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山本健慈和歌山大学学長 最後の卒業式式辞(付・予告4/29山本健慈氏講演会「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」)

 今晩(2015年3月25日)配信した「メルマガ金原No.2040」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
山本健慈和歌山大学学長 最後の卒業式式辞(付・予告4/29山本健慈氏講演会「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」)

 本日(3月25日)、和歌山市民会館大ホールにおいて、和歌山大学の「平成26年度 学位記・修了証書授与式(卒業式)」が開催され、今月末をもって退任する山本健慈学長が、最後の学長式辞を述べられました。
 ちょうど1年前の2014年3月25日に行われた「平成25年度 学位記・修了証書授与式」において山本学長が述べられた式辞は、多くの人に感銘を与え、私も2度にわたって当メルマガ(ブログ)でご紹介しました。
 
 
 そして、いよいよ山本健慈先生の最後の学長式辞が今日述べられました。
 周囲が勝手に期待を盛り上げる中(私もその片棒をかついでいたのですが)、夕刻に至りようやく和歌山大学ホームページの「学長からのメッセージ」コーナーに掲載された式辞を通読し、再び強い感銘を受けました。
 まず、学部卒業生のほとんどが、3.11直後の2011年4月に入学したことに言及し、その入学式での山本学長の式辞が回想され、そこで述べた期待を体現してくれたと確信をもって卒業生を社会に送り出せることを誇らしく思うと述べられています。
 ここで、4年前の入学式式辞とそれを読み上げる山本学長の動画をご紹介します。
 
平成 23 年度入学式式辞
動画「平成23年度入学式 学長式辞」

 
 それに続き、「学ぶ自由」の重要性を強調するとともに、具体例を挙げながら、今まさにその自由が抑圧されていることに卒業生の注意を喚起します。
 そして、和歌山高等商業学校和歌山大学経済学部の前身)初代校長・岡本一郎氏の転任先である山口高等商業学校における昭和16年12月28日の「本科第三十五回卒業式校長告辭」を紹介します。それは、戦争が始まってしまった以上、「学ぶ自由」の大切さを卒業生に伝えることすらできなかった教育者の無念に思いを馳せ、今目の前の和歌山大学卒業生に対し、「これから市民として、自らの幸福を追求するとともに、「自由の抑圧」に抗し、民主主義の発展のために尽力して頂きたい」というメッセージをあやまたず届けたいという熱意から選択されたエピソードでしょう。
 私は間違いなく山本健慈学長のメッセージは卒業生の心に届いたと信じますし、このような言葉を贈られる和歌山大学の卒業生は幸福だと思います。

 その後の部分では、国立大学法人の第3期中期目標期間における運営費交付金等の配分の制度設計に関わり、地方国立大学の視点が顧慮されておらず、このまま現在作業中の枠組みが現実化すれば、「早晩地方国立大学は衰弱し、ひいては日本の高等教育のシステムが崩壊に至る」という危機感が述べられていますが、これは、後事を託す学内、学外の関係者への激励のメッセージなのでしょうか。
 などと、これ以上感想を述べ連ねるよりも、末尾に全文を引用しておきますので、是非じっくりとお読みいただければと思います。
 
 さて、今日はもう1つお知らせがあります。
 それは、私も会員となっている青年法律家協会和歌山支部が、毎年開催している憲法記念行事(講演会)の講師を山本健慈先生にお引き受けいただけたという嬉しいニュースです。
 4月の終わりに開く講演会の講師がなぜこのような間際に決まるのか?という疑問を持たれる方もいらっしゃるかとは思いますが、話せば長くなる「諸般の事情」はここでは省略し、まず講演会の概要をお知らせします(ちなみに、企画が確定して間がないため、まだチラシも出来ていません)。
 
青法協憲法記念講演会
学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して

 第1部 基調講演 山本健慈氏(和歌山大学長/3月末で退任)
 第2部 座談会 民主主義の危機を克服するために
   出演者 
    山本健慈氏
    花田惠子氏(9条ネットわかやま世話人代表)
    金原徹雄(弁護士)
   司 会 
    岡 正人(青年法律家協会和歌山支部長)  
日時 2015年4月29日(水・祝)
    開場 午後1時00分
    開演 午後1時30分
会場 和歌山勤労福祉会館 プラザホープ 4階ホール
    和歌山市北出島1丁目5番47号
入場無料 
予約不要
主催 青年法律家協会和歌山支部
連絡先 
 和歌山市岡山丁50番地2 電話:073-436-5517
 岡本法律事務所(弁護士 岡 正人)
 
 この講演会のタイトル「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」は、お気づきの方もおられるでしょうが、昨年の和歌山大学卒業式における山本学長の式辞の中からキーワードを取りだして仮に講演の演題として提案したところ、山本先生からご了承いただいたものです。
 山本先生に講演をお願いしたのは先週のことで、もちろん今年の卒業式式辞で何を述べられるか全く知らずに考えたものですが、山本先生の問題意識がそんなに変わるはずはなく、昨年の学長式辞の中では語りきれなかった思いを敷衍し、一般市民に語りかけていただきたい、いよいよ時代が危機的状況を迎える今だからこそ求められる講演である、というのが私たち主催者の願いでした。
 なお、第2部は、パネルディスカッションというほど本格的な討論を行う余裕はないと思い、座談会としたのですが、「山本先生のファン代表として出させてもらいます」と出演をご快諾いただいた花田惠子さんが、さらに山本先生から貴重なお話を引き出してくださるのではないかと、支部長の岡正人弁護士ともども期待しています。
 それでは座談会に出て私(金原)は何を話すのか?ということですが、時期が時期ですから、5月中旬に国会に上程されることが予想されている安保(戦争)法制関連法案について、コメントする必要はあるだろうと思っています。
 
 とにかく時間がありません。それにいつもは大型連休突入直前の平日夜に開催するのが恒例となっていた講演会を、事情により祝日の午後に開催することになりました。
 この日程のために「行きたいのに行けない!」という方が私の周囲にもいらっしゃいます。他方、休みの日の午後なら、家族に子どもの面倒を見てもらって聴きに行けるという方もおられるでしょう。
 従来、参加者がやや固定化する傾向のあった青法協憲法記念講演会ですが、もしかすると、従来とは違う層の方々にお越しいただけるチャンスかもしれないという期待もあります。
 いずれにしても、この講演会の開催を1人でも多くの方に知っていただくために、このメルマガ(ブログ)の読者の皆様にも、何卒【情報拡散】にご協力いただきたく、何卒よろしくお願いします。
 

 
                平成26年度 卒業式式辞
 
 本日、学士の学位を得た 922 名の学部卒業生の皆さん、修士の学位を得た 213 名の大学院修士課程修了生の皆さん、博士の学位を得た6名の博士課程修了生の皆さん、そして6名の特別支援教育特別専攻科修了生の皆さん、おめでとうございます。
 御来賓の本学後援会の原会長ならびに本学同窓会の宮崎会長、そして列席の理事・副学長、学部長とともにご卒業を心からお祝いいたします。併せまして、ご家族あるいは関係者の皆さまにも、心からお慶びを申し上げます。
 さて、本日卒業の学部卒業生のほとんどは、東日本大震災直後の2011年4月に入学された皆さんです。3・11震災翌日の 12 日の後期入試を受験し入学された方もおられます。11年4月5日の入学式には、参加できなかった被災地からの大学院入学生もおられましたことを思い出します。4 年前の震災、そしてその後の見聞は、皆さんの胸の中にどのように刻まれているでしょうか。
 大震災直後の入学式で、私は以下のようなことを述べました。
 「今我々が直面している震災は、これまでの豊かさ、その前提としての安全という人間の生存の基本を問い直し、これまでの新たな社会への『模索』ではなく、新しい社会を『創造』することへの決断を迫っています。その意味では、皆さんのように過去の成功物語にとらわれない世代、『模索』の時代に育った世代こそ、過去を根本的に見直し、『未来の希望』を実現できる世代である」と、皆さんへの期待を述べました。そして新入生である皆さんに、四つのことをお伝えしたのですが、その第一に挙げたことは、「まずは自分の人生の幸福とはなにかについて、深く考えて頂きたいと思います。自分を考える、そしてなにが幸福なのかを考える、これを自分で考え、友人と語り合って頂きたいと思います。そして自分の幸福が、他者の幸福と通ずる生き方を確立して頂きたい」ということでした。
 2011年8月、2回にわたって被災地・岩手・陸前高田へボンランティバスを送り出しました。この被災地での経験の中で、自分の人生の課題をみつけ継続的なボランティア活動に取組み、また意欲的な学びに取り組んだ方もいます。一方、被災による学びの困難に思いをはせながら、学ぶ条件に恵まれていることを自覚し、自らの生きている時代と社会の課題に対して、社会的実践ではなく、理論的学びに励んだ方もいます。それぞれに被災地・社会の課題と向き合い、他者とともにある自分の幸せを追求した学生生活だったのだと思います。また2012年2月には、本日卒業する約20人がタイへの派遣プログラムに参加しました。彼らは、日本とは異なるタイの諸困難に出会い、自らの課題としてタイへの貢献の活動に取組み始めました。彼らもまた、他者とともにある自分の幸福を見出したのだと思います。
 そして、上記の学生達だけではなく、多くの皆さんが、教室・研究室で、地域で、そして課外活動で学び成長していく姿に、直接接することができましたことは、学長として最も嬉しく誇らしいことでした。地域の皆さん、卒業生の皆さんからも、「最近の和歌山大学生は、よく頑張っている」という声をかけられることが多くなりました。これも学長として嬉しく誇らしいことであります。
 4年間の皆さんの成長の姿を見る時、2011 年4月5日の入学式に述べた「皆さんのように過去の成功物語にとらわれない世代、『模索』の時代に育った世代こそ、過去を根本的に見直し、『未来の希望』を実現できる世代である」というメッセージを体現してくれていると頼もしく思い、本日確信をもって皆さんを社会に送り出せることを誇らしく思います。
 そして私は、皆さんの姿に励まされて学長職を全うできたことを率直に表明し、感謝をお伝えしたいと思います。
 皆さんの成長は、皆さんの努力もあってのことではありますが、「学ぶことの自由」「活動することの自由」が、社会によって保障されているからにほかなりません。2014年ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの言を引くまでもなく、世界には「学ぶ自由」が保障されていない多くの青少年が存在することを忘れてはなりません。そしてマララさんの言葉を使えば、(「(受賞は)終わりではなく、始まりに過ぎない」)(1)、皆さんの先輩たちの「学ぶ自由」を勝ち取る「始まり」の結果として、皆さんの自由があることを忘れてはなりません。
 本日このように「学ぶことの自由」の意味を強調するのは、「学習権は、人類の生存にとって不可欠な道具である」(1985年3月29日第4回ユネスコ国際成人教育会議採択)という一般的意義だけでなく、今日「学ぶ自由」への抑圧の危惧を強く持つからであります。
 皆さんは、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という俳句を聞いたことがあるでしょうか。この俳句は、公民館の俳句創作サークルで、戦争体験のある高齢の女性が詠まれたものです。この俳句は、サークルの推薦により「公民館だより」に掲載されるはずでした。しかしこれを受け取った一職員の戸惑いと、この句は政治的争点に触れているという公民館長の判断により不掲載になりました(2)。また各地の美術館、博物館では、政治的争点に触れるという理由で展示への干渉の事例が生じております。大学も無縁ではありません。「朝日新聞」バッシングの中で、「朝日」の元記者が、大学を追われた、また追われようとした事例もあります。こうしたことは、かつてはなかったことであります。
 「学びの自由」を含めて、私たちが今日享受している「自由」は、1945年8月の敗戦を経て制定された「日本国憲法」によって実現されました。
 今年は戦後70年という区切りの年です。日本および日本国民は、かつての戦争に対していかなる態度をとるのか、同じ敗戦国にあったドイツとの比較においても注目されています。
 私は、本日卒業生を送るにあたり、戦中において、当時の学長(校長)は、どのようなメッセージを卒業生に贈ったのかを調べてみました。残念ながら本学(当時は師範学校高等商業学校ですが)の資料は見つけることができませんでしたが、和歌山高等商業学校初代校長 岡本一郎先生の、転任先である山口高等商業学校における、昭和16年12月28日の「本科第三十五回卒業式校長告辭」を見付けることができました(3)。
 本来17年3月に行われるべきものが、12月8日の日米開戦もあって、3か月繰り上げて挙行された時のものです。
 この「告辭」の中で、岡本校長は、「之等學徒の在學中一旦延期せられて居た徴兵検査も、巳に現に之等の大多数の者に嚴正に執行され、其殆んど全部が検査に合格し、明十七年二月には夫々ペンを擲って劍に執り代へ、帝國軍人として君國の守りに就くことになつて居るのであります。」「思へば實に血湧き肉躍るの感あらしむるのでありますが、此時此際之等の卒業生は勇んで此御仲間となり得る光榮を有すのであります。かく考へますと今度の卒業式程重要な意義を含める卒業式は又とないのではないかと思はるゝのであります。父兄の御方々來賓各位、どうか之等のことを思ひ遣つて大に祝福し、大に激勵を加へて戴き」と述べられています。
 こうした告辞を述べられた岡本校長を、12月8日開戦当日訪ねた山口高商の教え子の記録が残っています。彼によれば、岡本校長は、欧米の力を熟知し、戦争の行方を心配し「さめざめと涙」を流したということです。岡本校長の当時の心情、判断を察することはできませんが、すでに本日の私のように「学ぶ自由」の大切さを卒業生に伝えることのできる状況にはなかったことは明らかであります。
 私は、長い研究生活の中で、「生涯学習の自由」「表現の自由」「報道の自由」が、市民の幸せ、社会の平和と深く結び付いていること、そして自由の侵害は、個人の幸福と社会における民主主義を阻害・抑圧することを学んできました。
 本日卒業する皆さんには、これから市民として、自らの幸福を追求するとともに、「自由の抑圧」に抗し、民主主義の発展のために尽力して頂きたいと思います。もちろん、私も終生の課題として取り組む決意です(4)。
 さて、皆さんにとって、和歌山大学は母校であります。私は、皆さんの入学時、「和歌山大学は、生涯あなたの人生を応援します」と、卒業後の「あなた」も応援することを約束いたしました。その約束を果たすためには、和歌山大学そのものが存在し続けることが必要です。
 今、国立大学法人の第3期中期目標期間(2016年から6年間)における運営費交付金等の配分の制度設計に関わる議論が、政府内で行われています。法人化後、政府は、財政的効率化や、産業競争力強化に資する研究への資金選択と集中を企図してきました。しかしこの議論においては、「地方国立大学」「地方自治体」「地方の企業・経済界」の視点が顧慮されていないように思われます。
 現在の作業中の枠組みが現実化するならば、誤解を恐れずに言えば、早晩地方国立大学は衰弱し、ひいては日本の高等教育のシステムが崩壊に至るのではないかと思います。いまこの事態の深刻さを憂慮され、本学経営協議会外部委員の皆さまは、現在進行する作業に疑念を表明されました(5)。本学の呼びかけに応え、山形大学福井大学福島大学奈良教育大学東北大学高知大学静岡大学等から同様な意見表明がされています。「地方創生」というスローガンのもとに、真に地方・地域の再生を実現しようとするならば、地方国立大学の財政的基盤を充実させることによって、人文社会科学を含めて多彩多様な研究に支えられた高等教育を実現し、皆さんが、和歌山という地方、地域で多くを学び成長されたように、都市の若者が地方に還流し、学ぶ機会とその体制を整備することこそ重要だと思います。和歌山大学が基盤としている紀伊半島南部は自然豊かな、日本の未来にとって価値ある国土です。また人間性を見失う都市環境とは違って「ヒト」を人間として形成する機能も豊かです。
 幸い、このたび和歌山大学の基盤を強化するために、来賓として御臨席頂いています和歌山大学後援会、同窓会を含むオール和歌山大学の組織を近く発足させることになっております。卒業生の皆さんには、自らの和歌山大学での学びの体験、その価値を社会に発信するとともに、本学の存在基盤を確固たるものとする活動に参加して頂きたいと思います。私もまた和歌山大学OBとして皆さんとともに、和歌山大学の基盤強化のために尽力をす
るつもりです。
 さて、私は、本年3月末をもって学長を退任し、同時に38年間に及ぶ和歌山大学生活を終えます。大学入学以来でいえば、48 年間、大学という舞台で多くの方に出会い、学び励まされてきました。この場をお借りいたしまして、皆さまに深い謝意を表したいと思います。
 最後に、本学は、今後も「和歌山大学は、生涯あなたの人生を応援します」というメッセージ通り、教職員は勿論のこと、全国各地にいる同窓会の諸先輩方とともに、卒業後も皆さんを応援する、とりわけ<学び続けること>を応援することを重ねてお伝えし、式辞といたします。
 
  2015年3月25日
                           和歌山大学長  山本 健慈 
 
(1)ノーベル賞受賞後の記者会見での発言
(2)佐藤一子「公民館における政治的中立と学習・表現活動の自由 」『月刊社会教育』
2014 年10月号(国土社刊)
(3)岡本一郎氏の和歌山高等商業学校第1期卒業式告辞(大正15年3月)は、2013年3 月26日の本学卒様式で紹介した。
(4)山本健慈「『生涯学習の自由』への闘い・・決意を込めて」『和歌山大学生涯学習
ュース NO.43』(2015年1月1日)
(5)和歌山大学は経営協議会外部委員声明「地方国立大学に対する予算の充実を求める
声明-第3期中期目標期間に向けて-」 (2015 年1月6日) 、および和歌山大学声明「-我が国の高等教育の将来の成長と地域の発展に向けて-」(2014年1月9日)参照。
 
https://www.wakayama-u.ac.jp/post_711.html
 また「国立大交付金見直し『国民的議論を』」朝日新聞 2015年3月20日