今晩(2015年3月11日)配信した「メルマガ金原No.2026」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~これが最終(動画付)
わずか3日前に「『自衛隊を活かす会』シンポジウムから学ぶ(4)『新たな米中関係と日本の安全保障』~いよいよ本編(その1)」/2015年3月8日)を配信したばかりというのに、早くも今日、その完結編をお送りすることになりました。
こんなことなら、もう少し様子を見ていれば良かった。
まずは、「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称「自衛隊を活かす会)」主催による第4回シンポジウム「新たな米中関係と日本の安全保障」(2014年12月23日開催)全編の動画をご紹介します。
新たな米中関係と日本の安全保障|自衛隊を活かす会
以下に、文字起こしされた講演録にリンクをはり、今回初めてご紹介する伊勢﨑賢治さんの発言のみ、部分的に引用します。
ただし、正直言って、伊勢﨑さんの発言部分の音声は非常に聴き取りにくいです。文字起こしのホームページへの掲載が遅れたのもこれが原因かもしれない。
他の登壇者にしても、一字一句文字起こしした原稿をそのまま掲載しているのではなく、ある程度手を入れているはずですが、どうも伊勢﨑さんのパートについては、その程度が著しいのではないかと思います。
ほとんど、「語り直し」的な「書き下ろし」ではないかと思われる部分もあるようです。
もちろん、それが悪いということではなく、そういうものだと理解してお読みいただくべきだという趣旨です。
動画 1時間38分~
中国・インド関係の現状から日本防衛のための教訓を汲む
伊勢﨑 賢治氏(東京外国語大学教授、元国連平和維持軍武装解除部長)
(抜粋引用開始)
中国は、既に、パキスタンを、「陸の回廊」にしております。パキスタンは、一応親米でありますが、中国を「ブレない友人」として、歴史的に非常に緊密な関係を築いてきました。
図に示すように、中国は、非常に戦略的な3つの港を作っています。バングラディシュのチッタゴン、パキスタンのグワーダル、スリランカのハンバントタです。
パキスタンにおいては、北の国境にカラコルム・ハイウェイを配し、正にパキスタンが中国の「陸の回廊」になっているわけです。シーレーンが封鎖されても、中東、そしてアフリカとの輸送路を既に確保している。
表向きは海のシルクロード構想と呼ばれていますが、中国が狙っているもう一つの戦略は、インドの海上での封じ込めであります。スリランカです。
(略)
こうして中国は、このあたりの地政学上の支配の足場を固め、アフリカの資源市場を支配しています。スーダンのバシール政権のような独裁政権を無条件に支援しているという批判もありますが、逆に、強権でないと、このような資源に恵まれた(だからこそ利権がらみの内戦に明け暮れる)が更に無秩序になるという側面もあるため、簡単に批判はできません。そういう内戦の歴史的な要因をつくってきた旧宗主国の西側社会は、その辺のことを心得ていて、そういう中国と、嫌でも、アフリカ援助をいかに一緒にやっていくかの試行錯誤を始めています。日本の嫌中派が溜飲を下げるような低次元の国際関係に中国はありません。冷戦終結が内戦の時代の引き金を引いたように、アフリカの政権への中国の支援が弱まったら、どうなるのか。地球規模の人道的危機が起きた時に降りかかってくる日本を含む国際社会への負担は?既に、中国は、そういう存在であるということです。
それでも、そういう中国を単独で牽制できる能力が期待されている準超大国インド。昨年、ナレンドラ・モディという極右(ヒンドゥー至上主義・反イスラム)の人物が総選挙で地滑り的に大勝し、首相の座につきました。これがすごい男で、カシミールを始め対中国境戦では、中国に負けていますから、就任直後にインド軍を増兵し、一気に両国間に緊張が走ったのです。そうするとすぐに習国家主席が訪印し、何をやったかというと、中国の対インド経済支援をプレッジした。それも日本のそれの3倍の額を中国から引き出したのです。ものすごい、高度でしたたかな駆け引きです。
中国は、パキスタンというカードで、アメリカ・NATOが撤退をするアフガニスタンを元とするグローバルな対テロ戦の近未来に、決定的な影響を保持します。これから、否応なしに進行するアフガン・タリバンを囲っているのは、パキスタンだからです。パキスタンを、いかに、対テロ戦の「誠実なパートナー」にするか。これに、対テロ戦の未来はかかっています。アメリカやその同盟国では、パキスタンを懐柔できません。「ブレない友人」の中国はタリバンとの和解外交に着手しております。
最後です。「アフガニスタン戦」は、いわゆる“テロリスト”、もしくはインサージェントを通常戦力では殲滅できないという、明快な教訓を我々に示しました。前回、前々回の本会のシンポで僕が発表してきたように、アメリカ軍自身が、そのことを気づき、2006年にCounter Insurgency(COIN)として、軍事ドクトリンを大変換し、試行錯誤を繰り返してきたのですが、失敗、というか、まだ成功に程遠い状態です。
新しい世代に派生を続けるInsurgentの常として、今、「イスラム国」が出現したわけですが、この戦争は、日本にとって対岸の火事であり続けるのでしょうか。ただ単にイスラム教徒が国内に少ないということだけで。いつ、「イスラム国」が、日本に直接の恨みはなくても、日本を、“アメリカの一部”ということ、そして“ソフト・ターゲット”だということで、都合のよい標的とみなすか。時間の問題だと思います。その時に、日本の何を、どこを、どのように狙うか。
「まともな敵」をいかにつくるかの四苦八苦が支配する、この世界戦争の現状で、「中国の脅威」とは一体なんなのか。尖閣問題というプリズムで嫌中感が支配する我々の日本人の国防戦略は、根本的に見直す時期に来ていると思います。
(引用終わり)
中国・インド関係の現状から日本防衛のための教訓を汲む
伊勢﨑 賢治氏(東京外国語大学教授、元国連平和維持軍武装解除部長)
(抜粋引用開始)
中国は、既に、パキスタンを、「陸の回廊」にしております。パキスタンは、一応親米でありますが、中国を「ブレない友人」として、歴史的に非常に緊密な関係を築いてきました。
図に示すように、中国は、非常に戦略的な3つの港を作っています。バングラディシュのチッタゴン、パキスタンのグワーダル、スリランカのハンバントタです。
パキスタンにおいては、北の国境にカラコルム・ハイウェイを配し、正にパキスタンが中国の「陸の回廊」になっているわけです。シーレーンが封鎖されても、中東、そしてアフリカとの輸送路を既に確保している。
表向きは海のシルクロード構想と呼ばれていますが、中国が狙っているもう一つの戦略は、インドの海上での封じ込めであります。スリランカです。
(略)
こうして中国は、このあたりの地政学上の支配の足場を固め、アフリカの資源市場を支配しています。スーダンのバシール政権のような独裁政権を無条件に支援しているという批判もありますが、逆に、強権でないと、このような資源に恵まれた(だからこそ利権がらみの内戦に明け暮れる)が更に無秩序になるという側面もあるため、簡単に批判はできません。そういう内戦の歴史的な要因をつくってきた旧宗主国の西側社会は、その辺のことを心得ていて、そういう中国と、嫌でも、アフリカ援助をいかに一緒にやっていくかの試行錯誤を始めています。日本の嫌中派が溜飲を下げるような低次元の国際関係に中国はありません。冷戦終結が内戦の時代の引き金を引いたように、アフリカの政権への中国の支援が弱まったら、どうなるのか。地球規模の人道的危機が起きた時に降りかかってくる日本を含む国際社会への負担は?既に、中国は、そういう存在であるということです。
それでも、そういう中国を単独で牽制できる能力が期待されている準超大国インド。昨年、ナレンドラ・モディという極右(ヒンドゥー至上主義・反イスラム)の人物が総選挙で地滑り的に大勝し、首相の座につきました。これがすごい男で、カシミールを始め対中国境戦では、中国に負けていますから、就任直後にインド軍を増兵し、一気に両国間に緊張が走ったのです。そうするとすぐに習国家主席が訪印し、何をやったかというと、中国の対インド経済支援をプレッジした。それも日本のそれの3倍の額を中国から引き出したのです。ものすごい、高度でしたたかな駆け引きです。
中国は、パキスタンというカードで、アメリカ・NATOが撤退をするアフガニスタンを元とするグローバルな対テロ戦の近未来に、決定的な影響を保持します。これから、否応なしに進行するアフガン・タリバンを囲っているのは、パキスタンだからです。パキスタンを、いかに、対テロ戦の「誠実なパートナー」にするか。これに、対テロ戦の未来はかかっています。アメリカやその同盟国では、パキスタンを懐柔できません。「ブレない友人」の中国はタリバンとの和解外交に着手しております。
最後です。「アフガニスタン戦」は、いわゆる“テロリスト”、もしくはインサージェントを通常戦力では殲滅できないという、明快な教訓を我々に示しました。前回、前々回の本会のシンポで僕が発表してきたように、アメリカ軍自身が、そのことを気づき、2006年にCounter Insurgency(COIN)として、軍事ドクトリンを大変換し、試行錯誤を繰り返してきたのですが、失敗、というか、まだ成功に程遠い状態です。
新しい世代に派生を続けるInsurgentの常として、今、「イスラム国」が出現したわけですが、この戦争は、日本にとって対岸の火事であり続けるのでしょうか。ただ単にイスラム教徒が国内に少ないということだけで。いつ、「イスラム国」が、日本に直接の恨みはなくても、日本を、“アメリカの一部”ということ、そして“ソフト・ターゲット”だということで、都合のよい標的とみなすか。時間の問題だと思います。その時に、日本の何を、どこを、どのように狙うか。
「まともな敵」をいかにつくるかの四苦八苦が支配する、この世界戦争の現状で、「中国の脅威」とは一体なんなのか。尖閣問題というプリズムで嫌中感が支配する我々の日本人の国防戦略は、根本的に見直す時期に来ていると思います。
(引用終わり)
動画 2時間04分~
質疑応答と討論
質疑応答と討論
(参考書籍)
(弁護士・金原徹雄のブログから)
(「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ シリーズ)
2014年6月14日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(1)加藤朗さんの「憲法9条部隊」構想
2014年6月15日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(2)柳澤協二さんが語る「日本の安全保障」
2014年6月16日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(2)続-柳澤協二さんの最新講演(6/13神戸市)
2014年6月18日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(3)伊勢﨑賢治二さんが提起する“非戦”のリアリズム
2014年9月1日
戦争に敗けるということ~加藤朗氏『敗北をかみしめて』を読んで考える
(「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ シリーズ)
2014年6月14日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(1)加藤朗さんの「憲法9条部隊」構想
2014年6月15日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(2)柳澤協二さんが語る「日本の安全保障」
2014年6月16日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(2)続-柳澤協二さんの最新講演(6/13神戸市)
2014年6月18日
「自衛隊を活かす会」呼びかけ人から学ぶ(3)伊勢﨑賢治二さんが提起する“非戦”のリアリズム
2014年9月1日
戦争に敗けるということ~加藤朗氏『敗北をかみしめて』を読んで考える
(「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ シリーズ)
2014年7月4日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」
2014年7月30日
補遺「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~伊勢﨑賢治氏
2014年8月25日
補遺その2「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~会場からの発言と質疑応答
2014年9月22日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(2)「対テロ戦争における日本の役割と自衛隊」
2014年11月4日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(3)「防衛のプロが語る15事例のリアリティ」 ※追加映像あり
2015年1月13日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~今回はまず予告編
2015年1月14日
小原凡司氏が語る中国海軍・空軍の現在~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その1
2015年1月15日
植木千可子氏が語る東アジアにおける日米中関係~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その2
2015年3月8日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~いよいよ本編(その1)
2014年7月4日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」
2014年7月30日
補遺「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~伊勢﨑賢治氏
2014年8月25日
補遺その2「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~会場からの発言と質疑応答
2014年9月22日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(2)「対テロ戦争における日本の役割と自衛隊」
2014年11月4日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(3)「防衛のプロが語る15事例のリアリティ」 ※追加映像あり
2015年1月13日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~今回はまず予告編
2015年1月14日
小原凡司氏が語る中国海軍・空軍の現在~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その1
2015年1月15日
植木千可子氏が語る東アジアにおける日米中関係~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その2
2015年3月8日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~いよいよ本編(その1)