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憲法前文に「積極的平和主義」を書き込むってどうするの?

 今晩(2015年4月26日)配信した「メルマガ金原No.2072」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
憲法前文に「積極的平和主義」を書き込むってどうするの?

 自民党船田元(ふなだ・はじめ)憲法改正推進本部長が、去る4月18日、沖縄県宜野湾市で講演し、憲法改正をめぐり、憲法前文安倍晋三首相が掲げる「積極的平和主義」を盛り込むことに意欲を示したと各紙で報じられましたが、私はこれらの記事を読んで、「実に簡単なことではないか。こんなことで安倍首相に対してポイントを稼げるのなら楽なものだ」と思いましたもの。
 自民党が2012年4月に公表した「日本国憲法改正草案」の前文は、全部で5つのパラグラフから構成されていますが、その第2パラグラフは、「我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。」となっており、この「平和主義の下」を「積極的平和主義の下」に変えるだけだろうと思ったからです。どうですか、楽でしょう?
 
 ただし、いくら何でもこれは船田元氏の見識と能力をあなどり過ぎていると反省し、「積極的平和主義」という概念を、本格的に憲法草案前文に盛り込むためにはどうしたら良いかを、船田氏になり代わって(?)考えてみました。
 安倍晋三流「積極的平和主義」は、同首相の演説等では何度か使われているものの、公的文書で使われた例としては、2013年12月17日に策定された「国家安全保障戦略」での使用例が初出ではないかと思います。
 そこで、船田元氏が有能な政策担当秘書を新たに募集すると仮定し、以下のような問題に適切に回答できる応募者があればさぞ船田氏が喜ぶであろうという架空採用試験問題を考えてみました。
 あなたは以下の設問に適切に答える自信がありますか?ちなみに、私には全くありません。
 

【設問1~基本問題】
 平成25年12月17日に国家安全保障会議及び閣議において、従来の「国防の基本方針について」(昭和32年5月20日国防会議及び閣議決定)に代わるものとして定められた「国家安全保障戦略」の「Ⅱ 国家安全保障の基本理念」「1 我が国が掲げる理念」を読み、以下の各小問に答えよ。なお、設問の便宜上、原文にはないパラグラフ番号(①~⑨)を付している。

(1)我が国が掲げる国家安全保障の基本理念を述べるにあたり、なぜパラグラフ①で我が国が「豊かな文化と伝統を有」する「経済大国」であると自ら誇る必要があるのか、その理由を述べよ。
(2)パラグラフ③~⑥まで「平和国家としての歩み」を列挙し、パラグラフ⑦で「これをより確固たるものにしなければならない」と述べるにあたり、なぜこれらの歩みが「国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てき」たと自ら誇る必要があるのか、その理由を述べよ。
(3)パラグラフ⑧において、「現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している」から「より積極的な対応が不可欠となっている」と述べている部分につき、
ⅰ)前提事実(我が国を取り巻く安全保障環境及び我が国が直面する国家安全保障上の課題)をより具体的かつ詳細に説明せよ。
ⅱ)結論(より積極的な対応)としてどのような「対応」が必要となるのか、その内容を具体的かつ詳細に説明せよ。
ⅲ)上記の「前提事実」があるとして、なぜ「結論」で述べたような「対応」が必要となるのか、その必然性を論理的に説明せよ。
(4)パラグラフ⑧において、「我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず」と述べているが、それではパラグラフ③~⑥に列挙した「平和国家としての歩み」は、「我が国一国」で確保してきたのか否かを明らかにせよ。
(5)パラグラフ⑨において用いられている「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場」がいかなる「立場」であるのか、具体的かつ詳細に説明せよ。
(6)パラグラフ⑨において、自ら我が国を「国際政治経済の主要プレーヤー」と措定する意図を具体的かつ詳細に説明せよ。
(7)パラグラフ⑨において、「国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく」とある部分につき、「これまで以上に」「寄与」すべき我が国の国家行為を具体的かつ詳細に説明せよ。その際、我が国が行動する際の地域的限定の有無についても触れよ。
(8)パラグラフ⑧における「より積極的な対応」(小問(3)ⅱ)やパラグラフ⑨における「これまで以上に積極的に寄与」するための具体的な国家行為(小問(7))が、日本国憲法の基本原理及び各条項に違反するものでないことを法的に論証せよ。その際、平成26年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」が行われるよりも前の政府公権解釈、とりわけ自衛隊日本国憲法9条2項にいう「戦力」にはあたらず、集団的自衛権の行使は認められないとしてきたこととの関連を明らかにせよ。
 
国家安全保障戦略(平成25年12月17日 国家安全保障会議決定 閣議決定)
Ⅱ 国家安全保障の基本理念
1 我が国が掲げる理念
 
①我が国は、豊かな文化と伝統を有し、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を掲げ、高い教育水準を持つ豊富な人的資源と高い文化水準を擁し、開かれた国際経済システムの恩恵を受けつつ発展を遂げた、強い経済力及び高い技術力を有する経済大国である。
②また、我が国は、四方を海に囲まれて広大な排他的経済水域と長い海岸線に恵まれ、海上貿易と海洋資源の開発を通じて経済発展を遂げ、「開かれ安定した海洋」を追求してきた海洋国家としての顔も併せ持つ。
③我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。
④また、我が国と普遍的価値や戦略的利益を共有する米国との同盟関係を進展させるとともに、各国との協力関係を深め、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現してきている。さらに、我が国は、人間の安全保障の理念に立脚した途上国の経済開発や地球規模課題の解決への取組、他国との貿易・投資関係を通じて、国際社会の安定と繁栄の実現に寄与している。特に東南アジア諸国連合ASEAN)諸国を始めとするアジア諸国は、こうした我が国の協力も支えとなって、安定と経済成長を達成し、多くの国々が民主主義を実現してきている。
⑤加えて、我が国は、平和国家としての立場から、国連憲章を遵守しながら、国連を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。特に冷戦の終結に伴い、軍事力の役割が多様化する中で、国連平和維持活動(PKO)を含む国際平和協力活動にも継続的に参加している。
⑥また、世界で唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散に積極的に取り組み、「核兵器のない世界」を実現させるため、国際社会の取組を主導している。
⑦こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない。
⑧他方、現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していることに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。
⑨これらを踏まえ、我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。このことこそが、我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念である。
 

【設問2~応用問題】
(1)自由民主党が2012年4月27日に公表した「日本国憲法改正草案」の前文に、上記「国家安全保障戦略」Ⅱ、1で使用された「積極的平和主義」という概念を適切に取り入れて改訂を施せ。
(2)小問(1)で作成した改訂案を前提として、公明党との与党協議で合意に達するための前文案を新たに起案せよ。ただし、「積極的平和主義」という用語を必ず使用すること。
 
自由民主党「日本国憲法改正草案」
〔前文〕
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴いただく国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
 

 今日のメルマガ(ブログ)はここで終わっても良いのですが、休日で少しは時間的余裕があることもあり、エピローグというか、口直しというか、「このままでは終われない」という思いを解き放ってくれる動画をご紹介します。
 
6・4九条の会東京のつどい


 これは、2014年6月4日に「なかのゼロ大ホール」で開かれた「「戦争する国」、ゴメンです。6・4九条の会東京のつどい」の動画であり、編集して2時間に圧縮していますが、実に盛り沢山な内容です。
 孫崎享さん(28分~)、青井未帆さん(53分~)、小森陽一さん(1時間11分~)によるミニ講演も参考になりますが、私が是非視聴をお勧めしようと思うのは、17分~25分の部分、スタンダップ・コメディアンの松元ヒロさんが演じる「憲法くん」の登場シーンなのです。時間の都合でカットされた部分もありますが、聞かせどころの「日本国憲法前文」を「憲法くん」が一気に朗唱するシーン(22分~)はノーカットです。
 これは、何度も繰り返して見たいですね。
 なお、そういう人のための(?)「日本国憲法前文」朗唱シーンだけ抜き出した動画もあります。
 
 以下に、テキストも転記しておきましょう。私は、自民党日本国憲法改正草案」の前文のような文章は、金輪際「朗唱(朗読)」などしたくありません。
 
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2012年12月9日(2013年2月8日に再配信)
日本国憲法と自民党改正草案の“前文”を読み比べてみましょう 前編
2012年12月9日(2013年2月8日に再配信)
日本国憲法と自民党改正草案の“前文”を読み比べてみましょう 後編
2014年8月22日
“憲法くん(松元ヒロさん)”を手本に日本国憲法前文を朗読しましょう ※追加映像あり