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せめて日米安保条約くらい守ったらどうですか?いくら日本国憲法が嫌いでも

 今晩(2015年4月28日)配信した「メルマガ金原No.2074」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
せめて日米安保条約くらい守ったらどうですか?いくら日本国憲法が嫌いでも

 いよいよ大型連休が始まる前夜、明日(4月29日)午後1時半から開かれる青年法律家協会和歌山支部主催の憲法記念行事、山本健慈和歌山大学前学長による講演会「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」(於:プラザホープ)の第2部で、山本先生や花田惠子さん(9条ネットわかやま世話人代表)との座談会に臨むために、泥縄でも何でも、少しは資料に目を通そうとしたのですが(司会者から「安保法制についての話をふるかもしれないから」と言われているので)、現地時間の4月27日、ニューヨークにおいて開催された日米安全保障協議委員会(「2+2」閣僚会合)において合意された新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を読み進めるうちに、あらためて怒りがわいてきて、明日の準備どころではなくなりました。
 
 
 何が問題かといって、問題だらけですが、細かな点を一々指摘する時間的余裕はないので、今晩のところは2つだけ指摘しておきます。
 
 第一点は、手続上の問題です。
 今回の新日米ガイドラインは、集団的自衛権行使容認をはじめとして、従来の法制下では行使できないとされてきた様々な行動(多くは日本国外における)を自衛隊が実施することを米国に対して約束する内容となっていますが、そもそも、自衛隊がいかなる手続でいかなる範囲の行動が出来るのかということは、「国の唯一の立法機関」である国会が法律によって制定する権限を有しているのであって、決して政府が勝手に決めて良いことではありません。
 新ガイドラインにも、「日本及び米国により行われる全ての行動及び活動は、各々の憲法及びその時々において適用のある国内法令並びに国家安全保障政策の基本的な方針に従って行われる。」とは書いてありますが、文字通り、書いてあるだけであり、やっていることはその真逆です。

 それに、5月中旬にも国会に上程されるとされる安保法制関連法案の骨子は新聞紙上で報じられたりはしていますが、法案なりその概要が政府によって公式に発表されたことはないはずです。
 与党の自民党公明党は事前協議で了解済み。米国には事前に説明して内諾を得るだけでも、「どこの植民地の話だ?」と腹立たし限りなのに、まだ国会に法案を上程さえしていないのに、おそらくその法案が成立して初めてできるはずのことを米国政府と合意までしてしまったのです。
 公明党と米国政府は以上に述べたとおり。それでは、国民に対する説明はどうなっていますか?何もありません。
 日本の国のありようを根本的に変えようというかくも重大な問題について、政府は国民の意思を問う手続すらとろうとしていません。
 あの悪評紛々のうちに強行可決された特定秘密保護法でさえ、法案の国会上程に先立ち、内閣官房は、わずか15日間という短い募集期間であったとはいえ、一応「特定秘密保護法案の概要」を公表した上で、これに対する国民の意見を公募しました(任意的パブコメ)。しかし、今回がそれすらやろうとしていません。
 全ての国民にあらためて「民主主義とは何か?」「日本は民主主義の国なのか?」ということを自問して欲しいと思います。
 
 もう一点は、この新日米ガイドラインが、日米安全保障条約日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)における合意を明確に逸脱しているということです。
 日米安保条約は以下のように定めています。
 
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
(前文)
 日本国及びアメリカ合衆国は、
 両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、
 また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、
 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、
 両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、
 両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、
 相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、
 よつて、次のとおり協定する。
第五条
 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
 
 この安倍晋三氏の尊敬する祖父・岸信介氏が首相として締結した新安保条約は、当然のことですが、日米両国の憲法上必要とされる批准手続を経て発効したものです。
 しみじみ日米安保条約を読んだことのない人も多いと思いますが、いわゆる「日米同盟」といわれる関係の条約上の根拠である日米安保条約の中で、とりわけ中核的な規定は5条及び6条です。
 このうち、日米両国が軍事力を行使すること(共通の危険に対処するように行動すること)を約束したのは、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」があった場合に限定されているのであって(5条)、要は日本が個別的自衛権で反撃できる場合だけを想定していることは明らかです。
 また、6条では、米軍が「日本国において施設及び区域を使用」できる根拠が「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」であることが明示されています。
 
 ひるがえって、新日米ガイドラインの冒頭は、いきなり次のような文章で始まります。
 
「平時から緊急事態までのいかなる状況においても日本の平和及び安全を確保するため、また、アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう、日米両国間の安全保障及び防衛協力は、次の事項を強調する。」
 
 そもそも、「アジア太平洋地域」が、条約上の「極東」と対比して広すぎます。さらに、今度のガイドラインでは、「及びこれを超えた地域」として、明確に地域的限定を外してしまっています。
 
 新ガイドラインにおいても、一応「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約日米安全保障条約)及びその関連取極に基づく権利及び義務並びに日米同盟関係の基本的な枠組みは、変更されない。」とは書いてあります。
 しかし書いてあるだけです。
 それは、同じく新ガイドラインに「日本の行動及び活動は、専守防衛非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる。」と書いているのと同じく、書いてあるだけです。
 これらを読めば、米国政府も、日本政府と全く同じように不誠実であることは明らかです。
 
 日本政府が日本国憲法を守るつもりがないことは、昨年の7月1日閣議決定で明らかになりましたが、今回の新日米ガイドラインによって、日米両国政府が、日本国憲法を無視することで合意したばかりか、日米安全保障条約も無視することにしたことが明確になりました。
 もちろん、米国は日米安全保障条約6条を根拠に、今後も好きなように日本の基地を使用し続けるでしょうが、だからといって同条約による地理的限定を受け容れるつもりは毛頭ない、その点では日本政府と利害が一致しているということでしょう。
 つまり、この新日米ガイドライン日米安全保障条約に違反する、あるいは精一杯好意的に考えても、日米安保条約の範囲外で、両国政府が新たな合意を、立法府の同意も得ずに勝手に締結したということでしょう。
 問題は、そのようなことが憲法上許容されるのか?ということです。
 これは、集団的自衛権の行使容認が日本国憲法に違反するかどうかということと、基本的には別の問題です。