がある訳はなく、今回の「お願い」につながったのでしょう。
 
 自民党の諸氏には、浜矩子教授も引用されていた「心の欲する所に従えども矩を踰えず(こころのほっするところにしたがえどものりをこえず)」(孔子)という言葉を贈りたいところですが、いくら70歳になっても、今の彼らには無縁な言葉なんでしょうね。