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原発事故子ども・被災者支援法の理念・条文が無視されている~環境省・専門家会議「中間取りまとめ」を読んで

 今晩(2014年12月19日)配信した「メルマガ金原No.1944」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
原発事故子ども・被災者支援法の理念・条文が無視されている~環境省・専門家会議「中間取りまとめ」を読んで

 環境省に設置された
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」の審議経過については、OurPlanetTVが継続的に会議の模様を中継し録画を公開するとともに、各回の会議でどのような議論がなされたのかについて要領良く記事にまとめてくれているため、録画を全編
視聴する時間がとれない場合でも、議論の方向性を把握できるため、非常に助かっています。
 そもそも、当初環境省が、この専門家会議について「カメラ撮りは会議の冒頭のみ」と限定し、会議自
体のビデオ撮影を認めていなかったことに対し、「福島第一原発に伴う健康影響に関する会合は、社会の
関心も高いため、ビデオ取材を制約するのは問題」とする抗議文を提出し、強くビデオ取材を認めるように働きかけたのがOurPlanetTVでした。
 その結果、第3回以降、ようやく全面的にビデオ撮影による会議の公開が実現し、環境省自身が撮影し
た映像もインターネットで公開されることになりました。
 
 前回11月26日に開催された会議では、福島県立医大の丹羽太貫特任教授が傍聴者と怒鳴り合うという異常な事態となったこともOurPlanetTVの報道によって知ったという人が大半でしょう(おかげで昨日開催の会議では傍聴席を設けないこととなり、これに抗議する団体の記者会見が行われたりしました)。
 
 さて、昨日(12月18日)開催された第14回目の専門家会議において、「中間とりまとめ」が行われました。
 
 
【ノーカット版】第14回 原発事故に伴う住民の健康管理のあり方専門家会議

 この「中間とりまとめ」の問題点については、OurPlanetTVが詳細なまとめ記事を掲載
してくれていますので、是非ご一読ください。
 
「生涯見守り」から「疫学研究へ」~甲状腺検査見直し提言
(引用開始)
 原発事故に伴う住民の健康調査に関して検討している環境省の専門家会議は18日、中間報告書をまと
めた。報告書では、福島原発事故による「放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まる可能性は小さいと考えられる」とした上で、福島県内の甲状腺検査について見直しを提言。また福島県外での健診
は必要ないと結論づけた。
「生涯見守り」から「疫学研究へ」転換へ
 原発事故当時18歳以下だった子ども36万人を対象に実施している甲状腺検査について、同報告書は
、「今後も継続しているべきものである」としながらも、「被ばくが少ないと考えられる住民を含む広範囲の住民全体に引き続き一様な対応を行うことが最善かどうかについては議論の余地がある」と記載。そ
の上で、WHO報告書などでも言及されている疫学的追跡調査として充実させるべきだと提言した。
 福島県内の甲状腺検査は、「生涯にわたり皆様の健康を見守ります」をキャッチフレーズに、県民の不
安解消や早期発見早期治療を主眼においてきた。しかし、この半年、放射線影響について疫学的な立証ができないといった批判や100名を超える悪性・悪性疑いが出ていることについて、「過剰診断」との批判が強まっていた。こうした中、専門家会議は、これまで全ての子どもを対象としてきた検査の対象範囲
を縮小させ、コホート研究として臨床データの収集を拡充すべきとする方針を示した。
福島県外の健診はなし
 会議の当初の目的だった福島県外における健診についても、「福島県内の避難区域等よりも多くの被曝
を受けたとは考えにくい」と必要性を認めず、「個別な健康相談やリスクコミュニケーションを通じて、情報を丁寧に伝えることが重要」だとした。また、実施については、福島県の「甲状腺検査」の状況によ
って決定するとしている。
「中間とりまとめ」は「最終とりまとめ」
 これまでの会議では、一部の委員から度々、「子ども被災者支援法」にのっとり、健診と医療支援に特
化した会議を省庁連携した上で設置すべきだとする意見が出されてきた。前回の会議でも、日本学術会議の春日文子委員から、「に省庁間を超えた後継会議を即座に設置すべき」との発言がなされたが、報告書に「意見があった」と記載されているのみで、提言としては盛り込まれなかった。
 報告書では、今後の方向性について「県民健康調査等の動向を注視し、省庁関連系の上でデータの収集
や評価に務め、幅広い観点から科学的検討を行うべきである」と結んでいる。事務局側も、福島県民健康調査の甲状腺検査で「多発」が認められない限り、新たな検討は行わないとしており、今回の「中間とり
まとめ」が事実上の「最終とりまとめ」となる。
来週「事業案」が公表されパブコメ
 子ども被災者支援法にのっとり、昨年11月から1年にわたって開催された専門家会議。「中間とりまと
め」が了承された最終会合は、傍聴者を入れないかたちでの異例の開催となった。もともとは、福島県の健診をテーマに議論するとの建前だったが、その大半を線量推計に費やし、異論を挟めないような強引な会議運営により、8月には、住民らが長瀧座長の解任を要求。また、抽選名目で、一部の傍聴者を閉め
出すなど、運営手法も批判の的となってきた。
(引用終わり)

 私も、「中間とりまとめ」はほんのざっと流し読みしただけなので、OurPlanetTV(多分書いているのは
白石草さんでは)のまとめ以上の意見など述べられる段階ではありませんが、原発事故子ども・被災者支援法との関係についてのみ、若干の感想を付け加えておきます。
 
東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成二十四年六月二十七日法律第四十八号)
放射線による健康への影響に関する調査、医療の提供等)
十三条
 国は、東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくの状況を明らかにするため、被ばく放射
線量の推計、被ばく放射線量の評価に有効な検査等による被ばく放射線量の評価その他必要な施策を講ず
るものとする。
2 国は、被災者の定期的な健康診断の実施その他東京電力原子力事故に係る放射線による健康への影響
に関する調査について、必要な施策を講ずるものとする。この場合において、少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわ
たって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする。
3 国は、被災者たる子ども及び妊婦が医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しな
い負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策その他被災者への医療の提供に係る必要な施策を講ずるものとする。
 
 そもそも「中間取りまとめ」自体、その「はじめに」で言及しているように、国がこの専門家会議を設置したのは、原発事故子ども・被災者支援法によって義務付けられた国の責務を果たすためであったはずです。
 
(「中間とりまとめ」「はじめに」から抜粋引用開始)
 平成24年6月に「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるた
めの被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(平成24 年6月27日法律第48号)が成立し、その第13条において、国は放射線による健康への影響に関する調査等に関し必要な施策を講ずることとされた。また、同法第5条第1項の規定に基づいて「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」(平成25年10月11日閣議決定)が策定され、その中で同法第13条に関し「3 被災者への支援」の「(13) 放射線による健康への影響調査、医療の提供等」に係る具体的取組として「新たに有識者会議を開催し、福島近隣県を含め、事故後の健康管理の現状や課題を把握し、今後の支援の在り方を検討」することとされた

(引用終わり)
 
 しかし、OurPlanetTVが報じるとおり、「会議の当初の目的だった福島県外における健診についても、『福島県内の避難区域等よりも多くの被曝を受けたとは考えにくい』と必要性を認めず、『個別な健康相談やリスクコミュニケーションを通じて、情報を丁寧に伝えることが重要』だとした。また、実施については、福島県の『甲状腺検査』の状況によって決定するとしている」のです。
 
(「中間とりまとめ」「Ⅳ 健康管理及び施策の在り方について」「4.甲状腺がんについて」から抜粋飲用開始)
(4) 福島近隣県における今後の施策の方向性
 福島県以外の地域について現時点で得られる被ばく線量データは限られているが、福島近隣県において
福島県内の避難区域等よりも多くの被ばくを受けたとは考えにくい。特に、放射性ヨウ素による被ばくについては、表3-1、表3-2及び表4に示すとおり、福島県内よりも福島近隣県の方が多かったということを積極的に示唆するデータは認められていない。しかし、近隣県住民の事故初期の内部被ばくについては、十分なデータがなく不確定な要素があるという指摘もあったことから、小児の甲状腺検査について検討を行ったところ、福島近隣県については今後の県民健康調査「甲状腺検査」の状況を踏まえて必要に応じ検討を行っても遅くはないとの意見があった。
 福島近隣県においては、甲状腺がんに対する不安から、小児に対する甲状腺検査を施策として実施する
ことを要望している住民もいる。症状のない小児に甲状腺検査を実施すれば放射線被ばくとは無関係に結果として生命予後に影響を及ぼさない甲状腺がんが一定の頻度で発見され得ることや、偽陽性等に伴う様々な問題を生じ得ることから、施策として一律に実施するということについては慎重になるべきとの意見が多かった。一方で、検査を希望する住民には、検査する意義と検査のメリット・デメリット両面の十分
な説明と合わせて適切な検査の機会を提供すべきとの意見もあった。
 いずれにしても、まずは福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の状況を見守る必要がある。その上で、
甲状腺がんに対する不安を抱えた住民には個別の健康相談やリスクコミュニケーション事業等を通じてこ
れまでに得られている情報を丁寧に説明することが重要である。
 したがって国は、福島近隣県の自治体による個別の相談や放射線に対するリスクコミュニケーションの
取組について、一層支援するべきである。その際、各地域の状況や自治体としての方向性を尊重し、地域
のニーズに合わせて柔軟な事業展開ができるように配慮することが望ましい。
(引用終わり)
 
 原発事故子ども・被災者支援法13条は、「支援対象地域で生活する被災者への支援」(8条)、「支援対象地域以外の地域で生活する被災者への支援」(9条)、「支援対象地域以外の地域から帰還する被災者への支援」(10条)「避難指示区域から避難している被災者への支援」(11条)の後に条文が置かれていることからも明らかなとおり、「とどまる」「避難する」「帰還する」といういずれの選択をした場合であっても、被災者1人1人の自己決定を尊重した上で、被災者に対する適切な健康診断や医療支援等の施策を講じることを国の責務としています。
 そして、小児甲状腺がんなども念頭に、「少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわたって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする」と定めています。もちろん、「一定の基準以上の放射線量が計測される地域」というのは、明確な科学的根拠に基づく基準の設定を求めているのであって、「福島県」と「近隣県」に2分するというような発想を許しているとは到底解されません。
 「放射線は県境では止まらない」という当たり前のことがなぜ通じないのか?と、多くの人ははがゆく
腹立たしい思いにかられることでしょう(もちろん、私もそうです)。
 
 最後に、もう一つ言っておきたいことがあります。
 上で引用した「中間取りまとめ」の「はじめに」で、原発事故子ども・被災者支援法に言及した部分を
私が読んだ際にただちに念頭に浮かんだ印象(というか怒り)についてです。
 私がどういうことに引っかかったと思いますか?
 上記引用部分では、最初にこの法律に言及した際に「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじ
めとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(平成24 年6月27日法律第48号)という正式法令名(フルネーム)を記載した上で、以下の部分でこの法律を指
す場合には、「同法」と呼んでいます。
 それのどこがおかしいのか?
 別におかしくはありません。この「はじめに」だけなら。
 しかし、このように正式名称が長い用語が何度も登場する文章を書く場合には、初出箇所では正式名称
を記載した上で、それに続けて括弧書きで(以下「○○○」という。)と、その文章の中で使用する略称を定め、以下の文章中にその用語が登場する際には略称で表記するのが行政文書や法律文書の約束事です
。この書き方は、官僚や法律家なら身に染みついたものです。
 実際、「中間取りまとめ」の「はじめに」の冒頭は、以下のような文章で始まります。
 
(「中間とりまとめ」「はじめに」から抜粋引用開始)
 平成23年3月11日午後2 時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の大地震が発生した。地震当時
運転中であった東京電力福島第一原子力発電所(以下「原発」という。)の1~3号機は、地震及び津波よりその全てで交流電源が喪失し冷却システムが停止したことから原子炉が冷却できなくなり、最終的に
原子炉内の燃料の溶融に至った。
(引用終わり)
 
 私が何を言いたいのかお分かりでしょうか?
 「はじめに」で原発事故子ども・被災者支援法に言及した部分を読んだ私は、「この『中間とりまとめ
』の草案を書いた官僚は、『はじめに』以外の部分(本文)で、この法律に言及するつもりがない」と受
け取りました。
 実際にそうなのかどうか、しらみつぶしに精読した訳ではないので、もしかすると本文で言及した箇所
があるのを見落としている可能性もありますが、それは大した問題ではありません。
 先ほど書いたとおり、(以下「○○○」という。)という表記法は、官僚や法律家にとっては、ほとん
ど「無意識」と言ってもよいくらい自然に出てくるものであり、かくも長ったらしい正式名称を持つ法律に、本文の何カ所かで言及するつもりがあるのなら、初出箇所で(以下「○○○」という。)という略称を記載しないことなど絶対にありません。
 この「専門家会議」が原発事故子ども・被災者支援法13条を具体化するために設置されたという意識があるのであれば、本文において同法の規定に言及しないということなど「あり得ない」だろうと私は思います。
 
 OurPlanetTVによれば、「来週『事業案』が公表されパブコメへ」ということなので、「原発事故子ども被災者支援法の理念はどうなったのか?理念どころか条文さえ無視しているではないか?」という視点からの意見を是非提出したいと思っています。
 皆さんも、今から是非「中間とりまとめ」を批判的に読み込み、積極的にパブコメに意見を送ってくだ
さい。
 
(付記)
 「甲状腺がんに対する不安を抱えた(福島近隣県の)住民には個別の健康相談やリスクコミュニケーション事業等を通じてこれまでに得られている情報を丁寧に説明することが重要である」に言う「リスクコミュニケーション」とは、「甲状腺がんなど心配する必要はない」という「スリコミ」(今中哲二氏の命名による)に他ならないということに注意が必要です。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)