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映画『A2-B-C』上映中止を考える~既に映画を観た者としてどういう声をあげたらよいか

 今晩(2015年3月28日)配信した「メルマガ金原No.2043」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
映画『A2-B-C』上映中止を考える~既に映画を観た者としてどういう声をあげたらよいか

A2-B-C上映委員会という形でお受けした上映会は中止なのですが、もちろん今後も権利が監督のもとに戻
りましたら上映は可能です。
お知らせ
3月23日をもって「A2-B-C」上映委員会を解散することになりました。
また上映が再開できるようになりましたら、こちらのWebサイトでお知らせします。
これまでのご支援心より感謝しております。
「A2-B-C」上映委員会
 ―映画「A2-B-C」公式サイトより
 
 既にご存知の方も多いと思いますが、昨年(2014年)10月26日には、監督のイアン・トーマス・アッシュ監督を招いた上映会が和歌山市(あいあいセンター)でも開催された映画『A2-B-C』について、3月14日を最後に、上映実行委員会が全国での上映を中止することになりました。
 ただ、大阪府茨木市(3月29日(日)午前10時30分~と午後2時00分~の2回上映/茨木市福祉文化会館202号室)のように、実行委員会からの申入れを拒否して上映を強行するところもあるようですが(上映用のDVDをたまたま14日よりも前に入手していたのかもしれません)。
 
 この間の事情については、実行委員会から理由の説明が全くなされておらず、わずかにTwitterに寄せられた問い合わせに対して「ある問題に関して、委員会内の今後の上映方針の相違によるものです。」というtweetがあったくらいです。
 会場も押さえ、チラシも作成してチケットの販売も始めていた主催者に対し、一方的に中止しますと連絡するだけで済むはずがなく、主催者の被る経済的損害の補償は誰がどう責任を取るのか?などということが、弁護士なのですぐ念頭に浮かぶのですが、一体どうなっているのでしょうね?
 
 なお、イアン・トーマス・アッシュ監督のこの問題についてのまとまったコメントは、3月14日付の監督自身のブログにアップされた文章(英語)があり、さらに、レイバーネット日本がその日本語訳を掲載しました。
 
 
レイバーネット日本 2015年3月22日
検閲?自己検閲?(翻訳=レイバーネット国際部・和田智子)

(抜粋引用開始)
 福島に住む子どもたちについての私のドキュメンタリー『A2-B-C』の日本の配給会社 が、この作品のすべての上映を中止しました。さらに、契約期間が2年以上残っているにもかかわらず、日本での配給契約
はキャンセルされてしまいました。
 この決定が、どこまで実際の検閲の結果なのか、どこまで自己検閲によるものなのか、私にはよくわか
りません。将来的に検閲の問題が起こる恐れがあるということによる自己検閲なのではないか、という気がします。もしそうなら、秘密保護法の恐ろしい、広範囲に及ぶ影響の一例ということになります。この法律の影響を感じさせるのには、施行することは必要ではありません。この法律があるというだけで、人
々は自己検閲をして、法案を作った連中が思い描いていたとおりの弾圧を自らに対してするのです。
(略)
 私は、今日の長野での2回の上映に参加することにしていましたが、配給会社からは、その場で初めて、
上映中止についての公のお知らせをするように言われました。上映会の参加者の中にいた2,3人のジャーナリストをよんで、Q&Aの時間を、急遽記者会見にします。この文章をブログにアップしている今、手が震えています。私のこの映画が日本で上映される最後の機会となる今日の、ここ長野での上映では、上映後のトークが2回ありますが、その一回目のトークのために、これから舞台に出て行こうとしているとこ
ろです。
 自分がトークで何を言うかわかりません。でも、私を黙らせようとする企みがあっても、それは、私に
ますます大きな声を上げさせる結果になるだけのことだ、ということは、確信を持って言うことができま
す。
(引用終わり)
 
 さて、私は上記のイアン・トーマス・アッシュ監督のブログ(の翻訳)をFacebookシェアはしたものの、メルマガ(ブログ)で取り上げることはためらっていました。それというのも、今回の上映中止の理由についての公式発表すら全くない中で、その背景に踏み込んだ推測もまず不可能だから(単なるあてずっぽうの憶測ならいくらでも書けるでしょうが)です。
 もう少し、信頼できる情報が出てくるのを待つべきだろうと考えていました。
 
 それが、急遽、「何はともあれ書かなければ」と決心したのは、以下のとんでもないブログ記事を読んだことがきっかけでした。
 
 
 映画『シロウオ~原発立地を断念させた町』を監督した「かさこ」なる人物が書いたものですが、あえて引用して一々反論する気にもなりません。
 実際に映画『A2-B-C』を観たことがある人であれば、「かさこ」氏の批判が非常にたちの悪い言いがかり以上のものでないことは説明するまでもなくすぐ分かることだと思います。
 ただ問題なのは、この「1997年から大手サラ金に約2年勤め、総額10億円以上を融資するトップセールスマンに」と自己の公式サイトのプロフィール欄に堂々と掲載する人物のブログのアクセス数の方が(BLOGOSへの転載分も含め)、アッシュ監督のブログやレイバーネット日本の読者よりも、まことに残念なことに、圧倒的に多いだろうということです。
 映画『A2-B-C』を観たことのない多くの人に、この映画に対する誤った先入観をすり込まれてはたまりません。

 この「かさこ」氏の文章は、イアン・トーマス・アッシュ監督に対して・・・と言うよりも何よりも、勇気をもってこの映画に出演してくれたお母さんたち、その中には出演したことを今では後悔している人ももしかするといるかもしれませんが、そのようなことも包み込んだ上で、この映画の制作や上映に関わった全ての人に対する冒涜であり、許しがたい文章です。

 私は、福島から関西に母子避難し、誰に頼まれた訳でもないのに、映画『A2-B-C』の上映を周囲に勧めてまわっている人を知っています。その方はFacebookにこう書かれていました。
「登場人物に知り合いは誰一人としていないのですが、避難出来た私も、とどまって被災地で奮闘されているお母さんも、まったく同じ事を思い、頑張っているのだなぁという事が本当によく伝わるドキュメンタリーです。

 この方が、「かさこ」氏の、
「ただ思うのはこの映画に登場する、
何度もガイガーカウンターを測る女性や、
ヒステリックに放射能被害を叫ぶ女性がいるんだけど、
そんなに気になるのなら福島から移住すればいいのにと思ってしまう。
いや、そんなことできないから困っているのだ、
というのかもしれないけれど、
「子どものために」とかいいながら、そんなに気にするなら、
本気で子どものためにと思っているのなら移住すればいいじゃん。
なぜそれをしないで映画に出て、ただヒステリックに叫んでいるだけなのか。
申し訳ないけど本末転倒な感じがして、
私はむしろこうしたシーンを何度も繰り返すのは、
この映画の監督は実は反原発なのではなく、原発推進派で、
反原発派のヒステリックなバカさ加減を、
わざとこの世に知らしめるために描いたのではないかとすら思った。」
という文章を読んだら、怒りのあまり卒倒するのではないかと心配になります。
 引用はしないと言いながら、あまりのひどさについ引用してしまいました。
 引用していない他の部分もまあこれと同じレベルです。
 従って、これ以上引用はしませんが、頼むから「私は反原発の急先鋒といっても過言ではない」などと言って欲しくないですね(多分、言い続けるでしょうが)。
 
 私のブログの読者数など微々たるもので、『A2-B-C』に対する「援軍」と言えるような力はないでしょうが、「微力ではあるが無力ではない」以上、ここは黙っている訳にはいきません。
 『A2-B-C』に共感した多くの方にも共に声を上げていただければと思います。
 ただし、映画『A2-B-C』上映中止ということ自体、決して「かさこ」氏の暴言に対するカウンターというようなレベルに矮小化してはならない大きな問題であることは間違いありません。
 これからも、この上映中止に至った背景について、いずれ明らかにされることを期待して注目を怠らないようにしたいと思います。
 
 なお、実をいうと、私は、昨年和歌山市で行われた『A2-B-C』(10/26)と『シロウオ~原発立地を断念させた町』(11/29)という2本の映画の上映会の双方で呼びかけ人を務めましたので、今日のような記事を書かざるを得なかったのはまことに残念です。
 もともと高くもなかった「かさこ」氏に対する私の評価は、今回の文章で決定的となりましたが、だからといって、映画『シロウオ~原発立地を断念させた町』に出演された方々に対する私の敬意にいささかの影響もないことは言うまでもありません。
 
 あと、映画『A2-B-C』とイアン・トーマス・アッシュ監督について、いくつか補足しておきます。
 
○映画予告編
'A2-B-C' (TRAILER予告編) thyroid cysts and nodules in Fukushima children
 

○イアン・トーマス・アッシュ監督のYouTubeチャンネル「DocumentingIan」に、これまで福島などで撮影したショート・ドキュメンタリーが集積されています。
 
○昨年10月26日に和歌山市の「あいあいセンター」で開かれた上映会には、イアン・トーマス・アッシュ監督も参加し、トークセッションが行われたのですが、その翌日、私はブログでレポートを書きました。
2014年10月27日
映画『A2-B-C』を観てイアン・トーマス・アッシュ監督の話に耳を傾けた~次は自分が何をすべきかということ
 その記事の中から、トークセッションでのアッシュ監督の発言を紹介した部分を引用します。今回の上映中止事件から振り返る時、まことに示唆的です。
「上映終了後のディスカッション・タイムの前半は、和田雄輝さんとカーリー・アンさんが聞き手となってイアン・トーマス・アッシュ監督のトークを引き出してくれました。このコーナーでのアッシュ監督のトークの中で、最も印象に残ったお話を1つご紹介しましょう。和田さんから、特定秘密保護法が出来て、作品作りに影響が出ていないか?という質問があったのに対し、アッシュ監督は、「その影響かどうかは分からないけれど、以前に比べると、取材のための壁が高くなったように思う。でも、壁が高くなったおかげで、それを乗り越えなければならないために、そうでない時に比べて、自らを高めて優れた結果を出せるようになったとも言えるのではないか」と答えられました。これは、監督の言葉そのままではありませんが、趣旨を私なりに要約するとこういうことかなと思います。非常に感心したため思わず拍手したのですが、誰もあとに続いてくれず、私だけが目立ってしまいましたけれど。・・・と思って Facebook にそのように投稿したところ、上映実行委員会代表の花田惠子さんから、「私も階段の陰で拍手してましたよ~!それにしても、素晴らしい考えだと思わずウルウル~」というコメントがすかさず入っていました。花田さん、大変失礼しました。しかし、アッシュ監督のこの言葉は、全ての創作活動、いや、創作には限らない、私たちの全ての活動に共通した真理ですよね。」