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珍道世直さんからの手紙~“不戦永久の国家”を願って

 今晩(2014年12月12日)配信した「メルマガ金原No.1937」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
珍道世直さんからの手紙~“不戦永久の国家”を願って

 日本人にとって決して忘れてはならない日となった2014年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」からわずか10日後の7月11日、三重県に住む珍道世直(ちんどう・ときなお)さんという元三重県職員の方が、安倍晋三外18名(全閣僚個人)を被告として、東京地方裁判所に次のような訴訟を提起されました。
 
(請求の趣旨)
 2014年7月1日、安倍内閣が行った「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定憲法9条の下で許容される自衛の措置)」は、憲法第9条に違反する決定であり、無効であることの確認を求める。併せて、この閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した各大臣の懲戒処分を求める。
※その後、8月7日に、民法に基づき金10万円の慰謝料の支払を求める請求を追加。
 
 この提訴については、珍道さんの講演映像(IWJ)と併せて、私のメルマガ(ブログ)でご紹介しましたので、ご記憶の方もおられることと思います。
 
 
 本件訴訟については、10月17日、東京地裁において第1回口頭弁論が開かれましたが、即日結審し、本日(12月12日)判決が言い渡されました。
 私がこの稿を書いている午後8時過ぎの段階で、ネットで見つけたニュースは以下の3本でした。
 
NHK NEWS WEB 12月12日 17時11分
集団的自衛権訴訟 原告の訴え退ける

(抜粋引用開始)
 12日の判決で東京地方裁判所の岡崎克彦裁判長は「今回の閣議決定は安全保障体制の整備について、内閣としての意思決定をしたもので、直ちに原告の権利を制限するものではない。原告と内閣との間で具
体的な権利や義務について争っているとはいえず、訴えは法律に適さない」として訴えを退けました。
(引用終わり)
 
時事ドットコム 2014年12月12日 17時59分
閣議決定無効、訴え却下=集団的自衛権めぐり-東京地裁

(引用開始)
 集団的自衛権の行使を容認した閣議決定違憲として、元三重県職員の珍道世直さん(75)=津市=が安倍内閣に無効確認を求めた訴訟の判決が12日、東京地裁であった。岡崎克彦裁判長は「当事者間に
具体的な権利義務関係はなく、訴えは不適法だ」と述べて請求を却下した。珍道さんは控訴する方針。
 珍道さんは「戦争経験を持つ者として、多大な精神的苦痛を受けた」と訴え、当時の閣僚全員に総額1
0万円の損害賠償も求めたが、岡崎裁判長は「個人的感情にすぎない」と認めなかった。
 珍道さんは判決後、「国是の大転換をもたらした閣議決定について判断しないのは違憲審査権を放棄し
ている」と述べた。
(引用終わり)
 
産経ニュース 2014年12月12日 18時53分
閣議決定無効の訴え退ける 東京地裁

(抜粋引用開始)
 岡崎克彦裁判長は「閣議決定がすぐに原告の権利を制限するわけではない。具体的な法律関係の争いではないので訴えは不適法だ」と述べ、無効確認の訴えを却下。不安を理由とした10万円の慰謝料請求は
「個人的感情にすぎない」として棄却した。
 判決後、珍道さんは「閣議決定は手続き上も内容も明白な憲法違反だ。判決は受け入れられないので控
訴する」と語った。
 閣議決定の無効確認を求めた訴訟は他にも複数起こされ、これまでに東京地裁広島地裁で今回と同様
の却下判決が言い渡されている。
(引用終わり)
 
 原告の訴えをしりぞける判決の場合、訴訟要件を満たさない不適法な訴えの場合には「却下」、訴訟要件は満たしているが、訴えを認めるに足りる理由がない場合には「棄却」の判決が言い渡されます。
 上記3つの報道を比較すると、最も正確に報じたのは産経ニュース、そもそも正確に報じようという意図が感じられないのがNHKです。
 
 ただし、この3社の報道を読んで、直ちに「あの請求はどうなったのか?」と疑問を持たれた方がおられるとすれば、私のブログをしっかりと読み込んでくださっている方かもしれません。
 そうです。「請求の趣旨」で珍道さんが裁判所に判断を求めた「この閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した各大臣の懲戒処分を求める。」という部分についての裁判所の判断がどうだったのか、少なくともこれまで目にした3社の報道は、意図的かどうかはともかくとして(おそらく意図的だと推測しますが)、完全にスルーしています。
 今後、「懲戒処分を求め」た請求がどうなったか(「却下」となったと思いますが)報道するところが出てくるかもしれませんが、大手メディアでは望み薄だと予想しておきます。
 
 ところで、先月(11月)の終わり、その珍道世直さんご本人から、私宛にお手紙が届きました。
 私が珍道さんの提訴をブログで散り上げたことに対する丁重な御礼が述べられており、大変恐縮したものです。
 それと併せて、10月17日に東京地裁(610号法廷)で行われた第1回口頭弁論についての「概要報告」が同封されており、一読したところ、珍道さんの3つの請求のそれぞれについて、原告・被告双方の主張が簡潔明瞭にまとめられており(被告らの主張も要領良くフェアに記載されています)、非常に参考になりました。
 ただし、被告らの主張が(国の回答)と記載されているのは、形式的なことを言えば不正確です(被告は「国」ではなく「安倍晋三外18名」なのですから)。

 
 この裁判については、これから東京高裁控訴審が係属することになりますが、是非多くの方に注目していただきたいと思います。
 もちろん、司法制度の限界(珍道さんは私宛の手紙の中で「裁判所の壁」と表現されていました)があることは、珍道さんにしても百も承知の上で、やむにやまれず踏み切った訴訟のはずです。
 たしかに、法律家の目から見て、珍道さんが主張されている(請求の趣旨)を訴訟手続で達成しようというのは非常に困難と言わざるを得ません。
 しかし、だからといってこのような営為が無意味なものだなどとは私は全く思っていません。弁護士には書けない主張をあえて行う市民の営みが、社会を動かす種火とならないなどと誰が言えるでしょうか。
 
 最後に、私宛にお送りいただいた手紙の一部をここに公開しても、おそらく珍道さんにはご同意いただけるだろうと思います。
 珍道さんのこの裁判にかけた思いを読みながら、この文章を読んでくださった多くの方とともに、「私たちの志は珍道さんと一緒ですよ」というエールを送りたいと思います。
 
(珍道世直さんの手紙から)
裁判所の壁と国の壁の二重の大きな壁が立ちふさがっておりますが、“戦争への道を開いてはいけない”
、“不戦100年の国家”、“不戦永久の国家”を願って、一微力な国民ですが、取り組んで参りたいと決意いたしております。どうか今後ともお見守り下さい。