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高浜原発3号機、4号機差止「決定」を読み込むために

 今晩(2015年4月16日)配信した「メルマガ金原No.2062」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高浜原発3号機、4号機差止「決定」を読み込むために

 福井地裁から、高浜原発3号機、4号機の運転差止を命じる歴史的な仮処分決定が出されてから2日が経ちました。
 当然のことですが、どうしても原発を推進したい勢力からの反撃が始まっており、これからいよいよその勢いが強まることでしょう。
 私たちは、昨年5月21日に、今回と同じ福井地裁民事第2部(樋口英明裁判長)が言い渡した「判決」大飯原発3号機、4号機の運転差止を命じた)と併せ、この決定をしっかりと読み込み、1人でも多くの共感者を生み出す努力をしなければなりません。
 今日は、今回の「決定」を学ぶための資料を紹介しておきたいと思います。
 
 まず、「決定」そのものが最も重要な基礎資料であることは言うまでもありません。昨年5月の「判決」もそうでしたが、「樋口コート」の文章は、非常に頭に入りやすく、特別に科学的、あるいは法学的な知見がなければ理解できないというものではありません。
 頭に入りやす文章とは、言い換えれば論理的な文章であるということです。
 もちろん、重要な論点となった基準地震動についての基礎的な知識があればより理解が深まるということはあるでしょう。また、記者会見での海渡雄一弁護士による解説や後にご紹介する渡辺輝人弁護士(京都弁護士会)執筆の解説にあるとおり、今回の「決定」は、平成4年の伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求事件上告審についての最高裁判決の基本的立場を踏まえており、同最高裁判決についての知識があればより望ましいということは言えます。
 しかし、それらの知識はおいおい勉強していくことで十分であり、まずは、「決定」そのものを読み進めていくことをお勧めしたいと思います。
 
 既にこの「決定」は、裁判所の公式サイトに本文全文(別紙は省略)が掲載されています。
 
裁判例情報/検索結果詳細画面
事件番号 平成26年(ヨ)第31号
事件名 高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件
裁判年月日 平成27年4月14日
裁判所名・部 福井地方裁判所 民事第2部
判示事項の要旨
 高浜原発から半径250キロメートル圏内に居住する債権者らが,人格権の妨害予防請求権に基づいて
高浜原発3,4号機の運転差止めを求めた仮処分請求につき,高浜原発の安全施設,安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといわざるを得ず,原子炉の運転差止めは具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段であり,原発事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じ,本案訴訟の結論を待つ余裕がなく,また,原子力規制委員会による再稼働申請の許可がなされた現時点においては,
保全の必要性はこれを肯定できるとして,運転差止めを認容した事例
(引用終わり)
 
 
 裁判所公式サイトに掲載されたものですから、福井地裁民事第2部が作成した文書ファイルのデータを基にPDFファイル化したものだと思います。テキストデータが埋め込まれており、やろうと思えばコピペもできますので、自分の文章に引用することも容易です。
 ただし、本来の「決定」では本文の後に添付されていた別紙(47頁~67頁)が全部省略されていますので、別紙も読もうとすれば、「大飯・高浜原発仮処分福井支援の会」ホームページに掲載された「決定」(これは弁護団が福井地裁から受領した紙ベースの「決定」をPDF化したものでしょう)を読むしかありません。
 
 
 また、「決定」について、その意義や構成を分かりやすく解説する文章も、特に自分が他の人に説明しようとする時の参考になるでしょう。
 ここでは、「脱原発京都訴訟」弁護団事務局長の渡辺輝人弁護士(京都弁護士会)が書かれた論考をご紹介しておきます。
 
福井地裁はなぜ高浜原発を止めたのか(地震の話を中心に)
渡辺輝人 | 弁護士(京都弁護士会所属)
2015年4月16日 12時53分

 
 なお、4月14日の当日、申立人・弁護団による報告会兼記者会見が開かれ、その中継動画もいくつかネット上にアップされていますが、私が見た限りで、今のところ一番視聴しやすいと思った動画を1つご紹介しておきます。
 
高浜原発3、4号機運転差止仮処分決定・記者会見&報告会(2015.4.14 福井県国際交流会館)

冒頭~ 福井地裁前 旗出し、
14分~ 河合弘之弁護団共同代表 挨拶 弁護団声明
18分~ 申立人団 挨拶 申立人声明
27分~ 中嶋哲演師
35分~ 海渡雄一弁護団共同代表 「決定」についての解説
54分~ 内山成樹弁護士 基準地震動について
59分~ 山本太郎参議院議員 
1時間01分~ 記者会見(質疑応答
1時間29分~ 各申立人から一言    
 
 裁判所が仮処分の申立てを認容するためには、「被保全権利」が存在するということと、本案訴訟の結論を待っていては、取り返しがつかないという「保全の必要性」の両者が揃っていなければなりません。
 最後に、その両者についての結論を述べた4月14日「決定」の末尾の部分を引用します。
 
(引用開始)
平成26年(ヨ)第31号 大飯原発3,4号機及び高浜原発3,4号機運転差止仮処分命令申立事件
          決      定
当事者等の表示 別紙当事者目録(省略)記載のとおり
          主      文
1 債務者は,福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において,高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転して
はならない。
2 申立費用は債務者の負担とする。
          事実及び理由
第1 債権者らの求めた裁判
 主文と同旨。
第2 事案の概要等
(1頁~)
(略)
第3 争点及び争点に関する当事者の主張の骨子(16頁~)
(略)
第4 当裁判所の判断
(19頁~)
1 原子力発電所の特性
(20頁~)
(略)
2 冷却機能の維持について
(21頁~)
(略)
3 閉じ込めるという構造について(使用済み核燃料の危険性)
(39頁)
(略)
4 本件原発の現在の安全性(被保全債権の存在)
(43頁~)
 上記に摘示したところによると,本件原発の安全施設,安全技術には多方面にわたる脆弱性があるといえる。そして,この脆弱性は,①基準地震動の策定基準を見直し,基準地震動を大幅に引き上げ,それに応じた根本的な耐震工事を実施する,②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする,③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む,④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない。また、2(2)ウにおいて摘示した自体の把握の困難性は使用済み核燃料プールに係る計測装置がSクラスであることの必要性を基礎付けるものであるし,中央制御室へ放射性物質が及ぶ危険性は耐震性及び放射性物質に対する防御機能が高い免震重要棟の設置の必要性を裏付けるものといえるのに,これらのいずれの対策もとられてい
ない。
 原子力規制委員会はこれらの各問題について適切に対処し本件原発の安全性を確保する役割を果たすことが求められているが(設置法1条,3条,4条),原子力規制委員会が策定した新規制基準は上記のいずれの点についても規制の対象としていない。免震重要棟についてはその設置が予定されてはいるものの,猶予期間が事実上設けられているところ,地震が人間の計画,意図とは全く無関係に起こるものである以上,かような規制方法に合理性がないことは自明である。そのため,本件原発の危険性は,原子炉設置
変更許可(改正原子炉規制法43条の3の8第1項)がなされた現在に至るも改善されていない。
 この設置変更許可をするためには,申請に係る原子炉施設が新規制基準に適合するとの専門技術的な見地からする合理的な審査を経なければならないし,新規制基準自体も合理的なものでなければならないが,その趣旨は,原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員や周辺住民の生命,身体に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,このような災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,十分な審査を行わせることにある(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決(民集46巻7号1174頁,伊方最高裁判決)参照)。そうすると,新規制基準に求められるべき合理性とは,原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに,新規制基準は緩やかにすぎ,これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない。原子力規制委員会委員長の「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない。」という川内原発に関しての発言は,安全に向けてでき得る限りの厳格な基準を定めたがそれでも残余の危険が否定できないという意味と解することはできない。同発言は,文字どおり基準に適合しても
安全性が確保されているわけではないことを認めたにほかならないと解される。新規制基準は合理性を欠くものである。そうである以上,その新規制基準に本件原発施設が適合するか否かについて判断するまでもなく,債権者らの人格権侵害の具体的危険性が肯定できるということになる。これを要するに,具体的危険性の有無を直接審理の対象とする場合であっても,規制基準の合理性と適合性に係る判断を通じて間接的に具体的危険性の有無を審理する場合のいずれにおいても,具体的危険性即ち被保全債権の存在が肯定できるといえる。
 以上の次第であり,高浜原発から250キロメートル圏内に居住する債権者らは,本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があることが疎明されているといえる。なお,本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運転差止めによって直ちに消失するものではない。しかし,本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギーを発出することになる一方,運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていくのであって,時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり,我が国に破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき,また運転停止によってその増加を防ぐことができる。そうすると,本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を大幅に軽減する適切で有効な手段である
と認められる。
5 保全の必要性について
(45頁~)
 本件原発の事故によって債権者らは取り返しのつかない損害を被るおそれが生じることになり,本案訴訟の結論を待つ余裕がなく,また,原子力規制委員会の上記許可がなされた現時点においては,保全の必
要性はこれを肯定できる。
6 結論
(45頁~)
 以上の次第であり,債権者らの仮処分申請を認容すべきであるところ,本件事案の性質上,債権者らに
担保を求めることは相当でない。
(引用終わり)