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2人目の「樋口英明裁判官」よ、出でよ!~高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件決定を受けて

 今晩(2015年4月14日)配信した「メルマガ金原No.2060」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
2人目の「樋口英明裁判官」よ、出でよ!~高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件決定を受けて

 今日、2014年4月14日は、日本の原発や司法にとって歴史的な1日となりました。既にニュースでご存知のことと思いますが(多分、各局のニュースでトップ扱いになったはずですよね?)、福井地方裁判所民事第2部(樋口英明裁判長)が、高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件について、債務者・関西電力に対し、「運転してはならない」という仮処分を決定したのです。
 このどこが「歴史的」かといえば、決定が告知された今日の午後2時以降、債務者(関西電力)による異議申立あるいは執行停止申立等が裁判所から認められない限り、この決定により、関西電力は、合法的に高浜原発3号機、4号機を運転することはできないという状態になっているということなのです。
 もう一度言います。私がこの文章を書いているまさにこの瞬間、福井地裁民事第2部による運転差止命令の効力によって、高浜3、4号機は、動かそうにも動かせない法的状態となっているのです。
 これは、日本で原子炉が稼働し始めて以来、初めてのことです。
 
 ただし、この画期的な決定が今後の司法判断のリーディングケースとなるのか、それとも「樋口英明」という変わり者の裁判官がたまたまこの時期に福井地裁に赴任していたことによるあだ花に終わるのか、その帰趨はこれから各地の裁判所でどのような判断が出るかにかかっています。
 今日のメルマガ(ブログ)のタイトルを、
  2人目の「樋口英明裁判官」よ、出でよ!
としたのは、つまりそういう思いからなのです。
 
 ところで、この決定の構造の分析などはおいおい検討するとして、今日のところは、「弁護団声明」及び「決定文要旨」をご紹介するにとどめます。
 とはいうものの、声明と要旨を読む前に、私たちも、福井地裁前に集まった皆さんと共に「この瞬間」の喜びを共有することにしましょう。
 午後2時に福井地裁の正面玄関から飛び出した弁護団員2名による「旗出し」です。
 IWJ福井チャンネル1が中継した動画アーカイブの28分過ぎに「旗出し」が行われています。掲出された2本の旗には、「司法が再稼働を止める」「司法はやっぱり生きていた!!」と書かれていました。
 なお、47分ころから、福井地裁前にかけつけた参議院議員山本太郎さんのぶら下がり会見の模様が撮影されています。
 
【速報】福井地裁 高浜再稼働を認めず「新規制基準は緩やかに過ぎ。適合しても安全性は確保されていない」と断言! 山本太郎議員は「安全神話の第二幕を開けさせなかった」

 それでは、「弁護団声明」及び「決定文要旨」を全文引用します。
 なお、「決定文要旨」における「債務者」とは「関西電力株式会社」のことをさします。
 
高浜原発3・4号機運転差止仮処分命令を受けての弁護団声明
(引用開始)
 福井地裁は、本日、関西電力に対し、高浜原発3・4号機の運転差止めを命じる仮処分命令を発令しました。
 高浜原発3・4号機については、規制委員会が設置変更許可を出しましたが、本命令によって再稼働することはできなくなりました。
 司法が現実に原発の再稼働を止めた今日という日は、日本の脱原発前進させる歴史的な一歩であると共に、司法の歴史においても住民の人格権ひいては子どもの未来を守るという司法の本懐を果たした輝かしい日であると思います。
 もっとも、原発が人格権という最も重要な権利を侵害するものであることは,既に昨年5月21日の福井地裁判決が明らかにしていたところであり、この判決を無視して国と電力会社が原発の再稼働を進めようとしたことは、露骨な司法軽視であり、三権分立という日本の統治制度の根幹を揺るがしかねない重大な問題であると考えます。
 本命令は、このような国と電力会社による暴挙を正したものといえますが、国と電力会社は、今度こそ司法の判断を厳粛に受け止めるべきです。
 国と電力会社に対し、本命令を機に、福島原発事故という現実を直視し、高浜原発3・4号機のみならず、すべての原発の再稼働を断念し、脱原発に舵を切ることを強く求めます。
  2015年(平成27年)4月14日
    脱原発弁護団全国連絡会、大飯・高浜原発差止仮処分弁護団
     共同代表 河合弘之・海渡雄一
(引用終わり)
 
決定書要旨PDFHTML
(引用開始)
平成26年(ヨ)第31号 高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令申立事件
 
              主       文
1 債務者は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。
 
              理 由 の 要 旨
1 基準地震動である700ガルを超える地震について

 基準地震動は原発に到来することが想定できる最大の地震動であり、基準地震動を適切に策定することは、原発の耐震安全性確保の基礎であり、基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。
 しかし、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの問に到来している。本件原発地震想定が基本的には上記4つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づいてなされ、活断層の評価方法にも大きな違いがないにもかかわらず債務者の本件原発地震想定だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。
 加えて、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。」と答えている。地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる。
 基準地震動を超える地震が到来すれば、施設が破損するおそれがあり、その場合、事態の把握の困難性や時間的な制約の下、収束を図るには多くの困難が伴い、炉心損傷に至る危険が認められる。
 
2 基準地震動である700ガル未満の地震について
 本件原発の運転開始時の基準地震動は370ガルであったところ、安全余裕があるとの理由で根本的な耐震補強工事がなされることがないまま、550ガルに引き上げられ、更に新規制基準の実施を機に700ガルにまで引き上げられた。原発の耐震安全性確保の基礎となるべき基準地震動の数値だけを引き上げるという対応は社会的に許容できることではないし、債務者のいう安全設計思想と相容れないものと思われる。
 基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ、かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあることは債務者においてこれを自認しているところである。外部電源と主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿である。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備はこれを安全上重要な設備であるとして、その役割にふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備でないとする債務者の主張は理解に苦しむ。債務者は本件原発の安全設備は多重防護の考えに基づき安全性を確保する設計となっていると主張しているところ、多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる。
 基準地震動である700ガル未満の地震によっても冷却機能喪失による炉心損傷に至る危険が認められる。
 
3 冷却機能の維持についての小括
 日本列島は4つのプレートの境目に位置しており、全世界の地震の1割が我が国の国土で発生し、日本国内に地震の空白地帯は存在しない。債務者は基準地震動を超える地震が到来してしまった他の原発敷地についての地域的特性や高浜原発との地域差を強調しているが、これらはそれ自体確たるものではないし、我が国全体が置かれている上記のような厳然たる事実の前では大きな意味を持つこともないと考えられる。各地の原発敷地外に幾たびか到来した激しい地震や各地の原発敷地に5回にわたり到来した基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは根拠に乏しい楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険である。
 
4 使用済み核燃料について
 使用済み核燃料は我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性があるのに、格納容器のような堅固な施設によって閉じ込められていない。使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え、国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。また、使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性もBクラスである。
 
5 被保全債権について
 本件原発脆弱性は、①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする、③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む、④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また、地震の際の事態の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし、中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに、原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの、猶予期間が設けられているところ、地震が人間の計画、意図とは全く無関係に起こるものである以上、かような規制方法に合理性がないことは自明である。
 原子力規制委員会が設置変更許可をするためには、申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし、新規制基準自体も合理的なものでなければならないが、その趣旨は、当該原子炉施設の周辺住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害が万が一にも起こらないようにするため、原発設備の安全性につき十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決、伊方最高裁判決)。そうすると、新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上、その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく債権者らが人格権を侵害される具体的危険性即ち被保全債権の存在が認められる。
 
6 保全の必要性について
 本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり、本案訴訟の結論を待つ余裕がなく、また、原子力規制委員会の設置変更許可がなされた現時点においては、保全の必要性も認められる。 
(引用終わり)
 
(付記)
 「決定」の本文全文は、別紙を含めて全部で67ページあります。
 大飯・高浜原発仮処分福井支援の会にPDFファイルが掲載されていますのでご紹介します。

(弁護士・金原徹雄のブログ)