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柳澤協二氏著『亡国の集団的自衛権』を読む

 今晩(2015年3月17日)配信した「メルマガ金原No.2032」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
柳澤協二氏著『亡国の集団的自衛権』を読む

 柳澤協二さんの近著を読んだ感想文(「柳澤協二氏著『自分で考える集団的自衛権 若者と国家』を読む」/2015年2月8日)を書いたのはついこの前のような気がするのですが、再び先月(2015年2月)出たばかりの新刊『亡国の集団的自衛権』(集英社新書)を一読しました。
 集英社新書のホームページに「試し読み」のコーナーがあり、「序章 集団的自衛権の視点」の前半部分10ページが掲載されています。
 
集英社新書 既刊情報 『亡国の集団的自衛権』 柳澤協二
 
 集英社新書ホームページに掲載された紹介文を引用します。
 
(引用開始)
元防衛官僚が、安保政策を徹底批判!
「一発も弾を撃たず、一人も殺さない。これこそが戦後70年かけて築いてきた日本ブランドなのだ」
 安倍政権は、集団的自衛権の行使容認をめざして、着々と足場を固めている。戦後七〇年間続いてきた「憲法九条」体制も、大きく揺らいでいる。著者は、イラク戦争時に、小泉、安倍(第一次)、福田、麻生の四代の総理大臣の下、自衛隊海外派遣のための法整備と現場指揮を主導した、元防衛官僚である。「立憲主義」への挑戦ともいうべき現政権の安全保障政策を、豊富な事例を挙げながら徹底批判。わが国でもっとも戦争を知る人物だからこその、国際紛争の現実に即した説得力のある議論を展開!
(引用終わり)

 さらに、このホームページには、伊勢﨑賢治さんによる推薦文も掲載されていました。
 
青春と読書「本を読む」
『亡国の集団的自衛権』柳澤協二 著
安全保障の新たなるパラダイムを提示する一冊 伊勢﨑賢治

(引用開始)
 柳澤さんが内閣官房副長官補として自衛隊のインド洋補給活動そしてイラク派遣の司令塔だった頃、僕はアフガニスタンで日本政府特別代表として、ブッシュ政権が崩壊させたタリバン政権後の占領統治に関わっていた。小泉政権の時である。
 インド洋補給活動は、9・11同時多発テロ後、実行犯アルカイダを囲うタリバン政権へ報復攻撃としてアメリカが個別的自衛権NATO集団的自衛権を行使した軍事作戦の一環である。そして、国連が全加盟国に対して治安維持のための軍事介入を求め、海上自衛隊派遣は、この国連決議を根拠にしている。後のアメリカのイラク侵攻は、NATOでも軍事介入の是非で割れたが、フセイン政権崩壊後、国連決議が発動され、陸上自衛隊サマワ派遣の根拠となった。
 この一連の「テロとの戦い」は、もはや、「アメリカの勝手な戦争」ではなく、地球的(ママ/文章がつながりませんから、ここに脱落があるのかもしれません)ことでもない。アメリカと直に取っ組み合うことでしか感知できない大国のジレンマをこちらが主体的に汲み取る。これができるのは柳澤さんしかいない。
 柳澤さんは「官僚の良心」である。冷戦時のソ連、そして中国の台頭、北朝鮮の脅威を前に、アメリカの軍事拠点でしかない日本を、それでも主権国家として存続させるべく、その拠り所を立憲主義に定め、その死守に奔走しながら、アメリカに内包された国防と国益を実現してきた。その立憲主義が日本人自身の手によって窮地に追いやられた今、柳澤さんは決心する。単なる政権批判ではない。当のアメリカも「テロとの戦い」で窮地に追いやられている今、日本の、いや、世界の安全保障の新たなパラダイムの提示が必要だ。それが本書である。
いせざき・けんじ ● 東京外国語大学大学院教授 
(引用終わり)
 
 以前にもどこかで書きましたが、「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)」「立憲デモクラシーの会」「国民安保法制懇」の全てで呼びかけ人を務めているのは、柳澤協二さんと伊勢﨑賢治さんの2人だけなのです。
 従って、伊勢﨑さんがいくら推奨しても、「仲間褒め」の感は拭いきれないのですが、それでも非常に興味深い点があります。
 それは、誰しも推薦文を書く際には、自分が最も関心を持つ部分、自分が最も共感を抱く部分を取り上げて賞揚するものであるということを、あらためて認識させてくれる文章だということです。
 「当のアメリカも「テロとの戦い」で窮地に追いやられている今、日本の、いや、世界の安全保障の新たなパラダイムの提示が必要だ。」というのは、柳澤さんの著書を評するかに見えて、実は伊勢﨑さん自身の意見を語っているということでしょう。
 その辺については、伊勢﨑さんの最近の著書について書いた以下の記事などをご参照ください。
 
2014年11月15日
『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(伊勢﨑賢治氏著)を読む
2015年3月7日
伊勢﨑賢治氏著『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』を読む

 
 さて、本書を読み終えての私の感想を述べる前に、ここ1年以内に出版された柳澤さんの著書3冊の目次をご紹介したいと思います。
 
2014年4月24日発行
『亡国の安保政策 安倍政権と「積極的平和主義」の罠』岩波書店

はじめに
1 安倍政権は、何をしたいのか
2 安倍政権の特質 
3 憲法解釈と安保政策 
4 七つの「具体例」 
5 「積極的平和主義」の罠 
6 米中のはざまで、どう生きるか 
対談 混迷を深める日中関係をどうみるか  天児 慧 
対談 米中パワーバランスの変化と、日本の立ち位置   植木(川勝)千可子 
 
2014年10月25日発行
『自分で考える集団的自衛権 若者と国家』(青灯社)

1 第一歩からの安全保障
2 尖閣問題をどう考えるか
3 尖閣で何が起きるか
4 北朝鮮のミサイルをどう考えるか
5 日米同盟のバカの壁
6 同盟疲れ
7 官僚と政治家
8 国家像が見えない安倍政権
9 ジャパン・ブランドを求めて
10 集団的自衛権と日本の将来
 
2015年2月22日発行
『亡国の集団的自衛権』集英社新書

序章 集団的自衛権の視点 
第1章 集団的自衛権と日米ガイドライン改定の行方
 1 ガイドライン改定中間報告
 2 イスラム国・中国・北朝鮮ガイドライン
 3 政治が先か軍事が先か
第2章 7月1日閣議決定のおかしさ
 1 従来の政府見解との乖離
 2 現実性のない事例
 3 効かない歯止め
第3章 バラ色の集団的自衛権
 1 「普通の国」とは何か?
 2 何を抑止するのか?
 3 抑止力を高めて日本を平和にする?
 4 日米同盟が強化される?
第4章 国際情勢はどう変わったか
 1 戦争をめぐる要因・戦争のやり方
 2 「米国による平和」の行方
 3 米中の力関係
 4 日本の立ち位置―アメリカと中国の狭間で
第5章 集団的自衛権は損か得か
 1 日米同盟のバランス感覚
 2 米中対決のシナリオと日本の役割
 3 日中戦争とアメリカの対応
第6章 世界の中でどう生きるか―今日の「護憲」の意味
 1 日本とは、どういう国か
 2 日本のパワーの源泉と弱点
あとがき
 
 おそらく、『亡国の集団的自衛権』(ちなみに、この書名はどう考えても著者による命名とは思えず、編集者の提案でしょうね)は、柳澤さんの講演(文字起こしした講演録)をベースとして、それに大幅に加筆修正を加えたものではないかと推測しています。
 確たる根拠がある訳ではないのですが、本書全体の構成が、「集団的自衛権について講演していただきたい」という要請を受けた際に構想されるであろう話の流れに沿っているような気がするのです。もちろん、通常の1時間半程度の講演では、ここまで語りきるのは難しく、はしょりはしょりになるとは思いますが。
 
 それで、私が最新刊の感想を述べる前提として、なぜここ1年以内に出版された柳澤さんの著書3冊の目次をご紹介したかと言うと、3冊全てに目を通すことによって、さすがに著者が何を最も重視しているのか?が見えてきたと感じるからです。
 昨年4月の『亡国の安保政策』ではさほど明確ではなかったものが、同年10月に刊行された『自分で考える集団的自衛権 若者と国家』で明瞭に主張され、今年2月の『亡国の集団的自衛権』においても、再び強調されることになったこと。
 それは、「自分たちはどのような国でありたいのか」(『亡国の集団的自衛権』158頁)という問いかけです。
 この点が端的に語られた部分を引用しましょう。
 
「安全保障政策は国家目標を実現するための手段です。そして国家目標とは、国としての自己実現のあり方だと言えます。つまり、日本の安全保障政策について考えるとき、日本がどういうアイデンティティを持った国であり続けたいのか、それを維持するためにはどういう世界であってほしいのかということを抜きにして論じることはできないのです。」(『亡国の集団的自衛権』150頁)
 
「『戦争をしない』という日本のスタンスには一定の普遍性があり、軍事力ではない手段による紛争解決や平和構築などの現場で『日本人ここにあり』という姿を見せていくことは、日本という国の価値を世界に示すパワーとなるはずです。
 しかし、そのためには、自分たちはどのような国でありたいのか、という日本の意思を世界に示していく必要があります。
 憲法とは、その国がいかなる世界を望ましいと考え、その世界においていかなる国でありたいかを示す、国としての世界観と国家像の反映です。日本が戦争をしてこなかったのは、言うまでもなく、戦争放棄を謳う憲法第九条があるためですが、現在、憲法改正をめぐる議論が活発化しており、単に『平和憲法を守れ』と言っているだけではすまされない現実が突き付けられています。
 当然のことながら、日本という国の憲法をどうするかを決めるのは日本人です。しかし、憲法をどうするかということは別の問題として、日本が世界に向けて何を発信し、どのような国として世界のために何をしていくのか、ということを提起しなければならないと思います。」
(『亡国の集団的自衛権』157~159頁) 
 
 一体、私たちは日本をどういう国にしたいのか?ということを考えることなしに、集団的自衛権行使容認の是非をはじめとする安全保障政策を論ずることなどできないという柳澤さんの主張は、実は、安保政策だけのことではなく、国の政策のあらゆる部面について妥当することではないかと思えてきます。
 そして、既に今国会に上程され、早晩成立すると予想されている、選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げる公職選挙法改正案(いずれ圧倒的多数の賛成で可決成立するでしょう)のことが想起されます。
 私たちには、この国の未来を担う世代に、「君たちは、日本をどういう国にしたいのか?」と真摯に問いかけ、対話する努力がまさに求められているのでしょう。
 柳澤さんの前著の副題が『若者と国家』であったのには、十分な根拠があったのだということに今さらながら気付かされます。
 柳澤協二さんの最近の著書、とりわけ、『自分で考える集団的自衛権 若者と国家』と『亡国の集団的自衛権』を是非お読みになることをお勧めします。
 
(参考動画)
 柳澤協二さんの講演の模様を収録しYouTubeUSTREAMにアップされた動画はこれまでいくつもご紹介してきましたが、以下には、昨年7月1日の閣議決定後に行われ、私のメルマガ(ブログ)でまだ取り上げていなかった動画を2本ご紹介します。
20140713 UPLAN 柳澤協二「集団的自衛権を考える─行使したら、どう変わる日本?─」

【UnitedYouth】柳澤協二様講演@ソーシャルカレッジ_20140913