wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

7/1閣議決定だけではなく4/1閣議決定も忘れてはならない~国は武器輸出を本気で推進している

 今晩(2014年12月22日)配信した「メルマガ金原No.1947」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
7/1閣議決定だけではなく4/1閣議決定も忘れてはならない~国は武器輸出を本気で推進している

 激動の2014年も残り1週間余りとなり、この1年を振り返る季節となったものの、解散総選挙からまだ1週間しか経っていないこの時期、なかなかそういう気分になりそうもありません。
 ただ、集団的自衛権の行使を限定(?)容認した7月1日閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と並んで、日本の国のあり方を根底から変容させた政策転換として、後世指摘されることになるかもしれないのが、4月1日閣議決定「防衛装備移転三原則」です。
 
 そもそもの話として、4月1日閣議決定前の「武器輸出三原則」がどのようなものであったのかについては、現在の防衛省自身の説明がまとまって読めるのは、「平成26年版 防衛白書」の中の「資料62 武器輸出三原則等」位のようです。つまり、今年の4月1日以降は歴史の彼方に捨て去られた「資料」となったという訳です。

 その「資料」の中から、長らく“事実上”の武器輸出禁止の根拠となってきた、1976年(昭和51年)2月27日、衆議院予算員会での答弁において三木武夫総理大臣によって表明された「政府統一見解」を引用しておきます。
 
武器輸出に関する政府統一見解
(1)政府の方針
「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場からそれによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するもの
とし、その輸出を促進することはしない。
1)三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。
2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武
器」の輸出を慎むものとする。
3)武器製造関連設備(輸出貿易管理令別表第一の第109の項など)の輸出については、「武器」に準じて
取り扱うものとする。
(2)武器の定義
「武器」という用語は、種々の法令又は運用の上において用いられており、その定義については、それぞれの法令等の趣旨によって解釈すべきものであるが、
1)武器輸出三原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第一の第197の項から第205の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である。
2)自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する
護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の「武器」に当たると考える。
 
 なお、この「統一見解」で言及している「三原則」とは、1967年(昭和42年)4月21日、衆議院決算委員会での答弁において佐藤栄作総理大臣によって表明された「武器輸出三原則」を指します。
 上掲の「資料62 武器輸出三原則等」では、以下のように要約されています。
 
武器輸出三原則
 外国為替及び外国貿易管理法及び輸出貿易管理令についての政府の運用方針として、具体的には、次の
場合は、武器輸出は認められないこととされている旨を明らかにしたもの。
1)共産圏向けの場合
2)国連決議により武器等の輪出を禁止されている国向けの場合
3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
 
 その後、米国を例外扱いするなど、様々に個別例外措置がとられてきたものの、三木首相答弁による「政府統一見解」自体は、歴代内閣が踏襲してきました。
 これがいわゆる「武器輸出三原則」です。
 その中核にあったのが、「三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、『武器』の輸出を慎むものとする」という部分であったことは言うまでもありません。
 
 なお、捨て去られる前の「武器輸出三原則」について、2011年11月、国立国会図書館が発行する「調査と情報」第726号に、「武器輸出三原則―その現況と見直し論議―」(冨田圭一郎)という論考が発表されており、当時の(民主党政権下ですが)「見直し議論」の様子が分かります。
 
 さて、それでは4月1日閣議決定「防衛装備移転三原則」をおさらいしておきましょう。ただし、長々しい前文はコピペするだけでも腹立たしいので、「三原則」の部分のみ引用します。
 
防衛装備移転三原則
平成26年4月1日
国家安全保障会議決定
閣議決定

(抜粋引用開始)
 以上を踏まえ、我が国としては、国際連合憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念及びこれまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持しつつ、今後は次の三つの原則に基づき防衛装備の海外移転の管理を行うこととする。また、武器製造関連設備の海外移転については、これまでと同様、防衛装備に準じ
て取り扱うものとする。
 
1 移転を禁止する場合の明確化
 次に掲げる場合は、防衛装備の海外移転を認めないこととする。
① 当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、
② 当該移転が国際連合安全保障理事会の決議に基づく義務に違反する場合、又は
③ 紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国際連合安全保障
理事会がとっている措置の対象国をいう。)への移転となる場合
 
2 移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開
 上記1以外の場合は、移転を認め得る場合を次の場合に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査を行う
。具体的には、防衛装備の海外移転は、平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、同盟国たる米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国(以下「同盟国等」という。)との国際共同開・生産の実施、同盟国等との安全保障・防衛分野における協力の強化並びに装備品の維持を含む自衛隊の活動及び邦人の安全確保の観点から我が国の安全保障に資する場合等に認め得るものとし、仕向先及び最終需要者の適切性並びに当該防衛装備の移転が我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度を厳格に審査し、国際輸出管理レジームのガイドラインも踏まえ、輸出審査時点において利用可能な情報に基づいて、総
合的に判断する。
 また、我が国の安全保障の観点から、特に慎重な検討を要する重要な案件については、国家安全保障会
議において審議するものとする。国家安全保障会議で審議された案件については、行政機関の保有する情
報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)を踏まえ、政府として情報の公開を図ることとする。
 
3 目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保
 上記2を満たす防衛装備の海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定する。具体的には、
原則として目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付けることとする。ただし、平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合、部品等を融通し合う国際的なシステムに参加する場合、部品等をライセンス元に納入する場合等においては、仕向先の管理体制の確認
をもって適正な管理を確保することも可能とする。 

 以上の方針の運用指針については、国家安全保障会議において決定し、その決定に従い、経済産業大臣
外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)の運用を適切に行う。
 本原則において「防衛装備」とは、武器及び武器技術をいう。「武器」とは、輸出貿易管理令(昭和2
4年政令第378号)別表第1の1の項に掲げるもののうち、軍隊が使用するものであって、直接戦闘の
用に供されるものをいい、「武器技術」とは、武器の設計、製造又は使用に係る技術をいう。
(引用終わり)
 
 さて、「おさらい」に時間がとられましたが、私がこの稿を書こうと思い立ったのは、総選挙のわずか3日後、東京新聞が報じた以下の記事を読んで驚いたことによります。
 
東京新聞 2014年12月17日 朝刊
国が企業向け促進策検討 武器輸出に資金援助

(抜粋引用開始)
(略)
 防衛省は、武器輸出支援策を具体化するため、有識者による検討会を十八日にも立ち上げる。検討会には、防衛産業の関係者や金融、法律の専門家などのほか、森本敏元防衛相らも参加する予定。来夏をめど
に議論をまとめ、二〇一六年度の予算要求などに反映させていく。
 検討会では、日本企業による武器輸出を後押しするため、財政投融資制度などを活用した企業向けの資金援助制度の創設などを話し合う。国が出資して特殊法人や官民ファンドを設立。この特殊法人などが債券を発行して調達した資金や、国が保有する株式などの配当金や売却益を財源として、武器輸出を行う企業に長期で低利融資できる制度などを議論する。さらに経済産業省と連携し、防衛産業振興のための補助
金制度の創設なども検討する。
 また武器輸出を進めるには、武器だけの販売ではなく、定期的な整備や補修、訓練支援なども含めた「パッケージ」として販売していくことが必要とされる。実際、海上自衛隊が使う救難飛行艇(US2)にインドが関心を示しているが、日本に補修や訓練などを含めた販売ノウハウがないことが障害となってい
る。
 このため相手国の要望に応じて、退職した自衛官などを派遣し、訓練や修繕・管理などを行う制度など
を整備することについても検討している。
 検討会について防衛省幹部は「武器輸出を進めるためのあらゆる課題を議論する」としている。
(略)
(引用終わり)
 
 以上の記事を読んで「驚いた」と書きましたが、考えてみると、安倍政権がこれまで推進してきた武器でも原発でもどんどん輸出するという政策の当然の帰結であって、驚く方がどうかしていました。
 どうせ、18日に立ち上げるという「有識者による検討会」には、安倍政権のめがねにかなった括弧付きの「有識者」が集められるに決まっているとは思いましたが、一応どういう人選がなされたか位はフォローしておかねばということで調べてみました。
 すると、その名称が「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会」というものであることが分かりました。
 
第1回防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会の開催について
平成26年12月17日 防衛省

(引用開始)
 本年6月に策定された防衛生産・技術基盤戦略において、防衛装備移転に関し「円滑に協力を進めるための体制・仕組みについて検討を行う」とされたことを踏まえ、部外有識者や政府関係者で構成する防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会を設置し、その第1回検討会を下記のとおり開催いたします
ので、お知らせいたします。
1 日時 平成26年12月18日(木)9時45分~
2 場所 防衛省A棟 第1省議室
3 議題 防衛装備・技術移転の現状と課題等について
4 出席者(予定)
(主催者)
経理装備局長
有識者
大垣尚司委員
 立命館大学大学院法学研究科教授
奥宮京子委員 弁護士
斉藤隆委員 立製作所特別顧問、元統合幕僚長
佐藤丙午委員 拓殖大学国際学部教授
白石隆委員 政策研究大学院大学学長
高岡力委員 一般財団法人防衛技術協会理事長
堤富男委員通商産業省事務次官
森本敏委員 拓殖大学特任教授、元防衛大臣
(引用終わり)
 
 なお、上記に委員の肩書きを付していますが、引用先をご覧いただければ分かるとおり、防衛省サイトには一切肩書きは記載されていません。
 通常、省庁の審議会などが招集される時には、事前に委員の名簿などの資料が各省庁のホームページにアップされるのが普通ですが、防衛省自衛隊サイトを調べてみても、そのようなものはいまだに掲載されていませんでした。
 ということで、上記は、私が「多分この人だろう」と推測して付した肩書きであり、不十分ならまだしも、間違っている可能性もないとは言えませんので、その点は含んだ上でお読みください。
 
 
 なお、第1回検討会の資料として唯一掲載されていたのは、「防衛装備・技術移転の現状と課題について」という、目がチカチカするような色使いの資料だけでした。
 
 第1回検討会についてのプレスリリースで言及されている「防衛生産・技術基盤戦略」の本文及び概要版は以下のとおりです。
 概要版はやはり目がチカチカしますが、それでも「防衛装備・技術移転の現状と課題について」より少しはましでしょうか。
 
 
 
 この「防衛生産・技術基盤戦略 2014」を読み進んでいくと、いったい何を達成するための政策なのか、訳が分からなくなってきます。
 一般的な行政分野でも「政策の自己目的化」の弊害というのは珍しくないのかもしれませんが、防衛(軍需)産業というのは、おそらく日本だけのことではなく、その傾向が著しい分野なのでしょう。
 これまで、防衛政策と軍需産業の利害との一体化をぎりぎりの線でとどめてきたのが「武器輸出三原則」であった訳で、その縛りをかなぐり捨てたのが4月1日閣議決定であったということなのだと思います。
 おそらく、東京新聞が報じたような方向性がこの「防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会」から打ち出されるのでしょう。それは、第1回検討会の資料として公開されている「防衛装備・技術移転の現状と課題について」をじっくりと読み込めば、防衛省が何をやろうとしているのか、おおよそ見当がつくというものです。

 集団的自衛権行使容認も死活的に重要ですが、それと並んで、武器輸出についても注意を怠らず、世論への働きかけを続けていかねばならないと思います。
 気の滅入るような「おさらい」でしたが、どうしてもやっておかねばならないことですからね。