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安倍首相はテロリストに罪を償わさせるために何をしようというのか?~今あらためて柳澤協二氏と石田雄氏の警告を振り返る

 今晩(2015年2月1日)配信した「メルマガ金原No.1988」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安倍首相はテロリストに罪を償わさせるために何をしようというのか?~今あらためて柳澤協二氏と石田雄氏の警告を振り返る

 今日のメルマガ(ブログ)は、当初別のことを書くつもりでしたが、「イスラム国」が、拘束していた後
藤健二氏を殺害したと思われる動画が公開されたため、急遽予定を変更することにしました。
 おそらく、当面「確報」が得られる見込みはなく、「殺害されたものと思われる」という推定の上で議
論を進めざるを得ないと思われますが(これは、湯川遥菜氏についても同様です)、今は沈黙を守る時ではないでしょう。
 
 私自信、この事態をどう受け止めたものか迷う部分はありながら、しかし、この事件をきっかけに日本が一気に坂道を転げ落ちることを何としても阻止しなければという気持ちから、この人物の「言動」だけは、絶対に忘れないよう記憶にとどめ、1人でも多くの同胞に告げ知らせる必要があると思っています。
 
安倍晋三首相発言録その1~脅迫事件発生直前】
2015年1月17日 
日エジプト経済合同委員会合における安倍内閣総理大臣政策スピーチ
 から

「中東の安定は、世界にとって、もちろん日本にとって、言うまでもなく平和と繁栄の土台です。テロや
大量破壊兵器を当地で広がるに任せたら、国際社会に与える損失は計り知れません。
 先の大戦後、日本は、自由と民主主義、人権と法の支配を重んじる国をつくり、ひたすら平和国家とし
ての道を歩み、今日にいたります。いまや新たに「国際協調にもとづく積極的平和主義」の旗を掲げる日
本は、培った経験、智慧、能力を、世界の平和と安定のため、進んで捧げる覚悟です。
イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少
しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ド
ル程度、支援をお約束します。
 イラクでは、全党派を含む、国民融和内閣による安定的な統治が絶対に必要です。日本は、そのための
努力を支援し続けます。」
 
安倍晋三首相発言録その2~脅迫事件発生直後】
2015年1月20日
「ウォルドルフ・アストリア」ホテルでの記者会見
 にて
エルサレムにおいて日章旗六芒星旗にはさまれた演台でスピーチする映像が世界に発信された)
「今、「過激主義」が、国際社会にとって大きな脅威となっています。フランスのテロ事件では、4名の
ユダヤ人を含む、17名もの方々が犠牲となりました。犠牲となった方々の、そして御家族の皆様に、改
めて、心から哀悼の意を表します。
 卑劣なテロは、いかなる理由でも許されない。断固として非難します。そして日本は、国際社会と手を
携えてまいります。」
「中東和平の実現は、今なお未解決の課題であります。今回は、この課題についても、ネタニヤフ首相と
率直に話すことができました。
 この後、パレスチナを訪問し、アッバース大統領とも、胸襟を開いて語り合いたいと思います。
 お互いが、これ以上、状況をエスカレートさせない。寛容の精神を持つことが、解決の糸口になると考
えます。
 かつて、杉原千畝という日本の外交官が、自らの心に従い、6000人ものユダヤ人の皆さんに、日本に渡
るビザを出しました。長い旅を経てたどり着いた、日本の港町・敦賀では、町を挙げて、皆さんを歓迎し
たそうであります。
 時代や世の中は変わっても、人々の中にある「寛容」の心だけは、決して変わらない。私はそう信じて
います。」
 
安倍晋三首相発言録その3~2人目の人質が殺害されたと思われる動画公開直後】
内閣総理大臣声明
(引用開始)
1.湯川遥菜さんに続いて、後藤健二さんが殺害されたと見られる動画が公開されました。
御親族の御心痛を思えば、言葉もありません。政府として、全力を挙げて対応してまいりました。誠に
無念、痛恨の極みであります。
2.非道、卑劣極まりないテロ行為に、強い怒りを覚えます。許しがたい暴挙を、断固、非難します。
テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わさせるために、国際社会と連携してまいります
3.日本が、テロに屈することは、決してありません。
中東への食糧、医療などの人道支援を、更に拡充してまいります。
テロと闘う国際社会において、日本としての責任を、毅然として、果たしてまいります。
4.このテロ行為に対して、強い連帯を示し、解放に向けて協力してくれた、世界の指導者、日本の友人
たちに、心から感謝の意を表します。
5.今後とも、国内外における国民の安全に万全を期してまいります。
(引用終わり) 
 
 私は、これまでこの人物の言動を散々批判してきましたが、ついに具体的な犠牲者を出すに至ったという認識を、どれだけ広範な国民と共有できるか、ここ数ヶ月が運命の分かれ目かもしれないと思います。
 上に引用した3つの発言録の何が愚かしいかを、自らの言葉で分かりやすく周囲に伝える人々の声を日本中至るところに響かせねばと思います。
 
 1月17日のスピーチにおける「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」が直接に「イスラム国」につけ込まれた愚かな表現であることはかなり知られるようになっていると思いますが、「いまや新たに「国際協調にもとづく積極的平和主義」の旗を掲げる日本は、培った経験、智慧、能力を、世界の平和と安定のため、進んで捧げる覚悟です。」に至っては、「誰がそんな旗を掲げてくれと頼んだ?」「総理大臣になったら何でも好きなことができると思い込んでいるのか?」と誰もが怒り心頭に発して当然の発言です。

 1月20日の記者会見については、これも散々指摘されていることですが、エルサレムのホテルで日本
イスラエルの国旗にはさまれた中で日本の総理大臣が記者会見をするということ自体、人質殺害予告直後だけに世界中のメディアが注目するであろう中で、中東や世界からどのように受け取られることになるのか、分からなければどうかしています。おそらく分かっていてやったと思うのですが(分かっていなかったと
すれば底の抜けた愚か者です)。
 それと、これはあらためて首相官邸ホームページで確認してみて知ったのですが、パレスチナ問題につ
いての、「寛容の精神を持つことが、解決の糸口になると考えます。」などという空虚な発言の例証として、杉原千畝氏のエピソードが出てきたのには驚きました。もちろん、この部分は人質殺害予告事件発生前に書かれていたスピーチ原稿をそのまま使った部分でしょうし、杉原千畝氏への言及自体はスピーチライターの思いつきかもしれませんが、多くの子どもを含む2100人以上のパレスチナ人が犠牲となったイスラエルによるガザ侵攻という戦争犯罪を非難する意思は毛頭無いということが明確に伝わる記者会見の中で、ほとんど脈絡もあやふやにそのエピソードを利用するなど、杉原千畝氏に対する冒涜ではないかと
いうのが率直な印象です。
 
 そして、今日の「内閣総理大臣声明」。既に何人もの方が指摘されていますが、「テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わさせるために、国際社会と連携してまいります。」は最低、最悪です。
 これを読んで、私は思わず「一体、どれだけ日本人を犠牲にしたら気が済むのか」「自衛隊を派遣する
ことなど絶対に許さない」という台詞が頭に浮かびました。
 口にこそ出さね、大半の自衛官やその家族は同じ思いでしょう。それ以外の国民はどうでしょうか?
 
 最後に、今日の事態を正確に見通していた識者お2人の発言(警告)を、今だからこそ振り返っておきたいと思います(これまでもご紹介していますが)。
 1人は2004年4月、内閣官房副長官補に着任して官邸の危機管理を担当することになった直後にイ
ラク日本人人質質事件に遭遇した柳澤協二さん。もう1人は、自ら軍隊経験を持ち、戦前の戦争に向かう
状況を肌で知る政治学者の石田雄さん(東京大学名誉教授)です。
 私たちは、このような、自らの体験を踏まえた真に価値ある発言をされてきた識者の声に耳を傾け、こ
れを1人でも多くの国民に知らせる努力が必要なのだと思います。
 
2014年5月25日に開催された第32回「マガ9学校」で行われた講演での柳澤協二さんの発言から
動画「集団的自衛権自衛隊~「積極的平和主義」はホンモノか」

「それから、国際貢献のために集団的自衛権の行使容認が必要だという話。私はこれまでも、自衛隊PKO派遣された際に、丸腰の現地住民、あるいはPKOスタッフを守ることは、やれる範囲でやるべきだと考えてきました。ただ、他国の軍隊を守るということ、そのために本格的な武装をするということは、現地の武装勢力と本格的に敵対することを宣言することでもあります。そうすれば、「日本もついに我々の敵になった」ということで、テロの標的になる可能性があるし、海外在住の日本人の身が危なくなることもある
でしょう。
 「国際貢献」というと聞こえがいいけれど、そういうリスクもあるんだということ、いいことばかりじ
ゃないんだということを、本来ならきちんと国民にも知らさなくてはなりません。安倍総理がそこに触れないということは、おそらく本人がリスクを認識していないのではないか。そこが危機管理をするリーダーとして私が心配でならないところです。」
 
NPJ通信 2015年11月29日
石田雄―軍隊体験者が次の世代に遺したいこと
第1部 もう一度戦争を始めないために
第1回 過去の経験から感じる恐ろしさ

「■平和のための戦争の危うさ
 このようにして、軍事化を防ごうとする言論が不自由になることは、愛国心をめぐる忠誠競走を生み出
す危険性と表裏をなしている。かつての戦争では「東洋平和」のための戦争を勝ち抜くことが日本の繁栄のために必要だといわれた。それと同様に、今や「積極的平和主義」によって、世界のどこでも武力行使
をすることが日本の繁栄に貢献するといわれるようになってきている。
 武力行使の名目は、過去の戦争でも在留邦人の生命を守るためといわれた場合が多い。日本人の生命を
守るためということで一度武力行使がされれば、当然報復攻撃があり、それに伴って、戦火は拡大した。今日でも同じ結果が予想されるだけでなく、人の移動が自由になり、武器も高度化・小型化したため、報
復は日本国内でのテロという形で行われることも十分に予想される。
 武力行使によって、自衛隊に死者が出たら、どうなるか。その死を無駄にするなと敵への憎悪が一層強
くなることは過去の例からも明らかである。さらに自衛隊への応募者が減ることによって、徴兵制の可能性も考えなければならない。わたしは1943年学徒出陣で入隊し、殺人を使命とする軍隊という組織で毎日のように殴られる経験をした。今や数少なくなった、そのひとりとして、次の世代が徴兵され、殺人を使命とする組織に参加させられるようになるのを黙って見過ごすわけにはいかない。」