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稲田朋美自民党政調会長による「東京裁判」批判は倒閣の有力な武器たり得るか?

 今晩(2015年2月27日)配信した「メルマガ金原No.2014」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
稲田朋美自民党政調会長による「東京裁判」批判は倒閣の有力な武器たり得るか?

 今日(2月27日)事務所に届いた朝日新聞(大阪本社・13版)朝刊では、4面の右下隅に小さな記事として載っていたものの、ネットで話題になっていることを知るまでは、全然気がついていませんでした。
 稲田朋美自民党政調会長の「東京裁判」に関する発言に気付かせてくれた産経ニュースのネット記事を引用します。
 
産経ニュース 2015.2.26 18:18更新
自民・稲田政調会長「安倍首相は歴史修正主義ではない」「東京裁判は法的に問題」

(引用開始)
 自民党稲田朋美政調会長は26日のBS朝日の番組収録で、先の大戦後に東条英機元首相らが裁かれ東京裁判極東国際軍事裁判)について「指導者の個人的な責任は事後法だ。(裁判は)法律的に問題がある」との認識を示した。戦後に公布された東京裁判所条例に基づく裁きは、事後法にあたるとの考え
だ。
 稲田氏は「東京裁判判決の主文は受け入れている」と述べる一方、「判決文に書かれている事実をすべて争えないとすれば(われわれは)反省できない。南京事件などは事実の検証が必要だ」とも指摘し、戦
後70年を機会に改めて歴史を検証するよう求めた。
 歴史認識をめぐる安倍晋三首相の言動が中国や韓国から「歴史修正主義」と批判されていることには「歴史修正主義というのは、あったことをなかったと自己正当化することだ。本当にあったことをあったこ
ととして認め、生かしていくのは決して歴史修正主義ではない」と述べた。
(引用終わり)
 
 稲田政調会長は、番組収録後に行われた自民党本部での記者会見でも同様の発言を繰り返したようで、そちらを報じた時事通信も引用しておきます。
 
時事ドットコム(2015/02/26-18:38)
東京裁判「法的に疑問」=自民・稲田氏

(抜粋引用開始)
 自民党稲田朋美政調会長は26日の記者会見で、東京裁判について「指導者個人の責任を問う法律はポツダム宣言を受諾した時点では国際法になかった。事後法であるとの批判が出ているので法律的には疑問がある」と述べ、平和に対する罪などの事後法を適用したことは罪刑法定主義に抵触するとの見解を示した。稲田氏は「東京裁判が無効という意味ではないが(判決の)中に書かれている事実関係はきちんと
私たち自身で検証する必要がある」とも指摘した。 
(引用終わり)
 
 まずは、事実の裏付けが必要でしょう。
 はじめは「BS朝日の番組収録」での発言です。
 調べてみたところ、その「BS朝日の番組」とは、「インタビューの巨人・田原総一朗が切り拓く新境地!現代日本の行方を徹底的に考える」といううたい文句が付けられた「激論!クロスファイア」という番組で、稲田朋美政調会長が出演した回は、明日(2月28日)午前10:00~10:55に放送されると予告されています。
 番組予告に付されたタイトルは「稲田朋美政調会長に聞く 自民党安倍政権が目指すもの」で、稲田氏の「激論!」のお相手はジャーナリストの青木理(あおき・おさむ)さんであった・・・のかどうか、私はこの「激論!クロスファイア」という番組は一度も見たことがないので、どういう構成で進行するのか正直全く分かりません。
 いずれにせよ、稲田氏がどういう脈絡でどんな発言をしたのか、番組を録画して検証するしかないですね。
 
 その後行われたという稲田朋美政調会長記者会見の模様については、自民党の公式サイトに掲載されています。ただし、自民党幹部による記者会見の内、幹事長記者会見については同党の YouTube チャンネルにアップされますが、政調会長記者会見については、動画が見当たらず、文字起こしされたものだけが掲載されており、本当にこの通り発言したのかについては、(文責:自民党)という留保付きで受け取るしかありません。
 以下に、問題の「東京裁判」関連発言を引用します。
 
稲田朋美政調会長記者会見 平成27年2月26日(木)
(抜粋引用開始)
 読売新聞の谷川ですが、今日のテレビ収録の中で東京裁判の案件でご発言があったと思うのですが、法律的に問題があって結果は受け容れるが事実を全部争わなかったとすれば、事実を検証する態度を失ってしまうということなんですけれども、南京事件等の検証は今後もしていくべきだとのご趣旨の発言だと
思うのですが、改めて東京裁判の見解を教えて下さい。
 日本は東京裁判を受け容れて、サンフランシスコ平和条約11条で受け容れて独立を果たしたわけであります。しかし、東京裁判自体については、裁判の冒頭で清瀬弁護人が「この法廷にはたして管轄権があるのか」という動議を出されました。それは侵略戦争については1928年の不戦条約、そしてその指導者個人の責任を問うという法律は当時はポツダム宣言を発した、そして受諾した時点では国際法の中に無かったという意味において事後法であるという批判は国際法の学会等からも出ているところでありますので、法律的にはそういった疑問がある。そして、裁判の中でも最終的にその管轄の動議に対しては裁判所は答えず、この裁判所は東京裁判所条例でできたものであるからということで却下をされたという経緯があります。あと、サンフランシスコ平和条約を発効した後に国会の委員会の場に当時の弁護人の方々が出てこられて、そして、そういったことについて発言もされておられますし、主文はもちろん受け容れてその東京裁判が無効というそういう意味ではありませんけれども、中に書かれている事実関係については、私は当時の裁判の状況等からみてですね、きちんと私たち自身で検証する必要があると思っております

(引用終わり)
 
 稲田政調会長が言及した「サンフランシスコ平和条約」と「東京裁判所条例」については、末尾にリンクをはっておきます。
 
 さて、この発言、特に「(東京裁判の主文以外の判決)中に書かれている事実関係については、私は当時の裁判の状況等からみてですね、きちんと私たち自身で検証する必要があると思っております。」は、「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」所属の野党議員や与党陣笠議員(これはもはや死語かも)なら聞き流してもらえるかもしれませんが、巨大与党の政策責任者の公式記者会見での発言ですから、それ相当の「覚悟」があっての発言でしょう。もしも、この発言に対する反響を何も考えていなかったとすれば、底抜けの愚か者と言うしかありませんが、いくら何でもそれはないでしょう。
 安倍晋三首相が4月下旬からの大型連休中に米国を訪問し、日本の首相としては初の「上下両院合同会議」での演説を目指していると報じられている最中、何を「検証する必要がある」というのでしょうかね。
 いっそ、稲田氏としては、この記者会見での自分の発言と同趣旨の内容を、(もしも実現するとすればの話ですが)安倍首相の米国「上下両院合同会議」での演説原稿の中に盛り込むよう進言してみたらどうですかね?あるいは、同じ思想の持ち主である安倍首相なら、(いくら外務省や内閣官房が反対しても)原稿に盛り込んで、嬉嬉として米国議会で演説するかもしれない。
 そうか、今考えられる「安倍内閣打倒」のための作戦の中では、これが一番の早道だな。
 
 冗談(でもないのですが)はさておき、まともな批判を最後に一つだけご紹介しておきます。
 
しんぶん赤旗 2015年2月26日
侵略戦争の事実を否定 稲田氏暴言

(抜粋引用開始)
 戦後の国際政治へ日本が復帰をはたす一つの土台となったサンフランシスコ平和条約は11条で、日本の侵略戦争とその開戦責任をはじめとする戦争犯罪を断罪した東京裁判の判決を受諾しています。この東
京裁判について稲田氏は「判決主文は受け入れたが理由中の判断に拘束されない」と述べました。
 これは日本の戦争指導者への「死刑」を宣告するなどした判決の「主要部分」は受け入れるが、その前提となる事実認定は受け入れないというもので、日本の戦争が侵略戦争だったという事実を否定すること
に等しい認識を示したものです。
 東京裁判判決を受け入れ、侵略戦争否定の歴史認識を示すことで日本は国際連合中心の戦後の国際秩序に加わり、憲法前文で確認した平和と民主主義を戦後日本政治の原点としました。これを否定する稲田氏の発言は、安倍政権がよりどころとする「同盟国」=アメリカとの軋轢(あつれき)も激しくすることになります。そもそも裁判で宣告された刑は受け入れるが、犯罪の事実の認定は認めないなどというのも、
まったく成り立たない稚拙な議論です。(中祖寅一)
(引用終わり)
 
(参考)
   第一条
(a)日本国と各連合国との間の戦争状態は、第二十三条の定めるところによりこの条約が日本国と当該
連合国との間に効力を生ずる日に終了する。
(b)連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する。
   第二条
(a)日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利
権原及び請求権を放棄する。
(b)日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(c)日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得
した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(d)日本国は、国際連盟委任統治制度に関連するすべての権利、権原及び請求権を放棄し、且つ、以前に日本国の委任統治の下にあつた太平洋の諸島に信託統治制度を及ぼす千九百四十七年四月二日の国際
連合安全保障理事会の行動を受諾する。
(e)日本国は、日本国民の活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に
対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権を放棄する。
(f)日本国は、新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
   第三条
 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法
及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。
   第十一条
 日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且
つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている物を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。
 
極東国際軍事裁判所条例 1946年1月19日
第一条 裁判所ノ設置
極東ニ於ケル重大戦争犯罪人ノ公正且ツ迅速ナル審理及ビ処罰ノ為メ茲ニ極東国際軍事裁判所ヲ設置ス。
裁判所ノ常設地ハ東京トス。
第二条 裁判官
本裁判所ハ降伏文書ノ署名国並ニ「インド」、「フイリツピン」国ニヨリ申出デラレタル人名中ヨリ連合
国最高司令官ノ任命スル六名以上十一名以内ノ裁判官ヲ以テ構成ス。
第六条 被告人ノ責任
何時タルトヲ問ハズ被告人ガ保有セル公務上ノ地位、若ハ被告人ガ自己ノ政府又ハ上司ノ命令ニ従ヒ行助セル事実ハ、何レモ夫レ自体右被告人ヲシテ其ノ起訴セラレタル犯罪ニ対スル責任ヲ免レシムルニ足ラザルモノトス。但シ斯カル事情ハ本裁判所ニ於テ正義ノ要求上必要アリト認ムル場合ニ於テハ、刑ノ軽減ノ
為メ考慮スルコトヲ得。
第七条 手続規定
本裁判所ハ本条例ノ基本規定ニ準拠シ手続規定ヲ制定シ又ハ之ヲ修正スルコトヲ得。
第八条 検察官
(イ)主席検察官 連合国最高司令官ノ任命ニ係ル主席検察官ハ、本裁判所ノ管轄ニ属スル戦争犯罪人ニ対スル被疑事実ノ調査及ビ訴追ヲ為スノ職責ヲ有スルモノトシ、且ツ右ノ最高司令官ニ対シテ適当ナル法
律上ノ助力ヲ為スモノトス。
(ロ)参与検察官 日本ト戦争状態ニ在リシ各連合国ハ、主席検察官ヲ補佐スル為メ、参与検察官一名ヲ
任命スルコトヲ得。
第十六条 刑罰
本裁判所ハ有罪ノ認定ヲ為シタル場合ニ於テハ、被告人ニ対シ死刑又ハ其ノ他本裁判所ガ正当ト認ムル刑
罰ヲ課スル権限ヲ有ス。
第十七条 判定及ビ審査
判決ハ公開ノ法廷ニ於テ宣告セラルベク、且ツ之ニ判決理由ヲ附スベシ。裁判ノ記録ハ連合国最高司令官ノ処置ヲ仰グ為メ直ニ同司令官ニ送付セラルベシ。刑ハ連合国最高司令官ノ命令ニ従ヒ執行セラルベシ。
連合国最高司令官ハ何時ニテモ刑ニ付之ヲ軽減シ又ハ其ノ他ノ変更ヲ加フルコトヲ得。但シ刑ヲ加重スルコトヲ得ズ。
マツクアーサー元師ノ命令ニ依リ
(米陸軍)参謀団員・陸軍少将
参謀長 リチヤード・J・マーシヤル
正書